
シャドーAIとは、企業の承認や管理がないまま、従業員が生成AIやAIツールを業務に利用してしまう状態のことです。
生成AIは、資料作成や要約、アイデア出しなどを効率化できる一方、適切な管理が行われていない場合、情報漏えいや著作権侵害、誤った意思決定につながるリスクをはらんでいます。
特に、個人アカウントでの利用や、入力データ・生成物の扱いが曖昧なまま業務に使われるケースでは、企業として実態を把握できない問題が顕在化しやすくなります。
一方で、生成AIの活用を一律に禁止すると、現場の業務効率が下がるだけでなく、かえって水面下でシャドーAIが広がる可能性もあります。
そのため、リスクを正しく理解したうえで、安全に活用できる管理方法を整えることが重要です。
そこで本記事では、シャドーAIの基礎知識やシャドーITとの違い、シャドーAIが増えている背景、企業が直面するリスク、可視化から始める具体的な対策方法や運用テンプレまでを一挙に解説します。
社内のAI利用に不安を感じている方や、これから生成AIの活用を進めたいと考えている方は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
シャドーAIとは
シャドーAIとは、企業として承認・管理していない生成AIやAIツールを、従業員が業務目的で利用してしまっている状態を指します。
ポイントは「AIを使っていること」そのものではなく、どのツールを、どのデータで、誰が、どのルールのもとで使っているのかを企業側が把握・統制できていない点にあります。
多くのケースで、シャドーAIは悪意から生まれるものではありません。
資料作成やメール文案、要約、アイデア出しなどを効率化したいという現場の合理的な判断が引き金となり、個人のアカウントで利用できるAIサービスが、正式な手続きを経ないまま業務に持ち込まれます。
その結果、入力された情報の取り扱いや生成物の利用条件、ログの有無といった重要な論点が置き去りにされやすくなります。
特に生成AIの場合、入力データがどこに保存され、学習に使われるのかが不透明なまま利用されがちです。
顧客情報や社外秘資料、未公開の戦略情報などが意図せず外部に持ち出されるリスクが生じる一方で、企業側は「誰が何を入力したのか」を後から追跡できない状況に陥ります。
この“見えなさ”こそが、シャドーAIの本質的な問題です。
また、シャドーAIはIT部門や情シスだけの課題ではありません。
営業、マーケティング、人事、経理、開発など、ホワイトカラー業務のほぼすべてが対象となり得ます。
AIの利用が日常業務に溶け込むほど、管理されていない利用は自然に拡大し、企業全体のガバナンスやリスク管理に影響を与えます。
そのため、シャドーAIを理解する第一歩は、「AI利用を止めるべき問題」と捉えることではなく、すでに起きている前提で、どう管理し、どう安全に活用できる状態へ導くかを考えることにあります。
ここを正しく捉えられるかどうかが、後続の対策設計やルール作りの成否を大きく左右します。
参考:AI利用ポリシーとは?安心してAIを活用するための策定手順|LISKUL
シャドーAIとシャドーITの違い
シャドーAIとシャドーITはいずれも「企業の管理外で利用されるテクノロジー」という点では共通していますが、リスクの性質と企業への影響範囲は大きく異なります。
シャドーITが主に「どのツールを使っているか」という利用実態の問題であるのに対し、シャドーAIでは「何を入力し、どのようなアウトプットを業務に使ったか」まで含めて管理対象となります。
この違いを理解しないまま対策を進めると、従来のIT統制ではカバーできないリスクが残ります。
| 比較項目 | シャドーIT | シャドーAI |
|---|---|---|
| 概要 | 企業の承認を受けていないITツールやサービスの業務利用 | 企業の管理下にない生成AI・AIツールの業務利用 |
| 主な対象 | クラウドストレージ、チャット、タスク管理ツールなど | 生成AI、要約AI、画像生成AI、コード生成AIなど |
| リスクの起点 | 未承認ツールの利用そのもの | 入力データと生成アウトプットの扱い |
| 情報漏えいリスク | 保存場所やアクセス権の管理不備が中心 | 入力情報の外部送信・学習利用による漏えいが中心 |
| 品質・判断への影響 | 限定的(主に保管・共有の問題) | 誤情報や不正確な生成物が意思決定に影響 |
