【5分で学ぶ】SXとは?持続可能性をビジネスの中心に

SX

SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)とは、企業が環境や社会の課題を解決しつつ、長期的な利益や価値を創出するための戦略的な取り組みのことです。

企業が製品やサービスの提供方法、内部運営、企業文化など、様々な要素に持続可能な実践を取り入れることで、環境負荷の低減と同時に、競争力の向上を目指します。

しかし、具体的にはどのようなメリットがあるのかや、GXやSDGsなどの似た言葉との違いがわからないという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、SXの基礎や、メリット、類似した語句との違い、成功させるためのポイント、今後の課題などの情報を一挙に紹介します。

SXの基本を押さえたい方は、ぜひご一読ください。

目次


SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)とは

SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)は、企業が環境、社会、ガバナンス(ESG)の面で持続可能性を追求し、長期的な利益や価値の創出をめざす取り組みのことです。

SXは、単に環境負荷を減らすことだけでなく、経済的にも繁栄するビジネスを構築することも目的としています。

企業が製品やサービスの提供方法、内部運営、企業文化などの様々な要素に持続可能な実践を取り入れることで、環境負荷の低減と、競争力向上の両立を目指します。

SXが注目されている背景

SXが近年、特に注目を集めている背景には複数の要因があります。

ここでは、中でも主要な要因を4つご紹介します。

1.環境問題が深刻化している

まず、地球規模での気候変動の加速、自然資源の枯渇、生物多様性の損失といった環境問題が深刻化しています。

これらは、企業が長期的に繁栄するためには無視できない課題です。

2.社会的な課題に関心が高まっている

さらに、社会的不平等の拡大や労働条件の悪化など、社会的な課題への関心も高まっており、企業に対してもこれらの問題に取り組むことが強く求められています。

3.ステークホルダーからの圧力が高まっている

投資家や消費者からの圧力も一因です。

彼らは持続可能な企業への投資や消費を優先する傾向が強く、これが企業に対してサステイナビリティへの取り組みを加速させる動機付けになっています。

4.技術の進歩による後押し

技術の進歩が新たなビジネスモデルを可能にし、持続可能なソリューションへの移行を促している点も見逃せません。

SX4つの目的

次に、SXの4つの主な目的について説明します。

SXの主な目的は、環境保護への貢献、社会的公正の促進、長期的な経済価値の創出にあります。

1.環境保護への貢献

SXの目的の一つは、企業が環境保護に積極的に貢献することです。

企業がこれらの取り組みを通じて環境に配慮したビジネスモデルを構築することで、温室効果ガスの排出削減、エネルギー効率の向上、資源の持続可能な利用、廃棄物の減少などが期待されています。

2.社会的公正の促進

SXは、社会的公正を促進することも目指しています。

企業が社会内で正義と平等を推進することで、より公平で持続可能な社会が実現できると考えられています。

この目標の達成には、従業員の多様性と包括性の強化や、公正な労働慣行の実施、地域社会との協力などが欠かせません。

3.長期的な経済的価値の創出

持続可能な成長と長期的な経済的価値の創出も、SXの重要な目的です。

新しい市場や機会の探求、イノベーションの加速を通じて、企業は持続可能な製品やサービスを開発し、新たな顧客層を獲得します。

これにより、企業は競争力を高め、長期にわたる経済的成功を確保することができます。


SXのメリット4つ

次に、企業がSXを実践することによって期待できる主要なメリットを4つご紹介します。

1.環境保全とコスト削減

持続可能なビジネスモデルへの変革は、エネルギーの効率化、廃棄物の削減、資源の持続可能な使用などを通じて、環境への負荷を軽減します。

これらの取り組みは、長期的に見れば運用コストの削減も期待できます。

エネルギーコストの低減や廃棄物処理費用の削減など、直接的な費用削減効果が期待できるほか、環境への配慮が消費者に認識されれば、ブランド価値の向上にも寄与します。

2.社会的責任の達成とブランドの信頼性向上

企業が労働環境の改善、地域社会への貢献、倫理的なサプライチェーン管理などの社会的責任を積極的に果たすことで、ステークホルダーからの信頼を獲得し、ブランドのポジティブなイメージを構築します。

特にミレニアル世代やZ世代の消費者間で、倫理的で持続可能な企業に対する支持が高まっている現在、このアプローチは顧客基盤を拡大し、長期的な顧客ロイヤルティを確保する鍵となります。

