建設DXとは?人手不足や安全性の問題を解決するための基礎

建設DX

建設DXとは、建設業界のさまざまなプロセスをデジタル化し、効率化する取り組みのことです。

建設業界では、人手不足や安全性などの問題が深刻化しており、その解決策として建設DXに注目が集まっています。

具体的には、AIなどの先端技術や、BIMなどの業界に特化したデジタル技術を用いることで、生産性の向上や安全性の向上などを行うことができます。

しかし、どのような技術が用いられており、他にはどのようなことができるのかイメージできないという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、建設DXの基本から、背景にある課題、メリットやデメリット、用いられている技術、事例、進め方、注意点、今後の課題などの情報を一挙に紹介します。

建設DXの基礎をおさらいしたい方は、ぜひご一読ください。


目次

建設DXとは、建設プロセスをデジタル化して効率化する取り組みのこと

建設DX(建設デジタルトランスフォーメーション)とは、建設業界におけるさまざまなプロセスをデジタル化し、効率化する取り組みのことです。

この取り組みには、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)などの先進技術が活用されており、それぞれが設計、施工、運用の各段階で業務の自動化や情報管理の効率化を推進します。

たとえば、BIMを用いて建物の3Dモデルを作成し、設計の正確性を向上させたり、AIを活用して作業のスケジューリングや資材の最適化を行うことができます。

他にも、IoT技術で現場の機器や資材をリアルタイムで監視し、運用の透明性を高めたり、安全管理を強化することもできます。

これらの技術を組み合わせることで、プロジェクトのコスト削減、納期の厳守、品質の向上などを期待することができます。


建設DXが注目される背景にある5つの課題

次に、建設業界でDXが注目されている背景にある業界の代表的な課題を5つご紹介します。

1.労働力が不足している

建設業界では、特に若年層の就業者が減少しており、業界全体の高齢化が進んでいます。

体力を要する現場作業の担い手が不足することで、プロジェクトの遅延が発生することがあります。

このような労働者の負担を軽減し、少ない人数でも高い生産性を維持するために、建設DXによる自動化やロボティクスの導入が注目されています。

2.労働時間が長い傾向にある

建設業界は以前より長時間労働が問題とされています。

特に繁忙期には残業が常態化し、これが労働者の健康や生活の質に悪影響を及ぼすことがあります。

長時間労働は労働者の安全リスクを高め、労働生産性の低下にも繋がります。

3.賃金が低い傾向にある

建設業界では、技能による賃金の差が大きく、特に未熟練労働者や若手労働者の賃金が低い傾向にあります。

これが業界全体の魅力を損ない、新しい労働力の流入を妨げる一因となっています。

4.IT技術の導入が遅れている

建設業界はIT化や、生産性の向上が他産業に比べて遅れています。

多くの作業が手作業に依存しているため、作業の効率化が困難であることが理由のひとつと考えられます。

生産性を向上するためには、設計から施工、管理までの各プロセスをデジタル化し、データの一元管理やリアルタイムでの情報共有などが求められます。

5.危険が伴うことがある

建設現場は高所作業や重機の運用など、多くの危険が伴います。

一見この課題は、デジタル技術で低減することは難しいように思えます。

しかしこれらのリスクをデジタル技術で低減することも、建設DXの重要な目的のひとつです。

たとえば、ドローンを活用して実際の危険にさらされることなく、作業員が高所の作業を行うなどが挙げられます。

他にも、センサーを利用した健康管理システムや、AIによる事故予防の警告システムなど、安全な作業環境づくりが求められています。


建設DXのメリット6つ

次に、建設DXを行うことによる代表的なメリットを6つご紹介します。

1.生産性を向上できる

建設DXは、デジタルツールと技術を駆使して設計、施工、管理の各段階で効率を飛躍的に向上させます。

例えば、BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)を活用することで、設計の精度が高まり、施工エラーが減少し、工期の短縮やコスト削減が期待できます。

2.安全性を強化できる

IoT技術によるリアルタイムデータの取得や、AIを利用した事故予測システムの導入により、建設現場の安全性向上が期待できます。

これらの技術は、危険を事前に識別することで、事故発生のリスクを低減します。

3.コミュニケーションを向上できる

デジタルツールの導入は、プロジェクト関係者間のコミュニケーション向上に寄与します。

クラウドベースのプラットフォームを使用することで、設計者、施工者、クライアント間でリアルタイムの情報共有を行うことで、迅速かつ透明性の高い意思決定が行えるようになります。

