オーバーヘッドとは?意味・計算方法・削減施策まで一挙解説!

KW:オーバーヘッド

オーバーヘッドとは、製品やサービスを直接生み出さないバックオフィス人件費やオフィス賃料、SaaSライセンス料などの「間接費」を指します。

これらの費用を正しく管理すれば、利益率の向上やキャッシュフローの健全化、成長投資への資金再配分といった効果が期待できます。

反面、オーバーヘッドが膨張すると、価格競争力の低下や資金繰りの悪化を招き、組織全体の俊敏性までも損なうリスクがあるため注意が必要です。

本記事では、オーバーヘッドの基礎知識から計算方法、削減の考え方と具体策、管理時の落とし穴までを一挙に解説します。

コスト構造の見直しに課題を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。

目次


オーバーヘッドとは

オーバーヘッドとは、売上を直接生み出す製品やサービスに紐づかないものの、事業を動かすうえで欠かせない間接費用を指します。

代表例は、バックオフィス人件費やオフィス賃料、業務システムのライセンス料などで、製造原価やプロジェクト工数のように成果物へ“直接”割り当てられない点が特徴です。

経営の視点では、この費用を正しく把握しなければ利益率を正確に測れません。たとえば、売上が伸びてもオーバーヘッドが膨張すれば、利益は縮小し、価格競争力や投資余力が低下します。

また、同じ売上高でも業界平均よりオーバーヘッド比率が高い企業は、余計なコストで競合よりハンデを負っている状態にあり、資金繰りの悪化や成長機会の逸失につながりやすくなります。

さらに近年は、クラウドサービスの普及やリモートワークの定着で費用構造が多様化し、オーバーヘッドを可視化しづらくなりました。

効果的なマネジメントのためには、まず「間接費」の範囲を組織内で共通認識にしたうえで、定期的にデータを収集・分析し、コスト構造を継続的に最適化する仕組みが欠かせません。

オーバーヘッドは「利益を圧迫する余分な負担」というネガティブなだけの存在ではありません。適切に管理し、価値を生まない支出を削る一方で、事業成長に不可欠な投資へリソースを割り振るバランスこそが、競争力を左右する鍵となります。


オーバーヘッドが注目される背景にある3つの要因

売上が伸びても利益が思うように残らないなどの経営課題の裏には、拡大し続けるオーバーヘッドが潜んでいます。

原価高騰や事業環境の急変により「間接費を制御できるか」が企業の競争力を左右する局面が増えました。

ここでは、今日オーバーヘッドが注目される背景にある3つの要因を紹介します。

1.利益率低下とキャッシュフロー改善の必然性

インフレや原材料費の上昇で粗利が圧迫される一方、オフィス賃料・管理部門人件費などの固定的なオーバーヘッドは縮小しづらく、利益率は年々低下しています

金融機関や投資家が重視するのは営業キャッシュフローの安定性です。間接費を含む総コストをいかに抑え、資金を事業成長へ再投下できるかが評価指標になっているのです。

結果として、オーバーヘッドの最適化は「資金繰りの改善策」として経営課題の最前線に押し上げられています。

参考:公認会計士が教える、”資金繰りで悩む”とき確認すべき6個のポイント|LISKUL

2.DX・業務自動化の加速でコスト構造が可視化された

クラウド型SaaSやRPAの導入により、部門横断の業務データが集約されやすくなりました。

経理・人事・情シスなど従来は“ブラックボックス”だった間接費の詳細がダッシュボードで一目瞭然となり、「見える化されたコストは削減しやすい」という流れが加速しています。

さらにサブスクリプションモデルの普及で、ライセンス料など月額ベースのオーバーヘッドが増えた結果、定量的なモニタリングと継続的な見直しが経営の常態業務になりつつあります。

参考:DXの推進事例18選から見えた、成功のための4つのポイント|LISKUL
   【2025年最新版】SaaS管理ツールおすすめ15選を比較!選び方も紹介|LISKUL

