
SaaSとは、インターネット経由でソフトウェアを月額や年額で利用できるサービス型の提供方式です。自社でサーバーを構築・保守する必要がなく、申し込んだその日から業務に活用できるスピード感と、初期投資を抑えられるコスト効率の高さが支持されています。
一方で、サービス提供事業者への依存度が増すため、ベンダーロックインやデータ保護といったリスクにも注意が必要です。
そこで本記事では、SaaSの基本概念や市場動向、クラウド各層との違い、メリット・デメリットを整理したうえで、代表的なサービスや導入成功のポイントまでを一挙に解説します。
SaaSを導入してDXを推進したいとお考えの方は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
SaaSとは
SaaS(Software as a Service)とは「必要なソフトウェアをインターネット経由で利用し、利用分だけ料金を支払うサービス形態」です。
ユーザーはサーバーやアプリケーションを自社で保守・管理せずに済むため、初期投資を抑えつつ短期間で業務システムを立ち上げられます。加えて、ベンダーが機能追加やセキュリティ更新を随時行うため、最新版を継続提供している点も採用を後押ししています。ここではまず「SaaSとは何か」を定義し、クラウドサービスの中での位置付けや市場動向を整理します。
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SaaSの定義
SaaSはソフトウェアをクラウド事業者がホスティングし、ユーザーはブラウザーや専用アプリを通じて機能を呼び出すモデルです。
ライセンスを買い切るのではなく、月額・年額などのサブスクリプション形式で利用し、契約期間中は機能更新やサポートが含まれます。この仕組みにより、導入企業は自社にサーバーを置かず、インフラ運用の専門知識がなくても高度なビジネスアプリケーションを導入できます。
クラウドサービスにおける位置付け
クラウドサービスはIaaS・PaaS・SaaSの三層に分類されます。IaaSは仮想サーバーやストレージなどインフラを提供し、PaaSはアプリケーション開発環境を提供します。
SaaSはその最上位に位置し、ユーザーが直接業務に使う完成形のアプリケーションを提供します。つまり、IaaSやPaaSが“土台”であるのに対し、SaaSは“完成した建物”に相当し、エンドユーザーが即座に価値を得られる点が特徴です。
SaaS市場の規模と成長性
調査会社IDCのレポートによると、国内SaaS市場規模は2024年に1兆円を突破し、年平均成長率(CAGR)15%前後で拡大しています。
背景にはDX推進やテレワークシフトによるクラウド需要の高まりがあり、特にCRMや人事労務、会計などバックオフィス領域で導入が加速しています。今後もAI連携や縦割り業界向けの“Vertical SaaS”の伸長が見込まれ、SaaSは企業IT投資の中核を担う存在となり続けるでしょう。
SaaSが注目される背景にある3つの要因
「短期間かつ低リスクで業務システムを最適化する手段」として選ぶのがSaaSです。
リモートワークの定着、IT投資のサブスク化、そしてAI・データ利活用の前提づくりが重なり、クラウドサービスの中でもSaaSへの需要が加速しています。以下では、その主要な背景要因を3つ紹介します。
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1.働き方の多様化とDX推進
場所を問わず安全に業務アプリへアクセスできる環境が不可欠になりました。SaaSはブラウザさえあれば利用でき、VPNや社内ネットワークに依存しないため、DX推進の起点として導入が進んでいます。特に営業支援(CRM)やグループウェアなど、コラボレーション系ツールが真っ先にクラウド化の対象となりました。
2.ITコスト構造の変化と予算最適化
SaaSは月額・年額課金のためキャッシュフローを平準化しやすく、利用規模に応じて柔軟にプランを変更できます。経営層がIT支出を「固定資産」から「変動費」へシフトしたいというニーズが、SaaS採用を後押ししています。
3.AI・データ活用を前提としたシステム選定
AI分析やBIダッシュボードを活用するには、アプリケーションがAPI連携しやすく、データをクラウド上で統合管理できることが重要です。
SaaSは最新機能を自動で取り込みやすく、拡張アプリマーケットも充実しているため、AI活用の土台として選ばれるケースが増えています。今後はVertical SaaSが業務データの高度化を推進し、さらなる普及を促進すると見込まれます。
SaaSとクラウドの違い
クラウドが道路や電力網のようなインフラを意味するのに対し、SaaSはその上を走る自動車や電化製品に相当し、ユーザーは機能をすぐに利用できる点が決定的な違いです。
観点 | SaaS | クラウド(IaaS/PaaS) |
---|---|---|
