昨今、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進する企業が増えています。
しかし、DX化に取り組みたい人の中には、「何からはじめていいかわからない」「何がDXなのかよくわからない」と思っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
その悩みを解消するには、概念ばかりを理解するのではなく、実際にDX化に成功した事例から成功した理由とそのプロセスを理解し、実際の行動に落とし込むことが必要です。
したがって、本記事では実際にDX化に成功した企業の事例から、成功している共通点を抜き出し、DX化導入の流れをステップ形式で具体的に解説しました。
記事を読み終わった後は、DX化を進めることができるようになります。
目次
DX化とはデジタル技術を使い顧客に付加価値や利便性を与えること
DX化とは、デジタル技術を使いこれまでは体験できなかった付加価値や利便性を実現することです。企業がデジタル技術によって、これまでの組織ではできなかった利益につながる新しいビジネスモデルを作ることができます。
また、コモディティ化した既存のビジネスモデルも、デジタル技術を組み合わせることによって新しい価値を創造できるようになるでしょう。ただ「新しい価値を創造する」というのは、どういう状態を指すのか明確にならないとDX化は実現できません。
そのためには、実際にDX化に成功している事例から学び、DX化によって実現したい会社のビジョンをより明確に具体化させることが重要です。
参考:デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?基本から取り組み方までわかる保存版
DX化のメリット
DX化によって得られるメリットとして、特筆すべきなのは以下2点です。
- 市場価値が弱まったサービスに、新たな価値を与えられる
- 競争力が身につきビジネスチャンスが生まれる
市場価値が弱まったサービスに、新たな価値を与えられる
DX化することで、市場価値が弱まった(コモディティ化した)既存のビジネスモデルに新しい付加価値をもたらすことが可能です。
つまり、安くするしか方法がないと思ってしまっている商品やサービスでも、デジタル技術と掛け合わせることで新しい商材に変わるかもしれないのです。
デジタル化、ITツールの力によって商品・サービスそのもの価値を高めたり、これまでは実現できなかった早さで届けられたり、AIが顧客の求めているものを提案してくれたり、と様々な付加価値をつけることができるからです。
そもそもコモディティ化が起こる原因は、同類商品の供給過多や、海外からより低価格な商品が流れてくるなどして発生します。価格競争による競合で利益を圧迫されるので、このような事態を避けるためには、既存の商品に新しい価値を作らなくてはいけません。
一度コモディティ化してしまうと、薄利多売の道へと進んでしまい資本力のある企業の独壇場となり、その商品やサービスに対して新しい働きかけができなくなってしまいます。
競争力が身につきビジネスチャンスが生まれる
DX化ができている企業とできていない企業では、これからデジタル化が益々進んでいく中、競争力に違いができることは明白です。デジタル技術を用いることで徹底的に業務は効率化され、先述したコモディティ化したビジネスの再生や、新しいビジネスモデルの誕生は加速度的に広がります。
例えば、顧客の動向を人が手集計し、Excelにまとめた数字を分析してから次のアプローチを決めるまでには数日かかってしまうかもしれません。しかしDX化された企業であれば、データ活用が日常的に行われ、リアルタイムで正確な情報のもと、すぐに改善できます。このスピードの違いが競争力の差となって明確に表れるでしょう。
DX化が実現することで、大小規模関係なくビジネスチャンスが生まれます。より早く進めることで他社との差別化にもなりブランディング強化にもつながるでしょう。
DX化に成功した3つの企業事例
アナログなものをデジタルに置き換えただけでは、DX化と言わずただのデジタル化です。以下の事例からもわかるように、デジタル技術を活用して顧客がアナログだけではできなかった体験、新しい価値を得られているものをDX化といいます。
モバイル予約と決済システムによってタクシーの常識を変えたUberの事例
DX化の事例として定番化しているUberの事例です。行きたい場所を指定し配車を希望すると、迎えに来るのは時間の空いていた一般人。スマホを活用することでドライバーと乗客の質を担保しサービスとして成り立たせました。
課題
課題からスタートではなく、Uberが仕掛けた新しい自動車配車サービスです。
取り組み・DXポイント
