ブランドアイデンティティとは、企業や事業のブランドの独自性を示すための表現を指す言葉です。
企業が消費者に伝えたいブランドの価値観や個性を、ロゴやイメージカラー、キャッチコピーやスローガンなどに乗せて発信することで差別化を行います。
アイデンティティが確立されたブランドを目にすることは日常の中で多々あるので、イメージがわかないという人はいないと思いますが、具体的にどのように作り上げるものなのかわからないという方は多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ブランドアイデンティティの基礎や、ブランドイメージとの違い、策定することによるメリット、構成要素やアプローチ方法、策定の際の注意点などの情報を一挙にご紹介します。
ブランドアイデンティティの策定にお悩みの方は、ぜひご一読ください。
目次
ブランドアイデンティティとは?
ブランドアイデンティティとは、企業が持つブランドの独自性や特徴などを表現した概念のことです。ブランドに対するイメージとして、ロゴやデザイン、カラーなどの象徴的なスタイルを表します。
ブランドアイデンティティの目的
ブランドアイデンティティの目的は、企業の持っているブランドイメージを消費者に印象付けて他社との差別化を図ることです。
ファッションを例にすれば、同じようなデザインでもそのブランドのロゴをあしらったものは、一目でどこの会社の商品かがわかります。
似たような商品であふれる市場においても、その会社の商品であることを明確に差別化することが可能です。
また、ブランドを確立することで消費者のイメージに深く刻み込まれ、顧客獲得やターゲット層の定着につながります。
ブランドアイデンティティとブランドイメージとの違い
ブランドを冠するマーケティング戦略には、ブランドアイデンティティのほかにブランドイメージという言葉があることをご存じでしょうか。
企業のマーケティング戦略のひとつに、独自のブランドを生み出して消費者に企業イメージや信頼性などの価値を高めるアプローチを行うブランディング戦略があります。
ブランドアイデンティティとブランドイメージの違いは、以下の通りです。
- ブランドアイデンティティ:消費者に向けて発信するブランドの概念
- ブランドイメージ:消費者がブランドに持つイメージ
ブランドアイデンティティとブランドイメージは、ブランディングのカテゴリーに属する類語というべき用語です。しかし、2つの言葉には、明確な違いがあります。
ブランドアイデンティティは、企業が抱えるブランドから消費者に向けてロゴやデザイン、イメージカラーなどを用いて消費者にアプローチする概念です。一方のブランドイメージは、消費者が抱くブランドに対するイメージを指しています。
ブランドアイデンティティ4つのメリット
ブランドアイデンティティの明確化は、企業が掲げる社会への表現に有効なマーケティング戦略です。ここでは、ブランドアイデンティティのメリットを紹介します。
1.企業と商品の魅力をダイレクトに伝えられる
ブランドアイデンティティを明確化することにより、企業が顧客や社会に伝えたい自社と商品の魅力をメッセージとして伝えることが可能です。
企業と提供する商品やサービスの魅力を広い範囲で伝えられれば、新規の市場や顧客開拓につながります。
自社ブランドを市場に広めることで、収益増加にも期待できるでしょう。
2.長期的な経営戦略につながる
ブランドの定着化は顧客の定着化にもつながりやすく、長いスパンでの会社運営に良い影響を与えます。
ブランドアイデンティティが周知されることにより、世間への企業の信用・信頼・価値が高まり、経営の安定化を図ることが可能です。
3.企業の方向性を確立できる
ブランドアイデンティティはブランドを象徴するアイコンとしての役割があり、社会への視覚や聴覚などの五感に訴えながら企業の価値を高めるための概念です。
色や形でブランドコンセプトを表現することにより、企業イメージを定められます。
企業の方向性を確立することで、市場やターゲットの絞り込みや長期的な経営につなげられるでしょう。
4.人材獲得につながる
ブランドアイデンティティを確立することで、企業の認知度と信用を高め、顧客や人材の新たな獲得実現が可能です。
ブランドの認知度を高めることで、自社の世界観やブランドコンセプトへの共感・理解を得た優秀な人材を獲得しやすい環境が作れます。
ブランドアイデンティティを構成する5つの要素
ブランドアイデンティティは、企業理念やメッセージをロゴやカラー、デザインなどの形で組織の象徴ともいうべき概念です。
ブランドアイデンティティの構成要素として、主に以下の点が挙げられます。
- フィロソフィー(ブランド哲学)
- ベネフィット(メリットと価値)
- 属性(商品の属性と特性)
- パーソナリティ(個性)
- シンボルやデザイン(視覚的要素)
