アトリビューション分析のコツ!間接効果を的確に測ってCV獲得に繋げる方法とは

リスティング広告の効果も頭打ち。A/Bテストやリマーケティングなど、できることはやり尽くしてきた。これ以上成果を伸ばすには、ディスプレイ広告や動画広告などの間接効果を狙っていくしかないのではないか?

企業のWebマーケティング担当の方は、このような悩みから「アトリビューション分析」の実施・導入を検討します。

しかし、本当に導入すべきでしょうか? どのように導入すれば成果が上がるのでしょうか?
そこで、本記事では、アトリビューション分析の事例を交えて、実施における注意点や成果を上げるための活用法について紹介します。

2011年頃に「アトリビューション」がバズワードとして広がった頃から、Webコンサルティング会社で実際にアトリビューション分析を活用してきた経験があります。概念的な理想論や売り込みではない、地に足のついた内容を紹介しますので、ぜひ参考にしてください。


【事例1】広告予算はそのままで、コンバージョンが4000件増加!?

国内のアトリビューションにおいてもっとも有名な事例は、2011年に開催された「Attribution Night 2011」というイベントで、アタラ合同会社が発表した事例です。

端的に要約すると
・リスティング広告に6000万円でバナー広告に500万円を投じていた企業があった
・アトリビューション分析をもとに、リスティング広告6000万円のうち、3000万円をバナー広告に再配分
・シミュレーション上は9000件だったコンバージョンが、13000件と4000件増加
・実際には4000件までは増加しなかったものの過去よりもCVは増加した

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(引用元)【2011年10月4日開催】Attribution Night 2011

当時は、CVに直接つながったクリックのみを評価する「ラストクリックCPA」がネット広告の評価指標として重視されており、間接効果は無視されているに等しい状況にありました。

そのような背景の中で、発表で述べられた「(購入における)ラストクリックだけを見て予算を効率化していくと、最終的にはリスティングとアフィリエイトしかCPA(Cost Per Acquisition)に見合わないことになる」という論調は歓迎を持って迎えられ、その後のアトリビューション分析全盛の時代を予感させるものでした。


【定義】アトリビューションとは

ここで、改めてアトリビューションの定義について確認しておきましょう。

アトリビューションとは、一言でいうと「広告を含めた接点・アクションの成果への貢献度を正当に評価するための分析手法」です。下の図を御覧ください。

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最後の接触・クリックだけを評価するのではなく(ラストクリックCV)、それ以前の初回接触や中間接触もCVに貢献しているのだから、これらも正当に評価しましょう、という考え方です。

よく使われるのは、野球の例えです。
CVを得点だとすると、打点を上げるスラッガーである松井選手が評価されがちだが、シングルヒットを打つイチロー選手は過小評価されてしまう。アトリビューション分析により、イチローのような選手の貢献を正しく評価することで、チームとしての得点力が上がるという考え方です。

(参考元)アタラのアトリビューションコンサルティング


【手法】モデリング・スコアリングとクリックスルー・ビュースルー

では、アトリビューション分析は具体的に、どのように行われるのでしょうか?その手法について簡単にご説明します。

アトリビューションモデリング・アトリビューションスコア

コンバージョンに至る接点に、スコアを配分することで指標化することをアトリビューションモデリング、その配分した数値をアトリビューションスコアと呼びます。

例えば、「均等配分モデル」を用いた場合、1CVに対して、初回・中間・最終のそれぞれの接点に同じスコアを配分した数値を指標とします。広く使われているラストクリックCPAは、最終接点に100%を配分したアトリビューションモデルと言い換えることもできます。

これらの指標を用いて、最適化することが一般的に用いられているアトリビューションの手法です。

(参考)アタラのアトリビューションコンサルティング
(参考)アトリビューション モデリング – アナリティクス ヘルプ

クリックスルー・ビュースルー

併せて押さえておきたい知識は、クリックスルーとビュースルーの違いです。

アトリビューションのスコアリングにおいて、クリックの貢献までを対象にするのか、ビュー(広告表示)の貢献までを対象にするのかという違いです。

DSPや第三者配信ツールを導入することで、バナー広告の表示についてもトラッキングすることが可能になり、その視認効果も含めた計測およびアトリビューション分析がなされています。