| 管理の難易度 | ツール単位での把握・制御が比較的可能 | 入力内容・利用目的まで含めた管理が必要 |
| 社内への広がり方 | 特定業務・部門に限定されやすい | ブラウザ利用により全社へ急速に拡大しやすい |
| 対策の考え方 | 未承認ツールの制限・統制 | 可視化・ルール整備・教育を含めた包括的管理 |
シャドーITは「未承認ツールの利用」が中心の問題
シャドーITとは、IT部門や情シスの承認を受けていないクラウドサービスやソフトウェアを、現場判断で業務利用してしまう状態を指します。
ファイル共有サービスやチャットツール、タスク管理ツールなどが代表例で、利便性を優先するあまり正式な導入プロセスを経ずに使われるケースが少なくありません。
この問題の本質は、データの保管場所やアクセス権限が管理外に置かれることにあります。
企業としては「どこに情報が保存されているのか」「誰がアクセスできるのか」を把握できず、セキュリティ事故や監査対応に影響が及びます。
シャドーITで特に問題になりやすいポイントは、以下のとおりです。
- 未承認ツールに業務データが保存される
- セキュリティポリシーやバックアップ方針が適用されない
- 退職者や異動者のアクセス権を適切に管理できない
シャドーAIは「入力と生成」がリスクの起点になる
一方でシャドーAIは、生成AIやAIツールを業務に利用する点では同じでも、リスクの起点が「ツール」ではなく「情報の扱われ方」にあります。
生成AIでは、ユーザーが入力した内容そのものが処理対象となり、さらに生成されたアウトプットが業務判断や対外資料に利用されます。
そのため、シャドーAIでは「AIを使っているかどうか」だけでは不十分で、どの情報を入力したのか、生成結果をどの用途で使ったのかまで含めて管理する必要があります。
ここが、シャドーITとの決定的な違いです。
シャドーAI特有の論点には、次のようなものがあります。
- 入力データが外部に送信・保存される可能性がある
- 生成物の正確性や根拠が不明確なまま業務に使われる
- 著作権や個人情報に関する責任の所在が曖昧になる
管理の難易度と拡散スピードの違い
もう一つ重要なのが、社内への広がり方の違いです。
シャドーITは業務フローに組み込む必要があるため、ある程度利用者が限定されます。
一方でシャドーAIは、ブラウザや個人アカウントで即座に使えるため、短期間で部門横断的に広がりやすい特徴があります。
さらに、生成AIは「便利」「早い」「それらしい成果が出る」という体験価値が高く、現場が自発的に使い始めやすい点も拡散を加速させます。
その結果、企業側が気づいたときには、複数部門で日常的に利用されている状態になりがちです。
この違いを整理すると、次のように捉えられます。
- シャドーIT:利用ツールの把握と制限が主な対策対象
- シャドーAI:利用実態に加え、入力・生成・活用まで含めた管理が必要
シャドーAIは、シャドーIT対策の延長では十分にコントロールできません。
「未承認ツールの問題」から「未承認な判断プロセスの問題」へと論点が変わっている点を理解することが、適切なシャドーAI対策を考えるうえでの出発点となります。
参考:シャドーITとは?企業に与えるリスクと行うべき5つの対策法|LISKUL
なぜ今、シャドーAIが増えるのか
シャドーAIが急速に広がっている最大の理由は、現場の業務効率化ニーズと、企業側の管理・提供体制とのギャップが生じているためです。
生成AIは、専門知識や導入プロジェクトを必要とせず、ブラウザ一つで即座に使えるため、従来のITツールとは比較にならないスピードで現場に浸透します。
その結果、企業がルールや仕組みを整える前に、利用だけが先行する状況が生まれています。
現場の善意の最適化で起きる
シャドーAIの多くは、不正やルール違反を目的として発生しているわけではありません。
背景にあるのは、「業務を早く終わらせたい」「品質を上げたい」「上司や顧客にわかりやすく伝えたい」といった、現場としてはごく自然で合理的な判断です。
生成AIを使えば、文章作成や要約、アイデア整理といった作業が短時間で完了します。
しかも、一定水準以上のアウトプットが返ってくるため、「まず試してみる」心理的ハードルが極めて低いのが特徴です。
その結果、早く・うまく・それらしく仕上がる → 個人最適が走るという流れが生まれ、正式な手続きを踏まないまま業務利用が常態化していきます。
この段階では、現場の担当者に「リスクのある行為をしている」という自覚はほとんどありません。
