BtoB広報初心者向け / 導入事例インタビューのすすめと運用ポイント

BtoBサービスのマーケティング施策として有効な導入事例。自社サービスを実際に利用しているお客様のリアルな声をサービスサイトや提案資料に掲載することで、導入検討中ユーザーへの後押しとなります。

一方、導入事例はBtoBのサービス広報活動においても重要なコンテンツです。

企業規模やフェーズによって目的や役割が異なる広報領域ですが、以下に当てはまるような広報担当者は、事例制作に携わることを検討してみてはいかがでしょうか。

  • BtoB企業の広報立ち上げフェーズで、広報活動に利用できるコンテンツが少ない
  • 広報初心者で、自社サービスへの理解が浅い
  • 広報活動の中でもサービス広報が主要ミッションである

今回の記事では、5つのBtoBサービスの導入事例インタビューを広報担当として制作してきた筆者の経験をもとに、広報が関わるメリットと運用時のポイントをお伝えします。

記事の後半では運用時のTipsをご紹介しています。広報担当だけでなく、事例インタビューに初めて挑戦するマーケやCS担当の方にとっても運用の参考になれば幸いです。

執筆者

白岡 理奈(しらおか りな) @shiri_SOT
SO Technologies株式会社 広報室
アパレル店舗の店長職として販売・商品管理・マネジメント等や、アニメ制作会社にて広報・宣伝およびイベント運営などを経験。2017年より株式会社サーチライフ(現 SO Technologies株式会社)に広報担当として入社。複数サービスおよび企業広報活動のほか、SNS、記事制作、社内広報等を担当。

目次


広報が担当するメリットは「サービス理解」「社内コミュニケーションの醸成」「“事例”への早期関与」

事例インタビューを、新任のBtoB広報におすすめしたい理由は大きく3つです。

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①自社サービス・業界理解が深まる

広報活動では、外部の方に自社のことを説明する機会が多々あります。

自社サービス情報はもちろんのこと、業界の状況や課題、自社サービスがどのような業界課題を解決するのか、自社の立ち位置や他社との違いなどを把握しておく必要があります。

事例インタビューでの事前準備や、顧客の生の声を聞く機会を通して、サービスや業界理解を深めることができます。

②事業担当とのコミュニケーションが築ける

広報活動にはとにもかくにも社内協力が不可欠。

導入事例の中でもインタビューコンテンツを制作する場合、2ヵ月前後を要します。

その間、確認ごとや事前打ち合わせ、監修などで事業担当とのコミュニケーションが増えます。

業務上で事業担当とスムーズにコミュニケーションが取れるようになっておくと、今後の広報活動で必ず役に立ちます。

③社外広報に不可欠な「事例」に早期に関われる

広報の目的や立場は企業によって異なりますが、BtoB広報で対外に向けての情報発信をする上で、事例はかなり重要なコンテンツです。

プレスリリースやメディア向けの取材企画として昇華できる可能性が大いにある「事例」。

最初から関わっていれば、事例インタビュー以外の企画につなげることも可能です。できるだけ早期に関与しておきたいところです。

また、インタビュー先である顧客と広報間で関係値が取れていると、今後の広報活動で追加ヒアリングが必要になった際にもスピード感をもって実施できます。

ほかにも、詳細は割愛しますがメリットが多数あります。

  • 別の広報活動を踏まえて、スケジュールコントロールができる
  • ライティングのスキルアップになる
  • 社員のモチベーションアップにつながる

事業側のメリットは「目的達成行動に集中できる」「専門用語多用の防止」「第三者視点」

事例インタビューに広報担当が関わることは、事業側にもメリットが多数あります。

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①作業コストを削減し、「目的達成に向けた行動」に集中できる

事業担当にとっての事例の目的は、例えば「新規リード獲得に利用したい」「特定の機能の活用例を顧客に広めたい」などです。

目的達成のために実施したくとも、事例インタビュー記事制作は普段の業務と並行するにはかなり重めな仕事です。

広報担当と作業を分担することで、コストを押さえつつ事例制作を進めることができます。

②業界用語や社内用語を噛み砕いて表現できる

事業側だけでアウトプットを作る際に陥りやすい点として、業界用語・社内用語を多用してしまうケースがあります。

「プレスリリースは小学生にもわかるように」と言われることもありますが、広報は噛み砕いて表現することに長けているため、業界外の方が閲覧しても理解できるようなアウトプットが期待できます。