【実態】ツールやディスプレイ広告を売りたい業者の「方便」になってしまったアトリビューション

アトリビューションは、これまで「確実にあるはずだが無視されてきた間接効果」を評価する方法を示し、ラストクリックCPA偏重しがちだったネット広告・Webマーケティングの業界に警鐘を鳴らす役割を果たし、バズワードとして急速に広がりを見せました。

しかし、このブームに乗ってアトリビューションは「業者が儲けるための方便」としても使われることもあったというのが実態だと捉えています。あくまで個人的な肌感に過ぎませんが、実際に以下のようなことを聞きました。

データを貯めて、スコアリングモデルを探すために膨大な初期投資を求めるケース

アトリビューションは測定インフラ整備と一定以上のデータ量があって、初めてスタートラインに立てるという見地から、第三者配信ツールやDMPの導入など、測定インフラ導入の抜本的見直しを企業に求める業者があったようです。

考え方自体は正しいのですが、測定インフラを整えるフェーズではない企業にも過剰な計測インフラ投資を求める方便にアトリビューションが使われていた資料を何度か目にしました。

難しく見せ、「自分ではできない…」と思わせることで、コンサルティングを販売するケース

コンサルティングの販売では常套手段なのかもしれませんが、過剰に難しく説明することで、コンサルティングを受注しようという意図が見える資料も目にしたことがあります。

「ベイジアンネットワーク」や「マルコフ連鎖」など高度な統計解析分析手法を必要以上に引用されると、「自分ではできなさそう、プロに任せたい」という気持ちになってしまいます。

ビュースルーコンバージョンだけ切り出してディスプレイ広告を売る手段にするケース

一般的にアトリビューション分析では、コンバージョンに至ったすべての接触経路を一元管理して、そのデータを元に貢献度を評価するというのが大原則です。しかし、特定のDSPや第三者配信を経由したアドネットワーク「だけ」からのビュースルーコンバージョン効果を指標として、ディスプレイ広告を拡販する業者もあったようです。

この考え方で言えば、日本のネットユーザーの9割にリーチできるとも言われているYahoo!のトップページの広告は、その企業の9割のCVに対してビュースルーコンバージョン効果があることになってしまいます。


【本質】アトリビューションは魔法の杖ではなく、分析手法の一つ

一部業者による「アトリビューションブームの悪用」の背景には、導入すれば成果が上がる「魔法の杖」である、というアトリビューションへの過剰な期待や誤解があったと言えます。

本来、アトリビューション分析は、顧客との接点を可視化して分析しようという試みです。しかし、アトリビューション≒スコアリング≒ラストクリックCPAの代替物という切り口で広がった経緯によって、思考停止を招いてしまうという皮肉な結果を生み出してしまいました。

アトリビューションはあくまで、分析手法のひとつに過ぎず、どう使うかが重要である、ということを強く自覚することが重要です。

アトリビューションモデル・アトリビューションスコアの罠

冒頭のアトリビューションの説明で用いた、野球での例えをアトリビューションスコアの考え方に当てはめると、どうなるでしょうか?

アトリビューションモデルは、コンバージョンに至った接触にスコアを配賦するという考え方なので、野球で言えば、「得点に至った出塁のみを評価する」という話になります。
これだと、後のバッターが誰か? によって大きく影響を受けてしまい、イチロー選手の貢献を正しく評価しきれません。

野球の世界でイチロー選手を評価する場合には「出塁率」など別の指標が用いられているように、施策の目的にあった指標を設定することが必要です。

ビュースルーCVの罠

ビュースルーCVも野球で言えば、「打点を上げるバッターの前に打席に立った人は、なんらか貢献した」というようなもので、かなり乱暴な考え方と言えます。

本質は施策の目的に応じた「KPI設計」と「仮説検証」

アトリビューションの目的は、各接点における見込顧客の態度変容を測定し、その貢献度を正当に評価することです。したがって、アトリビューションスコアもひとつの指標に過ぎず、他の指標の方が貢献度をより評価しやすいのであれば、そちらの指標を活用すれば良いだけのことです。

