読者に“届く”記事はどう作る? 『経営ハッカー』中山順司編集長の企画術

さまざまな目的や課題解決のために運営されるオウンドメディア。しかし、どんな企画も届けたいターゲットに届かなければ、目的は達成できません。そこで、より良いオウンドメディア作りのヒントを得るため、新卒1年目でありながら『LISKUL』編集長に就任した五味田雄斗が先輩編集長を直撃し、メディア運営の秘訣を探るインタビューシリーズの第2弾。今回のテーマは、「読者に届く企画づくり」です。

今回はクラウド会計ソフト「freee(フリー)」など、スモールビジネスを支援するサービスを提供するfreee株式会社(以下、freee)を訪問。会社設立から会計、経理、決算まで、経営の効率化を図るノウハウを届けるオウンドメディア『経営ハッカー』編集長の中山順司さんにお話を伺いました。

「内向型」と自称し、普段は自身が前に出ることをあまり好まない中山さんは、まさに縁の下の企画人。一体どのようにターゲット層のニーズを読み解き、企画を立てているのでしょうか?

第1弾:読者の本当の課題を解決するオウンドメディアはどう作る? 「LITALICO発達ナビ」編集長・鈴木悠平さんインタビュー
 


ブログサービス提供会社から、オウンドメディアの編集長に

画像1<プロフィール>写真左)五味田雄斗(いつみだ・ゆうと):2018年、ソウルドアウト株式会社へ新卒入社。同年10月よりオウンドメディア『LISKUL』の編集長に。右)中山順司(なかやま・じゅんじ):2016年freee株式会社に入社。経営ハッカー編集長。24時間365日、オンオフの境界線なく常にコンテンツのことを考えては執筆する生活を送る。趣味はロードバイクとブログ『サイクルガジェット』の運営。

五味田:本日はよろしくお願いします。まずは中山さんが『経営ハッカー』の編集長に就任するまでのキャリアからお聞きしてもいいでしょうか。

中山:僕は以前、ブログサービスなどを提供しているソフトウェアメーカー、シックス・アパート株式会社にいたんです。CMSを提供したり、コンテンツマーケットの必要性を発信したりする会社で、トータルで10年ほど在籍しました。そして2016年の4月に、『経営ハッカー』の運営仕事で声がかかり、freeeに転職しています。ずっとIT業界に身を置いてはいますが、エンジニア畑ではなく、もっぱら文章やコンテンツの世界を主戦場にしてきた感じですね。

経営ハッカー経営ハッカー」は、freee代表・佐々木大輔さんのブログから始まったオウンドメディア。会計や経理、人事労務、会社設立などをテーマに情報を発信。

五味田:つまり、長くコンテンツに携わってこられたわけですよね。僕はライターも編集も未経験なまま編集長のポストを拝命した身なので、何かと大変で……。こういった対談やメディア運営のなかで、必死に勉強しているところなんです。最近になってようやく、メディア全体を見ながら企画を立てていくことの面白さがわかってきて、編集長という立場を楽しめるようになりました。

中山:いきなり編集長からキャリアをスタートするのは面白いですね。でも、やり甲斐を持ってやれているならよかったです。


ネタを「探す」のではなく、身近な事象をいかに料理するか

五味田:ところで、中山さんが編集長に就任してから、『経営ハッカー』はどのように変わりましたか。

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中山:いろいろありますが、例えば編集方針の“顔が見える人が記事を書く”は大きな変更点の1つですね。それまではクラウドでライターを集めて記事を量産するスタイルで、無署名の記事が中心でした。そこでまず、ライターのキャスティング方法や記事の更新頻度などを全面的に見直しました。記事の中身についても、確かなファクトのある情報を精査し、ペルソナ(対象になる読者)を意識することを徹底しています。

五味田:その、『経営ハッカー』が想定する読者層とは?

中山:当社で提供しているクラウドサービスのユーザーでもある経営者、あるいは中小企業でチームを束ねる立場にある方です。

五味田:たとえば今、M&Aや事業継承に関する記事が連載されていますよね。これなどはまさに経営者の方をサポートする、読者が求める情報そのもので、『LISKUL』としても参考にすべきコンテンツだと感じています。こうした企画を考える際、重視しているポイントは何ですか?

中山:どこか遠くに落ちているネタを探し出そうとするのではなく、自分の半径5メートル以内くらいに転がっている身近な事象をいかに料理するか、です。パソコンの前でいくら悩んでいても、企画は降ってこないですからね。それよりはアンテナを広げる努力をして、何か引っかかったネタがあればそれをさらに掘り下げてみたり、あるいは視点を変えて咀嚼してみたり、さまざまな調理法を探すべきだと考えています。

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五味田:なるほど。実は企画は身の回りに落ちている、と。それを企画会議でブラッシュアップするわけですね。

中山:そうですね。といっても、チームとしては外部のライターがメインで、社内は僕1人。なので、企画会議の頻度は3カ月に1度くらいです。ただし、企画の検討や準備は日常的に進んでいます。

例えば、最近取り上げた『息子が父親を「ちょっと見直した瞬間」あるある【怒涛の56連発】』みたいな“あるあるネタ”は、スプレッドシートを1つ立ち上げて、「思いついた人、どんどん書き込んで!」と社内に声をかけました。すると、いつの間にかネタが溜まっていたりしますね。いかにリソースを使わずに面白い企画を作るかも、編集長の仕事として大切でしょう。

息子が父親を「ちょっと見直した瞬間」あるある【怒涛の56連発】


求める書き手に出会うためには?

五味田:1つのポイントとして、ペルソナをどれだけリアルにイメージできるかが、読者の求めるコンテンツを作れるかどうかを左右するように感じます。その点、中山さんが日頃から心がけていることはありますか?