このサービスの仕組みは料金決済がアプリ経由なので、料金が不当に巻き上げられることがなく、さらに乗客とドライバーがそれぞれ評価できるようになっているので、不適切なドライバーや利用者は排除されるようになっています。
DX化のポイントは、スマホを前提としてデジタル技術によって構築され、これまでになかったまったく新しいモデルを作り出したことです。
成果
移動したい人は格安で移動できるようになり、一般の運びたい人は報酬がもらえるというこれまでにはなかった仕組みができました。
参考:Uberの事例からデジタルトランスフォーメーションについて考える / 池内 正晴
オンライン授業を無料開放して教育格差を是正した家庭教師のトライの事例
2015年にオンライン授業を無料解放し新しい学習サービス『TryIT』を展開しました。国内で唯一家庭教師業を全国展開しているトライが行ったDXは、家庭教師を派遣するビジネスから、コンテンツで学ぶ環境を提供するビジネスへと変化し成功しています。
課題
生徒によって学習のスピードが違うことに加えて、個々の生活スタイルが多様化したことで家庭教師が授業をする方法では学習効果が不十分であるという課題があった。
取り組み・DXポイント
時代の流れで中高生のスマートフォンの普及率も上がり、教育現場でもこの流れに即したサービスが必要だと考え、学習サービス『TryIT』にて無料映像授業サービスをスタートしました。
DX化のポイントはこれまでの教育概念を覆し、時間や場所関係なく自由に学べる環境を作ることに成功したことです。
成果
自社の認知度アップや会員数増加につなげ、会員登録者数は100万人を超え、定期テスト前になると数十万人が視聴する学びの定番のサービスとなりました。このモデルができたことによって、映像授業を専門とする塾ができるなど、新しいビジネスモデルとしても広がり、社会にも大きく貢献しています。
IoT薬箱で薬の飲み忘れを防ぎ病状の安定化に貢献した大塚製薬の事例
大塚製薬は錠剤にセンサーを埋め込み、薬の服用状況を判断するデジタルメディスンを開発し、患者の健康を守る取り組みをしています。ご紹介する事例はデジタル化された薬箱によって、患者の健康と家族の安心を守る結果につながった事例です。
課題
医師の指示通りに患者が薬を飲まないことが長年の課題としてありました。
取り組み・DXポイント
専用のプラスチック容器に通信機能付き服薬支援モジュールを取り付けることでIoT薬箱を作成。服用の時間になるとLEDが光り通知します。さらに箱から出したことをデータとして記録し、患者だけでなく、担当医師と家族も服用歴を確認できるようになりました。
DX化のポイントは、本人の健康管理だけでなく服用歴を見える化したことで、家族の安心や適切な医療計画を立てられることにまでつながった点です。
成果
服薬率の低下を抑えて病状の安定化につながった。患者のQOL(生活の質)向上や高齢者の場合は介護人負担の軽減が期待されています。
参考:大塚製薬のDX戦略を解説
企業事例からわかったDX化成功に共通する3つのポイント
DX化を成功させるためには、DX化に成功した事例から「なぜ成功したのか」という共通点からコツを導き出すことが確実です。
成功した企業事例には、以下の共通点があります。
- スモールスタートで小さな成功を積み重ねている
- デジタル化に合わないレガシーシステムから脱却
- 個人・部署ではなく会社組織単位で実行している
スモールスタートで小さな成功を積み重ねている
DX化に成功している企業の共通点は、まず社内のデータ活用によるスモールスタートから成功体験を積み重ねています。また、同様に多くの失敗も経験しています。
DX化を断念する原因の一つが「いきなり顧客体験の向上」に取り組むといった、すぐに大きな結果を求める行動です。DX化は大きな変革ですが、決して短期間に大きな結果を出すという魔法のような戦略ではありません。
DX化は企業にとって抜本的な業務改善ともいえる取り組みです。DX化に成功している企業は社内データを活用し、検証と改善を繰り返し小さな成果を積み重ねています。
参考: DX推進の一歩目にふさわしい業務とは?「デジタル・トランスフォーメーション入門」
デジタル化に合わないレガシーシステムから脱却
DX化に取り組んでいる企業は、既存のシステムに固執せず新しい仕組みを構築するためとの最適なシステムを取り入れています。古く老朽化したITシステムを使い続けることで業務は複雑化し、横断的なデータ活用ができないからです。
経済産業省も以下のように警鐘をならしており、DX化以前の問題として、新しいデジタルツールやシステムの導入の弊害となっていることは現実問題として存在しています。
・ 既存システムが、事業部門ごとに構築されて、全社横断的なデータ活用ができなかったり、過剰なカスタマイズがなされているなどにより、複雑化・ブラックボックス化
