輸出ビジネスとは、商品やサービスを海外の顧客に販売するビジネスです。
世界を相手取ったビジネスとなり、国内に限定したビジネスよりも市場規模が大きく、販路・売上の拡大が見込めます。
輸出ビジネスは、国内市場の飽和を感じている中小企業におすすめのビジネスです。
しかし、実際に始めようにも「輸出における法的な規制が多い」「通関手続きが複雑」などの理由から、輸出ビジネスに挑戦できていない企業も多いのではないでしょうか。
輸出ビジネスを始める際には、国内とは全く異なる手続きやスキルが求められます。
そこで本記事では輸出ビジネスの概要と具体的な開始までのフローを解説したうえで、ビジネスを始めるうえで最低限留意しておきたい法的規制や通関手続きなどについてまとめています。
目次
輸出ビジネスとは
輸出ビジネスとは、国内で製造された商品やサービスを海外の顧客に販売して利益を得るビジネスです。
輸出ビジネスを始めることで、新しい市場を開拓し、売上を増やすことが可能です。海外では日本と異なる需要があり、実際に「国内では需要のない製品が海外で人気」というケースも少なくありません。ただし、海外でのビジネスとなるので、言語の壁や社会・文化の違いなどに配慮する必要があります。
また、輸出に関する国内と海外の法律や、手間のかかる通関手続きなどにも対応しなければなりません。
中小企業に輸出ビジネスをおすすめしたい4つの理由
輸出ビジネスは中小企業におすすめのビジネスです。輸出ビジネスには以下のようなメリットがあります。
- 飽和した市場から脱却し、販路・売上の拡大が見込める
- 円安が輸出ビジネスの追い風になっている(2023年3月時点)
- 日本ブランドは高い需要がある
- 補助金や助成金を利用できる
飽和した市場から脱却し、販路・売上の拡大が見込める
輸出ビジネスから海外市場に進出することで、販路・売上の拡大が見込め、日本国内の市場飽和によって伸び悩んでいる中小企業の活路となる可能性があります。
海外市場は新興国を中心に経済成長しており、今後も人口増加に合わせて市場の拡大が予想されています。
一方、日本国内の市場は少子高齢化などの影響から縮小傾向にあります。飽和状態にある国内市場で競合とシェアを奪い合うのには限界を感じている企業も多いでしょう。
海外にはまだ未開拓な市場が多数あり、競合のいない新たな販路を見つけることが可能です。
円安が輸出ビジネスの追い風になっている(2023年3月時点)
2023年3月現在では円安の傾向が強く現れており、輸出ビジネスを開始するのに適したタイミングです。
輸出ビジネスは為替による影響を大きく受けやすいのが特徴で、たとえ販売する商品が同じものでも、円安傾向にあるほど利益を生み出しやすくなります。
輸出した商品の支払いを外貨で受け取り、換金することで利益幅が大きくなります。例えば100ドルで販売できる仕入れ値8,000円の商品があるとして、円高・円安で以下のように売上に開きが出ます。
為替相場 | 仕入れ値 | 販売額 | 売上 |
---|---|---|---|
1ドル=100円 | 8,000円 | 100ドル(10,000円) | 10,000円‐8,000円 =2,000円 |
1ドル=110円 | 8,000円 | 100ドル(11,000円) | 11,000円‐8,000円 =3,000円 |
ただし、今後も継続して円高傾向にあり続けるとは限りません。為替相場がいつ変動するかわからないという点にはあらかじめ留意してください。
日本ブランドは高い需要がある
日本ブランドの製品は諸外国から人気があり、高い需要があります。
2019年に電通が20カ国を対象に行った「ジャパンブランド調査2019」によると、海外では日本製品に対して良いイメージを持っている国が多いです。
調査によって、諸外国では日本製品に対して以下のような印象を持っていることがわかっています。
- ハイテク
- 高性能
- 信頼できる
また、近年では「こだわりがある」「他にはない」など、専門性・独創性などのイメージを日本製品に持つ国が出てきています。
