経営危機を招いた事例から学ぶコンプライアンス違反の原因と対策

コンプライアンスの重要性は理解しつつも、これまで具体的な対策をとってはいなかった、何から手を付ければ良いのかわからないということもあるでしょう。しかし、そのまま放置しておくのはリスクが高いです。

コンプライアンス違反における最悪のケースでは、企業が倒産に追い込まれることもあります。実際に、コンプライアンス違反による倒産件数は8年連続で200件を超えています。

参考:コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2019年度)

本記事では、コンプライアンス違反が企業の経営に大きな影響を与えた7つの事例をもとに、その原因と結果、該当企業が講じた改善対策まで解説します。

その上で、不祥事を防ぐための具体的なコンプライアンス対策の方法を掲載しました。自社のコンプライアンス対策にぜひ役立ててください。


広い意味での社会的責任が求められるコンプライアンス

コンプライアンスは「法令遵守」と訳される言葉ですが、この守るべき「法令」は社会情勢に大きく左右されます。

法令遵守には、憲法・法律・条例・政令・通達・判例などが内包されています。企業はこれらに合わせて社内規則の整備を行い、企業倫理・社会規範を守った経営を行っていく必要があります。

ただし、遵守すべき「法令」は社会の変化に合わせて整備されます。単に「法律を守ればいい」というわけではなく、社会の要請を理解しながら法令を遵守してことが企業に求められています。

社会の動向や社会的要請を把握するうえで、実際の企業事例から学ぶことが大切です。

引用:コンプライアンス(コンプラ)とは?意味や定義、違反事例や気を付けるべきポイント


コンプライアンス違反の事例7件とそれぞれの原因・対策

コンプライアンス違反が企業に大きな損害をもたらした、7件の事例について詳しく解説します。

コンプライアンス違反による不祥事には、故意に行われたものだけでなく、対策の不備や不注意によるものも存在しています。実際には、企業風土や慣例といった潜在的なリスクが影響していることも多々あるのです。

社内では善とされていたことが法的・社会的観点からすると違反になっていることがあります。

こうした事例を見ることで、自社に存在する可能性のあるリスクの洗い出しに役立てましょう。

1.通信教育大手:約2億300万件の個人情報漏えいで260憶円の特別損失を計上

2014年6月、通信教育大手の企業で約2億300万件の個人情報漏えいがあったことが明らかになりました。業務委託先の元社員が不正に取得した顧客情報を、名簿業者へ売却していたことが原因です。

この事件の背景には、個人情報の管理が外注先から再委託されていたことや、機能するはずだったシステムの脆弱性がありました。

なお、この事件の被害者への補償などで企業の特別損失は260億円に上り、業務委託先元社員は逮捕されています。

参考:事故の概要|お客様本部について

原因

主な原因としては「責任者の不在」と「管理体制の不備」が挙げられます。

顧客の個人情報の管理を任されていたのは、該当企業のグループ会社でした。グループ会社は受任した業務を、さらに外部の会社に再委託していました。犯行に及んだのは、この再委託先の元社員です。

このように複数社が関与する状態だったにも関わらず、個人情報管理を取りまとめる責任者が存在していなかったため、監査が行き届かず事件の発覚が遅れました。

データを扱う際の管理体制の不備もありました。
貸与PCのワイヤーロック、業務委託先も含めた従業員への教育やテストなどは行われていましたが、従業員のスマートフォンの持ち込みは防止していませんでした。

書き出し制御システムにおける機能の不備があり、社内に知られることなくシステム上のデータを従業員がファイル転送できてしまったということです。

引用:ベネッセ個人情報漏洩事件のすべて|企業は加害者?それとも被害者?

参考:【連載】なぜ、企業は不祥事を繰り返すのか? ③ベネッセの顧客情報漏えい事件
参考:個人情報漏えい事故調査委員会による調査結果のお知らせ
参考:ベネッセの情報漏えいはなぜ起きた? 調査報告で問題詳細が明らかに
参考:ベネッセ個人情報漏洩事件のすべて|企業は加害者?それとも被害者?