3.新しいビジネス機会の創出

サステイナビリティーへの取り組みは、新しい市場への進出や未開拓の顧客層へのアプローチなど、新たなビジネス機会を生み出します。

持続可能な製品やサービスは、環境や社会に配慮する消費者からの需要が高く、企業に新しい収益源を提供します。

また、持続可能性を重視する政府や非営利団体とのパートナーシップにより、補助金や税制優遇などのインセンティブを活用することも可能です。

4.リスク管理とレジリエンス強化

持続可能なビジネスモデルへの移行は、気候変動、資源の枯渇、社会的不安定さなど、グローバルなリスクに対する企業のレジリエンス(困難からの回復力)を強化します。

サステイナビリティに関する取り組みは、これらのリスクに先んじて対策を講じることを可能にし、企業が突然の市場の変動や規制の変更に柔軟に対応できるようにします。

また、長期的な視野に立ったリスク評価と管理は、投資家や貸し手からの信頼を強化し、資金調達の機会を広げることにもつながります。


企業のSXの取り組み事例

1.温室効果ガス排出削減に取り組むネスレ社の事例

食品・飲料を提供するネスレは、持続可能なサプライチェーン全体を実現し、ネットゼロ排出を達成するために、SXの取り組みを強化しています。2050年までにネットゼロ排出を実現することが目標です。

具体的な取り組み内容としては以下が挙げられます。

再生可能エネルギーへの移行

工場やオフィスのエネルギーを再生可能エネルギーに転換し、直接的な排出量を削減します。

サプライチェーンの効率化

物流や製造プロセスを最適化し、サプライチェーン全体での排出削減を進めています。

循環型包装の推進

再利用可能な包装材の採用や使い捨てプラスチックの削減に取り組み、廃棄物と温室効果ガス排出を抑制します。

農業生産の持続可能性向上

農家と協力し持続可能な農業実践をサポートすることで、温室効果ガス排出量を削減し、土壌の健全性を向上させます。

参考:温室効果ガス排出量実質ゼロのプレッジ(約束)から1年

2.環境保護に取り組むパタゴニアの事例

アパレルブランドの「パタゴニア」は、ビジネスの成長と環境保護の両立を実現するため、製品ライフサイクル全体での持続可能性に注力しています。

具体的な取り組み内容は以下のとおりです。

有機農業とリジェネラティブ・オーガニック

コットンなどの作物に対して有機農業を採用し、リジェネラティブ・オーガニック手法による土壌再生も推進しています。

再生可能エネルギーの活用

自社施設で再生可能エネルギーを利用し、温室効果ガス排出を削減しています。

製品のリサイクルとリペア

製品の耐久性を向上させるため、無料修理サービスを提供し、不要な製品のリサイクルも奨励しています。

環境保護団体への支援

売上の1%を環境保護団体へ寄付するプログラム「1% for the Planet」に参加し、世界中の団体をサポートしています。

参考:地球を救うことにコミットしたパタゴニアの特徴とSDGsへの取り組み – coki

3.2030年までに温室効果ガス排出をゼロにするためのIKEAの取組

家具・インテリア用品を提供するIKEAは「People & Planet Positive」戦略を基盤に、
企業成長と持続可能な社会の両立を目指し具体的な取り組みを進めています。その内容は以下のとおりです。

循環型経済の実現

製品デザイン段階でリサイクルや長期使用を考慮し、資源を効率的に使用できるようにします。

温室効果ガス排出量の削減

2030年までに自社活動の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするため、店舗、オフィス、サプライチェーンで再生可能エネルギーを活用し排出量を削減します。

サプライチェーンの公平性確保

多様性の推進、労働環境の改善、コミュニティへの貢献を重視し、サプライチェーン全体で平等な機会を提供します。

IKEA社はこれらの方針に基づき、企業成長と持続可能な社会の両立を目指し、具体的な行動を取っています。

参考:イケアのサステナビリティ戦略|IKEA【公式】 – IKEA


SXと似た概念との違い

前述のとおりSXは、企業が環境的、社会的、経済的な持続可能性を目指すための戦略的変革です。

この概念は、特に企業の長期的な成長と地球の持続可能性を両立させることに焦点を当てています。

しかし、SXと類似しているが異なる目的や焦点を持つ他の概念も存在します。

ここでは、SXとそれに似た概念であるDX(デジタルトランスフォーメーション)、SDGs(持続可能な開発目標)、GX(グリーントランスフォーメーション)との違いについて解説します。

