スマートシティとは?概要・メリットと国内外の成功・失敗事例まとめ

スマートシティとは、IoTやビッグデータなどのテクノロジーを活用した都市の形を指す言葉です。

スマートシティを実現することで、交通システムが最適化され渋滞が減ったり、エネルギーの効率化を行うことで空気の質を改善したりすることができます。

このような利点のあるスマートシティですが、先進的なイメージはあるものの、具体的な説明を求められると困るという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、スマートシティの基礎から、主な目的、スマートシティを支える技術、事例、課題、将来の展望などの情報を一挙に解説します。

スマートシティについておさらいしたい方は、ぜひご一読ください。

目次


スマートシティとは?

スマートシティとは、最新のテクノロジーを活用して、都市を効率的に運営することを目指す新しい都市の形です。

例えば、IoTの技術で交通システムを最適化するなどの形で人々の生活を便利にしたり、クリーンエネルギーを利用することで環境に配慮した持続可能性の向上に重点を置いています。

このような都市の構造的、経済的、社会的課題への対応や、持続可能性の向上の実現に向けて各国の政府、自治体、多くの企業が対応を進めています。

スマートシティの主な目的4つ

次に、スマートシティの主な目的を4つご紹介します。

1.都市の効率向上

スマートシティでは、IoTやビッグデータといったデジタル技術を駆使して、エネルギー利用、交通の流れ、公共サービスの状態を理解し、分析し、最適化します。

これにより、都市の基本機能を効率的に管理し、無駄を削減し、運営コストを節約することが可能となります。

2.環境への配慮

スマートシティは環境に配慮した取り組みを重視しています。

この取り組みは、エネルギー消費の削減と持続可能な都市開発を可能にするために不可欠です。

具体的には、環境に優しい技術やクリーンエネルギーの利用を積極的に推進することで、環境への悪影響を大幅に減らしています。

3.市民の生活の質の向上

効率の向上や環境への配慮を行うことは、市民の健康や安全を守ったり、より快適な生活環境の提供につながります。

例えば、公共の交通機関にクリーンエネルギーを利用したり、スマートな交通システムにより渋滞を減少させることにより、空気がきれいになります。

4.経済的な発展

最新のテクノロジーが活用されるスマートシティは、新しい技術やサービスの開発の場でもあり、経済成長や雇用の創出が期待されています。

スマートシティで活用されている、ビッグデータ分析や、人工知能(AI)などの様々な先進技術については次の章で説明します。


スマートシティを支える7つの主要な技術

次に、スマートシティを実現するためには欠かすことができない代表的な技術を7つご紹介します。

1.IoT

IoT(Internet of Things:モノのインターネット)とは、家電や車、信号機など、さまざまなものがインターネットに接続され、情報をやり取りする技術のことです。

例えば、交通量に応じて信号機が変わることで交通の流れを最適化するなど、IoTを活用することで生活をより便利で快適になります。

2.ビッグデータ

ビッグデータとは、その名のとおり膨大な量のデータのことです。

例えば、交通量や、気候データ、消費者の行動パターンなどがこれに該当します。

これらの膨大なデータを分析することで、渋滞を減らしたり、エネルギー消費を効率化することができます。

参考:ビッグデータとは?メリットや活用事例、注意点、活用までの流れ|LISKUL

3.AI

AI(artificial intelligence:人工知能)は、コンピューターが人間のように学習し、問題を解決する技術です。

例えばAIを活用することで、カメラ映像やGPSなどの情報から、渋滞を避けるルートのを提案するなど、学習した情報から人間の代わりに意思決定を行います。

4.高度なセンサー

高度なセンサー技術も、スマートシティの基盤となる大事な要素です。

なぜなら、IoTも、ビッグデータも、AIも真価を発揮するためには、様々なセンサーによってデータを収集する必要があるからです。

センサーの種類は多岐にわたり、エネルギーの使用量を測るイメージしやすいものから、水質、待機室、交通の流れなど、都市内のさまざまな要因を計測するためのものが無数に存在します。

