デジタルイノベーションはまだまだ試行錯誤の段階であり、ビジネスチャンスのある領域です。しかしデジタルイノベーションについて知見がある方は少なく、どうやって事業レベルにまで落とし込めばいいかわからないという方も多いのではないでしょうか。
ここでは実際のデジタルイノベーションの国内での取り組みをご紹介していきます。実際に行われた取り組みを元に事業への取り入れ方をイメージしてみてください。合わせて、デジタルイノベーションを学ぶのにおすすめなイベントや本についても紹介しています。
目次
デジタルイノベーションとは社会や産業全体のデジタル化の進展
デジタルイノベーションとは、簡単にいえば社会や産業全体のデジタル化の進展のことです。より狭い範囲では、企業が受けるデジタル化にともなう影響や、それに対応する企業の革新、デジタル技術による新たな価値の創造という意味を含んでいます。
似たような言葉として、コンピューターライゼーションとデジタルトランスフォーメーションが挙げられます。しかしコンピューターライゼーションは、あくまでも業務の効率化やビジネスにおける情報の改善、やり取りの利便性向上のことです。また、デジタルトランスフォーメーションは、企業があらゆる技術を応用して事業や組織を変革させることを指しています。
その一方でデジタルイノベーションは、ビジネスや業務の変革によって暮らしやビジネスがより良い方向に向くことを意味しています。そのため、時として既存の職業や事業、業務を破壊する側面も持っています。
たとえばカメラの分野では、スマートフォンで撮影した写真をコンビニでプリントできるようになった一方で、現像などの技術は必要とされる場面が急激に減っています。これもまた、デジタルイノベーションです。
デジタルイノベーション | コンピューターライゼーション | デジタルトランスフォーメーション |
・SNSを利用して新たな顧客層を獲得する | ・工場の生産管理 | ・科学技術や産業技術の応用 |
参考:デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?基本から取り組み方までわかる保存版
6つの事例から見るデジタルイノベーションへの取り組み
具体的にどのような取り組みが日本では行われているのか、現場の取り組みや事例を製造系と金融系に分けて紹介します。
製造系デジタルイノベーションの取り組み事例3選
製造業においてデジタルイノベーションは、物事を新たに生み出す「プロダクトイノベーション」が目につきがちです。たとえばIoTやAI機能付き家電などは、視覚的に分かりやすく世間からも注目されやすいからです。
しかしそれだけでなく、部品の組み立てなど製造プロセスにおける変革を含む「プロセスイノベーション」もあります。ここでは、実際のデジタルイノベーションの実例を、3つ紹介します。
1.デジタルイノベーションを用いたひろしまものづくりデジタルイノベーション創出プログラム
先端研究・実証環境整備・人材育成・会議体運営の4つの区分に分け、広島大学を中心としたものづくりのバリューチェーン全体のデジタル化を図る取り組みです。生産工程や研究にも重きを置いており、院生や学生の実践的な育成にもつながっています。
国の地方大学・地域産業創生交付金制度を活用しており、すでに革新的な材料開発の研究や、データ連携システムの開発が進められています。
参考:ひろしまデジタルイノベーション創出プログラム | 広島大学
2.基幹システムの向上を目指す富士通
デジタル化を進める中で、コンセプト『Knowledge Integration』を掲げ、変化に素早く対応できる開発スタイルを推進しています。特に基幹システムの向上のために、人材育成やデジタルイノベーションの知見を集約した開発現場の創立にも取り組んでいるのが特徴です。
またデータの加工履歴など、単独では困難なデータの安全性の確保を進め、企業や自治体など、様々なパートナーとのつながるサービスを作り上げています。
3.システム化で安心・安全を目指すデンソー
自動車のエンジンの開発を手掛けるデンソーでは、これまで自動車メーカーを顧客として見てきた時代から、一般消費者の顧客化を目指し始めました。サービスの必要性が生まれたことにより、次世代のモビリティサービスの創造を手掛けています。
その1つとしてリリースしたのが「mobi-Crews」という、営業車向けのサービスです。それまで紙ベースで確認していた事項をクラウド上でシステム化するほか、ドライブレコーダーの情報を即時に閲覧できるなど、安心・安全を実現させる取り組みが行われています。
参考:デンソー、「フリートオペレーションサービス mobi-Crews」 を販売開始 | ニュース | DENSO – 株式会社デンソー / Crafting the Core /
金融系デジタルイノベーションの取り組み事例3選
