ガバナンスとは？ビジネスにおける意義と実践方法

ガバナンスとは、組織やプロジェクトを運営する際に順守すべき方針やルールのことです。

ガバナンスを設けることで、透明性やリスク管理を行うことができるうえ、ステークホルダーの信頼獲得にもつながります。

逆に欠如していると、効率の低下やリスクの増大にもつながるものであり、大企業だけが気にすれば良いというものではありません。

しかし、具体的にはどのようなもので、どのように導入すればよいのかわからないという方も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、ガバナンスの基礎や、種類と特徴、欠如している場合の問題、メリットやデメリット、導入方法、参考情報、よくある課題と対策などの情報を一挙に紹介します。

ガバナンスの導入にお悩みの方は、ぜひご一読ください。

ガバナンスとは

ガバナンスとは、組織やプロジェクトを効率的かつ効果的に運営するための方針やルール、プロセスを設定し、遵守することを指します。

ガバナンスの主な目的は、組織の目標達成を支援し、リスクを管理し、透明性を保ち、全ての関係者の責任を明確にすることにあり、企業、非営利団体、政府機関など、あらゆる組織に適用されます。

ガバナンスは、単にルールや規則を作ることを指すわけではなく、組織の文化、倫理、パフォーマンス基準を形成し、持続可能な成長を促進するための体系的なアプローチです。

良好なガバナンスは、信頼性の高い組織運営を実現し、内部および外部のステークホルダーからの信頼を得るためには欠かせません。

ガバナンスを使った例文４つ

次に、ガバナンスという言葉を使った例文を４つ紹介します。

• 企業の取締役会にて
  「私たちの取締役会は、企業ガバナンスを強化する新しいポリシーを承認しました。これにより、組織の透明性と株主への責任がさらに強化されます。」
• プロジェクト管理にて
  「このプロジェクトの成功は、効果的なガバナンス構造に依存しています。適切なチェックポイントと進捗報告がプロジェクトの目標達成を保証します。」
• 非営利組織にて
  「当団体は、より良いガバナンスを確立するために、外部の専門家を招聘しました。これは、寄付者と受益者の両方に対する責任を果たす上で重要です。」
• 政府政策にて
  「市は洪水対策のためのガバナンスフレームワークを更新し、住民の安全を確保するための新しいガイドラインを導入しました。」

ガバナンスと類似した言葉との違い

ガバナンスは、「コンプライアンス」、「リスクマネジメント」、「内部統制」といった用語と関連していますが、それぞれ異なります。

コンプライアンス

コンプライアンスは、組織が法律、規制、ポリシー、および業界の基準に従って運営されることを確保するプロセスです。主に外部からの要求に対応し、法的な問題や罰則のリスクを避けることに焦点を当てます。

参考：コンプライアンス対策で実施すべき12の項目を優先順位順に解説│LISKUL
　　　コンプライアンス違反によって起こる経営リスクと、違反につながりやすい9つの原因│LISKUL

リスクマネジメント

リスクマネジメントは、予見可能なリスクを特定、評価、管理するための戦略的なアプローチです。リスクを最小限に抑えるための計画を立て、組織が直面する可能性のある損失を防ぐことを目指します。

参考：リスクマネジメントとは？リスクの種類、対応方法、フレームワークまで一挙紹介│LISKUL

内部統制

内部統制は、組織の資産を保護し、財務報告の精度と完全性を確保し、業務の効率を向上させるための体系的な手法です。プロセスの整合性と効果的な運営をサポートします。

ガバナンスは、これらの要素を統合したもの

ガバナンスは、これらの要素を統合し、組織全体のフレームワークとして機能します。

組織の目的と戦略に基づき、適切な構造とプロセスを通じてこれらの活動が適切に行われるよう指導し、監督します。そのため、ガバナンスは単なるコンプライアンス、リスクの管理、または内部のプロセスを超え、組織の方向性と持続可能性を定義する役割を担います。

ガバナンスが求められる背景にある５つの要因

ガバナンスが組織に不可欠である背景には、複数の重要な要因が存在します。

これらの要因は組織の持続可能性、信頼性、および効率性を高めるために、適切なガバナンスの導入を促しています。

１．市場のグローバル化

市場のグローバル化に伴い、企業は異なる国々の法律や規制に対応しなければならなくなります。これにより、国際的な標準に準拠したガバナンス構造を確立することが極めて重要となります。

２．技術の進化

デジタル技術の急速な進化は、新たなリスクと機会をもたらしました。これに対応するため、技術的な変更を管理し、イノベーションを統合するための効果的なガバナンスが必要です。

３．複雑化する規制環境

規制が増加し続ける現代において、企業は常に更新される規制要件を遵守するための明確なガバナンスフレームワークを必要としています。これは法的な遵守だけでなく、リスクの最小化にも寄与します。