3.ESG・ガバナンス強化による費用透明性の要求

上場企業を中心に、ESG投資やコーポレートガバナンス・コードへの対応が進み、ステークホルダーは「どこに資金を使い、どのような価値を生んでいるか」の透明性を求めています。

オーバーヘッドの内訳を適切に開示できない企業は、ガバナンス面のリスクとみなされ、資本コストが上昇するケースもあります。そのため、間接費を単なる削減対象ではなく「説明責任を果たすためのマネジメント対象」と捉える動きが広がっています。

参考:ガバナンスとは?ビジネスにおける意義と実践方法|LISKUL
   AIガバナンスとは?企業がいま整えるべき体制と導入方法を解説|LISKUL


オーバーヘッドの主な種類5つ

オーバーヘッドと一口にいっても、発生源や管理方法は多岐にわたります。ここではビジネス現場で押さえておきたい5つの代表的なカテゴリーを紹介します。

種類代表的な費用項目発生頻度・変動性管理のポイント
1.販売管理費(SG&A)広告宣伝費、営業人件費、出張旅費売上連動で変動しやすいROI計測と施策ごとの優先順位づけ
2.一般管理費(バックオフィス)管理部門人件費、オフィス賃料、備品・光熱費固定費割合が高く、縮小しづらい組織設計・働き方改革で固定費を適正化
3.IT・デジタルオーバーヘッドSaaSライセンス料、クラウド利用料、保守契約月額課金が中心で累積しやすいライセンス棚卸しと利用率ダッシュボード化
4.プロジェクト固有オーバーヘッド進捗会議工数、社内調整、人員配置ロスプロジェクト規模に比例して急増WBSに工数計上し、実績差異を定点観測
5.ファイナンス関連オーバーヘッド監査報酬、法定書類作成費、専門家報酬フェーズ依存で突発的に高額化早期見積もりと資金繰り計画で吸収

1.販売管理費(SG&A)

営業活動やマーケティング施策を支える人件費、広告宣伝費、出張旅費などが該当します。これらは売上に間接的に結び付くものの、成果との因果関係を数値で追いづらい点が特徴です。

特に広告支出は変動幅が大きく、費用対効果の検証手順を整備しないと累積コストが雪だるま式に増えがちです。定期的なROI計測と施策ごとの優先順位づけが欠かせません。

2.一般管理費(バックオフィス関連)

管理部門の人件費、オフィス賃料、備品や水道光熱費など、事業継続に不可欠な費用が含まれます。

固定的な支出が多いため、一度膨張すると縮減が難航する傾向があります。リモートワークの定着やシェアードサービス化といった組織設計の見直しは、こうした費用を適正化する有力なアプローチです。

3.IT・デジタルオーバーヘッド

SaaSライセンス料、クラウドインフラ費用、社内システム保守契約など、デジタル化の進展に伴い拡大した領域です。

利用部門が増えるにつれて契約数がばらつきやすく、冗長なライセンスや未利用アカウントが損失を生むケースもあります。ライセンス棚卸しや利用率のダッシュボード化で、データに基づく最適化が求められます。

4.プロジェクト固有のオーバーヘッド

新規事業や大型案件で発生する管理コスト、進捗会議やレポーティング、社内調整に費やす時間的リソースがこれに当たります。

直接工数が読みにくいプロジェクトほど、周辺作業の負担が膨らみやすいのが実情です。WBS(作業分解構成)にオーバーヘッド工数をあらかじめ組み込み、実績差異を定点観測する仕組みが効果を上げます。