金融系のデジタルイノベーションで良く用いられるのが、FinTechという言葉です。これは金融(Finance)と技術(Technology)の2つを合わせた造語であり、金融サービスと情報を両立させる技術のことです。
たとえばキャッシュレス決済やLINEで残高確認が出来るシステムや、質問に答えるだけで融資金額を計算するシステム、資産管理アプリなどが挙げられます。
1.金融における未来の変革化を目指すみずほ銀行
みずほ銀行はメガバンクとして築いた顧客基盤や情報基盤を強みにしつつ、一方で不足していた先端テクノロジーなどを大手ベンダーやFinTech企業との連携でカバーする取り組みが行われています。これは新規ビジネスの創出のみならず、業務の高度化も含まれています。
IoTを活用した次世代ビジネスモデルの創造・事業化を進めるため、株式会社Blue Labを設立、オープンイノベーションの創出を目標に活動しています。
実際には以下のような活動を行ってきました。
- 個人のお客さま向けのFinTechサービスとして日本初のAIスコア・レンディングの提供
- 個人の決済/送金におけるキャッシュレス化を促進(J-coin構想)
- データの電子化/収集を進め、将来的な活用の基盤の構築
参考:みずほFG:デジタルイノベーションで金融の未来を変える
2.利用シーンに合わせた本人認証アプリを開発したSMBCグループ
SMBCグループは銀行業務高度化等会社として、株式会社ポラリファイを設立。情報をスマホ上で一元管理できるPolarify(生体認証プラットフォーム)の提供を始めました。
以下のような数多くのデジタルイノベーションを行っています。
- 電話業務の97%以上を削減できるAIチャットボットを開発・販売
- 企業の財務・振込・摘要データから業況変化を判断できる検知システム(AI)の開発
- 電子契約・電子サインをいち早く導入
ほかにも印鑑と通帳がいらない手続きの構想を早くから持ち、2016年からすでに電子契約・電子サインを導入しています。法律に基づいた手続きも多い金融業界にとらわれない取り組みが進んでおり、国立情報大学や近畿大学をはじめとした大学との共同研究も盛んです。
またPolarify(生体認証プラットフォーム)を提供し始めたことで、銀行としての仕事である融資以外にも、顧客に対する新しい接点を持てるようになったことから、新たなビジネスを創造できる場として注目されています。
3.ペーパーレスの取引を実現した三菱東京UFJ
三菱東京UFJのではペーパーレス(参考:事例に学ぶ「ペーパーレス化」働き方改革を失敗しないための方法、ツールとは)取引中心の取り組みを行ってきました。消費者の銀行離れを背景に、以下のような取り組みを行っています。
- MUFG Wallet/TR代行事業
- MUFGコインを発行しキャッシュレス手段を超えたエコシステムの構築
- ブロックチェーンを基盤としたオープンなペイメントネットワークの提供への取り組み
2019年1月21日には完全ペーパーレスで取引が出来る端末などを有する、デジタル技術を全面的に導入した「MUFGネクスト」の1号店が開店されました。
この店舗では相談や取引をテレビ電話で手続きをしたり、各種支払い表を扱える自動受付機を用意したりと、コストカットとデジタル化を両立した多くの取り組みが行われています。
またパートナーバンクとして、共通する取り組みの多い海外店舗やデジタル店舗と共同し、ノウハウ共有を進めています。
参考:デジタルストラテジー
デジタルイノベーションを学ぶにはイベント参加・本を読むのがおすすめ
デジタルイノベーションを学びたいと考えたときに、成功事例や最前線の知識を素早く体験したいなら、イベント参加がおすすめです。イベントではセミナーや出展社で直接、担当者から話が聞けるためです。
一方でデジタルイノベーションにおいて、共通する論点や主張など、欠かすことが出来ない「本質」を知るには本がおすすめです。一見すると受動的な知識の吸収に思えますが、同じ分野の本を読むことは思考力アップにつながります。
たとえば製造業とデジタルの関係性についても、著者によって主張する意味合いや今後懸念される問題に関する意識が異なります。
その違いを読み解き、さらに自分だけのオリジナリティのある意見を持つことが、思考力を鍛えることにつながります。
デジタル革命の最前線を体感できるデジタルイノベーション2019
「デジタルイノベーション」は日経BP社が主催する全国ツアー型のイベントで、日本国内でも最大規模のデジタルイノベーションに関するイベントです。2019年2月19・20日と連続で行われた東京会場では、15,031人が来場しています。
他にも名古屋や関西、九州、札幌と全国各地を回るため、その地域の企業が数多く出店しています。また分野もクラウド向けサービスや情報系だけにとどまらず、ものづくりやビジネスAI、働き方改革など多岐に渡るのが特徴です。
場所は開催地によって異なりますが、入場料は3,000円で事前登録者、招待券持参者は無料です。会場内でブースごとに分かれており、2019年から製造業、建設、観光など業界に特化した展示が加えられています。
