会社設立は会社名の登録や所在地の確定など、やるべきことや決められた手続きがあり、当初想定しているよりも時間が取られます。まだ顧客も売上も不安定な時期のため、定型的な手続きは早く終わらせて事業に集中したいものです。
そのためには必要最小限の時間と労力で、効率的に進めていくことが大切です。本記事では会社設立後にやることについて、順を追って説明していきます。
かくいう筆者も、FP(ファイナンシャルプランナー)として2016年に個人事業主から法人化しました。会社設立においては、友人の司法書士と税理士を顧問に迎えたものの、個人事業主と法人では手続きの煩雑さが大きく違います。そのため、何をいつまでにやるべきなのかが分からず、苦労したことを覚えています。
今回は筆者の経験をもとに、会社設立後に必須でやるべき/やった方がよいことを解説します。会社設立後の手続きに着手する際の参考としてください。
目次
※本記事はGMOあおぞらネット銀行株式による寄稿記事です。LISKUL編集部監修のもと公開しています。
会社設立後は手続きを順序立てて進めることが重要
会社設立後の手続きは、手続きを行う場所によって必要な書類や提出期限が異なるため、それぞれを確認しながら対応することが重要です。
主な手続きは税務署・年金事務所にて行い、場合によってハローワークでの手続きが加わります。
なお各種手続きには、やらなくてはいけない必須の手続きと、場合により必要となる任意の手続きがあるため、本記事では両者を分けて説明します。
会社設立後にやることリスト
会社設立後に必要な手続きは、主に以下の6つです。
- 法務局に申請する書類・手続き
- 税務署に申請する書類・手続き
- 市町村役場に提出する書類・手続き
- 年金事務所に申請する書類・手続き
- ハローワークに申請する書類・手続き
- 労働基準監督署に申請する書類・手続き
まずは法務局の手続きなど、期限が定まっているものを先に対応するようにしましょう。
その後、健康保険や労働基準監督署といった手続きに移ります。労働関係の手続きなどは従業員を雇用した場合には必ず手続きしなければなりませんが、従業員には一刻も早く実務で活躍してもらえるよう、必要があります。
実務と手続きをどちらが優先するのか、両立は可能なのかを随時検討しましょう。
各手続きで具体的にやることをリスト化して紹介していきます。
法務局に申請する書類・手続き
法務局に申請する書類・手続きは下表のとおりです。
手続き名 | 必須か任意か | 提出期限 | 申請書類のひな型 |
印鑑カード交付申請書の提出 | 必須 | できるだけ早めに | 印鑑カード交付申請書|法務局 |
印鑑証明書交付申請書の提出 | 必須 | できるだけ早めに | 印鑑証明書交付申請書|法務局 |
登記事項証明書交付申請書の提出 | 必須 | できるだけ早めに | 登記事項証明書(会社・法人)を取得したい方|法務局 |
まずは法務局に赴き、法人設立の根幹である印鑑証明と法人登記を作成することが必要です。以降の税務署の手続きでも、法人登記の提出を求められる場合があります。
また印鑑証明の作成に合わせ、法人印の作成が求められます。多くの法人では、会社の代表印と法人口座開設の際に使用する金融機関(銀行)印を作成します。
そのほかに角版の法人印を作成する方も多いです。
印鑑カード交付申請書の書き方
※「印鑑カード交付申請書」(法務局)を加工して作成
印鑑証明書交付申請書の書き方
※「印鑑証明書交付申請書」(法務局)を加工して作成
登記事項証明書交付申請書の書き方
※「印鑑証明書及び登記事項証明書交付申請書」(法務局)を加工して作成
税務署に申請する書類・手続き
税務署に申請する書類・手続きは下表の通りです。
青色申告を適用する場合 | 従業員がいる場合 | 納期特例を申請する場合 | 申請書類の ひな型 | 備考 |
法人設立届出書の提出 | 必須 | 会社設立から2カ月以内 | 法人設立届出書|国税庁 | 定款・登記事項証明を提出 |
所得税の青色申告承認申請書の提出 | 任意 | 青色申告書による申告をしようとする年の3月15日まで | 所得税の青色申告承認申請書|国税庁 | 青色申告を適用する場合 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書の提出 | 場合による | 会社設立から1カ月以内 | 給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書|国税庁 | 従業員がいる場合 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書の提出 | 任意 | 適用したい月の前月月末まで | 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書|国税庁 | 納期特例を申請する場合 |
法人設立届出書は、国税の手続きをするために最寄りの税務署へ提出します。