結果

事件が発覚した2014年6月を含む、4~6月期の連結決算では136億円の最終赤字となりました。個人情報漏えいの調査とセキュリティ対策、問い合わせ対応、個人情報流出被害者への補償として金券の送付などで260億円の特別損失が出たためです。

社会的な信頼を失ったことも企業にとって大きなダメージでした。同社のサービスは子ども向けが多いため、その親たちが個人情報の流出に敏感に反応したためです。

その結果、主力サービスの会員数は減少し続け、2016年には事件発覚前の365万人から243万人まで減りました。株価も事件発覚前の4,500円程度から、2016年6月に2,2295円とほぼ半値まで下がっています。

参考:ベネッセHD、漏えい事件で特損260億円…純利益82%減
参考:ベネッセHD最終赤字136億円 情報漏洩で特損260億円 4~6月
参考:不祥事企業の今:情報流出事件でベネッセHDの業績はどうなった?

改善対策

同社は、情報漏えいの発覚からおよそ4か月後にあたる2014年10月に、経済産業省に対して次のような内容を記載した改善報告書を提出しました。

  • 企業内に個人情報管理の責任者を設置
  • 企業内に顧客データの管理部を設置し、データベースの保守運用の委託先を監査を実施
  • グループ全体の個人情報保護の基準・方針を策定し、グループ各社の監査と支援を実施
  • 情報セキュリティ監視委員会を設け、3ヵ月に1度監査を受ける

これら徹底した改善策を講じることで株価は2016年9月以降にゆっくりと上昇し始め、2017年7月には事件発生前の水準へ戻りました。

参考:ベネッセお客様本部 経済産業省に対する改善報告書の提出

2.広告大手:新入社員が過労死、労働基準法違反罪で略式起訴

2015年12月25日、当時24歳の女性新入社員が、長時間残業と上司からのパワーハラスメントが原因で過労自殺した事件が起きました。

当該社員が勤めていた企業では、1991年にも新入社員の24歳男性が長時間労働から自殺に至っており、遺族に対して1億6,800万円の賠償金を支払っています。

2013年にも、当時30歳の男性社員の病死が長時間労働によるものとして、労災認定されています。いずれも長時間残業というコンプライアンス違反が常態化し、大きな事件につながっています。

参考:電通社長出廷で考えた「責任と責任」
参考:【衝撃事件の核心】東大卒エリート美女が自殺までに綴った「苦悶の叫び」50通 電通の壮絶「鬼十則」が背景か
参考:こころの耳 [事例1-1] 長時間労働の結果うつ病にかかり自殺したケースの裁判事例(電通事件

原因

度重なる社員の過労死が発生していたにもかかわらず、勤務体制を改善できなかった原因は、同社の企業風土にあります。

実際、裁判に出廷した元社長は「仕事に時間をかけることがサービス品質の向上につながる」という認識で、長時間労働を事実上奨励する風土にあった旨を述べています。

事件後の調査において、就業時間と実際の退館時間に1時間以上の差があった件数が2015年には8,222件に及んでいたこともわかりました。

実際には、業務にかかわる情報収集や自己啓発活動を含めた作業を、多くの社員が業務外の「私事」として上長承認していたそうです。同社には、「過剰なクオリティ思考」「過剰な現場主義」「強すぎる上下関係」といった企業風土があったことも報告文書の中で言及されています。

行き過ぎた業務要求を善とする企業風土は、コンプライアンス違反を引き起こしかねません。

参考:「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任”
参考:電通:労働基準法違反容疑による書類送検と再発防止に向けての当社の取り組みについて

結果

2015年12月の過労自殺は、労災認定されました。同年11月に労働局が、労働基準法違反容疑で本社と3支社を家宅捜索、略式起訴しています。2017年9月の裁判には同社の当時社長が出廷し、罪を認めた上で謝罪しました。

その結果を受け、経済産業省は同社への新たな補助金の交付や新規契約を1ヵ月停止しました。その期間のPRイベントや市場調査といった入札に参加できなくなりました。

改善対策

同社は具体的な改善策として、勤務時間と退館時間の差が30分以上あれば理由を調べること、仕事に不慣れな入社1年目の社員の負荷を考慮して残業時間をほかの従業員よりも厳しく管理することなどを、過労死した24歳女性の遺族との合意書に盛り込みました。

また、労働環境改革本部を発足し、労働環境の改善と長時間労働の撲滅に取り組むことを発表しました。その発表のなかでは、業務上必要な活動を勤務登録するよう改善することや残業ルールを定めた36協定の違反ゼロも掲げています。

