デプロイとは?意味・手順・成功ポイントまで一挙解説

KW:デプロイ

デプロイとは、開発が完了したソフトウェアを本番環境へ反映し、ユーザーが実際に利用できる状態にする工程です。

適切なデプロイ体制を構築すれば、最新機能を迅速に提供できるだけでなく、品質向上や運用コスト削減など多面的な効果も期待できます。

しかしデプロイには、設定ミスによるサービス停止やセキュリティリスク、ロールバックが難航する可能性などの課題が潜んでいるため、慎重な設計と運用が欠かせません。

そこで本記事では、デプロイの基本概念からリリース・ビルドとの違い、代表的な方式とプロセス、成功させるためのポイント、活用できるツールまでを一挙に解説します。

継続的なサービス改善とビジネススピードの両立を目指す方は、ぜひご一読ください。

目次


デプロイとは

デプロイとは、開発が完了したソフトウェアを利用者がアクセスできる環境へ反映し、価値を届けるまでの一連の工程を指します。コードをビルドして成果物を生成し、サーバーやクラウド基盤へ配置し、設定を適用し、動作確認まで行うプロセス全体が含まれます。

従来は月単位で実施されることも珍しくありませんでしたが、クラウドの普及と DevOps 文化の浸透により、少量の変更を短いサイクルで届ける継続的デプロイの普及が進み、多くの組織で採用が拡大されました。これにより、ユーザーへのリリース速度が上がるだけでなく、問題が小さいうちに発見・対処できるため品質改善サイクルも加速します。

また、シェルスクリプトや Jenkins、GitHub Actions などの自動化ツールを活用することで、ヒューマンエラーを抑えながら標準化された手順で安全にデプロイできるようになりました。

ビジネス面では、迅速なフィードバック取得とタイムトゥマーケット短縮が競争力を左右するため、デプロイの仕組みをいかに整備し運用するかが重要な経営課題となっています。


デプロイとリリースの違い

デプロイとリリースはしばしば同義語として扱われがちですが、実際には役割も目的も異なります。簡潔にまとめると、デプロイは「ソフトウェアを稼働環境へ届ける技術的作業」リリースは「稼働環境で機能を有効化し、ユーザーへ提供を開始するビジネス上のアクション」です。つまり、デプロイが完了してもリリースされていない状態は存在し得ますし、その逆は成立しません。

観点デプロイリリース
定義コードや成果物を本番環境に配置し稼働できる状態にする技術的作業本番環境で機能を有効化しユーザーに提供を開始するビジネス上のアクション
対象範囲インフラ設定・コンテナ配置・自動テスト・ロールバック準備など公開タイミング調整・A/B テスト・ユーザー告知・サポート体制整備など
主な関係者開発チーム、SRE/運用チームプロダクトオーナー、マーケ、カスタマーサクセス、営業
タイミング変更ごとに高頻度(継続的デプロイなら1日数回も)ビジネス判断に合わせ段階的(カナリア、ブルーグリーンなど)
評価指標MTTR、変更失敗率、デプロイ所要時間利用率、CVR、CSAT などユーザー価値・ビジネス指標
目的安全かつ迅速に稼働環境へ反映し品質を保つ顧客体験を向上させ事業成果を最大化する
代表的手段CI/CD パイプライン(Jenkins、GitHub Actions 等)機能フラグ、カナリアリリース、段階的ロールアウト

対象範囲の違い

デプロイはコンテナイメージの配置や設定ファイルの反映などインフラ寄りの処理が中心です。一方、リリースはマーケティング施策やユーザー通知、サポート体制の整備など、ビジネスプロセス全体を含みます。そのため、関係者もデプロイは開発・運用チームが主、リリースはプロダクトオーナーやカスタマーサクセス、営業まで幅広く関与します。

タイミングとフローの違い

継続的デプロイを採用している場合、新しいバージョンは自動で本番環境に配置されますが、機能フラグをオフにしておくことでユーザーからは見えない状態を保てます。その後、A/B テスト結果やサポート準備が整った段階でフラグをオンにし、リリースとして正式公開する流れが一般的です。この分離により「配置は頻繁、公開は段階的」にコントロールできます。