③第三者の立場で話が聞ける

事業担当と顧客間では共通認識の当たり前のことが、外から見ると面白い例であることがたびたびあります。

また、インタビュイーの持つ課題や、環境、背景をさらに深ぼるような「その業界では一般的な課題(環境)なのか」などの質問を、第三者視点で気軽にできる利点もあります。

もちろん、同じ企業である以上、広報担当も自社サービスのプロです。事前に企業情報や業界情報をインプットした上で臨みますが、所属部門が異なるだけで聞きやすくなることが意外とあるのです。


(当社事例)事例インタビューをプレスリリース化し、Webメディア掲載

ここで、当社の事例コンテンツ制作例をご紹介します。

当社の提供しているサービスは顧客層が限定的かつ専門的であるため、「お客様の声」は営業・マーケティング活動において重要な役割を果たしていますが、同時にプレスリリース化を進めるなど、広報活動にも活用しています。

■事例インタビュー
【導入事例】約120店舗でGoogleビジネスプロフィールの店舗情報管理や一括投稿、商品機能を活用。合計反応数は前年比175%に増加 / 株式会社ビー・ワイ・オー

■プレスリリース
「おぼんdeごはん」「だし茶漬け えん」など約120店舗でマップ活用を推進

■Webメディア掲載
おぼんdeごはんなど120店舗/Googleビジネスプロフィール運用「ライクルGMB」導入

また、下記でご紹介する記事はすべて、各サービスのマーケやCS担当と協力して当社広報がインタビューおよび記事制作を担当したものです。ご興味があればご覧ください。

参考:【導入事例】ATOMの新レポート機能で大幅な工数削減!シンプルな操作性で事務担当への業務依頼も可能に/ 株式会社アイ・シー・オー
   【導入事例】店舗発信のGoogle ビジネスプロフィール投稿が10倍以上に!店舗が主役の運用とは / 株式会社ボストンハウス
   【導入事例】売上約30%増、かつ残業時間は2割削減!福岡で広告運用チームの体制をゼロから刷新したCUSTAとの業務改善事例を聞く/株式会社ブレイクスルー


事例インタビュー制作業務一覧

ここからは実際の事例インタビューの運用面でのポイントをまとめていきます。

まず、意外とボリュームのある関連業務を記載します。
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当社での事例制作の分担例は以下のとおり。

  • マーケorCS:打診・承諾書回収・日程調整
  • 広報:スケジュール管理・質問案作成(社内ヒアリング)・インタビュー・写真撮影・記事制作・監修・入稿・公開

インタビュー内容や対象企業によって若干変動しますが、広報にとっても重要なコンテンツであることから、おおむね制作にかかわる部分は広報が主導しています。

ただし、広報の仕事は企業規模、業種、組織体制、広報フェーズなどによってさまざま。事例コンテンツ制作は工数が大きく、広報担当がどこまで関わるべきかは企業によって判断が異なる点は注意が必要です。

その場合でも、「事業部と広報が連携できておらず、気付いたら公開されていた」「公開前の監修依頼で初めて知った」といった状態は防ぐ必要があります。

リソースの関係で広報が一部しか関与できないとしても、「事例インタビューを実施することとその内容の共有」「監修」の2点で広報に情報が入る体制を作りましょう


事例インタビューで決めるべき4つ

事例インタビューを進めるうえで決めておくべき大事な点をご紹介します。事前準備の際、以下の4点を押さえるとクオリティが向上するので、ぜひご参考にしてみてください。

①インタビューテーマ

「その事例によって、どんな人に何を感じてもらいたいか?」を事前に具体化します。

テーマに沿って、その記事の目玉として聞き出したい内容のイメージを固めていきましょう。

サービス導入によって売上が上がったこと、工数が削減したこと、寄り添った支援体制など、伝えたいことは事業側の目的によって異なります。

当社では、インタビュー実施前に広報がマーケやCS担当に必ずヒアリングを入れています。

基本的な情報だけでなく、「記事のタイトルにしたい中心的な取り組み(成果)はなにか」「引き出して欲しい言葉」などを押さえています。

②インタビュー対象

①で決めたテーマと合致する対象企業を選定します。

ここは事業側にしかわからない部分。届けたいターゲット層の企業規模、フェーズ、活用状況と似ている企業であればなおベストです。

注意したいのは「インタビューを受けてくれるから実施する」パターン。テーマに即している企業であれば良いですが、アウトプットがしづらい場合もあります。

また、インタビューの打診は、普段からお客様と対話している事業側が担当しましょう。関係値がすでにあるのであれば広報担当が担当しても良いですが、そうでなければ事業側が担当する方がスムーズです。

打診の際、同時に対応しておくべきことは以下4点です。

  • おおよそのインタビュー実施時期
  • 事例承諾書の依頼
  • 公開範囲の共有、確認
  • 写真手配のお願い(オンラインの場合)