法人設立届出書の書き方
※「法人設立届出書」(国税庁)を加工して作成
出典:国税庁「法人設立届出書」
市町村役場に提出する書類・手続き
市町村役場に提出する書類・手続きは下表の通りです。
手続き名 | 必須か任意か | 提出期限 | 申請書類のひな型 | 備考 |
法人設立届出書の提 | 必須 | 会社設立から2カ月以内 | 法人設立届出書|国税庁 | 都道府県県税事務所へ |
法人設立届出書は、地方税の手続きをするために都道府県県税事務所にも提出します。地方により、県税事務所ではなく市町村役場に法人設立届出書の提出が必要な自治体もあります。
自治体へ設立届を提出する際の注意点は、自治体によって締切日が異なることです。提出前に最寄りの都道府県税事務所の公式サイトをチェックしましょう。
年金事務所に申請する書類・手続き
年金事務所に申請する書類・手続きは下表の通りです。
手続き名 | 必須か任意か | 提出期限 | 申請書類のひな型 | 備考 |
健康保険・厚生年金保険 新規適用届の提出 | 場合による | 会社設立から5日以内 | 新規適用届|日本年金機構 | 会社として健康保険・厚生年金に加入する場合 |
健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届の提出 | 場合による | 被保険者になってから5日以内 | 被保険者資格取得届|日本年金機構 | 対象の従業員がいる場合 |
このように、会社自体の設立や納税に関連する手続きと、雇用する従業員に関連する社会保険面の手続き(雇用保険含む)に大別されます。当然、雇用する従業員がいない場合はこれらの手続きは不要です。
ただし、役員とはいえ代表取締役も年金に加入する必要があるので注意しましょう(※社会保険ではなく、個人として国民年金に加入する選択肢もあり)。
ハローワークに申請する書類・手続き
ハローワークに申請する書類・手続きは下表の通りです。
手続き名 | 必須か任意か | 提出期限 | 申請書類のひな型 | 備考 |
雇用保険適用事業所設置届の提出 | 場合による | 従業員を雇用した翌日から10日以内 | 雇用保険適用事業所設置届|ハローワーク インターネットサービス | 対象の従業員がいる場合 |
雇用保険 被保険者資格取得届の提出 | 場合による | 従業員を雇用した翌日から10日以内 | 雇用保険被保険者資格取得届|ハローワーク インターネットサービス | 対象の従業員がいる場合 |
参考:雇用保険手続きのご案内|ハローワーク インターネットサービス
労働基準監督署に申請する書類・手続き
労働基準監督署に申請する書類・手続きは下表の通りです。
手続き名 | 必須か任意か | 提出期限 | 申請書類のひな型(電子申請) | 備考 |
労働保険 保険関係成立届の提出 | 場合による | 従業員を雇用した翌日から10日以内 | 労働保険の電子申請について|厚生労働省 | 対象の従業員がいる場合 |
労働保険 概算保険料申告書の提出 | 場合による | 従業員を雇用した翌日から50日以内 | 主要様式ダウンロードコーナー (労働保険適用・徴収関係主要様式)|厚生労働省 | 対象の従業員がいる場合 |
就業規則(変更)届の提出 | 場合による | 従業員を常時10人以上雇用する状態になれば速やかに | 就業規則(変更)届|厚生労働省 | 対象の従業員がいる場合 |
適用事業報告の提出 | 場合による | 従業員を雇用したら速やかに | 適用事業報告の提出について|厚生労働省 | 対象の従業員がいる場合 |
時間外労働・休日労働に関する協定届の提出 | 場合による | 時間外労働・休日労働が発生したら速やかに | 時間外・休日労働に関する協定届(36協定届)|厚生労働省 | 対象の従業員がいる場合 |
会社設立後に税務署でやること
会社設立後に税務署でやることは、以下のとおりです。
【必須】法人設立届出書を提出
まずは客観的な法人設立の証明のため、税務署および自治体に法人設立届出書を提出します。
場合によっては行う手続き
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出
源泉徴収した所得税および復興特別所得税は通常、給与などを実際に支払った月の翌月10日までに納付しなければなりません。
ただし煩雑な申請作業のため、給与の支給人員が常時10人未満の源泉徴収義務者は、半年に一度まとめて納付することができます。この特例のための申請書を提出します。
青色申告の承認申請書を提出
年度末の税務申告を一定の基準を満たした帳簿で申告することで、最大65万円を特別控除できます。
この控除を利用するための手続きが青色申告の承認申告書です。
消費税課税事業者届出書を提出
一定の条件を満たす法人は、消費税の支払義務が生じます。このために行う事業者登録の手続きは、2023年10月から始まったインボイス制度とも深く関わってきます。
