
プラットフォームエンジニアリングとは、開発者が効率的かつ安全に開発・運用を行うための共通基盤(プラットフォーム)を設計・構築・提供する取り組みのことです。
複雑化するクラウド環境やマイクロサービス開発において、開発者が本来の業務に集中できるようにする仕組みとして注目を集めています。
これにより、開発スピードの向上や品質の安定化、セキュリティの強化など、企業全体の開発効率を高める効果が期待できます。
一方で、導入には初期構築コストや専門人材の確保、運用設計の難しさといった課題も存在するため、段階的な導入と継続的な改善が重要です。
そこで本記事では、プラットフォームエンジニアリングの基本的な考え方から、注目される背景、導入の目的、具体例、構成要素、DevOpsやSREとの違い、導入プロセス、役立つツールまでをわかりやすく解説します。
開発組織の生産性や開発者体験(DevEx)の向上を目指す方は、ぜひ参考にしてください。
目次
プラットフォームエンジニアリングとは
プラットフォームエンジニアリングとは、開発者が効率的かつ安全にアプリケーションを開発・運用できるように、共通の基盤(プラットフォーム)を設計・構築・提供する取り組みのことです。
企業の内部に「開発者のための開発環境」を整備し、ソフトウェア開発全体のスピードと品質を高めることを目的としています。
近年、クラウドやマイクロサービスの普及により、開発環境が複雑化し、開発者が本来の業務に集中できなくなるケースが増えています。
プラットフォームエンジニアリングはこうした課題を解決するために生まれた考え方で、標準化されたツール群や自動化されたワークフローを提供することで、開発者の負担を減らし、開発者体験(Developer Experience:DevEx)を改善します。
具体的には、社内のプラットフォームチーム(Platform Team)が中心となり、インフラの構築やCI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)、セキュリティ設定、権限管理などを自動化・統一し、開発チームが自律的にシステムをリリースできる環境を整備します。
つまり、プラットフォームエンジニアリングは「開発チームがより速く・安全に開発できるように裏側で支える仕組みづくり」といえます。
また、プラットフォームエンジニアリングは、組織文化や開発プロセス全体を支える存在でもあります。
開発者にとっては、複雑なインフラ設定を意識せずに開発へ集中できる環境が整うことで、開発スピードの向上やミスの減少、チーム間連携の円滑化といった効果が期待できます。
プラットフォームエンジニアリングが注目される背景にある3つの要因
プラットフォームエンジニアリングが注目されている背景には、開発環境の複雑化と開発者の負担増加があります。
クラウドやマイクロサービスの導入により、開発スピードは向上した一方で、開発環境の管理・運用が煩雑になり、開発者体験(Developer Experience:DevEx)の低下が課題となっています。
この課題を解消するために、プラットフォームエンジニアリングが新たなアプローチとして注目されているのです。
1.クラウドネイティブ化による開発環境の複雑化
企業のシステムは従来のオンプレミス環境からクラウドネイティブへと移行しています。
これによりスケーラビリティや柔軟性は高まったものの、KubernetesやIaC(Infrastructure as Code)など多様なツールが乱立し、開発者が扱う技術の範囲が急速に広がりました。
結果として、環境構築や設定に時間がかかり、本来の開発業務に集中しづらくなっています。
主な課題として、以下のような点が挙げられます。
- 各プロジェクトで環境構築手順が異なり、属人化しやすい
- 新しい技術を導入するたびに学習コストが増大する
- 運用・セキュリティ要件が複雑化し、管理負担が増す
2.DevOps定着後に生まれた「運用の分断」問題
DevOpsの考え方が広まり、開発と運用の垣根は下がりましたが、すべてのチームが同じレベルで自動化や運用スキルを持つことは難しいのが実情です。
結果的に、ツールや環境構築に関する知見を持つ一部のエンジニアに負担が集中するケースが増えています。
このような状況で、共通基盤を整え、運用を標準化・自動化する役割を担うのがプラットフォームエンジニアリングです。
チーム横断で利用できる仕組みを提供することで、開発チームが運用負担から解放され、DevOps文化をより持続的に運用できるようになります。
- 開発チームが自律的にデプロイできる環境を整備