目的と評価指標の違い

デプロイの主目的は安定した動作と迅速な反映であり、MTTR(平均復旧時間)や変更失敗率が主要な評価指標です。対してリリースはユーザー価値の提供が最終目標となるため、利用率や転換率、CSAT などビジネス指標で評価されます。適切に区別することで、技術的健全性とビジネス成果の両面から改善サイクルを回せます。

よくある誤解への対処

「デプロイ=即全公開」と思い込むと、バグ混入時に全ユーザーへ影響が及びやすくなります。

機能フラグやカナリアリリースを利用し、「まずはデプロイ、段階的にリリース」という手順を設計しておくことで、品質リスクと事業インパクトを最小化できます。また、社内用語を明確に定義し、ドキュメント化しておくと、部門間の認識齟齬を避けられます。

このように、デプロイとリリースを分離管理することで、開発速度とサービス品質を両立しやすくなります。ビジネスの成長を支えるためには、それぞれの目的を理解し、適切なプロセスと指標で運用する姿勢が欠かせません。


デプロイとビルドの違い

ビジネス上の価値を素早く届けるには、ビルドとデプロイを切り分けて最適化する視点が欠かせません。ビルドはソースコードを実行可能な成果物に変換する工程、デプロイはその成果物を稼働環境へ配置し利用可能にする工程というように、役割も目的も異なります。

観点ビルドデプロイ
定義ソースコードをバイナリやコンテナイメージなど実行可能な成果物へ変換する工程ビルドで生成した成果物を稼働環境へ配置し、設定を適用して起動させる工程
目的一貫性のある成果物を確実に生成し、エラーを早期検知するサービスを停止させず安全かつ迅速にユーザーへ価値を届ける
主な作業コンパイル・パッケージング・依存関係解決・静的解析・ユニットテスト成果物配置・環境変数/シークレット適用・マイグレーション・監視設定
成果物JAR/WAR、Docker イメージ、APK など本番環境で稼働するアプリケーションインスタンス
主な関係者開発者、CI 管理者SRE・運用チーム、プロダクトオーナー
評価指標ビルド時間、成功率、テスト通過率変更失敗率、平均復旧時間(MTTR)、ユーザー影響度
タイミングコミットごと・プルリクごとに高頻度実行テスト通過後、ビジネス判断や自動トリガーに応じ実行
主なリスク依存ライブラリ不整合、ビルド環境差異ダウンタイム、設定ミスによるサービス停止
自動化ポイントCI パイプライン(GitHub Actions / Jenkins など)CD ツール(Argo CD / AWS CodeDeploy など)+機能フラグ

ビルドの役割と成果物

ビルドは、コンパイル・パッケージング・依存ライブラリの解決などを通じて、コードを実行形式(バイナリやコンテナイメージなど)にまとめる工程です。品質保証の観点では、静的解析やユニットテストもビルドパイプラインに含まれ、エラーが検出された時点で処理は停止します。成果物の一貫性と再現性が最優先となるため、ビルド環境はできる限りコード化(Infrastructure as Code)し、どこで実行しても同じ結果を得られる状態を目指します。

デプロイの役割と範囲

デプロイは、ビルド済みの成果物を本番あるいはステージング環境に反映し、設定やシークレットを適用して稼働させる工程です。ローリングデプロイやブルーグリーンデプロイのようにダウンタイムを抑える戦略を採ることもあれば、機能フラグを使い段階的に公開範囲を広げるケースもあります。ここで重視されるのは可用性と安全性であり、監視・アラート・ロールバック手順が整っているかどうかがサービス継続の鍵を握ります。

タイミングと責任範囲の違い

ビルドは開発サイクルのたびに自動で走ることが一般的で、担当は主に開発チームです。対してデプロイは運用チーム(SRE)やプロダクトオーナーも関わり、公開タイミングや影響範囲を踏まえて意思決定が行われます。継続的デリバリーを採用している組織では、ビルドはコミットごとに、デプロイはテストパス後に自動で行われることが多く、責任共有の仕組みが欠かせません。

評価指標とリスク管理

ビルドではビルド時間、成功率、テスト通過率などが評価指標になります。一方デプロイでは、デプロイ失敗率や平均復旧時間(MTTR)、ユーザー影響度が主要指標です。ビルドエラーは開発者の生産性低下に直結し、デプロイエラーはサービス停止や顧客体験の劣化に直結します。リスクレベルが異なるため、チェック項目や承認フローも段階的に分けることが推奨されます。

