ふるさと納税の成功の裏側には、広告会社をはじめとした支援会社の存在があります。
2021年度には8,302億円と過去最高の寄付額となったふるさと納税。
主戦場は「楽天ふるさと納税」や「ふるなび」、「ふるさとチョイス」などのポータルサイトであり、競争力を上げるためにはデジタルプロモーション施策が必須です。
専門性を求められるデジタルプロモーションを自治体だけで運用できる例はほとんどありません。
今回は、地元の自治体の支援方法を模索されている地方広告会社に向けて、成功する支援体制とデジタルマーケティング活用例をご紹介します。
お話を伺ったのは、ふるさと納税に関連する商品開発からサイト掲載、プロモーション、寄附者管理までを一括でご支援しており、35以上の自治体支援実績を持つ株式会社インサイト(以下、インサイト社)の細川 将宏さんです。
目次
地域へ還元すべきふるさと納税。商品開発まで踏み込む本気のコミュニケーション
株式会社インサイト 執行役員 地域ソリューション部長
2006年Abeam Consulting入社。国内大手消費財メーカーのグローバル業務標準化プロジェクトに関与。2012年に、事業再生系コンサルティング会社Revampにて、大手不動産企業の企業マーケティング業務に従事。
2014年よりインサイトにて、地域活性化のための新事業部として地域ソリューション部を設立。地域活性化のための「地域商社経営」を行う中で、その自走手段として「地域運用型のふるさと納税運用」を確立し、現在35以上の自治体で納税業務を受託。
重要なのは関与者の意欲を上げること。接点を増やし生産者も巻き込む
―――ふるさと納税を支援する上で、重要なことは何でしょうか。
細川氏:大前提として、ふるさと納税は地域のために集まったお金です。当然地域に還元すべきものであり、商品の設計からプロモーションまで、自治体や生産者の方々とともに取り組むものだと考えています。
そのため、関与者の意欲を上げることが非常に重要ですが、難しい点でもあります。
弊社は現在約35自治体を運用していますが、自治体や生産者の方々のふるさと納税事業への理解や温度感は様々です。意欲を高めていくには、1~2年継続して取り組む中で納税事業を通しての成功体験や、弊社の担当営業による真摯な取り組み姿勢に共感いただくなど、何かしらのきっかけが必要です。
取り組み意欲を地域全体で高めながら、自治体・事業者・インサイトが三位一体となって本気で地域活性化に取り組むことがやりがいです。
―――関与者の意欲を上げるための取り組みとは、どのようなものでしょうか。
細川氏:私たちは、その地域に密着したコミュニケーションに力を入れています。
例えば、自治体だけでなく生産者の方々を巻き込み商品開発などの勉強会を積極的に実施する、現地に何度も訪問し、新たな特産品として掲載させていただくために何度も交渉することもあります。
何度も生産者を訪問して交渉。地元の個人漁師から生まれた「柱商品」
細川氏:例えば、岩手県山田町の取り組み例では、地域の生産者さんと連携して魅力的な商品を作ることに成功しました。
参画当初は、自治体単独で商品のバナーやデザイン作成まで対応されていて、競争力の低い状態でした。
まず、地域の特産品として海産物、特に漁協などを通さず個人で運営されている漁師さんに注目し、1年以上かけて粘り強く交渉を続けて、生牡蠣などを商品として掲載いただくことができました。寄附金額は前年比で500%に伸びただけでなく、海外からの引き合いも増え輸出が決まるなど、山田町の“柱商品”の一つになっています。
その道のプロ3社がパートナーシップを組んだ他にはない支援体制
ポイントは地域にゆかりのある企業を座組みに加えること
―――地域に何度も訪問するほどのコミュニケーションを実施できる体制とは、どのようなものでしょうか。
細川氏:多くの競合企業は、ふるさと納税関連業務を1社で請け負っていますが、弊社の場合は基本的に3社で分担し、それぞれの強みが活きる形でチームを組んでいるのが特徴です。
具体的には、現地での商品開発、配送・問い合わせ管理、Webマーケティング管理と業務領域を大きく3つに分け、それを3社もしくは2社で分担する体制としています。
なるべくその地域にゆかりのある企業を座組みに加え、「地域支援企業」として、生産者とのやり取りが必要な商品開発の役割を担っています。
連携している地元のパートナー企業や団体は約20社あり、民間企業から商工会や観光協会などもあります。北海道や東北地域の場合は、弊社が地域支援企業の役割も担う場合もあります。
―――先の山田町の事例でも、地域支援企業が座組みに入っていると。