5.5G通信技術

5Gの高速な通信技術も、スマートシティの実現には欠かせません。

ビッグデータを処理するためには、データ伝送の速度や容量が求められるためです。

例えば、人命を預かる自動運転のシステムや、緊急サービスではデータ処理の速度が重要となります。

6.クラウドコンピューティング

クラウドコンピューティングとは、センサーやデバイスを通じて取得したデータを、保存したり処理するための技術です。

クラウドコンピューティングにより、大量のデータを効率的に処理したり、管理することができます。

7.ブロックチェーン

ブロックチェーン技術とは、暗号技術を用いてデータの改ざんを防止できるデータ保存技術です。

ブロックチェーン技術を用いることで、公共サービスを利用する消費者のプライバシーを保護したり、都市運営の透明性を確保することができます。

参考:ブロックチェーンとは?意味・定義 | IT用語集 | docomo business Watch | ドコモビジネス | NTTコミュニケーションズ 法人のお客さま


スマートシティの国内事例

日本国内のスマートシティの先進事例をご紹介します。

神奈川県横浜市:横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)

神奈川県横浜市では、持続可能な都市開発を目指す「横浜スマートシティプロジェクト(YSCP)」を進行中です。

このプロジェクトは、環境に配慮した都市開発を目標に掲げ、エネルギーの効率化やCO2排出量の削減に取り組んでいます。

主な取り組み内容

  1. 次世代エネルギー・社会システム実証:経済産業省の実証地域として選定され、実証実験を実施
  2. CO2排出量の削減と省エネルギー:実証実験により、CO2排出量29%削減、省エネ率17%向上を達成
  3. 横浜スマートビジネス協議会(YSBA)設立:スマート関連ビジネスの活性化を目指し設立

特徴

横浜スマートシティプロジェクトは、防災性、環境性、経済性に優れたエネルギー循環都市の実現を目指しています。

港北区綱島地区の「Tsunashima サスティナブル・スマートタウン」開発など、具体的なプロジェクトが進行中で、これらの取り組みは都市のエネルギー効率を高め、持続可能な都市開発を推進しています。

参考:横浜スマートシティプロジェクト(YSCP) 横浜市

香川県高松市:スマートシティたかまつ

香川県高松市では、革新的なスマートシティプロジェクト「スマートシティたかまつ」を推進しています。

このプロジェクトは、最新のデジタル技術を駆使して地域の課題に対応し、市民の生活の質を向上させることを目指しています。

地域経済の活性化と持続可能な社会の実現も重要な目標です。

主な取り組み内容

  • IoT技術を活用したデータ収集・分析プラットフォームの開発
  • 防災、観光などの分野でのデータ活用による課題解決の取り組み
  • 産業界、学界、市民、政府の協力による包括的なプロジェクト推進
  • 高齢者の健康管理を含む地域包括ケアシステムの構築

特徴

スマートシティたかまつは、官民のデータを統合し、分析・活用することで、市の課題に対応する新しいアプローチを提供します。

プロジェクトは、データの横断的な利用を通じて、行政サービスの効率化と市民生活の質の向上を目指しています。

また、防災や観光などの具体的な分野でのデータ活用により、地域特有の課題に対する実践的な解決策を模索しています。

高松市は、このプロジェクトを通じて、デジタル化と持続可能性を融合した未来の都市モデルを目指しています。

参考:スマートシティたかまつ|高松市


スマートシティの失敗事例:「Sidewalk Toronto」からの学び

トロントで進行していたスマートシティプロジェクト「Sidewalk Toronto」は、グーグルの親会社アルファベット傘下のSidewalk Labsによって推進されていましたが、最終的に失敗に終わりました。

このプロジェクトは、トロントのウォーターフロント地区の一部を再開発し、木造の高層ビル群を建築することで、生活と仕事が融合した新しい都市空間を創造することを目指していました。

