ゼロトラストセキュリティとは?基本からゼロトラストを実現する方法まで一挙解説!

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ゼロトラストセキュリティとは、全ての通信を信用しないというセキュリティの考え方です。

このモデルを導入することで、組織は内部と外部の脅威から効果的に防御し、サイバー攻撃による情報漏洩等のリスクを最小限に抑えることが期待できます。

しかし、ゼロトラストセキュリティの実現には技術的な複雑さやコストの増加、運用の難しさなどの課題も存在します。

そこで本記事では、ゼロトラストセキュリティの基本原則や、メリットとデメリット、実現方法などを一挙に解説します。

ゼロトラストセキュリティに興味のある方や、導入を検討している方は、ぜひご一読ください。

「情報セキュリティ10大脅威」から見るゼロトラストセキュリティの必要性-

目次


ゼロトラストセキュリティとは

ゼロトラストセキュリティとは、現代のネットワーク環境における新しいセキュリティの考え方です。

その中心には「全ての通信を信用しない」という原則があります。具体的には、内部ネットワークであっても、すべてのユーザー、デバイス、アプリケーションが潜在的な脅威であると見なされ、アクセス前に厳格なユーザー確認と認証が必要とされます。

このアプローチにより、従来の境界型セキュリティに見られる内部信用の概念を排除し、企業のセキュリティ体制を一層強化します。

この考え方は、テレワークの増加やクラウドベースのアプリケーションの利用拡大といった現代のビジネス環境の変化に対応するために特に有効です。

ゼロトラストセキュリティは、ネットワークの任意のポイントでのセキュリティ侵害を防ぐことを目的とし、すべてのアクセス試行を疑い、最小限のアクセス権限のみを付与することで、潜在的な内部および外部の脅威から企業を守ります。

このセキュリティ戦略の導入により、企業はデータ漏洩のリスクを大幅に減少させることができ、全体的なセキュリティ体制をより強固なものにすることが可能です。


従来の境界型セキュリティとの違い

ゼロトラストセキュリティは、従来の境界型セキュリティと根本的に異なります。

特徴従来の境界型セキュリティゼロトラストセキュリティ
基本的な考え方ネットワーク内部の通信は信用されるどの通信も信用されない
境界の定義明確な内部と外部の境界境界が存在しない
アクセス制御一度内部に入ると広範囲のアクセスが許可されるすべてのアクセス試行に対し厳格な検証と認証が必要
セキュリティ検証主に境界で保護常に検証し、継続的な監視が行われる
対応する脅威外部からの脅威に焦点内部と外部の両方からの脅威に対応
アクセス権限の管理広範な権限が与えられる場合が多い必要最小限の権限の原則に基づく

これまでの境界型セキュリティでは「内部の通信は信用できる」「外部からの通信は信用できない」という境界に基づいたセキュリティ対策が構築されていました。内部ネットワークに一度アクセスが許可されると、ユーザーやデバイスは広範囲にわたるリソースへのアクセスが可能となり、これが潜在的なセキュリティリスクを生じさせていました。

対照的にゼロトラストセキュリティでは、内部と外部の区別をなくし、全てのアクセス試行に対して一貫して厳格なユーザー確認と検証を求めます。

ゼロトラストセキュリティは、「全ての通信を信用しない、常に検証する」という原則に基づいており、認証したのちも各ユーザー/デバイスに対して最小限のアクセス権限を与えることでリスクを低減します。

ゼロトラストセキュリティの実現により、企業は内部からの脅威に対してもセキュリティ対策を講じることができます。


ゼロトラストセキュリティが近年注目されている4つの理由

ゼロトラストセキュリティが近年注目されている主な理由には、サイバー攻撃の複雑化とテレワークの普及による新たなセキュリティニーズの出現などが挙げられます。これらの要因がセキュリティの要求を高めています。

