NTN(非地上系ネットワーク)とは?仕組みと従来の通信との違いを解説

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NTNとは、地上のインフラに依存しないで広範囲の通信を可能にする非地上系ネットワークのことです。

この技術を利用することで、地理的な制約を受けることなく全地球規模での通信が可能となり、遠隔地や災害時にも信頼性の高い通信を提供できます。

しかし、NTNは技術的な課題や高額な初期投資、国際的な規制の調整といった問題も抱えており、その実用化には様々なハードルが存在します。

そこで本記事では、NTNの基本概念、注目される背景、地上ネットワークとの違い、主なメリットと応用先、直面する課題、将来的な展望などの情報を一挙に解説します。

通信技術の未来に関心のある方は、ぜひご一読ください。


NTN(非地上系ネットワーク)とは

NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)は、地上の通信インフラに依存しない通信システムのことです。

このシステムは主に衛星や無人航空機(ドローン)、高高度プラットフォームステーション(HAPS)を使用して、地球のあらゆる場所にデータ接続を提供します。

NTNは、特に遠隔地や通信インフラが未整備の地域での接続性の向上に貢献し、従来の地上ベースのネットワークではカバーできない範囲を補完します。

この技術は、地上設備の制限を超え、高度な通信サービスを全地球規模で実現可能にします。

そのため、NTNは特に災害時の緊急通信や、国防、科学研究、そして世界中の未開拓地での新たなビジネスチャンスの開拓に不可欠な技術とされています。

またその多面的な応用可能性により、NTNは今後の通信技術の進化において重要な役割を担うとも考えられています。

参考:Beyond 5G(6G)とは?次世代通信技術の概要やビジネスへの影響を徹底解説│LISKUL


NTNが注目される背景にある3つの要因

NTN(非地上系ネットワーク)が注目される理由は、グローバルな通信ニーズの増大と、特定の地理的制約への対応能力にあります。

1.デジタル化の進展と地理的課題

NTNは、世界中でデジタル化が進む中、リモート地域や災害時における通信の確保が求められています。

これらの地域では地上ネットワークが損傷する可能性が高いため、非地上系の通信手段が必要とされます。

2.IoTと新技術の台頭

IoTの拡大や、自動運転車、ドローン配送などの新技術が登場し、大量のデータ交換が必要になっています。

NTNはこれらの技術を全地球規模でサポートするための重要な役割を担っており、それによって注目されています。

3.緊急時の通信と国防への貢献

NTNは、災害時の緊急通信や国防、科学調査など、地上のインフラに依存しない通信が求められるシナリオで重要な役割を果たします。

これにより、より安全で信頼性の高い通信環境が提供されることが期待されています。

参考:BCP対策とは?企業が知るべき基礎知識と策定方法をわかりやすく紹介│LISKUL


NTNと地上ネットワークの違い

NTN(非地上系ネットワーク)と地上ネットワークは、通信の範囲と信頼性において根本的な違いがあります。

NTNは、地理的な制約に左右されず、衛星やドローンを活用することで地球全体をカバーできます。また、災害時でも通信が途絶えない高い信頼性を持っています。

一方、地上のネットワークは物理的なインフラに依存しているため、自然災害によって破壊されるリスクがあり、特定地域のアクセスや災害復旧に限界があります。

項目地上ネットワーク非地上系ネットワーク(NTN)
通信の範囲限定的(地理的な制約がある)全地球規模でのカバーが可能
依存するインフラケーブルやアンテナなどの物理的インフラ衛星やドローンなど
災害時の影響自然災害により破壊されるリスクが高い災害の影響を受けにくく、通信が維持される

通信範囲が異なる

地上のネットワークは物理的なインフラストラクチャーに依存しており、ケーブルやアンテナなどの設備が必要です。このため、地理的な制約が大きく、山間部や離島など、アクセスが困難な地域ではサービスの提供が限られます。

対照的に、NTNは衛星やドローンを利用して地球のほぼ全域をカバーすることが可能です。これにより、どのような地理的条件下でも安定した通信サービスを提供することができます。