４．ステークホルダーの期待の変化

ステークホルダー（投資家、顧客、従業員など）は、企業が社会的および環境的責任を果たすことを期待しています。これに対応するためには、透明性と説明責任を高めるガバナンスが必要です。

５．組織の成長と複雑性の増大

組織が成長し、事業が多様化するにつれて、内部プロセスと決定構造が複雑になります。適切なガバナンスを通じてこれらの要素を管理することが、効率的かつ効果的な運営を保証します。

ガバナンスの種類と特徴

ガバナンスは、その適用範囲と目的に応じて複数の形態があります。コーポレートガバナンス、ITガバナンス、プロジェクトガバナンスなど、主要なガバナンスの種類とその特徴を解説します。

これにより、組織が各ガバナンスをどのように利用して効果的に運営を行っているかが明らかになります。

コーポレートガバナンス

コーポレートガバナンスは、会社の運営と管理の方法を規定します。

このガバナンスの目的は、透明性を確保し、ステークホルダーの利益を保護することにあります。

効果的な企業ガバナンスは、組織の信頼性を高め、投資家に対する信頼を構築します。

ITガバナンス

ITガバナンスは、情報技術の使用が企業の戦略と目標に適合するように設計されています。

これは、リスク管理、リソースの最適化、データ保護の強化を通じて、IT資源の効率的な利用を確保することを目指します。

プロジェクトガバナンス

プロジェクトガバナンスは、プロジェクトの成功を保証するために必要な方針やプロセスを提供します。

明確な役割分担、責任の割り当て、進捗の監視が含まれ、プロジェクトが予算とスケジュール内で目標を達成することを支援します。

環境ガバナンス

環境ガバナンスは、持続可能な開発を促進するために環境保護を重視します。法規制の遵守、環境リスクの管理、および公共の利益の保護を目的としています。

ガバナンスが欠如している場合に起きる５つの問題

ガバナンスの欠如は組織にとって多くの問題を引き起こす可能性があります。

これには、効率性の低下、リスクの増大、ステークホルダーの信頼喪失などが含まれます。これらの問題を具体的に理解することで、ガバナンスの重要性がより明確になります。

１．効率の低下

ガバナンスが不十分な組織では、プロセスが標準化されていないため、作業の重複や無駄が生じやすくなります。

これは全体的な運営効率の低下を招き、コストの増加やプロジェクトの遅延を引き起こすことがあります。

２．リスクの増大

適切なリスク管理戦略が欠如していると、組織は法的違反や財務的損失のリスクにさらされます。

これには、データ漏洩やコンプライアンス違反などが含まれ、組織の評判や安定性に深刻な影響を与えることがあります。

３．ステークホルダーの信頼喪失

ガバナンスが不足している場合、透明性や説明責任が確保されず、これがステークホルダー（投資家、顧客、従業員）の信頼を損ねる原因となります。信頼が失われると、顧客や才能の流出、投資の減少につながることがあります。

４．意思決定の質の低下

明確なガイドラインや方針が存在しないことで、意思決定プロセスが不透明になり、しばしば不適切または短期的な決定が行われがちです。

これは組織の戦略的な目標達成を妨げ、長期的な成長機会を損なう可能性があります。

５．法的・規制上の違反

ガバナンスの不備は、法的な要件や業界規範の無視につながることが多く、罰金や訴訟といった法的な結果を招くことがあります。

これは組織の財務に直接的な打撃を与えるだけでなく、その社会的な責任を問われる事態にもつながります。

ガバナンスを強化するメリット５つ

ガバナンスを強化することは、組織にとって多くの利益をもたらします。これには、運営の透明性の向上、リスクの効果的な管理、ステークホルダーの信頼の獲得などが含まれます。