参考:電通、「ジャパンブランド調査2019」を実施 – News(ニュース) – 電通ウェブサイト
補助金や助成金を利用できる
補助金など、海外展開を支援する動きがあることも中小企業に輸出ビジネスをおすすめしたい理由の1つです。
補助金や助成金を利用することで、海外市場調査やマーケティング支援、展示会参加費用、海外展開に必要な経費などの補助に期待できます。補助金や助成金を活用することで、中小企業は海外進出や輸出ビジネスに必要な資金を調達しやすくなり、事業拡大を促進することが可能です。
また、経営リスクを軽減することができるため、海外進出や輸出ビジネスに取り組む中小企業にとっては大きな支援となります。
例えば日本貿易振興機構(ジェトロ)では、中小企業や中堅企業などを対象に「スタートアップ等輸出支援ビジネスモデル実証事業費補助金」の公募を行っていました。
(※令和4年度の公募は、2023年3月13日15時で締め切り済み)
補助金額は1社あたり最大4,000万で、新たな挑戦を考える企業の強い後押しとなります。
参考:令和4年度「スタートアップ等輸出支援ビジネスモデル実証事業費補助金」の公募について | お知らせ – お知らせ・記者発表 – ジェトロ
輸出ビジネスを始める時の課題
輸出ビジネスはメリットが大きなビジネスではありますが、参入ハードルが国内ビジネスと比べて高めです。
実際には以下のような課題を乗り越える必要があります。
- 英語対応が求められる
- 輸出ならではの法的規制や通関手続きなどの知識が必要になる
- 国内ビジネスにはないリスクに対応しなければならない
外国語での対応が求められる
海外に向けたビジネスとなるので、基本的には英語を始めとした海外の言葉でのやりとりが求められます。言語の壁は、大きな課題の1つです。
社内に英語ができる人材がいない場合、言語の壁に阻まれて輸出ビジネスの開始に踏み切れないというケースもあります。
輸出ならではの法的規制や通関手続きなど知識が必要になる
輸送できるもの・できないものを見分けるための法律や、商品の輸送のための手続きなど、輸出ビジネスならではの知識が求められます。
国内外の法的規制があるので、輸出先に対して個別でリサーチする必要があります。
また、通関手続きは複雑なものが多いので準備に手間取ります。
参考海外への配送・輸出書類作成・決済対応が代行してくれるサービス「スーパーデリバリー」
国内ビジネスにはないリスクに対応しなければならない
輸出ビジネスでは数多くのリスクに対応しなければなりません。
具体例としては以下のようなリスクに対して、適切な対策を打つ必要があります。
- 物理的な距離から代金の回収が遅れる
- 長距離の輸送で商品が破損する
- 為替レートの変動により利益が減少する
輸出ビジネスの始め方
輸出ビジネスは以下の3つのステップで進めていきます。
- 契約:市場の選定から取引条件の合意・契約まで完了させる
- 輸送:輸送手段の決定から手続きまで完了させる
- 決裁:決済方法を決定する
参考:貿易の流れ | 図解・貿易のしくみ – 輸出 – 目的別に見る – ジェトロ
海外輸出貿易の基礎知識 | 海外輸出貿易の流れを7つのステップでわかりやすく解説 | 海外 | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜
ステップ1.契約
契約段階では、輸出商品や輸出先の選定などの輸出前の準備から、取引先との交渉、契約の締結までが含まれます。
- 市場調査を実施して自社製品のニーズがある市場を選定する
- 海外向けにPRを開始する
- 輸出先の代理店と交渉を開始する
- 代理店と取引条件の合意(数量、価格、納期、支払い条件など)
- 輸出入に関する法令を確認する(貿易条件、納入条件、輸出入規制法の取り扱い等)
- 輸出入に関する手続きを確認する(輸出入の許可、届出等)
ステップ2.輸送
輸送段階では、輸送に必要な書類を準備して、輸送手段の確保が必要です。
また、輸送時は予期せぬトラブルが起きやすいので、保険に加入してリスクヘッジしておくことも大切です。
- 輸送手段の選定(航空、海上、陸上)
