フリーミアムの勘所が5分でわかる!【成功事例6選と失敗事例2選付き】

新規事業を立ち上げる、もしくは立ち上げたい方にとってどうやってその事業をマネタイズするかは、非常に難しい問題です。数あるビジネスモデルの中で、Webサービスを提供する企業を中心に採用されているのが、フリーミアムです。

多くのサービスで採用されているフリーミアムですが、取り入れたことによって成功した企業も失敗した企業もあります。

本記事ではフリーミアムモデルを採用してマネタイズに成功した企業を6つ、失敗した企業を2つ取り上げ、皆様のフリーミアムについての理解を深めて頂きたいと思います。
今回ご紹介する企業の中には、日本未進出・進出準備中のものもあります。よその記事では読めない事例となっていますので、是非最後までお付き合いくださいませ。


1. フリーミアムとは

はじめにフリーミアムについて簡単に解説します。フリーミアムとは、基本的なサービスを無料で提供し、場合によっては広告収入で支えつつ、特別な機能やカスタマイズされた付加価値サービスを無償で提供するというものです。主にWebサービスやソフトウェア、コンテンツのような、無料で提供するコストがゼロに近い、Web上にて提供できるサービスで採用されているビジネスモデルです。

「フリーミアム」という言葉は、「フリー(無料)」と「プレミアム(割増)」を合わせた造語であり、米国のベンチャー投資家フレッド・ウィルソンがジャリド・ルーキンの発案をもとに提唱しました。

フリーミアム関連の本で一番有名なのが、『Free: The Future of a Radical Price』(邦題:フリー<無料>からお金を生み出す新戦略(NHK出版))です。本記事を読んでさらに知りたくなった方は、ぜひ読んでみることをお勧めします。


2. フリーミアムの成功事例6選

・Evernote プロダクトを極限まで良くすることがカギ!
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引用:EVERNOTE

ドキュメント保存・共有のサービスはEvernoteは、サービス自体をひたすら改善することによってフリーミアムを成功させた企業です。CEOフィル・リービンが「”I didn’t want a clever business model.” (以下 筆者訳:ずる賢いビジネスモデルなんていらなかった」、「 “I wanted a clever product. I wanted that product to reach hundreds of millions of people. And I wanted 99% of them to be using it for free.”(以下 筆者訳:私が欲しいのはユーザーがいやでも使いたくなるようなプロダクトが欲しかった。
私は何百万人もの人々に使われるプロダクトが欲しかった。そしてその99%の人たちに無料でプロダクトを使ってもらいたかった)」と言っているように、EvernoteはSEOやSEM、インセンティブを使ったマーケティングを一切やっておらず、口コミだけで広がったサービスです。

Evernoteの無料プランの利用を開始したユーザーのうち、30日後に有料プランに変更する率が0.5%、6か月で1%、2年後に6%になるそうです。このデータから、いかにプロダクトが素晴らしく、フリーミアムの成功の要因になっているかがわかります。

【参考】
GIGAOM┃Case Studies in Freemium: Pandora, Dropbox, Evernote, Automattic and MailChimp
Fast Company┃EVERNOTE CEO PHIL LIBIN’S 3 STEPS TO “FREEMIUM” SUCCESS
GrowthHackers┃Evernote – The $0 Growth Engine

・Dropbox フリーミアムは無料プランにかかるコストが全て!

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引用:ドロップボックス

個人向けストレージサービスとしてその名を知られるDropboxは、ユーザーにストレージの増量のインセンティブを無料で与えることによって、フリーミアムモデルで成功しました。しかし成功までには数々の失敗と挑戦があったようです。

Dropboxのフリーミアムは当初うまくいっていませんでした。はじめは検索型連動広告を活用してユーザーの獲得を行っていましたが、高いコストをかけてユーザーを獲得しているのにもかかわらず、有料プランを利用するユーザーを獲得できていませんでした。

そこで検索連動型広告でのユーザー獲得を諦め、既存のユーザーに対して「新規ユーザーを紹介してくれたら、ストレージの容量を無料で増やしますよ」というプロモーションを実施したところ、ユーザーを爆発的に増やすことに成功しました。そして、それらのユーザーの中でサービスを気に入ったユーザーが有料プランにアップグレードするという現象が起こり始め、フリーミアムで成功した企業と世間でいわれるようにまでなりました。

