DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用し、ビジネスや生活をより良いものに変化させる取り組みを指します。
近年、特に産業界においてDX推進が強化されていますが、その動きは産業界だけにとどまらず、総務省が作成した推進計画書の下で全国の自治体においても活発化しています。
自治体DXの取り組みは業務の効率化だけではなく、地域経済の活性化に向けたマーケティング活動にも波及しており、その1つとして注目を集めているのが「ふるさと納税」のPRにおけるデジタルマーケティングの活用です。
本記事では、自治体DXの基礎知識から、デジタルマーケティングを活用した「ふるさと納税」PRの重要性が高まった背景・取り組み事例について、解説します。
※本記事はブランディングテクノロジー株式会社による寄稿記事です。LISKUL編集部監修のもと公開しています。
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは
DXとは「デジタルトランスフォーメーション/Digital Transformation」の略称で、「デジタル技術による変容」を意味します。冒頭で述べた通り、デジタル技術を活用して、ビジネスや生活をより良くする取り組みを指します。
日本においてDXは、経済産業省の『「DX推進指標」とそのガイダンス』で以下のように定義されています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
引用:経済産業省『「DX推進指標」とそのガイダンス』
つまり、DXとは単なるデジタル化ではなく、「デジタル技術を使った、仕組みや業務プロセス・ビジネスモデルの改革」と捉えることができます。
「DX」の考え方は、2004年にスウェーデンのウメオ大学教授 エリック・ストルターマンが提唱したとされています。略称が「DT」ではなく「DX」なのは、英語圏において「Trans(交差)」は「X」の1文字で表され、それに倣った表記となっているためです。
ビジネスや行政、教育など様々な分野においてDXの必要性が高まっていますが、そこには2つの背景があります。
DXの必要性が高まった背景①:2025年の崖
DXの必要性が高まった背景の1つ目として、2018年に経済産業省が『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』(以下、DXレポート)の中で発表した、「2025年の崖」と呼ばれる現象があります。
「2025年の崖」とは
「2025年の崖」とは、既存システムの複雑化・老朽化・ブラックボックス化や、IT人材の不足により、2025年を節目に多くの日本企業が競争力を失うとされる推測です。
DXレポートでは、既存システムの問題を解決しつつデータの活用ができなかった場合、2025年~2030年の間に日本経済に年間で最大12兆円(現在の約3倍)の損失が生じる可能性があると警鐘を鳴らしています。
参考:経済産業省『DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~』
このDXレポートにより、DX推進は日本経済の成長の維持・強化に直結する重要課題であると、より強調して明言されたのです。
DXの必要性が高まった背景②:新型コロナウイルス感染症の流行
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、DX推進の必要性・重要性をさらに高めるきっかけとなりました。
感染拡大防止のため非接触によるサービス提供や在宅ワークへの移行が求められ、それに伴いオフィスで行っていた業務のデジタル化が急がれました。2020年の電通デジタル社による調査では、2018年度比で+11%の企業がDXに着手したと回答しています。
同調査結果では、半数の企業が「新型コロナウイルス感染症の拡大によりDXが加速した」と回答しています。
このように企業に大きな変革を求めるDX推進の動きは、行政にも広がっています。
次章からは、自治体DX推進の経緯と、ふるさと納税PRにおけるデジタル化の重要性についてご紹介します。
自治体DXとは
自治体DXとは、住民の利便性向上のために、デジタル技術やデータを活用し、業務効率化や行政サービスの改善を図る取り組みのことです。
自治体DXは政府が推進する取り組みで、総務省が『自治体DX推進計画』を2020年12月に発表し、意義付けを行っています。