細川氏:はい。実際に商品開発に向けて粘り強く交渉したのは、現地にある商社・山田プライド株式会社(インサイト社の関連企業)で、地域支援企業として参画しています。
―――その他の業務分担はどのようになっているのでしょうか。
細川氏:基本の分担は、プロモーション全般やポータルサイト運用、寄付管理、帳簿管理はインサイトが、配送や問い合わせ対応は、提携しているカタログギフト大手のRINGBELL(リンベル)社が主に担当しています。
このような体制で臨んでいるため、地域への訪問回数や地元企業・生産者とのコミュニケーション頻度は、他社と比較しても非常に多いです。強固な体制で地域の事業者や自治体の方と本気で向き合う点は弊社ならではの強みだと思っています。
9割がスマホ経由!返礼品もプロモーション方法も多様化
2022年は1兆円規模を見込む市場へ。ポータルサイト内の競争力向上が不可欠に
―――ここからは、ふるさと納税のプロモーションについて伺います。現在の市場環境はいかがでしょうか。
細川氏:ふるさと納税の市場規模は毎年120%成長し、2022年は1兆円を超えるのではないかと言われています。
9割以上の方がスマートフォンから申し込みをしており、デジタルプロモーションが非常に重要です。楽天の参入でポータルサイトのシェアも大きく変化したため、弊社でもポータルサイトへの誘導やサイト内の競争力を高めることに注力しています。
また、コロナ禍以降の変化として、大量に届くお得度の高い返礼品よりも、定期便形式の商品や小分け商品、半加工商品のニーズが高まりました。ふるさと納税の市場でも一般のEC業界と同じような変化が見られると感じています。
基本のプロモーション戦法は「柱商品を立て、育てる」
―――ふるさと納税にはデジタルプロモーションが必須なのですね。基本的なデジタルプロモーション方法をお教えください。
細川氏:一般的に、1自治体あたりの商品数は200~300点の取り扱いがあり、寄付額が10億を超えるような自治体では2,000点以上商品がある場合もあります。
やはり数が多いとすべての品目をプロモーションするのは難しいので、自治体への寄附をけん引するような柱商品を、寄付データ分析を元に選定し、戦略的にプロモーションを強化しています。
自治体ページへの流入数を増やして柱商品に広告を集中し、そして核となる商品が育ってきたらポテンシャルのある商品に手をかけていく、といったことを繰り返し運用するのが基本の運用です。
もちろん集客面では、ポータルサイト内広告だけでなく、Yahoo!やGoogle、Facebook、InstagramなどのWeb広告も活用しています。
該当の返礼品に関する検索キーワードごとの掲載順位確認を行いながら、広告効果の最大化に向けての細かなチューニングを日々行っております。
各ポータルサイトの管理機能上のデータも含め、どの町のどの商品に伸びしろがあるかを分析したレポートを作成し、自治体や生産者さんと細かく打ち合わせています。
また、ふるさと納税に関わらずですが、商品によってターゲティングもバラバラですので、ターゲットのリサーチは入念に実施しています。
―――デジタルを活用した具体事例をお教えください。
細川氏:基本的な運用以外にも、商品や企画に合わせて様々なデジタルプロモーションを実施しています。いずれも商品設計から関わり、寄付額を大幅に伸ばしている事例です。
【事例】「未来の主産品」の商品化に成功。1商品で440%成長に繋げたモール内広告活用
細川氏:まずは、北海道羅臼(らうす)町の「ぶり」を商品化した例です。
従来、ぶりは北海道ではなかなか捕れない魚でしたが、温暖化の影響で日本全国の漁場がどんどん北上しており、羅臼町のある知床半島の海もぶりが捕れるようになってきています。
近年では「北海道で捕れる魚」として認知されるほど漁穫量が増えており、漁業業界で注目され始めている「羅臼のぶり」をいち早く商品化し、プロモーションを実施しました。
プロモーション面では、主に楽天内広告であるRPP広告を利用し、楽天セール期間の前にランキング入りや検索順位UPに活用しました。1商品で前年対比440%の寄附金を集めることができ、主産品としてのアプローチに成功しています。
【事例】あえて商品ページに直接誘導しない!ブランディング施策で前年比1,600%の寄付額増加を達成
細川氏:続いては、福島県伊達市の支援例です。
我々が支援し始めた2019年当時は、桃の生産量がトップクラスの地域であるにもかかわらず、うまく発信できていませんでした。自治体からの希望もあり、「桃の町」としてのブランド化を確立しながら寄付額を前年比で1,600%に伸ばしています。
