資金調達ラウンドとは?ラウンド別調達先と支援を受ける前の確認ポイント

事業の立ち上げ時やこれから起業をしようと考えている方は資金調達の面で悩むことが多いかと思います。

スタートアップ企業の資金調達は会社の成長度合いを表す「資金調達ラウンド」によって調達する金額や調達先、調達時の注意点が異なります。

これを理解しておかなければ、「創業時に株式を渡しすぎて会社の経営権を握られてしまった」「資金調達先を見誤り、緊急で資金が必要なのに調達できなかった」など、会社の存亡に関わる事態に陥る可能性があります。

本記事では、事業立ち上げからビジネスが軌道に乗るまでのラウンドに分けて資金調達先や金額、注意点について解説します。


目次

資金調達ラウンドとは企業の成長段階を分類したもの

資金調達ラウンドをひとことで説明

資金調達ラウンドとは、スタートアップや成長途上の企業が投資家から資金を調達するプロセスのことです。スタートアップ目線の言葉であり、投資家目線では「投資ラウンド」と呼ばれます。

もともとは投資家がスタートアップの事業段階を判断するための指標として生まれた言葉ですが、企業側も自社事業の状況を客観的に判断できるようになるため、成長戦略が作成しやすくなります。

ラウンドは「シード」「シリーズA」「シリーズB」などといった名称で区分され、それぞれのラウンドが企業の成長段階や調達資金の使途、規模に応じて命名されます。


資金調達ラウンドの分類

資金調達ラウンドは大きく以下の6つに分類されます。

  • エンジェルラウンド:創業前後のプロダクト・サービスが形になっていないアイデアの段階
  • シード:ビジネスの大枠が決まった段階
  • シリーズA:ビジネスを開始した直後の段階
  • シリーズB:ビジネスが軌道に乗り始めた段階
  • シリーズC:黒字経営が安定化を始めた段階
  • シリーズD以降:安定的な収益を出せるようになった段階

エンジェルラウンド

エンジェルラウンドとは、起業のアイデアを検討している段階のことを指します。いわばサービスや商品のアイデアだけある状態のことです。

アイデアはおろかメンバーや顧客を抱えていないために信用度・返済力と共に低いフェーズです。

エンジェルラウンドではプロダクトが形になっておらず、ビジネスが始動していない状態であるため、資金調達が難しいラウンドです。

エンジェルラウンドの資金調達金額の目安は数百万円〜数千万円になります。ここで得た資金調達は会社の立ち上げやアイデアを形にするために必要な人材の確保に使われます。

シードラウンド

シードラウンドとは、商品やサービスをリリースする前の段階を指します。

多くの資金を必要とするわけではありませんが、ビジネスを形にしていく段階であるため、人件費や会社設立費、市場調査など細かい費用がかかります。

シリーズA

シリーズAは事業を開始し、顧客が増え始める段階のことを指します。

そのほかにも、投資家に対して発行する優先株式を指す場合があります。

スタートアップ目線では「事業を開始した段階」ですが、投資家目線で言えば「シリーズAで発行される優先株式(A種優先株)」ということになります。

シリーズAは商品やサービスを多くのユーザーに認知・利用してもらうためのマーケティングや市場調査が必要になるため、多額の費用がかかります。

シリーズAの資金調達の目安は数千万円〜数十億円です。

事業が完全に軌道に乗っていないため、売上を伸ばすための戦略立案や運営が必要になるだけでなく、黒字化までの資金不足に悩まされる時期です。

また、リリースした商品やサービスの売上を拡大するための運転資金がかかるため、多額の費用を調達する必要があります。

シリーズB

シリーズBは、事業が軌道に乗ってきた状態を指します。

この段階から創業者や投資家たちがイグジットを検討し始めるため、事業の黒字化が求められます。

これまで低迷していた収益が増える時期になり、会社をより大きくするために株式上場を視野に入れる企業も多いです。

株式上場することで一般の投資家を対象に株主を募集できる「公募増資」が可能になるため、資金調達がより楽になります。

シリーズBはシリーズAと同様に「シリーズBで発行される優先株式(B種優先株)」という意味合いもあります。

シリーズBの資金調達の目安は数億円~数十億円です。

シリーズB以降は黒字化を目指して経営を安定させる必要があるため、設備投資や優秀な人材の確保、新規開拓のためのマーケティングに膨大な費用がかかります。

そのため、一般的には数億円から数十億円の資金調達を行っているケースが多いです。

シリーズC

シリーズCは黒字経営が安定し始めた時期を指すのが一般的です。シリーズAとシリーズBのラウンドを終え、事業拡大や新市場への進出、製品開発やマーケティングの強化などに資金を投入することが一般的です。

