PRの売上比率は50%以下!ベクトルはPR会社から脱却し、コミュニケーションのSPAカンパニーへ【ベクトル副社長COO 長谷川創】

社会全体が大きな変化の時期を迎える昨今、コミュニケーションにも大きな変化が起きています。あらゆる情報のデジタル化が進み、新しいマーケティング・PR手法が生まれる中、国内最大手のPR会社ベクトルでは、この数年間「PR会社からの脱却」という社内メッセージを掲げて変革を行ったそうです。

PR以外の事業で50%の売上を上げ、コミュニケーション領域のSPAカンパニーを目指すと標榜するベクトルはどのように変革を遂げたのか。株式会社ベクトルの取締役副社長兼グループCOOを務める長谷川創氏にお話を伺いました。

※本記事は株式会社ベクトル提供によるスポンサード・コンテンツです。


コミュニケーション領域のSPAカンパニーへ


長谷川 創(はせがわ はじめ)1971年生まれ。1993年、関西学院大学在学中に創業メンバーとして、株式会社ベクトルに参画。その後、2年間旧郵政省に入省するが、1997年に株式会社ベクトル入社。2001年より取締役、2004年に株式会社アンティルの代表取締役就任。2010年よりベクトル中国の董事長及び海外子会社統括役に。現在、株式会社ベクトル取締役副社長兼グループCOOとしてベクトルグループ全体の業務遂行・管理を担当。また、複数の新規事業立ち上げを推進し、D2C事業を展開する株式会社Direct Techの代表取締役や、株式会社PR TIMES等の社外取締役も兼務し、グループ全体の成長を支える。

――ベクトルグループのIR資料を拝見すると、PR領域以外での事業展開を積極的に行なっている印象を抱きます。どのような構想で展開されているのでしょうか。

長谷川さん(以下、長谷川):私たちが目指しているのは、コミュニケーション領域のSPA(製造小売)カンパニーです。ベクトルというとPR会社と認識いただくことが多いのですが、そもそもPR支援とは、クライアント様の情報を広めるためのコンテンツを作り、それをどうメディアで流通させるかを考え、実行するまでをソリューション化したもの。それならば、流通する先のメディアも自社で持ってしまった方が期待に応えられるのではないかと考えているんです。

実際、グループ全体の売上のうちPR事業の比率は47%のみ。残り半分の大まかな内訳は、ビタブリッド ジャパン社、Direct Tech社のD2C(Direct to Consumer)事業が20%、あしたのチーム社、ベクルーティング社のHR Tech事業が11%、ニューステクノロジー社のモビリティアドを中心としたサイネージ広告事業が5%、NewsTV社のビデオリリース配信事業が5%というのがざっくりとした配分です。


図:ベクトルグループ売上高構成比(2020年2月期)

サイネージ広告事業では、大手タクシー会社の1万台以上にコンテンツを配信するモビリティメディア「GROWTH」を筆頭に、都内各所の屋外広告や、表参道・代官山・恵比寿・銀座を中心とした美容室サイネージ事業にも今年から参入しました。今後の展開として、店舗内サイネージなどのインストアメディアやゲーム領域・XR領域と、考えうるあらゆる面をメディア化していこうと考えています。そして、動画を主とした様々なコンテンツを管理・配信・分析まで可能にするような日本独自のプラットフォーマーになろうとしています。

大手タクシー会社の1万台以上にコンテンツを配信するモビリティメディア「GROWTH」

D2C事業では、ビタブリットCというスキンケア・ヘアケア美容品や、エイジングケア化粧品、まつげ美容液など、美容分野を中心に様々な商品を扱っています。人気女性Youtuberと協働して開発販売したRICAFROSHというリップティントは、発売1日で1万個の売上を記録しました。設備投資も積極的に行っており、物流の倉庫を自社で保有し、物流システムも内製しようとしています。