参考:WBSの作り方の基本4ステップと作成時に意識すべき4つのポイント|LISKUL

5.ファイナンス関連オーバーヘッド

資金調達や決算対応に伴う専門家報酬、監査費用、法定書類の作成コストなどが該当します。

上場準備やM&Aを進める企業では一時的に跳ね上がることがあり、フェーズに応じた予算取りが必要です。

短期的に発生する費用でも後ろ倒しにするとプロジェクト全体のスケジュール遅延につながるため、早期の見積もりと資金繰り計画がポイントになります。


オーバーヘッドが企業に与える4つの影響

売上が伸びても間接費が膨らめば利益は溶け、成長のための資金も不足します。

この章では、オーバーヘッドが収益性・競争力・組織運営にどのような連鎖反応をもたらすのかを解説します。

1.利益率の圧縮と財務健全性への影響

オーバーヘッドが高止まりすると粗利の増加分が相殺され、営業利益率が下がります。結果として借入依存度が上がり、自己資本比率が低下するリスクが増大します。

財務指標の悪化は与信枠の縮小や調達コストの上昇を招き、資金繰りの余裕を奪います。

2.価格戦略・競争力の制約

市場が価格競争に傾く局面では、低コスト体質の企業ほど値下げ余地があります。しかしオーバーヘッドが厚い企業は採算ラインが高く、値下げに踏み切れません

結果、受注機会を逸しシェアを奪われる可能性が高まります。また高コスト構造は顧客価値向上のための追加投資を圧迫し、差別化施策にも影響を及ぼします。

3.キャッシュフローと投資余力の減少

固定的に出ていく間接費が多いほど、営業キャッシュフローは伸び悩みます。手元資金が薄くなると、研究開発・M&A・設備投資など「攻め」の支出が後回しになり、成長機会を逃す悪循環に陥りやすくなります。

資本市場からの評価も下がり、株価や企業価値にネガティブな影響が及ぶ場合があります。

4.組織の敏捷性と従業員エンゲージメントへの波及

肥大化した管理プロセスや多層的な承認フローは、意思決定スピードを鈍らせます

迅速な市場対応が求められる現代では、遅い判断がイノベーションの阻害要因となり、従業員の士気低下にもつながります。

オーバーヘッドの最適化はコスト削減にとどまらず、組織文化の刷新や働きやすさの向上にも寄与します。


オーバーヘッドの計算方法

オーバーヘッドを管理する第一歩は、数値を「見える化」することです。計算式自体はシンプルですが、分母と分子の取り方を誤ると実態を見誤ります。

本章では基本式とステップ、さらに業種ごとの代表的な算出例、ベンチマーク比較のポイントを解説します。

基本式と算出フロー

オーバーヘッド率は以下の式で求めるのが最もシンプルです。

オーバーヘッド率 = 間接費 ÷ 売上高 × 100%

製造現場では分母を「直接労務費」や「製造原価」に置き換えるケースもあります。計算ステップは次のとおりです。

  1. 部門別損益計算書や試算表から間接費(人件費、賃料、SaaS費用など)を合算
  2. 目的に応じて分母を選択(売上高、直接費、工数など)
  3. 指標を四半期・年度など一定期間で継続的に測定し、推移を可視化

製造業の計算例

製造企業A社の月次データを例にします。

  • 売上高:2,000万円
  • 直接材料費+直接労務費:1,100万円
  • 間接費:600万円

この場合、

* 売上高ベースのオーバーヘッド率=600万円 ÷ 2,000万円 × 100%=30%
* 直接費ベースのオーバーヘッド率=600万円 ÷ 1,100万円 × 100%=54.5%

製造業では「直接費」が季節変動しやすく、売上高ベースより変動幅が大きく出るため、両方を並行管理すると要因分析がしやすくなります。

サービス業の計算例

人件費中心のBtoBサービス企業B社の場合。

  • 売上高:1,500万円
  • プロジェクト直接人件費:900万円
  • 間接費:300万円

売上高ベースのオーバーヘッド率は20%となりますが、サービス業では役員報酬やHR、人事採用コストも多分に含まれるため、採算管理には「プロジェクト原価+共通経費」の視点が欠かせません。

