エンゲージメントサーベイとは従業員が自社組織に抱く信頼・貢献意欲などを定量的に測定するための調査を指します。
この記事を読んでいる方の中には「具体的にどんな目的・効果があるのかわからない」「自社でも実施すべきか判断つかない」という課題に直面している方もいるかもしれません。
エンゲージメントサーベイによって、企業の売上・成長だけではない、隠れた「経営課題」の予兆に気付くことができます。
また、エンゲージメントサーベイによるスコアが高い企業ほど従業員の定着率・生産性が高まるというデータもあります。
「経営層と従業員層でギャップを感じている」「従業員の離職率が上がってきている」などの課題にお悩みの企業は実施すべき施策です。
今回はエンゲージメントサーベイとはどういう施策なのか、目的や類似用語との違い、実際に得られる効果などについてまとめています。
そのうえで、実際にエンゲージメントサーベイを実施するための手順や、まず含めるべき質問例などについてもご紹介していきます。
この記事を読めば、自社に必要な施策か判断でき、さらに実施に向けての最初のアクションが明確になります。
目次
エンゲージメントサーベイとは
エンゲージメントサーベイとは、従業員が自社に対して抱く信頼・貢献意欲(エンゲージメント)を定量的に測定するための調査のことです。
従業員に対して企業への帰属意識を確認できるようなアンケートを送り、それらを集計・スコアリングしたうえで、分析を行っていきます。
アンケート結果をもとに組織全体の課題を抽出して、具体的な解決施策を決定します。
参考:エンゲージメントサーベイとは?注意点5つに実施の効果や活用目的を解説
なぜエンゲージメントが重要なのか気になる方は以下の資料で慶応大学の山本教授へ「エンゲージメント」の重要性をインタビューした資料をご用意しましたのであわせてご覧ください。
エンゲージメントサーベイを実施する主な目的
組織課題の明確化
従業員の信頼度・帰属意識などを数値化することは、「潜在的な経営課題」を明確にすることができます。
例え売上が上がっていたとしても、従業員の離職などが相次ぐようでは、長期的な意味での成功とは言えません。短期数字は向上していたとしても、近い将来起こりうる人材の流出やそれに伴う人材の空洞化などにも事前に察知する必要があります。
従業員エンゲージメントの可視化は、上記のような「顕在化していない課題」を把握するのに適しています。
人事施策の決定・実行
課題を明確化したうえで、人事施策の優先順位の決定・実行が行えます。
スコアリングしたデータをもとに、緊急度が高い課題が確認できるようになるので、正確に施策の優先順位を決定できます。
従業員と経営・管理層とのギャップの把握
エンゲージメントサーベイは従業員と経営層の意識のギャップを把握するために利用されます。
経営・管理層の立場からだと、従業員がどのような意識で仕事に取り組んでいるか、自社理念に対しどの程度共感して業務に励んでいるのかなどを把握するのは容易ではありません。
従業員が組織に求めることと、組織の方向性にどの程度差異があるのかを数値化します。
エンゲージメントサーベイと従業員満足度調査の違い
エンゲージメントサーベイと従業員満足度調査は、どちらも従業員を対象に実施する調査ですが、その目的・性質は異なります。
一言で言うと、エンゲージメントサーベイは「働く意欲」「企業への貢献意欲」を定量化する調査であることに対し、従業員満足度は「働きやすさ」を確認するための調査です。
エンゲージメントサーベイは企業理念・ビジョン等への共感や帰属意識、愛着、責任感など、企業と従業員の間にある「信頼関係」を数値化します。
従業員エンゲージメントの実態を把握して、企業としてのパフォーマンスを向上させることが主な目的です。
一方、従業員満足度調査では自社の労働環境・福利厚生・給与体系・待遇など、「企業が従業員に与えているもの」を前提に、今の職場の働きやすさなどを測定します。
従業員満足度は「組織が従業員に提供しているものに対し、満足しているか」を確認することが目的です。
離職率を下げることにつながる調査ですが、従業員満足度調査を行って改善施策を打ったとしても、企業への愛着・貢献意欲を高めることに必ずしも直結しません。
参考:エンゲージメント・サーベイとは?従業員満足度調査との違いと活用のポイント
エンゲージメントサーベイが生み出す企業活動への3つの効果
組織の生産性を向上できる
エンゲージメントサーベイを実施することは、組織全体の生産性を向上させます。
調査によって得たデータから、人事課題解決に向けて施策を打ち出すことで、働きがいのある組織を作ることが可能です。
厚労省の調査によると、「企業の労働生産性」「個人の労働生産性に関する認識」はエンゲージメントスコアに比例して高くなっていくことがわかっています。
また、エンゲージメントスコアに比例して顧客満足度に好影響を与えるというデータもあります。