提供範囲 | 完成済みアプリケーションをインターネット経由で提供。ユーザーは機能をそのまま利用できる。 | インフラ(IaaS)や開発基盤(PaaS)を提供。ユーザーがOS設定やアプリ開発・運用を担う。 |
管理・保守 | アプリ本体・ミドルウェア・インフラはベンダーが一括管理。利用企業はアカウント設定程度。 | OSパッチやミドルウェア更新は利用企業側の責任範囲(IaaS)。PaaSではアプリ運用を担う。 |
導入スピード | サインアップ直後から利用可能。PoC〜本番まで最短数日。 | サーバー構築・環境設計が必要。構成次第で数週間〜数か月。 |
初期コスト | 基本は月額/年額課金で初期投資が小さい。 | リザーブドインスタンスや大容量ストレージ確保など、設計によって初期費用が発生しやすい。 |
カスタマイズ性 | ベンダー提供範囲内での設定変更が中心。大規模な開発は難しい。 | 開発環境を自由に構築できるため自由度が高いが、構築・保守コストも発生。 |
主な導入目的 | 業務効率化・DXを短期間で実現し、運用負荷を最小化する。 | インフラ最適化や独自アプリ開発、可用性・拡張性の確保。 |
クラウドの定義とサービス層
IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)という3層モデルで語られるのが一般的です。
IaaSは仮想サーバーやストレージなどのインフラを提供し、PaaSはアプリケーション開発・実行環境を提供します。SaaSは最上位に位置し、ユーザーがブラウザーやモバイルアプリから直接利用できる業務ソフトウェアを提供します。
ユーザー責任範囲の違い
IaaSではOSやミドルウェアの保守が利用企業の責任範囲に含まれ、PaaSではアプリケーションコードの開発・運用を担います。
一方、SaaS利用者はアプリケーション設定やアカウント管理のみを行い、インフラやミドルウェア、アプリケーション本体の保守はすべてベンダーが担います。責任分界点の違いが、導入スピードや運用コストに直結します。
導入目的と活用シーン
具体的な業務課題を短期間で解決することが目的です。経営層や事業部門が「業務改善」「従業員体験向上」といった成果を求める場合、SaaSが最適解となるケースが増えています。
コスト構造とROIの考え方
クラウド(IaaS/PaaS)ではリソース使用量に応じた従量課金が主流で、システム構成を最適化できればコストを抑えられます。
しかしインフラ運用体制を持たない企業が利用すると、専門知識不足で費用が膨らむ懸念もあります。SaaSは多くがユーザー数やプランに基づくサブスクリプション課金で、ROIを定量化しやすい利点があります。
まとめ
要約すると、クラウドは「ITリソース供給モデル」、SaaSは「クラウド上で完成形のソフトウェアを提供するサービス形態」です。インフラ管理を必要最小限に抑え、ビジネス価値を迅速に得たい場合はSaaSが有力な選択肢となります。
SaaSとPaaSやIaaSの違い
SaaS・PaaS・IaaSはいずれもクラウドサービスの一形態ですが、ユーザーが管理すべき範囲と得られる価値の即時性が段階的に異なります。
IaaSは“仮想インフラ”を提供し、PaaSは“開発・実行環境”を提供し、SaaSは“完成したアプリケーション”を提供します。階層構造を理解すると、自社のリソースや目的に合ったサービスを選定しやすくなります。
観点 | SaaS | PaaS | IaaS |
---|---|---|---|
提供範囲 | 完成済みアプリケーションをブラウザ等で提供 | アプリ開発・実行環境を提供 | 仮想サーバーやネットワークなどインフラを提供 |
管理範囲(ユーザー責任) | アカウントや設定のみ | アプリコードと設定 | OS〜ミドルウェア設定・パッチ適用まで |
カスタマイズ/開発自由度 | 設定レベルのカスタマイズ中心 | 独自アプリを短期開発可能 | インフラ構成を自由設計できる |
導入スピード | 即日〜数日 | 数日〜数週間 | 数週間〜数か月 |
コスト構造 | ユーザー数・プラン単位のサブスク課金 | 容量・実行時間ベースの課金が中心 | リソース従量課金+予約割引など |
主なユースケース | CRM/会計/人事労務など業務アプリ導入 | WebアプリやAPIサービス開発 | オンプレ移行・独自要件システム構築 |
提供範囲とユーザー責任
IaaSでは仮想サーバーやネットワーク、ストレージなど基盤部分のみがクラウド事業者から提供されます。
OSのパッチ適用やミドルウェアの設定は利用企業側の責任範囲に残るため、インフラ運用のスキルが不可欠です。PaaSは開発フレームワークやデータベースの運用もクラウド側が担うため、開発者はコードに集中できますが、アプリの階層より上は自社管理となります。
SaaSはアプリ本体の保守までベンダーが行うため、利用者は機能設定やユーザー管理など最小限の作業だけで済みます。
カスタマイズ性と拡張性