プロジェクト別損益と全社オーバーヘッド率を組み合わせることで、収益性のボトルネックを特定しやすくなります。

ベンチマークと目安の読み方

同業他社の有価証券報告書や業界レポートから平均オーバーヘッド率を入手し、自社数値との差分を確認しましょう。

差分が5ポイント以上の場合は、「固定費構造」「間接部門の生産性」「外注・自動化余地」の三方向から原因を掘り下げるのが効果的です。

またスタートアップや成長フェーズ企業では、短期的にオーバーヘッド率が高くても、売上成長率とのバランスで判断する必要があります。


オーバーヘッド削減の考え方4ステップ

オーバーヘッド削減は「費用を切る」作業ではなく、経営資源を価値創出へ再配分する取り組みです。

まず全体像を可視化し、費用対効果を軸に優先度を決め、仕組みとして継続改善させる流れを外さなければ、短期的なコストカットで終わらず競争力向上へつながります。

ここでは、その流れを4つのステップに分けて説明します。

Step 1 : コストを可視化し、意味づける

オーバーヘッドは部門横断で発生しやすく、誰の予算か曖昧になりがちです。

まず管理会計の科目を「直接費/間接費」に再分類し、SaaSライセンスなどグレーゾーンの支出も含めて洗い出します。

そのうえで、費用ごとに「事業継続に必須」「顧客価値向上に寄与」「単なる習慣で支出」の三つにタグ付けすると、削減すべき対象が浮かび上がります。

Step 2 : インパクトと実行難易度で優先順位を決める

次に、金額インパクトと実行難易度(期間・組織抵抗)をマトリクス化します。

金額が大きく着手も容易な領域は短期施策として即実行し、難易度は高いがインパクトが大きい領域はロードマップを定めて段階的に取り組みます。

この二軸で判断することで、部門間の主観ではなくデータに基づく意思決定が可能になります。

Step 3 : 改善サイクルを仕組み化し、成果を定着させる

一度削減しても、習慣や業務フローが変わらなければコストは元に戻ります。

そこでKPIを「オーバーヘッド率」「部門別コスト削減額」などに設定し、月次または四半期でレビューを行います。

あわせてSaaS利用率ダッシュボードや予算アラートを自動化すれば、担当者依存を防ぎつつ継続的に最適化できます。

Step 4 : 削減と投資のバランスを取る

最後に、削減した資金をどこへ再投資するかを明確にします。例えば余剰キャッシュを研究開発や顧客体験向上へ振り向けると、コスト削減がそのまま成長ドライバーになります。

「コスト=悪」ではなく「未来への資源配分」と捉えることで、削減活動が組織に前向きなムーブメントとして根づきます。


オーバーヘッド削減の具体的施策6つ

オーバーヘッドを削減する鍵は「成果に直結しないコストを減らし、その分を成長投資に振り替える」ことです。本章では、即効性と持続性を両立できる代表的な施策を6つ紹介します。

施策主な対象費用削減インパクト初期コスト実行スピード留意点
1.業務プロセス最適化重複タスク・多重承認中(5〜15%)1〜3か月KPI設定と定期レビューが不可欠
2.デジタルツール・自動化定型事務、人件費高(10〜30%)3〜6か月ROI試算で優先度を決定
3.固定費の見直しオフィス賃料・設備高(10〜25%)3〜6か月ワークスタイル変革との併用が効果的
4.アウトソーシング/シェアード給与計算・情シス運用中(5〜20%)低〜中2〜4か月品質指標を契約に盛り込む
5.サプライヤー・契約管理SaaSライセンス、広告費中(5〜15%)1〜2か月中央台帳で更新日と利用率を一元管理
6.組織文化・インセンティブ全社横断コスト低〜中(効果継続型)継続削減額を再投資する仕組みで定着

