リーンスタートアップとは?時代遅れと言われる理由と事例

リーンスタートアップとは、実用最小限の製品をいち早く市場に投入し、フィードバックの獲得と再構築を繰り返しながら製品を完成させていく開発手法のことです。

リーンスタートアップは、スピーディーに低コストで市場との適合性を探ることができるなどのメリットがある反面、最近では時代遅れと言われることもあり、実際のところどうなのか気になっている方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、リーンスタートアップの基礎や歴史、メリット、開発のステップ、事例、類似した開発手法との違いなどの情報を一挙にご紹介します。

リーンスタートアップに興味をお持ちの方は、ぜひご覧ください。


リーンスタートアップとは

リーンスタートアップとは、最小限のプロダクトから顧客のニーズを取得し、プロダクトを改善していき完成させるという過程を取るマネジメント手法です。

まず、最低限の機能で試作品を作って顧客に使用してもらい、データを収集します。

そして、データをもとにプラッシュアップを繰り返すことによって、顧客満足が得られるサービスを開発していく流れです。

「リーン」は贅肉のない、痩せたという意味です。

リーンスタートアップは、開発プロセスにおけるコストや時間のムダを排除したビジネスモデルであり、アイディア創出を目指したものではありません。

リーンスタートアップの歴史

リーンスタートアップを提唱したのは、アメリカ・シリコンバレーの起業家エリック・リースです。

2008年に自身のブログ「START UP LESSONS LEARND」で発表した考え方で、2011年に出版した書籍「リーンスタートアップ」はベストセラーとなり、世界中に広まりました。

リーンスタートアップが注目された理由は、需要が多様化する中でスピード感のあるプロダクトの開発ができるからです。

従来型の事業開発では事業計画を重視し、ある程度の時間をかけて確実性のあるもののみが事業化されていました。

しかし、この方法では、開発者の思い込みにより需要を把握できなかったり、開発までに時間がかかるため市場参入が遅れたりなど、失敗することがあるのが欠点です。

リーンスタートアップは需要を探り改善しながらの事業開発になるため、従来型の手法よりもスピーディーに、コストの無駄なく事業化ができます。

短期間での急成長を目指す、スタートアップと相性の良いビジネスモデルです。

リーンスタートアップ4つのメリット

次に、リーンスタートアップのメリットを4つご紹介します。

1.事業開発のハードルが下がる

リーンスタートアップのメリットは、コストを抑えられるため、事業開発のハードルが下がります。

2.需要に応えるプロダクトを開発できる

試作品の段階からいち早く顧客の声を拾い、改善を重ねていくため、需要に応えるプロダクトを開発できます。

3.スピーディーに事業展開できる

新規領域での事業展開をスピーディーに行え、市場で優位なポジションに立てるでしょう。

4.市場の変化に対応しやすい

また、改善を前提とした手法のため、市場の変化について行きやすい点もメリットです。

大きなコストをかけていないため、柔軟な対応ができます。


リーンスタートアップを実行する3つのステップ

リーンスタートアップは「仮説構築」「計測・実験」「学習・再構築」の3ステップを用いて進めていきます。
画像説明

1.仮説構築

事業のアイディアから仮説を立て、実用最小限の製品MVP(Minimum Viable Product)と呼ばれる実用最小限の製品を開発します。

スタートアップでは既存のビジネスモデルが存在しないため、仮説どおりにビジネスが進むとは限りません。

プロダクトの価値や成長性を見極めるために、リーンキャンバスというスタートアップ向けのフレームワークを活用し、短期間・低コストでMVPを製作し、仮説の検証を行います。

2.計測・実験

MVPをターゲットとなる一部の顧客に提供し、反応を確認します。

計測・実験はあくまでもMVPを用いて行うものです。

データを収集することが目的のため、プロダクトを作り込む必要も、キャンペーンをする必要もありません。

顧客の行動変化を見たり、コホート分析を行うことに価値があります。

3.学習と再構築

収集したデータをもとに、MVPをブラッシュアップするステップです。顧客から計画していたような反応が得られない場合には、原因を追求し、改善を図ります。

仮説どおりに行かず、ビジネスに大幅な変更が必要と判断される場合には、一旦元に戻って仮説そのものを変更して方向転換(ピボット)を図り、再構築を行います。

リーンスタートアップでは、再構築を前提としているためにあえてMVPを用います。

大きなコストをかけていないため、早期に何度も方向転換可能である点が、リーンスタートアップの強みです。

ただし、方向転換の際には当初の目的を見失わないように注意しましょう。


リーンスタートアップ3つの成功事例

リーンスタートアップの手法は、スタートアップや新規事業において多くの成功事例を生み出しています。本記事では、代表的な事例を3つご紹介します。

1.Instagramの成功事例

Instagramは、もともと「Burbn」という位置情報アプリとしてスタートしました。

アイディアの構築・計測・学習を繰り返すうちに「写真の共有機能が最も人気」ということを見つけ出したことで、2010年に写真投稿機能を持つSNSに方向転換してリリースされます。