それぞれの要素は、消費者に視覚や五感で強烈なアプローチによって印象を植え付けるために必要な要素です。
ここからは、それぞれの構成要素について解説します。
1.フィロソフィー(ブランド哲学)
フィロソフィーとは、ブランドにおける「ミッション」「ビジョン」「価値観」の3つの要素で構成され、これらをブランドアイデンティティの基礎とするブランド哲学とされる概念です。
ミッションは企業が目的や存在意義を社会に対して示すもので、ビジョンはミッションを遂行するための展望や方向性を意味します。
価値観はブランディングの指針となるもので、ブランド全体や社員すべての行動すべてにおける判断基準です。
これらはブランドを構築するための基本となり、ブランドアイデンティティの基礎となります。
2.ベネフィット(メリットと価値)
ベネフィットとは、企業が提供するブランドによって顧客や消費者がどのようなメリットを得られるかなどの価値を表す概念です。
利益やメリットをあらわすように、ブランドアイデンティティにより、社会に対してどのようなメリットを与えるかを示すための重要な要素になります。
ベネフィットには「社会的」「機能的」「自己表現的」「情緒的」の4つの要素があり、ブランドを提供することで各要素のメリットを社会に還元するものです。
社会的ベネフィットには、自社ブランドのサービスを利用することによって社会的に認知されるメリットがあります。機能的ベネフィットでは、自社サービスを利用することによって機能性や利便性のメリットを得ることが可能です。
自己表現的ベネフィットには、自社サービスによって自己表現や自己実現のきっかけを提供し、情緒的ベネフィットにはブランドの利用や身に着けたことによってポジティブな気持ちを与えるという要素があります。
3.属性(商品の属性と特性)
属性とは、ブランドの持つ属性や特性を客観的事実に基づいて示すことです。
たとえば、あるブランドが安くて丈夫な衣服を売っているとしましょう。
購入する側は安いことに喜ぶ一方で、品質面で不安を覚える方もいます。
原材料を直接仕入れている、あるいは自社で製作しているからその分のコストを削減できているなど、客観的事実を用いてブランドコンセプトの理由を示すのが属性です。
顧客が納得できる妥当性のある理由を提示し、安心と信頼を得るための証明がブランドアイデンティティの属性とされています。
4.パーソナリティ(個性)
パーソナリティとは、自社のブランドに個性を持たせることです。
他社と差別化を図る際、似たようなものでもまったく同じものではないブランド独自の個性を持たせる必要があります。
商品にはコンセプトがあり、機能的だったりデザインが優れていたりするなど、さまざまです。
ブランドに個性や特性という独自の特徴を持たせることで、利用者に深く印象づけて親しみや愛着を持ってもらうことを目的とするのがブランドアイデンティティのパーソナリティです。
パーソナリティの決定は利益に直結する要素でもあり、ブランドを通して企業から社会に発信するメッセージでもあります。
人間の人格と同じでブランドにも人格のような個性を持たせることで、顧客のブランドイメージにつながりやすくなり、ユーザーからの評価基準になりやすく記憶に残る商品となるでしょう。
5.シンボルやデザイン(視覚的要素)
シンボルやデザインは、ブランドアイデンティティを顧客に伝えるための重要な視覚的要素です。
具体的には、ロゴ、色、フォントなどのブランドを象徴する視覚的要素を活用したアピールを行うことで、ブランドは一目で識別可能なものとなります。
ブランドアイデンティティのアプローチ方法4つ
ブランドアイデンティティを形成したら、社会や顧客に対して具体的な表現でアプローチしていかなければなりません。
ここでは、ブランドアイデンティティのアプローチ方法を紹介します。
1.ブランドロゴ
ブランドを象徴するシンボルとして、ブランドロゴは最も有効な手段です。
有名なところではAppleのリンゴマークやNIKEなどが挙げられます。
印象的なブランドロゴは記憶に残りやすく、誰もが連想するデザインは優位性を示すものになるでしょう。
宣伝効果として非常に効果が高く、ブランドの認知度を高めるのに有効です。
2.キャッチフレーズ・スローガン
ブランドの世界観やメッセージを表現し、ブランドのコンセプトを顧客や社会に向けて発信する手法です。
ブランドメッセージとも呼ばれ、ブランドコンセプトをわかりやすく伝えることで認知度向上や顧客とのコミュニケーションに貢献します。
ロッテの「お口の恋人」は、短くも印象的な言葉としてブランドイメージを強く根付かせている例です。
3.イメージカラー
ブランドのシンボルとなる色を決めることで、顧客にブランドを連想させ、認知度向上に役立ちます。
イメージカラーを決めることでブランドをイメージしやすく、個性を引き立たせ他社との差別化が可能です。