連携を円滑にするポイント

パイプラインの分離と自動連携:ビルドとデプロイを異なるステージに分け、成果物をアーティファクトリで受け渡すことで責任境界が明確になります。

ロールバック設計:デプロイ直後に問題が見つかった場合、ビルド時点で生成した安定版イメージへ即時戻せるようにしておくと影響を最小限に抑えられます。

ビルドとデプロイを正しく切り分けることで、開発速度を維持しながらサービス品質と顧客満足度を高い水準で両立できます。どちらの工程も自動化・可観測性・権限管理を意識し、継続的に改善する姿勢が重要です。


デプロイのメリット4つ

デプロイ体制を最適化すれば、機能の提供速度とサービス品質を同時に高めながら、運用コストを抑えられます。結果として顧客満足度とビジネス競争力の向上を同時に実現できる点などが、メリットとして挙げられます。

1.迅速な価値提供とタイムトゥマーケット短縮

継続的デプロイ(CD)を導入すると、コード変更がテストを通過し次第、自動的に本番環境へ反映されます。これにより、顧客は最新機能や改善をほぼリアルタイムで体験でき、競合より早く市場に価値を届けることが可能です。

2.品質向上とフィードバックループの高速化

高頻度で小規模なリリースを行うと、不具合が発生しても影響範囲が限定的なため、原因の特定と修正が容易になります。ユーザーやモニタリングツールからのフィードバックを短いサイクルで受け取り、継続的インテグレーション(CI)と結び付けることで、ソフトウェア品質を段階的に高められます。

3.運用コスト削減とスケーラビリティ確保

自動化されたデプロイはヒューマンエラーを削減し、障害対応にかかる時間と労力を大幅に減らします。また、インフラをコードとして管理することで、需要の増減に応じたリソース拡縮が容易になり、無駄なインフラ費用を防げます

4.組織間の協業強化とビジネス競争力向上

標準化されたパイプラインと明確な責任分担により、開発・運用・ビジネス部門が共通のプロセスで連携できます。これにより、サービス改善のアイデアが迅速に実装・検証されるため、顧客ニーズの変化に柔軟に対応でき、企業全体の競争優位性が高まります


デプロイのデメリットや課題5つ

デプロイを高度に自動化することでスピードと品質を両立できますが、その仕組みが未成熟なまま運用すると、むしろサービス停止やセキュリティ事故の導線になり得ます。ここでは代表的なデメリットや課題を5つ紹介します。

1.サービス停止リスクと顧客影響

デプロイ直後はコード・設定・インフラが同時に変わるため、思わぬ依存関係の崩壊でダウンタイムが発生しやすくなります。特にピーク時間帯での切り替えは顧客体験を大きく損ねるため、ローリングやブルーグリーン方式で段階的にトラフィックを流し、異常を早期検知できる体制が不可欠です。

2.セキュリティ・コンプライアンスの複雑化

CI/CD パイプラインにシークレットや API キーを組み込む際、権限設定が甘いと漏えいリスクが高まります。また、監査証跡や承認フローを省略すると、規制業界ではコンプライアンス違反を招きかねません。最小権限原則と監査ログの保持を徹底し、レビュー工程を自動化しても人的チェックを残すことが求められます。

3.自動化エラーとロールバック難易度

自動スクリプトが暴走すると、大量のサーバーに誤った設定を一斉に配布する恐れがあります。さらに、データベーススキーマ変更を伴うデプロイではロールバックが容易ではありません。バージョン管理された IaC とデータ移行手順の双方でロールフォワードを前提に設計し、即時切り戻しが難しい変更は本番データを複製したステージング環境で徹底検証する必要があります。

4.環境差分・設定管理の難しさ

ローカル、テスト、本番で OS バージョンやネットワーク設定が異なると、構築は成功しても稼働後に予期せぬ障害が起きがちです。コンテナや IaC を採用しても、シークレットの受け渡し方法や外部サービスの認証方式が環境ごとにズレるケースは少なくありません。設定値をコードとしてリポジトリ管理し、環境変数で差分を吸収する方法が効果的です。

