稟議とは?決裁との違いや稟議書の書き方を例文付きで解説

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稟議とは、組織内で複数の関係者の合意を得ながら重要な意思決定を進めるための手続きやプロセスを指します。

この仕組みを活用することで、提案内容を透明性をもって共有し、リスクを最小化しながら意思決定を行うことが可能です。

また、組織全体での合意形成や責任の明確化にも役立ちます。

しかし、稟議には、手続きが煩雑で意思決定が遅れるリスクや、形骸化してしまう問題が存在するため、適切な運用が必要です。

そこで本記事では、稟議の基本的な仕組みやプロセス、稟議書の項目や書き方の例、制度運用のメリット・デメリット、よくある課題と対策など、稟議について知っておきたいポイントを一挙に解説します。

稟議制度を効果的に活用したい方は、ぜひご一読ください。

目次


稟議とは

稟議とは、企業や組織で重要な意思決定を行う際に、多くの関係者の承認を得るための文書やプロセスを指します。

この仕組みは、日本独自の文化が背景にあり、透明性と合意形成を重視するために活用されています。

具体的には、担当者が提案内容を稟議書という形式で文書化し、組織内の上司や責任者へ順次回覧して承認を得ていきます。

このプロセスを通じて、複数の視点からの確認が可能になり、意思決定の精度や組織全体の納得感が高まる点が特徴です。

ただし、稟議は効率的に進めないと手続きが煩雑になりやすい面もあります。

そのため、近年では稟議プロセスの電子化や、稟議書フォーマットの見直しが進んでいます。


稟議の目的4つ

稟議の目的は、組織内で効率的かつ透明性のある意思決定を実現することです。

この仕組みは、提案や計画が適切であるかを関係者全員で確認し、リスクを軽減しながら実行に移すための重要な役割を果たします。

1.透明性の確保

稟議を通じて、意思決定の過程を文書化し、関係者全員が内容を共有できます。

これにより、不正や誤解が生じにくくなります。

2.合意形成

複数の承認者を通すことで、組織内でのコンセンサスを得られる仕組みです。

これにより、後々のトラブルや反対意見を未然に防ぎます。

3.責任の明確化

誰がどの段階で承認したかが記録に残るため、意思決定に関する責任の所在を明確にできます。

4.リスク管理

稟議プロセスを通じて、提案のリスクや課題を事前に把握し、計画を精査する機会が提供されます。

このように稟議とは、形式的な手続きではなく、組織全体の効率化と信頼性向上に寄与する重要なプロセスなのです。

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稟議の流れ

稟議のプロセスは、提案を文書化し、関係者に承認を得ながら最終決定へと進む一連の手続きを指します。

ここでは、稟議がどのような流れで進められるのかを、5つのステップに分けて解説します。

1.稟議書の作成

担当者が提案内容を文書化します。

この段階では、提案の背景や目的、具体的な内容、期待される効果、必要なコストなどを簡潔かつ明確に記載することが求められます。

2.確認と修正

稟議書を最初に上司や同僚に共有し、不足点や不備を修正します。

初期段階で内容をブラッシュアップすることで、後の承認プロセスがスムーズになります。

3.稟議書の回覧

稟議書を承認者に回覧します。

この段階で、承認者は内容を精査し、必要に応じてコメントや修正を加えることもあります。

4.承認の取得

稟議書に記載された承認者全員の同意が得られると、正式に決定が下されます。

場合によっては、上層部の承認が必要な場合もあります。

5.実施と記録

承認された内容に基づき、提案を実施します。

また、稟議書は後々の参考や監査のために保管されます。


効率的な稟議プロセスのポイント3つ

効率的な稟議プロセスを実現するためには、無駄を省きつつスムーズな承認フローを構築することが重要です。

ここでは、稟議のスピードと精度を高めるための3つのポイントをご紹介します。

1.回覧ルートの明確化

必要以上に多くの承認者を設定しないことで、手続きを迅速化できます。

適切な承認ルートをあらかじめ設定することが重要です。

2.電子稟議の活用

デジタルツールを活用することで、物理的な回覧の手間を省き、承認スピードを大幅に向上させられます。

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3.期限の設定

各段階に明確な期限を設定し、遅延を防ぐ仕組みを構築します。


稟議と決裁の違い

稟議と決裁は、いずれも組織内での意思決定プロセスに関わるものですが、その役割や進め方に明確な違いがあります。

稟議とは、組織内の関係者間で合意を形成し、内容の妥当性を確認するためのプロセスです。複数の承認者を経て、最終的な決裁者へ引き継ぐ役割を担います。

一方決裁とは、最終的に意思決定を下す行為そのものを指します。決裁者が責任を持って提案を承認または却下します。

項目稟議決裁
目的合意形成、提案内容の精査最終的な意思決定
関与者の範囲提案者、承認者(複数人)決裁者(1人または少数)
プロセス稟議書の作成・回覧・承認最終的な承認または却下
責任の所在複数の関与者に分散決裁者が責任を負う
使用される場面提案の検討段階提案の最終決定

