2023年現在、スタートアップ・SaaS領域周辺では、ZoomやSlackを急成長させたといわれる「PLG※」への注目が集まっています。
しかし、現時点で、国内のPLG型SaaSのマーケティングに関する取り組み事例は、あまり公開されていません。
本記事では、国内PLG型SaaSとして例に挙げられることも多い、中小企業向け業務管理システム「board」での約5年間にわたるマーケティング支援の取り組みの一部と得られた学びを紹介します。
結論としては、これまで筆者が取り組んできたBtoBマーケティングにおける定石が通用せず、全く異なる施策が有効となりました。
「board」というプロダクト固有の文脈に依存する部分も多いため、どこまで参考になるものか疑問も残りますが、少しでも役立つ部分があれば幸いです。
※PLGとは:Product-Led Growth(プロダクト・レッド・グロース)、「プロダクトでプロダクトを売る」製品主導での成長のこと。対比される概念は「セールスがプロダクトを売る」Sales-Led Growth(セールス・レッド・グロース、SLG)
<参考>PLG プロダクト・レッド・グロース「セールスがプロダクトを売る時代」から「プロダクトでプロダクトを売る時代」へ ウェス・ブッシュ
執筆者
SO Technologies株式会社 執行役員CMO 全社マーケティング統括ならびに、オウンドメディア「LISKUL」の運営責任者。対象となる顧客が限定的なBtoBSaaSにおいて、外部メディア・自社メディアを活用したグロースマーケティングを通じて、着任後1年で4000件以上のリード獲得を実現。自社のマーケティングで得られた知見を生かして、対外向けにBtoBリード獲得支援のサービスやコンサルティングも提供している。(執筆記事一覧 )
目次
【事例】無料登録ボタンをファーストビューから外して成果が改善
最初に、象徴的な施策事例をご紹介します。
boardでは、プロダクトサイトのトップページのメインビジュアルから、
- CV(コンバージョン)ポイントの「無料お試しボタン」
を外して、
- 個人情報を取らない「資料ダウンロード」ボタン
- 個別相談会の説明ページへのリンクへの導線
に変更しています。
現状、CVポイントである「無料お試し」の導線は、グローバルナビの右端にあるのみです。(2023年2月現在)
出典:boardトップページ
「ファーストビューから、CVボタンを外す」
この施策、もしあなたがBtoBのWebマーケティングに関わった経験のある方であれば、勝ちパターンの定石から外れた「悪手」であると感じるのではないでしょうか。
【定石】リード獲得は「質より量」を優先。CVに直行させることが鉄則
「ファーストビューの一番目につくところに、CVボタンを設置してCV数最大化を狙う」は定石中の定石です。ただし、SLG・PLGの違いによってCV数を最大化させる理由は変わります。
SLGの場合
- (セルフサービスチャネルである)Webが苦手な「説得」はセールスに任せた方が効率が良い
- ゆえに、CVに直行させ、まず数を取って、プロダクトに相性が良く収益性の高いリードを選別して営業(インサイドセールス)がアプローチするのが定石
PLGの場合
- プロダクトを使ってもらう体験を通じて価値を感じてもらうのがPLG
- ゆえに、CVに直行させ、数を取って、一人でも多くの人にまずは使ってもらうのが定石
【結果】定石に逆らって、有料転換率13%アップ&有料継続率向上・サポートコストの大幅削減の副次効果も
定石である「ファーストビューの一番目につくところに、CVボタンを設置する」に逆らって、あえてユーザーをCVから遠ざける奇策を実施した結果、boardのマーケティング成果は改善しました。
結果は以下の通りです。
- 無料→有料転換率改善:15%→17% (約12%増)
- 有料継続率向上:99.1%→99.5%
- サポートコストの減少
無料登録数は減少したものの、有料転換率が改善したため、有料登録の絶対数は横ばい水準を維持しています。
さらには、当初想定していなかった、有料継続率の向上とサポートコストの減少につながりました。その結果、LTVの改善と固定費の抑制につながり、ユニットエコノミクスが改善しています。
この結果は、「boardの運営スタンス」とも合致しており、マーケティング施策をコンセプトから見直すきっかけになりました。
弊社は、会社の「規模」の拡大は目指しておらず、「10人で1万社が利用するサービスを」というスタンスで運営しています(今、11人いますが)。
