インクルーシブとは?すべての人が参加・活躍する社会を実現するための取り組み

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インクルーシブ(inclucive)とは、「包括的」などの意味を持つ単語で、現代では「すべての人が参加し、活躍する社会を実現するための取り組み」を指す言葉でもあります。

個人の多様性を認め、それぞれの能力や特性を価値あるものとして統合し、活用してより良い社会を目指します。

近年、グローバル化の進展、デジタル技術の普及、人口構成の変化などの影響から注目度が高まっており、文化的・言語的障壁や経済的不平等などのさまざまな課題を解決するための取り組みが行われています。

しかし、類似した概念との違いや、具体的にはどのような取り組みが行われているのかなどまで把握できていないという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、インクルーシブの基礎や、背景、類似した概念との違い、ビジネスにおける重要性、メリットやデメリット、その他の取り組み、課題などの情報を一挙に紹介します。

インクルーシブについておさらいしたい方は、ぜひご一読ください。


インクルーシブとは、万人が活躍できる社会の実現をめざす概念のこと

インクルーシブ(inclucive)とは、「包括的」や「すべてを包み込む」という意味の言葉です。

また現代では、インクルーシブ(inclusive)は、社会や組織がすべての人々をその個性や背景、能力にかかわらず平等に受け入れ、参加を促進する状態や取り組みを指す言葉としても用いられています。

この概念は、人々の多様性を認識し、それぞれの違いを価値あるものとして尊重することに基づいています。

性別、年齢、人種、宗教、文化的背景、身体的または精神的な障害など、人々が持つさまざまな特性を認め、それらを社会や組織の力として結集させる多くの取り組みが行われており、インクルーシブな環境では、個人の潜在能力が最大限に発揮されることで、集団全体の創造性や生産性、満足度が向上すると考えられています。

インクルーシブの概念が注目される背景にある2つのポイント

現在、インクルーシブの概念に注目が集まっている背景には以下の流れがあります。

グローバル化の影響による多様性の促進

インクルーシブの概念は、不況や移民の問題を抱える1970年代のフランスで生み出されました。そして、20世紀後半から21世紀初頭にかけて、世界的にグローバル化が進み、それに伴い人々、情報、商品の国際的な流れが加速しました。

このグローバル化の波は、文化的、経済的、政治的な多様性を促進するとともに、それらの違いが交差する場としての社会や職場を生み出しました。

インターネットやソーシャルメディアの普及に伴うマイノリティへの意識向上

21世紀に入ると、インターネットとソーシャルメディアの普及により、情報の共有と意見の交換が以前にも増して容易になりました。この結果、性的マイノリティや障害を持つ人々など、社会的にマージナライズされがちなグループに対する意識が高まり、彼らの権利と機会の平等を求める声が強くなりました。

そして、多くの企業や組織、国々は、多様性を受け入れ、誰もが平等に貢献できるインクルーシブな社会や職場を目指すべきだとの認識に至りました。

このようにインクルーシブの概念は、文化的多様性の増大、社会的マイノリティへの意識向上、経済および技術の発展といった、複数の要因が組み合わさることで形成されてきました。

異なるバックグラウンドを持つ人々が共存する社会において、誰もが尊重され、公平な機会を得られるような取り組みを促進するためには、インクルーシブの概念は欠かせないのです。


インクルーシブの主な目的3つ

インクルーシブの目的は主に平等な機会の提供、多様性の価値の最大化、社会的な連帯と理解の促進にあります。

1.平等な機会の提供

インクルーシブの根本的な目的は、すべての人に対して公平なチャンスと機会を提供することにあります。

これは、教育、雇用、社会参加など、生活のあらゆる側面にわたり、個人の性別、年齢、民族、宗教、障害の有無などによる不利益をなくすことを目指します。

この目的は、個々人が自分自身の可能性を最大限に発揮し、それぞれの夢や目標を追求できる社会を実現するためには欠かせません。

多様性の価値の最大化

インクルーシブな取り組みにおいては、多様性そのものが重要な資源と見なされます。

異なるバックグラウンドや視点を持つ人々が協力することで、より革新的なアイデアが生まれ、問題解決のための幅広い選択肢を得ることができるのです。

組織や社会が多様性を受け入れ、その強みを活かすことで、より柔軟で適応性の高いシステムを構築し、未来に向けての持続可能な発展を促進することができます。

社会的連帯と理解の促進

インクルーシブの実践は、異なるバックグラウンドを持つ人々間の相互理解と社会的連帯の促進も目指しています。

社会全体の調和と結束が強化され、対立や偏見に基づく障壁が減少することで、個人が互いの違いを尊重したり、共通の目標に向かって協力する文化を醸成したり、公正で平和な社会の構築につながります。