１．運営の透明性の向上

透明性は、ステークホルダーからの信頼を得るための鍵です。

ガバナンスを強化することで、意思決定プロセスが明確になり、組織の行動が公開されるため、ステークホルダーは組織の動向を容易に追跡し、評価することができます。

２．リスクの効果的な管理

強化されたガバナンスは、リスクを特定し、評価し、軽減するための体系的なアプローチを提供します。

これにより、予期しない問題が発生した際の損失を最小限に抑えることが可能となります。

３．ステークホルダーの信頼の獲得

良好なガバナンスはステークホルダーにとって安心感を提供し、投資家、顧客、従業員からの信頼を強化します。

信頼は企業の評判を高め、新たなビジネス機会を引き寄せる可能性があります。

４．法的遵守の保証

適切なガバナンスフレームワークを設置することで、組織は法的要件と規制基準を継続的に満たすことができます。

これは、法的問題による財務的損失や評判の損傷を防ぐために重要です。

５．意思決定の質の向上

ガバナンスを通じて、意思決定における情報の質とプロセスの構造が向上します。

これは、より効果的で総合的な意思決定を促し、組織の全体的なパフォーマンスを向上させます。

ガバナンスを強化するデメリット

ガバナンスを強化することには多くのメリットがありますが、一部の状況ではデメリットも存在します。

これらのデメリットを理解することは、組織が適切なガバナンス戦略を策定する上で重要です。

１．初期コストの増加

ガバナンスの強化は、しばしば新しいシステムの導入、プロセスの再設計、スタッフのトレーニングに関連するコストがかかります。

これらの初期投資は、特に小規模な企業やスタートアップにとっては大きな負担になることがあります。

２．柔軟性の喪失

厳格なガバナンスフレームワークは、組織の柔軟性を制限することがあります。

特に、急速に変化する市場環境やイノベーションが必要な状況では、規則に縛られすぎることが創造性や迅速な意思決定を阻害する可能性があります。

３．過度の管理と監視

ガバナンスの強化は、時として過度の管理や監視をもたらすことがあります。これは従業員のモチベーションを低下させ、組織の全体的な雰囲気に悪影響を与える可能性があります。

自由度が制限されると、従業員の創造性や自己主導性が損なわれることがあります。

４．意思決定の遅延

効果的なガバナンスは通常、複数の検証レイヤーや承認プロセスを要求します。これが結果として意思決定の遅延につながることがあり、緊急時の迅速な対応が求められる場合には特に問題となります。

５．組織内の抵抗

新しいガバナンス構造の導入は、組織内での抵抗に遭遇することがあります。変更に対する抵抗は、プロセスの適応を遅らせ、計画の効果を低下させる可能性があります。

ガバナンスを導入する方法６ステップ

ガバナンスを効果的に導入するためには、戦略的な計画と組織全体のコミットメントが必要です。

以下のステップは、組織がガバナンスを成功裏に実装し、そのメリットを最大限に活用するためのガイドラインを提供します。

１．ガバナンスの目的と目標の明確化

ガバナンス導入の第一歩は、その目的と目標を明確にすることです。これには、組織のニーズと期待を評価し、ガバナンスが解決すべき具体的な問題や改善点を特定することが含まれます。

２．ステークホルダーの関与

ステークホルダーを早期から関与させることで、ガバナンスプロセスに対する支持とコミットメントを確保します。これには、経営陣、従業員、および必要に応じて外部の顧問や規制当局も含まれます。

３．ガバナンスフレームワークの設計

効果的なガバナンスフレームワークを設計するためには、組織の構造、業務プロセス、および既存のポリシーを考慮する必要があります。フレームワークは、透明性、責任、およびコンプライアンスを促進するための具体的な方針と手順を含むべきです。

次の章で参考にすべき情報についても説明していますので、合わせてご覧ください。

４．トレーニングと教育

ガバナンスの原則とプロセスを組織内で広めるために、包括的なトレーニングと教育プログラムが必要です。これは従業員が新しいシステムに適応し、その原則を日々の業務に統合するのを助けます。

５．実装とモニタリング

ガバナンスフレームワークを段階的に実装し、その進行状況を定期的にモニタリングすることが重要です。これにより、必要に応じて調整を行い、ガバナンスの効果を継続的に評価し改善することができます。

６. フィードバックと改善

ガバナンスプロセスは継続的な改善が必要です。従業員や他のステークホルダーからのフィードバックを受け入れ、ガバナンス構造を定期的に見直し、必要に応じて改善します。

参考：フィードバックとは？意味や効果を高める実施のポイントをわかりやすく解説│LISKUL

ガバナンスフレームワークを策定する際に参考となる２つの情報

次に、難易度が高いガバナンスフレームワーク策定の際に参考になる情報をご紹介します。

１．コーポレートガバナンス・コード

コーポレートガバナンス・コードは、日本経済を支える上場企業に対して、より透明性の高い経営と株主との良好な関係の構築を求めるために金融庁によって設けられました。このコードは2015年に導入され、東京証券取引所に上場している企業が遵守を求められています。以下は、その主な内容と目的です。

目的

• 透明性の向上：コーポレートガバナンスの透明性を高めることで、投資家に対する信頼を強化し、企業価値の向上を図る。
• ステークホルダーとの関係強化：株主をはじめとするステークホルダーとの健全な関係を構築し、持続可能な成長を支援する。

主要な原則

取締役会の機能強化：取締役会の機能を強化し、効果的な監督が行えるようにする。
多様性の尊重：経営の多様性を確保し、異なる視点からの意思決定を促進する。
情報の開示：経営に関する情報を透明に開示し、投資家が合理的な投資判断を行える環境を整備する。