そのような方針で会社を運営しているため、契約社数の増加とともに問い合わせが増えてしまうと、この会社のスタンスを維持できなくなってしまいます。そのため、「提供するシステムやサポートの質を向上させて、利用社数が増えても問い合わせは増えない」という状況を目指しています。
引用:システムとサポートの質の改善による問い合わせを減らすための取り組み(board – 2022年編)|- ヴェルク – IT起業の記録
次の章では、この施策を含めた一連のマーケティング活動の試行錯誤における学びについて、より深く共有するために、対象のプロダクトである「board」の特徴や制約について補足します。
【前提】boardの特徴/制約
「board」は、成長戦略にPLGを用いている、BtoB向けのSaaSです。
提供元のヴェルク株式会社は、もともと受託開発を基本とした自己資本100%の会社で、従業員数は11名(2023年2月現在)と小規模なチームで運営されています。
そのため、boardのプロダクトや事業運営において、マーケティング戦略を考える上で考慮すべき、様々な特徴や制約があります。
該当する明確なカテゴリがない
マーケティング施策を考える上で、まず、頭を悩ませるのは「board=〇〇」といえるような確立された明確なカテゴリがないことです。
boardは、経営者が抱える時間的、心理的な負担を減らすために、請求処理や管理業務を効率化し、経営判断に必要な数字をいつでもリアルタイムに可視化することを目的として、それを必要としていた弊社の代表自身の手で開発が始まりました。
引用:board 開発の背景と目指すもの より
代表自身が、経営者の時間的、心理的な負担を減らすために開発したプロダクトであり、その想いは「バックオフィス業務のために起業したのではない」というプロダクトのメインコピーにもなっています。
それゆえ独自性が強く、既存の製品カテゴリには、当てはまるものがありません。強いていうなら「中小企業向け業務管理システム」になります。しかし、それすらもカテゴリとして確立されておらず検索数も限られています。
マーケティング施策では、検索数が多くユーザーニーズが近い「請求書作成ソフト」を暫定的なカテゴリとしています。この場合、ユーザーとの接点は取りやすくなります。
一方で「請求書作成ソフト」として認知された場合、請求書作成に特化したツールとのスペック比較になってしまいます。この場合、boardの本来提供したい価値が伝わりづらくなるという弊害もあり、頭を悩ませている問題です。
業務システムゆえに導入/乗り換えハードル高い
boardのような「業務システム」を導入しようとすると、システムにあわせて既存の業務フローやルールを一部変更する必要がある場合もあります。特に業務に関わる人数が多いほど、導入や乗り換えにおける現場の負担が大きくなります。
そのため「とりあえず導入してみてダメだったら戻す」というトライ&エラーが難しく、強い覚悟を持った推進者が期限を切って検討しない限り、導入や乗り換えが困難なことが特徴です。このことはマーケティング施策にも影響を与える大きな障壁になります。
料金は平均2,000~3,000円/月
boardの大きな魅力の1つは、料金です。最も安いプランで月額980円。顧客単価は月間2,000〜3,000円となっています。
既存ユーザーからは「桁が1つ違う」といわれるほどで、充実した機能や実際の業務に即した使い勝手のよさに対するコスパの高さが評価されています。
参考:「board」請求書・見積書作成+業務・経営管理クラウドの評判が良い理由 | LISKUL
一方で、マーケティング施策を考える側からすると、これは大きな制約になります。施策において許容できる顧客獲得単価(CAC)も必然的に低くなるため、打ち手の選択肢が極めて限定的になります。
例を挙げると、リード獲得を目的とした広告はCPAが合わないため、基本的に打てません。加えて、有料媒体掲載や展示会出展など、一般的な有料リード獲得施策の大半も打ち手の選択肢から外れます。
営業は一切しない
営業も一切していません。そもそも営業という役割のメンバーがいません。
これは、低価格のため許容できる顧客獲得単価(CAC)が低い制約によるものですが、プロダクト責任者でもある代表がエンジニアであり、営業をするのもされるのも苦手な影響もあると睨んでいます。
過度なメールマーケティングをしない(したくない)
有料のリード獲得施策は、ほぼできない、営業もしない、となると、必然的にメールマーケティングを主軸のマーケティングを組み立てることになるはずです。
しかし、boardでは送付するメールを必要最小限に抑えています。
理由は、プロダクト責任者でもある代表が、「余計な(宣伝目的の)メールが嫌い」だからです。個人的なポリシーを貫けるのも、自己資本の会社ならではなのかもしれません。