インクルーシブと類似した概念の違い

次に、インクルーシブと類似した概念との違いについて説明します。
ここでは、中でも混同されがちな「ダイバーシティ」「インクルージョン」「ノーマライゼーション」との違いについて紹介します。

概念定義焦点目的
インクルーシブ異なる背景を持つ全員が協力し、共に働く文化を促進すること。参加と統合の質、全員の能力の発揮。社会全体の多様性と包括性を高める。
ダイバーシティ人々の間の違い(性別、人種、宗教など)を認識し、受け入れること。違いの存在の認識。違いを受け入れる文化の醸成。
インクルージョン障害を持つ人々や社会的に排除されがちなグループが主流の活動に参加すること。特定グループの参加へのアクセス。社会的に排除されがちなグループの主流への統合。
ノーマライゼーション障害を持つ人々が非障害者と同様の生活条件や機会を持つべきだという考え。障害を持つ人々の生活条件と機会の平等。障害者の「普通の」生活への支援とサービス提供。

ダイバーシティとの違い

ダイバーシティ(多様性)とは、性別、人種、宗教、年齢、障害、性的指向、教育、経験など、人々の間の違いを認識し、受け入れることを指します。

一方、インクルーシブは、これらの違いが存在する中で、全ての人が参加し、貢献できる環境や文化を作り上げることに焦点を当てます。

つまり、ダイバーシティは違いの存在を認識することであり、インクルーシブはその違いを価値として統合し、活用する取り組みです。

インクルージョンとの違い

インクルージョン(包含)もまた、すべての人が参加し、貢献できるような環境を作ることを目的としていますが、この用語は特に障害を持つ人々や社会的に排除されがちなグループが主流の活動やプロセスに参加することに重点を置くことが多いです。

インクルーシブは、この考えをさらに広げ、異なる背景を持つ全ての人々が互いの違いを超えて協力し、共に働く文化を促進することに関連しています。

インクルージョンは参加へのアクセスに焦点を当てるのに対し、インクルーシブは参加だけでなく、それを通じて生まれる相互作用と統合の質を重視します。

ノーマライゼーションとの違い

ノーマライゼーションは、障害を持つ人々が非障害者と同様の生活条件や機会を持つべきだという考えに基づいています。

この概念は、障害を持つ人々が社会の中で「普通の」生活を送ることができるようにするための支援やサービスの提供に焦点を当てています。

一方で、インクルーシブは、個々人の違いを認め、すべての人が自分の能力を最大限に発揮できるような環境を促進することにより、社会全体の多様性と包括性を高めることを目指しています。

ノーマライゼーションが障害を持つ人々の権利と機会の平等に焦点を当てるのに対し、インクルーシブは全ての人々の違いを価値として認識し、社会全体の進歩に貢献します。


ビジネスにおけるインクルーシブの重要性

ビジネスにおいてもインクルーシブは、地域社会の活性化などの視点から注目されています。これらのインクルーシブの概念を取り込んだビジネスは、「インクルーシブビジネス」と呼ばれています。

インクルーシブビジネスとは、社会の最も貧しい層や社会的に疎外されがちなグループをビジネスの価値連鎖に組み込むことを前提としたビジネスモデルのことです。

これには、彼らを顧客として製品やサービスを提供すること、供給者やパートナーとして彼らと協力すること、または彼らに雇用機会を提供することが含まれます。

このビジネスモデルは、経済的な機会を創出し、社会的包摂を促進することにより、貧困削減と社会的平等の実現に貢献すると考えられています。


インクルーシブをビジネスに取り入れるメリット3つ

インクルーシブをビジネスに取り入れることで、以下3つの効果が期待できます。

1.多様性を活かしたイノベーションを促進できる

インクルーシブな環境は、様々な文化、経験、視点を持つ人々を一つのチームに結集させることで、革新的なアイデアの創出を促します。

異なる背景を持つ個人が集まることで、従来の方法にとらわれない新しいソリューションや創造的なアプローチが生まれやすくなります。

このようなコラボレーションは、組織が新たな市場を開拓したり、困難な問題を解決したりする上で大きなアドバンテージとなります。

2.従業員の満足度やリテンションを向上できる

従業員が自身の意見が尊重され、貢献が認められるインクルーシブな職場環境では、職場の満足度が高まります。

また、従業員は自分自身を表現しやすくなり、組織への帰属意識を強く感じるようになります。

その結果、優秀な人材の確保と保持が容易になり、長期的な業務効率と生産性の向上に寄与します。従業員が自分の職場を誇りに思い、長く働きたいと感じる環境を作ることは、組織全体の成功に不可欠です。