1.テレワークの増加

COVID-19パンデミックが引き起こしたテレワークの普及は、企業のネットワークセキュリティに新たな課題をもたらしました。

従業員がオフィス外から企業リソースにアクセスする場合、従来のセキュリティモデルでは十分な保護を提供することが難しくなっています。

2.サイバー攻撃の進化

サイバー攻撃は日々進化しており、特に内部に潜む脅威が増加しています。

ゼロトラストセキュリティは、内部ユーザーでも厳格な認証と検証を求めることで、これらの脅威に効果的に対応します。

参考:サイバー攻撃とは?事例や攻撃目的と対策をわかりやすく解説!│LISKUL

3.クラウド技術の進化と導入

クラウドサービスの利用が拡大するにつれて、データとアプリケーションが分散され、従来の境界定義に基づくセキュリティアプローチでは不十分になっています。

ゼロトラストセキュリティは、どの場所からでもアクセスレベルに応じてアクセスを制御するように設計されています。

4.法規制とコンプライアンスの厳格化

多くの国でデータ保護に関する法規制が強化されており、企業はこれらの要件を満たすためにより洗練されたセキュリティ対策を講じる必要があります。

ゼロトラストセキュリティは、これらの法的要求に対応する効果的な手段を提供します。


ゼロトラストセキュリティの基本原則7つ

ゼロトラストセキュリティは、「全ての通信を信用しない、常に検証する」を基本とし、NISTの7つの原則に基づいて構成されています。組織は攻撃リスクを低減し、情報資産を保護できます。

参考:NIST Special Publication 800-207 ゼロトラスト・アーキテクチャ

1.すべてのデータソースと処理サービスをリソースと考える

すべてのデータソースや処理サービスをリソースとして扱うことが重要です。デバイスやユーザー、ファイルなども含めて一律に管理し、アクセスを厳格に制御することで、漏えいリスクが減ります。

2.ネットワークの場所に関係なく、全ての通信が保護される

ネットワークの内外問わず、通信を保護する必要があります。VPNを使った社外からの接続や、内部通信の暗号化などにより、脅威を防げます。

3.リソースへのアクセスはセッションごとに許可される

アクセスはセッションごとに動的に許可します。セッション中に発生するリスクにも対応できるため、セキュリティを維持しやすくなります。

4.リソースへのアクセスは動的なポリシーによって決定される

アクセス権はユーザーの行動やデバイスの状態など、リアルタイム情報に基づく動的なポリシーで決定されます。例えば、異なる場所からのアクセスには追加の認証が求められます。

5.組織に関連する機器は可能な限り安全を保てるよう、継続的に監視する

組織のデバイスやシステムは、継続的に監視し、異常や脆弱性が発見された際に速やかに対応します。エンドポイントの監視により迅速なリスク対策が可能です。

6.リソースの認証と認可は動的に実施され、許可する前に厳密に適用される

リソースへのアクセスには、動的な認証と認可が必要です。リアルタイムでユーザーの行動やデバイスの状態を確認し、不正なアクセスを未然に防ぎます。

7.ネットワークインフラとコミュニケーションの現状を出来る限り収集する

ネットワークインフラと通信の状態を常に収集し、分析することでリスクを可視化し、迅速な対策を実施できます。ネットワーク内の異常なトラフィックを監視し、即時に対応が可能です。


ゼロトラストセキュリティのメリット3つ

次に、ゼロトラストセキュリティのメリットとデメリットについて解説します。まずは、3つのメリットから見ていきましょう。

1.包括的なセキュリティを実現できる

ゼロトラストセキュリティは、すべてのアクセス試行に対して検証を要求し、内部および外部の両方の脅威から企業を守ります。

このアプローチにより、従来の境界型セキュリティで見落とされがちな内部からの攻撃に対しても効果的に対応することができます。さらに、各アクセスポイントでの厳格な認証と権限の管理により、データ漏洩のリスクが低減されます。

また、マイクロセグメンテーションを導入することで、サーバーやアプリケーションを細かく隔離し、それぞれを個別に保護することが可能です。

これにより、不要なトラフィックを抑制しつつ、アクセスの制御が厳格に管理され、セキュリティの強化が実現します。攻撃者が正規の経路にたどり着くまでに時間がかかるため、ネットワーク侵害のリスクも低減されます。