概念焦点目的対象
SX (サステイナビリティー・トランスフォーメーション)環境的、社会的、経済的持続可能性持続可能な成長と地球の持続可能性の両立企業
DX (デジタルトランスフォーメーション)ビジネスプロセス、企業文化、顧客体験のデジタル化効率性、生産性、イノベーションの向上企業
SDGs (持続可能な開発目標)全世界の国々が取り組むべき17の目標貧困の撲滅、品質の高い教育、気候変動への対策など国家、地方自治体、NGOなど
GX (グリーントランスフォーメーション)環境保全に特化した企業の変革温室効果ガスの排出削減、エネルギー効率の改善企業

参考:デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?基本から取り組み方までわかる保存版
   GX(グリーントランスフォーメーション)とは?環境保全と経済成長を両立する取り組み

SXとDXの違い

SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)は、企業が環境的、社会的責任を果たしつつ、長期的な利益を追求する変革です。

対照的に、DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用してビジネスプロセス、企業文化、顧客体験を根本的に変えることに焦点を当てています。

DXの主な目的は、効率性、生産性、イノベーションの向上を通じて競争力を高めることです。

これら二つの概念は、それぞれがビジネスに異なる価値をもたらすものの、持続可能性とデジタル化の両方を組み合わせることで、より強力な変革を実現できる可能性があります。

SXとSDGsの違い

SXは特定の企業が自身の活動を持続可能なものに変えるプロセスを指します。

一方で、SDGs(持続可能な開発目標)は、国連が定めた全世界の国々が取り組むべき17の目標で、貧困の撲滅、品質の高い教育の提供、気候変動への対策など、幅広い分野にわたります。

SDGsは、個々の企業だけでなく、国家、地方自治体、NGOなど多様な主体が協力して取り組むべきグローバルな目標です。

SXは企業がSDGsの達成に貢献する方法の一つと見なすことができますが、より企業内部の変革に焦点を当てています。

SXとGXの違い

SXは経済的、社会的、環境的な持続可能性全般に関わる企業の変革を指します。

GX(グリーントランスフォーメーション)は、これに対して環境的持続可能性に特化した概念で、温室効果ガスの排出削減、エネルギー効率の改善、再生可能エネルギーへの転換など、企業が環境に与える影響を最小限に抑えるための変革を指します。

GXはSXの一部分と捉えることができ、持続可能性における環境面への取り組みを深化させるものです。


SXを成功させるためのポイント5つ

次に、SXを成功させるために注意すべきポイントを5つご紹介します。

1.明確なビジョンとコミットメント

SXの成功には、経営トップからの強力なビジョンとコミットメントが欠かせません。

持続可能な変革を実現するためには、企業全体が一丸となって目標に向かう必要があり、これは経営層が率先して示すべき姿勢です。

具体的な目標設定とそれを達成するための戦略が、変革への道を定めます。

2.ステークホルダーとのコミュニケーション

企業は、変革の過程で従業員、顧客、投資家、地域社会などのステークホルダーとの透明かつ開かれたコミュニケーションを維持することが重要です。

ステークホルダーの期待と懸念を理解し、それに応じたアクションプランを共有することで、信頼関係を築くことで、変革への支持を得ることができます。

3.継続的なイノベーションと学習

持続可能性への変革は一朝一夕に達成できるものではありません。

新たな課題や機会に対応するためには、継続的なイノベーションと学習が不可欠です。

変化に柔軟に対応し、持続可能な成長を維持するためには、新技術の採用、業務プロセスの改善、従業員のスキルアップなどの継続的な改善と進化が求められます。

4.持続可能なサプライチェーンの構築

SXを成功させるためには、持続可能なサプライチェーンの構築も欠かせません。

原材料の調達から製品の配送、廃棄に至るまでのプロセス全体にわたって、環境負荷の低減と社会的責任の実践を行うことで持続可能性は高まります。

これを実践するためには、サプライチェーン各段階での持続可能性の基準を設定したり、パートナー企業との協力も欠かせません。

5.ダイナミック・ケイパビリティ

ダイナミック・ケイパビリティ(Dynamic Capability)は、急速に変化するビジネス環境において、企業が持続的な競争優位を確保し、繁栄を続けるために必要な能力です。

この概念は、企業が外部環境の変化に対して、そのリソースとプロセスを迅速に再構築し、適応する能力を指します。

ダイナミック・ケイパビリティを構成する主要な要素には、感知(Sensing)、捕捉(Seizing)、変革(Transforming)があります。

感知(Sensing)

