自社の経営不振に不安を感じている経営者は少なくありません。手元の現金が足りず、自転車操業を毎月のように強いられる経営者は多くいます。また売上はあるのに、資金が突然ショートして「黒字倒産」する会社もあります。
こうした最悪の事態を回避するためには、資金繰りを安定させることが大切です。
経営の状況に分けて資金繰りの方法を解説していきます。今回は15個の方法を紹介しています。
今すぐ資金繰りを改善するための7つの方法
資金繰りはすべての会社にとって重要ですが、その緊急度合いは会社ごとに異なります。
資金ショート寸前の会社にとって、なにより重要なことは「手元に現金を置く」ことです。出ていく現金を極力減らしつつ、少しでも多くの現金を集めるには以下の7つの方法が有効です。ただしそれぞれメリット・デメリットがあることもあわせておさえておきましょう。
1.過剰な在庫を処分する
過剰な在庫は人件費や保管コストの増加、商品の品質悪化、利益率の低下につながります。大切なのは過剰な在庫を抱えないように適正な在庫管理を行うことです。すでに過剰在庫を抱えている場合は、できるだけ早く廃棄処分またはセールで売るなどして余分な在庫を減らし、コストをカットしましょう。
メリット
過剰在庫を処分することで、余計な人件費や保管コストの発生を抑えられます。また、商品の品質悪化を防げます。
さらに廃棄処分した際に出た赤字は「商品廃棄損」として損金算入でき、節税になります。適正な廃棄処分であることを証明する書類(廃棄理由が記載された書類、廃棄された商品リスト、日付の入った廃棄作業中の写真、廃棄業者から受け取った請求書・廃棄証明書など)を税務調査対策として用意しましょう。
一方、在庫処分セールなどで安く売る場合は、手元資金を増やすことができ、廃棄処分と比べて資金繰りを改善することができます。
デメリット
廃棄業者に依頼するにもコストが発生します。また、セキュリティの観点から、信頼できる廃棄業者に依頼することが重要です。
資産である在庫を安売りした場合は、ブランドイメージを傷つける可能性があります。また換金できずに破棄処分となる可能性もあるので、処分方法をしっかりと見極めましょう。
2.人件費を見直す
人件費の見直しでは、基本給を減らすのではなく余分な残業代や賞与に焦点を当てます。残業代は法律上の支払い義務があるため、そもそも残業を減らす、あるいは発生させない仕組みを作るようにしましょう。
例えば、残業を事前に申請するルールの設定やノー残業デーの導入、残業を把握できるシステムの導入などが有効です。あわせて社内業務の効率化やシステム化を進めることで管理部門の人件費を削減につなげることも可能です。
また賞与を減らす場合は、会社の現状についてしっかり説明して従業員の理解を求めることが重要です。役員報酬を減らして、経営者みずから身を削る覚悟を示すことも従業員の理解を得る助けになります。
メリット
残業ルールの見直しやシステムの導入で社内業務の効率化、無駄な残業の抑制につなげることができます。
デメリット
給料の減額は従業員のモチベーション低下や優秀な従業員の流出につながる恐れがあります。残業をせずに早く帰ることで、精神面や健康面でゆとりができると理解してもらえるように、全社的に取り組むことが大切です。
3.税務署・年金事務所と交渉する
税金と社会保険料については、税務署や年金事務所に分割交渉をすることができます。ただし何の交渉もしないまま滞納が続くと差し押さえを受ける可能性もあるので、資金繰りが苦しいと感じたら、できるだけ早く交渉することが肝心です。資金繰り表や事業計画などの資料を持参して、税務署や年金事務所に協力を求めましょう。
メリット
提出のための資料を作成、見直しをすることで計画の無理な点や見通しの甘さを発見することもできます。資金繰りの悪化を一時的に回避するのではなく、長期的な観点で見直す機会になります。
デメリット
交渉のタイミングが遅れると差し押さえを受ける可能性があります。会社の不動産や買掛金、預金などを役所に差し押さえられると、会社の状況が金融機関や取引先にも知られ、社外的に大変な信用問題に進展します。
4.銀行と交渉する
銀行との交渉には、リスケ(リスケジュール)と融資の2パターンがあります。
リスケとは、元金返済を一時的に全額ストップする、もしくは返済金額を少なくしてもらうことです。現実的なしっかりとした経営改善計画を策定し、銀行が納得できる交渉をできれば、1〜2年程度の猶予期間をもらえる可能性もあります。
メリット
リスケが終わるまでは新規融資を受けることができないので、抜本的に経営を変える必要があります。毎月の費用や在庫をしっかりと管理しなければなりません。このことで会社の経営体質を変えることができれば大きなメリットになります。
デメリット
経営改善計画などの書類を作成する必要があります。
銀行にリスケを受け入れてもらった場合、リスケの期間は最長でも1年であり、期間を延長してもらうには、1年後に経営改善計画の80%以上をクリアしていなければいけないことに注意しましょう。
またリスケが終わるまでは、銀行から新規融資はしてもらえません。さらに、リスケをしていることが取引先や従業員に漏洩すると信用を失い、取引の停止や従業員の退社につながる恐れがあるので、リスケは極秘に進めましょう。
銀行からの融資は、新規資金を作る最もスタンダードな方法です。事業計画や資金繰り表をしっかり作成していて、将来の見通しが立っている会社なら、交渉に応じてもらえる可能性が高くなります。
メリット
大口資金の調達も可能です。また、事業のための融資は、借金に比べて金利が低く設定されています。
デメリット
事業計画などの書類を作成する必要があります。
審査が厳しく、申し込みから実行までに時間がかかるので緊急に資金が必要な場合は間に合わない可能性があります。
5.出資者に出資依頼する