特に力を入れたのは、商品ページとは別に、自治体と連携して制作した特設サイトです。
特設サイトでは、現地で生産されている約15種類の桃を1つ1つ紹介しており、生産者さんのインタビュー、現地のお店情報、桃を利用したアレンジレシピなど、ふるさと納税以外の情報も多く掲載しています。
Web広告でもブランディングを重視し、広告成果が低くなることは承知の上で、商品ページだけでなく特設ページにも配信しています。
【事例】ファン向けに“体験”を提供!市内で最も寄付額を集めたクラウドファンディング活用
細川氏:広島県福山市の例では、福山城の復元プロジェクトを目的としたクラウドファンディングを自治体と一緒に考え実施しました。
結果、福山市のどの特産品よりもお金を集める商品となっています。
ふるさと納税でも利用できるクラウドファンディングの仕組みはありますが、企画内容が重要です。
福山市の事例では、あえて観光客ではなく「お城ファン」の方にどう喜んで言いただけるのかを考えました。寄附金がすべて修繕費に使われる点だけでなく、返礼品でも「寄附額により補修する瓦の裏に名前が刻まれる」など、寄付者も嬉しいコンテンツをいくつも用意しています。
”モノ”ではなく”コト”を提供する商品も地域の応援につながること実感した例です。
集めたお金が地域経済に活かされることこそがやりがい
ふるさと納税だけでなく、地域のファンとして地方活性化を目指す
―――多数の自治体をご支援されてきていますが、地元に貢献できたと思う瞬間や、嬉しいと感じる瞬間はどのようなときでしょうか。
細川氏:やはり、生産者様から感謝の言葉をいただけたときは嬉しいです。
また、ふるさと納税で集めたお金で地域のための事業をする瞬間に立ち会えた時はすごくやりがいを感じます。ただお金を集めることが目的ではなく、「地域の経済を維持する要素になる」ことを肌で感じとれる瞬間です。
―――インサイト社の地元地域である北海道・東北への貢献に対する想いをお聞かせください。
細川氏:北海道に関しては、通信販売先進地である九州エリアと比べると、ふるさと納税への本格的な参入が遅れていたと感じています。しかし、北海道はご存じの通り、食や観光などの魅力的な資源に溢れており、全国でここまで大きなポテンシャルのある地域はないと考えています。
近年では急速に寄附額を伸ばし、全国TOPクラスの寄付金額を誇る地域になっています。北海道企業として、これからも地域のポテンシャルを発揮するお手伝いをしていきたいと考えています。
現在、弊社が支援している35自治体の中で北海道は5自治体にとどまっています。今後は、最重要エリアを北海道に設定し、地場企業として北海道の発展に貢献したいですね。
―――今後、地方活性化として取り組んでいきたいことがあればお教えください。
細川氏:現在、ふるさと納税支援を行っている部門では納税事業がメインになっていますが、元々観光系の事業で移住やインバウンドの事業も手がけています。
納税事業だけでなく+αの支援として、地域のファンとして、イベントや交流の場を広げるなど、弊社の強みを活かして町全体のブランド化やプロモーションでも貢献していきたいです。
まとめ
今回は、インサイト社の細川様にふるさと納税支援事業についてお話を伺いました。
市場が拡大を続ける中で、デジタルプロモーションを活用した競争力の向上は欠かせません。豊富な支援実績を持つインサイト社では、その地域への想いを持つ企業を必ず座組みに入れることで、より地域に密着した支援を行える体制づくりを実現しています。
ただ地域に密着するだけでなく、地域ならではの商品設計から関わり、自治体や生産者の方々と一丸となって取り組み着実に成果を残しているインサイト社の支援は、地域にとって頼りになる存在だと感じました。
お忙しい中、ありがとうございました!
株式会社インサイトについて
本社:北海道札幌市
2023年に創業50年を迎える広告・マーケティング会社。北海道内企業を中心に、住宅・不動産・娯楽・小売業などのプロモーションを企画からクリエイティブまでワンストップで提供。
ふるさと納税関連事業は2017年ごろより開始し、地方自治体や地方の活性化を支援している部門が担当。
今回、「地域支援企業」としてご紹介した山田プライド社などの、行政関連の業務を請け負い、行政と民間の橋渡しとなる地元企業の立ち上げや運営支援も実施している。
公式サイト:https://www.ppi.jp/
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