「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」(2020 年 12月 25 日閣議決定)において、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。このビジョンの実現のためには、住民に身近な行政を担う自治体、とりわけ市区町村の役割は極めて重要であり、自治体の DX を推進する意義は大きい。
同計画書では、自治体に対して求めるDXの姿勢として、以下のようにも述べています。
・自らが担う行政サービスについて、デジタル技術やデータを活用して、住民の利便性を向上させるとともに、
・デジタル技術や AI 等の活用により業務効率化を図り、人的資源を行政サービスの更なる向上に繋げていく
ことが求められる。
また自治体DX白書においては、自治体DXは以下のように定義されています。
DXを「自治体・住民等が、デジタル技術も活用して、住民本位の行政・地域・社会等を再デザインするプロセス」と定義します。
このように、自治体DXにおいては、DXの目的を住民の利便性や行政サービスの向上に置くことと、市区町村(自治体)がその仕組みの改革を担うことが重要と定義づけられています。
自治体DX推進の必要性
自治体DX推進の必要性が増したきっかけは、コロナ禍において旧来のアナログ体制が問題視されたことが挙げられます。
総務省は、『自治体DX推進計画』において以下のように問題提起しています。
新型コロナウイルス対応において、地域・組織間で横断的にデータが十分に活用できないことなど様々な課題が明らかとなったことから、こうしたデジタル化の遅れに対して迅速に対処するとともに、「新たな日常」の原動力として、制度や組織の在り方等をデジタル化に合わせて変革していく、言わば社会全体のデジタル・トランスフォーメーション(DX)が求められている。
業務フローやサービス提供手段に制限がかかる今、住民・地域へのサービス品質やスピード、利便性を改善するためにも、自治体DXは欠かせなくなっているのです。
総務省が提唱する自治体DXの重点事項
総務省は同じく『自治体DX推進計画』の中で、以下の施策を自治体DXにおける重点取組事項として挙げています。
- 自治体の情報システムの標準化、共通化
- マイナンバーカードの普及促進
- 自治体の行政手続のオンライン化
- 自治体のAI・RPAの利用推進
- テレワークの推進
- セキュリティ対策の徹底
これらはシステムや業務の効率化にフォーカスされています。これらの他にも、地域経済を活性化させ、税収を行政サービスの品質や住民の利便性向上のために還元させていくことも自治体の重要な役目です。
コロナ禍による影響は、自治体の税収確保に向けたPR・マーケティングの在り方にも変化をもたらしました。その一つが「デジタルマーケティングの存在感の増大」です。
特に、「ふるさと納税PR」と「デジタルマーケティング活用」は相性が良く、取り組むメリットが大きい点が注目されています。
ふるさと納税のPRにおけるデジタルマーケティングの重要性
ふるさと納税をPRするにあたって、デジタルマーケティングを活用することは非常に重要です。
デジタルマーケティングとは、インターネットやIT技術を用いるマーケティング手法の総称です。効果測定と分析が可能で、それを基に改善サイクルを回すことができる効率性の高さが特長です。
ふるさと納税のPRにおいてデジタルマーケティングが重要視される背景
ふるさと納税をPRする手段として、デジタルマーケティングが脚光を浴びるようになった背景には、自治体が抱える2つの課題があります。
背景①:コロナ禍による観光収益の減少
新型コロナウイルス感染症の流行は、地方自治体の観光業に大きなマイナスの影響を及ぼしました。
感染拡大防止のための行動制限や自粛などにより、2020年以降の旅行における消費額は2019年以前に比べ低迷が続いています。
2020年の訪日外国人旅行消費額(試算値)は7,446億円(前年比84.5%減)
2020年の日本人国内旅行消費額は10.0兆円(前年比54.5%減)
観光需要回復の兆しが不透明な今、オンラインで遠隔地からも自治体の収益を得る方法に注目が集まっています。
背景②:地方の人口減少による、税収益の減少
少子高齢化や地方から都市部への転出による人口減少も、自治体が抱える大きな課題です。個人住民税や固定資産税など、住民からの税収益が減少するためです。
日本総研の調査では、2005年から2020年の間に税収が減少したという市町村の割合が、大幅に増加していることがわかっており、2043年以降にはその割合が更に増えると予想されています。
参考:株式会社日本総研『問題提起①地方の財政・行政サービスの将来展望』
税収減が進み続けると、行政サービスの水準低下を招く恐れがあります。そして、それが更に地方から外部への人口流出へと繋がる負の連鎖を引き起こす可能性もあります。