たとえば、auの明るいオレンジカラーなどが一例であり、親しみやすくユーザー心理にアプローチできます。
4.ビジュアル・サウンド
ブランドのイメージを視覚や聴覚で表現し、顧客に連想させやすく記憶に残りやすい手法です。
日立製作所の「この木なんの木」のCMは、大きな木のビジュアルと牧歌的な歌が多くの人の記憶に残っているでしょう。
ドン・キホーテの「ドンドンドン・ドンキー」のように、思わず口にしたくなる軽快なリズムのBGMなどは、ブランドパーソナリティが世間に定着した成功例です。
ブランドアイデンティティ策定における3つの注意点
最後に、ブランドアイデンティティを策定する際の注意点を3つご紹介します。
1.一貫性をもたせる
ブランドアイデンティティを策定する際には、メッセージに一貫性を持たせましょう。
ブランドアイデンティティを構成する要素は前述のとおり多岐にわたります。
しかし、それらが発するメッセージが別方向に向いてしまうと、消費者の記憶に残りづらいものとなってしまいます。
そこでブランドアイデンティティ策定の際には、各要素のメッセージに一貫性を持たせるよう注意しましょう。
2.競合他社との差別化を意識する
ブランドアイデンティティは、競合他者との差別化を意識しながら策定しましょう。
企業や事業のブランドの独自性を示すためのブランドアイデンティティなのに、競合他社とイメージが近いようでは差別化を図ることができません。
そこでブランドアイデンティティを策定する際には差別化を意識することが重要となります。
3.ある程度の柔軟性をもたせる
ブランドアイデンティティを策定する際には、ある程度の柔軟性を持たせるようにしましょう。
市場や顧客のニーズ、デザインのトレンドなどは、時代と共に変化します。それに伴い、ブランドアイデンティティを微修正することもあります。
たとえば、立体的だったロゴをフラットデザインに変更するなどの事例は、近年多く見受けられました。そこでブランドアイデンティティには、多少の柔軟性を持たせることが重要です。
ブランドアイデンティティに関するよくあるご質問
ブランドアイデンティティでお悩みの方に役立つQ&Aをまとめています。
Q.ブランドアイデンティティと企業のビジョンの整合性を保つ方法は?
A.ブランドアイデンティティを企業のビジョンと整合させるためには、まず企業の長期的な目標や価値観を明確にし、それをブランドのコアメッセージとして反映させることが重要です。定期的にビジョンとブランド戦略を見直すことで、一貫性を保つことができます。
Q.ブランドアイデンティティと製品開発の一貫性を保つ方法は?
A.製品開発においてもブランドアイデンティティと一致させることで、ブランドの一貫性が保たれます。新製品の企画段階から、ブランドの価値観やメッセージが反映されるようにし、顧客がブランドと製品に対して同じ信頼感を抱けるようにすることが重要です。
Q.ブランドアイデンティティの維持に重要な役割を果たす部署や役職は?
A.ブランドアイデンティティの維持には、マーケティング部門だけでなく、経営層や人事部門の協力も必要です。経営層はブランド戦略の方向性を定め、HRは採用や社員教育を通じて、企業文化をブランドアイデンティティと一致させる役割を担います。
Q.ブランドアイデンティティと顧客エンゲージメントの関連性は?
A.強固なブランドアイデンティティは、顧客の信頼感を高め、エンゲージメントを促進します。顧客がブランドの価値やストーリーに共感することで、長期的な関係を築きやすくなり、ブランドロイヤルティが向上します。
Q.ブランドアイデンティティの市場変化に対応する方法は?
A.市場や消費者のニーズが変化する中で、ブランドアイデンティティを柔軟に進化させることが重要です。定期的な市場調査や顧客フィードバックを活用して、ブランドが顧客の期待に応え続けられるように調整することが推奨されます。
まとめ
本記事では、ブランドアイデンティティの基礎や、ブランドイメージとの違い、策定することによるメリット、構成要素やアプローチ方法、策定の際の注意点などの情報をご紹介しました。
ブランドアイデンティティとは、企業が消費者へ伝えたいブランドの価値観や個性などの要素を総称する概念であり、ロゴやイメージカラーなどの形で表現することにより競合他社との差別化を図ることができます。
ブランドアイデンティティを確立することは他にも持続可能性の向上や、価値観に共感する人材の獲得などのメリットがあります。
ブランドアイデンティティは、フィロソフィーやベネフィットなどの5つの要素で構成されており、ブランドロゴやキャッチフレーズなど様々な形でアプローチを行います。
ブランドアイデンティティを策定する際には、各アプローチで発信するメッセージに一貫性を持たせたり、市場や顧客のニーズの変化に備えてある程度の柔軟性を持たせることが重要です。