むしろ「会社のために効率化している」という意識が強く、ここにシャドーAI対策の難しさがあります。
「禁止」だけでは止まらない3つの理由
シャドーAIが増え続ける背景には、単にルールがないからではなく、禁止を前提とした管理が現実に合っていないという構造的な問題があります。
代表的な理由は次の3つです。
- 公式ツールがない、または使いにくい
- 承認フローが遅く、業務スピードに合っていない
- リスクが現場に腹落ちしていない(教育不足)
まず、会社として生成AIの利用を想定していない、あるいは公式に使えるツールが提供されていない場合、現場は「使わない」ではなく「個人で補う」選択を取りがちです。
仮に公式ツールがあっても、機能制限が多かったり操作性が悪かったりすると、結局は使われなくなります。
次に、承認プロセスの問題があります。
新しいツールの利用申請に時間がかかる、判断基準が不明確、といった状況では、現場は業務を止めてまで申請を待ちません。
結果として、申請せずに使うほうが合理的という判断がなされてしまいます。
最後に、リスク認識の不足も大きな要因です。
情報漏えいや著作権といったリスクが抽象的なままでは、「自分の使い方なら問題ない」と判断されやすくなります。
何が危険で、どこまでなら許容されるのかが共有されていない状態では、禁止ルールだけを設けても実効性は高まりません。
このように、シャドーAIの増加は、単なるルール違反の問題ではなく、現場の合理性と企業の管理設計が噛み合っていないことによって生じる必然的な現象だと言えます。
ここを理解せずに対策を講じても、形だけのルールが増えるだけで、実態は変わらないままになってしまいます。
シャドーAIで会社が困ること4つ
シャドーAIの問題は、「AIを使っている」という事実そのものではなく、企業として管理・把握できていない状態で業務利用が進む点にあります。
この状態を放置すると、情報管理・法務・業務品質・ガバナンスといった複数の領域でリスクが連鎖的に発生し、後から対処しようとしても影響範囲が広がりやすくなります。
1.情報漏えい(機密・顧客情報・個人情報)
シャドーAIでもっとも現実的かつ深刻なリスクが、情報漏えいです。
生成AIは入力された情報をもとに処理を行うため、「入力してはいけない情報」がそのまま外部に送信される可能性があります。
しかし、シャドーAIの状況では、どの情報が入力されたのかを企業側が把握できません。
特に問題となるのは、入力データの保持や二次利用に関するポリシーが不明確な点です。
個人アカウントで利用されているAIサービスでは、入力内容がどこに保存され、どのように扱われるのかが可視化されていないケースも多く、意図せず社外に情報が流出するリスクが高まります。
情報漏えいに関して、企業が直面しやすい状況を整理すると次のとおりです。
- 顧客情報や社外秘資料がAIにそのまま入力される
- 入力データの保存期間や利用範囲が不明確なまま使われる
- 漏えいが起きても、原因や影響範囲を特定できない
2.法務・コンプライアンス(著作権、個人情報、契約違反)
シャドーAIは、法務やコンプライアンスの観点でも企業に大きな負担をもたらします。
生成AIのアウトプットには、著作権や利用条件に関する制約が存在する場合があり、生成物をどのように使ってよいのかを理解しないまま業務利用すると、契約違反や権利侵害につながる可能性があります。
また、個人情報保護の観点では、本人の同意なく個人データを入力してしまうケースや、業務委託先との契約内容に反する形でAIサービスを利用してしまうケースも想定されます。
シャドーAIの状態では、こうした利用実態を企業として把握できないため、後から問題が顕在化するリスクが高くなります。
この領域で特に注意すべき点は以下のとおりです。
- 生成物の利用条件や著作権の扱いを確認せずに使用する
- 個人情報を本人同意や社内ルールなしに入力する
- 委託・再委託契約に反する形で外部AIを利用する
3.品質・意思決定リスク(もっともらしい誤り)
生成AIは、自然で説得力のある文章や分析結果を返す一方で、事実誤認や根拠のない内容を含む場合があります。
シャドーAIでは、生成結果を誰がどのように検証したのかが不明確になりやすく、誤った情報がそのまま業務に使われるリスクが高まります。
特に注意が必要なのは、要約資料や数値整理、提案書といった「意思決定の材料」にAIのアウトプットが使われるケースです。