付き合いのある出資者がいる場合、もしくは出資者を募る手段を持っている場合は、銀行に頼るよりも早く資金調達できることもあります。
メリット
交渉次第で素早い資金調達が可能なこともあります。
元起業家から転身する方が多いといわれている個人投資家(エンジェル投資家)からは、資金だけでなく、人脈を活かしたビジネス面のサポートや実体験からのアドバイスなども期待できます。
デメリット
出資者を見つけるのは難しく、高い交渉力や強い信頼関係などが必要です。
また、個人投資家の中には必要以上に経営に関与しようとする方もいます。本当に事業のビジョンに賛同しサポートしてくれるのか見極めましょう。
6.ビジネスローンを利用する
裏技的な方法になりますが、法人経営者向けや個人事業主向けのビジネスローンを利用する方法もあります。
メリット
複雑な書類作成などがほぼ不要で最短即日の資金調達が可能です。無担保、保証人なしで利用でき、かつ厳しい審査もありません。
デメリット
金利は高めです。事業の将来性など「決算書の数字以外の要素」は考慮されません。
7.支払いをできるだけ遅らせる
信用問題に関わるため、できれば避けたい手段ですが、取引先への支払いをできるだけ遅らせることで支出を減らすことができます。
交渉を成功させるには、資金力に余裕のある相手を選ぶことや、交渉の際に値引きやサービス追加など、相手にメリットのある提案をすることがポイントとなります。また、資金繰り表を必ず持参し、いつなら支払うことができるかをきちんと説明しましょう。
もし取引先に手形で支払いをしている場合は、「手形ジャンプ」の交渉を行い、手形の支払い期日を延期してもらうように交渉しましょう。
現在の取引先がどうしても交渉に応じてくれない場合は、取引先を変えることも検討しましょう。
メリット
手元の現金を温存できます。
デメリット
相手にとって資金繰り悪化の原因になるため、交渉に応じてくれるとは限りません。
資金繰りが落ち着いてきたときに行うべき8つの方法
いったん資金繰りが安定してきたら、その状態を長期的にキープしなければなりません。その際に役立つのが以下に挙げる8つの方法です。
1.手元資金を正確に把握する
緊急に資金繰りが必要な危機的状況を脱したら、手元資金の正確な把握・分析を行います。
複数の通帳を管理していたり、複数の営業拠点で現金を管理していたりする会社では経営者が資金の合計を把握していないことも珍しくありません。そのため、現金化していない「眠っている資金」を見逃している可能性もあります。まずはそのような資金を把握することが、長期的に資金繰りを安定させるベースになります。
2.販売のルールを見直す
資金繰りを悪化させない方法のひとつが、取引代金の締め日から支払日までの期間(支払いサイト)を短くすることです。具体的には「月末締め・翌月末払い」から「月末締め・翌15日払い」にする、手形払いから振込払いに変更してもらう、といった方法が考えられます。売掛払いそのものをやめて、前入金に切り替えるのも有効な手段です。
3.売掛金を早期回収する
すでに売掛金がある場合は、期日までに確実に回収する(=不良債権化させない)ことや、可能な限り回収のタイミングを早めることも重要です。また受取手形を銀行などに換金してもらう「手形割引」や、売掛債権を買い取る「ファクタリング会社」も利用できます。
4.コストカットを検討する
過剰な宣伝広告費のカットや保険の見直しといったコストカットも効果的です。ただし交際費や広告費などを極端にカットすると売上ダウンの原因になるので、バランス感覚と慎重な検討が求められます。
5.資産を資金化する
利益を生まない不動産、放置しているホームページ(レンタルサーバー)など会社にとって不要な資産を現金化することで、資金調達とコストカットを同時に実現できます。どのような資産が不要かは、貸借対照表の流動資産や固定資産の項目を見て「現在・近い将来の利益につながっているか」を検討することで確認します。
6.リースバックを活用する
リースバックとは、自社ビルや自社所有の社用車のような資産をいったんリース会社に買い取ってもらい、その後レンタルという形で継続利用することです。
7.補助金や助成金を活用する
助成金・補助金は、国や自治体から支給される返済不要のお金です。申請には一定の要件や、特定の事業を実施することが求められます。
8.資金繰り表を作成する
手元資金を正確に把握し、その流れを見極めるために欠かせないのが「資金繰り表」です。資金繰り表は基本的に、以下の手順で作成します。
- 決算書、中長期計画、月次推移試算表、単年度計画、現金出納帳、預金通帳など、会社の入金と出金を記録した資料を用意する。
- すべての収支を抜き出し、営業活動に直接関係する「営業収支」と、営業活動と直接関係のない「財務収支」に分類する。
- それぞれの「収入」と「支出」を差し引きして、差額を算出する。
- 営業収支の差額と財務収支の差額を合計して、翌年や翌月に繰り越す金額を記録する。
資金繰り表に決まったフォーマットはありません。上記の流れを繰り返しながら、年ごとや月ごとに「すべてのお金の出入りを正確に記録する」ことがポイントです。資金繰り表があれば銀行などへの融資申込みにも役立つので、ぜひ作成することをおすすめします。
まとめ
本記事では、早急に資金繰りを改善するための7つの方法と、資金繰りが落ち着いてきたときに行うべき8つの方法について具体的に説明しました。
緊急時の資金繰りは、出ていく現金を極力減らしつつ、少しでも多くの現金を集めることが重要となりますが、支払いの滞納は信用問題に関わりますので、社外との交渉は慎重に行うことが大切です。
会社の事情によってどのような方法が有効かは異なります。自社の資金繰りの「緊急度合い」に合わせて、まずはできるところから実践してみてください。
参考にしたサイト
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