業務プロセス最適化

まずは業務フローを業務記述書やSIPOC図で可視化し、重複やムダな承認ステップを排除します。

例えば、経費精算の承認ルートを一本化するだけで、総務・経理の工数が大幅に削減されたケースは珍しくありません。

プロセス改善は一度の見直しで完了しないため、KPIとして「処理時間」「承認回数」を追い、定期的なレビューを組み込みます。

デジタルツール・自動化の活用

RPAやiPaaSを用いた定型業務の自動化は、バックオフィスの人件費削減に直結します。特に請求書発行、データ入力、レポート作成は自動化メリットが大きい領域です。

導入前に「年間工数×平均時給」で定量的な費用対効果を試算し、ROIが高い順に導入優先度を決めると失敗を防げます。

参考:【2025年最新版】RPAおすすめ30選を比較!口コミ・選び方も紹介|LISKUL

固定費の見直し(オフィス・設備)

テレワーク前提でフリーアドレス化を進めれば、オフィス床面積を最小限に抑えられます。

加えて、プリンタやコピー機など使用頻度の低い設備は月額サブスク型に切り替えると、稼働に応じた変動費化が可能です。

光熱費も契約プランの見直しやLED化だけでなく、IoTセンサーで利用状況を把握し、空調を自動制御することで削減効果を高められます。

アウトソーシングとシェアードサービス

給与計算や社会保険手続き、システム運用といった専門性が高い業務は、アウトソーシングで単価を固定化しやすくなります。

複数事業部を抱える企業なら、総務・経理などをシェアードサービス化し、重複コストを排除する手も有効です。

委託先選定では「処理ミス率」「対応リードタイム」など品質指標も契約に盛り込み、単なる価格競争に陥らないよう注意します。

参考:【2025年最新版】給与計算アウトソーシングおすすめ42選を比較!選び方も紹介|LISKUL

サプライヤー・契約管理の強化

クラウドサービスや広告プラットフォームは、契約が部門ごとに散逸するとライセンス重複や未使用アカウントが発生します。

まずは中央管理台帳を作成し、契約金額・利用率・更新日を一元管理。四半期ごとに棚卸しを行い、未使用ライセンスの解約やボリュームディスカウント交渉を実施します。

特にSaaSは年間一括払いへの切り替えで5〜15%程度のコストダウンも期待できます。

組織文化とインセンティブ設計

トップダウンで削減目標を設定するだけでは現場が疲弊し、リバウンドが起こりがちです。

そこで「削減額の○%を部門の設備投資に再配分する」など、チームにメリットが返る仕組みを設けます。

さらに経費精算システムでコストの見える化を行い、メンバー自身が改善アイデアを投稿できるようにすれば、現場発のイノベーションが加速しやすくなります。


オーバーヘッド管理を行う際の注意点4つ

オーバーヘッドを削減するだけでは、企業体質の強化は完結しません。コストの質を見極め、データ精度と組織協調を確保しながら、継続的に改善サイクルへ落とし込むことが要となります。