インフラを自由に構成できるIaaSは高い拡張性を持ちますが、その分システム設計の自由度が結果責任として返ってきます。
PaaSは開発言語やサービス連携がプラットフォームに依存するものの、自社仕様のアプリを短期間でリリースしやすいのが利点です。SaaSはあらかじめ用意された機能を設定でカスタマイズするスタイルが主流で、業務フローを大きく変えない範囲での柔軟性にとどまります。
コストと運用体制
IaaSではリソースを調達する都度、従量課金が発生し、長期運用ではReserved Instanceなどの前払い割引を検討する必要があります。
PaaSはスケールアウト時に料金が跳ね上がりやすい一方、CI/CDやモニタリング機能が統合されているため開発効率を高められます。SaaSはサブスクリプション型が一般的で、運用負荷が低い分、ベンダー依存リスクへの備えが求められます。
適したユースケース
IaaSは独自要件で仮想環境を構築したい場合や、オンプレ環境のクラウド移行フェーズにマッチします。PaaSは開発スピードを重視するスタートアップや、マイクロサービスアーキテクチャを採用する開発チームと相性が良いサービスです。
SaaSは営業支援(CRM)、会計、人事労務など業務の定型化が進んだ領域で迅速に効果を得たい企業に最適です。
SaaSのメリット4つ
企業がSaaSを採用する最大の理由は、インフラ運用を気にせずスピーディーに業務改善の成果を得られる点にあります。本章では、ビジネス視点で押さえておきたい代表的なメリットを4つ紹介します。
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1.初期投資を抑えられる
SaaSはサブスクリプション課金が基本で、サーバー購入やライセンス一括購入が不要です。キャッシュフローを平準化できるため、IT予算の限られた中小企業でも導入しやすく、段階的にユーザー数を拡大できます。
2.導入スピードが速い
クラウド上に環境が用意されているため、申込み後すぐに利用を開始できます。加えて、ベンダーのオンボーディングメニューやテンプレートを活用することで、要件定義から本番運用までを最短数日で完了するケースも珍しくありません。
3.常に最新機能・最新セキュリティを享受できる
ソフトウェアの保守・アップデートはベンダー側の責任です。利用企業はバージョンアップ対応に追われることなく、セキュリティパッチや新機能を自動的に取り込み、業務に集中できます。特にサイバー攻撃が高度化する現在、この“自動更新”は大きな安心材料になります。
4.スケーラビリティと柔軟なプラン変更
利用ユーザー数やデータ容量の増減に応じて、プランを簡単にアップグレード・ダウングレードできます。季節変動やプロジェクト単位でリソースを調整できるため、過剰投資やリソース不足を防ぎながら、ビジネスの成長スピードに合わせて最適なコスト構造を維持できます。
SaaSのデメリット5つ
SaaSは導入・運用の手軽さが魅力ですが「自社でコントロールできない領域が増える」という点が弱点です。ここでは代表的なリスクを5つ紹介します。
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1.ベンダーロックインのリスク
サービスを乗り換える際、データ移行や業務フローの変更が負担になる場合があります。導入前にエクスポート機能やAPI整備の有無を確認し、契約期間や解約条件もチェックしておくと安心です。
2.カスタマイズの限界
用意された機能を設定で調整する方式が中心のため、独自要件を盛り込みにくいケースがあります。アドオン連携やノーコードツールで補う、あるいはハイブリッド構成(SaaS+自社開発)を検討する方法が現実的です。
3.継続課金によるコスト増加
月額・年額課金はキャッシュフローを平準化できますが、長期的にはライセンス買い切り型より総コストが高くなることもあります。利用状況を定期的に棚卸し、プラン見直しを行う運用体制が欠かせません。
4.インターネット接続への依存
クラウド側に障害が起きたり、自社のネットワークに問題が生じたりすると業務が停止します。可用性SLAや冗長構成、オフライン作業の代替策を事前に検討しておくとリスクを軽減できます。
5.データ保護・コンプライアンスの懸念
自社のサーバー外に機密情報を置くことになるため、保存場所や暗号化方式、ログ保管ポリシーなどを確認する必要があります。外部認証の取得状況も評価基準に含めると、選定の精度が上がります。
代表的なSaaS6種と活用例
SaaSは業務領域や業界ごとに細分化が進み、目的に合ったサービスを選ぶことで導入効果を最大化できます。本章ではビジネスシーンで利用が広がっている6つのカテゴリを取り上げ、それぞれの代表サービスと活用ポイントを解説します。
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1.CRM・SFA