IPOへの準備やM&A などの成長戦略を検討し、投資家によるイグジット戦略も進められます。

シリーズCの資金調達の目安は数十億円以上になります。

シリーズCになると資金調達を必要としないほど収益が出る企業もありますが、さらなる収益を求めて事業を拡大したり、海外進出を視野に入れた事業展開を行ったりする段階でもあります。

海外進出のための拠点作りや事業業務の効率化、人材採用などを加速させる可能性があるため、数十億円以上の資金調達を行うケースも多く見られます。

シリーズD以降

シリーズD以降は黒字化がもちろんのこと、安定した収益を出せるようになったスタートアップのことを指します。

事業を運営する組織が確立され、株式上場やM&Aをほかのラウンドよりも具体的に検討する段階です。

メインの事業を収益化できているため、さらなる増収を目指して、関連事業の立ち上げや海外進出を具体的に検討する段階でもあります。

シリーズD以降の資金調達目安は数十億円です。

シリーズDではすでに安定した収益を獲得しているため、資金調達を行う必要性が低いでしょう。

ただし、関連事業の立ち上げや海外進出のための人材や拠点の確保、新規開拓には多額の費用がかかるため、数十億円規模で資金調達を行うケースもあります。


資金調達ラウンド別の資金調達先一覧

資金調達ラウンドごとに、適した資金調達先は異なります。
資金調達ラウンド別の資金調達先一覧
※クリックで拡大できます

参考:投資ラウンドとは?スタートアップが知っておくべき資金調達と注意点│東大IPC

スタートアップの具体的な資金調達方法や円滑に資金を調達するコツ、資金調達時の注意点については以下の記事を参考にしてください。

参考:スタートアップの資金調達方法を成長フェーズごとに紹介!

エンジェルラウンドの資金調達先

エンジェルラウンドの資金調達先は以下のとおりです。

  • エンジェル投資家
  • ベンチャーキャピタル
  • インキュベーター
  • クラウドファンディング

エンジェルラウンドは前述したとおりプロダクトが形になっていないため、信用力・返済力ともに低いラウンドです。

そのため、事業のアイディアやプロダクトを重視して投資を行っているエンジェル投資家やベンチャーキャピタルのほか、スタートアップに事務所や人材を貸してくれるインキュベーターなど、創業時のスタートアップを支援している投資家からのみ出資をしてもらい、資金を調達するのが一般的です。

ただし、投資家から出資してもらう場合は出資比率に注意してください。

出資比率が、経営者よりも投資家の方が高くなると、「自由な経営ができない」「利益配分をめぐって対立が起きる」などの問題が発生する可能性があります。

持ち株比率を3分の1以上にしてしまうと特別決議(定款変更や取締役の解任、企業の合併・解散などの意思決定を行う際に必要な決議)を単独で阻止できるほどの権力を持ってしまいます。