現在では主要SNSのひとつにまで成長し、2022年時点において世界で15億人近くのアクティブユーザー獲得に成功しました。

Instagramではその後もリーンスタートアップのサイクルを繰り返しており、写真装飾をはじめ、ストーリーやショッピングなど、新たな機能を追加しています。

2.食べログの成功事例

価格コムが運営する「食べログ」は、日本でのリーンスタートアップの代表的な例です。

「食べログ」は、2005年3月に飲食店のデータベースサービスとして開発途中段階で公開しました。

当初の利用者は100人程度とわずかでしたが、掲示板を通じて届くユーザーの要望に可能な限り対応し、システムの改善に取り組みます。

その結果、当初はなかったレビュー機能を組み込んだ現在のスタイルとなり、日本最大級のグルメレビューサイトにまで成長しました。

3.Airbnbの成功事例

部屋を貸したい人と借りたい旅行者をマッチングさせるサービスのAirbnbも、リーンスタートアップの手法を活用した成功例として知られています。

当初はルームメイトのマッチングやエアベッドを貸し出すサービスでしたが、思うような成果が得られませんでした。

そこで、部屋を貸し出すのであれば貸し手も借り手も需要がある、予約が簡単であれば利用者が増えるという仮説を立て、MVPを作成し改善を図ったことで、現在の規模にまで成長したのです。


リーンスタートアップが時代遅れといわれる3つの理由

リーンスタートアップは、2020年代に入ったころから時代遅れと言われるようになってきました。

時代遅れとされる理由には以下3つの点が挙げられます。

1.どの業界にも適するとは限らない

リーンスタートアップは改善を繰り返しながらプロダクトを開発するため、顧客の需要や環境の変化が激しい業界には適していません。

特に近年では、情報インフラの発達にともない需要の移り変わりの速度が早まっています。

改善を待てる顧客は限られており、すぐに見切られてしまうでしょう。

また、改善できた時点ですでに需要が変化しており、すぐに次の改善が必要になってしまいます。

リーンスタートアップが注目を集めた2010年代と比べると、テクノロジーの進化により、2020年代のスピード感が桁違いになったことも影響していると考えられます。

研究実績が必要な準備に時間を要するプロダクトや、セキュリティ関連など、最低限の機能では顧客に不利益が生じるプロダクトなどもリーンスタートアップには不向きです。改善の機会が得られにくいプロダクトの場合も向かないでしょう。

2.最新技術を用いたプロダクト開発にはコストがかかる

リーンスタートアップでは、MVPの作成から検証、改善を繰り返してプロダクトの完成を目指すため、最新技術を用いたプロダクトの開発にはコストがかかり過ぎてしまいます。

