リスキリング補助金とは、従業員が教育訓練を受ける際の費用を、企業や政府が支援する制度です。
社員のスキルアップを企業としての成長に繋げたい、しかしそこに充てるためのコストに余裕がない場合は、積極的に活用することをおすすめします。
本記事では、リスキリング補助金とは何なのか、そして活用する際の注意点などを解説します。リスキリング補助金について理解したうえで前向きに検討するためにも、ぜひ参考にしてください。
※本記事では主に、厚生労働省による人材開発支援助成金を紹介しています。
※本記事の内容は、2024年12月の時点での情報をもとに解説しています。
目次
リスキリング補助金とは?
リスキリング補助金とは、労働者が新たな技能や知識を習得するにあたって、教育訓練を受ける際の費用を企業あるいは政府が支援する制度です。
最大のメリットとしては、受講費用を抑えてスキルを身に付けられることが挙げられます。その他にも、企業の人材不足解消や業務の効率化、エンゲージメントの向上などにより、企業の成長に繋がることが期待できます。
企業としてはコストを抑えて労働者を育成できる、そして労働者にとっても支援を受けつつスキルアップを目指せる点は魅力といえるでしょう。
なお、補助金制度を利用するには企業や個人事業主からの申請が必要で、内容に基づいた審査により使用の可否が決定されます。
リスキリング補助金の使い道としては、主に以下が挙げられます。
- 専門家へのキャリア相談
- リスキリング講座の受講(Webデザイン・動画制作・プログラミングなど)
- リスキリングを目的とした訓練の実施
参考:リスキリングとは?言葉の意味と8つの事例から学ぶ推進のコツ
リスキリングに活用できる補助金・助成金の一覧表
リスキリングに活用できる補助金や助成金のうち、主要なものを紹介します。
以下表に挙げたもの以外にも地方自治体が提供する補助金や助成金があるため、居住地域の情報もあわせて確認してみてください。
※以下表は2024年12月時点での情報です。
補助金名 | 金額申請期限 | 対象 | 実施期間 | 対象となる内容 | 助成額・助成率 |
---|---|---|---|---|---|
人材開発支援助成金 | 訓練終了日の翌日から起算して2ヵ月以内 | 雇用保険法第4条に規定する被保険者のうち、契約社員や派遣社員、短時間労働者などを除いた労働者(正規雇用の従業員) | 令和8年度まで | 人材育成訓練、認定実習併用職業訓練、有期実習型訓練 | 経費助成:1人1時間あたり760円(中小企業以外は380円) 賃金助成:45%~70% |
特定求職者雇用開発助成金 | 6ヵ月の支給対象期間を経過した翌日から2ヵ月以内 | 高齢者、障害者、母子家庭の母、就職氷河期世代など就職が特に困難な方 | 6ヵ月間 | 成長分野等人材確保・育成コース | 90万円(75万円)、180万円(75万円)、360万円(150万円) ※()内は中小企業事業主以外に対する支給額 |
リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | 令和6年2月28日(水曜日)~令和6年4月10日(水曜日)正午 | サービス登録時・キャリア相談時の在職者、転職希望者 | 記載なし | キャリア相談、リスキリング講座、転職相談、職業紹介 | 1人あたり平均24万円 |
ものづくり補助金 | 通年 | 中小企業者、中小企業組合、特定非営利活動法人 | 最大10ヵ月 | 一般形(通常枠、回復型賃上げ・雇用拡大枠、デジタル枠、グリーン枠)、グローバル展開型 | 助成額最大1,250万円、助成率1/2 |
IT導入補助金 | 要問合せ | 資本金・常勤従業員数が規定以下の中小企業者、複数社連携IT導入枠では商工団体・まちづくり団体 | 4ヵ月~8ヵ月 | 通常枠、インボイス枠、セキュリティ対策推進枠、複数社連携IT導入枠 | 助成率1/2~4/5、助成額最大450万円 |
リスキリングに活用できる人材開発支援助成金のコース一覧
本章では、リスキリングに活用できる人材開発支援助成金のコースについて解説します。
- 事業展開等リスキリング支援コース
- 人材育成支援コース
- 人への投資促進コース
- 教育訓練休暇等付与コース
人材開発支援助成金は厚生労働省の管轄でおこなわれており、要件を満たした企業が従業員に対し、職務に関連する知識やスキルを習得させるために職業訓練をおこなった場合にその費用の一部を国が助成する制度です。
特定分野の人材がいない、DX専門の知識がない、新しい人材を雇用できないといった悩みや課題を抱えている企業は、人材開発支援助成金により効率的に解決できるでしょう。