もっともらしい表現に引きずられ、検証が不十分なまま判断が下されると、経営判断や顧客対応に直接的な影響を及ぼします。
品質面で問題になりやすい例としては、次のようなものがあります。
- 存在しない事実や根拠を含む要約が使われる
- 数値や前提条件が誤ったまま資料化される
- 専門性が求められる内容が十分に確認されない
4.ガバナンス不全(監査できない、責任分界が曖昧)
シャドーAIの利用が常態化すると、企業としてのガバナンスが機能しなくなります。
どの部署で、誰が、どのAIを使い、どのデータを入力したのかが把握できない状態では、監査やインシデント対応が極めて困難になります。
また、問題が発生した際の責任の所在も曖昧になりがちです。
現場の個人判断で利用されているため、「誰が責任を負うのか」「どのルールに基づいて是正するのか」を明確にできません。
この状態が続くと、リスクが顕在化した後の対応コストは急激に膨らみます。
ガバナンス面での課題は、以下の点に集約されます。
- 利用実態を監査・把握できない
- インシデント発生時の対応フローが機能しない
- 責任分界が曖昧なまま利用が広がる
シャドーAIによる問題は、それぞれが独立しているようで、実際には密接につながっています。
情報漏えいが法務リスクに波及し、品質低下が意思決定ミスを招き、最終的にガバナンス不全へと連鎖する点を理解することが、次の対策章へ進むための重要な前提となります。
参考:情報漏えい対策とは?基本から今すぐすべき対策まで一挙解説!|LISKUL
コンプライアンス対策で実施すべき12の項目を優先順位順に解説|LISKUL
典型的なシャドーAIの発生シーン4つ
シャドーAIは、特別な業務や一部の部署だけで起きるものではなく、日常業務の延長線上で自然に発生します。
多くの場合、「少し負荷を下げたい」「早く仕上げたい」「品質を整えたい」といった合理的な判断がきっかけとなり、気づかないうちに企業の管理外でAIが使われる状態が生まれます。
ここでは、特に発生頻度が高い代表的なシーンを紹介します。
1.提案書・メール文面の作成での利用
営業資料や社内外向けメールの作成は、シャドーAIが最も発生しやすい場面の一つです。
文章生成AIを使えば、構成案や言い回しを短時間で整えられるため、個人アカウントのAIに内容を入力してそのまま流用するケースが見られます。
この際、提案内容や顧客名、取引条件などが含まれていると、意図せず社外秘情報を外部AIに入力してしまうリスクが生じます。
また、生成された文章をほぼそのまま使うことで、表現の正確性や責任の所在が曖昧になる点も問題です。
よくある例としては、次のようなケースがあります。
- 顧客向け提案書のドラフトをそのままAIに入力する
- 社内メールの文面作成に顧客名や案件情報を含める
- 生成文を確認せずにそのまま送信する
2.会議録音・議事録の外部AI要約
会議の録音データや議事録を外部のAIサービスで要約するケースも、シャドーAIの典型例です。
業務効率化の効果が高いため、個人判断で利用されやすい一方、会議内容そのものが重要情報の集合体である点が見落とされがちです。
経営方針や未公開情報、個人評価に関する内容が含まれている場合、外部AIにデータを渡すことで、情報管理上のリスクが一気に高まります。
想定される利用シーンは以下のとおりです。
- Web会議の録音データを外部AIで要約する
- 議事録作成のために会話内容を全文入力する
- 要約結果をそのまま社内共有資料として使う
3.社内データの分析・整理をAIに依頼するケース
顧客リストや原価情報、ソースコードなど、本来は厳重に管理されるべき社内データをAIに入力して分析や整理を依頼するケースも増えています。
特にデータ量が多い業務では、「とりあえずAIに投げる」判断がなされやすくなります。
しかし、こうしたデータは漏えい時の影響が大きく、入力内容を後から追跡できないシャドーAIの状態では、リスクが顕在化した際の対応が困難になります。
代表的なケースとしては、次のようなものがあります。
- 顧客リストを貼り付けて傾向分析を依頼する
- 原価や売上データを使って改善案を生成させる
- 社内ソースコードを入力して修正やレビューを求める
4.画像生成による広告・クリエイティブ制作
マーケティングや広報領域では、画像生成AIを使って広告素材やイメージ画像を作成するケースも増えています。
一見リスクが低そうに見えますが、著作権や利用条件の確認不足が問題になりやすい領域です。