4.情報が管理しやすくなる

プロジェクトの文書管理をデジタル化することで、紙の書類に依存することなく、図面や契約書などの重要な文書に簡単にアクセスできるようになります。

作業効率の向上はもちろんのこと、書類の紛失リスクも低減されます。

5.品質の向上が期待できる

IT技術を活用することで品質管理プロセスを強化することも可能です。

例えば、センサー技術を利用して建設中の構造体の健全性を監視し、問題が生じた際には早期に対処することができます。

6.環境負荷の軽減が期待できる

建設DXにより、エネルギー効率の良い材料の使用や、リソースの最適化が促進されます。
これにより、環境への負荷が軽減され、持続可能な建設業界への貢献が期待されます。


建設DXのデメリット5つ

次に、建設DXのデメリットを5つ紹介します。

1.中小企業にとっては一次的な負担となる場合がある

新しいテクノロジーを導入するには大規模な初期投資が必要であり、特に中小企業にとっては経済的負担が大きい場合があります。

資金力のある大企業と中小企業間でのデジタル格差が拡大する可能性があります。

2.技術的な障壁やスキル不足に難儀する可能性がある

高度なデジタル技術を効果的に運用するためには、専門的な知識やスキルが必要です。

しかし、既存の労働力にはこのような技術的背景が欠けている場合が多く、十分なトレーニングと時間を要するため、導入の遅延が生じることがあります。

3.持続的なメンテナンスが求められる

導入されたデジタル技術は常に最新の状態を保つ必要がありますが、これには継続的なメンテナンスと時々のアップデートが必要です。

これに伴う追加コストや、技術的な障害が発生するリスクも考慮する必要があります。

4.システム障害やサイバー攻撃のリスクが高まる

過度に技術に依存することで、システム障害やサイバー攻撃などのリスクが増大します。

これらの問題がプロジェクトの遅延や、コスト増加、安全上の問題を引き起こす可能性があります。

建設DXでは多量のデータ管理が求められるため、データのプライバシー保護やセキュリティの確保が欠かせません。

5.組織文化の変革に抵抗を産む可能性がある

既存のプロセスや慣習に慣れ親しんだ従業員が新しい技術を受け入れることに抵抗を感じる場合があります。

建設DXでは組織全体の文化変革が必要になることがあるものの、この抵抗が一次的にはプロジェクトの遅延やコスト増加につながることがあります。


建設DXに用いられる8つの技術

次に、建設DXに活用されている技術を8つご紹介します。

1.ビルディング・インフォメーション・モデリング(BIM)

BIMは建設プロジェクトの計画、設計、施工、管理を統合する3Dモデリングプロセスです。

この技術は、建築物のデジタル表現を作成し、プロジェクト関係者が情報を共有し、コラボレーションを促進するのに役立ちます。

BIMは設計の変更がプロジェクトに及ぼす影響をリアルタイムで評価することを可能にし、より効率的で精度の高い建設プロセスを実現します。

2.コンストラクション・インフォメーション・モデリング(CIM)

CIMはBIMの概念を拡張したもので、建設プロジェクトの管理と運用にさらに焦点を当てています。

CIMは、プロジェクトのライフサイクル全体にわたって情報の収集、管理、活用を強化し、建設プロジェクトの効率を大幅に向上させることが可能です。

3.人工知能(AI)と機械学習

AI技術は、スケジューリング最適化、リソース管理、品質管理など、多くの建設活動を自動化および最適化するために使用されます。

機械学習アルゴリズムは、過去のデータから学習し、プロジェクトのリスク評価や効率改善の提案を行うことができます。

また、AIは労働者の安全を向上させるための予測モデリングにも利用され、事故の可能性が高い場面を事前に識別します。

4.IoT(モノのインターネット)

IoT技術は、センサーや組み込みデバイスを利用して建設現場の機器や材料をリアルタイムで監視します。

これにより、資材の追跡、機器の状態監視、労働者の健康状態の監視などが可能になり、現場の運用効率と安全性が向上します。

IoTはまた、エネルギー消費の監視や、環境影響の評価にも役立ちます。

参考:IoT開発の流れとは?エンジニアに必要不可欠なスキルも紹介│LISKUL

5.SaaS(Software as a Service)

SaaSはクラウドベースのソフトウェア提供モデルで、建設会社がソフトウェアを所有せずに利用できるようにします。

このモデルにより、ユーザーはインフラストラクチャの管理やソフトウェアのアップデートから解放され、どこからでもアクセスできる柔軟性とスケーラビリティを享受できます。