なお、それぞれの人材開発支援助成金の申請は、以下4つのステップで進みます。
- 訓練計画書を作成・訓練実施の1ヵ月前までに労働局へ提出する
- 訓練計画書に沿って訓練を実施する
- 訓練終了の2ヵ月後までに助成金支給の申請書を労働局へ提出する
- 審査が完了すると助成金が受給される
人材開発助成金は訓練計画書や申請書に期限が定められているため、必ず期限内に提出してください。
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは新規事業の立ち上げなどの事業展開に伴い、事業主が雇用する労働者に対して新規分野で必要である知識や技能を習得させたい場合に経費や賃金の一部を助成する制度です。
「職業能力開発推進者の選任と事業内職業能力開発計画の策定と周知をおこなっている事業主」が対象となるため、職業訓練実施計画届の提出までに対応が必要となります。
期日までに必要な手続きをおこなわない、あるいは要件を満たさない場合は、申請がスムーズに通らず、支給されない可能性が考えられます。そのため、申請前に必ず必要な手続きや支給要件を確認しておきましょう。
なお、事業展開等リスキリング支援コースは令和4年~8年度の期間限定助成となります。
項目 | 内容 |
---|---|
コースの正式名称 | 事業展開等リスキリング支援コース |
目的 | 新規事業の立ち上げなど事業を展開するにあたり、事業主が雇用する労働者に対して新たな分野で必要な知識・技能を習得する |
対象者(事業主) | ・雇用保険適用事業所の事業主である ・労働組合等の意見を聴いて事業内職業能力開発計画およびこれに基づく職業訓練実施計画届を作成し、その計画の内容を労働者に周知している ・職業能力開発推進者を選任している ・当該従業員に対して賃金を適正に支払っている など |
対象となる従業員 | ・訓練等を受講させる事業主の事業所において被保険者である ・訓練を受講した時間数が、実訓練時間数の8割以上である など |
対象経費 | ・部外の講師への謝金、手当 ・部外の講師の旅費 ・施設、設備の借上費 ・学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書、教材の購入費 ・訓練コースの開発費 など |
対象外経費 | ・職業、または職務に間接的に必要となる知識、技能を習得させる内容のもの ・職業、または職務の種類を問わず、職業人として共通して必要となるもの ・趣味教養を身につけることを目的とするもの など |
助成額・助成率 | ・助成額:960円(1人1時間あたり) ・助成率:75% |
支給限度額 | ・1人1訓練あたり:20万円~50万円 ・1事業所あたり:1億円 |
提出書類 | ・職業訓練実施計画届 ・事業展開等実施計画 ・人材開発支援助成金事前確認書 ・支給申請書 など |
申請期限 | 訓練終了日の翌日から起算して2ヵ月以内 |
申請に関する注意事項 | 郵送での対応も可能。ただし、管轄の都道府県労働局への到達日が受理日となる。 |
事業展開等リスキリング支援コースの申請先はこちら
人材育成支援コース
人材育成支援コースは、事業主等が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識や技能を習得させるため、職業訓練等を実施した場合に訓練経費や訓練期間中の一部を助成する制度です。
労働者の職業生活設計の全期間を通じて、段階的かつ体系的な職業能力開発を効果的に促進することを目的としています。事業主や事業主団体等が対象で、訓練内容は以下になります。
- 10時間以上のOFF JT
- 新卒者等のために実施するOJTとOFF JTを組み合わせた訓練
- 有期契約労働者等の正社員転換を目的として実施するOJTとOFF JTを組み合わせた訓練
項目 | 内容 |
---|---|
コースの正式名称 | 人材育成支援コース |
目的 | 労働者の職業生活設計の全期間を通じて段階的かつ体系的な職業能力開発を効果的に促進するため、事業主等が雇用する労働者に対して職務に関連した専門的な知識及び技能の習得 |
対象者(事業主) | ・雇用保険適用事業所(雇用保険被保険者が存在する事業所)の事業主である ・職業能力開発推進者を選任している ・当該従業員に対して賃金を適正に支払っている など |
対象となる従業員 | ・年齢15歳以上45歳未満 ・新たに雇い入れた者(雇い入れ日から訓練開始日までが3ヵ月以内) ・既に雇用する被保険者 など |