5.人材・ツールコストの増大

Jenkins から GitHub Actions への移行、Argo CD のような GitOps ツール導入など、モダンなデプロイ基盤は学習コストが高くなりがちです。手順をブラックボックス化すると属人化が進み、担当が異動・退職した際に保守不能になるリスクがあります。ドキュメント整備とペア作業を習慣化し、ベンダー依存を避ける構成ポリシーを定めることが継続運用の鍵となります。

参考:AIセキュリティとは?AIを活用したセキュリティ対策の基礎と実践|LISKUL


デプロイの主な種類5つ

デプロイには、導入コスト・可用性・リスク許容度の違いによって複数の方式が存在します。ここでは実務で採用例が多い 5 つの代表的な手法を整理し、それぞれの特徴と適用シーンを解説します。

1.手動デプロイ

人手でコマンドを実行し、成果物をサーバーに配置する最も基本的な方式です。小規模システムや緊急パッチ適用で用いられる一方、作業漏れや設定ミスが起きやすく、ヒューマンエラーのリスクが高い点が課題となります。

2.自動デプロイ(プッシュ型)

CI/CD パイプラインがビルド成功後に即座に本番環境へ反映する方式です。コミットからユーザー提供までの時間を大幅に短縮できますが、ロールバック手順と監視設計が不十分だと障害時の影響範囲が拡大しやすいため注意が必要です。

3.ローリングデプロイ

稼働中のインスタンスを少しずつ新バージョンへ置き換える方式で、常に一定数の旧バージョンが稼働しているためダウンタイムを抑えられます。負荷分散の設定が必須となりますが、トラフィックを維持しながら安全に切り替えたい中〜大規模サービスで効果を発揮します。

4.ブルーグリーンデプロイ

本番環境を「ブルー(現行)」と「グリーン(新)」の 2 系統用意し、切り替えスイッチで一気にトラフィックを移す方式です。完全に独立した環境で検証できるためリスクを最小化できますが、インフラコストが増える点がデメリットです。即時ロールバックが求められる金融・決済系システムで採用例が多く見られます。

5.カナリアリリース(カナリアデプロイ)

新バージョンを全体の 1〜5% など少量のユーザーに限定公開し、問題がないことを確認してから段階的に展開する方式です。異常を早期検知しつつ影響範囲を限定できるため、大規模ユーザーベースを持つ SaaS で広く利用されています。機能フラグと組み合わせると、UI 変更の A/B テストにも応用できます。

これらの方式は相互排他的ではなく、開発段階・ビジネス要件ごとに併用するケースが一般的です。たとえば「カナリアで品質確認 → 問題なければローリングで全面展開」というように、段階的アプローチを設計することで、サービス停止リスクを抑えながら高頻度リリースを実現できます。


デプロイの一般的なプロセス6ステップ

デプロイは「計画・検証・反映・監視」という一連の流れを滞りなく回すことで、ユーザーへの影響を抑えながら価値を届けられます。本章では、クラウドネイティブな環境でよく採用される標準的なプロセスを6つのステップに分けて解説します。

1.事前計画と環境設計

まず成果物をどの環境へ、どの順序で反映するかを決定します。インフラ構成図や IaC(Infrastructure as Code)のリポジトリを用意し、ロールバック方法やダウンタイム許容範囲を関係者で共有しておくことで、トラブル時の混乱を防げます

2.ビルド・自動テストの実行

CI パイプラインがソースコードを取得し、依存解決・コンパイル・静的解析・ユニットテストなどを自動で実施します。ここでエラーが発生すれば処理を中断し、デプロイ段階へ進まない仕組みを構築しておくと品質を確保できます

3.ステージング環境での検証

ビルド成果物を本番と同等のステージング環境へ配置し、統合テストやパフォーマンス計測を行います。実運用データをマスキングして取り込み、負荷試験やセキュリティチェックを実施しておくと、本番反映後の想定外障害を減らせます

4.リリース判定と承認

自動テスト結果とモニタリング指標を確認し、ビジネス側のリリース要件(マーケ施策やユーザー通知準備など)が整っていることを確認した上で、デプロイ承認を行います。承認履歴を残すことで監査対応や原因分析が容易になります。

5.本番環境への反映

ローリング、ブルーグリーン、カナリアなど選定した方式に従って本番インスタンスを更新します。データベース移行が伴う場合は、バックアップ取得とスキーマバージョン管理を行い、段階的にミグレーションを適用します。