労働環境の改善と長時間労働の撲滅のために、専従執行役員を任命し、再発防止対策を推進することも発表しています。

参考:電通、新規契約が1カ月停止に 経産省が労基法違反の略式起訴受け「重い判断」
参考:電通:労働基準法違反容疑による書類送検と再発防止に向けての当社の取り組みについて
参考:電通は変われるのか 過労自殺対策、社内飲み会も見直し

3.大手不動産企業:違法建築とサブリースの不正で690億円まで赤字が大幅拡大

急速かつ無理のある事業拡大を原因とした、大きなコンプライアンス違反が2重に起きてしまった大手不動産企業の事例を紹介します。

コンプライアンス違反の1つ目は、2019年2月に発覚した違法建築問題です。防火や遮音に欠かせない界壁を設置していないことをはじめ、建築基準法等関係法令との不適合などが発覚しました。建築基準法違反の疑いが見つかったアパートは1,300棟に及びます。

2つ目は不当なサブリース契約です。サブリースとは「又貸し」のことで、同社ではオーナーの土地に建築したマンションを一括で借り上げ、一般消費者へ転貸(てんたい)するビジネスモデルを取っています。

家賃の長期保証を期待させる「30年の借り上げ」を謳い文句にオーナーを募り、建築棟数を拡大していました。しかし、入居者が少ない物件のオーナーに対しては、30年に満たない内に賃料の減額や解約を一方的に通達していました。

参考:レオパレス21、新たに1300棟で不備 建築基準法違反
参考:“レオパレス問題 総まとめ”ガイアの夜明けで発覚した驚きの実態
参考:話題になったレオパレス21の不正について!サブリース契約の実態!

原因

外部調査委員会による調査報告書では、問題の全体的、本質的な原因として次の3点を挙げています。

  • 事業拡大を最優先して、法令適合性や検証を軽視
  • 経営トップによるワンマン体制
  • 建築関連法令に対する違法意識やリスク感度の低さ、当事者意識の欠如

同社では、事業の過程で見えてきた問題を後回しにするのが実情であったことが言及されています。例えば、建築確認や完了検査を行う建築主事から界壁施工に関する法令適合性の指摘があった際に、確認申請図を虚偽記載することでやり過ごそうとしていました。

また、建築資格を持たない経営トップから、新たな施工方法や建築資材に関する違法なアイデアが現場に通達されていました。歯止めをかける人物が社内におらず、問題視されないまま実行に至るという強固なワンマン体制が敷かれていました。

この状況について経営トップは当時、「我々(経営部門)は建築の素人であり、開発は彼ら(開発・設計・工事部門)に任せきりであった」と説明したといいます。つまり、経営トップをはじめ全社的な当事者意識が欠如していたということです。

参考:施工不備問題に関する調査報告書(概要版)2019年5 月 29付

結果

2019年2月時点で施工不良物件数は新たに延べ1,324棟が見つかり、緊急を要する641棟に入居する7,782人に対し、同社は3月末までの転居を要請しました。これに伴う引っ越し代、クリーニング代、敷金礼金を負担することを約束しています。

物件の補修工事の費用もかさみ、同年3月期の連結最終損益は690億円の赤字でした。また一部のサブリース問題は物件オーナーからの訴訟に発展しています。

この事件によって主力事業が低迷した同社では、2020年6月末時点で118億円の債務超過に陥り、希望退職者を1,000人募りました。株価も施工不良発覚直前までの515円から発覚後に201円まで下がり、続落して2021年3月時点では150円台です。

参考:レオパレス1324棟、法令違反 1.4万人に引っ越し要請へ 天井の耐火不備641棟:朝日新聞デジタル

改善対策

同社では次の3つの軸で再発防止策を講じています。

  1. 企業風土の抜本的改革
  2. コンプライアンス・リスク管理体制の再構築
  3. 建築請負事業部体制の見直し

1つ目は、本質的な原因を取り除くための改革です。ワンマン体制ではなく、社員の提案が直接経営陣に伝えられるよう、意識調査や交流の場を設けました。
社員一人ひとりがコンプライアンスファーストの意識をもつよう教育し、ハラスメント撲滅の基本方針も打ち出しました。