ここでは管理プロセスでよく生じる落とし穴と、その回避策を4つ紹介します。

1.データの正確性と粒度を担保する

財務会計の科目分類をそのまま使うと、部門横断費用が「雑費」などの大雑把な区分に埋もれ、分析が難航します。

管理会計上のセグメントを細分化し、SaaS料や設備費をプロジェクト単位・部門単位に振り分ける仕組みを整えましょう。

経費精算・購買申請システムで自動タグ付けを設定すれば、手作業による入力ミスを防ぎつつリアルタイムで可視化できます。

2.品質・リスクとのバランスを取る

短期的なコストカットに傾くと、セキュリティや顧客対応の品質低下を招きかねません。

削減施策を検討する際は「品質基準を維持できる最小コスト」を明示し、内部監査や品質保証部門とレビューを行う体制を敷きます。

KPIにはコストだけでなく、顧客満足度やサービスレベル合意(SLA)の達成率も組み込み、両者を並行でトラッキングすることが肝要です。

3.ステークホルダー間の合意形成を図る

間接部門の費用は複数の部署が共同で利用するため、削減インセンティブが分散しやすい課題があります。

経営層がオーナーシップを持ち、部門横断の委員会を設置して予算配分ルールを策定しましょう。

削減効果の一部を成果連動で各部門に還元する仕組みを設けると、当事者意識が高まりやすくなります。

4.短期・中期・長期のロードマップを分ける

ライセンス棚卸しやサプライヤー交渉は早期に効果が出ますが、働き方改革やオフィス縮小は時間を要します。

削減目標を「90日以内」「半年〜1年」「1年以上」の三段階で設定し、それぞれにマイルストーンを置くことで、達成感を維持しながら継続的に取り組めます。

ロードマップは四半期ごとに見直し、外部環境や事業戦略の変化を反映させると失敗リスクを下げられます。

参考:外部環境分析とは?基礎からPESTなどの主要フレームワークまでご紹介|LISKUL


オーバーヘッドに関するよくある誤解4つ

最後に、オーバーヘッドに関するよくある誤解を4つ紹介します。

誤解 1:オーバーヘッドはゼロを目指すべき

結論から言えば、オーバーヘッドの“適正値”は事業モデルや成長フェーズで異なり、ゼロ化は非現実的です。

たとえば研究開発型企業では、バックオフィス支援やIT基盤への投資が競争優位を生むため、一定のオーバーヘッドは「攻めのコスト」として必要不可欠です。

削減目標を立てる際は、粗利率や売上成長率とバランスを取りながら、ROIがマイナスの費用のみを削る判断が適切です。

誤解 2:一度削減すれば再び増えない

実際にはライセンス数の増加や新規プロジェクト立ち上げで、オーバーヘッドは常に再拡大のリスクにさらされています。

削減後こそモニタリング体制を強化し、ダッシュボードによるリアルタイム管理と四半期単位の棚卸しをルーチン化する必要があります。

継続改善の仕組みを埋め込まなければ、刈り取ったコストは時間とともに元へ戻ります。

誤解 3:間接費は売上に影響しないので後回しでよい

バックオフィス人員やITインフラが脆弱だと、商談処理の遅延や顧客対応品質の低下を招き、結果的に売上機会を失う恐れがあります。

つまりオーバーヘッドは“売上に間接的だが確実に響く”費用です。優先順位を下げるのではなく、「売上を伸ばすための下支えコスト」と捉え、効率化と価値創出の両面から最適化を図るべきです。

誤解 4:オーバーヘッドは固定費だけを指す

広告宣伝費やクラウド利用料のように、売上や利用状況に応じて変動する間接費も存在します。

固定費と変動費を区別せずに一括で管理すると、費用分析の精度が落ち、冗長なサブスクリプション契約や過剰な広告支出を見逃す原因になります。

まずは「固定/変動/半固定」の三分類を行い、それぞれに最適な管理指標(ライセンス利用率、CPAなど)を設定することが不可欠です。


まとめ

本記事では、オーバーヘッド(間接費)の基礎から計算方法、削減の考え方と具体策、管理上の注意点までを一挙に解説しました。

オーバーヘッドは売上に直接つながらない費用でありながら、利益率やキャッシュフロー、さらには価格競争力や投資余力にまで影響を及ぼします。

まずは自社の間接費を「販売管理費・一般管理費・IT関連費・プロジェクト固有費・ファイナンス費」のように分類し、売上高や直接費を分母にしたオーバーヘッド率を定点観測しましょう。

次に、可視化したデータをもとに〈インパクト × 実行難易度〉で優先順位を付け、業務プロセス最適化や自動化、固定費の見直し、アウトソーシング、契約管理強化などを段階的に実施することが肝心です。

削減額は必ず再投資先を決めておくことで、単なるコストカットに終わらず企業価値向上へつなげられます。加えて、品質低下や組織の摩擦が起きないよう、データ精度の担保とステークホルダー間の合意形成を欠かさない仕組み化が欠かせません。

オーバーヘッドはゼロを目指すものではなく、ビジネス成長を支えるための適正水準を保つことが目的です。まずは自社の間接費構造を把握し、短期・中期・長期のロードマップを設定して継続改善に取り組んでみてはいかがでしょうか。