これらデータからわかるように、エンゲージメントサーベイの実施は、組織全体の業務に対するパフォーマンスを高める効果があります。
参考:令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―│厚生労働省
従業員のモチベーション管理がしやすくなる
スコアの変化に合わせて、従業員単位での対策がとれるようになり、従業員全体のモチベーション管理が容易になります。
例えば人事異動などの個人単位の施策でスコアが低下している場合は、個人面談をすぐに実施できます。
従業員の組織に対する感情の機微を可視化できるようになるので、モチベーションを維持・向上する対策が実施しやすいです。
離職率の低下に期待できる
従業員のコンディションの変化に対する対応速度が上がるため、離職率の低下・定着率の向上に期待できます。
厚労省の発表によると、エンゲージメントスコアが高い企業ほど離職率を低下させやすいことがわかっています。
参考:令和元年版 労働経済の分析 ―人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について―│厚生労働省
エンゲージメントサーベイの実施手順6ステップ
エンゲージメントサーベイはまず「社内への目的共有」を完了させることからスタートします。
意識を共有したうえで設問を用意し、実施していきます。調査結果を分析・スコアリングして、課題を抽出します。その課題に対し、優先順位をつけて施策を実施しましょう。
エンゲージメントサーベイは1回で終わるものではなく、定期的に行ってスコアの変動を確認し、施策の効果を確認することが大切です。
参考:エンゲージメントサーベイとは? 質問項目や効果、活用法などを具体的に解説
1.調査の目的・調査結果の利用方法を従業員に説明する
まず従業員に対し、調査実施の背景・目的を説明します。
「どういう目的で利用するのか」「回答が上司にみられてしまうのか」などの説明を怠ると、従業員の正直な意見を吸い上げることができない可能性があります。
「正直に応えることで、自分に利益が生じる」「上司などからの評価に影響しない」などを理解してもらうことが大切です。
2.調査項目・質問内容を決定する
実際のアンケートの調査項目・質問内容をまとめていきます。
質問内容をまとめる際、自社である程度自由に決めることも可能ですが、1から質問を作るのは時間がかかりますし、効果の有無についても判断しづらいです。
後述する「Q12」は、エンゲージメントサーベイに最適な質問例として利用されています。最初のエンゲージメントサーベイでは、このQ12を利用すると良いでしょう。
3.実際に調査・診断を実施する
エンゲージメントサーベイを実施する方法は大きく「ツール」「外部委託」の2通りの方法があります。
ツールを使った場合は始めやすさ・コストなどに優れています。
一方外部委託の場合、社内リソースを使わずに実施できる点や、エンゲージメントサーベイ実施に向けたノウハウを得られる点がメリットです。
ツールを使って実施する
ツールを使ってエンゲージメントサーベイを実施する方法はミニマムスタートしやすく、コストの抑制もしやすいです。
ただし、一定数リソースを投下したり、新たに調査の仕組みを作ったりといった手間が生じます。
Googleフォーム・スプレッドシートなどであれば、無料からでも始めることができます。従業員数を考慮し、管理工数がそこまでかからないのであれば、まずはこれらのような無料ツールを使うのが良いでしょう。
労務管理ソフトや調査ツールなどを使えば、無料で始めるのは難しいですが、スキーム構築の手間をショートカットすることが可能です。
外部委託する
調査会社などの専門業者に外部委託する方法があります。
外部委託する場合は調査に関するノウハウなどを借りて進めることができるので、アンケートの設問作成や実施、分析などを効率的に進められます。
例えば「社内のリソースが割けない」「短期でエンゲージメントサーベイを実施したい」などの場合は、外部の業者に委託するのが良いでしょう。
4.結果を収集・分析する
集計後、データをスコアリングし、分析を進めていきます。
スコア自体を確認することも大切ですが、評価などそのほかのデータとクロス集計すると、より本質的な課題を可視化しやすくなります。
アンケートの実施~集計まではできる限り短期間で実施するようにしてください。
施策判断のスピードが落ちますし、個人に対するフォロー・フィードバックに遅れが生じる可能性があります。
5.施策の決定・フィードバックを実施する
データを集計・分析によって課題の可視化がされたあと、それら課題に対し「何から対処すべきか」の優先順位をつけて施策を決定していきます。
施策の内容は全社規模の改善だけではなく、個人に対するフィードバック・フォローなども重要です。