これらの経験を経て創業者でCEOのドゥルー・ハウストン氏はフリーミアムを賭博(a numbers game)と形容し、「“So the big lesson there is if you adopt a freemium business model your marketing cost is the free users.” (以下 筆者訳:もしフリーミアムを導入する場合、そのマーケティングにかかるコストはフリープランを使うユーザーであることを学んだ)」と述べており、いかにフリープランの運営にかかるコストを抑えられるかがフリーミアムのカギであることを強調しています。

【参考】
GIGAOM┃Case Studies in Freemium: Pandora, Dropbox, Evernote, Automattic and MailChimp
THE LEAN STARTUP┃CASE STUDIES

・New York Times 無料記事の本数制限が巧み!

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引用:NY Times

かの有名なNew York Timesもフリーミアムを取り入れ成功しているといわれています。New York Timesのフリーミアムのモデルはペイウォールと呼ばれていて、月に10記事まで無料で閲覧できて、それ以上読みたい場合はお金を払わなければいけないというようなものです。メディア業界が広告によるマネタイズに頼るところが多い中、New York Timesのでの成功は画期的といわれています。

2011年にペイウォールを始めた際、無料記事の本数は20本だったそうですが、購読者数が伸び悩んだため、10本に変更したそうです。以降、順調に購読者数が伸びるようになり、2013年12月時点で有料の購読者が76万人までに増えたそうです。

どれくらいまで無料でサービスを提供するかを決めるのは非常に難しいですが、このNew York Timesの例のように、ユーザーの反応を見ながら、フリーミアムの内容を調整するのも一つのやり方です。

【参考】
Harvard Business Review┃Making “Freemium” Work
FREEMIUM.ORG┃New York Times

・Spotify デバイスによる制限が成功の決め手!

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日本には未上陸ですが、海外で大人気の音楽ストリーミング配信サービスSpotifyも、フリーミアムで成功しています。成功の要因は、スマホで利用する際の機能を巧みな制限にあります。

制限の例として、自分が聴きたいアルバムを指定して聴けなかったり(聞きたい曲が入っているプレイリスト等は聴けるそうです)、オフラインで聴けなかったりというのがあります。特定のアーティストやバンドのファンという音楽が大好きな人たちは、この制限に我慢ならず、有料プランに移行するようです。

2014年11月時点で、1,200万人以上のユーザーが有料会員で、その大多数は27歳以下だそうです。おそらくそのほとんどがスマホをメインにサービスを使っていると考えられるため、Spotifyのデバイスによる機能制限の戦略はうまくいっているといえます。

【参考】
MASHABLE┃Spotify’s Free Mobile Offering: Everything You Need to Know
Billboard┃The Good and the Bad of Spotify Founder Daniel Ek’s Streaming Defense
Techcrunch┃Spotify Introduces Family Plan, Starting At $14.99 Per Month For Two Members

・Udacity 市場での価格が高いものを無料にすることで成功!

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引用:UDACITY

Udacityは、最近日本にも進出してきている注目のオンライン教育のプラットフォームです。シリコンバレーの企業、シリコンバレーの起業家、有名大学教授が協力してつくったテック系の授業(プログラミング、アプリ制作、データサイエンティスト、人工知能等、多種多様)をネットさえあればいつでも学べます。

Udacityのフリーミアムの成功要因は、サービス自体にあるといえます。一般的にテック系の教育を正式な教育機関で受けるにはかなりの費用を要しますが、Udacityでは無料で学べるということで、圧倒的な数のユーザーを獲得しているようです。

そんな彼らのマネタイズ方法は、ユーザーに各コースの修了証明書の発行です。ただのコースの修了証明書ならいマネタイズに成功することは難しいかもしれませんが、シリコンバレーのブランドと圧倒的な数の無料ユーザーを獲得することによってマネタイズに成功しています。

【参考】
FORTUNE┃In conversation with: Sebastian Thrun, CEO, Udacity
Wikipedia┃Udaciy
Udacity

・MailChimp 無料ユーザーと有料ユーザーの割合は10:1

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引用:MailChimp

MailChimpは海外で有名なメール配信サービスで、フリーミアムを取り入れています。フリーミアム導入から1年間で30,000人の新規の無料プランユーザーと、4,000人の有料プランのユーザーを毎月獲得したそうです。共同創業者のベン氏によると、有料ユーザーと無料ユーザーの比率は10:1だそうです。