- 運送業者の選定(輸送ルート、運賃、保険など)
- 輸出入に関する手続き(輸出入許可、関税、輸入税等)
ステップ3.決裁
輸出ビジネスの性質上、決済方法は「前払い」「後払い」のどちらかを選択することとなります。
後払いの場合、代金回収が遅れるなどのリスクがあるため、輸出者としては避けたいです。しかし、輸入者にとっては商品を手に取ってから支払いが行われるので、後払いのほうが都合が良いのも事実です。代金回収リスクを回避するためには、支払いが確実に行われるよう契約内容のすり合わせが重要です。
また、貿易特有の「信用状」を用いた決済方法も有効です。信用状とは、輸入者の取引銀行が輸入者の商品代金の支払いを確約する保証状のことを指します。輸出者は船荷証を提出することで、出荷を待つことなく代金の回収が可能です。輸入者も商品入手が確約される前に資金負担をすることがないので、安心して取引することができます。
参考:海外への配送・輸出書類作成・決済対応が代行してくれるサービス「スーパーデリバリー」
輸出ビジネスで最低限留意すべき法的規制
輸出ビジネスを開始する前に必ず確認すべきことは「法律」です。
品目によって日本からの輸出が規制・禁止されている製品があります。
国内だけではなく、相手国側で輸入に規制をかけている場合もありますので、あらかじめ注意が必要です。
関税法で輸出禁止されている製品
関税法とは貨物の輸出入に関する法律です。関税法によって、以下のようなものは輸出が禁止されています。
- 麻薬、向精神薬、大麻、あへん、けしがら、覚醒剤
- 児童ポルノ
- 特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、育成者権を侵害する物品
- 不正競争防止法第2条第1項第1号から第3号まで又は第10号から第12号までに掲げる行為を組成する物品
4の具体例としてコピー商品や偽装表示商品などが挙げられます。
関税法以外の法的規制
関税法以外の法令によって輸出に規制がかけられているものもあります。
例えば「輸出貿易管理令」では、「軍事転用の可能性が高い機械・パーツ」や、「ワシントン条約に該当する物品」などを規制しており、通関時には輸出許可申請書が必要です。
法令 | 規制対象 | 商品例 | 認可に必要となる書類 |
---|---|---|---|
輸出貿易管理令 | 特定物資 | 鉄鋼、アルミニウム、軍需品 | 輸出許可申請書 |
文化財保護法 | 文化財 | 古美術品、歴史資料、美術工芸品 | 古美術品輸出鑑査証明 |
鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律 | 鳥獣 | インコ、オウム、クマ、シカ | 鳥獣適法捕獲証明書 |
家畜伝染病予防法 | 家畜 | 牛、豚、鶏 | 輸出検疫証明書 |
植物防疫法 | 植物 | 果物、野菜、花 | 植物検査合格証 |
道路運送車両法 | 自動車 | 自動車 | 輸出抹消仮登録証明書・輸出予定届出証明書 |
麻薬及び向精神薬取締法 | 麻薬、向精神薬 | 大麻、ヘロイン、覚せい剤 | 麻薬輸出許可書 |
大麻取締法 | 大麻 | 大麻 | 大麻輸出許可書 |
あへん法 | 麻薬 | アヘン、モルヒネ | あへん輸出委託証明書 |
覚せい剤取締法 | 覚せい剤 | 覚せい剤 | 覚せい剤原料輸出許可書 |
相手国側の規制
日本国内で規制を受けていなくても、相手国側が規制をかけているものもあるので、あらかじめ確認が必要です。
主要国の輸出入に関する制度は日本貿易振興機構(ジェトロ)のサイトでまとめられているのでご確認ください。
参考:輸出入に関する基本的な制度 | 国・地域別に見る|ジェトロ
輸出ビジネスにおける通関手続きの流れ
海外に自社製品を輸出する場合は税関による許可が必要となり、この許可をとるために「通関手続き」を行います。
手続きそのものが複雑で手間がかかるので、輸出ビジネスへの参入を検討している企業は必ず確認しておきましょう。
通関手続きは業者に依頼する