通信の信頼性が異なる

自然災害や物理的な障害物により、地上ネットワークは容易に影響を受けやすいです。

特に、地震や洪水などが発生した際には、通信インフラが破壊されるリスクがあります。

一方、NTNは地上の状況に左右されることなく運用が可能です。そのため、災害時でも連続した通信が保証され、緊急時の情報伝達手段として非常に信頼性が高いと言えます。


NTNのメリット

NTN(非地上系ネットワーク)は、そのユニークな通信方式により、地上ネットワークでは実現できない多くの利点を提供します。

ここでは、主要なメリットを3つ紹介します。

1.全地球規模での通信カバレッジ

NTNは地理的な制約に左右されず、地球上のほぼすべての場所で通信サービスを提供することが可能です。

このため、遠隔地や従来はサービスの届かない地域にも連結性をもたらし、世界中の人々と企業に新たな可能性を開きます。

2.災害時の信頼性

自然災害やその他の緊急事態で地上のインフラが損傷した場合でも、NTNは通信の継続性を保証します。

これにより、救助活動や復旧作業において重要な情報のやり取りが途切れることなく行えるため、非常に重要な役割を果たします。

3.未開拓地における高いコスト効率

特に新規にインフラを構築する必要がある未開拓地では、地上ネットワークの構築に比べてNTNを利用する方が、はるかにコスト効率が良いです。

衛星通信の設備投資初期費用は高いものの、長期的には大規模な地上設備の維持・更新コストが削減されます。


NTNの種類3つ

NTN(非地上系ネットワーク)には、その運用高度によって異なるタイプがあり、各々に特有の特性と用途があります。

主要な種類には、GEO(静止衛星)、LEO(低軌道衛星)、HAPS(高高度プラットフォームステーション)があります。

1.GEO(静止衛星)

GEOは地球上の特定の点に対して静止するように配置された衛星で、その位置が常に一定です。

このため、通信衛星や気象衛星として広く利用されており、広範囲をカバーできるため、テレビ放送や長距離通信に適しています。

ただし、地球からの距離が遠いため、信号の遅延が発生しやすいというデメリットがあります。

2.LEO(低軌道衛星)

LEOは地球に比較的近い軌道を周回するため、信号の遅延が少なく、高速な通信が可能です。

インターネット接続や携帯電話サービスに適しており、近年では多数のLEO衛星を使った通信ネットワークが展開されています。

しかし、カバー範囲が狭いため、広範囲をカバーするには多くの衛星が必要となります。

3.HAPS(高高度プラットフォームステーション)