boardは「営業をしない(いない)」「広告を出さない」「露出の機会がほとんどない」「お試し登録後もこちらからアプローチはしない」というスタンスでやっています。
引用:受託の会社が資金調達せずに自社サービスを立ち上げて、有料導入4000社に行くまでの振り返り | ヴェルク – IT起業の記録
唯一の接点「個別相談会」は1ヶ月以上マチ(※2018年当時)
「こちらからアプローチはしない」というスタンスのboardにおいて、ユーザーとの唯一の接点が「個別相談会」です。プロダクト責任者でもある代表が、プロダクトの説明や質疑の場として、打ち合わせ形式で実施しています。
この「個別相談会」を経たユーザーの有料登録率は、なんと70%超。全体平均15%の5倍近い数字です。
即刻、開催枠を増やしたいところですが、代表の開発業務との兼ね合いもあり、枠は増やせず、1ヶ月以上マチの状態となっていました。(現在は一部解消し1~2週間待ち)
参考:board(SaaS)個別相談会の変遷と合成音声によるチュートリアル動画 | ヴェルク – IT起業の記録
CVポイントは1ヶ月無料のトライアル「無料お試し」
boardの新規顧客獲得は、CVポイントである「無料お試し」の登録を軸としており、おおまかなプロセスは以下の通りです。
- 各種集客施策により、プロダクトサイト(https://the-board.jp/)に誘導する
- 1ヶ月無料のトライアルである「無料お試し」に登録してもらう(CV)
- 「無料お試し」で試用してもらい、有料化してもらう
このプロセスにそって「無料お試し」の数(CV)数と、そこからの「有料転換率」を重要な指標としてモニタリングしています。
【失敗】「CV数増加」と「有料転換率改善」の施策を片っ端から試した2年間
新規顧客獲得のゴールである「有料登録者数」を増やすための施策は大きく2つに分けられます。
- 「無料お試し」の登録数(CV数)を増やす
- 有料転換率を改善する
ただし「営業をしない(いない)」「広告を出さない」「無料お試し登録後に積極的なアプローチはしない」という方針を踏まえると、新規有料登録数を増やすために打てる手は限られてきます。
- ブログ執筆やSEOを中心としたコンテンツ経由の流入強化
- ユーザーのニーズや流入文脈にあわせたLP改善
- 無料お試し登録フォームの画面UI改善
- 無料お試し登録後に送付するメール文面の改善
- 無料お試し登録後のナビゲーションUIの改善
- 「有料登録を早期に実施すると1ヶ月分の料金無料」オファーの提示
これらの打ち手を順次試していきました。どの施策も筆者が関わってきた他プロダクトで実績がでている自信の鉄板施策たちです。
しかし、結果は出ませんでした。
どの施策もCV数やCV後のログインや案件登録数など、中間KPIの改善は見られるものの、最終ゴールである「有料登録者数」の明確な増加にはつながりません。
特定の中間指標が改善すると、別の中間指標が悪化して相殺される「ボトルネックの移動」が起こることの繰り返し。これが2年ほど続きました。マーケティング支援で対価を頂いている身としては地獄の日々です。
【気づき】改めてユーザーになりきって、追体験してみて感じた違和感
煮詰まった私は、初心に帰り、改めて想定するユーザーになりきって、一連の流れを体験してみることにしました。
具体的には、プロダクトを認知するところから、プロダクトサイトへ来訪し、「無料お試し」の登録、有料転換するまでの一連のプロセスを実際のユーザーとして追体験しました。
改めて追体験してみて、感じたことを素直に表現すると「ちょっとしんどいぞ」でした。
無料登録後に、トライアル利用をしていくと、ぶっちゃけ何をすればいいかよくわからず面倒になってきて、離脱したくなってしまうのです。
実は、マーケティング支援を開始した当初も同様に一連の流れを体験して、同様に感じていました。しかし、その時は自分自身がプロダクトのターゲットから遠いこともあり、自分のモチベーションとリテラシーの低さによるものだと思っていました。実際に有料登録は15%も出ていた実績もあるため、おかしいのは私の方だと判断していました。
しかし、今回はすでにboardを知ってから2年以上経過しており、かなりプロダクトの理解はできています。ターゲットユーザーの状況についての解像度もあがっており、適切な状況設定をした上で追体験しています。
それでも、無料お試し登録後、利用しながらプロダクトの機能や特徴、魅力を理解するのは難儀だと感じました。
【仮説】「試しにとりあえず使ってみる」ユーザーは有料転換しないのでは?