生成した画像をそのまま広告やWebサイトに使用した結果、権利関係のトラブルに発展する可能性もあります。
また、ブランドガイドラインや社内ルールに沿わない表現が使われるリスクも無視できません。
よく見られるシーンには、次のようなものがあります。
- 広告用ビジュアルを個人判断で生成AIに作らせる
- 利用条件を確認せずに商用利用する
- 社内チェックを経ずに外部公開する
「ちょっと便利」「一度きりのつもり」の積み重ねで発生します。
次の章では、こうした利用がすでに起きている前提に立ち、まず何から手を付けるべきかを紹介します。
まずやるべきは“可視化”
シャドーAI対策で最初に取り組むべきなのは、「禁止」や「制限」ではなく、現状を把握するための可視化です。
利用実態が見えないままルールを定めても、現場との乖離が生じやすく、形だけの対策に終わってしまいます。
まずは、どこで・どのように・どの程度シャドーAIが使われているのかを把握することが、その後のルール設計や技術対策の土台となります。
セルフチェック項目の例
可視化の第一歩として有効なのが、簡易的なセルフチェックです。
全社的な監査やツール導入に踏み切る前に、現状の危険信号を洗い出す目的で活用できます。
以下の項目は、シャドーAIがすでに発生している可能性を判断するための代表例です。
- 社内で「個人アカウントのAI」を業務に使っている人がいる
- 入力してはいけない情報の定義が曖昧になっている
- 承認済みのAIツールが存在しない、またはほとんど使われていない
- AIの利用履歴や入力内容についてログが取れていない、監査できない
- インシデント発生時の報告窓口や対応フローが明確でない
これらの項目に複数該当する場合、すでにシャドーAIが常態化している可能性が高いと考えられます。
重要なのは、チェック結果を「誰が悪いか」を特定する材料にしないことです。
目的は責任追及ではなく、実態を正しく知ることにあります。
また、セルフチェックを通じて見えてくるのは、単なる利用有無だけではありません。
「なぜ公式ツールが使われていないのか」「どの業務でAIニーズが高いのか」といった、現場側の課題や要望も同時に浮かび上がります。
可視化を行うことで、シャドーAIは「管理できない問題」から「設計すればコントロール可能な課題」へと変わります。
可視化が、その後のルール設計や技術対策の土台です。
この段階を丁寧に踏むことで、次に解説するルール整備や技術的対策が、現場に受け入れられやすい形で機能するようになります。
参考:CASBとは?わかりやすく解説!CASBとゼロトラストの関係性も紹介|LISKUL
シャドーAIの対策方法
シャドーAI対策の本質は、「使わせないこと」ではなく、「安全に使える状態へ導くこと」にあります。
そのためには、ルールだけを先に決めたり、技術的に一律ブロックしたりするのでは不十分です。
実効性のある対策を行うには、ルール・技術・文化の3つのレイヤーを組み合わせて設計することが重要になります。
レイヤー1:ルール(AI利用ポリシー)
最初に整えるべきなのが、AI利用に関するルール、すなわちAI利用ポリシーです。
ここで重要なのは、抽象的な禁止事項を並べるのではなく、現場が判断に迷わない粒度で定義することです。
AI利用ポリシーでは、少なくとも次の観点を明確にしておく必要があります。
- 使ってよいAIツール、利用が禁止されているツール
- 業務利用における禁止行為(無断入力、無断公開など)
- 入力してよいデータの区分(公開情報・社外秘・個人情報など)
- 生成物の確認責任と最終判断者が誰か
これらのルールは、企業独自にゼロから考えるのではなく、国のガイドラインや既存のフレームワークを参考にしつつ、自社の業務実態に合わせて落とし込むことが現実的です。
外部基準を踏まえることで、ルールの妥当性を社内外に説明しやすくなり、形骸化を防ぐ効果も期待できます。
レイヤー2:技術(可視化・制御・保護)
ルールだけでは、シャドーAIを完全に防ぐことはできません。
そこで必要になるのが、技術的な可視化・制御・保護の仕組みです。
ただし、特定の製品名を並べるのではなく、「何を実現したいのか」という目的から手段を整理することが重要です。
たとえば、技術的対策には次のような目的と手段があります。
- 利用者を特定するためのSSO連携や認証管理
- アクセス範囲を制御するための権限管理