参考:マイクロセグメンテーションによるゼロトラスト・アーキテクチャー ~Vol.1従来のネットワーク・セグメンテーションとマイクロセグメンテーションの違い

2.適応性と柔軟性が向上する

ゼロトラストセキュリティは地理的な場所に依存せず、テレワークやクラウドベースのサービスの利用が増加する現代のビジネス環境に適しています。

リモートアクセス自体は既存のインフラで実現しますが、ゼロトラストの導入によって、これらの環境でもセキュリティを維持しながら業務を進められるようになります。その結果、業務の効率と柔軟性が向上します。

3.コンプライアンスを遵守できる

多くの業界でデータ保護の規制が厳格化していますが、ゼロトラストセキュリティはこれらの要件を満たすのに役立ちます。

特に、データへのアクセスを制御し、監視する機能は、GDPRやHIPAAなどの規制に対するコンプライアンス体制の構築を支援し、罰金や法的な問題から企業を守ります。

参考:GDPRとは?今すぐ対応すべき企業と最低限実施すべき5つの対策│LISKUL


ゼロトラストセキュリティモデルのデメリット4つ

ゼロトラストモデルは多くのメリットを提供しますが、実装にはいくつかの課題があります。中でも一般的な課題を4つ紹介します。

1.実装と移行が複雑

ゼロトラストセキュリティを完全に実装するには、企業の既存のセキュリティアーキテクチャを大きく変更する必要があることが多く、これは技術的および運用上の大きな挑戦となります。

特に、大規模な組織での既存システムとの統合や、旧来の技術に依存する部門の更新には、時間とコストが大きくかかります。

2.コストが増加する

ゼロトラストセキュリティの導入には、新たな技術とツールの購入、システムの再構築、スタッフの研修など、初期投資が必要です。

また、継続的な監視とポリシーの更新には専門的なスキルが求められ、これらのコストも見過ごすことはできません。

3.運用が複雑化する

ゼロトラストセキュリティは、すべてのネットワークトラフィックとユーザーアクティビティを検証するため、システムの運用が複雑になる場合があります。

特に、多要素認証やアクセスポリシーの厳格な適用は、日常的な業務においてユーザーエクスペリエンスを低下させる可能性があります。

4.ユーザーエクスペリエンスの低下

ゼロトラストセキュリティでは、すべてのアクセス試行に対して厳格な検証が求められます。これには多要素認証(MFA)の頻繁な要求が含まれることが多く、ユーザーにとっては手間が増えることがあります。

特に、日常的に多くのシステムへのログインが必要なユーザーにとっては、作業の進行が遅れる原因となり、フラストレーションを感じることもあります。さらに、厳格なアクセスポリシーが誤って正当なユーザーのアクセスを妨げる場合もあり、これが業務効率の低下につながることも考えられます。


ゼロトラストセキュリティの実現には段階的に進める必要がある

ゼロトラストセキュリティの導入は、企業にとって大きな転換となりますが、その過程は一度に進めるよりも段階的に進める方が現実的です。

特に既存のネットワーク構成が整っている場合、全体の再構築には工数がかかり、運用への影響も大きくなります。そのため、部分的かつ段階的ににゼロトラストの概念を導入することが効果的です。

その第一歩として「認証管理」と「ファイル管理」の見直しを推奨します。

認証管理の優先導入:IDaaSの活用

ゼロトラストセキュリティの実現において、まずは認証管理を強化することが重要です。

認証管理の一元化を実現するために、IDaaS(Identity as a Service)の導入を優先すると良いでしょう。

IDaaSは、多要素認証やシングルサインオン(SSO)などの重要な機能を含んでおり、これらの機能を個別に導入する必要はありません。IDaaSを導入することで、次のような利点が得られます。