- 「無料お試し」登録後、試しにとりあえず使ってみて、気に入ったら有料転換する。
これまで疑うこともしていなかった前提に疑いの目を向けてみると、様々なことがつながってきました。
価値を感じるまでの時間(タイム・トゥ・バリュー)が長いプロダクト特性
まず、boardの提供価値について。
boardの提供価値は「請求書を送るのをラクにする」のような単機能による直接的な体験ではありません。
複数機能の統合によって成し遂げられる複合的な「月末をラクにする」のような体験になるため、体験から価値を感じるまでの時間(タイム・トゥ・バリュー)が必然的に長くなります。
boardの真の価値を実感できるのは、数十件単位の顧客案件と登録し、請求書発行から入金確認までの一連のフローを2〜3回まわしたタイミングとするならば、そもそも無料お試しの30日間に、価値を感じるまでに至らない、と考えるのが妥当です。
一定以上の知覚価値(正しい期待値)が形成できていないと無料お試し(フリートライアル)を乗り越えられないはず
そう考えると、CV時のモチベーションで、無料お試し期間にboardに触りながら(体験を通じて)有料登録に向けたモチベーションを維持向上させることは、ほぼ不可能のはずです。
しかし、実際には、無料お試し登録したユーザーのうち15%が有料転換しています。
有料転換したユーザーは、離脱したユーザーより粘り強く「無料お試し」を続け、長いタイム・トゥ・バリューを突破し、体験を通じて価値を実感したのでしょうか。そんなはずはありません。
フリートライアルの役割は、自社の業務にフィットするか(≒ノックアウトファクターがないか)の検証
有料転換したユーザーは「無料お試し」した時点で、boardがどのような役割を果たし、どういう提供価値のツールか一定理解しており、適切な事前期待(知覚価値)をすでに形成していると考えるのが妥当です。
いわば、最初から有料登録するモチベーションがあり、無料お試しを通過しないと有料登録できないプロセスになっているため、たまたま無料お試しにも登録しているだけ、と考えられます。
それらのユーザーにとって「無料お試し」は、体験を通じて価値を感じ導入意向を高める場ではありません。自社の業務にフィットするか、自社にとって必須の機能が不足していないか(ノックアウトファクターがないか)という検証のための場になります。
実際のデータを見ても「無料お試し」期間中に、数十件もの案件を登録し、かなり使い込んだ上で、有料登録しなかった、というユーザーが一定数見られます。このユーザーは「無料お試し」期間中に、なんらか自社の都合にフィットしないことを発見し、有料転換に至らなかったと推測されます。
【解決策】ユーザーが安易に「無料お試し」に登録しないようにする
- 適切な事前期待(知覚価値)を形成していないユーザーを「無料お試し」にいくら誘導しても、有料転換しない。
もしSLG型のプロダクトであれば、営業による対人コミュニケーションで適切な事前期待を形成して、有料化(受注)に導くことができます。むしろ営業は、適切な事前期待を形成するために存在しているといっても過言ではありません。
しかし、boardは営業をしない(営業がいない)PLG型のプロダクトです。
適切な事前期待を形成し、有料登録相当にモチベーションを上げた上で「自社の業務にフィットするのか?の検証」のためだけに無料お試しをしてもらう必要があります。
ファーストビューから無料お試し(CV)ボタンをはずす
まず、プロダクトサイトのファーストビューのメインコピー直下の目立つエリアから、CVポイントである「無料お試し」のボタンを外しました。(冒頭で紹介した施策です。)
狙いは、適切な事前期待が形成できていないユーザーが安易に「無料お試し」に登録しないようにするためです。
適切な期待値を形成するための2種類の動画を追加
CVボタンを外した前後で、2種類の動画を追加しました。
①チュートリアル動画
有料転換率70%を誇る「個別相談会」で実施していたデモをベースに制作した動画です。boardの基本的な仕組みや使い方などを解説しています。
当初の狙いは、個別相談会の1ヶ月以上のマチ状況を少しでも改善するためでした。
チュートリアル動画の導入後、個別相談会のマチ状況改善に加えて「相談内容の質が劇的に上がる」という想定外の効果がありました。
