リスキリングとは?言葉の意味と8つの事例から学ぶ推進のコツ

リスキリング

企業や個人が技術の進歩や業界の変遷に対応するためには、「リスキリング」による新しいスキルや知識の獲得が求められています。

リスキリングによって、技術スキル、ソフトスキル、ビジネススキル、業界特有のスキルを身に着けることにより、個人は自らの市場価値を高め、企業は競争の激しい環境で生き残り、発展することが可能となります。

しかしリスキリングといって、具体的には、何を、どのように学べばよいのか、どのように推進すればよいのかお悩みの方も多いのではないでしょうか。

本記事ではリスキリングとはどういう概念なのかを説明したうえで、リスキリングを推進するためのポイントを具体的な事例とともにご説明していきます。


目次

リスキリングとは

リスキリングとは、技術進化や業界の変革に対応するために新しい技能や知識を習得するプロセスを指します。

企業が従業員のスキルセット更新することで、競争環境での生存と発展を図ることができ、個人は自身の職業的価値を向上することができます。


リスキリングの種類には、縦型と横型がある

リスキリングには、同じ職種のスキルを伸ばす縦型リスキリングと、異なる職種や業界に適応するための横型リスキリングがあります。

縦型リスキリング

縦型リスキリングとは、現在の職業で活用している知識やスキルを強化したり、関連する情報をアップデートしたりすることを指します。

例えば、ITエンジニアが新たな言語を習得したり、Webデザインを学ぶなどが縦型のリスキリングにあたります。

横型リスキリング

横型リスキリングとは、他の職種や業界への移行を目指し、新しい知識やスキルを身に付けることを指します。

例えば、マーケティングの担当者がデータ分析や機械学習関連の知識やスキルを習得することで、データアナリストとしての活躍を目指す場合などがこれに該当します。


リスキリングの主な対象は4種に分類できる

リスキリングの対象となるアップデートすべき知識や技能は以下の4種に分類できます。

技術的なスキル

技術的なスキルとは、プログラミング、データ解析、AIや機械学習、ネットワーク構築・管理、アプリ開発、グラフィックデザイン、3Dモデリングなど、特定の技術やツールを利用するためのスキルのことです。

ソフトスキル

ソフトスキルとは、コミュニケーション能力、問題解決能力、時間管理、モチベーション向上、チームワーク、自己管理など、対人関係や業務運営に関わるスキルのことです。

ビジネススキル

ビジネススキルとは、マーケティング、経営戦略、プロジェクトマネジメント、セールス、人材管理など、ビジネスの運営に不可欠なスキルのことです。

業界固有のスキル

業界固有のスキルとは、医療技術、契約書作成、学習支援、カウンセリング、工程管理、品質管理、機械操作など、各業界で必要とされる専門的なスキルのことです。


リスキリングの事例8選

それでは、国内外8つのリスキリングの事例を業界別にご紹介します。

国内のリスキリングの事例4選

まずは国内企業のリスキリングの事例からご紹介します。

【製造業】ジョブ型マネジメントへの転換に向けて学習体験プラットフォームを導入

日立グループは、グローバル事業をリードするリーダーを育成するために、Global Leadership Development(GLD)というプログラムを発足し、年功的・順送りといった従来型の「選ぶ」プロセスから、重要ポジションを選定し、役割を定義し、候補者を育成する「創り込む」アプローチへの変革を行ったり、企業と個人が仕事をキーとした対等なパートナーである「ジョブ型人財マネジメント」への転換を通じて、「イノベーションを生む組織と人財の実現」を目指しています。

その一環として、学習体験プラットフォーム(LXP)を導入したり、担当している業務やマネジメントに関する学習以外にも語学やビジネススキルなどの学習コンテンツを提供するなどの方法でジョブ型人財マネジメントへの転換を推進しています。

参考:企業における人財育成について~日立グループの取り組み~/株式会社日立アカデミー(経済産業省HP研究開発・イノベーション小委員会に掲載の資料)
   自分のキャリアを自分でつくる。 学びをもっと身近に、LXPによる新しい学習体験。/株式会社 日立アカデミー

