BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、緊急時に事業を継続・復旧させるための計画です。
企業にとってBCP対策は、自然災害や感染症の流行などの予期せぬ出来事から事業を守り、継続させるために欠かせません。
とはいえ、「そもそもBCP対策ってよくわからない」「本当に自社でもやらなきゃダメなものなの?」と考えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
日本は世界的に見ても地震が多い国として知られていますが、近年はM5以上の地震が全国各地で起こっており、自社が被災する可能性も十分考えられます。実際に自然災害などによって経営破綻に追い込まれた企業も多く、決して他人事ではありません。
BCP対策は「備えあれば憂いなし」の意識が大事です。
本記事ではBCP対策の意味や、なぜ企業が取り組むべきなのか、策定の手順やリスク別の具体例などをわかりやすく説明しています。
BCP対策の重要性を理解したうえで、実際に策定するための基礎知識を押さえるためにも、ぜひご一読ください。
目次
BCP対策とは緊急時に事業を継続・復旧させるための計画
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)は、緊急時に事業を継続・復旧させるための計画です。
つまり、自然災害や事故など非常事態に直面しても事業を中断させない、中断したとしても速やかに復旧させるために計画をたてることを指します。
震災などの緊急事態が起こったとしても、経営面を考慮すると事業を止め続けることはできません。
限られた資源を活用して特に優先すべき事業を継続させ、そして可能な限り素早く復旧させるためにも、「BCP対策を練っておくこと」が重要です。
BCP対策が必要とされる背景
BCP対策は、予期せぬ出来事から事業を守り、継続させるために欠かせません。私たちの日常生活や事業活動を脅かすイレギュラーな出来事は、いつ起きてもおかしくないからです。
たとえば、地震や台風といった大規模な自然災害は毎年のように発生しています。内閣府によると、南海トラフ地震と首都直下地震は、今後30年以内に発生する確率が70%と言われています。
そのほかにも、事業推進に影響を与える状況は、新型コロナウィルスなどの感染症の流行(パンデミック)、社会情勢の変化(テロ・紛争、円安円高、通信障害などが挙げられます。
BCPは、こうしたさまざまな緊急事態が生じたときに被害を最小限に抑えるためのものです。
東京商工会議所の2023年の調査によるとBCP策定済みの企業は全体の35.0%(前回調査から少し増加)です。大企業は71.4%、中小企業は27.6%がすでに策定しています。
BCP策定を行っているか否かは、自社だけでなく取引先企業や消費者、周辺地域に住む人など多方面に影響を与えかねない重要な要素です。
いつ起きるか分からない事象に備えるBCP対策は、自社の事業を守るだけでなく、周囲から信頼を得る行動とも言えるでしょう。
参考:内閣府「防災情報のページ」│内閣府
「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」2023年調査│東京商工会議所
BCP対策を実施するときに重要なポイント3点
まずは、BCP対策を実施するときに重要なポイント3点を押さえていきましょう。
人命の安全確保
BCP対策において、最も重要なのは人命の安全確保です。
これは単なる建前ではなく、企業の存続と成長の根幹を成す要素です。なぜなら、従業員や顧客の生命が守られてこそ、その後の事業継続や復旧が可能となるからです。
人命を最優先に考えることは、従業員の安心感や信頼感にもつながります。そして、この信頼関係こそが、緊急時に組織が一丸となって対応するための土台となります。
優先順位の明確化
優先順位を明確にすることは、中核事業を定めて迷いなく動くための行動指針でもあります。
災害や緊急事態が発生した際、すべてのことを同時に対処することは不可能です。優先順位を決めることで、限られた時間とリソースを効果的に活用できるようになります。
BCP対策の目的