他の地域からの移住者を増やすために各自治体で工夫をこらした取り組みが行われていますが、金銭面や生活面などの変化が大きい分ハードルが高く、自治体の思うように進まないのも現状です。
自治体の収益源となる『ふるさと納税』の存在感がUP
このような状況下で、自治体や地域の活性化に向けた収益源として、ふるさと納税への関心が高まっています。
ふるさと納税は、移住や観光のように地域へ直接人を誘致すること無く、税収を得ることができます。コロナ禍による観光需要の減少や、人口減少に直面している状況下でも収益の増加が図れることから大きく期待が寄せられています。
また、ふるさと納税に対する関心を高めているのは自治体だけではありません。消費者は、税金の控除を受けながら、自宅で地方の特産品を楽しむことができます。 コロナ禍における「巣ごもり消費」が後押しとなり、2020年以降ふるさと納税の受入額・受入件数は増加しています。
ふるさと納税の受入額及び受入件数の推移(全国計)
令和2年度の実績は、約6,725億円(対前年度比:約1.4倍)、約3,489万件(同:約1.5倍)。
その一方で、寄附額の増加に向けて自治体同士の競争は激化している状態です。
ふるさと納税PRの効率性改善が、税収UPのカギ
多くの自治体がふるさと納税に力を入れる中で寄附額を伸ばすには、地域の魅力をいかに効率よく、多くの人々に知ってもらうかが重要となります。
効率が重要なもう一つの理由として、総務省が定めた「ふるさと納税に係る経費を寄附額の50%以下に抑える」という規制の存在があります。よりコストを抑え効率的にマーケティング活動を行うことが、明確に求められているのです。
参考:総務省 自治税務局『ふるさと納税指定制度における令和元年6月1日以降の指定等について』
ふるさと納税のPR手法は、紙面・テレビ・ポータルサイトへの掲載が現在も主流です。しかしここまでご説明した以下の背景から、PR・マーケティングの領域でも「デジタルシフト」の必要性が高まっているのです。
- 自治体DX推進の動き
- コロナ禍による観光収益減少
- 人口減少による税収益減少
- ふるさと納税に係る経費削減の必要性
特に、数あるデジタルマーケティング手法の中でも効率よく認知・集客が見込める「インターネット広告」の活用は必要不可欠です。
インターネット広告とは
インターネット広告とは、インターネット上のWEBサイトや、スマートフォンのアプリ・SNSなどに掲載される広告のことを指します。WEB広告やデジタル広告、ネット広告とも呼ばれます。
検索語句や興味関心・行動履歴などに基づくターゲティングが可能で、結果が可視化されることで効果測定や改善行動が行いやすい点が特長です。
事例:SNS広告活用でふるさと納税寄附額が1.8億円増
九州地方のある自治体において、ふるさと納税PRを目的としたデジタルマーケティングに取り組み、寄付額を前年度比で約1.8億円増やすことに成功した事例をご紹介します。
当初の課題 | ふるさと納税PRのデジタルシフトの必要性を感じていたが、専門的な知見や人手が足りず取り組めていなかった。 |
取り組み内容 | SNS動画広告を実施。 |
取り組み成果 | ふるさと納税寄付額 前年度比約1.8億円の増加に成功。(令和3年度実績) |
成功要因としては、以下の二点が考えられます。
- SNSと相性の良い動画クリエイティブで配信を行ったこと
- 関心が高いと思われる層へターゲティングを絞り、配信を行ったこと
この成功を受けて同自治体では、令和4年度はさらにデジタルマーケティング予算を増やし、デジタルを活用したふるさと納税PRに一層注力しています。
まとめ:【自治体DX】マーケティングの舞台は『デジタル』へ
本記事では、自治体DXと、ふるさと納税PRにおけるデジタルマーケティングの重要性を解説してきました。
- 自治体DXとは、住民の利便性向上のために、デジタルを活用して業務効率化や行政サービス改善を図る取り組み。
- コロナ禍を大きなきっかけとして、自治体DX推進の動きが加速。
- 自治体DX気運の高まりは、プロモーションの領域にも波及。
- コロナ禍の中で、より効率良くたくさんの人々に地域を知ってもらう取り組みとして、ふるさと納税PRをはじめとしたデジタルマーケティングの存在感が大きくなっている。
コロナ禍をきっかけに大きく変化した生活者の行動に合わせ、自治体もあらゆる面でデジタルシフトが求められています。
しかし、実際に取り組むには専門的な知見やリソースが必要となります。
普段の業務と並行して実行しようとすると難航してしまう可能性も高いため、まずはデジタルマーケティングの専門会社に相談してみましょう。
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