対象経費 | ・部外講師への謝金、手当 ・部外講師の旅費 ・施設・設備の借上費 ・学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書、教材の購入費 ・訓練コースの開発費 など |
対象外経費 | ・外部講師の旅費、宿泊費のうち上限を超えるもの(車代、食費など) ・eラーニング、通信制による訓練等の経費 |
助成額・助成率 | ・助成額:760円(1人1時間あたり) ・助成率:45% |
支給限度額 | ・1人あたり:10万円~50万円 ・1事業所あたり:1,000万円 |
提出書類 | ・職業訓練実施計画届 ・人材開発支援助成金事前確認書 など |
申請期限 | 訓練終了日の翌日から起算して2ヵ月以内 |
申請に関する注意事項 | ・支給を受けるには、事業主が訓練にかかる経費を全額負担していなければならない |
人材育成支援コースの申請先はこちら
人への投資促進コース
人への投資促進コースは高度なデジタル技術を持つ人材の育成が目的で、人への投資を加速化するために令和4年~8年度の期間限定助成となる訓練コースです。
デジタル人材・高度人材の育成、労働者の自発的な能力開発の促進、柔軟な訓練形態の助成対象化が用意されています。なお、助成対象は事業主で、対象となる労働者は雇用保険被保険者です。
項目 | 内容 |
---|---|
コースの正式名称 | 人への投資促進コース |
目的 | 人への投資を加速化するため、令和4年~8年度の期間限定助成として国民からの提案を形にすること |
対象者(事業主) | ・雇用保険適用事業所(雇用保険被保険者が存在する事業所)の事業主であること ・職業能力開発推進者を選任していること ・被保険者に職業訓練を受けさせる期間中も賃金を適正に支払っている事業主であること など |
対象となる従業員 | ・助成金を受けようとする事業所において被保険者であること ・訓練実施期間中において被保険者であること など |
対象経費 | ・部外講師への謝金、手当 ・部外講師の旅費 ・施設・設備の借上費 ・学科や実技の訓練等を行う場合に必要な教科書、教材の購入費 ・訓練コースの開発費 など |
対象外経費 | ・外部講師の旅費、宿泊費のうち上限を超えるもの(車代、食費など) ・eラーニング、通信制による訓練等の経費 |
助成額・助成率 | ・助成額:380円~960円(1人1時間あたり) ・助成率:45%~75% |
支給限度額 | ・1人あたり:7万円~150万円 ・1事業所あたり:2,500万円 |
提出書類 | ・職業訓練実施計画届 ・定額制サービスによる訓練に関する対象者一覧 ・事前確認書 ・事業所確認票 など |
申請期限 | 訓練終了日の翌日から2ヵ月以内 |
申請に関する注意事項 | 変更届を提出せずに新たな訓練を実施したり、変更後の訓練を実施した場合、当該部分については支給対象外 |
人への投資促進コースの申請先はこちら
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練給付制度は都道府県労働局、もしくは全国のハローワークを通して手続きするもので、職場にて自発的に職業能力開発を促進する制度です。教育訓練を受けるにあたって年次有給休暇とは別に有給休暇を与え参加しやすくします。
職業訓練を計画的に実施した際の経費や訓練期間中の賃金の一部を国が助成してくれるため、企業としては負担を軽減しつつ従業員のスキルアップが期待できます。
項目 | 内容 |
---|---|
コースの正式名称 | 教育訓練休暇等付与コース |
目的 | 労働者の自発的職業能力開発を受ける機会の確保等を通じた職業能力開発および向上を促進すること |
対象者(事業主) | ・雇用保険適用事業所(雇用保険被保険者が存在する)の事業主であること ・職業能力開発推進者を選任していること ・当該休暇を取得する被保険者に対して賃金を適正に支払う事業主であること など |
対象となる従業員(訓練制度) | ・被保険者が業務命令ではなく、自発的に受講するもの ・事業主以外の者が行うもの |
対象経費 | ・研修・訓練への参加費用 ・社員の賃金 |
対象外経費 | 既に有給もしくは無給の長期教育訓練休暇制度を含む教育訓練休暇制度を導入済みの場合にかかる経費 |
助成額・助成率 | ・助成額:960円(1人1時間あたり)、6,000円(1日あたり) ・助成率:45%~75% |
支給限度額 | 1事業所あたり:2,500万円 |
提出書類 | ・支給要件確認申立書 ・支払方法・受取人住所届 ・制度導入支給申請書 など |
申請期限 | 全ての対象労働者に対して、要件を満たす賃金又は資格等手当を3ヵ月間継続して支払った日の翌日から5ヵ月以内 |