例えば、広告の世界では、インターネットが登場するよりもはるか昔の50年以上も前に「DAGMAR」という広告評価指標が提唱されているなど、広告評価指標について長年議論されています。
DAGMAR理論とは|マーケティング用語集|株式会社エスピーアイ

インターネットの普及により、ユーザー行動の結果となる指標が数多く取れるようになりましたが、その本質は変わらず、実施する施策の目的に応じて、その結果の良し悪しを測定するには、どのような指標を測定すれば良いのかを考えて設定することです。

その結果、もしアトリビューションスコアが最適であれば、その指標を元に仮説検証を繰り返して成果を上げていけば良いのです。


【事例2】コミュニケーション仮説立案と検証にアトリビューション分析を活用

では、KPI設計と仮説検証にアトリビューションを活用して、実際に成果を上げた例を見て行きましょう。

あるホームセキュリティの会社で、コンバージョンに至るまでの接触の中で「ユーザーに正しい選び方を伝えることが説得の肝」という仮説を元に、「正しい選び方を啓蒙するランディングページの再来訪CV」をKPIとしてコンバージョン数を2倍にした、という実績が紹介されています。

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(引用元)アトリビューションの本質は、「後付けで広告を過大評価する取り組み」ではない | Web担当者Forum

この事例の優れている点は、(1)ユーザーの行動仮説を立て(2)成果につながる施策を立案し(3)仮説検証するために最適なKPIを設定して(4)実際に実行して検証した、という一連の流れを正しく回していることです。

この程度の測定であれば、無料のGoogleアナリティクスでも十分可能であり、手軽に実施できて、成果につながる、とても費用対効果の高いアトリビューション施策と言えます。


【事例3】直接CVを磨きこんだら、間接効果も増える!?

こちらは弊社の経験則に基づく事例です。
大きなプロモーションで様々なバナー広告を出稿して分析してみると、多くの場合で「結局、ラストクリックCPAで費用対効果の良いバナー広告が、間接効果も良い」という傾向にあります。

※注意
あくまでも、このような傾向が見られることが多かったというだけであり、必ず相関がある事を保証するものではありません。仮説のひとつとしてご理解ください。

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この現象を野球に例えると「ホームランの打ち損ないがヒット」という考え方です。
ある広告に接触した際、その場で態度変容が一気に進めば直接CVだとすると、態度変容が途中まで進んだのが間接効果と捉えられます。

もともと直接獲得を重視して実施している、リスティング広告やアフィリエイトと、認知や興味喚起を重視して実施しているバナー広告を同じラストクリックCPAで判断するのは無理がありますが、同じ認知や興味喚起を重視した実施したバナー同士をラストクリックCPAで比較する限りにおいては成果を測るひとつの指標になると言えます。
この考え方の良い点は、測定基準や指標を新たに設定せずに、手軽に評価できることにあります。

もともと、アトリビューションの概念が普及する前から、この手法は広く実施されていました。
例えば、リスティング広告の指名キーワードはCPA500円、一般ワードはCPA5000円、バナー広告はCPA10000円というように、手法に応じて目標とするCPAを分けてそれぞれ仮説検証しながら効果を上げて、定期的に全体の予算比率をコントロールして適正配分を探るというアプローチです。


【結論】アトリビューションは導入すれば勝手に成果のあがる「魔法の杖」ではない。単なる分析の切り口のひとつ

アトリビューションは思考停止の道具ではなく、インプットのデータの一つの切り口であり、仮説検証の指標です。大掛かりに構えず、できることから手軽に実施することが重要です。

すでに毎月数千万円単位でWebマーケティング投資をしている企業にとって、インフラを整えてしっかりデータを取ってアトリビューション分析していくことは重要なことです。
しかし、月額数十万~数百万円単位でWebマーケティング投資をしている企業は、多少雑でも良いのでGoogleアナリティクスなど、今ある測定インフラを活用して、コミュニケーションプランに沿った自社に最適なKPI設計して、仮説検証をしていけば良いのです。

コミュニケーションプランの策定のためには、カスタマージャーニーマップなどを作ってみるというのも、おすすめしています。

カスタマージャーニーについては以下の記事で解説していますので併せてご覧ください。
カスタマージャーニーを理解・活用する 3スライド+5サイトまとめ