【IT業界】顧客のDX推進と企業成長のためにDX企業へ変革/富士通株式会社

富士通は、国内の人口減少、少子高齢化、地域格差といった問題の影響をうけている顧客のシステムのモダン化や、ビジネスのDXを推進することで解決を試みています。

そしてその支援を提供するためにも自身がDX企業へと変革することを掲げています。

DX企業の変革するための投資の中には、高度人材の獲得だけでなく、リスキリングや社内システムなどの内部強化が含まれており、社員13万人がDX人材となるためのデザイン思考やアジャイル等の教育や、オフィスのあり方や働き方の見直し(Work Life Shift)を行っています。

参考: 2020年度経営方針説明/富士通株式会社

【医療業界】デジタル化を推進するコア人材の育成/武田薬品工業株式会社

武田薬品工業は、デジタルトランスフォーメーションの動きが加速する製薬業界において、デジタルを活用して組織を変革するために、様々な活動を行っています。

例えば、データ・デジタル&テクノロジー部を新設することで、IT部門と事業部門が連携してデジタル変革を推進しています。

他にも、社内から選抜したメンバーに6か月間の独自プログラム「DD&T(データ・デジタル&テクノロジー)アカデミー」を実施するなど、デジタルに精通したコア人材の育成を掲げています。

具体的には、カスタマーエクスペリエンス、テクノロジー、データマネジメント、AI/ビッグデータの4カテゴリーに関する教育を行うことで、UXデザイナー、ビジネスアナリスト、データアナリスト、データサイエンティストなどの人材の獲得を目指しています。

参考: 武田薬品のリスキリング、デジタル専門人材を育成/日経BP

【小売業】役員が率先して研修に参加/株式会社丸井グループ

丸井グループは、デジタル人材の発掘や育成の推進の一環として、リスキリング注力分野でもあるDXの研修を外部事業者と協業で企画しており、その研修には代表を含む執行役員全員も参加しました。

他にも、社外のビジネススクールへの派遣や次世代経営者育成プログラムを提供したり、eラーニングの受講状況などをデータとして蓄積し本人が確認できるようにするなどして、学びへのモチベーション向上を図っています。

また同データは人事異動の参考データとしても活用されています。

参考:丸井グループが第5回『プラチナキャリア・アワード』優秀賞を受賞/PR TIMES

海外のリスキリング事例4選

次に海外企業のリスキリング事例を4つご紹介します。

【製造業】キャリア構築の支援で競争力の維持と将来の労働力を確保/ゼネラルモーターズ

ゼネラルモーターズは、電気自動車や自動運転といった自動車業界における労働力を再構築するために、テクニカルラーニングユニバーシテ(TLU)を通じて従業員のリスキリングを支援しています。

従業員のキャリア構築を支援したり、機会を提供することで、市場変化への適応能力や共に成長することができると考えています。

キャリア構築の一例としては、金型製造の見習いからスタートし、生産オペレーター、工場の安全衛生インストラクターといった形のキャリアアップ事例や、エンジニアとして新卒入社し、ロボット工学などを学び、自動化システムの制御エンジニアとして活躍する方の事例が紹介されています。

参考: Building a future-ready workforce at General Motors /General Motors

【IT業界】デジタルスキルのさらなる向上/Microsoft

マイクロソフトは、成功している企業はテクノロジーだけではなくスキルも重視していると考えています。

そこで2020年に、既存のスキルアップ・再スキルアップのプログラムに加えて、Global Skilling Initiative (GSI) という無料のプログラムを開始しました。

プログラムは、デジタル スキルアップの過程における個人の成熟度レベルや、自分が何を学びたいのかを認識している人向け、何を学ぶ必要があるかわからない人向けなど、様々なパターンに応じた学習アプローチとサポートを提供しています。

参考:Digital upskilling: lessons learned/ Microsoft

【医療業界】世界中の従業員にパーソナライズされた学習体験を提供/ジョンソン・エンド・ジョンソン

世界的なヘルスケア製品大手のジョンソン・エンド・ジョンソンは、進化するビジネスや業界のニーズへの対応を目的とした、再スキル学習、スキルアップ、能力開発を行いました。