資金面に限りがあるスタートアップにとっては現実的ではなく、従来型の開発が適するでしょう。

3.SNSの拡散力と相性が良くない

近年、急速にSNSが発達してきました。

そのため、顧客から評価の過程を得なくても、SNSで口コミを確認し、都度評価や修正が可能です。

また、最低限の試作品を公表した結果、悪評が広まってしまうリスクもあります。

そうなると、イメージを覆すことが難しくなるうえ、ブラッシュアップの機会も得られません。

さらに、早い段階で他社が参考にし、さらに良いプロダクトを開発してしまう可能性すらあります。

SNSがあるために、検証・改善を実践しにくくなったと言えるでしょう。


リーンスタートアップを活用できる4つの分野

時代遅れになったと言われるリーンスタートアップですが、事業によっては現在でも有効なビジネス開発手法です。

リーンスタートアップに向いている事業や分野として、以下が挙げられます。

1.Webサービス

Webサービスは、常にユーザー行動に応じて仮説や検証を繰り返して改善を行っていくため、リーンスタートアップの手法と相性が良いです。

2.業務改善に関わる分野

近年、業務効率化のためにRPAなどのITツールの導入が進められています。

これらの業務改善に関わるプロダクトは、導入前後で効果が見られないと、導入価値が評価されません。

そのため、試作品の利用から顧客の反応を見ながら改善を重ねてプロダクトを作り込む、リーンスタートアップによる開発が適しています。

3.セミオーダーメイドが必要な分野

セミオーダーでは、顧客の要望をプロダクトに反映させなければなりません。

しかし、実際のところは要望が曖昧であることは少なくないため、開発において試行錯誤は不可欠です。

顧客の反応をもとに改善を図って完成させるセミオーダーメイドが必要なプロダクトの開発においては、リーンスタートアップの手法を有効に使えるでしょう。

4.市場が予測できない分野

市場予測が難しい分野に参入する場合、事業開発に大きなコストをかけることにはリスクが伴います。

リーンスタートアップであれば、コストをかけずに市場の反応を見て需要を確認しながら、検証を繰り返すことが可能です。


リーンスタートアップ、アジャイル、ウォーターフォールモデルの違い

次に、リーンスタートアップと比較されることの多い、「アジャイル」「ウォーターフォールモデル」との違いについてご紹介します。

特徴リーンスタートアップアジャイル開発ウォーターフォールモデル
焦点主にスタートアップ企業や新製品の市場適合性を探求することにフォーカス。柔軟なソフトウェア開発にフォーカス。ソフトウェア開発における伝統的な手法。段階的なプロセスにフォーカス。
開発プロセス反復的な構築、測定、学習のループ。短い反復的なサイクル(スプリント)。連続的なフェーズ(要件定義、設計、実装、検証、メンテナンス)。
製品開発顧客のフィードバックに基づき柔軟に調整。進行の中でのフィードバックに基づき柔軟に調整。初期計画に基づき製品を開発。

アジャイル開発

アジャイル開発は、柔軟で迅速なソフトウェア開発方法のひとつで、短期間の反復的な開発サイクル(スプリント)を中心に構築されています。

アジャイル開発は変化に対応しやすい点ではリーンスタートアップと似ていますが、市場適合性を探るリーンスタートアップとは異なり、顧客の要求に応じて柔軟かつ効率的にソフトウェアを開発することを目的としています。

ウォーターフォールモデル

ウォーターフォールモデルは、ソフトウェア開発における従来のモデルです。

このモデルは、要件定義、システム設計、実装、テスト、デプロイメント、メンテナンスの順に進行します。

ウォーターフォールモデルは、一つのフェーズが完了してから次のフェーズに進むため、計画の変更が難しく、要件が明確で変更可能性が少ないプロジェクトに適しています。


リーンスタートアップの注意点

最後にリーンスタートアップで開発を行う際の注意点を3つご紹介します。

MVPは品質の低い製品ではない

MVPは、実用最小限の製品であり、品質が低い製品ではありません。

品質が低すぎる製品を市場に出すことは、顧客の期待を裏切りブランド価値を損なう恐れがあります。

過度なピボットは浪費につながる可能性がある

ピボット(方向転換)を行う頻度があまりにも多いと、低コストのリーンスタートアップと言えども資源を浪費する可能性があります。

適切なタイミングで意味のあるピボットを行うことが重要です。

長期的なビジョンを見失う恐れがある

短期的なフィードバックに基づく反復的な改善に集中しすぎると長期的なビジョンや戦略を見失う恐れがあります。

短期的なフィードバックに長期的なビジョンが振り回されすぎないようバランスの取れたアプローチを心掛けましょう。


まとめ

本記事では、リーンスタートアップの基礎や歴史、メリット、開発のステップ、事例、類似した開発手法との違いなどの情報についてご紹介しました。

リーンスタートアップとは、仮説構築、計測・実験、学習を繰り返すことで柔軟かつ迅速に市場適合性を探ることができる開発手法のひとつです。

はじめに最小限の製品を作り、早々に市場投入を行うことで、開発コストを抑えられるなどのメリットがあります。

しかし近年では、SNSなどの発展により、品質が低い初期段階のイメージが早期に拡散されてしまうなどのデメリットも浮き彫りになり、時代遅れと言われることも出てきました。

しかし、未だに予測の難しい市場などへの参入時などには有効な手段のひとつであり、過度なピボットなどの注意点に気を付けながら開発を行うことで、柔軟かつ迅速な開発が期待できます。

短期的なフィードバックに振り回され過ぎず、長期的なビジョンとのバランスをとりながら開発を行いましょう。

開発検討の際に、本記事の情報が一助となれば幸いです。