通関手続きは独力のみで行う方法と、フォワーダーなどの通関手続きを代行する業者に委託する方法の2つがありますが、後者の業者に委託する方法が一般的です。
通関手続きには海外市場においての販売先や法律・規制について十分な知識が求められます。
自社に特別詳しい方がいる場合は社内で完結することも可能ですが、ノウハウが不足している場合は業者に委託するのが良いでしょう。
フォワーダーに通関手続きを依頼する場合、自社でやるべきことは以下の3つです。
- 通関手続きに必要な書類の準備:フォワーダー側で準備できない書類を用意する
- 貨物の準備:破損しないよう梱包する
- 貨物の引き渡し:梱包が完了した貨物をフォワーダーに引き渡す
通関手続きに必要な書類
通関手続きでは以下の書類が必要となります。
- インボイス
- パッキングリスト
- 船積依頼書
- 委任状
このうち、「インボイス」と「パッキングリスト」の2つは輸出者側での準備が必要です。
船積依頼書も輸出者側で準備するのが一般的ですが、通関業者との取り決め次第では委託することも可能です。委任状については業者側で準備してくれます。
インボイス
インボイスは「仕入れ書」のことで、商品の価格や数量などの取引条件を記載した書類です。輸出者が準備する必要があります。
インボイスには「誰に向けてどんな荷物が発送されるのか」がわかるような記載が求められます。
パッキングリスト
パッキングリストは商品の積み込み方を記載した書類です。貨物の数量、重量、梱包の仕方などを詳細に記載します。
輸送中のトラブルを防ぐためにも、正確かつ詳細な情報が必要です。
船積依頼書
船会社・航空会社への依頼書のことです。
貨物の受け取りや船積などの手続きの指示や、船会社や航空会社が発行するB/L(船荷証券)やWaybill(貨物運送状)の記載事項の指示を目的としています。
委任状
通関業務を代理で行う場合に必要な書類で、通関申告書を提出するために必要な権限を委任するものです。
通関業者に依頼する場合には、通関業者から提供されることが一般的です。
参考:【輸出通関申告】に必要な通関書類・輸出通関手続きの流れ | 海外 | 海外進出ノウハウ | Digima〜出島〜
輸出ビジネスに関するよくあるご質問
輸出ビジネスを検討中の方に役立つQ&Aをまとめています。
Q.輸出ビジネスにおける法的規制とは何ですか?
A.国内外の法律で輸出が禁止または規制されている品目があり、これに従わないと輸出が認められません。特に関税法や輸出貿易管理令に該当する製品は注意が必要です。
Q.輸出ビジネスの通関手続きの流れはどのようなものですか?
A.通関手続きはフォワーダーに依頼するのが一般的で、インボイスやパッキングリストなどの書類を準備し、輸送手段を確定させる必要があります。
Q.輸出ビジネスにおける円安の影響は何ですか?
A.円安時には輸出ビジネスで利益が増える傾向があります。輸出商品を外貨で販売し、円に換金する際に利益が拡大します。
Q.輸出ビジネスでの代金回収リスクにどう対処すべきですか?
A.前払い方式を選択するか、信用状(L/C)を利用して、代金回収の確実性を高めることが推奨されます。
Q.輸出ビジネスでは外国語対応が必要ですか?
A.はい、輸出ビジネスでは外国語対応が必要です。取引先との交渉や契約書の作成、通関手続きにおいて、特に英語でのやり取りが求められます。英語ができる人材の確保が重要です。
まとめ
輸出ビジネスは国内の商品・サービスを海外顧客に販売するビジネスを指します。
海外市場は拡大傾向にありながら、まだ未開拓な市場が多数あります。そのため、競合のいない新たな販路を発見できるかもしれません。補助金・助成金などで資金調達しながら輸出ビジネスに挑戦できるので、中小企業にこそおすすめのビジネスです。
輸出ビジネスで国内外の法律で輸出が禁止・規制されているものがあるのであらかじめ確認が必要です。
商品を輸出する際には通関手続きを行います。通関手続きは基本的にフォワーダーなどの代行業者に委託するのが一般的です。ただし委託する場合でも「インボイス」「パッキングリスト」などの書類は輸出者が準備する必要があります。