契約書の電子化が解決する企業の課題と、電子契約導入までの3つのステップ

契約書にかかる全ての作業をデータ上で行う電子化に取り組む企業が増えています。契約書の電子化により、契約原本の郵送にかかる手間や時間が省けるほか、保管場所の確保が必要といった従来の契約書の管理にまつわる問題をクリアできます。

また、近年電子契約サービスや電子署名(電子サイン)に関するサービスが増えているだけでなく、コロナ禍において出勤が困難であることから、契約における押印や電子署名に関する見直しが政府によっても進められはじめています。こうした取り組みは、在宅勤務ともマッチしており、「脱ハンコ」や「ペーパーレス」といった取り組みと平行して注目を集めています。

しかし、いざ導入しようとすると契約書の有効性の担保やセキュリティの問題など気になるのではないでしょうか。

本記事では、契約書の電子化とは何か、紙の契約書との違いをはじめとし、メリットや注意点、実施するための方法を詳しく解説します。これを読めば自社に電子契約書を取り入れやすくなります。


契約書の電子化とは?

契約書の電子化とは、いわゆる電子契約のことを指します。

電子契約とはコンピューターやその他通信技術を用いた、電子データで作成・締結する契約のことです。

ハンコを使った押印の代わりに、電子署名やタイムスタンプを用いて「本人性」「非改ざん性」を担保します。

電子化すべき理由

契約書の電子化は経営の面から見てもメリットは大きく、紙の契約書のためにかかっていた手間や時間、製本代や郵送代を省けるため、人件費を含めたコストカットに効果的です。

さらに、ハンコを押すためだけに従業員を出社させる必要がなくなるため、遠方に居住する人材の採用やリモートワークの促進にも役立ちます。

また、政府がペーパーレスと脱ハンコを推進している中で、2015年に「電子署名及び認証業務に関する法律」、通称電子署名法にかかわる条件が緩和されました。

これによって、幅広い電子契約書が法的効力を持てるようになったため、電子化しても特段の不都合は生じない状況が整っています。

ただし、長い目で見ればメリットが大きいものの、電子契約サービスには導入コストがかかるのも事実です。契約書の締結が頻繁に行われるビジネスであれば有用ですが、契約書の登場機会が少ない企業や特定の部門などであれば、導入、利用コストと比較した上で電子化システムの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

紙の契約書との違い

紙の契約書の場合、印刷、製本、押印、発送および返送、保管といった作業が必要です。また契約書が増えるほどに保管スペースを拡張しなければならず、ファイリングの手間もかかります。

電子化すると、契約締結までインターネット上でやりとりすることができ、データとして保管すればよいため物理的な保管場所の必要がなくなります。

ただし、電子契約書に法的効力を持たせるためには、紙の契約書とは異なる法律に基づいた一定の条件をクリアする必要があります。この点については後半で詳しく解説します。


契約書の電子化を行うメリット

ではあらためて、契約書を電子化する上でのメリットを詳しく解説します。自社に有効だと思えば、導入を検討していきましょう。

郵送コストが削減できる

電子契約書によってペーパーレス化すると、次に挙げるコストをカットできるというメリットがあります。

  • 紙代
  • 印刷代
  • 郵送にかかる切手代
  • 印紙代

日本国内のみならず海外への契約書の送付もインターネット上で済むため、海外との取引が多い事業者にとっては、年間で見ると少なくない費用のカットにつながります。

それだけでなく、紙の契約書を作成するにあたっては、契約書記載の額面に応じた印紙税分の収入印紙を貼り付ける必要があります。しかし、印紙税に関わる課税文書には、この「作成」について「用紙等に課税事項を記載し」と書かれています。つまり、用紙を使わない契約書であれば収入印紙の貼り付けが不要であるということです。

また、急いで契約を締結したいときでも、速達やバイク便を使用する必要がなくなるため、これらのコストもカットできます。

参考:正しい契約書の郵送とは?法令を守り正確に送るための手順を徹底解説

郵送不要で締結スピードがアップし業務効率化

郵送不要であることは、単にコストカットできるだけでなく、締結までのスピードがアップするというメリットもあります。

紙の契約書であれば、契約書を作成する側が2部を製本、署名押印して発送、取引先の押印後に1部を返送してもらう必要があるため、双方に手間がかかります。

より細かなレベルでは、部署や役職の異なる人の席まで原本を持って行き、承認を得るという作業にも時間と手間がかかっています。また、承認者が出張中や外出中の場合は帰社を待たなくてはいけません。

電子契約書であれば、部署や役職間でのやりとりも社内のコミュニケーションツールで連絡すればよいだけなので、業務効率がアップするでしょう。

参考:契約書もペーパーレスに!他社はどうやってるの?