もともとのこの数字はベン氏がはじき出したものではなく、フリーミアムを取り入れたあらゆるビジネスを研究した人が出した数字だそうですが、MailChimpの無料・有料の会員比率もこの例外ではないそうです。

ベン氏曰く、フリーミアムを成功させるには、フリーミアムをやらずとも、お金を出してサービスを買ってくれるユーザーをたくさん増やすことが肝心だそうです。理由としては、フリーミアムにしてもユーザーが有料でサービスを使ってくれる保証はなく、フリーミアムでマネタイズをしようともがいているうちは、誰かに(VC等に)お金を借りなければならない状況になってしまうからだそうです。

先程の10:1の法則でいうと、1にあたる有料会員がフリーミアム導入前にどれくらいいるかが成功するかどうかが鍵のようです。

ちなみにMailChimpは創業時(2001年)から2009年まではフリーミアムを導入していませんでした。導入までは、値段に関してのABテストを何度も何度も繰り返しつつ、有料の会員を増やしていったそうです。

【参考】
MailChimp┃Going Freemium: One Year Later
Venture Beat┃MailChimp’s hard lesson in freemium business model: spammers love it
Inc┃interview with Ben Chestnut, the CEO of MailChimp


3. フリーミアムの失敗事例2選

・PANDORA 有料プランをうまく差別化できず失敗①

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引用:Pandora (日本では利用不可)

アメリカで人気のオンラインパーソナルラジオサービスであるPandraは、フリーミアムでうまくいかなかった例としてよく取り上げられます。当初、一ヶ月36ドルで10時間のストリーミングが無料というフリーミアムのサービスでしたがうまくいきませんでした。その後、いくつかのフリーミアムモデルを試したそうですが、あまりうまくいかなかったそうです。

最終的には、ストリーミングの時間制限をとりはらい、基本的なサービスは全て無料にして、広告からに収入を得るモデルに切り替えました。有料会員は全体のユーザーの1%以下に落ちてしまったものの、ページビュー数が圧倒的に多く、広告収入が入るため、ビジネスはうまくいっているようです。

・Chargify LLC有料プランをうまく差別化できず失敗②

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引用:Chargify

アメリカで支払い請求管理ソフトウェアを生産・販売するChargify LLC はであり、フリーミアムを取り入れ、中小企業をターゲットとしてサービスを提供し始めました。フリーミアムの内容としては、50人以上の顧客に請求書を送付する場合に課金がされるというものでした。しかしながら、ユーザーが有料プランを使うことはなく、1年も経たずに破産の道をたどり始めたそうです。

結局、無料プランをなくし(デベロッパー向けの無料プランはあり)、料金プランの数をたくさん増やし、どのような規模感の企業に対しても課金をする仕組みにしました。もともと製品自体が良いもののため、ユーザーも離れることはなく、現在は順調にビジネスをしているそうです。

【参考】
Wall Street Journal┃When Freemium Fails


4. 事例の分析

成功事例と失敗事例を合計8つ見てきましたが、フリーミアムを検討する際、下記の3つのことを考えなければいけないようです。
①サービス・プロダクトに関する市場
②無料プラン運用のコスト
③有料プランと無料プランの差別化

①に関しては、サービス・プロダクトに関して市場ができていない、もしくは市場の黎明期であるかを見極めるということです。市場ができていない場合、フリーミアムをやる意義はかなりあると思われます。

②に関してですが、フリーミアムを導入した場合、有料会員がある程度増えてお金を落としてくれるようになるまで、無料プランを運用し続ける資金力があるかということです。

最後に③ですが、当たり前ですが、有料プランと無料プランの明確な差別化はなされているかということです。無料プランで事足りてしまう場合、ユーザーは有料プランを使いません。ただ無料プランを制限しすぎると、ユーザーが離れていってしまいますので、トライアンドエラーを繰り返して最適な差別化をする必要があります。


5. まとめ

いかがでしたでしょうか。フリーミアムの全体像と要所がご理解できましたでしょうか。新規事業を立ち上げる、もしくは立ち上げを検討中の方に少しでもこの記事がお役に立てば幸いです。

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