2つ目の大きなポイントは、法令適合性を検討するためコンプライアンス推進部を事業部外に設けたことです。さらに客観的な視点を取り入れるべく、社外取締役をコンプライアンス委員会の委員長に選任しています。

3つ目に、自主検査に依存した施工管理体制を見直し、建築士が関与できる開発と施工のプロセスへ変更しました。より細かな部分では、設計の各段階において法令適合性を再検討し、重要書類の作成者と承認者を明確化しています。

参考:レオパレスの前期、最終赤字690億円 施工不良で損失拡大
参考:【図解・経済】レオパレスの施工不良問題(2019年2月)
参考:【図解・経済】レオパレス21の株価推移(2019年3月)
参考:再発防止策の進捗状況

4.製紙メーカー:不正融資で106.8億円をカジノにつぎ込み前会長が逮捕

大手製紙メーカーでは、当時の会長が、不正融資で得た資金を私的流用し、海外のカジノにつぎ込んでいたことが発覚しました。連結子会社を通じた不正融資は26回にわたって行われ、総額は106.8億円に上りました。

融資の申請は、元会長が各子会社の常勤役員に電話しただけで承認されていました。指定した金額が元会長の実父が経営する企業や本人名義の銀行口座に直接振り込まれ、ずさんなガバナンス体制が浮き彫りになりました。

参考:調査報告書
参考:大王製紙事件の全貌。カジノで約100億円を使い特別背任で逮捕となった井川意高とは?

原因

特別調査委員会の報告書では、一族経営による支配権の強さを挙げています。創業者は元会長の祖父であり、実父も同社の代表取締役に就任して経営手腕を発揮した後に顧問として経営に関与していました。

その実父の経営のもと、海外を含めて連結子会社が計35社まで拡大しました。その全てにおいて元会長一族が過半数の株式を保有するなどして、支配権、議決権、人事権をもっていたものとみられています。元会長一族に逆らうことは難しい環境が構築されていました。

結果

元会長は辞任後2ヵ月ほどで、特別背任容疑で逮捕されました。同年12月には、逮捕時に明らかになっていた約32億円不正融資とは別に、約23億円の不正融資がみつかったことで、再逮捕されています。

私的流用された総額106.8億円の内、約45億円は回収の見込みが立っていません。

顧問として就任していた実父は解嘱、ほか一部の役員も辞任・解任となりました。新たに就任した代表取締役社長を含め、取締役、監査役など計16人の報酬を3ヵ月の減額または自主返納という措置をとっています。

改善対策

同社では、次の3点に重点を置いた社内改革を行いました。

  • ガバナンスの改革
  • コンプライアンス体制の見直し
  • 内部通報制度の改善

ガバナンスの観点から、企業として元会長一族が保有する株式を買い取ることを示しました。元会長一族が株式を過半数所有して議決権を持っている状況を改善しようとしての対処です。

コンプライアンス体制については、社外の人材の招へいも含めて監査機能の強化を行いました。監査役が存在しないことがコンプライアンス違反につながったとの見方によるものです。監査役と経理部が連携することで、情報提供上の問題もクリアにすると示しています。

社外取締役を含むメンバーで構成したコンプライアンス委員会の設置も取り決め、不正の早期発見と未然に防止できる体制も強化しています。

内部通報制度については、健全に機能するよう通報窓口を外部に設置し、調査や是正は監査役が行うこととしました。

参考:元会長への貸付金問題に対する再発防止策に関するお知らせ

5.自動車メーカー:度重なる不正で新車種が販売停止、経営危機へ

某自動車メーカーで起きた不祥事は、企業風土に根ざした隠ぺい体質に起因して類似事案が繰り返されているのが特徴です。

2000年と2004年にはリコールすべき重大な不具合を隠ぺいしていたことが発覚し、経営危機に陥ります。その後、不具合情報の収集と分析、各種の体制改善や強化をおこない、信頼回復に努めていました。

そこへ、2016年には燃費データの改ざんが発覚します。実際よりも燃費が良いと偽って車を販売していたことが明らかになると、該当車種の生産は一時停止されました。この燃費不正による損失額は1,323億円に上ります(2016年度第1四半期)。