紛失リスクがなくなるなどコンプライアンス強化に

紙の契約書は取り扱う個人の不注意によって紛失するリスクがありますが、データ保管されている契約書であればその心配はありません。また、その保管場所がクラウド上であれば、災害によってオフィスに被害が及んだとしても契約書は失われないため、企業のBCP対策にもなります。

参考:どこよりもわかりやすいBCP対策とは?策定までの手順から、代替策として使えるツールもご紹介

また、管理システムによってはデータ化した契約書に作成者、編集者、締結した相手、時期などのタグを付けることができ、確認したい契約書を検索できるようになります。

社内に監査や監視者がいる場合にもメリットで、問題のある事業部の契約書を、当該部署に知られることなくチェックできます。


契約書の電子化を行うための方法

契約書の電子化を行うためには、法律に基づいて契約書の有効性を担保するシステムと管理体制の構築が必要です。必要なものとともに、導入までの流れを詳しく解説します。

契約書の電子化に必要なもの

単に契約書をデータ化し、署名するだけでは法的効力をもつ契約書とはみなせません。次に挙げる3つをそろえましょう。

1.契約書の電子化に伴う管理体制

これまで紙の契約書を取り扱ってきた企業が電子化するとなると、従来の管理体制のままで契約書の形式だけを変えるというのでは不十分です。

契約書の保管、管理の担当者は、導入するシステムを理解して運用できる人物でなければなりません。

また、個々の契約書を取り扱う従業員に対する運用ルールの策定と周知徹底も重要です。

参考:電子契約書の作り方 メリット・デメリットやシステム選定のポイントを解説
参考:契約書の電子化で注意すべきポイントは? メリットや方法を解説

2. 契約書をスキャンするためのツール

はじめからデータ形式の契約書を作成する場合は不要ですが、これまでの紙の契約書も一括管理したい場合には、スキャンするためのツールが必要です。

一般的な複合プリンタに付属しているスキャナでもこと足りるかもしれませんが、おすすめは光学文字認識(以下、OCR)機能のあるスキャナです。

OCR機能は画像データから文字を読み取り、コンピュータが理解できるようにデジタル文字へ変換する技術です。この機能があるスキャナを用いると、本文が全てデータ化されるため、システムに組み込めば全文検索ができるようになります。

なお、OCRのスキャニングサービスを提供している事業者もあります。過去の紙の契約書を一括で電子化したい場合には、こうしたサービスに依頼すると手間を省けるでしょう。

3. 法的効力を担保するための保存管理サービス

電子契約書の管理システムを自社開発するのは莫大なコストがかかるため、外部企業が提供している保存管理サービスを活用するのがおすすめです。

こうしたサービスの多くは、法務省および税務署が認定したシステムを運用しているものであり、ここで作成や管理が行われている契約書は、紙の原本がなくても法的効力を持ちます。

ただし、中には税法上の問題をクリアできていないものもあるため、サービスの選定は重要です。この点については後半の「契約書の電子化が行える電子契約サービスの選び方」で解説します。

契約書の電子化の流れ

契約書を電子化する流れを、主要な3つのステップに分けて解説します。

1. 電子化を行う契約範囲の規定

まずは「どこまで電子化するか」という範囲の方針を定めることが重要です。

これから作成していく契約書だけを電子化するのであれば、クラウドサインのように契約書作成および保管の機能があるサービスを導入すればよいでしょう。

一方、過去に締結した紙の契約書を含めて全てを電子化したい場合には、スキャンの代行を伴っているサービスを選んだ方が手間を省けます。クラウドサインSCANでは、手間のかかるスキャンから、クラウドサインへの入力なども代行してくれるので、連携して利用することをおすすめします。