稟議と決裁の関係性

稟議は、決裁をスムーズに行うための前段階として位置付けられます。

稟議プロセスを経ることで、提案内容の妥当性が確認され、関係者の意見が反映されます。

その後、決裁者が最終判断を下すため、稟議と決裁は互いに補完的な関係にあります。

稟議と決裁を適切に使い分ける3つのポイント

前述の通り、稟議と決裁ではその役割や進め方には違いがあります。

両者を適切に使い分けることで、組織全体の業務効率や意思決定のスピードが大きく向上します。

ここでは、稟議と決裁を効果的に使い分けるための3つのポイントをご紹介します。

1.稟議は内容を明確にして効率的に進める

稟議書の内容を明確にし、回覧ルートを最適化することで、決裁者がスムーズに判断できる環境を整えることが重要です。

2.決裁者の役割を明確化する

決裁者の権限範囲や責任を明確にし、不必要な稟議プロセスを省略することで、意思決定の迅速化を図ります。

3.デジタルツールを活用する

稟議や決裁を電子化することで、物理的な手間や時間を削減し、効率的な運用を実現できます。

これらの稟議と決裁の違いを正確に理解し、それぞれの役割を適切に運用することで、組織全体の意思決定プロセスを最適化することができます。


稟議制度のメリット5つ

稟議制度には、組織内で効率的かつ透明性の高い意思決定をサポートする多くのメリットがあります。

特に、組織全体の合意形成やリスク管理の面で大きな効果を発揮します。

1.意思決定プロセスの透明性の向上

稟議書に提案内容や承認プロセスを記録することで、誰がどのように意思決定に関与したかを明確にできます。

これにより、不正や誤解が防止され、外部監査にも対応しやすくなります。

2.合意形成の促進

複数の承認者を通すことで、組織全体で意見を共有し、コンセンサスを得やすくなります。

このプロセスにより、後の反対意見やトラブルを未然に防ぐことができます。

3.リスクの最小化

提案内容を多角的に精査することで、潜在的なリスクを早期に発見できます。

また、承認者間で責任を分担する仕組みにより、決定が偏ったリスクを軽減します。

4.組織の一体感の向上

稟議制度を通じて、上下関係を超えた意見交換や協力が進みます。

これにより、組織内での信頼関係が強化され、一体感のある運営が可能になります。

5.経験と知識の共有

稟議書の作成や承認プロセスを通じて、若手社員が上司や他部署の視点を学ぶ機会を得られます。

これにより、組織全体でのナレッジシェアが促進されます。


稟議制度のデメリット5つ

稟議制度は、透明性や合意形成に優れる一方で、運用方法によってはさまざまな課題が生じる可能性があります。

以下5つのこれらのデメリットを把握し、適切に対応することで、制度の効果を最大限に引き出すことが重要です。

1.意思決定のスピード低下

稟議書が複数の承認者を経る必要があるため、意思決定が遅れる場合があります。

特に、緊急性の高い案件では、このプロセスが問題になることがあります。

2.手続きの煩雑化

書類作成や確認プロセスに時間と労力がかかるため、担当者や承認者の負担が増加します。

また、承認者が多すぎる場合、手続きが過度に複雑化します。

3.責任の分散によるリスク

多くの承認者が関与することで、最終的な責任が曖昧になる場合があります。

これにより、問題発生時に対応が遅れる可能性があります。

4.形式的な運用による効果の低下

必要以上に細かい案件まで稟議プロセスに含めると、形骸化しやすくなります。

その結果、本来の目的である透明性や合意形成が損なわれる場合があります。

5.柔軟性の欠如

稟議制度は決まったルートや手順に依存するため、予期せぬ状況やイレギュラーなケースに対応しにくい側面があります。


稟議の主な種類5つ

稟議には、目的や用途に応じてさまざまな種類があり、組織の意思決定プロセスにおいて柔軟に使い分けられています。

各種類の特徴を理解することで、適切な稟議運用が可能になります。以下に代表的なものを5つ紹介します。

1.予算稟議

予算稟議は、プロジェクトや設備投資などの予算に関する承認を得るための稟議です。

大規模な支出や会社全体に影響を与える案件に使用されることが多く、慎重な審査が必要です。

  • 活用場面:新規プロジェクトの立ち上げ、設備投資、年度予算の策定