顧客情報や商談進捗を一元管理し、営業活動を可視化するサービスです。SalesforceやHubSpot Sales Hubなどが代表例で、メール追跡やレポーティング機能を備え、データドリブンな営業体制づくりに貢献します。
導入企業は属人的になりがちな営業プロセスを標準化し、成約率向上やリード育成の自動化を実現できます。
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2.マーケティングオートメーション(MA)
リード獲得からナーチャリング、スコアリングまで一貫して自動化するプラットフォームです。
Marketo EngageやHubSpot Marketing Hubが広く知られ、メール配信やウェビナー連携、行動トラッキングなどを通じて商談化率を高めます。営業部門とマーケ部門の連携を強化し、ABM(アカウントベースドマーケティング)の実践基盤としても活用されています。
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3.コラボレーション/グループウェア
社内外のコミュニケーションを効率化するサービスで、Google WorkspaceやMicrosoft 365、Slackなどが該当します。
ドキュメント共同編集、チャット、オンライン会議を統合し、リモートワーク環境でも迅速な意思決定を支援します。アクセス権限やログ管理が充実しているため、セキュアな情報共有も可能です。
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4.会計・経費精算
決算業務や経費処理をクラウド上で完結させるサービスです。freee会計、Money Forwardクラウド会計、SAP Concurなどが代表的で、銀行APIやレシート読み取りによる自動仕訳を備えます。
これにより経理担当者は入力作業を大幅に削減し、リアルタイムで財務状況を把握できます。
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5.人事・労務
入社手続きや給与計算、勤怠管理をクラウド化し、人事情報を統合管理するサービスです。SmartHRやジョブカン勤怠管理などが挙げられ、法改正対応を自動反映するためコンプライアンスリスクを抑制できます。
従業員セルフサービス機能により、申請・承認フローのペーパーレス化も進みます。
参考:【2025年最新版】人事管理システムおすすめ8選を導入社数順で比較!|LISKUL
6.バックオフィス統合型(ERP)
会計、購買、生産、在庫など複数業務を一元化するクラウドERPです。Oracle NetSuiteやSAP S/4HANA Cloudが代表例で、グローバル展開企業でも拠点横断でデータを統合できます。
これにより経営判断のスピード向上に寄与します。
参考:【2025年最新版】ERPおすすめ47選を比較!選び方も紹介|LISKUL
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SaaS導入フロー5ステップ
SaaSを導入して成果を得るには、単にサービスを契約するだけではなく、社内に定着させるプロセス設計が欠かせません。ここでは実践しやすい流れと留意点を5つのステップに分けて解説します。
1.現状分析と目的設定
最初に、業務の課題や改善したいKPIを整理し、SaaS導入で達成したいゴールを数値で示します。例えば「営業担当者1人あたりの商談数を月10件から15件へ引き上げたい」といった具体的な指標があると、後の効果測定が容易になります。
2.要件定義
次に、業務フローとデータ連携の要件を洗い出します。必要な機能、連携すべき既存システム、ユーザー数、権限管理などを明確にし、優先度を付けることが重要です。要件が曖昧なまま導入を急ぐと、実運用で追加コストが発生しやすくなります。
3.ツール選定と比較検証(PoC)
候補となる複数のSaaSをピックアップし、トライアルや無料枠を活用して小規模に実証実験(PoC)を行います。UIの使いやすさ、データ移行の容易さ、API連携の柔軟性、サポート品質などを評価軸として比較し、総所有コスト(TCO)も合わせて試算しましょう。
4.契約・初期設定・データ移行
本採用を決めたら、セキュリティ条項やSLAを確認したうえで契約を締結します。続いて、組織階層や権限テンプレートを設定し、必要なマスターデータや過去データを計画的に移行します。ベンダーのオンボーディング支援を活用することで、設定ミスや移行トラブルを防げます。
5.社内展開と運用改善
導入後はユーザートレーニングを実施し、定着率を高めるための運用ルールを整備します。利用ログやレポートを定期的に確認し、活用が進んでいない機能や重複アカウントを洗い出して改善施策を実行します。四半期ごとにKPIを振り返り、契約プランの見直しや追加連携の検討を行うことで、継続的なROI向上につながります。
SaaSの代表的なサービス一覧