BCP対策の目的を明確にすることは、効果的な計画立案において重要です。
目的が明確であれば、具体的な行動計画を立てやすくなるからです。目的の共有は、組織全体の意識を統一させることにもつながります。
BCP対策を行った3企業の事例
本章では、BCP対策を実施した企業を3つご紹介します。
BCP(事業継続計画)は企業の存続を左右する重要な戦略ですが、その効果は実際の危機に直面するまで分かりにくいものです。
BCP対策を行っている企業の事例を通して、具体的にどのような取り組みをすればいいのか、どんな効果が見込めるのかを確認していきましょう。
BCP策定を通じて震災時に信用を向上させた新産住拓株式会社
熊本県で建設業を営む新産住拓株式会社は、災害対応マニュアルを作成してBCP対策を行っていた結果、熊本地震で3千件以上に及ぶ顧客からの電話や点検依頼に対応でき、顧客及び地域からの強固な信頼感を得られました。
具体的には下記のような対策が挙げられます。
- 社員の安否確認や指示伝達のため、メールに加えて安否確認アプリを活用
- 被災直後の初動対応を迅速化するため、応急処置に必要な物資を常備
- 電話対応マニュアルや被害受付表を作成し、被害調査や顧客対応を効率化
- 現場の裁量権を拡大し、部門長に予算や権限を委譲して迅速な対応を可能にする
実際に熊本地震では、BCPで行動指針を決めていたことで迅速に対応できました。売上よりも社員の安全確保を最優先にするとともに、既存顧客の復興を最大限優先したことで地域との結びつきが強くなったそうです。
参考:社員の安全と顧客のケアを最優先!企業信頼度アップへ│経済産業省九州経済産業局
BCP対策が自社のCS向上につながった株式会社ヒューモニー
電報・ギフト配送サービスを提供するヒューモニーは、コールセンター業務のBCP対策を強化しています。
災害や事故、システム障害など不測の事態が生じた際、ナビダイヤルのコール振り分け機能を活用して、業務を中断することなく柔軟に着信先を変更できる環境を構築しました。
そのほかの対策例は下記のとおりです。
- ナビダイヤルの導入によるコール状況の可視化と適切な人員配置
- 電話回線とデータ通信回線の分離によるアクセス障害リスクの低減
- 災害時のコール振り分け機能を活用した業務継続体制の構築
- 通信コストの削減と顧客サービス向上の両立
ヒューモニーは、蓄積したトラヒックデータを解析してさらなるBCP強化策を検討する中で、コールセンターの機能改善に成功しており、結果的に自社のCSも向上させています。
参考:株式会社ヒューモニーCS向上のためのコールセンター改革│株式会社ヒューモニー
全国各地の防災力を支えて好評価を受けたイオン株式会社
総合小売り業を中心に全国に約2万店舗を展開するイオングループは、東日本大震災以降、BCP(事業継続計画)に基づいて、被災地域を含む全国各地で防災対策を実施しています。
具体的な対策は下記5つを実施しています。
- エネルギー会社や地域行政、病院、大学、各エリアの民間企業などとの連携を強化
- 防災拠点の整備を進めて、店舗の地震安全対策や防災拠点化を推進
- 日用品メーカーなど約60社と連携し、物流強化の「BCPポータルサイト」を準備
- 発災直後30分間の行動計画を策定し、「イオングループ総合防災訓練」を定期的に実施
- 通信サービスの接続不良を解消するため、「イオンBCM総合集約システム」を運用
有事の際に地域のライフラインとなるべく、防災対策を進化させているイオングループは、2017年7月1日に災害対策基本法第2条第5号の規定により、内閣総理大臣から小売業で初めて「指定公共機関」として指定されました。
災害発生時における商品調達・物流網機能、一時避難所としての施設利用面でのライフラインなどが期待されており、企業のBCP対策が周囲にも好影響を与えて評価されることがわかります。
参考:イオンの防災~みんなでつくる、あんしんみらい│イオン株式会社
BCP未対策だった2企業の事例
本章では、前章とは異なりBCP対策が未策定だった企業の事例を2つご紹介します。
実際にイレギュラー事態が発生したときに、どのような影響を受けたかをご紹介します。
取引先企業の生産を大幅にストップさせた自動車部品製造業