HAPSは成層圏に位置する航空機や気球で、地上数十キロメートルの高さで長時間滞空することが可能です。

地上への近さから高速で安定した通信を提供し、災害時の緊急通信や地域限定のブロードバンドサービスに利用されます。

比較的低コストで導入でき、迅速に通信インフラを構築することが可能です。


NTNの応用先4つ

NTN(非地上系ネットワーク)はその汎用性と柔軟性から、さまざまな分野での応用が期待されています。

以下に、主要な応用先を4つ紹介します。

1.遠隔地域のインターネット接続

NTNは特に遠隔地や、従来の通信インフラが未整備の地域でインターネット接続を提供するために利用されます。

これにより、教育、医療、ビジネスなどの分野で地域格差を縮小し、より多くの人々が情報社会へのアクセスを得ることが可能になります。

2.緊急通信と災害対応

自然災害が発生した際、NTNは地上のインフラが損傷した場合でも、救助隊と被災者間の連絡を確実に維持するための手段として活用されます。

また、災害情報の迅速な収集と共有にも寄与し、効果的な救助活動をサポートします。

3.科学研究と環境モニタリング

NTNは、地球環境や宇宙の観測に必要なデータを収集する手段としても使用されます。

極地や海洋、熱帯雨林など、人が容易にアクセスできない地域での環境データを収集し、地球温暖化や生物多様性の研究に貢献します。

4.軍事と国防

軍事分野では、NTNを通じてセキュアな通信ラインを確保し、地理的な制約なく戦略的なコミュニケーションを行うことができます。

これにより、より効果的な防衛体制の構築と運用が可能になります。


NTNの課題3つ

NTN(非地上系ネットワーク)は多くの可能性を秘めている一方で、技術的、経済的、規制上の課題に直面しています。

これらの課題に対処することが、NTNの更なる発展と普及の鍵となります。

1.技術的な課題:信号の遅延と中断

NTNは、信号の遅延や中断が発生することがあり、これは特にリアルタイムでの通信が必要な用途において問題となります。

また、高密度な地域や悪天候の状況下では、通信の品質が低下することもあります。

2.経済的な課題:高額な初期投資と運用コスト

衛星の打ち上げや維持管理には膨大な費用がかかります。

これにより、NTNの利用が経済的に難しい場合があり、広範囲にわたる利用の普及を妨げる要因となっています。

3.規制上の課題:国際的な調整と法規制

NTNの運用には、国際的な周波数割当や衛星軌道の調整が必要です。

これにより、異なる国々の規制と調整を行う必要があり、複雑な法的課題が伴います。


NTNの将来的な展望

NTN(非地上系ネットワーク)は、技術的な進化と市場の需要拡大により、今後さらにその重要性を増していくと予測されます。

ここでは、NTNの将来に関する主要な展望を3つ紹介します。

1.新しい技術の導入によるセキュリティと効率性の向上が予想される

通信技術の急速な発展に伴い、さらに高速かつ効率的なNTNの実現が期待されています。

特に、量子通信やAIの統合により、セキュリティと効率性が大幅に向上すると見られています。

2.市場での需要拡大と多様な産業への応用が期待される

遠隔教育、テレメディスン、スマートシティ、自動車産業など、さまざまな分野でのNTNの応用が拡大しています。

これらの分野での実用化が進むにつれて、NTNの市場はさらに成長すると予想されます。

3.国際的な協力の促進が期待される

NTNのグローバルな利用を促進するためには、国際的な規制や協力体制の整備が不可欠です。

将来的には、より多くの国々が協力して、効果的なNTNの運用が可能な規制フレームワークの確立が進むことが予想されます。


NTNに関するよくある誤解3つ

最後に、NTNに関するよくある誤解を3つ紹介します。

誤解1:NTNはどこでも安定した通信を提供できる

多くの人々は、NTNが地上ネットワークと同様にどこでも完全に安定した通信を提供できると誤解していますが、実際にはNTNは地理的な制約から自由である反面、信号の遅延や中断の可能性も含んでいます。

これは主に、信号が衛星を介して地球に戻るまでの時間によるものです。

誤解2:NTNの設置と運用は簡単

NTNシステムの設置と維持には専門知識が必要であり、また、高額な初期投資が伴います。

衛星の打ち上げや管理は専門的な技術と厳格な国際的規制を必要とし、単純なプロセスではありません。

誤解3:NTNはすぐに普及する

新技術の採用と普及には時間がかかります。

NTNも例外ではなく、広範囲にわたる普及にはさらなる技術的進歩、コスト削減、規制の明確化が必要です。特に、初期コストが高いため、すぐには普及しにくいという現実があります。


まとめ

本記事では、NTN(非地上系ネットワーク)の基本的な概念、その重要性が高まっている背景、地上ネットワークとの主要な違い、NTNの主なメリット、さまざまな応用先、直面している課題、将来的な展望について一挙に解説しました。

NTNとは、地上のインフラに依存しないで広範囲の通信を可能にするネットワークシステムです。

このシステムは、遠隔地や災害時における信頼性の高い通信を提供することで、多くの注目を集めています。

そのメリットは、全地球規模での通信カバレッジの提供や、災害時の通信の確保などがあります。また、拡張性の高さもNTNの大きな利点の一つです。

さらに、NTNは遠隔教育、テレメディスン、環境モニタリング、軍事と国防など、多岐にわたる分野で応用される可能性があります。

しかし、技術的な課題、高額な初期投資と運用コスト、国際的な規制の調整など、解決すべき問題も多く存在します。

将来的には、技術革新と市場の需要の拡大、国際的な規制枠組みの改善が、NTNの普及と発展をさらに推進することが期待されます。

このように、NTNは通信の未来を形作る重要な技術であり、その発展が世界中のさまざまなシナリオでの通信の可能性を広げていくことでしょう。