詳しくは以下をご覧ください。

参考：コーポレートガバナンス改革に向けた取組みについて│金融庁
　　　コーポレートガバナンス・コード│株式会社東京証券取引所

２．企業の公式サイトやケーススタディ

大手企業が公開しているガバナンス報告書やサステナビリティレポートなどは、実際にどのようなガバナンスフレームワークが使用されているかを理解するのに役立ちます。

特に上場企業であれば、原則として前述のルールに則っている必要があるため、これらに準拠した情報を手に入れることができます。

特に同業界の企業であれば直接的に役立つ実践的な情報が含まれていると思いますので、参考にしてみましょう。




ガバナンスの導入における一般的な課題と解決策４つ

ガバナンスの導入は多くの利益をもたらしますが、それに伴う課題も少なくありません。

ここでは、ガバナンス導入の過程でよく遭遇する課題と、それらを克服するための効果的な解決策を紹介します。

課題１：従業員の抵抗

従業員の抵抗は、変化への不安や不明瞭さから生じることが多いです。

これを解消するためには、変更の目的と利点を明確に伝え、全従業員が変更プロセスに参加できる機会を提供することが重要です。

トレーニングセッションやワークショップを定期的に開催し、従業員の意見や懸念を聞くことで、彼らの支持を得やすくなります。

課題２：資源の制約

特に中小企業では、資源の制約が大きな障壁となることがあります。

資源が限られている場合には、最も影響力のある変更から順に導入を進める段階的アプローチを採用することが効果的です。

また、外部のコンサルタントや技術提供者とのパートナーシップを検討することで、専門知識と追加のリソースを確保することも有効です。

課題３：情報の不足

ガバナンスの導入に当たっては、適切な情報が不可欠です。

この課題を解決するためには、既存のデータと経験を基にしたリスク評価や効果分析を行い、戦略的な意思決定をサポートする必要があります。

情報収集と分析には、ITシステムの強化やデータ管理技術の導入が役立ちます。

課題４：継続的な遵守の難しさ

ガバナンスフレームワークの維持と遵守は、一貫性と継続性が鍵です。これを支援するために、定期的なレビューと監査を行い、フレームワークの有効性を評価し、必要に応じて更新します。

また、遵守を促進するために、パフォーマンスに基づくインセンティブを設定することも考慮に入れると良いでしょう。




ガバナンスに関するよくある誤解５つ

ガバナンスは組織運営の重要な要素ですが、しばしば誤解されがちな概念です。最後に、ガバナンスに関してよく見られる５つの誤解を紹介します。

誤解１：ガバナンスは大企業だけのものである

ガバナンスはあらゆる規模の組織に適用可能です。小規模企業でも、明確なガバナンス構造を持つことで、リスク管理が改善され、効率的な運営が可能になります。

誤解２：ガバナンスは単にルールと規制に従うこと

ガバナンスはルールと規制の遵守を含みますが、それ以上のものです。組織の戦略的目標達成をサポートし、透明性と説明責任を強化するための体系的なアプローチを提供します。

誤解３：ガバナンスの導入は一時的な対策

効果的なガバナンスは、継続的なプロセスです。市場や技術の変化に応じて適応し、常に改善されるべきものです。

誤解４：ガバナンスは創造性を阻害する

適切に設計されたガバナンスは、創造性を促進することができます。明確なガイドラインと自由度がバランス良く組み合わされていると、従業員は新しいアイデアを安心して試すことができます。

誤解５：ガバナンスはコストがかかるだけで利益は少ない

初期の導入にはコストがかかることがありますが、長期的にはリスクを減らし、運営の効率化を促進することで、組織の財務にプラスの影響を与えることが多いです。




まとめ

本記事では、ガバナンスの基礎や、種類と特徴、欠如している場合の問題、メリットやデメリット、導入方法、参考情報、よくある課題と対策などの情報を紹介しました。

ガバナンスとは、組織やプロジェクトを運営する際の方針やルールなどをまとめたものです。

ガバナンスを設けることで、透明性の向上や、効果的なリスク管理などのメリットを期待することができます。

ガバナンスを導入する際には、目的や関与するステークホルダーを明確にすることが重要であり、それらをフレームワークに落とし込む必要があります。

フレームワークを作成する際には、金融庁のガバナンス・コードや、上場している同業界の企業の情報などを参考にすることをお勧めします。

また導入の際には、従業員の抵抗や、資源の制約などにより滞る可能性があるので注意しましょう。

これらのポイントをおさえてガバナンスを導入することで、組織の持続可能性を向上することができますので、これを気に挑戦してみてはいかがでしょうか。

そして挑戦の際には、本記事で紹介した情報が一助となれば幸いです。