ある自動車部品製造業は自動車の部品であるピストンリングの大手でしたが、中越沖地震に被災したことで、一時的に操業がストップしました。このとき、国内メーカーの5割が同社のピストンリングを利用していたことから、12万台以上が生産遅延・製造中止に追い込まれています。
このケースでは損失を受けた各自動車メーカーが共同で復旧支援を行ったため損失を最小限に抑えることができました。
しかし、これはトップシェアだった同社だからこそのレアケースです。競合が多いメーカーの場合は支援を受けることができず他社に受注を奪われ、経営破綻になってしまうケースも容易に想定できる事例と言えるでしょう。
被災後に業績が振るわず再生がかなわなかった水産加工販売業者
本社を東京都に構える水産加工販売業者は、東日本大震災で岩手県の自社工場が被災し、復旧に時間がかかったことで再生がかないませんでした。
同社は2003年に年売上高約145億円を計上していましたが、震災後も厳しい業績が続き、2017年の年売上高は約77億円にとどまっています。その後も業況は改善せず、民事再生法の適用を申請するもスポンサーが決まらない中で再生計画案の策定が困難となったため、2018年に再生手続き廃止決定を受けました。
本事例では、受けた損害の大きさや休業期間の長さが事業再開後の業績に関わりました。
自社が抱えるすべての拠点でのリスクを把握して、時間と資金のバランスを考えた事業計画を準備しておくことの重要性が分かります。
リスク別でわかるBCP対策の具体例
本章では、いつ起きるか分からないさまざまなリスク(自然災害、環境要因、市場経済、人為的、内部など)に対し、企業が取るべき具体的な施策や計画をご紹介します。
東京商工会議所によると、9割を超える多くの企業が地震を想定したBCPを策定していますが、あらゆる災害やリスクを想定している企業は12.8%しかありません。この現状は、多くの企業が地震以外のイレギュラー事態に対して脆弱であることを示しています。
参考:「会員企業の災害・リスク対策に関するアンケート」2023年調査│東京商工会議所
あらゆるリスクへの対策は、コストがかかると思われるかもしれません。しかし、一度起きてしまった後では、準備不足による損失は計り知れません。
従業員と会社の未来を守るためにも「備えあれば憂いなし」の意識のもと、自社のBCPに各リスクを含めることを検討するきっかけになれば幸いです。
1.自然災害: 地震対策の対策例
日本に住む私たちにとって、地震は最も身近で恐ろしい自然災害のひとつです。震災は、人命はもちろん、企業の物理的資産や事業継続能力に甚大な被害をもたらす可能性があります。
建物の耐震性確保、従業員の安全確保、重要データの保護、そして迅速な事業復旧まで、多様な準備が必要です。
- オフィスや工場などの建物が耐震基準を満たしているか確認し、耐震補強を実施する
- 社員に対して定期的に避難訓練を実施し、地震発生時の安全な避難ルートを周知する
- 水、食料、医薬品、懐中電灯などの非常用物資を全社員分備蓄する
- 重要なデータを定期的にバックアップし、地震の影響を受けない遠隔地に保存する
- 復旧支援業者と事前に契約を結び、建物や設備の早期復旧を確保する
参考:【2024年版/比較表付き】バックアップソフトおすすめ19選を比較!口コミも紹介│LISKUL
2.自然災害:台風・洪水の対策例
台風や洪水は、地震と並んで日本で頻繁に発生する自然災害です。
近年の気候変動により、その規模や頻度は増加傾向にあります。実際に、都市部など過去に浸水被害がなかった地域でも、地下施設の浸水や川の氾濫などが起きているため、他人事として捉えることは危険と言えるでしょう。
- 施設周辺の排水設備を強化し、浸水が想定される場合には防水扉やバリアを設置する
- 浸水リスクの低い地域に代替オフィスや生産拠点を設け、迅速に移行できるようにする
- 浸水が予測される場合に備え、車両や重要機器の移動計画を策定する
- 洪水被害に対する企業向けの保険に加入し、リスクを経済的にカバーする
3.環境要因:パンデミックの対策例
パンデミックは、新型コロナウイルスの世界的流行で明らかになったように、リモートワークへの切り替えなど企業活動に大きな影響を与える可能性があります。