実際にスコアが大きく低下している従業員がいる場合、放置してしまうと離職につながる可能性があります。人事面談・1on1ミーティングを実施するなど、アクションをとりましょう。
6.繰り返しサーベイを実施する
エンゲージメントサーベイは一度実施すればOKというわけではなく、定期的に実施して施策による改善・効果を確認していきます。
調査→分析→施策→効果検証のサイクルを繰り返し行うことが大切です。
エンゲージメントサーベイの質問に使える「Q12」
アメリカの調査会社であるギャラップ社では、以下の12の設問がエンゲージメントサーベイに最適だとしています。
- 仕事で何を期待されているか知っている
- 仕事を行うために必要な環境が用意されている
- 仕事で成果を挙げるための機会がある
- 直近1週間で、業務の成果に対して評価・賞賛があった
- 上司・同僚が自分を気にかけてくれる
- 職場の上司・同僚から成長を促してもらえている
- 意見を尊重されている
- 会社の使命・目的が自分の仕事に誇りを与えてくれる
- 同僚が質の高い仕事を心掛けている
- 職場に親友がいる
- 直近6カ月間で、職場の誰かに自分の進歩について話してもらえた
- 直近1年間で、仕事に対する学びや成長の機会があった
それぞれの設問にはそれぞれ目的があり、以下のように分類されます
- 1~2:仕事をするうえでの動機・環境整備
- 3~6:仕事への貢献
- 7~10:「今の職場」で働く目的と、チームとの関係性
- 11~12:「今の職場」で働くことによる、自身の成長性
これら12の設問を5段階で評価していきます。
参考:What Engaged Employees Do Differently
上司が部下の想いを可視化するには?覚えておくべき12の質問「Q12」
エンゲージメントサーベイ実施上の注意点
エンゲージメントサーベイでは「適切な回答」を得られなければ意味がありません。
適切な回答を得るためには社内意識の醸成だけではなく、タイミングや実施頻度の調整が必要です。
実施のタイミングによって効果が薄くなる
エンゲージメントサーベイが適切なタイミングで実施できていないと、従業員の本当の気持ちを吸い上げることはできません。
まずチーム発足直後など、ルール・文化が定着してないタイミングでの実施は無駄になる可能性が高いです。
また、繁忙期などは「設問に回答すること自体が負担」となることがあります。そのため適当に回答されたり、そもそも回答を後回しにされたりする可能性もあるので注意が必要です。
頻度に応じて設問量を調整する必要がある
どの頻度で実施するかによって設問量を調整しないと、従業員の負担となり、正確に回答されない可能性があります。
例えば、1カ月に1回の実施であれば、設問量は10問前後などにしましょう。毎月大量の設問に回答しなければならないのは従業員にとってストレスとなります。
中長期的な課題を吸い上げていきたいという場合は、設問自体が具体的かつ多くなりやすいのですが、その場合は半年~1年に1回など、実施頻度をおさえるのが得策です。
「慣れ」が調査の正確性を損なう可能性がある
従業員にとって、エンゲージメントサーベイへの回答が単なる「定期作業」になってしまうと、正しい回答を得られない可能性があります。
慣れを防ぐためには、「参加意識」を常に従業員に持ってもらうことが大切です。
開始前に目的の再共有を行ったり、実際のデータからの振り返りや具体的な施策の共有などを行いましょう。
また、個人に対するフィードバックが必要な場合は、早急に対応するようにしてください。
「参加することが自身と組織に好影響を与える」ということを実感してもらうことが重要です。
まとめ
エンゲージメントサーベイは従業員のエンゲージメントを数値化するための調査のことです。
エンゲージメントサーベイによって数値化されたデータは見えざる経営課題の抽出や、優先的に実施すべき人事施策の把握に役立ちます。
また、従業員のエンゲージメントを高めることで、生産性向上・従業員のモチベーション維持・離職率の低下などの効果があります。
エンゲージメントサーベイを実施する際は、調査の目的と回答の利用方法などを従業員にと伝えることが第一歩です。
まず土壌を形成したうえで、設問内容を決め、アンケートを実施してきます。集計したデータを分析し、優先的に実施すべき施策を決定しましょう。エンゲージメントサーベイは1回で終わらせるのではなく、定期的に実施して、数値の変動などから施策の効果を確認することが大切です。
質問は1から考えるのは骨が折れるので、一般的に使われている「Q12」という質問例を参考にするのがおすすめです。
エンゲージメントサーベイでは、適当に回答されてしまっては意味がありませんので、「従業員に負担をかけない」ということを原則にしましょう。
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