他にもセミナーが数多く開催され、グーグル・クラウド・ジャパンやローソン、積水ハウス、インテルなど、大手企業でのデジタルイノベーションの今を聞くことができます。なお、2019年の開催日や会場などを以下の表で確認できます。
開催地 | 開催日 | 会場 |
東京 | 2019年2月19日(火)・20日(水) | ザ・プリンスタワー東京 |
名古屋 | 2019年5月22日(水)・23日(木) | 吹上ホール |
関西 | 2019年5月30日(木)・31日(金) | グランフロント大阪 ナレッジキャピタル コングレコンベンションセンター |
九州 | 2019年6月18日(火)・19日(水) | 福岡国際会議場 |
札幌 | 2019年7月18日(木)・19日(金) | 札幌コンベンションセンター |
デジタルイノベーションの学習におすすめしたい本5冊
デジタルイノベーションに関して書かれた本の中から、製造業・金融業などに関する分かりやすい5冊を紹介します。
1.BCGデジタル経営改革
BCGグローバルの論文や国内外の成功事例を元に、日本企業で実行するならどう手順を踏んでいけばよいのか、分かりやすく解説しています。どうビジネスに技術を生かせばよいのか、視点が一貫しているため、読みやすいのも特徴です。
価格
¥1,728
2.インダストリーX.0 製造業の「デジタル価値」実現戦略
AIやIoTの出現に伴う、産業構造の変化を踏まえて、日本企業の実情に合うデジタル化戦略を解いています。企業事例が非常に多く、特に海外のものが豊富であり、競争相手について国内のみならず海外も含めて考えるのに役立つ1冊です。
価格
¥2,160
3.デジタル・プラットフォーム解体新書:製造業のイノベーションに向けて
デジタルイノベーションやデジタルプラットフォームについて、単なる技術という役目だけではなく、ソフトウェアとビジネスの側面から成り立ちが説明されています。経営学としてではなく、歴史的変遷や技術的変遷を知りたい人におすすめです。
価格
¥2,700
4.デジタルイノベーションと金融システム
法律と経済学の観点も踏まえて、金融システムのデジタルイノベーションが現在の金融機関のビジネスにどのような影響をもたらすのかを具体的に解説しています。政府や法律の側面における今後の課題について、分かりやすく知ることが出来る1冊です。
価格
¥2,700
5.アフターデジタル
著者らは「オフラインが存在しない世界」を「アフターデジタル」と呼び、アメリカや中国のキャッチレス化が進む中において、今後世界のビジネスがどうあるべきかを論じています。
デジタルとリアルを分けて考えるのではなく、デジタルがリアルを包み込んでいる今の世界の見方など、デジタルイノベーションによるビジネスにおけるヒントが詰まっています。より長期的な視点で今後の事業を作り上げたい人におすすめです。
価格
¥2,376
デジタルイノベーションに関するよくあるご質問
デジタルイノベーションについて役立つQ&Aをまとめています。
Q.デジタルイノベーションの導入で、企業にどのような変化が期待できますか?
A.生産性の向上、コスト削減、新しいサービスや製品の開発など、業務の効率化と競争力の強化が期待できます。
Q.中小企業でもデジタルイノベーションは導入できますか?
A.はい、クラウドサービスやAIツールの活用により、中小企業でも手軽にデジタルイノベーションを導入できます。
Q.デジタルイノベーションとDXの違いは何ですか?
A.DXは企業全体の構造を変革する取り組みを指し、デジタルイノベーションは技術によって新しい価値を創造することを目的とします。
Q.デジタルイノベーションとデータイノベーションの違いは?
A.デジタルイノベーションは、デジタル技術を活用してビジネスや社会全体の変革を推進することを指します。データイノベーションは、データを活用して新たな価値や洞察を生み出し、ビジネスプロセスを革新することを目的としています。
Q.デジタルイノベーションの導入にはどれくらいのコストがかかりますか?
A.導入する技術や規模によって異なりますが、クラウドサービスやAIツールの利用で初期コストを抑えられるケースが多いです。
まとめ:デジタルイノベーションを理解して今後の事業に活かそう
日常生活でもデジタル化が進んでいるのに、事業がそれに全く関わらないのは非常に難しい時代となっています。デジタルイノベーションは、そんな時代に合わせて事業を展開していくのに、必要な概念・取り組みであり、変革であるといえるでしょう。
イベントで実際に五感を駆使して体験したり、自分のペースに合わせて読める本からより広い視点や知識を得て、デジタルイノベーションを理解し今後の事業に活用していくことが、生き残るために求められています。
どんなことでも、下準備は重要です。時間を気にせず進められる本を読んでみたり、イベントに参加するなど、トライできる範囲から始めてみましょう。