人気女性Youtuberと協働して開発販売したRICAFROSH

一方で、こういった新しい領域への挑戦に注力できるのは、主力PR事業において優秀な若手がしっかりと育ってきたという背景もあります。例えば今まで私が16年間代表を務めていたPR事業会社アンティルでは、新卒8年目の桂俊成という若手営業リーダーを代表取締役に抜擢し、経営権を委ねました。各組織が自ら切磋琢磨し、自走する状態に移行していくことで、私自身はSPAカンパニーとしての陣頭指揮をさらに推進していくというグループ体制をどんどん進めていきたいと考えています。

そういう意味でいうと、D2C事業はグループ全体の経営者育成装置という意味合いもあります。D2Cのビジネスモデル特性上、商品設計の際にいかに原価率を下げるか、工場とどう折衝するか、いかに在庫を少なくするかなど、PL•BSの視点を養うのに最適な事業環境だと思うんです。色々な人と折衝、調整をして頭を下げて、一人ではビジネスが成立しないと言うことに気づきます。その気づきが重要だと思っています。

また、テクノロジーへの投資も強化しています。皆さんのイメージと異なるかもしれないですが、実は1,200人を超えるグループ社員のうち、エンジニアは100名を超えています。いいプロダクトを作ろうとした時に外注先に頼っていてはなかなかスピード感が出ないですよね。

他にも、グループとして強みがない分野について、その資産を持っている会社と組んでジョイントベンチャーを作るようなアライアンス戦略も重視しています。

私自身が、経営者として「日本資本主義の父」と言われた渋沢栄一さんをロールモデルにしています。彼は国益のために日本のインフラを作ると決め、色々な事業を起こしたりアライアンスを推進したりする進め方をしていました。まさにベクトルグループも同じで、日本の企業様がコミュニケーション領域で使いたいと思ってもらえるインフラを作る。そのインフラを使っていただくことによって、日本の企業が発展していくお手伝いができるのではないか。と思っています。


学生起業から東証一部上場へ。大切なのは相手目線

改めて長谷川さんご自身の経歴についても伺わせてください。学生起業からこれまで、どんな思いで事業を拡大されてきたのでしょうか。

長谷川:元々大学時代にグループ代表の西江と出会ったのがビジネスに足を踏み入れたきっかけです。大学のイベントサークルの先輩に西江がいて、学生起業で大学生向けのイベント企画のような事業をしていたんですが、それを手伝ってくれと言われたんです。毎日スーツをきて大学に通っていて、周りの友人からは「お前何してるの?笑」と言われていましたね。

その後、郵便局の局長をしていた父の強い勧めもあって当時の郵政省に就職したんですが、2年働いた後にベクトルに戻りました。当時はまだPR事業を始めておらず、SP事業で、イベントやサンプリングなどを実施することが多かったです。私の最初の仕事は渋谷のイベント会場に弁当を運ぶこと。そんな下積み時代でした。

見よう見まねでPR事業を始めたのが1998年頃です。今のように、PRについて書かれた書籍やPRTIMESのような便利なプラットフォームもない時代です。日本のメディア環境に合ったPR戦術を自分たちで模索しながら泥臭く働いていました。それから様々な苦労を乗り越え、順調に事業を拡大することができ、2012年に東証マザーズ上場、2014年に東証一部に上場することができました。

個人として、これまで社長になりたいとかグループを大きくしたいと思ったことはありません。それよりも、クライアント様の求める以上の結果を出すこと、プロジェクトが終わった時に「ありがとう、ベクトルにしてよかった」という言葉をもらえるかどうかにこだわっていた気がします。その視点をずっと大切にし続けた結果、ここまでグループが大きくなった。クライアント様に育てていただいたような感覚があります。


「PR会社からの脱却」中国駐在を機に考えた変革の必要性

――PR事業が順調に成長する中で、今のような事業構想を考えられたのはいつ頃からでしょうか。

長谷川:2014年頃です。2010年から2014年まで海外展開のために中国に駐在していたんですが、日本に戻ってきた時に、このままではまずいなと思ったんですよね。PRに関しても、中国ではスマホを中心に、生活者にダイレクトに情報を届けるto Cのデジタルコミュニケーションに移行していたのに対し、日本ではまだメディアを通して情報を届けるというto Bのコミュニケーションから進化していなかった。なので、このtoCとtoBを両方兼ね備えられるような新しいPRの形に軸を移していかなければいけないと感じました。