6.モニタリング・ロールバック・継続改善

デプロイ後は APM やログ集約ツールでエラーレート、レイテンシ、リソース使用率を監視し、異常があれば自動アラートで担当者に通知します。必要に応じて直前の安定版イメージへロールバックし、ポストモーテムを実施して再発防止策を CI/CD パイプラインへ反映します。

このように各フェーズを明確に分け、可視化と自動化を組み合わせることで、安全かつ迅速なデプロイを継続的に実現できます。


デプロイを成功させる 5 つのポイント

素早く安全にユーザーへ価値を届けるには、単にパイプラインを自動化するだけでは不十分です。可観測性やガバナンス、学習サイクルまで統合した「運用の仕組み化」が欠かせません。ここでは継続的に成功させるための 5 つのポイントを解説します。

1.パイプラインの自動化と標準化

ソース管理から本番反映までをワンストップでつなぐ CI/CD パイプラインを整備し、手作業を極力排除します。ジョブの構成や依存関係をコード化し、環境変数とシークレットを一元管理すると、再現性の高いデプロイが行えます。パイプライン定義をレビュー対象に含め、コード同様に Pull Request ベースで変更を監査すると品質も保てます。

2.可観測性の強化と異常検知

APM、分散トレーシング、ログ集約を組み合わせ、レイテンシやエラーレートをリアルタイムに可視化しましょう。デプロイ後 5〜10 分以内に KPI のしきい値を超えたら自動でアラートを発報し、カナリアやローリングの段階をストップできる仕組みを構築すると、ユーザー影響を最小限に抑えられます。

3.段階的リリースと機能フラグ

いきなり全ユーザーへ公開せず、まずは内部ユーザーや 1〜5% のトラフィックに限定してから段階的に展開します。機能フラグを併用すると、コードを再デプロイせずにオン/オフを切り替えられるため、緊急時の切り戻しが容易です。A/B テストを行う場合も同じ基盤で運用でき、リリースとマーケ施策を同時に最適化できます。

4.セキュアな権限管理とガバナンス

CI/CD ツールには本番環境への書き込み権限やクラウド API キーが集中するため、最小権限原則(PoLP)を徹底し、承認ステップを複数人に分散させます。監査ログを長期保管し、誰がいつどのバージョンをリリースしたかを追跡できる状態を維持すると、インシデント発生時の原因究明が迅速になります。

5.学習と改善のサイクル(Post-mortem 文化)

障害やデプロイ失敗が起きた際は、責任追及ではなく学習を目的としたPost-mortem を必ず実施します。再発防止策をパイプラインやドキュメントへ反映し、SLA/SLO を定期的に見直すことで、運用組織全体が継続的に成熟していきます。成功例についても振り返り、ベストプラクティスを横展開することでチーム間の知識共有を促進できます。

参考:AIガバナンスとは?企業がいま整えるべき体制と導入方法を解説|LISKUL


デプロイに活用できる代表的ツール5つ

デプロイ基盤を構築するときは、自社の規模や既存インフラとの親和性、チームのスキルセットに合うツールを選定することが鍵になります。ここでは利用シーンごとに代表的なツール5つ紹介します。

1.オープンソース CI/CD ツール

オープンソースは高い拡張性とコミュニティサポートが魅力です。Jenkins はプラグインが豊富でレガシー環境にも対応しやすく、GitLab CI/CD はリポジトリとパイプラインを一体で運用できる点がメリットです。CircleCI はクラウド版も用意されており、ビルドキャッシュ機能で高速化を図れます。オンプレミス中心の組織でも、自社ネットワーク内にエージェントを配置する形で柔軟に運用できます。

2.クラウドネイティブ CI/CD サービス

GitHub Actions、AWS CodePipeline/CodeDeploy、Azure Pipelines、Google Cloud Deploy といったマネージドサービスは、インフラ保守を最小限に抑えながら高可用性を確保できます。GitHub Actions はワークフローを YAML で定義でき、Marketplace の再利用アクションが多彩です。クラウドベンダー提供のツールは IAM や監査ログと連携しやすく、マルチアカウント環境でも権限統制を行いやすい点が評価されています。

3.GitOps ツール

Kubernetes を活用する場合、Argo CD や Flux などの GitOps ツールが強力な選択肢になります。マニフェストを Git でバージョン管理し、リポジトリの変更を監視してクラスターへ適用する仕組みのため、宣言的に環境を保つことができます。UI で差分を可視化できるため、リリース前後の設定変更を追跡しやすく、ロールバックが容易になる点が実運用で高く評価されています。