1. 多要素認証の実装

IDaaSは多要素認証の機能を標準で提供しており、単一のパスワードに依存せず、複数の認証方法を組み合わせることで、強固なセキュリティを実現します。

2. シングルサインオン(SSO)の導入

IDaaSは、SSO機能も提供しており、ユーザーが一度ログインすれば複数のシステムにシームレスにアクセスでき、利便性を高めながらセキュリティも確保します。

参考:シングルサインオン(SSO)とは?仕組みやメリット・導入のポイントについて解説│LISKUL

3. クラウドベースの認証管理

クラウド環境で認証管理を一元化できるため、リアルタイムのアクセス監視や権限管理が効率的に行えます。これにより、ゼロトラストの基本である「常に検証する」体制を確立できます。

ファイル管理の次段階の導入

IDaaSを導入して認証管理を強化した後、次に取り組むべきはファイル管理の見直しです。企業の重要なデータや機密情報に対するアクセス制御を適切に行うことで、さらなるセキュリティ強化が図れます。特に以下のような手法を採用すると効果的です。

1. オンラインストレージの活用

重要なファイル管理には、クラウドベースのオンラインストレージを利用することが推奨されます。

オンラインストレージは、場所に縛られずにアクセスでき、常に最新のセキュリティ対策が施されているため、ファイルの保管や共有が効率的に行えます。

参考:IDaaSとは?機能や導入するメリット・サービスを選ぶ基準を解説│LISKUL

2. 認証強化:IP制限+ID/PWからの脱却

従来のIP制限やID/パスワードだけの認証では不十分です。多要素認証(MFA)やSAML認証を導入することで、ユーザー認証のセキュリティを大幅に向上させることができます。

これにより、ユーザーが確実に正規の方法で認証され、アクセス権限のあるファイルだけにアクセスできるようになります。

ゼロトラストセキュリティを実現する方法については、以下の資料でより詳しく解説しておりますので、併せてご覧ください。

参考:ゼロトラストの原則と実現ポイント【NISTの原則とは?】


ゼロトラストセキュリティに関するよくある誤解4つ

最後に、ゼロトラストセキュリティに関するよくある誤解を4つ紹介します。

誤解1:ゼロトラストセキュリティは新しい技術である

ゼロトラストセキュリティは特定の技術ではなく、「すべての通信を信用しない」という概念です。あらゆる通信自体を疑って検証することで、安全性の確保に努めようとする考え方を指します。

誤解2:ゼロトラストセキュリティは内部ユーザーを信用していない

ゼロトラストセキュリティの核心は、「すべての通信を信用しない」という考え方に基づいています。これは信用の欠如を意味するのではなく、常に認証と検証を行うことで、内部ユーザーも外部ユーザーも区別なく安全性を確保するという概念です。

誤解3:ゼロトラストセキュリティは非常に高価で複雑である

ゼロトラストセキュリティの実現には初期投資が必要ですが、クラウド型セキュリティやクラウドID管理ツールの活用により、運用の負担を軽減することが可能です。これにより、セキュリティを強化しつつ、効率的な運用を実現できます。

適切な計画と段階的な実装を行うことで、複雑さを管理しつつ効果的に運用できるため、長期的なメリットが期待できます。

誤解4:ゼロトラストセキュリティの概念はすぐに導入・実現できる

ゼロトラストセキュリティの導入は段階的なプロセスが必要で、即座には完了しません。ただし、認証管理やアクセス制御など、部分的な導入から始めることは可能です。段階的に進めることで、効果を高めながら最終的な実装を目指すことができます。


まとめ

本記事では、ゼロトラストセキュリティの基本概念から具体的な実現方法までを一挙に解説しました。

ゼロトラストセキュリティは、全ての通信を信用せず、常に検証することで外部・内部の脅威から保護する新しいセキュリティモデルです。

特にテレワークの増加やサイバー攻撃の高度化に対応するため、多くの企業で導入が進んでいます。

このモデルの基本原則には、最小限のアクセス権限付与や継続的な監視が含まれ、マイクロセグメンテーションによってリソースの適切な管理を実現します。

導入のポイントとしては、まずIDaaSによる認証管理の一元化やファイル管理の見直しが重要です。段階的な導入を進めることで、コストや運用の複雑さを抑えながら、セキュリティ体制を強化し、企業の安全性を高めることが可能です。

「情報セキュリティ10大脅威」から見るゼロトラストセキュリティの必要性-

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