プロジェクト管理ツールやCRMシステムなど、多くの建設管理ソフトウェアがSaaSとして提供されています。

参考:【2023年最新版】SaaS管理ツールおすすめ15選を比較!選び方も紹介│LISKUL

6.ドローン技術

ドローンは、建設現場の監視、測量、進捗の記録に使用されます。

高解像度カメラを搭載したドローンにより、広範囲を短時間で撮影し、現場の詳細な3Dマッピングを行うことができます。

これにより、より精確で時間効率の良いデータ収集が可能になります。

参考:AIとドローンでできること|農業や交通量調査などの事例5選│LISKUL

7.仮想現実(VR)と拡張現実(AR)

VRとAR技術は、設計段階でのビジュアライゼーションや、建設現場での指示表示に役立ちます。

VRを使用すると、プロジェクト関係者が完成予定の構造物を事前に体験することができ、設計の見直しや変更が容易になります。

ARは現場作業員にリアルタイム情報を提供し、作業の正確性と速度を向上させます。

参考:ビジネスでも利用が進むARとは?今さら聞けないAR初心者向けの説明書│LISKUL

8.デジタルツイン

デジタルツインは、実際の建築物やインフラの仮想複製を作成し、そのライフサイクル全体でデータを収集し分析する技術です。

これにより、メンテナンスや運用の最適化が可能となり、長期的なコスト削減と効率化が実現します。

参考:デジタルツイン事例10選!国内外の事例をまとめてご紹介│LISKUL


建設DXの事例:3つの領域でDXを推進する鹿島建設株式会社の事例

鹿島建設は、顧客や社会課題の解決や、便利・快適・安心で希望ある世界創りを目的に「中核事業の強化」「新たな価値創出」「経営基盤整備」の3領域でDXを推進しています。具体的には、DXの実現に向けて紙などのアナログ媒体のデジタル化を推し進めています。

  • 中核事業の強化:デジタルツインを用いた高生産体制の強化や、データによるノウハウの掲揚や意思決定支援
  • 新たな価値創出:スマートビルの提供や、スマートシティ・ソサエティの拡張などの挑戦
  • 経営基盤整備:AIなどを用いた生産性やマネジメントの改善や、デジタル基盤環境を整備することによるサイバーセキュリティ対策の強化

建設現場のデジタル化を進めることで作業の自動化と効率化を実現し、それによってコスト削減と生産性向上を達成しています。また、デジタル技術を活用した新規事業の創出も進めており、これが企業の新たな収益源となり、長期的な競争力の基盤を強化しています。

参考: September 2021:特集 鹿島DX | KAJIMAダイジェスト | 鹿島建設株式会社


建設DXの進め方4ステップ

次に、建設DXの進め方を4つのステップに分けて紹介します。

1.現状を分析して目標を設定する

建設DXを始める前に、現在のビジネスプロセスと技術スタックの徹底的な分析が必要です。

何を改善したいのか、どの業務プロセスがデジタル化の恩恵を最も受けられるのかを明確にし、具体的な目標を設定します。

この段階では、プロジェクトのスコープと期待される成果を定義することが重要です。

▼例:紙ベースの作業指示書をデジタルに置き換える
・目標:紙の作業指示書をデジタル化し、情報の即時アクセスと更新を可能にする。
・背景:紙の作業指示書は、現場での紛失や破損のリスクがあり、情報の更新が遅れがちである。デジタル化することで、これらの問題を解決し、現場の作業効率を向上させる。

2.ツールを選定や協力者とのパートナーシップを構築する

目標に基づいて、必要な技術やツールを選定します。

市場には多種多様な建設DXツールが存在するため、自社のニーズに最適なソリューションを見極めることが肝心です。

また、技術提供者とのパートナーシップを構築し、導入から運用までのサポートを確保します。

▼例:プロジェクト管理ソフトウェアの選定

・技術:プロジェクト管理のためのSaaSプラットフォームを選定。
・選定基準:クラウドベースであるため、どこからでもアクセス可能で、リアルタイムでの更新が行え、プロジェクト全体の見える化が可能。

3.段階的に導入しつつトレーニングを行う

全てを一度にデジタル化するのではなく、選定した領域から段階的に導入を進めることが推奨されます。これにより、リスクを最小限に抑えつつ、各ステージでのフィードバックを基に改善を図ることができます。従業員へのトレーニングと教育も同時に行い、新しいツールやプロセスへの適応を支援します。

