ウェブアプリケーションのセキュリティに関連する脅威の中で、とりわけ注目されるのが「クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃」です。
この攻撃は、悪意のあるスクリプトをウェブページに埋め込むことで、ユーザーの情報を不正に取得するもので、中小企業のセキュリティ担当者も十分な認識と対策が必要です。
しかし、XSS攻撃の具体的なメカニズムや、その種類、被害の実態、そして効果的な対策はどのようなものなのでしょうか。
本記事では、XSS攻撃の全貌を明らかにし、具体的な対策方法を詳細に解説します。サイバーセキュリティの強化を目指す中小企業の皆様に、より深い理解と実践的な知識を提供いたしますのでぜひご活用ください。
目次
クロスサイトスクリプティングとは?
クロスサイトスクリプティング(XSS)は、攻撃者がWebサイトの脆弱性を悪用して不正なスクリプトを注入し、ユーザーのブラウザで実行させるサイバー攻撃手法です。XSS攻撃により、攻撃者はユーザーの個人情報やアクセス権を不正に取得する可能性があります。
具体的には、XSS攻撃は攻撃者が悪意のあるスクリプト、通常はJavaScriptを、脆弱なWebアプリケーションに注入します。
このスクリプトは、ユーザーがWebページにアクセスするとブラウザで実行され、ユーザーのCookie情報やフォーム入力データなどを攻撃者に送信することができます。これにより、攻撃者はユーザーのアカウントへのアクセスや個人情報の取得、さらには悪意ある操作の実行が可能となります。
クロスサイトスクリプティング攻撃の流れ
クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃は、攻撃者がWebアプリケーションの脆弱性を悪用して悪意のあるスクリプトを注入し、それを他のユーザーのブラウザで実行させる一連の流れを指します。
1.攻撃の主体がWebアプリケーションに罠を仕掛ける
最初のステップは、攻撃者がWebアプリケーションに罠を仕掛ける段階です。これは、通常、フォームへの入力やURLパラメータを通じて行われます。攻撃者は、特定のスクリプトコードを入力し、この情報が適切にエスケープ処理されないことを期待します。なぜなら、それによりスクリプトはその後、他のユーザーのブラウザでそのまま実行されるからです。
2.訪問者が罠を仕掛けられたWebアプリケーションを利用
次に、罠を仕掛けられたWebアプリケーションを利用する訪問者が現れます。彼らが例えばコメント欄や掲示板など、攻撃者がスクリプトを注入した部分を見ると、彼らのブラウザはこのスクリプトを実行し始めます。実行されたスクリプトは、ユーザーに対して様々な行動を誘導します。例えば、見た目が正規のサイトと酷似した詐欺サイトへのリンクをクリックさせ、個人情報の入力を促すといった具体的な行動です。
3.リンクをクリックして別のサイトに移動
これにより、リンクをクリックした訪問者は攻撃者が意図した別のサイトに移動します。このサイトは、クレジットカード情報やパスワードなどの重要な個人情報を盗み出すために悪用されることが多いです。
4.マルウェア感染
最終的に、訪問者はマルウェアに感染する可能性があります。悪意のあるスクリプトは、訪問者のコンピュータにマルウェアをダウンロードし、実行することが可能です。これにより、攻撃者は訪問者のデバイスを制御したり、個人情報を抜き取ることが可能になります。
クロスサイトスクリプティング攻撃が生じる理由
クロスサイトスクリプティング攻撃(XSS)が生じる原因は主に、脆弱性のあるWebアプリケーションを放置することによるものです。具体的には、これらのアプリケーションは攻撃者による不正なスクリプトの挿入を許してしまう状況を生み出します。
Webアプリケーションは、通常ユーザーからの入力情報を処理し、出力する機能を持っています。例えば、掲示板やコメントフォームなどはユーザーの入力を受け付け、その内容をWebページ上に表示します。この時、アプリケーションが受け取った入力内容をそのまま出力してしまうと、攻撃者は悪意あるJavaScriptなどのスクリプトを挿入することが可能となります。これがXSS攻撃の一例です。
クロスサイトスクリプティング攻撃の種類
クロスサイトスクリプティング攻撃(XSS)には代表的に3つの種類が存在します。それぞれ反射型攻撃、持続型攻撃、DOM Based XSSと呼ばれています。これらの攻撃は、ユーザーがウェブサイトのサーバーにリクエストを送信したときに発生し、アプリケーションやWebサイトに悪意のあるスクリプトが持続的に埋め込まれる可能性があります。それぞれの特性とリスクについて詳しく解説していきましょう。
反射型攻撃
反射型攻撃とは、攻撃者がユーザーに対し、不正なスクリプトが含まれたURLをクリックさせる手法です。ユーザーがこのURLをクリックすると、不正なスクリプトがWebサーバーに反射し、ブラウザ上で実行されます。
この結果、個人情報の流出やセッションハイジャックなどの被害が発生する可能性があります。
持続型攻撃
持続型攻撃は、アプリケーションやWebサイトに悪意のあるスクリプトが持続的に埋め込まれる攻撃です。
該当のページをユーザーが閲覧するたびに、不正なスクリプトが実行される状況が発生します。攻撃者はこの手法を用いて、ユーザーのパスワードやクレジットカード情報など、重要な個人情報を盗み出すことが可能です。
DOM Based XSS
DOM Based XSSは、JavaScriptのコードの脆弱性を悪用した攻撃で、サーバー側ではなく、クライアントのWebブラウザ上で攻撃用の不正なスクリプトが実行される攻撃です。
この攻撃はサーバー側のファイアウォールなど、一部のセキュリティ対策を回避することが可能で、より深刻な被害を及ぼす可能性があります。これらの攻撃を適切に防御するためには、ソフトウェアの最新のアップデートを適用したり、セキュリティ対策を強化したりすることが重要です。
クロスサイトスクリプティング攻撃による被害
クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃は、Webアプリケーションのセキュリティ脆弱性を悪用した攻撃手法であり、個人情報の漏洩、マルウェア感染の恐れ、そしてセッションハイジャックという3つの主要な被害があります。
これらの被害は全て、攻撃者が不正なスクリプトをWebページに埋め込み、それをユーザーのブラウザが実行してしまうことから発生します。ここでは、それぞれの被害について詳しく解説します。
個人情報の漏洩
個人情報の漏洩は、XSS攻撃による最も深刻な被害の一つです。
攻撃者は、Webアプリケーションに不正なスクリプトを注入し、ユーザーが情報を入力するフォームに対する操作を盗み出します。これにより、ユーザーがWebサイトで入力した個人情報、例えば名前、住所、パスワード、クレジットカード番号などが攻撃者に漏洩してしまう可能性があります。
セッションハイジャック
さらに深刻な被害として、「セッションハイジャック」があります。
これは、攻撃者がユーザーのセッションIDを盗み出し、そのユーザーになりすまして通信を行うという形の攻撃です。XSS攻撃によって不正なスクリプトが実行されると、セッションIDが盗まれ、その結果、攻撃者はユーザーのアカウントにアクセスし、権限を悪用することが可能になります。
マルウェア感染の恐れ
XSS攻撃の場合、攻撃者が作成した不正なWebページにユーザーを誘導することが可能となります。
ユーザーがこのページにアクセスすると、無意識のうちにマルウェアをダウンロードしてしまう恐れがあります。その結果、ユーザーのシステムはマルウェアに感染し、それにより追加のセキュリティ問題が生じることもあります。
クロスサイトスクリプティング攻撃の被害事例
クロスサイトスクリプティング攻撃(XSS)は、Webアプリケーションの脆弱性を悪用した攻撃手法の一つで、その被害は広範にわたります。具体的な事例を通じて、この攻撃がどのように企業や個人に重大な影響を及ぼすか、詳しく解説します。今回取り上げる事例は、大手動画共有サイトのYouTubeとSNSの巨人TwitterにおけるXSS攻撃の被害です。
YouTubeにおける被害
YouTubeは多くの人が利用する大規模なWebサイトであり、その規模がXSS攻撃者にとって魅力的なターゲットになります。2010年7月の事例では、コメント欄に悪意のあるJavaScriptスクリプトが埋め込まれ、無害なように見えるリンクをクリックすると、その不正なスクリプトが実行されるというXSS攻撃が行われました。この攻撃により、
アプリ上で不正なポップアップが出たり、悪趣味なWebサイトにリダイレクトされたりするケースが発生しました。他にもフェイクニュースのポップアップが表示されるなど被害が発生したと言えます。
Twitterにおける被害
同2010年にTwitterでは、ユーザーがツイートに含まれるリンクのマウスオーバーだけでその内容がリツイートされるという、いわゆる”ワーム”が発生しました。
この攻撃では、不審なURLにカーソルを載せるだけで、そのツイートが自動的にリツイートされ、結果として大量のスパム投稿が生成されました。このような攻撃は、SNSの信用性を損ない、ユーザー体験を大きく損ねる結果となります。
クロスサイトスクリプティング攻撃への対策
クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃の被害は個人情報の流出から、企業の重要なデータが外部に漏れるという事態まで、様々です。この攻撃への対策として、今回は「スクリプトの無効化」「WAFの導入」「入力値の制限」の3つを主に解説します。
スクリプトの無効化
スクリプトの無効化は、XSS攻撃を防ぐ基本的な対策の1つです。
具体的には、Webアプリケーションのフォームにスクリプトを組み立てるための特殊文字が入力された場合、その文字を特殊文字ではなく文字列として表示する別の文字に置き換える、いわゆる「サニタイジング」処理を行います。これにより、不正なJavaScriptなどのスクリプトがブラウザで実行されることを防ぎます。
入力値の制限
入力値の制限もまたXSS攻撃の防止に役立ちます。
これは、ユーザーが入力できる値を制限し、不正なスクリプトがWebページに埋め込まれることを防ぐ方法です。
例えば、パスワードの文字数制限や郵便番号の数字のみの入力など、Webフォームで受け付ける入力値を厳密に制限することが重要です。
ただし、これらのチェックの処理をJavaScriptなどのクライアントサイドで行っている場合、サーバの処理が含まれる場合は、直接リクエストを送ることにより、これらのチェックを迂回される場合があるため、サーバ側での入力値チェックも必要になります。
WAFの導入
WAF(Web Application Firewall)の導入も、XSS攻撃からWebアプリケーションを守る重要な手段です。
WAFは、Webアプリケーションへの不正なアクセスや攻撃を監視し、ブロックする機能を持っています。
入力内容のチェックに漏れがあっても、WAFを導入することで不正なリクエストを防ぐことが可能となります。
ただし、攻撃者はJavaScriptを難読化して送信する場合があるため、これらのパターンも対応しているかどうか確認することをお勧めします。
まとめ
本記事ではクロスサイトスクリプティング攻撃について詳しく解説してきました。
クロスサイトスクリプティング(XSS)攻撃は、攻撃者がWebサイトに不正なスクリプトを注入し、それが他のユーザーのブラウザで実行されるというセキュリティ上の脆弱性を悪用した攻撃手法で、その被害は、ユーザーの個人情報が漏洩する可能性から企業の重要データが外部に漏れる危険性まで広範に及びます。
この記事を通して少しでもクロスサイトスクリプティング攻撃についての理解が深まり、対策の一助となれば幸いです。
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