そのほか、締結した契約書の確認の頻度が高い事業部のものや取引が多い相手のものなど、優先度をつけて電子化する範囲を限定するという方法もあります。

参考:紙で締結した契約書を一元管理する | クラウドサイン ヘルプセンター

参考:クラウドサイン SCAN|契約書のスキャンとクラウド管理をかんたんにできる電子契約サービス

2. 電子契約に伴う法律の理解

電子契約に法的な効力をもたせるためには、電子署名法やe-文書法、電子帳簿保存法によって規定された条件を満たしている必要があります。その条件については後述しますが、電子契約を取り扱う責任者が法律をしっかりと理解していなければなりません。

参考:電子帳簿保存法をわかりやすく解説!活用メリットと申請の流れ

3. 社内におけるルールの周知・マニュアル化

契約に関わる従業員に周知徹底できるよう、マニュアルの整備を行うことが重要です。

マニュアルを作っただけではルール順守が形骸化しがちなため、次のような方法を用いて定期的に周知および徹底の維持を図りましょう。

  • マニュアルの配布や社内ポータルサイトへの掲載
  • 経営幹部や責任者からの説明会
  • マニュアル遵守の誓約書への署名
  • 従業員へのヒアリング
  • 責任者による巡回、監督

また、運用をはじめるとマニュアルが実務にそぐわないことが発覚する場合もあるので、従業員の意見を収集して定期的にマニュアルの見直しも行いましょう。

参考:効果的なルール周知方法とは?


契約書の電子化における注意すべきポイント

電子契約書に関する法律も含めた注意点を解説します。

電子化はスキャンするだけでは効力が無い

紙の契約書をスキャンし、PDFをはじめとしたデータ形式にしただけでは法的な効力をもちません。紙とは違い、単純な電子データは改ざんや消去が容易であるためです。また、スキャンの品質によっても効力をもたなくなります。

効力をもたせるためには、次の項目で説明する「データの保存要件」をクリアしている必要があります。

電子化したデータの保存要件を遵守する

電子契約に関連した法律「電子帳簿保存法」と「e-文書法」、および経済産業省のガイドラインに示された、データの保存要件は次の通りです。

  • 真実性:訂正や削除を行った履歴が確認できることなど
  • 見読性:解像度や階調などが明瞭で視認できる状態であること
  • 完全性:保存期間中の滅失および毀損を抑止する措置を講じていること
  • 検索性:取引年月日や主要な記録項目を検索条件として設定できること
  • 機密性:不正アクセスを抑止する措置を講じていること

これらは、税務調査が適切に行えるようにするためのものです。また、国税庁は電子契約の適用を受けるための具体的な条件として、次の項目を提示しています。

  • 入力期間の制限:書類の受領後7営業日以内での入力
  • 解像度およびカラー画像:解像度は200dpi相当以上、3原色の階調が256階調以上
  • タイムスタンプの付与:日本データ通信協会認定のタイムスタンプを付与
  • 読み取り情報の保存:読み取り時の解像度や階調、書類の種類、大きさの情報
  • ヴァージョン管理:訂正や削除を行った場合の履歴
  • 入力者等情報の確認:入力を行った者、または監督者の情報

なお、さらに細かな規定については関係する法律施行規則を熟読して、抜け漏れがないように整備しましょう。

参考:契約書の「スキャナ保存」に関する法務と税務 —契約書をスキャンして保存する場合
参考:ペーパレスのすすめ (3)電子化したら紙文書は捨てられるのか?
参考:電子帳簿保存法上の電子データの保存要件

電子契約できない書類もある

次に挙げる契約書は、法律で書面化が義務とされているため電子化できません。

  • 定期借地契約
  • 定期建物賃貸借契約
  • 宅地建物売買等の媒介契約書
  • 宅地建物売買等契約における重要事項説明時に交付する書面
  • 宅地建物売買等契約締結時に交付する契約書等の書面
  • マンション管理業務の委託契約書
  • 訪問販売等において交付する書面

不動産関係の契約書が多いことがわかります。逆に不動産関連以外の事業者であれば、多くの契約書を電子化できるといえるでしょう。

参考:電子契約による締結が可能な契約形態
参考:不動産の賃貸借契約電子化ガイドライン

紙の契約を電子保存する際は税務署への事前承認が必要

紙の契約書をスキャンすることで電子保存に切り替え、紙の原本を破棄する場合は税務署の事前承認を得る必要があります。申請書とともに次の添付書類を準備しましょう。

  1. 契約書の保存を行う電子計算機処理システムの概要を記載した書類
  2. 契約書の保存を行う電子計算機処理システムの事務手続の概要を明らかにした書類
  3. 申請書の記載事項を補完するために必要となる書類その他参考となるべき書類