  • 特徴:具体的なコストや期待される効果を詳細に記載し、納得感のある説明が求められます。

2.契約稟議

契約稟議は、取引先との契約を締結する際に必要な稟議です。

契約条件の適切性やリスク管理が重視され、法務部門が関与する場合も多くあります。

  • 活用場面:新規契約の締結、既存契約の更新、契約内容の変更
  • 特徴:契約相手の信用調査や法的リスクの確認がプロセスの一部として含まれます。

3.人事稟議

人事稟議は、社員の異動、昇格、採用、退職など、人事関連の事項について承認を得るための稟議です。

組織運営や人材活用の視点が求められるため、経営層の判断が重要となります。

  • 活用場面:人事異動、新規採用、昇進の決定
  • 特徴:組織の方針や中長期的な人材戦略との整合性が重視されます。

4.制度改定稟議

制度改定稟議は、社内規定や業務プロセスを変更する際に使用されます。

特に新たな法規制への対応や効率化のための改善に役立ちます。

  • 活用場面:業務フローの見直し、新しい規定の導入、法改正への対応
  • 特徴:組織全体への影響範囲を事前に評価することが求められます

5.緊急稟議

緊急稟議は、迅速な対応が求められる場合に通常のプロセスを簡略化して行われます。

特別な状況に対応するための柔軟性を持つ稟議です。

  • 活用場面:トラブル対応、突発的な予算措置、自然災害や危機管理案件
  • 特徴:スピードが最優先されるため、簡潔かつ正確な情報伝達が求められます。

稟議書の基本構成と7つの要素と書き方の例

稟議書は、提案内容を明確に伝え、承認者からスムーズに許可を得るために、必要な情報を適切に整理することが求められます。

ここでは、一般的な稟議書の基本構成と、それぞれの要素のポイントを解説します。

1.表題

稟議書の内容を一目でわかるように簡潔に記載します。

  • 例:「新規プロジェクト提案に関する稟議書」「設備投資の承認申請」

2.目的・背景

提案の目的や背景を明確に説明します。

この部分が説得力を持つと、承認者の理解が深まります。

  • 目的:提案の最終的なゴールを記載(例:「業務効率化のためのシステム導入」)
  • 背景:提案に至る経緯や現状の課題を説明。

3.提案内容

具体的な提案内容を簡潔に記載します。

必要に応じて図表やデータを活用し、視覚的に分かりやすくします。

  • 内容の要点:実施計画、予想される結果、スケジュールなど。

4.期待される効果

提案が承認された場合のメリットを記載します。

承認者が判断しやすくなるよう、具体的な数値や実績を含めると効果的です。

  • 例:「業務時間を20%削減」「年間コストを○○円削減」

5.必要なコスト

提案を実行するために必要な予算やリソースを記載します。

具体的な内訳を示し、承認者に安心感を与えます。

  • 内訳:初期費用、運用コスト、その他関連経費。

6.承認ルートと担当者

誰が作成し、誰が承認するのかを明記します。これにより、承認プロセスがスムーズになります。

  • 例:作成者、確認者、最終承認者の氏名や役職。

7.添付資料(必要に応じて)

提案を補強するための関連資料を添付します。

これにより、承認者が詳細を確認しやすくなります。

  • 例:実施計画書、関連法規、予算の見積もり。

稟議のよくある課題と対策5つ

次に、稟議のよくある課題と対策を5つ紹介します。

課題1.意思決定の遅延

稟議プロセスが複雑で承認者が多すぎる場合、意思決定が遅れてしまうことがあります。

特に緊急性の高い案件では、この遅延が業務全体に悪影響を及ぼします。

▼対策

  • 承認者の数を最小限に抑える。
  • 承認フローを簡素化し、明確な期限を設定する。
  • 電子稟議システムを導入して、進捗をリアルタイムで管理する。

参考:【2024年最新版】ワークフローシステムおすすめ36選を比較!選び方も紹介│LISKUL

課題2.形骸化

稟議書が形式的なものとなり、承認者が内容を十分に確認しないまま承認が進んでしまうケースがあります。

このような場合、稟議の本来の目的である合意形成が機能しません。

▼対策

  • 重要度の低い案件は簡易プロセスを採用し、重要案件に集中する。
  • 稟議書を簡潔かつわかりやすくまとめ、承認者が内容を把握しやすくする。
  • 定期的に稟議運用ルールを見直し、必要な改善を加える。