パンデミック対策では、「感染防止」と「事業継続」の両立が重要となります。社員の健康を守りつつ、同時に事業を継続しなければならないからです。
単なる危機管理に留まらず、より強く、より柔軟な組織づくりの機会と捉えて対策に取り組むことをおすすめします。
- 社員が自宅からでも業務を遂行できるように、リモートワークのインフラを整備する
- マスク着用やソーシャルディスタンスの確保など、社内での感染防止策を明文化する
- 感染拡大に備え、休む社員が出ても代わりに対応できるように業務内容を記録しておく
- 経営への影響を最小限に抑えるため、取引先と事前に業務継続に関する取り決めを行う
参考:5分で総なめ!リモートワークを明日から実施するためのすべて│LISKUL
4.人為的:情報セキュリティの対策例
デジタル化が進む現代社会では、情報セキュリティにおける問題は企業にとって大きなリスクです。
サイバー攻撃だけでなく、人的ミスや内部不正によるリスクも高いため、万が一の事態にも迅速に対応できるようにセキュリティや社内教育が重要となります。
- 企業のネットワークを保護するため、最新のセキュリティソフトウェアを導入する
- 重要システムやデータへのアクセスに多要素認証を導入し、不正アクセスを防ぐ
- フィッシング詐欺やマルウェア攻撃への対策などのセキュリティ意識を高める教育を行う
- 企業のシステムを定期的に監査し、セキュリティの脆弱性を洗い出して改善する
- 重要なデータを定期的にバックアップし、サイバー攻撃によるデータ損失を防ぐ
- サイバー攻撃に対応できるインシデント対応チームを設置し、定期的に訓練を実施する
参考:【2024年最新版】セキュリティソフトおすすめ15選を比較!選び方も紹介│LISKUL
不正検知システムとは?基本的な仕組みと導入メリットを解説!│LISKUL
5.経済市場:市場の急激な変動の対策例
グローバル化が進む現代では、世界各地で起きた経済変動によって自社の事業に大きな影響を受ける場合があります。
市場の変動は予測が難しく、一つの市場や製品に依存していると大きな打撃を受ける可能性があります。被害を最小限に抑えるためにも、データに基づき素早く対応することが求められます。
- 単一市場や製品に依存せず、複数の市場に事業を展開してリスクを分散する
- 市場の急激な変動に備えてリスク管理計画を策定し、早期に対応できる体制を整備する
- 市場の変動をリアルタイムで把握し、データに基づく意思決定を行う
- 日常的なコスト管理を徹底し、必要に応じて無駄を削減して余裕を持っておく
6.内部リスク:社員の大量離職の対策例
優秀な人材の流出は、企業の競争力低下につながる重大なリスクです。
離職率が高いと採用や教育にかかるコストが増加しますし、ノウハウの蓄積が難しくなって企業の成長が停滞する可能性があるからです。
離職防止のためにワークエンゲージメントを高めて社員のモチベーションを維持することで、社員の満足度と帰属意識が向上し、結果として離職率の低下が期待できます。
- エンゲージメント向上施策(例:キャリアパスの明確化、スキルアップ研修)を実施する
- リモートワークやフレックスタイム制など、働きやすい環境を整備し、離職を防ぐ
- 従業員の不満や改善点を早期に把握するため、定期的に満足度調査を実施し、フィードバックを基に改善策を講じる
- 魅力的な福利厚生制度を導入し、社員が安心して働ける環境を提供する
- 公正で透明性のある評価制度を設け、評価に基づいた昇給やキャリアアップを実現する
参考:離職に歯止めをかける6つの防止策と離職率を下げた3つの成功事例
ワークエンゲージメントとは?高める方法や測定方法を丁寧に解説
BCP対策を策定するフロー
BCP対策を策定するために必要な要素を、5ステップに分けてご紹介します。
前提として、BCPは「策定すればそこで終わり」ではありません。
継続的に運用サイクルを意識し、修正を怠らないことが重要です。
参考:事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-│内閣府防災担当
1.優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