申請に関する注意事項 | 制度導入・適用計画届を提出するより前に制度を導入した場合は助成対象外 |
教育訓練休暇等付与コースの申請先はこちら
リスキリング補助金を活用するときの注意点3つ
リスキリング補助金を安心して活用するための注意点を、3点ご紹介します。
1.他の補助金や助成金との併用制限を確認しているか
リスキリング補助金は、ほかの補助金や助成金と併用できない場合があります。既に利用している助成金や補助金がある場合は、併給調整によりどちらか一方しか支給されないことがあるため、併用可否を確認しておきましょう。
なお、併用不可となる補助金・助成金として主に以下が挙げられます。
- 専門実践教育給付訓練金
- 教育訓練給付金等の別の支援策
2.補助金の採択率を確認しているか
補助金は採択制であり、目的に合致する事業の中から審査に通過した事業のみに支給される仕組みです。補助金によっては自社が受給対象にならない場合もあるため、自社の目的に合った補助金を選定し、申請内容を慎重に検討する必要があります。
一方で、助成金は申請制であるため、原則として対象者が要件を満たしていれば受給することができます。
3.実績報告の準備はできているか
リスキリング補助金を受給するためには、多くの場合で実績報告が必要です。そのため、訓練の進行状況や達成度、具体的な費用の内訳など、必要な報告項目や書類を整理して、記録として適切に保管しておきましょう。
リスキリング補助金のよくある質問とその回答
リスキリング補助金に関する、よくある質問と回答を紹介します。導入において疑問点を解消しておけるよう、事前に確認しておいてください。
リスキリング補助金の対象にならない従業員の条件はありますか?
リスキリング補助金の対象とならない従業員の条件は特にありません。基本的に、企業の在職者である正社員・契約社員・派遣社員・パート・アルバイトなど、企業と雇用契約を締結している方が対象です。
補助金の対象となるリスキリングの内容や分野に制限はありますか?
リスキリングの内容や分野には、特に制限は設けられていません。労働者がリスキリングによりデジタルや成長分野に関する知識、またはスキルを習得することで賃上げや経済成長を目指して支給されているため、対象となる補助金・助成金に申請しましょう。
オンライン講座やeラーニングの訓練も対象になりますか?
リスキリング補助金はオンライン講座やeラーニングの訓練も対象です。なお、eラーニングはオンライン会議システムを活用した双方向の講座も含まれます。
訓練場所に関しては職場や自宅など場所は問いませんが、訓練時間の8割以上の出席が必要です。単講座だけでなく、企業の課題に応じたオーダーメイド講座も対象となります。
申請後、支給が決定するまでどれくらいの期間がかかりますか?
基本的に支給申請が受理されて数ヵ月から半年後に助成金が入金されます。企業によって提出を求められる書類は異なるため、スムーズに申請が受理されるよう、事前に管轄の労働局に確認しておきましょう。
補助金の受給額や助成率はどのように決まりますか?
リスキリング補助金の受給額や助成率は、企業規模や対象労働者、訓練規模によって決まります。基本的に、助成限度額は1人当たり10万円~50万円、助成率は30%~75%です。
申請内容に変更が出た場合、どのような手続きが必要ですか?
申請内容に変更が出た場合は、変更届を提出しなければなりません。提出した訓練計画に変更が生じた場合、訓練実施計画変更届を提出します。提出せずに計画を実施してしまうと、変更分については助成金の支給対象外となるため注意してください。
対象となる経費にはどのようなものが含まれますか?
リスキリング補助金の対象となる経費としては、主に以下が挙げられます。(なお、外部講師への車代や食費などは経費の対象外となります。)
- 外部講師への謝金や手当
- 外部講師の旅費
- 施設や設備の借上費
- 学科や実技訓練等をおこなう場合に必要な教科書や教材の購入費
- 訓練コースの開発費
まとめ
本記事では、リスキリング補助金について詳しく解説しました。昨今、技術革新により既存の職業がなくなる時代へと変化する可能性が高まっているからこそ、従業員がいつでも新しい業務に移行できるためのリスキリングは非常に重要です。
リスキリングは企業側が膨大な費用を負担することから、断念せざるを得ない場合が少なくありません。そこで、リスキリング補助金を活用することで負担を軽減しつつ、人材育成に繋げることをおすすめします。
今後のさらなる企業成長のために、ぜひこの記事を参考にリスキリング補助金をご活用ください。
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