課題3.内容の不備や曖昧さ

稟議書に必要な情報が不足している場合や、内容が不明確で承認者が判断しづらい場合、稟議プロセスが滞る原因となります。

▼対策

  • 稟議書のテンプレートを統一し、記載すべき項目を明確にする。
  • 提案内容を簡潔かつ具体的に記載し、図表やデータを活用して視覚的に整理する。
  • 稟議書作成者に対して、適切なトレーニングを実施する。

課題4.責任の分散

複数の承認者が関与するため、最終的な責任が曖昧になりがちです。

この結果、問題発生時の対応が遅れる場合があります。

▼対策

  • 最終承認者を明確にし、責任範囲を明記する。
  • 稟議プロセス全体のフローを可視化し、関与者の役割を整理する。
  • 問題発生時の対応責任を事前に明確化しておく。

課題5.コストやリソースの過剰消費

稟議書の作成や承認プロセスが煩雑な場合、時間や人員が無駄に消費され、業務全体の生産性が低下します。

▼対策

  • デジタルツールを活用し、作成や承認作業を効率化する。
  • 稟議プロセスを必要最低限に見直し、重要度の低い案件は簡素化する。
  • 稟議書作成者や承認者に対し、プロセス改善の研修を行う。

稟議に関するよくある誤解3つ

最後に、稟議に関するよくある誤解を3つ紹介します。

誤解1.稟議は単なる形式的な手続きである

稟議は、ただ形式的に回覧し、承認を得るだけの煩雑な手続きと思われることがあります。

特に、承認者が内容を十分に確認せずに承認するケースでは、このような誤解が生じやすいです。

実際には、稟議は意思決定の透明性を確保し、関係者全員で合意形成を行うための重要なプロセスです。

適切に運用すれば、リスクを軽減し、質の高い意思決定を実現するための有効な手段となります。

誤解2.稟議は必ず全員の承認が必要

稟議は、すべての関係者の承認を得る必要があると思われがちです。

このため、承認フローが複雑化し、手続きが遅れる原因になるという批判を受けることがあります。

実際には、稟議に必要な承認者は案件の重要度や性質によって異なります。適切な承認ルートを設定することで、効率的な稟議運用が可能です。

全員の承認が必須ではなく、関与者を絞ることで意思決定のスピードを上げられます。

誤解3.稟議は大企業だけのもの

稟議は、大企業のように多層的な組織でのみ必要とされ、中小企業やスタートアップには不要と考えられることがあります。

実際には、規模の大小を問わず、組織内での透明性や合意形成が求められる場面では、稟議は有効な手段となります。

中小企業でも稟議を活用することで、重要な意思決定に対する信頼性や効率性を高めることができます。


まとめ

本記事では、稟議の基礎知識から目的、具体的なプロセスや稟議書の基本構成と書き方の例、稟議と決裁の違い、稟議制度のメリットやデメリット、稟議に関するよくある誤解などについて解説しました。

稟議とは、組織内で合意形成と透明性のある意思決定を実現するための重要なプロセスです。

特に、日本の企業文化においては、稟議制度が意思決定の中心的な役割を果たしています。

稟議を活用することで、組織全体でリスクを管理しながら意思決定を進めることができます。

ただし、運用方法によっては、意思決定の遅延や形骸化などの課題が生じる可能性もあるため、適切な対策が必要です。

稟議書の作成では、提案内容を簡潔かつ具体的に記載し、承認者が判断しやすいようにすることが重要です。

また、案件の性質や重要度に応じた稟議の種類を使い分けることで、稟議プロセスを効率化できます。

稟議制度を効果的に運用するためには、デジタルツールの導入や運用ルールの定期的な見直しが不可欠です。

これにより、組織全体の意思決定プロセスを最適化し、より迅速で的確な判断が可能になります。

組織の意思決定を効率化し、透明性を向上させるために、稟議制度を再評価してみてはいかがでしょうか。