参考:三菱自動車製大型車に係る不正行為に対する対応について
参考:三菱自動車、燃費不正で3度目の危機へ
参考:三菱自動車、第1四半期決算で燃費不正問題の損失1323億円に

原因

2016年の不正発覚後、新たに就任した当時のCEOは、2017年のインタビューで次の2点を原因に挙げています。

  • 「身の丈を超えた」拡大戦略
  • 「できない」と言えない「たこつぼ文化」

参考:燃費不正問題に関する調査報告書
参考:三菱自動車・益子CEO、「燃費不正事件」を語る

同社は、当時の経営状況からして必要性が高いとはいえない複数の海外工場を持つなど、「身の丈を超えた」拡大戦略を実施していました。

リコール隠し発覚後は「聖域なきコストカット」のもと、経費削減策が実施され、開発費も削られ、これによって低燃費技術の開発が停滞しました。

データ改ざんや隠ぺい体質は25年前から続いており、その根本原因が「たこつぼ文化」です。具体的には、経営幹部の要望に対して、「できない」と言えない風土があったと指摘されています。

適合試験は、期待される結論ありきで行われ「達成見込みあり」と報告、幹部も「見込みあり」を「達成した」ものと認識していました。

そこへ人材不足も影響して、開発部は人の入れ替えのない閉鎖的な組織になっていました。特定の人物が性能実験に関与し続けたため、チェック機能が働かない状況でもありました。

結果

同社の風土・体質は、大きなもので死傷事件に至っています。2002年1月、欠陥のあるトラックが脱輪し、タイヤが母子3人に直撃したことで母親が死亡、子ども2人もケガを追いました。

この事故で、当時の副社長らが業務上過失致死容疑で立件され、当時の品質保証部門の責任者とグループ長に有罪判決が出ました。

なお燃費不正後の2017年3月期の連結決算、特別損失が計上されたことで当期純利益が1,985億円の赤字になったことを発表しています。

参考:三菱リコール問題を一気読み
参考:欠陥車両の製造と刑事過失
参考:国交省 三菱自動車工業等の燃費試験における不正行為について

改善対策

2016年9月、燃費不正に関わる再発防止のために、組織、仕組み、風土、人事、経営レベルの関与に関する31項目の施策を策定しました。

同年12月には、新経営体制への移行と組織改正を発表しました。機能ごとに4人の執行責任者を配置し、CEOとOOOの権威を大きく委譲、リーダーシップおよび責任と権限の明確化を図っています。

またピラミッド型組織の部門制度を廃止し、階層をフラットかつ簡素化することでコミュニケーションの円滑化、意思決定の迅速化も進めました。

なお31項目の施策の実施は2019年3月にすべて効果が確認されています。

参考:新経営体制への移行にともなう組織改正について
参考:燃費・排ガス試験に係る不正行為に関する概要と対策

6.大手電機メーカー:2,306億円もの利益を水増した粉飾決算で、73億円超えの課徴金

2015年2月、大手電機メーカーであった巨額の不正会計(粉飾決算)が発覚しました。不正会計は2009年3月期以降の約7年間行われ、合計額は約2,306億円に上ります。

この件について金融庁は、同社に対して73億7,350万円の課徴金の納付を命じました。

おもに不正は、製造委託先に部品を有償提供して完成品を買い戻すというODM(Original Design Manufacturing)の生産方式を悪用して行われました。

決算期に、必要以上数または高額設定した部品をODM先に有償提供することで一時的な利益を報告し、決算を終えた翌期に製品として買い戻すことで、利益を相殺したというものです。

そのほか、裏付けのないコスト削減を見込んだ見積もりの算出など、細かな不正がいくつもありました。

原因

公式の報告内容を要約すると、次4点が原因として挙げられます。

  • ずさんな見積もり管理
  • 在庫や経費計上の不徹底
  • 製造委託先との部品取引における不正な価格設定\
  • 独立監査人の監査の甘さ

裏付けのないコスト削減を見込んだ見積もりを算出や在庫廃棄における評価損の計上を行わないなど、細かな不正がいくつもありました。

金額が大きかったのは、製造委託先に部品を有償提供して完成品を買い戻すというODM(Original Design Manufacturing)の生産方式を悪用した不正です。
決算期に、必要以上数または高額設定した部品をODM先に有償提供することで一時的な利益を報告し、決算を終えた翌期に製品として買い戻すことで、利益を相殺したというものです。