複数の事業を展開している場合、有事の際にどの事業を優先して復旧させるかを決めていきます。
優先すべき事業は、その事業を停止することで会社が受ける影響度から決定しましょう。主観的な判断にならないよう、複数の観点から影響度を見ていくことが大切です。
影響度を測る例としては以下のようなものが挙げられます。
- 売上高(売上率)
- 利益高(利益率)
- シェアへの影響
- 顧客の数
- 資金繰りへの影響
これらの要素を数値化して一覧表などに落とし込んで比較しましょう。
2.事業に必要な資源を調べる
優先事業を特定したら、事業を復旧させるために必要な資源(人員・資金・情報など)を調べていきましょう。事業を行う上で特に重要な業務を整理するために行います。
まずは事業継続に必要な業務を上げ、それぞれの業務を進める上でどんな資源が必要になるのかをまとめていきます。
そのうえで、資源の有無がどの程度業務に影響を与えているのかをまとめてください。その資源がなくなると業務が立ち行かなくなるのか、代替可能かなどの基準で影響度を網羅していきます。
業務への影響度が特に大きな資源は、事業継続におけるボトルネックになる可能性が高いので注意が必要です。
3.中核事業の目標復旧時間を定める
優先事業をどれぐらいの時間・レベルで、どの時点の段階まで復旧すべきかを決めていきます。これを目標復旧時間(RTO)・目標復旧レベル(RLO)、目標復旧時点(RPO)といいます。
まず業務軸(画像の縦軸)・時間軸(画像の横軸)で分けて、経営的に損失を許容できるラインを決めましょう。そのうえで、許容ラインを超えないためにはいつまでに復旧しなければならないか、どの程度のクオリティを維持しなければならないか、どの時点の業務まで復旧させるべきかを決めていきます。
目標時間は早ければ早いほど良いのですが、資源の再調達に時間もコストもかかることを忘れないようにしてください。資源の状況を加味して、達成が目指せる妥当な設定をしましょう。
4.復旧・代替策を用意する
どのように中核事業を復旧・継続させるかの戦略を用意していきましょう。前段階で定めたRTO、RLO、RPOを達成させるための具体策を検討するフェーズです。
戦略は、地震など想定できるリスクに合わせて対策を考えるのではなく、拠点の全壊など結果として起こる状況を軸に考えていきます。どのようなリスクにも対応できる汎用性の高い戦略が必要です。
どの事業に活用できるかをまとめ、汎用性の高さを評価していきましょう。もちろん戦略を1つに限定する必要はありませんが、備える際に少なからず費用がかかるので、費用対効果と合わせて、どの戦略を採用するか決定することがおすすめです。
事業を復旧させるための事前対策
事業をできる限り迅速に復旧させるために、事前に対策できる例は下記のとおりです。
- バックアップシステムの定期的な更新とテスト
- 従業員の役割分担を明確化し、緊急時対応チームを編成
- ITインフラの冗長化(クラウドベースのシステム導入)
- 重要データのオフサイト保存
- 事業継続計画(BCP)を文書化し、定期的に見直す
- 従業員の緊急対応トレーニングを実施
- 災害時のリモートワーク環境を整備
- 電力供給のバックアップ(発電機やバッテリ)を準備
- 通信手段(衛星電話やメッシュネットワーク)の確保
- 保険の見直しと適切なカバーの確保
- 地域の災害リスクに応じたハードウェアの保護(防水、防火対策など)
- 緊急時のパートナーシップを自治体や他企業と構築
リソースを確保するための事前対策
事業復旧においてリソースを確保するために、事前に用意できる例は下記のとおりです。
- 複数のサプライヤーと契約し、供給元を分散させる
- 他業界のサプライチェーンを活用する
- 中古品やリース品の調達を検討
- リモートワークに必要なリソースをクラウドベースで確保
- 地元の協力会社や自治体から緊急物資を調達
- 代替素材や製品の使用を検討し、事前にリストアップ
- スタッフの派遣サービスを活用し、臨時人員を確保
- コミュニティや業界団体とのネットワークを活用してリソースを共有
- 代替手段としてオンラインサービスやSaaSを利用