- 機密情報の持ち出しを防ぐためのDLP(データ漏えい防止)
- 利用状況を追跡するためのログ取得・監査
- 公式に利用できるAI環境を提供し、私的利用を減らす
ここでのポイントは、「全部を完璧にやろうとしないこと」です。
まずは可視化できる範囲を広げ、徐々に制御や保護を強化していくことで、現場の反発を抑えつつ対策を進められます。
レイヤー3:文化(教育・承認プロセス)
最後に欠かせないのが、人と組織の行動を前提とした設計です。
ルールと技術を整えても、現場が「使いづらい」「相談しにくい」と感じれば、再びシャドーAIは発生します。
そこで重要になるのが、「禁止」ではなく安全な抜け道(公式ルート)を用意するという考え方です。
たとえば、新しいAIツールを使いたい場合に、次のような流れを用意しておくことで、無断利用を防ぎやすくなります。
- 現場からのツール利用提案
- 簡易的なリスク評価(入力データ、用途の確認)
- 期限付きでの試用
- 問題がなければ正式承認
あわせて、なぜルールが必要なのか、どのようなリスクがあるのかを伝える教育も欠かせません。
リスクを「知識」として押し付けるのではなく、自分たちの業務にどう影響するのかを理解してもらうことが、シャドーAIを抑制するうえで大きな効果を持ちます。
この3つのレイヤーを組み合わせることで、シャドーAIは「止められない問題」から「管理しながら活用できる仕組み」へと変えていくことができます。
参考:AIガバナンスとは?企業がいま整えるべき体制と導入方法を解説|LISKUL
ゼロトラストセキュリティとは?基本からゼロトラストを実現する方法まで一挙解説!|LISKUL
明日から使える運用のテンプレ
シャドーAI対策を定着させるには、完璧なルールよりも「すぐ使えて、迷わない運用」を用意することが重要です。
ここでは、明日から社内で共有できることを前提に、最低限押さえておきたい運用テンプレの考え方を整理します。
詳細な規程を作る前段階としても活用できます。
入力してよい/ダメな情報(3分類)
AI利用時に最も判断に迷いやすいのが、「この情報を入力してよいのか」という点です。
そこで有効なのが、情報をシンプルに3つに分類する方法です。
細かく決めすぎず、現場が即判断できる線引きを用意することがポイントになります。
- 公開情報:Webサイトや公開資料など、誰でも入手可能な情報は原則OK
- 社外秘情報:業務上必要な場合に限り、条件付きで利用可(公式AI環境のみ、内容を匿名化するなど)
- 個人情報・機密情報:原則として入力禁止、または専用環境のみで利用
この3分類を明示するだけでも、「とりあえず入れてみる」という行動を抑止しやすくなります。
あわせて、迷った場合は入力しない、もしくは確認するというルールを明確にしておくことが重要です。
生成物の扱い(確認・引用・著作権)
生成AIのアウトプットは、そのまま使えるように見えても、内容の正確性や権利関係に注意が必要です。
そのため、生成物に対する基本的な扱い方を明文化しておくことが欠かせません。
最低限押さえておきたいポイントは次のとおりです。
- 生成物の最終的な責任は利用者(人)が負うことを明記する
- 重要な数値、法務・医療・契約に関わる内容は一次情報で検証する
- 外部公開や商用利用時は、著作権や利用条件を確認する
「AIが作ったから正しい」「AIが作ったから問題ない」という認識を避け、あくまで補助ツールであることを前提に扱う姿勢を共有することが重要です。
インシデント時の報告フロー
どれだけ注意していても、誤入力やルール違反が完全になくなることはありません。
そのため、問題が起きた際にすぐ相談・報告できる窓口を用意しておくことが、被害拡大を防ぐ鍵になります。
インシデントとして想定しておきたいケースには、次のようなものがあります。
- 誤って入力してはいけない情報をAIに入力してしまった
- 情報漏えいの疑いが生じた
- 生成物について著作権侵害の指摘を受けた
これらが発生した場合に、「誰に」「どのように」連絡すればよいのかを明確にし、報告したこと自体が不利にならない文化を作ることも重要です。
早期共有が評価される仕組みを整えることで、シャドーAIによるリスクは大きく抑えられます。
参考:知らなかったでは済まない著作権とは?初心者でもわかる事例つき解説|LISKUL
シャドーAIに関するよくある質問6つ
最後に、シャドーAIに関するよくある質問を6つ紹介します。
Q1. シャドーAIとシャドーITの違いは?