これらの不正をチェックして正すのが監査の役目でしたが、判明した不正の修正を行わなかったことが明らかになっています。

結果

金融庁は同社に対して73億7,350万円の課徴金を国庫に納付することを命じました。取締役および代表執行役社長をはじめとした役員複数名が辞任しました。

監査を担っていた新日本監査法人も責任を追及されました。金融庁は21億円の課徴金納付命令を出し、合わせて新規契約を3ヵ月間停止、業務改善命令も出しています。

参考:アニュアルレポート
参考:金融庁 株式会社東芝に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令の決定について
参考:新日本監査法人に課徴金21億円・新規契約停止3カ月、金融庁命令
参考:東芝粉飾決算の一部時効、検察は監視委の告発を制約していいのか
参考:米高裁、東芝の不正会計巡る集団訴訟認定 下級審の判断覆す

改善対策

各役員が辞任した後、役員責任調査委員会が設置されました。不正会計における役員としての任務を実行せずに放置したか否か、追及の必要性を、公正に判断するためです。

合わせて、当期利益主義および目標必達のプレッシャー、内部統制システムの一部無効化といった問題に対処するべく、ガバナンス体制の改革も実施しています。

具体的には、社外取締役および外部弁護士、外部公認会計士で構成した経営刷新委員会の設置、オブザーバー数名の招へいによって、企業風土や業務プロセスの改善を行っています。プロジェクトのコストを審査する部署や内部管理体制の強化チームも設置されました。

参考:当社の不適切会計問題及び過年度決算訂正に関するご報告の件
参考:東芝粉飾決算「利益水増し」なぜできたのか
参考:東芝、不正会計の利益水増しで58億円追加公表

7.洋菓子メーカー:味期限切れの原料使用で消費者の信頼を失い、営業停止と巨額赤字に発展

2006年、賞味期限切れの牛乳を使用したシュークリームを販売していた事件が明るみになりました。その後、事件の前年にも計7回、同様の問題が生じていたことが明らかになっています。

参考:信頼回復対策会議最終報告

原因

第一の原因は、「衛生管理、品質管理が経験と勘に依存」だと言及されています。
牛乳は消費期限ではなく賞味期限が表示される食品であること、シュークリームへの加工段階で加熱することをふまえ、品質上の問題はないという「経験則上の確信」があったとしています。

会社が掲げていたコストダウンの方針と環境問題への配慮から、廃棄に抵抗があったという事情もありました。牛乳を使ったもう1つの商品が製造工程でトラブルを起こしており、牛乳の余剰が生じていたことも原因の1つです。

創業家による同族経営については、従業員が経営層へ意見や提案を行うのは難しい風土があったとしています。社長に依存した企業体質により、コンプライアンスに対する社員の意識が低下していました。

結果

不祥事発覚後、2ヵ月間の実質業務停止を余儀なくされ、2007年の連結決算では当期損失が67億円に達しました。これは売上を差し引いたものであり、特別損失だけの金額は140億円に上っています。

農林水産省がJAS法違反はなかったと示しつつ、疑いがあるとして厳重注意を行っています。

また食品安全衛生管理体制の整備においては別会社からの支援を受け、各工場で指導が入りました。

3月には洋菓子販売が再開されましたが、社会的な信頼が失墜したため、2007年度は巨額の営業赤字に至りました。

参考:不二家、23日から洋菓子販売再開
参考:品質管理関連の実態調査
参考:不二家、“どん底”からの復活

改善対策

同社は次のような施策を実施しました。

  • 経営体制・事業体制の抜本的改革
  • 形骸化した規則・マニュアル遵守主義からの脱却
  • 製品に関する情報開示ルールの確立

社内に改革推進本部を設置し、外部有識者による改革委員会も立ち上げました。両者が緊密に連携することで、経営および業務の問題を摘出し、迅速な意思決定を促します。

また業務実態に即した食品衛生管理や細菌検査マニュアルを整備しています。救済に応じた別会社の指導によって取り入れた食品の品質や安全を管理するためのシステムにより、フードセーフティの指導と監査を継続しています。