- 輸送手段が断たれた場合、ドローンや緊急配送業者を検討
- 再利用可能な資材や社内リソースの活用
5.BCPを策定する
戦略が固まったら、実際にBCPの策定に入りましょう。BCPの発動基準と発動時の体制を決め、文書として形にする段階です。
BCP発動の基準を明確にする
まず、どのタイミングでBCPを発動させるかをあらかじめ決めておきましょう。
発動基準を明確に定めておかないと、BCPが発動しているかわからず、各従業員がどのように対応すべきか混乱する恐れがあります。
BCPの発動は、優先事業のボトルネックとなる資源を基準に考えます。
被災によって事業を遂行するために必要な資源にどの程度の被害が表れるのか、その資源を再調達・代替するにはどの程度時間がかかるかなどから、発動基準を決めていきましょう。
- 震度4強以上の地震で、本社建物に明らかな損傷が確認された場合
- 河川の水位が警戒水位を超え、工場への浸水が予測される場合
- 工場敷地内の浸水が30cm以上に達した場合
- 顧客データベースへの不正アクセスが検知された場合
- 主要システムがダウンし、2時間以上復旧の見込みがない場合
- 主要サプライヤーが被災し、1週間以上の納品遅延が予測される場合
- 物流網の寸断により、製品の出荷が3日以上停止する見込みの場合
- 従業員の20%以上が感染症に罹患した場合
- 政府から緊急事態宣言が発出された場合
BCP発動時の体制を決める
緊急事態時に効率よく事業を復旧させるためには、BCP発動時の社内体制も明確にしましょう。
実際の緊急事態時に行う作業は多岐にわたります。そのために、復旧対策チームはもちろん、資金調達を含めた財務管理チーム、取引先や協力会社との連携を行うチーム、その他支援を行うチームなどが必要です。
実際にBCPを発動する際は経営者の指揮のもと、それぞれのチームがうまく機能していかなければなりません。
チームリーダーやメンバーをあらかじめ決めておき、どのような対応をすべきかをチームごとに事前に決めておくことも重要です。
BCPを文書化していく
これまでに決めた情報を、実際に文書に起こしていきましょう。
下記サイトでは、BCPを文書化するうえでのひな形がPDF・Wordそれぞれの形式でまとめられています。ひな形を利用しながら進めていくことをおすすめします。
BCP対策が実際に機能するための5つの要素
BCP(事業継続計画)を立てるとき、5つの重要な要素を見落とすと、計画に抜け漏れが発生するので注意が必要です。
各要素が相互に関連し合って機能することで、緊急時にも事業を継続できる体制が整います。
これらの要素を考慮せずにBCPを策定すると、実際に機能しない無意味な計画になってしまい、最悪の場合、企業の存続が危うくなる恐れがあります。
自社のBCPが5つの要素をしっかりと押さえているか、具体的な施策例や注意点とともにチェックしていきましょう。
1. 人的リソース
人的リソースを軽視すると、緊急時に従業員の安全が脅かされるだけでなく、事業の継続が困難になる可能性があります。
まずは、従業員の安全確保を優先しているか確認しましょう。具体的には、避難計画や安全マニュアルの整備、そして災害時の心理的なサポート体制の構築が必要です。
定期的な従業員教育と訓練も欠かせません。緊急事態に陥った時にぶっつけ本番でBCPを発動しても混乱をおさえられず、うまく機能しない可能性が高いです。いざという時に落ち着いて復旧活動に動けるように訓練しましょう。
具体施策例
- 詳細な避難計画の策定(建物ごと、フロアごとの避難経路や集合場所の明確化)
- 安全マニュアルの作成と定期的な更新
- 心理的サポート体制の構築(カウンセラーの確保、ホットラインの設置)
- 定期的なBCP研修の実施
- 実践的な避難訓練や緊急時対応訓練の実施
- e-ラーニングシステムを活用した常時学習環境の提供
注意点やコツ
- 訓練が形骸化しないように、想定リスクを毎回変更する
- 従業員が安心して業務に専念できるように、従業員の家族の安全確保も考慮に入れる
- 外国人従業員がいる場合は、多言語対応の準備を行う
2. 設備
設備の対策を怠ると、災害時に物理的な拠点を失い、事業の継続が不可能になる恐れがあります。被害が大きい場合は復旧に時間がかかり、市場シェアの喪失につながる可能性がある要素です。