なお、外部のサービスを利用する場合は、2番目の添付書類として委託に係る契約書の写しが必要です。

これらの書類を揃えた上で、税務署長宛てで税務署に持参または送付を行います。なお、この承認を得るための手数料はかかりません。

参考:[手続名]国税関係書類の電磁的記録によるスキャナ保存の承認申請

契約先との相互理解が必要

契約は相手の企業と取り交わすものであるため、一方的に電子契約で進めるわけにはいきません。

電子化を行っていない企業にとっては、コスト増やオペレーション変更による手間をかけることになるため、場合によってはメリット面を伝えながら説得する必要が出てくるでしょう。応じてもらえない場合は、従来通り紙の契約書で締結することになります。

また、相手が既に電子契約サービスを利用している場合、自社と相手のどちらのサービスで契約するかを取り決める必要もあります。


契約書の電子化が行える電子契約サービスの選び方

最後に、有用な電子契約サービスの選び方を、4つの項目で説明します。

参考:契約書もペーパーレスに!他社はどうやってるの?
参考:電子契約書の作り方 メリット・デメリットやシステム選定のポイントを解説
参考:契約書の電子化で注意すべきポイントは? メリットや方法を解説

「認定タイムスタンプ」を採用しているか

「タイムスタンプ」は、電子文書の作成時刻を記録することで、その時刻に文書が存在したことを証明し、その時刻以降に改ざんが行われていないことを示すためのものです。

電子契約書が法的効力をもつためには、日本データ通信協会が認定したタイムスタンプが採用している必要があります。

スキャナとの連動ができるか

先にも少し触れましたが、紙の契約書の電子化も行うのであればスキャンしたデータを保存できるサービスを選びましょう。例えば、電子契約サービスと特定のスキャナのソフトウェアが連動するサービスも存在します。

過去の契約書だけではなく、今後も紙の契約書を締結する取引先がある場合にも重要なポイントです。

また、OCRスキャンを代行してくれるサービスもあります。膨大な契約書を電子化したいのであれば、これらのサービスの有無も確認しましょう。

管理と検索が容易に行えるか

電子署名および認定タイムスタンプ機能までであれば選択肢は豊富なものの、管理と検索の利便性を考慮するとその数は絞られます。

取引先の名前や書類の作成時期といった、国税庁でも示されている検索性が備わっていることは前提として、その操作性や視認性、自社のアプリやシステムと連携できるかどうかが重要です。

APIが公開されていれば自社のシステムとの連携を開発できたり、CRMとの連携が可能であれば顧客情報を使用して契約書を作れたりします。

このような、各種サービス独自の機能についても確認し、自社が求める内容を満たしているかを検討しましょう。

相手方への手間が発生するかどうか

契約締結のためには相手にも同じシステムを使ってもらう必要がありますが、アカウント作成や利用料金がかかるシステムの場合は相手に手間や負担をかけてしまいます。

頻繁に取引がある取引先であれば納得してくれるかもしれませんが、あまりおすすめできません。できる限り相手にかける手間が少ないものを選びましょう。

法的信頼度の高い電子契約サービス

上記で解説した電子契約サービスの選び方に基づく機能を搭載したシステムは国内に数種類ほどあります。

たとえば弁護士ドットコムが開発・運営する「クラウドサイン」は、認定タイムスタンプで非改ざん性を、メール認証と2段階認証・2要素認証で本人性を担保しています。また、弁護士監修のもと機能開発を行っているので、法的な信頼度が高いです。

導入社数も14万社を超え、多くの企業・ユーザーから認知されているのも特徴です。

国内最大級の電子契約サービス「クラウドサイン」サービス概要


まとめ

契約書の電子化は、初動こそマニュアル整備の手間や導入コストがかかりますが、長い目で見れば紙の契約書よりも諸費用を削減でき、業務効率もアップできます。

これから長期的に運用していくためにも、電子契約書に関わる法律をしっかりと理解し、法的効力を担保することを前提として、使いやすく汎用性の高いサービスを選びましょう。

参考:【2021年版】おすすめ電子契約サービス26選を徹底比較!選び方のポイントも紹介

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