4.商用デプロイ管理プラットフォーム

Harness、Octopus Deploy、Spinnaker などの商用プラットフォームは、多段環境のデリバリー管理やリリースゲートの設定、コスト分析などを包括的に提供します。例えば Harness は AI/ML を活用した異常検知や自動ロールバック機能を搭載しており、大規模サービスでの運用負荷を抑えたい組織に適しています。既存 CI を残しつつデプロイ管理レイヤーだけ置き換える構成も可能です。

5.補助ツール(機能フラグ・セキュリティ)

段階的リリースや A/B テストを行う場合は LaunchDarkly や ConfigCat といった機能フラグサービスが役立ちます。また、HashiCorp Vault や AWS Secrets Manager などのシークレット管理ツールを組み合わせると、CI/CD パイプラインにおける資格情報の漏えいリスクを低減できます。可観測性強化では Datadog、New Relic、Grafana Cloud などが一般的です。

これらのツールは単独で完結させるのではなく、CI、CD、監視、権限管理を統合したエコシステムとして設計すると、運用負荷を抑えながらセキュリティと可用性を両立できます。最初はスモールスタートでパイプラインの一部から導入し、成功事例を重ねながら段階的に拡張していくアプローチが現実的です。


デプロイに関するよくある誤解4つ

最後に、デプロイに関するよくある誤解を4つ紹介します。

誤解 1:デプロイ=リリースである

デプロイはソフトウェアを稼働環境へ届ける技術的な工程、リリースはユーザーに機能を公開するビジネス上の判断という違いがあります。機能フラグやカナリアリリースを使えば「デプロイ済みだが未リリース」の状態を保ち、検証が終わってから段階的に公開することが可能です。両者を分離することで品質リスクと事業インパクトを最小限に抑えられます。

誤解 2:自動化すればトラブルは起こらない

CI/CD パイプラインを導入しても、テストカバレッジ不足や設定ミスが残っていれば障害は発生します。自動化は“ヒューマンエラーの発生箇所を変える”だけで、ゼロにするわけではありません。テスト結果の可視化、段階的リリース、ロールバック手順の維持など、複数層の安全策を併用してはじめて安定運用が実現します。

誤解 3:デプロイは開発チームだけの責任である

本番環境へ変更を加える行為は、営業・サポート・カスタマーサクセスなど顧客接点を持つ部門の業務にも直結します。たとえば API の応答が遅くなればサポート問い合わせが増えるため、運用チームやビジネス部門とリスク共有する体制が欠かせません。SLO(サービス水準目標)を共有し、監視アラートの通知先を横断チームに設定すると連携がスムーズになります。

誤解 4:デプロイ失敗時はすぐロールバックすればよい

データベーススキーマ変更やステートフルな処理を伴う場合、単純なロールバックでは元の状態に戻せないことがあります。近年は“ロールフォワード(追加修正で前進復旧)”が推奨される場面が増えています。事前にマイグレーションの巻き戻し手順を用意し、バックアップと監査ログを取得しておくことが、安全な復旧への近道です。


まとめ

本記事では、デプロイの基本概念からリリース・ビルドとの違い、メリットと課題、代表的な方式、一般的なプロセス、成功のためのポイント、活用できるツールまで網羅的に解説しました。

デプロイとは、完成したソフトウェアをユーザーが利用できる環境へ反映し、価値提供を実現する工程です。リリースやビルドと役割を分けて考えることで、ビジネス判断と技術作業の双方を最適化できます。

適切なデプロイ体制を整えることにより、開発サイクルを短縮しながら品質を維持し、運用コストも抑えられます。その一方で、サービス停止やセキュリティリスクなどの課題も存在するため、段階的リリースやロールバック設計、可観測性の強化が欠かせません。

ローリングやカナリア、ブルーグリーンなど複数の方式を組み合わせ、CI/CD や GitOps、機能フラグなどのツールを活用することで、スピードと安定性を両立したデプロイが実現できます。

まずは小規模な自動化や監視の導入から始め、ポストモーテムを通じて継続的に改善していくことで、組織全体の競争力と顧客満足度を高めていきましょう。