パーソナライズされた学習は、学習者が自身の価値観、興味、キャリア願望を評価するなどの「考察と洞察」を重視した独自の開発フレームワークをはじめ、オンライン学習エコシステム、トレーニング、サポートを一貫して提供することで実現されました。

またジョンソン・エンド・ジョンソンはホワイトボードやジムを備えた対面学習環境の整備にも力を入れており、従業員が直接集まり、健康やキャリア計画に集中したりする機会を設けています。

サポートの領域としては、リーダーシップ、DEI、従業員の幸福、デジタルスキル、ビジネススキルの5つの領域にわたります。

参考: L&D at Johnson & Johnson: An Inside Look/TRAINING INDUSTRY

【小売業】従業員のスキルを活用して新しい機会を作り出す/Amazon.com, Inc.

2019年にアマゾンは700万ドルをかけて、次の6年間で約10万人の従業員のリスキリングと開発を行うことを発表しました。

この発表でアマゾン副社長は「フルフィルメントセンターからCEOへのキャリアラダーを作ることではなく、従業員の現在の状況を理解し、彼らが持っているスキルを活用して新しい機会を作り出すこと」が目的であると語っています。

具体的なサポート内容としては、データマッピングスペシャリスト、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、セキュリティエンジニア、ビジネスアナリストなどの職種に移るためのサポートなどが含まれています。

参考: Amazon Goes Big With $700 Million Reskilling Pledge/Chief Learning Officer


リスキリングの事例から見える推進のポイント

最後に事例からも見える、リスキリングを推進するためのポイントをいくつかご紹介します。

リスキリングを推進する部門の存在が必須

いくつかの事例を見ただけでも、リスキリングの内容は多岐にわたることが理解できたと思います。

進捗の管理や効果の測定まで含めると、担当者をひとり設ければ十分というわけにはいかないでしょう。

DX推進、デジタルスキルの獲得・強化を重視する企業が多い

DXの推進やデジタルスキルの獲得を目指したリスキリングを行う企業は非常に多いです。

事例に紹介したようなある程度のデジタル人材を抱える大企業であっても、例外ではありません。

それだけDXやデジタルスキルの活用には多くの課題解決の可能性があるということでしょう。

企業ごとにリスキリングの方法は異なる

企業ごとにリスキリングを行う対象や、方法は異なります。

たとえば以下のようなパターンが存在します。

  • 学習のためにシステムを用意し、全員に教育を施すパターン
  • 従業員の習熟度や関心に応じて、学びの場を用意するパターン
  • 選別されたメンバーに特定の教育を行い、コア人材を育てるパターン

もちろんリスキリングを行う目的次第ではありますが、現状の業態や、対象となる従業員数の規模、職種や習熟度のばらつきなどによってどのようにリスキリングを行うかを検討しましょう。

従業員の意欲やキャリアを重視する

基本的にどのような方法でリスキリングを行うにしても、従業員の価値を向上するために、各人の意欲やキャリアを重視している点が共通項として挙げられます。

リスキリングはあくまでも学習であり、学習の効率は学ぶ人のモチベーションに大きく左右されます。

学習コンテンツを用意・提供するだけでなく、完了するまでのサポートや環境の整備などの支援も行いましょう。


まとめ

本記事では、リスキリングの実例をいくつかご紹介しました。

リスキリングは、新しい知識やスキルを身につけることにより、個々人の市場での価値を高める方法の一つです。

また、企業にとっても、競争の激しいビジネス環境で生き残り、発展を遂げるためには欠かせない戦略と言えるでしょう。

私たちの生活環境は日々変化しており、それに対応するためにも、リスキリングを通じて新しい技術や知識を取得することは必要不可欠です。

この記事をお読みいただくことで、リスキリングの意義や実践方法を理解していただき、皆様のキャリア形成やビジネスの成長にお役立ていただければ幸いです。