資本金または出資金1,000万円以上で会社を設立した場合は、消費税の新設法人となるため、速やかに「消費税の新設法人に該当する旨の届出書」を提出します。
1,000万円以下であっても、会社設立後の基準期間や特定期間の課税売上によっては適用対象となるため、注意しましょう。
消費税の新設法人に該当する旨の届出書を提出
設立する法人の資本金または出資金が1,000万円以上の場合、消費税の新設法人に該当する旨の届出書を提出します。
【必須】会社設立後に都道府県税事務所と市町村役場でやること
税務署では、国税関連の手続きを行います。法人は国税と地方税を納めなければならないため、地方税の申告手続きも必要です。
地方税納付の手続きは、各所の都道府県税事務所に赴いて行います。なお、自治体によっては市町村役場にも会社設立の届出が必要ですが、東京23区などは不要です。
会社設立後に年金事務所でやること
会社設立後に年金事務所でやることは、以下のとおりです。
【必須】健康保険・厚生年金保険 新規適用届を提出
まずは法人として、社会保険への新規適用届出を提出します。
【場合による】健康保険・厚生年金保険 被保険者資格取得届を提出
次に適用事業者として、従業員に被保険者資格を付与する取得届を提出します。
【場合による】会社設立後に労働基準監督署でやること
労働保険(労災保険)の対象になる従業員がいる場合、労働基準監督署にて関連する手続きが必要となります。
労働保険 保険関係成立届を提出
社会保険と同じく、労働保険の面でも法人として法人関係が成立するための申請書を提出します。
労働保険 概算保険料申告書を提出
申請時点の従業員状況を反映した保険料を概算で計算し、申告書を提出します。
適用事業報告書を提出
適用事業報告書とは、労働法のうち労働基準法という法律の適用を受けるようになった場合に、その事実を管轄の労働基準監督署に報告するための書類です。管轄する労働基準監督署に報告書を提出します。
就業規則(変更)届を提出
従業員との労働契約は自社で設定し、適用される就業規則にて定められる部分も多いです。その規則を客観的に可視化するためにも、労働当局に就業規則(変更)届を提出します。
労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書 兼 口座振替依頼書を提出
実務上保険料を納付するための口座振替納付書を提出します。
時間外労働・休日労働に関する協定届を提出
労働基準法による制約と関連する時間外労働や休日労働に関する協定届を提出します。
【場合による】会社設立後にハローワークでやること
雇用保険関連の手続きはハローワークで進めます。
雇用保険適用事業所設置届を提出
こちらも同じく法人として、雇用保険の適用事業所の設置届を進めます。
雇用保険被保険者資格取得届を提出
設置届と並行して、雇用する従業員に資格取得の手続きをします。
会社設立後は法人口座を開設しよう
もうひとつ大きな手続きは、法人口座の開設です。実際に事業が始まった際、法人口座がない場合は取引先からの信頼を得られにくく、売上金の受取にも不都合が生じます。
代表者の個人口座で代替することもできますが、上場企業や大手企業などと取引をする場合に入金口座に指定できないことも多いです。
法人口座は都市銀行や信用金庫、ゆうちょ銀行やインターネット専業銀行などさまざまな選択肢があるため、どこの銀行が良いか迷うこともあるでしょう。
以下の記事では、法人口座を開設できる銀行を比較していますので、ぜひ参考にしてください。
参考:【2024年最新版】法人口座を開設できる銀行おすすめ15選を比較!選び方も紹介│LISKUL
会社設立間もない企業が法人口座を検討する際は、多くの法人が「振込手数料の安さ」「24時間365日振込可能であること」「口座維持費が無料であること」という点を重視するというアンケート結果があります。
参考:「創業手帳」会員に法人口座開設アンケート実施 起業検討中&創業間もない企業さまが選ぶネット銀行 半数超がGMOあおぞらネット銀行を選択
この点を満たしているのはインターネット専業銀行であり、その中でも特にGMOあおぞらネット銀行の法人口座がおすすめです。各種手数料が安く口座開設の手続きもオンラインで完結できるため、多くの新設法人の口座開設実績があります。このような法人口座を活用し、事業を軌道に乗せていきましょう。
まとめ
会社設立後に必要な手続きや書類提出をまとめました。大きくは、税務署(県税事務所を含む)における手続き、年金事務所での手続き、ハローワークや労働基準監督署での手続きに分かれます。
従業員(制度により資格適用者・被保険者と呼称)によって変わりますので、迅速に進めていきましょう。その中で法人口座の開設も忘れてはならない手続きです。新規法人口座開設実績が豊富な銀行に依頼し、早急に準備することをおすすめします。
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