違いは「管理対象の範囲」にあります。
シャドーITは未承認のツールやサービスを使っていること自体が問題になるのに対し、シャドーAIでは「何を入力し、何を生成し、それをどう使ったか」までが管理対象になります。
AIはアウトプットが意思決定や対外発信に直結しやすいため、従来のIT統制よりも広い視点での管理が求められます。
Q2. BYOAIとは?シャドーAIと何が違う?
BYOAI(Bring Your Own AI)とは、従業員が個人で使い慣れたAIツールを業務に持ち込むことを前提とした考え方です。
シャドーAIが「企業の想定外・管理外で使われている状態」を指すのに対し、BYOAIはルールや条件を定めたうえで、一定の利用を許容するケースも含みます。
統制されているかどうかが判断基準になります。
重要なのは、BYOAIであっても管理やルールがなければ、結果的にシャドーAIと同じ状態になる点です。
名称の違いではなく、統制されているかどうかが判断基準になります。
Q3. 会社として全面禁止にすべき?
全面禁止は現実的ではなく、かえって逆効果になるケースが多いと言えます。
生成AIは業務効率化の効果が高く、現場のニーズも強いため、禁止すると個人利用が水面下で広がりやすくなります。
その結果、企業側が把握できないシャドーAIが増えるリスクがあります。
現実的な対応は、「使ってよい範囲」「禁止すべき行為」を明確にし、安全に使える公式ルートを用意することです。
Q4. どのデータならAIに入れていい?
原則として、公開情報は問題なく、社外秘は条件付き、個人情報や機密情報は原則NGと考えるのが分かりやすい基準です。
特に迷った場合は「外部に出ても問題ないか」「第三者に見られても説明できるか」という観点で判断すると、リスクを抑えやすくなります。
Q5. 無料版AIと法人向けAIの違いは?
大きな違いは、データの取り扱いと管理機能です。
無料版や個人向けAIでは、入力データの保存・学習利用・ログ管理が不透明な場合があります。
一方、法人向けAIでは、データの非学習設定、アクセス制御、ログ取得など、企業利用を前提とした機能が用意されていることが一般的です。
業務利用を前提とする場合、コストだけで判断せず、管理・監査の観点を含めて検討する必要があります。
Q6. 生成物はそのまま提案書に貼っていい?
原則として、そのまま使うべきではありません。
生成AIのアウトプットは、誤情報や不正確な表現を含む可能性があるため、必ず人の目で確認し、必要に応じて修正・裏取りを行う必要があります。
特に、数値、契約条件、法務・医療・専門領域に関わる内容については、一次情報を確認したうえで使用することが重要です。
最終的な責任はAIではなく、利用者にあるという前提を忘れてはいけません。
まとめ
本記事では、シャドーAIの基本的な考え方から、シャドーITとの違い、増加している背景、企業が直面するリスク、典型的な発生シーン、可視化・対策方法・運用テンプレまでを体系的に解説しました。
シャドーAIとは、企業として承認・管理していない状態で、従業員が生成AIやAIツールを業務利用してしまうことを指します。
多くの場合、悪意ではなく、業務効率化や品質向上を目的とした現場の合理的な判断から発生します。
しかし、管理されていないAI利用は、情報漏えい、法務・コンプライアンス違反、品質低下による意思決定ミス、ガバナンス不全といった問題を連鎖的に引き起こします。
特に生成AIは、入力データと生成物の扱いがそのままリスクにつながるため、従来のシャドーIT対策の延長では十分に対応できません。
そのため重要なのは、AI利用を一律に禁止することではなく、まず実態を可視化し、ルール・技術・文化の3つのレイヤーで管理できる状態をつくることです。
加えて、入力してよい情報の線引きや、生成物の確認責任、インシデント時の報告フローといった「迷わず判断できる運用」を用意することで、シャドーAIは抑制しやすくなります。
生成AIの活用が前提となりつつある今、シャドーAIは一時的な問題ではなく、多くの企業が直面する構造的な課題と言えます。
リスクを恐れて活用を止めるのではなく、安全に使える仕組みを整えることが、これからの業務効率化とガバナンスを両立させる鍵となります。
自社のAI利用に少しでも不安を感じている場合は、本記事で紹介した考え方やテンプレを参考に、現状の可視化から取り組んでみてはいかがでしょうか。
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