外部環境の機会や脅威を識別し、理解する能力です。

市場のトレンド、顧客のニーズ、技術的進歩など、外部環境の変化をいち早く察知することが重要です。

捕捉(Seizing)

感知した機会を実際に利用するための戦略を策定し、実行する能力です。

新しいビジネスモデルの採用、製品開発、市場参入戦略など、具体的な行動に移すことが求められます。

変革(Transforming)

既存のリソースやプロセスを再構築し、変化に適応する能力です。

組織構造の変更、文化の変革、スキルの再配置などを通じて、企業全体を柔軟に変革することが含まれます。

企業はこれらの要素に注目して、市場のニーズの変化に応じた新製品の開発や、新しい技術への対応、戦略の調整を行うことで、変化を成長の機会に変えることができます。


SXの課題5つ

次に、SXを実現する上で企業が直面する主な課題を5つご紹介します。

1.組織文化を変革することの難しさ

持続可能性への取り組みは、従来のビジネスモデルや組織文化と相反する場合があり、これを変革することは大きな課題です。

組織全体で持続可能性を価値観として共有し、それをビジネスプロセスに組み込むためには、強力なリーダーシップと従業員の積極的な参加が必要です。

2.短期的な利益を追求する圧力

SXの取り組みは、短期的な結果よりも長期的な価値創造に焦点を当てる必要があります。

しかし、短期的な利益を追求する圧力により、長期的な持続可能性戦略が軽視されたり、後回しにされるといったことは、多くの人に経験があるのではないでしょうか。

この課題に対処するためには、明確な長期目標の設定と、それに基づく意思決定プロセスの確立が必要です。

3.異なる利害関係にあるステークホルダーの期待の管理

多様なステークホルダーからの期待は、しばしば対立することがあります。

投資家、顧客、地域社会、従業員など、異なる利害関係者の要求を満たしつつ、持続可能性への取り組みを進めることは複雑な課題です。

透明性のあるコミュニケーションや、ステークホルダーとの積極的な関与が解決策となります。

4.継続的な教育や知識のアップデートが求められる

持続可能な変革を実施するためには、適切なリソースと専門知識が必要です。

特に中小企業では、これらの制約が大きな障壁となることがあります。

パートナーシップの構築、外部の専門家やコンサルタントの活用、従業員の継続的な教育とトレーニングが重要です。

5.法規制や標準の変化に対応する必要がある

環境法規制や持続可能性に関する国際的な標準は絶えず進化しており、これらの変化に適応し、コンプライアンスを維持することは、企業にとって大きな挑戦です。

最新の法規制や標準に対する継続的なモニタリングと、柔軟な対応戦略の策定が求められます。


SX推進に向けた政府の動き

経済産業省は、SXの実現に向けて2017年5月29日に策定した「価値共創ガイダンス」を、2022年8月31日に「価値協創ガイダンス2.0」へと改定しました。

価値共創ガイダンス2.0は、持続可能性や長期戦略の策定をサポートするためのフレームワークであり、建設的な対話を行うための共通言語としての役割も期待されています。

企業はこのガイドラインを活用することで、ステークホルダーや環境課題を解決しつつ、自社の持続可能性の向上を目指すことができます。

このように、政府もSXを推進するうえでの大きな壁である透明性の向上やコミュニケーションの促進をガイドラインの策定などを通じて支援しています。

参考:20220830_2.pdf


まとめ

本記事では、SX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)の基礎やメリット、課題などの情報を一挙に紹介しました。

SXは、企業が環境的、社会的、そして経済的な持続可能性を追求するための戦略的な取り組みです。

この取り組みを通じて、企業は長期的な利益と社会的価値の創出を目指します。

企業はSXを実践することで、環境への負荷低減や社会積な責任を達成するだけでなく、コストの削減や、ブランドの信頼性向上などの効果も期待することができます。

SXを成功させるためには組織文化の変革や、異なる利害関係を持つステークホルダーとのコミュニケーションなどが必要であり、これに対して政府も「価値共創ガイダンス2.0」を公表するなどの動きも見せています。

持続可能性は、今日のビジネス環境において避けて通れないテーマであり、企業が社会的、環境的責任を果たしつつ経済的な成功を収めるための鍵であると考えられます。

本記事で紹介した情報が、その一歩を踏み出す一助となれば幸いです。