失敗の要因

プロジェクトでは、生活を最適化するために住民の個人情報を自動で収集・販売される仕組みを作りましたが、これに対して住民から怒り・不満の声が届いています。

それに付随して、資金調達の問題、政治的な不確実性など、多くの課題に直面しました。

新型コロナウイルスのパンデミックが発生し、経済的な不安定さが増大したことも、プロジェクトの中止の一因となりました。

事例からの学び

スマートシティの実現には、技術的な革新だけでなく、住民のプライバシー保護、資金調達の確実性、政治的な安定性など、多角的な視点からのアプローチが必要であることが浮き彫りになりました。

また、市民のデータ管理に関する透明性の確保や、地域コミュニティとの協力が、スマートシティプロジェクトの成功に不可欠であるという教訓も得られました。

参考:スマートシティ構想の変化における失敗と成功要因の仮説検証


スマートシティの海外事例

スマートシティの海外事例をご紹介します。

今回はスマートシティ大国と呼ばれる2国の事例を取り上げます。

アメリカ:ニューヨーク

ニューヨークでは「Link NYC」というスマートシティプロジェクトが進行中です。

このプロジェクトの目的は、都市全体をWi-Fiスポット化し、市民の生活をデジタル技術で支えることです。

主な取り組み内容

  • 公衆無線Wi-Fiの提供
  • タブレットと無料電話サービスの設置
  • 緊急通報システムの整備
  • 環境センサーを利用した都市データの収集

特徴

ニューヨークのスマートシティ化は、デジタルサイネージを活用し、市民の日常生活に便利なサービスを提供することに重点を置いています。

これにより、都市のデジタル化を推進し、市民の生活の質を向上させることを目指しています。

参考:スマートシティ「圧倒的」王者。コペンハーゲン、NYが他の都市と一線を画す理由

デンマーク :コペンハーゲン

コペンハーゲンは、スマートシティの分野で国際的に認知されており、2014年に「World Smart City Awards」を受賞しました。

2050年までに化石燃料を使わない社会を目指し、2025年までに世界初のカーボンニュートラルな首都になることを目標にしています。

主な取り組み内容

  • 「Copenhagen Connecting」:市内のセンサーやWi-Fiからのデータを分析し、スマートシティ関連の技術やソリューションを開発
  • CITS(Copenhagen Intelligent Traffic Solutions):交通渋滞の緩和とCO2排出量削減を目指す
  • DOLL Living Lab:最新の照明技術の開発と環境モニタリング

特徴

コペンハーゲンのスマートシティ取り組みは、データ利用とインフラ整備に焦点を当てています。市内のセンサーやWi-Fiから収集したデータを活用し、交通、エネルギー、環境などの分野で効率性を高めています。