③スケジュール

公開までのスケジュールは、事業側の希望と広報担当のリソース、先方の都合も鑑みて余裕を持って設定しましょう。

インタビュー当日は、可能な限りお客様と普段やり取りをしている事業側の担当者も同席してください。

記事ボリュームやプレスリリースの有無でも変わりますが、当社ではインタビューの実施から公開まで早くて1ヵ月、長くて2ヵ月ほどです。打診や日程調整期間を含めるともっとかかるので、3ヵ月前には要望が社内共有されている必要があります。

当社の場合は、口頭での合意→その他必要事項の共有→進行スケジュールをインタビュー先の企業にご共有しています。

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当社で事例インタビューに注力し始めた当初は、事例コンテンツ作成がメインミッションであったため、インタビューから1週間前後で初稿をアップしていました。

現在はおかげさまで広報業務が多岐にわたり始めたこともあり、書き起こしや入稿作業などをアウトソーシングサービスHELP YOUに依頼しています。

インタビュー後、約1ヵ月で企業監修を行えるよう、約3週間を目途に広報で加筆・修正を加えた原稿を社内共有できるように動いています。

昨今の生成AI技術の発展により、今後作業面でのスピード向上も期待できると考えられますが、事例インタビューはお客様の情報を取り扱うもの。

外部ツール利用時にはデータの取り扱いについて必ず確認し、安易に利用しないよう注意しましょう。

④公開範囲

公開範囲の確認も重要です。承諾書は必ず取りましょう。

事例の利用用途は、承諾書をいただいた時点では決まっていない場合があります。

その都度確認を取るのは現実的ではないため、当社では、掲載先を包含している承諾書を利用し、想定の利用用途を別資料で共有の上、合意を取っています。承諾書とは別に、想定の掲載パターンをまとめた資料を用意しておくのがおすすめです。

  • 考えられる利用パターン

    • SNSでのシェア
    • 提案資料、セミナー資料への利用
    • 外部メディアの取材内で事例として紹介

大幅な改変を加えて再利用する場合や、広告利用など金銭が絡む再活用の場合は、別途の確認が必須だと思っておきましょう。急にSNS広告で自分の写真が出てきたらびっくりしますよね。

また、広報活動でメディアに対して事例先としてご紹介しても良いかどうかは、インタビューのときに口頭で聞くとよいでしょう。

実際に取材等につながった場合は、確認を入れる旨の説明を忘れずに。メディア対応に積極的な企業であれば、問題ないと言ってくださる場合が多いです。


事例インタビュー運用時の注意点

これまで数十本の事例インタビューを実施してきた経験から、運用時の注意点を記載します。非常に細かい点ですが、意外と見落としがちなこともあるので、ぜひ参考にしてみてください。

事前準備時Tips

インタビュー時間は1時間でなく1時間半

1時間で終わるつもりでも、念のため+30分確保しましょう。お話しが好きな方や、盛り上がって時間が押してしまうケースがよくあります。

現地実施の場合は撮影時間も必要です。

質問状作成時は、絶対に社内の担当者とヒアリングを!

質問状を作るにあたって、社内でのヒアリングを1~2週間前に行うことをおすすめします。

質問状の準備期間も必要ですが、なによりも当日までの時間が空きすぎると、事業担当と話した情報が古くなってしまう可能性があります。 

筆者は、社内ヒアリング後にGoogle ドキュメントで質問状を作成し、社内確認を済ませた上でWordにて2~3営業日前をめどに送付しています。

※質問状を早く送付する場合は、2~3営業日前にリマインドを入れると親切です。

  • ヒアリング時の確認ポイント

    1. 今回の目的の再確認(どのような活動に使うのか)
    2. 利用期間
    3. 提供内容
    4. タイトルにしたい重要ポイントは何か
    5. 話して欲しいこと、引き出したい言葉
    6. わかる範囲での導入背景、導入前課題
    7. わかる範囲での成果(出せるデータは質問状に記載&添付)
    8. どんなお客様なのか(役職、人柄、話し方のタイプ、自社業界に対する知見など)
    9. 今後のスケジュール感の共有

インタビュー当日Tips

録音の際にはその旨を伝えること

録音する際にはその旨をその場でお伝えしましょう。通常のアポイントなどと同様です。

質問案から逸れてもOK

「なぜ?」と思ったことはどんどん聞きましょう。むしろ話が逸れたところから深い話が聞けることも多いです。メモは忘れずに。

社内関係者が話しすぎない

インタビューは、基本的にインタビュイーの言葉を載せるもの。欲しい言葉をもらうためだからと、こちら側で想定解を話しすぎないことが大事です。

状況を把握している営業やCS担当の方がたくさん話してしまうパターンがあるので、事前に注意しておきましょう。

機能面での深堀りは事業担当の力を借りる

逆に、自社サービスの専門的な部分の深堀りはプロの事業担当に任せてください。

お話しいただいた内容が、(ユーザーにとって)特殊な例なのか、広報担当ではわからない場合があるからです。

当社では、「レポート作成機能でこんなレポートを作っている」とお話しいただいた際、事業担当の追加質問から利用した関数や工夫した点に話題が移り解像度がぐっと上がったこともありました。