具体施策例
- 建物の耐震補強
- 防水設備の導入(水害対策)
- 非常用電源の確保(72時間以上稼働可能なもの)
- 地理的に離れた場所に代替オフィスを確保
- クラウドサービスを活用したバーチャルオフィスの準備
- 提携企業との相互バックアップ協定の締結
注意点やコツ
- バックアップ拠点は定期的に使用して、いつでも切り替え可能な状態を維持する
- 地域特性に応じた対策を講じる(例:海沿いなら津波対策、山間部なら土砂災害対策)
- 重要機器の固定や配置にも注意を払う
3. 資金
緊急時に必要な資金の確保も、BCPの重要な要素です。災害や事故が発生した際、予期せぬ出費が必要になることがあります。そのため、緊急対応用の資金を事前に準備しておくことが大切です。
具体施策例
- 流動性の高い資産での準備金の確保(最低3ヶ月分の運転資金)
- 災害時専用の預金口座の開設
- クレジットラインの設定(銀行との事前交渉)
- 複数の資金調達手段の確保(銀行融資、社債発行、増資など)
- 緊急時の資金繰りシミュレーションの実施
注意点やコツ
- 定期的に資金需要を見直し、準備金額を調整する
- 税制優遇措置なども活用し、効率的な資金確保を心がける
- 保険でカバーできるリスクは積極的に活用する
4. 体制
適切な体制が整っていないと、緊急時に混乱が生じ、迅速な意思決定や行動ができず、被害が拡大する恐れがあります。
緊急時の指揮系統と役割分担を明確にし、従業員、顧客、取引先との迅速なコミュニケーションを可能にする体制を整えましょう。
具体施策例
- 緊急連絡網の整備(複数の連絡手段を確保)
- 社内SNSや専用アプリの導入
- 対外的な情報発信ルールの策定(誰が、どのタイミングで、何を発信するか)
- 緊急時対応チームの編成と権限の明確化
- 代行者を含めた指揮系統の確立
- 部署ごとの役割と責任の明文化
- 顧客への情報提供手順の策定
- 緊急時のサポート体制の構築
- クレーム対応マニュアルの整備
注意点やコツ
- 定期的な役割確認と訓練を実施し、いつでも機能する状態を維持する
- 現場の判断で迅速に動けるよう、一定の権限委譲を行う
- 外部パートナー(サプライヤーや協力会社)との連携体制も整える
5. 情報
情報管理が不十分だと、データ喪失によるビジネスの中断や、機密情報の漏洩による信用失墜など、深刻な事態を招く可能性があります。データの保護と復旧プランを確認しておきましょう。
具体施策例
- クラウドを活用したリアルタイムバックアップの実施
- 定期的なオフサイトバックアップの実施
- データ復旧手順の文書化と定期的な訓練
- 業界特有の規制の把握と対応策の準備
- プライバシー保護法制への対応(個人情報の取り扱いルールの策定)
- コンプライアンス違反を防ぐためのチェックリストの作成
- 四半期ごとのBCPレビュー会議の実施
- 外部環境の変化に応じた迅速な更新プロセスの確立
- BCPの実効性を検証する訓練の定期的な実施
注意点やコツ
- バックアップデータの復元テストを定期的に行い、確実に復旧できることを確認する
- 情報セキュリティ対策を常に最新の状態に保つ
- BCPの更新履歴を管理し、変更の理由や背景を記録する
BCPの簡易版「事業継続力強化計画」
中小企業・小規模事業者の方は、BCPの簡易版「事業継続力強化計画」からイレギュラー対策に取り組み始めることがおすすめです。
事業の継続性を確保するためには、企業の規模に関わらず、BCPの策定が重要です。
しかし、BCPは、モデルとなる策定・作成方法や計画書のフォーマットが存在しないため、策定・作成の負担が大きいというデメリットがありました。
そんな中、令和元年7月16日より中小企業強靭化計画が施行され「事業継続力強化計画」の認定制度が開始されました。主に、中小企業・小規模事業者を対象とした制度です。
事業継続力強化計画は「簡易版BCP」とも呼ばれ、BCPに含まれる、緊急事態発生時に即座に対応すべき実効性のある事項で構成されています。
作成方法や計画書の記入項目がフォーマット化されているほか、国からの認定を受けて補助金の優先採択などのメリットを享受できます。