中山:自分の得意分野にいるペルソナなら誰しもイメージしやすいでしょうが、問題はそうではない場合ですよね。もし女性向けのファッションメディアを担当することになったら、今の自分ではお手上げです。そんな時は、ターゲット層が読みそうな雑誌を読んでみたり、そういう人たちがよく訪れる場所に足を運んでみたりして、とにかくインプットを増やすのが先決でしょう。

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中山:すると情報を入れていくうちに、門外漢ならではの疑問が必ず湧いてくるはず。あるカフェが流行っていたとしたら、「この店のどういう点がウケているんだろう?」、「なぜ和風の店では駄目なのかな?」など、ちょっとした疑問のすべてが企画の種になりますから。

五味田:それが先ほどおっしゃっていた、ネタは身近に落ちているということですよね。

中山:そうですね。調べれば調べるほど、疑問は深まります。それを解決するのが企画の第一歩。『経営ハッカー』の場合、会計や財務について僕はいろんな疑問を感じています。ペルソナとして想定している読者も、きっと同様でしょう。専門知識のない自分には解説はできなくても、専門家を連れてきて疑問を解決してもらえば記事として成立します。それも調理法の1つです。

五味田:たしかに『経営ハッカー』では、専門家や識者の方による執筆が多いですよね。こうした書き手はどのように見つけているんですか? 実は『LISKUL』でも、Webマーケティングを中心に専門的な内容も記事化したいと思っているのですが、専門性のある書き手が不足していて……。

中山クラウドやSNSで探す手もありますが、確実なのはやはり、人づてに紹介してもらうことでしょう。つてがなければ、ライターが集まる勉強会などに参加してみるのもいいですね。そこで求める分野の人に出会えなかったとしても、ライターの皆さんとのネットワークは広がるので、より紹介してもらいやすくなります。いかに普段から網を張っておくかが大切ですよ。

五味田:では逆に、企画づくりで絶対にやってはいけないことはありますか?

中山複数の人に相談して、得た情報を全部反映させようとすることですね。多くの人の意見に合わせようとすると、どうしても角の取れた、当たり障りのない企画になりがちなんですよ。だから誰かに意見を聞くにしても、最終判断は自分がするという強い意志をもつべきです。


内向型の人間がメディア向きである理由

五味田:中山さんはご自身でもブログを書いたり、書籍を著したり、もともと書くことに非常に熱心ですよね。執筆活動を行うようになったきっかけは何ですか?

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中山:営業職や大勢で取り組むような仕事が、実は苦手なんです。僕は非常に内向型の人間で、できることならずっと独りでいたい。30代になってブログというツールに出合い、書くことは一人でできるので、「これはいいな」と。要は書くことが性に合っていたんです。

五味田:このソーシャルな時代に、ブログが独りになるためのツールだったというのは、なんだか面白いですね。

中山:決して僕自身を見てほしいわけではないので、SNSも苦手です。それよりも自分が書いた文章を読んでほしいというスタンスですね。でも、実はこういう内向型の人間のほうが、メディアには向いているのではないかという気もします。

五味田:それはなぜでしょうか?

中山:タモリさんの名言に、「人見知りをする人間は、常に正解が何であるかを頭で考えている人間だ」というのがあります。これは共感する部分が多くて、つまり人見知りは場の調和や適切なツッコミを常に考え、空気を壊さない努力をしているのだと言っているわけです。人見知りだと独りよがりになりようがないんですよ。むしろ周囲がちゃんと楽しんでいるかを気にしすぎるタイプで、それは一つの才能なのではないかと。

五味田:なるほど、納得してしまいます。内向型のメディア人はその特性から、常に読者の目を気にして物事が考えられるんですね。

中山:そう。そして他人の目が気になるから、常に振り返りを怠らないんですよ。

五味田:それはつまり、公開したコンテンツがどのような反響を得たか、もっといい記事にするためにはどうすればよかったのか、といった検証につながりますね。そうした振り返りを経て、中山さんが今、企画づくりで大切にしていることは何ですか?

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中山:あらためて考えてみると、4つに集約できます。

1)精神年齢を低くすること
2)物事を天の邪鬼に見ること
3)オチよりもリアリティを重視すること
4)自分のルーツを大事にすること

です。

五味田:それぞれどういう意味でしょうか。

中山:あまり高尚に考えすぎると、読み手にとって面白いものにはなりにくい。だから、中学生くらいまで自分の視点を落としてなるべくシンプルに考えるのがちょうどいい、というのが1つ目です。次の「天の邪鬼」も視点の話で、世間一般とは少し違った角度から物事を咀嚼しようということ。

そして、オチありきで記事をつくると、どうしても求める方向が固定されてしまいます。それよりもリアリティをとことん追求して、結果的に落ちたところがオチであればいい。こないだ元プロボクサーで今はTシャツ屋とハンコ屋を切り盛りする経営者さんへ取材に伺ったんですが、取材に当たってはざっくりと質問は用意しますが、オチとか着地点は用意せず、その場の勢いと流れに任せました。そのほうが、結果的に面白い仕上がりになりやすい。

最後のルーツとは、内向的である自分に立ち返り、ルーツを卑下するのではなく、より積極的な内向型になること。これは企画や記事について人一倍、自分の中で考え抜く姿勢を忘れないことでもあります。

五味田:参考になります。まだまだ不慣れなところも多いですが、自分の身に置き換えてみて、よく考えてみたいと思います。本日は貴重なアドバイスの数々を、ありがとうございました。

(執筆:友清哲 編集:鬼頭佳代/ノオト)

オウンドメディア編集長インタビュー

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