事前に「活用方法の具体例が出たときなど、気になった点があればどんどん聞いてください」と事業担当に伝えておきましょう。

要約+おうむ返しが有効

ほしい言葉が引き出せないとき、「そんな感じです」などのニュアンス表現になってしまったときには要約して返しましょう。

原稿に「そんな感じです」とそのまま記載することは難しいですが、要約して言語化し、その場で確認を取った内容に置き換えることで、利用しやすくなります。

「先ほど話されていた〇〇は、~の理解で合っていますか?」など、要約した内容のおうむ返しが実施しやすいです。

サービスについてわからないことはその場で確認!

インタビュー中に、他社事例の質問やお悩みを相談されることも度々あります。

大切なお客様からの質問ですので、時間が許す限りで対応しましょう。

その場の会話で解消する場合も、別日のアポイントが決まる場合もあります。

広報担当者がわからなくても、「xxさん、どうですか?」と同席の社内担当者にその場で聞いてOKです。

相槌をかぶせない!

地味ですが、とても重要です。相槌が録音データと被って聞こえず、記事化の際に苦戦することもしばしば。盛り上がる=記事的にも重要ポイントです。無言でほほえみながらうなずくことを意識しましょう。

インタビュー後のTips

お礼の連絡は当日~翌日に

インタビュー対応へのお礼は早めに入れましょう。その際、おおよその原稿アップスケジュールの共有と、写真素材を手配している場合は希望の納品スケジュールを再共有しておくと親切です。

書き起こしは必須ではないが、あると編集が楽に

記憶は薄れてしまうもの。インタビューから原稿に取り掛かる日までのタイムラグがある場合は、書き起こしも用意するとベターです。ツールを利用するのも良いでしょう。

書き起こしも行う際には、原稿で使いたい部分を太字にしておくとあとからの編集が楽になります。

原稿はWordが便利!

Google ドキュメントは共有しやすい点が便利ですが、Wordの校閲機能が非常に優秀です。当社では社内チェック時はGoogleドキュメントで実施し、お客様に原稿監修を依頼する際にはWordを利用しています。

当たり前のことですが、依頼や確認等で原稿内にコメント補足を入れる場合、失礼のない言葉遣いを心がけましょう。原稿内で言い回しを大きく変化させた場合、コメントで編集の意図を共有の上、確認を取りましょう。

言い回しは統一、自社内のレギュレーションを決めておこう

同じような意味を持つ言葉が、記事の中でばらばらになっていないか注意しましょう。
例)「Web」「WEB」「ネット」、「クライアント」「お客様」「顧客」など

原稿チェックを回す際には、締め切りを切ることを忘れずに

期限は必ず明記しましょう。

公開イメージの事前共有の際は、「修正なし」を前提に。

原稿監修後、修正項目を反映した上で、公開イメージを共有します。この時点での修正は基本なしの前提で、公開予定も共有するようにしましょう。

企業によっては、公開イメージ提出後にさらに追加修正が多数発生するケースも。先んじて、これが完成版であることを明記しておくことが度重なる修正を防ぐポイントです。

公開!社内共有もして、会社全体でシェアしてもらおう

複数サービスがあると、社内の関与者だけにシェアされるケースがあります。しかし、自分たちのサービスがどのようにお客様に役立っているのかを伝えられる貴重な機会です。

せっかくなら会社全体に共有しましょう!「あんな事例を作りたい」と、他チームから良い反応が得られることもあります。

SNSを積極的に実施している企業であれば、積極的なシェアを促しましょう。


まとめ

本記事では、BtoB広報の初心者向けに、事例インタビューを制作するメリットや運用ポイントを解説しました。

BtoBの新任広報やサービス広報担当が事例インタビューに携わることで、自社サービスや業界理解が深まり、事業担当とのコミュニケーションが築け、重要な「事例」に早期に関わることができます。

一方、事業側から見ても広報関与のメリットはあり、作業コスト削減と目的達成への集中、専門用語の適切な表現、そして第三者視点からのインタビューを作ることが可能となります。

具体的な運用のTipsとして今回ご紹介した、事例インタビューで決めるべき4つの要素、運用時の注意点も含め、BtoB広報活動の参考になれば幸いです。