参考:従業員満足度(ES)とは?明日から始められるES向上の5つのポイント

3.社会的役割とブランドイメージを強化できる

インクルーシブな取り組みを実施することで、企業は社会的責任を果たしていると認識され、そのブランド価値が高まります。

消費者、投資家、従業員などのステークホルダーは、多様性を尊重したり、公正な機会を提供する組織に惹かれます。

ブランドイメージを向上することは、顧客のロイヤリティの増加や、新しい市場や人材プールへのアクセスを拓くことにも繋がります。

参考:ブランド戦略とは?4つの成功事例から見る共通点と戦略の立て方


インクルーシブのデメリット3つ

次に、インクルーシブのデメリットを3つご紹介します。

1.文化構築や意識向上への継続的な投資が求められる

インクルーシブな文化を構築し、維持するためには、従業員への意識向上トレーニング、職場環境のアクセシビリティ改善、コミュニケーション手法の改善などの継続的な投資が必要です。これらの投資は、長期的なメリットをもたらすものの、短期的には財務的な負担となり得ます。

2.組織内の抵抗を生む可能性がある

インクルーシブな文化への移行は、特定の従業員や管理層からの抵抗に直面する可能性があり、その原因には、不安、誤解、既存の価値観との衝突など様々なケースが考えられます。

これらの抵抗を克服するには、十分かつ適切なコミュニケーション、教育、そして組織全体のサポートが必要になります。

3.文化や言語の違いによる誤解を生む可能性がある

異なる文化や言語を持つ従業員が一緒に働くことは、コミュニケーションの障壁や誤解を生じさせる可能性があります。

これらの課題に対処するには、継続的な相互理解と教育が必要であり、時間とリソースを要求されます。


その他インクルーシブの取り組み

次に、インクルーシブに関連するその他の取り組みをご紹介します。

インクルーシブ教育

インクルーシブ教育は、すべての子どもが、障害の有無や社会経済的背景に関わらず、共通の学習環境で学び、成長できる教育システムを指します。

このアプローチの目的は、特別なニーズを持つ学生を特別な教育機関に分けるのではなく、一般的な教室で支援と適応を提供することにより、すべての学生が互いに学び合い、社会的スキルを育むことにあります。

インクルーシブ教育は、差別の排除、多様性の尊重、個々の能力の最大化を通じて、より公正で平等な社会の実現に貢献します。

インクルーシブ防災

インクルーシブ防災は、災害発生時に全ての人々が安全であることを保証する取り組みです。

この取り組みでは、障害を持つ人々、高齢者、子供など、災害時に特別な支援が必要となる人々を特に考慮しています。

具体的には、緊急避難計画の策定やアクセシビリティの向上を通じて、全ての人が災害から自身を守り、迅速に安全な場所へ避難できるようになります。


インクルーシブ社会を実現する上での3つの課題

最後に、インクルーシブ社会を実現する上での代表的な課題を3つご紹介します。これらの課題を解決するためには、個人や企業、政府などが一体となって取り組む必要があると考えられます。

1.意識と態度の変化

多様性と包括性の価値を理解し、尊重する文化を育むことは、特に伝統的な価値観や偏見が根強い環境では大きな課題となり得ます。

インクルーシブな文化を構築するためには、個人および組織レベルでの意識と態度の変化が必要であり、変化を促進するには、継続的な教育と対話が不可欠です。

2.経済的不平等の克服

経済的不平等は、社会のさまざまなグループ間で取得できる情報や機会に大きな差を生じさせます。

低所得者層が高品質の教育や健康サービスを利用することが難しい場合、これらの不平等はさらに強化され、インクルーシブな社会の実現を妨げる重大な障害となります。

3.技術や知識の格差の解消

情報技術の進展は、教育、医療、雇用など、多くの課題を解決する可能性を持っています。
しかし、デジタル技術に関する格差が、特定の集団をさらに疎外する原因にもなっています。

これらのギャップを埋めるためには、個人、企業、政府などが一丸となって改善に取り組む必要があると考えられます。


まとめ

本記事では、インクルーシブの基礎や、背景、類似した概念との違い、ビジネスにおける重要性、メリットやデメリット、その他の取り組み、課題などの情報を紹介しました。

インクルーシブとは、全ての人々が参加・活躍する社会を目指す取り組みのことです。

そしてこれを推進することは、多様性のある社会の実現だけでなく、イノベーションの源泉としても非常に重要です。

しかし、この目標を達成するためには、文化構築や意識向上のための継続的な取り組み、技術や知識の格差の解消、そして経済的不平等の克服など、さまざまな課題に取り組む必要があります。

個人、企業、政府が協力し、一体となってこれらの課題に取り組むことで、真にインクルーシブな社会を実現することができるでしょう。

そして課題解決に挑戦する際には、本記事で紹介した情報が一助となれば幸いです。