そこで、2016年頃から、社内の幹部会議で「旧来のPR会社のスタイルからは脱却しなければ先はない」というメッセージを発信し始めたんです。ドラスティックにいかないと、社内が変わらないと思ったんですよね。

ただ、誤解して欲しくないのは、PRという戦略はこれまで通り重要だし残るということです。その上で、戦術としてのPRは、当時の手法のままではクライアントの満足が得られなくなるので新しい戦術が必要になると伝えたかった。実際に、現在のグループの新規事業の考え方は、PRの観点を非常に重要視しています。


既存事業に負荷をかけず、事業責任者がファーストペンギンとして振舞う

――社内では衝撃も大きかったのではないかと思います。変革期のマネジメントはどのようなことを意識されたのでしょうか。

長谷川:既存事業サイドの変化を促すのではなく、独立した新規事業組織を作り、そちらから新しい挑戦を進めていきました。例えば、2014年にマイクロアドさんとのジョイントベンチャーとしてニューステクノロジー社を立ち上げました。新しいPR手法を作るというミッションを、中国事業の立ち上げの際に自分に伴走した三浦純揮という新卒5年目の若手に一任しました。

変革のメッセージをグループ全体に出してはいたものの、既存事業に負荷はかけたくなかったんですよね。既存事業のメンバーに負荷をかけると事業が停滞して業績が落ちてしまう。新規事業のプロダクトは、新しい事業会社で考えて、後から既存のメンバーにジョインしてもらいグループ内への浸透を図るという進め方をしました。

必ず意識しているポイントは、その事業責任者がクライアント導入のファーストケーススタディを作るということです。新しい事業のプロダクトができた際に、分かりやすい導入事例を一つ作りたいじゃないですか。そんな時に関係性の良いクライアント様の所に行って、「グループで新しいプロダクトができました。これ採用してもらえませんか。今後、こういう手法が主流になってくると思います。新しいPRコミュニケーションの形です」と提案するんです。理解してもらえたクライアント様が一緒に取り組んでいただけるようになって、その成功事例をグループ内の勉強会を通して導入していくという順番です。

クライアント様にニーズがあるという事例を誰かが見せないといけないんですが、既存事業の部隊だと新しい商品に自信を持って説明することが難しかったりする。だからこそ、事業責任者が最初の事例を成功させて社内で横展開するという、ある種ファーストペンギン的に振舞うことを意識しています。

私に限らず、ベクトルグループの子会社を任されている社長、役員はみんなプレイングマネージャーですね。踏ん反り返っている役職者はいなくて、「自分も動くし、みんなも動こう」、「自分もやるから、みんなもやって、ハッピーになろう」というような雰囲気です。グループ代表西江の経営スタイル「ご機嫌にやろう」という言葉に現れている。そんなカルチャーですね。


プライバシーテックからライバーマネジメントまで、新しい挑戦

――これまで過去の変革について伺ってきたのですが、今後新しく投資されるのはどのような領域なのでしょうか。

長谷川:いくつかあって、一つはプライバシーテックと呼ばれる領域です。先日個人情報保護法の改正案が閣議決定されましたが、時代の流れからすると今後さらに個人情報の管理は厳格化されていくと思います。デジタルの世界ではCookieの規制の問題が上がっていますが、一般的な法人からすると個人情報についてちゃんと管理しなければいけないと言われても、何をすればいいかわからないんですよね。弁護士さんに相談しようとなってもデジタルの観点はわからないので、法律的にはこうですという回答しかできない。「web上でどういう風に表現すれば良いのか」ということに対応できるプレイヤーがいないんです。