・ 経営者がDXを望んでも、データ活用のために上記のような既存システムの問題を解決し、そのためには業務自体の見直しも求められる中(=経営改革そのもの)、現場サイドの抵抗も大きく、いかにこれを実行するかが課題となっている。
古いシステムを使い続けることは人件費や管理費などのコストがかかり、加えてセキュリティに対するコンプライアンスも問われるでしょう。
DX化に成功している企業は、既存のシステムに固執せず新しい変革に相応しいシステムを取り入れています。
個人・部署ではなく会社組織単位で実行している
DX化を成功させている企業は、組織単位でデジタル化、DX化に向けた認識を統一しています。
課題や目標を明確にし、DX化を懸念する声や理解が追いついていない声があれば徹底的にケアし、全ての関係者が自分事として取り組めるようにしているのです。
DX化の胆となるデータ活用は、各部署を横断してシームレスにつながれることで効果を発揮します。DX化を推進している最中は目標意識の浸透度合いにはバラツキがあり、その点を推進リーダーがしっかりとケアしているのです。
DX化は既存の業務フロー、仕組み、顧客対応も含めて全てが大きく変わる取り組みになります。組織単位で取り組むことは、重要なポイントといえるでしょう。
参考:DXの最大の課題はデジタル化ではない。組織変革をいかに進めるか
DX化するための5つのステップ
これまでの前提をもとに、実際にDX化を推進していく流れを5つのステップ形式でまとめてました。Uberの事例を用いて具体的に解説していきます。
- ステップ1:業務にデジタルツールを採用するなどデジタル化が始まる
- ステップ2:デジタル化されたものを活用する
- ステップ3:データ活用のノウハウを共有する
- ステップ4:組織的な運用ができるように体制を整える
- ステップ5:新しいデジタル体制によって顧客へ新しい体験を提供する
参考:5つのステップで考えるデジタルトランスフォーメーション
ステップ1:業務にデジタルツールを採用するなどデジタル化が始まる
業務にデジタルツールを活用するなど、デジタル化の導入段階です。アナログで運用していた業務がデジタルに変わることで、データが蓄積されていくようになります。
Uberが、「アプリやクラウドの力を使ってタクシーの空車状況を把握した」のがこの段階です。
ステップ2:デジタル化されたものを活用する
デジタル化によって蓄積されたデータを実際の業務に落とし込み、効率良く活用する段階です。
それぞれのセクションにてデジタル化された業務の運用ルールを決め、蓄積されたデータをどのようにして有効的に使うかを、実行検証していきます。
Uberの事例ではあった「把握した空車状況をもとにマッチングサービスを始める」というのが該当します。
ステップ3:データ活用のノウハウを共有する
デジタルデータを活用して得られたノウハウや結果を、他のセクションにも共有し多方面でで応用できる基盤を作る段階です。
社内のあらゆる場所で、データ分析から仮説を立て、実施検証を繰り返して全社でデータ活用を当たり前にしていきます。
Uber「自動車配車サービスを外食に転用しUber Eatsを始めた」というのがこの段階です。
ステップ4:組織的な運用ができるように体制を整える
より効率良く運用ができるように、運用体制や全体の業務フローを組織単位で明確にし整える段階です。各データをデジタル資産として考え、社内の重要なリソースとして扱います。
デジタル部門に特化した専門セクションを立ち上げるなど、デジタル化が組織に定着している状態になれば、ステップ4はクリアしていると言えるでしょう。
例としているUberや、他にも事例をご紹介した家庭教師のトライや大塚製薬といった企業は、このステップ4の段階まで進めています。
ステップ5:新しいデジタル体制によって顧客へ新しい体験を提供する
組織化された新しいデジタル体制によって、顧客に新しいサービスや商品を提供していく段階です。デジタル化された新しい体制のもと、これまでできなかった顧客体験を提供していきます。
ステップ5まで進めば、既存のサービスに付加価値を加え、顧客の利便性やより充実した利用体験を提供できるようになり、早いスピードで変化していくデジタル社会に適応した競争力を身につけているはずです。
今後も様々なイノベーションを起こせる企業となり、DX化ができている状態と言えるでしょう。
まとめ
DX化とは顧客に新しい価値や体験をもたらすことです。アナログをデジタルに置き換えただけではDX化とは言えません。DX化すれば企業には競争力が身につき、テクノロジーの力を使うことで、終わりかけていた既存のサービスを発展させることもできるでしょう。
導入を成功させるコツは、古いシステムは捨てスモールスタートを意識することです。その上で、5つの導入ステップを参考にDX化を進めてください。
自社の現状を正しく理解してDX化に取り組み、新しいビジネスモデルを構築して顧客にこれまでにない感動体験の提供を実現させてください。