不祥事を起こさないための具体的なコンプライアンス対策

不祥事の具体例を見てきた中で、直接的な機会だけでなく潜在的な機会・風土などからもコンプライアンス違反が生じる可能性がわかりました。

具体的な対策は業界によっても異なり、多岐にわたるので、ここでは共通して取り組める基本的な方法を解説します。

コンプライアンスのリスクを洗い出す

「リスク=危険性」と一般的には認識されていますが、コンプライアンスにおいては「不確実性」と捉えるのが適切です。

そのため、コンプライアンスリスクを洗い出すためには、法令と自社事業が適合しているかを確認することはもちろん、従業員インタビューによって水面下で生じている不確実性をみつけることも重要です。

そして、その不確実性の度合いを検討し、不確実性が高いものからリスクが高いとみなして対策を練る必要があります。

なお従業員インタビューが効果を発揮できるよう、従業員が経営層に対しても忌憚なく意見や提案ができる環境を作ることも大切です。

参考:コンプライアンス・リスクの種類と内容
参考:「リスク=危険」だけじゃない?リスクの意味を考えてみよう

コンプライアンス・プログラムを検討する

「法規範、社内規範、倫理規範」を順守するための枠組みが、コンプライアンス・プログラムです。言い換えれば、単にルールを策定するに留まらず、会社や従業員に対してコンプライアンス意識を浸透させ、適切に運用するための施策を指します。

具体的には次のような手順でコンプライアンス・プログラムを作成します。

  • コンプライアンス担当の役員、各部署に担当者を配置する
  • コンプライアンス推進委員会を設置する
  • コンプライアンス運営にかかる計画や事案を審議する場をもつ
  • 従業員に対してコンプライアンス誓約書への合意を求める

先頭に立ってコンプライアンスを意識させる担当者や部署を配置することで、各従業員へも当事者意識をもって取り組むように促します。
場合によっては、コンプライアンス違反が生じた際の懲罰や、順守が維持できているときの報酬も組み込むとよいでしょう。

参考:コンプライアンスプログラムへの具体的な取り組み方
参考:法令等遵守態勢の確認検査用チェックリスト

社内規定や行動規範を作成する

社内規定や従業員に対しての行動規範を明文化することも欠かせない項目です。洗い出したリスクに応じて、基本方針を定めて資料を収集し、項目の選定と起案を行います。

ここまではコンプライアンス担当者や担当部署が主軸ですが、その後に関連部署や従業員へのヒアリング、弁護士をはじめとした法律の専門家の確認も必要です。

その上で練り直しや修正を行い、取締役会に提出して決議、承認されれば経営トップから従業員へ公表します。

コンプライアンス研修を実施する

作成したコンプライアンス・プログラムの適切な運用を図るため、各従業員への研修や教育を実施します。具体的な方法としては次のようなものがあります。

  • 基礎研修としての講義および座学
  • 当事者意識をもたせるための対話型の研修
  • 潜在リスクを洗い出すワークショップ
  • 部門を超えたディスカッション

このような取り組みは1回限りではなく、定期的に行うと効果的です。

参考:コンプライアンスプログラムへの具体的な取り組み方
参考:第1回リスクマネジメント研修の実施
参考:コンプライアンス教育・監査のポイント

内部統制の仕組みをつくる

内部統制は、社内ルールと仕組みの両方を指す言葉です。モニタリングや監査、関係各者への情報伝達を含め、コンプライアンス体制のシステムが機能しているかを確認します。

また、事業部に属さない相談窓口を設けることで、コンプライアンス違反を認識した従業員が内部通報できるように整備しておくことも大切です。

参考:内部統制って何?具体的に何をすれば良いの?にお答えします。
参考:コンプライアンス教育・監査のポイント


まとめ

コンプライアンス違反の7つの事例に共通していたことは、違反につながる潜在的なリスク、企業の歴史を含めた背景が必ずあるということです。

リスク小さいうちに見つけて回避・対応する仕組みがあれば、重大なコンプライアンス違反を未然に防ぐことも可能です。

コンプライアンスリスクにつながる不確実なこと、不透明な状況があれば今からでも対処することが重要です。
経営トップから一方的にルールを押しつけるのではなく、従業員が当事者意識をもって参加できる環境を作りながら、当たり前のようにルールを守れる企業を目指していきましょう。

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