▼例:紙の作業指示書とデジタルツールの並行利用
・方法:最初の数ヶ月は紙の作業指示書とデジタルツールを並行して使用し、徐々にデジタルへ完全移行。
・目的:従業員が新しいシステムに慣れる時間を提供し、フィードバックを収集して改善点を見つけ出す。

4.導入状況や成果を評価しながら拡大していく

各導入フェーズ後に成果を評価し、問題点や改善点を特定します。

成功した施策はさらに拡大し、未達成の目標に対しては原因分析を行い、戦略を見直します。

継続的な評価と調整を通じて、建設DXを企業文化に根付かせ、持続的な改善を目指します。

▼例:効率性と従業員のフィードバックの評価

・評価方法:デジタルツール導入前後での作業時間を比較し、従業員からのフィードバックを収集。
・改善策:フィードバックに基づいてデジタルツールのユーザーインターフェースを改善し、追加トレーニングを実施。


建設DXを進める際の注意点3つ

次に、建設DXを進める際の注意点を3つ紹介します。

1.明確な目標を立てて組織全体のコミットメントを確保する

建設DXを始める前に、何を達成したいのか明確な目標を設定し、具体的な実行計画を立てることが重要です。

目標が不明確だと、プロジェクトが方向性を失い、リソースの無駄遣いにつながる恐れがあるためです。

また新しい技術やツールを導入する際には、組織全体がデジタルトランスフォーメーションを支持し、積極的に関与することが必要です。

経営層から現場の作業員まで、全員が変革の必要性を理解し、その過程にコミットすることが成功の鍵です。

2.DXは段階的に行う

一度にすべてをデジタル化しようとすると失敗のリスクが高まります。少しずつ導入を進め、各段階で得られたフィードバックを活用して改善を図ることが望ましいです。

また新しい技術を導入する際には、従業員がそれを理解し、効果的に使用できるように適切なトレーニングを提供することが不可欠です。

サポート体制を整え、従業員が新しいツールに対して抱える不安や疑問を解消することも大切です。

3.データセキュリティやプライバシーの確保に注意する

デジタルツールの導入には、データのセキュリティとプライバシーの問題が伴います。

適切なセキュリティ対策を講じ、データ漏洩のリスクを最小限に抑えることが重要です。

セキュリティやプライバシーに関する状況は、年々変化しているので、最新の情報をキャッチアップしたり、従業員にも講義を行いましょう。


建設DXの今後の課題2つ

最後に、建設業界におけるDXの今後の課題をふたつご紹介します。

1.スキルギャップを埋める教育が必要だと考えられる

建設業界においては、デジタル化に対応できる技術や知識を持つ人材が不足しています。

このスキルギャップは、特に新しい技術を導入する際に顕著になるため、従業員への継続的な教育が必要です。

教育プログラムを整備することで、従業員が新しいツールやプロセスを効果的に活用できるようになりますが、この取り組みには時間とコストがかかり、全員が一律にスキルアップするわけではないため、個々の進捗に合わせた柔軟な教育カリキュラムが求められます。

2.コストと投資を正当に評価し、ステークホルダーの支持を得る必要がある

建設DXの初期段階での投資は高額になることもあり、その効果が表れるまでには時間がかかる場合も多いです。

このため、投資の対価としてのリターンを明確にし、経済的な正当化を行うことが課題です。

ROI(投資収益率)を計算し、継続的な効果測定を行うことで、投資に対する長期的な見返りを評価し、追加投資の意思決定に役立てる必要があります。

また、デジタルトランスフォーメーションの成果を内外に示すことで、ステークホルダーの支持を得ることも重要です。


まとめ

本記事では、建設DXの基本から、背景にある課題、メリットやデメリット、用いられている技術、事例、進め方、注意点、今後の課題などの情報を紹介しました。

建設DXとは、建設業界のさまざまなプロセスをデジタル化し、効率化する取り組みのことです。

そして建設DXは、人手不足や安全性の強化などの建設業界における多くの潜在的な課題の解決が期待されています。

しかし、その実現には技術の導入や運用における知識や技術の課題や、従業員が変革を受け入れ、新たな技術を活用するための支援体制の整備などが不可欠です。

より効率的で安全、かつ持続可能な未来を掴むためには、これらの壁を乗り越える必要があるのです。

そしてその挑戦の際には、本記事で紹介した情報が一助となれば幸いです。