そういった背景から2020年3月にPriv Tech株式会社を立ち上げました。一つ目の具体的な事業として、CMP(コンセントマネジメントプラットフォーム)という、webサイトに訪れた消費者が、自身のデータがどのような目的で、誰に提供されているかを把握できる仕組みを提供できるようにしています。

同じ業界の中で日本製のツールは我々含めまだ黎明期。海外ベンダーが提供するソリューションもありますが、日本の個人情報保護法よりも厳しいヨーロッパのGDPRに対応するような仕様のため、日本の法には合わないのが現状です。自分たちでドメスティックなCMPを作り、その普及をしていきたいと考えています。

ちなみに、渋沢栄一さんも外から良い経営者を見つけてきて全権を渡すというマネジメントで、複数の事業を同時に拡大しました。私たちも同じで、今回のプライバシーテックについても、同領域に長けた中道大輔という人間を大手通信会社から招聘し、代表としています。また、ビデオリリース事業を展開しているNewsTV社の杉浦という代表も大手インターネット事業会社の子会社から当社へ出戻り入社するという経歴をもっています。

――新型コロナウイルス感染症の影響についてはいかがでしょうか。

やはりどのクライアント様も、広告費用・コミュニケーション費用をかけていいのか悩み、見合わせるタイミングではあると思います。アフターコロナと言われていますが、まだまだwithコロナの状態なので、しばらくは不透明な状況が続くと思います。あらゆる価値観がパラダイムシフトしていくタイミングにおいて、この逆境下でも成長、進化していくプロダクトをグループとしては準備しています。

PR事業は、PRコンテンツの管理とメディアへの配信、広告配信、そして露出された後の分析までできる、PR活動に特化したCMSを提供し始めています。また、イベントを手掛けているイベック社は、リアルイベントが開催できないので、オンラインでのイベント開催+ライブ配信のプラットフォーム事業を展開し始めています。

一方で、この状況下で伸びている事業もあります。例えば、Direct Tech社の中にあるライバープロダクション事業になります。

元々は、中国でのライブコマースの成長を見ていて、日本もそういう時代が来るだろうと考えていました。その時に一番重要なのは、人気ライバーをマネジメントしておくこと。そういう戦略の下、昨年の5月からプロダクション事業をスタートさせました。
スタート当初は月商が15万ほどだったのが、足下の数字は月商1000万規模になってきています。在宅期間が長くなっているコロナ環境下において、伸ばせる事業なんだなという手応えと新しい事業のヒントを得ています。


運命の出会いを、ヒトとモノとコトの間に

――最後に、今後のビジョンについて教えてください。

長谷川:日本企業がコミュニケーションを考える際に、最適な手法と適切なプライスで簡単に使えるような、コミュニケーションをテクノロジーで支えるインフラを提供していきたいです。

新規事業が色々と多岐に渡っているのでバラバラに見えますが、様々な事業の入り口からクライアントサービスを最大化していくこと。また、そこで集まったデータをクライアントサービスに昇華させていくイメージです。

組織について言えば、PR会社からの脱却だ、新しい事業領域だと言い始めた頃からグループに入ってくるタレントがこれまで以上に多彩になりました。そうやって組織の中でのダイバーシティが浸透していく中で、今後はビジョナリーとリアリストのハイブリッド型の組織を作っていきたいと考えています。

SDGsやサステナビリティなど社会や消費者の価値観が変わる中で、我々もビジョナリーな面をしっかり打ち出していく必要があると思っている一方で、リアリスト的な面を全て無くしてしまっては、これまでの強みやDNAを否定することになる。だからこそ、今の時代にあったハイブリッドな形を目指していきます。

私たちがグループとして目指すのは、「運命の出会いを、ヒトとモノとコトの間に」という世界観です。潜在的なニーズとしては存在しているけれどしっかりと認識されるには至っていないようなニーズや欲求にもミートするような情報に、適切なタイミングで出会えるような世界。生活者が、ターゲティングで精査された情報だけに取り囲まれるのではなく、生活者にとって全く新しい出会いを生み出すような、そんなコミュニケーションを提供していきたいと考えています。