また、資金調達の初期段階では出資をしてもらう投資家が反社会勢力でないかも確認しておきましょう。

出資者の中に反社会勢力に関わる人物がいた場合、株式上場はおろか、資金調達やエグジットもできなくなります。

シードラウンドの資金調達先

シードラウンドの資金調達先は以下のとおりです。

  • エンジェル投資家
  • ベンチャーキャピタル
  • クラウドファンディング
  • 公的機関
  • 銀行

シードラウンドでは法人設立前であるために、銀行や公的機関から融資を受けることは容易ではありません。

そのため、基本的には事業の将来性や理念への共感を重視しているエンジェル投資家やベンチャーキャピタルを利用するのが一般的です。

経営者自身がほかに事業を運営しており、実績がある場合は銀行や公的機関から返済力があると判断され、融資を受けられる場合があります。

シードラウンドもエンジェルラウンド同様に出資による資金調達を行うことが基本であるため、初期に株を放出しすぎないように注意してください。

シリーズAの資金調達方法

シリーズAの資金調達先は以下のとおりです。

  • 銀行
  • 公的機関
  • 補助金/助成金
  • ベンチャーキャピタル
  • エンジェル投資家

シリーズAはすでに事業を始めているため、収益性を見込めるのであれば銀行や公的機関から融資を受けることができます。

創業後は国や地方公共団体の補助金、助成金制度も利用できます。複数から資金を調達することが運転資金を枯渇させないための大切なポイントです。

ただし、シリーズAは前述したとおり事業が軌道に乗りきっていないので、ベンチャーキャピタルや投資家からの出資を受けることも少なくありません。

出資を受ける場合は、過去に出資を受けた投資家だけを頼るのではなく、出資先を分散させることが大切です。

シリーズBの資金調達先

シリーズBの資金調達先は以下のとおりです。

  • 銀行
  • 公的機関
  • ベンチャーキャピタル
  • 補助金/助成金

シリーズBでは数億円以上の資金調達を行うため、ベンチャーキャピタルや融資、補助金や助成金を活用して資金調達を行います。

シリーズBではマーケット(市場)に適した商品を提供できているかを図る指標である「PMF(プロダクトマーケットフィット)」が重視されます。

市場評価が高ければ人材増加や広告運用などのマーケティングを強化することで事業を拡大できる予想が立てられるため、融資や投資家からの資金調達を行いやすくなります。

シリーズBでは一気に黒字化を進める時期ですが、銀行や公的機関から融資を受ける場合は事業計画書を改めて作成したり、審査に時間がかかり受給までにかなりの時間を有します。

現金が枯渇した状態で資金調達を行うと赤字倒産・黒字倒産を引き起こす可能性もあるので、資金調達のスピードには注意してください。

シリーズCの資金調達先

シリーズCの資金調達先は以下のとおりです。

  • 銀行
  • 公的機関
  • ベンチャーキャピタル
  • 補助金/助成金
  • ファクタリング

シリーズCではすでに黒字化が始まっている企業を指していることから、信用力・返済力ともに高い状態であることが予想されます。

また、シリーズCになると安定した事業収入を得られるため、事業計画の精度が向上し、銀行や公的機関からの融資の審査がとおりやすくなります。

事業収入があれば請求書や売掛金を売却して資金を得るファクタリングを利用できるようになるため、株式発行が必要な投資による資金調達にかかる比重を軽減できます。

多額の資金調達を行うのであればベンチャーキャピタルを利用するのが一般的ですが、数十億円規模にもなると銀行や融資、ファクタリングなど複数の調達先から資金を確保する必要があります。

シリーズDの資金調達先

シリーズDの資金調達先は以下のとおりです。

  • 銀行
  • 公的機関
  • ベンチャーキャピタル
  • 補助金/助成金
  • ファクタリング

シリーズD以降はシリーズC同様に銀行や公的機関からの融資を受けやすくなります。

ただし、事業計画や企業状況によっては審査に落ちてしまう可能性もあるため、複数の調達先を検討するのが一般的です。

また、関連事業の立ち上げや海外進出を検討する場合はベンチャーキャピタルの持つノウハウや人材を活用するためにも、ベンチャーキャピタルに出資してもらうこともあります。


資金調達に関するよくあるご質問

資金調達に関するQ&Aをまとめています。

Q.資金調達の進行中に注意すべき法的な要件は?

A.資金調達においては、投資契約や株式発行に関連する法的要件を遵守することが不可欠です。特に、株主間の契約内容や投資家の権利を明確にし、後々のトラブルを防ぐための法的なアドバイスを受けることが推奨されます。

Q.シリーズAラウンドでの資料作成のコツは?

A.シリーズAラウンドの投資家向け資料では、プロダクトの市場適合性や初期のトラクションを強調することが重要です。また、チームの強みや将来の成長戦略を具体的に示し、投資家にとっての魅力をアピールします。

Q.資金調達のタイミングを決める際の考慮事項は?

A.市場環境や自社の成長段階、資金ニーズを考慮して、適切なタイミングで資金調達を行うことが重要です。資金が必要なときに急いで調達するのではなく、余裕を持ったスケジュールで計画を立てることが望ましいです。

Q.資金調達の終了後にフォローアップするべきことは?

A.資金調達が成功した後は、投資家への報告や、資金の使用計画の実行に集中する必要があります。また、投資家とのコミュニケーションを継続し、信頼関係を維持することで、次回の資金調達やビジネス拡大の際にもサポートを得やすくなります。

Q.資金調達での株主間契約における注意点は?

A.株主間契約では、将来の経営権や株式売却に関する条件を明確にしておくことが重要です。特に、株式の譲渡制限や優先株主の権利については、慎重に取り決める必要があります。


まとめ

本記事では、資金調達ラウンドについて解説しました。

スタートアップから事業拡大するにつれて、ラウンドごとに資金調達の金額や調達先が異なります。

ラウンドごとに出資や融資の受けやすさが異なるため、本記事を参考に自社のラウンドに合った資金調達を行いましょう。