市民の生活の質の向上と環境への配慮も重要な目標であり、持続可能な都市開発を目指しています。

参考:スマートシティ海外事例10選|ビジネスブログ|ソフトバンク


スマートシティ4つの課題

スマートシティの発展には多くの利点がありますが、それに伴う課題も存在します。

以下に、スマートシティの主な課題を4つご紹介します。

1.高度で柔軟な政策が求められる

スマートシティの実現や持続的な運用を行うためには、社会的、経済的、技術的な影響を加味した政策の立案が求められます。

スマートシティが多様な要素を統合し、複雑な課題に対処する必要があるためです。

例えば、市民のニーズの変化に迅速に対応する、技術進歩に合わせてインフラを更新する、経済的安定性を維持するなど、さまざまな側面が関連しています。

2.法的枠組みの適切な整備

最新のテクノロジーを活用するということは、前例のない課題が生まれる可能性があり、それらに応じた法的枠組みの整備が求められます。

例えば、規制もなしに自動運転車が公道を走ったり、貨物運送ドローンに許可もなく住宅街の上を飛行されては、安全とは言えません。

3.プライバシーとセキュリティの確保

スマートシティでは、個人情報を含む大量のデータが収集・分析・活用されるため、プライバシーとセキュリティの確保は大きな課題となります。

市民の個人情報を保護するための厳格なセキュリティ対策と、市民のプライバシーを尊重するためのポリシーの策定が必要です。

4.技術的な互換性を確保する必要がある

スマートシティを実現するためには、多くの異なるシステムや技術が用いられます。

しかしこれらのシステムやデータをうまく連携できなくては、便利に活用はできません。

そこで、様々な技術やプラットフォーム間での互換性を確保することが求められます。


スマートシティ将来の展望4つ

最後に、スマートシティの将来の展望について4つご紹介します。

スマートシティの概念は、世界中で急速に進化しており、将来的にはより革新的で持続可能な都市環境が実現すると期待されています。

具体的には、新しいビジネスモデルの創出や、経済的な機会の拡大などが含まれます。

1.新しいビジネスモデルの創出

新しい技術を活用するスマートシティは、多くの新しいビジネスモデルを生み出す可能性を秘めています。

特に、スマートシティの目的に一致するエネルギー管理や、スマートトランスポーテーション、持続可能な資源管理、パーソナライズされた体験などの分野で、イノベーションが期待されます。

2.経済的な発展の機会

スマートシティの実現は、経済的な機会を拡大することも期待されています。

具体的には、新技術の導入や開発により、雇用の創出、新産業の成長による市場の拡大などが挙げられます。

3.持続可能性の向上

スマートシティを実現することでエネルギー効率が向上し、環境への悪影響を低減することができると考えられています。

環境に配慮した技術の導入により、都市のカーボンフットプリントを減らし、持続可能性を向上することが期待されています。

4.市民の参加

スマートシティの実現や運用には、市民の理解や参加が必要不可欠です。

市民の参加を得ることで、市民自身の生活も豊かになる都市運営が実現されるでしょう。


スマートシティに関するよくあるご質問

スマートシティに関する役立つQ&Aをまとめています。

Q.スマートシティと環境への影響はどのように関連していますか?

A.スマートシティでは、クリーンエネルギーや効率的なエネルギー管理が重視され、環境への悪影響を最小限に抑えることが可能です。たとえば、電力消費を最適化したり、渋滞を減らすことでCO2排出を抑えるなど、持続可能な都市環境を実現するための取り組みが進んでいます。

Q.スマートシティで利用されるAI技術の役割は何ですか?

A.スマートシティにおけるAIは、交通渋滞の予測やエネルギー消費の最適化、犯罪予防など、多くの分野で活用されています。AIはデータを分析し、効率的な都市管理をサポートすることで、住民の生活の質を向上させる役割を果たしています。

Q.スマートシティの技術導入における法的な課題とは?

A.スマートシティに新技術を導入する際、既存の法律や規制に適合させることが課題となります。特に、自動運転車やドローンの使用、データプライバシー保護に関連する規制の整備が必要で、国や自治体が技術の進歩に対応するための法的枠組みの見直しが求められています。

Q.スマートシティが経済成長に与える影響は?

A.スマートシティは新しい技術やサービスの開発を促進し、これによって新しい産業が生まれ、雇用の創出や経済成長が期待されます。IoTやAI、ビッグデータなどの技術が広がることで、技術革新と共に新たなビジネスチャンスが生まれます。

Q.スマートシティは既存の都市にも導入可能ですか?

A.スマートシティの技術は既存の都市にも段階的に導入可能です。例えば、既存の交通システムやエネルギーインフラにセンサーやデータ管理システムを追加することで、都市の機能を改善し、住民の生活の質を向上させることができます。


まとめ

本記事では、スマートシティの基礎から、主な目的、スマートシティを支える技術、課題、将来の展望などの情報を紹介しました。

スマートシティとは、IoTやビッグデータなどの最新のテクノロジーを用いた都市運営のことです。

これらのテクノロジーを活用することで、渋滞の緩和や、環境の改善などの直接的なメリットが多くあり、さらには革新的なビジネスや雇用の創出も期待されています。

しかし、スマートシティを実現するためには、社会的、経済的、技術的な影響を加味した政策の立案や、法的枠組みの柔軟な整備など、多くの課題があるのも事実です。

そして市民も参加してこれらの課題を解決することで、スマートシティは、私たちの日常生活を根本から改善し、持続可能で生活しやすい環境を実現することができるでしょう。