事業継続力強化計画は、2日間で作成・策定し、認定を受けることが可能です。
まずは、申請に必要な書類や、認定により受けられる税制優遇などを確認してみましょう。
参考:「事業継続力強化計画書」の 策定から認定まで│中小企業基盤整備機構
BCP対策に活用すべきもの
BCP対策を行うときに、活用できる助成金やサービスを覚えておくと選択肢が広がります。
BCP対策に関する助成金
BCPに関する代表的な助成金は、都内の企業や企業団体が対象の「BCP実践促進助成金」です。
東京都および公益財団法人東京都中小企業振興公社により実施されており、中小企業者は助成対象経費の1/2以内、小規模企業者は助成対象経費の2/3以内で、最大1,500万円の助成を受けられます。
具体的な助成対象経費としては、「安否確認システム」「耐震診断」「クラウドサービスによるデータバックアップ」「従業員用の備蓄品」「感染症対策の物品」「基幹システムのクラウド化」などがあります。
そのほかにも、自治体によってBCPの助成金・補助金制度が利用できる場合があります。
- 神奈川県「BCP策定支援融資」
- 愛知県豊橋市「豊橋市企業BCP策定支援事業費等補助金」
- 静岡県「県内立地工場等事業継続強化事業費補助金」
- 新潟県長岡市「BCP・事業承継・経営改善補助金」
BCP対策に活用すべきサービス3選
抜け漏れなくBCP対策を進められるように、活用すべきサービスを3つご紹介します。
1.Spectee Pro:発生1分で被害状況がわかる危機管理サービス
AI防災・危機管理ソリューション「Spectee Pro」は、災害や事故などの危機情報をリアルタイムで可視化し、迅速な初動対応を支援するサービスです。発生から1分で災害や事故状況を可視化することができ、被害を最小限に抑えることが可能になります。
世界中のSNS投稿(画僧・動画)や気象情報、河川・道路カメラ、車のプローブデータなどの様々な情報源から、最先端のAI技術を活用して危機に関するデータを収集・解析し、専門チームによるファクトチェックを行ったうえで正確な情報をリアルタイムで配信しています。
- 全国の契約数は1000以上、圧倒的な国内シェアを誇る
- 世界中の危機情報から必要な事象だけを瞬時に把握できる
- 拠点周辺の被害状況を音声・メール・スマホアプリに通知してくれる
2.トヨクモ安否確認サービス2:安否確認や対策指示を一元管理できる
トヨクモ安否確認サービス2は、緊急時の安否確認だけでなく、その後の対策指示まで含めて活用できるサービスです。
一斉訓練やインフラの国際分散構成など、「緊急時に本当に利用できるサービス」を提供しています。
- 訓練レポートで自社の防災意識を自動で分析できる
- 初期費用0円で始めやすい
- 管理も運用もカンタンで使いやすい
- 事業継続計画(BCP)策定に必要となる連絡機能を複数搭載している
3.FIT-Cloud バックアップサービス:自然災害が少ない富山県でデータを保存する
https://www.hiss.co.jp/fit_cloud_backup
富山県にある北電情報システムサービス株式会社が提供する「FIT-Cloudバックアップサービス」は、「簡単に」「どこでも」「安全に」導入できるバックアップサービスです。
- 自然災害の極めて少ない富山県のデータセンターでデータを保管する
- バックアップサービスは2種類から選択できる
- データの復元先を選ばないので、他社クラウドにもOSを復元できる
まとめ
企業にとってBCP対策は、自然災害や感染症の流行などの予期せぬ出来事から事業を守り、継続させるために欠かせません。
「備えあれば憂いなし」の意識のもと、限られた資源を活用して特に優先すべき事業を継続させ、そして可能なかぎり素早く復旧させるためにも、「BCP対策を練っておくこと」が重要です。
本記事ではBCP対策の意味や、なぜ企業が取り組むべきなのか、策定の手順やリスク別の具体例などを丁寧に解説しました。
自社の事業を守るだけでなく周囲から信頼を得るためにも、BCP対策へ実際に着手する手立てとなれば幸いです。
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