「お試しする前にとりあえずデモを見たい」というニーズがチュートリアル動画によって解消されたため、個別相談会では「要は、自社の業務にフィットするのか?」という主旨のかなり具体的な質問が大半となったのです。
参考:合成音声を使ってboard(SaaS)のチュートリアル動画を制作した話(VOICEPEAKとGoogle Cloud Text-to-Speech) | ヴェルク – IT起業の記録
視聴数、視聴完了数ともに当初の想定を大きく上回っており、動画の効果を再認識する結果となりました。
②90秒のサービス紹介動画
チュートリアル動画の視聴数・視聴完了数が想定以上だったことを受け、検討段階がもう少し手前の興味段階のユーザーに向けて、理解を促すためのサービス紹介動画も作成しました。
プロダクトの解決できる課題や提供価値をできる限りわかりやすく伝え、適切な事前期待を形成する狙いです。
内容については、ベネフィットがイメージしやすい請求書作成にフォーカスさせすぎず、理解が多少難しくなろうとも、board本来の提供価値を感じやすい業務全体の改善をイメージできるようにするなど、議論を重ねて構成を練っています。
【結果】
主な成果は以下の通りです。
- 無料→有料転換率改善:15%→17% (約12%増)
- 有料継続率向上:99.1%→99.5%
- サポートコストの減少
冒頭の事例でも触れましたが、当初想定していなかった、有料継続率の向上とサポートコストの減少につながり、LTVの改善と固定費の抑制につながり、ユニットエコノミクスが改善しています。
新規有料登録の絶対数は増えていませんが、サービス全体の収益性を改善したという意味では、より本質的なマーケティング活動の支援ができたと考えています。
【今後】「無料お試し」の登録直後に適切な事前期待(一定以上の知覚価値)を形成する仕組みを整えられないか
今回は、適切な事前期待を形成できるまでは、無料お試しさせない、という方向性で成果を出しました。しかし、今後もずっとその方針で行くとは限りません。
「無料お試し」の登録直後に適切な事前期待(一定以上の知覚価値)を形成する仕組みを整えることができるのであれば「あえてCVさせない」という奇策に頼る必要はありません。
現在のサービス動画も、boardの提供価値を100%伝えられているわけではありません。動画の中の説明の「御社にとってちょうどいいboard」の部分は、さらに解像度を上げて表現を磨き上げる余地がありそうです。
今後も施策と検証を繰り返しながら、boardの事業成長を加速させていけるようなサポートを続けていきます。
【まとめ】PLGだと「営業でなんとか」できない
PLG型SaaSのマーケティング施策の検討を通じて、最も強く感じたのは、これまでのSLG型プロダクトのマーケティング施策において、いかに「営業でなんとか」してしまってきたかです。
- とにかくリードを獲得すれば、あとは営業が何とかしてくれる。
- とにかくフリートライアルに持ち込めば、カスタマーサクセスが何とかしてくれる。
マーケティングプロセスの中に、ヒトが介在する部分があれば、うまくいかない場合に、ボトルネックを動かしてヒトの部分に寄せた上で、あとは現場の知恵と工夫でなんとかして乗り越えてもらう、という技が使えます。
そして、ヒトが介在した瞬間に、そのプロセスがうまくいかないのは、ヒトのスキルや能力の問題に置き換わります。リードからの受注率が低ければ営業担当のスキルや能力の問題であり、フリートライアルの転換率が低ければ、オンボーディング担当のスキルや能力の問題になります。
しかし、PLGでは、この最強の技である「ヒトを介在させて突破する」が、一切使えません。
ゆえに、プロダクトを利用する手前の認知段階から、フリートライアルを経て、有料登録し、継続利用しつづけるまでの、ユーザー体験全体の完成度を高めることから逃げずに立ち向かい、細かいところまで考え抜いて設計する必要があります。
逆に、完成度の高いユーザー体験を設計できれば、ヒトの力を介さずに低コストで再現性を持ってプロダクト成長が加速するため、難易度は高いものの得られるリターンは非常に大きいといえます。
これが世界中で「PLGが主流になる」といわれている根拠だと、今回の経験を通じて実感しました。
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