クラウド活用を検討する際は、「どの業務をどのサービスで賄うか」を早期にイメージできるとスムーズです。
以下の一覧は国内外で導入実績が多い代表的なSaaSを業務カテゴリ別に整理したものです。機能や提供形態の概要を把握し、詳細比較やトライアル選定の起点としてご活用ください。
カテゴリ | 代表サービス例 | 主な機能・特徴(概要) |
---|---|---|
CRM・SFA | Salesforce Sales Cloud / HubSpot Sales Hub | 顧客管理、商談パイプライン、レポート、AI予測 |
マーケティングオートメーション | Marketo Engage / Marketing Cloud Account Engagement(旧Pardot) | リード育成、スコアリング、メール配信、キャンペーン分析 |
コラボレーション/グループウェア | Google Workspace / Microsoft 365 | メール、ドキュメント共同編集、チャット、ビデオ会議 |
ビジネスチャット | Slack / Microsoft Teams | チャンネル型チャット、音声・ビデオ通話、アプリ連携 |
会計・経費精算 | freee会計 / Money Forwardクラウド会計 / SAP Concur | 自動仕訳、レシートOCR、ワークフロー、レポート |
人事・労務 | SmartHR / ジョブカン勤怠管理 | 入社手続き、勤怠管理、給与計算、法令対応 |
プロジェクト管理 | Asana / Jira Software Cloud | タスクボード、ガント、アジャイル開発支援、レポート |
EC・CMS | Shopify / Wix | オンラインストア構築、決済、在庫・受注管理 |
ERP(統合基幹業務) | Oracle NetSuite / SAP S/4HANA Cloud | 会計、在庫、購買、生産、グローバル多通貨対応 |
BI・データ可視化 | Tableau Cloud / Looker(Google Cloud) | ダッシュボード作成、データ探索、共有、埋め込み |
SaaSに関するよくある誤解5つ
最後に、SaaSに関するよくある誤解を5つ紹介します。
参考:AI倫理とは?企業が今すぐ押さえるべき課題・ガイドラインと実践方法|LISKUL
誤解1:SaaSはどの業務でも万能に使える
SaaSは汎用機能を備えていますが、業務プロセスが高度に特殊化している場合は適合しないこともあります。要件を絞り込み、必要であればカスタム開発やAPI連携で補完する計画を立てましょう。
誤解2:オンプレミスよりセキュリティが劣る
多くのSaaSベンダーは国際認証を取得し、24時間の脆弱性監視体制を敷いています。自社運用より高いセキュリティ水準を確保しているケースも多いため、評価の際は認証取得状況と運用プロセスを確認することが大切です。
誤解3:導入すれば自動的に業務効率が向上する
ツール自体は効率向上の手段に過ぎません。現状フローの棚卸しや権限設計、社内トレーニングを怠ると、定着率が上がらず期待ほどの効果が得られません。KPIを定義し、継続的に運用を改善する体制づくりが欠かせません。
誤解4:サブスク課金だから長期的にも必ず低コスト
サブスクリプションはキャッシュフローを平準化できますが、利用が拡大するにつれ総コストが買い切りモデルを上回ることもあります。コスト最適化を図りましょう。
誤解5:サービス停止時は企業側で何もできない
サービス停止リスクはゼロにはできませんが、SLAの内容確認やフェイルオーバー先の確保、オフラインエクスポート機能の活用など、事前準備で影響を抑えられます。業務継続性を担保することが重要です。
まとめ
本記事では、SaaSの基本概念から導入手順、代表的なサービス例までを網羅的に解説しました。
SaaSはインターネット経由で完成したソフトウェアを利用できるモデルであり、短期間で業務改善を図れることが大きな魅力です。
まず定義を整理し、クラウド全体やPaaS・IaaSとの位置づけの違いを明確にしました。そのうえで、導入メリットとして「初期投資の抑制」「導入スピード」「自動アップデート」「拡張性」を挙げ、一方で「ベンダーロックイン」「カスタマイズ制限」「継続課金」などのデメリットと対策も示しています。
続いて、CRM・MA・グループウェア・会計・人事労務など主要カテゴリごとの活用例や代表サービスを紹介し、自社課題に合わせた選定のヒントを提示しました。また、現状分析からPoC、社内展開までの導入フロー5ステップを示し、定着とROI最大化のポイントも整理しています。
変化の速いビジネス環境で柔軟にスケールできる点が強みです。社内リソース、セキュリティ要件、コスト最適化の観点を踏まえてツールを評価し、定着後も運用改善を続けることで、組織全体のDXを加速できます。
SaaS活用を検討中の方は、本記事の内容を参考に、自社に適したサービス選定と導入計画を進めてみてはいかがでしょうか。