- 標準化によりチーム間の環境差を削減
- 運用担当者の負担を軽減し、ボトルネックを解消
3.開発者体験(DevEx)を重視する企業文化の広がり
近年、開発者が快適に働ける環境を整える「Developer Experience(DevEx)」の改善が重視されています。
開発者の離職防止や採用競争力の向上にも直結するため、経営戦略の一部として取り組む企業も増えています。
DevEx向上におけるプラットフォームエンジニアリングの効果は大きく、たとえば以下のような成果が期待できます。
- 環境構築・デプロイ作業の自動化による生産性向上
- 統一された開発環境によりチーム間の連携がスムーズに
- 「動くまでの手間」が減ることで開発者満足度(Job Satisfaction)が向上
このように、クラウド環境の進化やDevOps文化の定着といった技術的背景に加え、人材面・経営面の課題を同時に解決する手段として、プラットフォームエンジニアリングが注目を集めています。
プラットフォームエンジニアリングの目的4つ
プラットフォームエンジニアリングの最大の目的は、開発者が自律的に、安全かつ効率的にソフトウェアを開発・運用できる環境を整備することです。
組織全体で標準化されたプラットフォームを構築し、開発スピードや品質を高めると同時に、運用負荷を軽減します。
単なる技術基盤の整備にとどまらず、開発組織の生産性向上やセキュリティ・ガバナンス強化といった経営的な目的も含まれます。
目的1:開発スピードの向上とリリース頻度の最適化
プラットフォームエンジニアリングを導入することで、開発者はインフラ構築や設定作業に時間を取られず、アプリケーション開発に専念できます。
その結果、リリースサイクルが短縮され、ビジネスのスピードにも直結します。
- CI/CDパイプラインの自動化によるリリース時間の短縮
- 環境構築の標準化による初期セットアップ時間の削減
- 手動作業の排除によるヒューマンエラーの減少
目的2:運用負荷の軽減と標準化の推進
多様なプロジェクトで独自の構成を持つと、運用チームは複数の環境を管理しなければならず、トラブルシューティングや監視が複雑になります。
プラットフォームエンジニアリングでは、共通のルールやツールを整備することで、この負荷を軽減します。
- インフラ構成やデプロイフローの統一によるメンテナンス効率の向上
- セキュリティポリシーをプラットフォーム側で一元管理
- ツールやライブラリのバージョン管理を自動化し、更新作業を効率化
目的3:開発者体験(DevEx)の向上
プラットフォームエンジニアリングは、開発者がストレスなく開発を行える環境を整備することにも重点を置いています。
これは単なる「働きやすさ」ではなく、結果として開発の質とスピードを向上させる重要な要素です。
- 自己サービス型の開発環境(Self-service Platform)の提供
- ドキュメントやツールが統一された分かりやすい開発環境
- 不具合や設定ミスの減少による心理的負担の軽減
目的4:セキュリティ・ガバナンスの強化
システムが複雑になるほど、権限管理やセキュリティ設定のばらつきが生じやすくなります。
プラットフォームエンジニアリングでは、ポリシーをコード化(Policy as Code)し、セキュリティやコンプライアンスを一貫して管理できます。
- アクセス権限やネットワーク設定を統一してリスクを低減
- 監査対応やログ収集をプラットフォームレベルで自動化
- 個々のチームに依存しないセキュリティ基準の維持
参考:ガバナンスとは?ビジネスにおける意義と実践方法|LISKUL
ゼロトラストセキュリティとは?基本からゼロトラストを実現する方法まで一挙解説!|LISKUL
このように、プラットフォームエンジニアリングの目的は「開発スピードの向上」「運用効率化」「DevExの改善」「セキュリティの強化」という4つの柱に整理できます。
これらは企業がデジタルトランスフォーメーションを推進する上でも欠かせない要素であり、技術基盤の整備を通じてビジネスの競争力を高める取り組みともいえます。
プラットフォームエンジニアリングの具体例3つ
プラットフォームエンジニアリングは、単なる理論ではなく、すでに多くの企業で実践されています。
ここでは、具体的な導入事例や構築パターンを通じて、どのように組織や開発チームの課題を解決しているのかを紹介します。
代表的な事例としては、SpotifyやNetflixといった海外企業をはじめ、国内でもメルカリやサイボウズなどが実践しています。
事例1:Spotifyの「Backstage」による開発者体験の統一
プラットフォームエンジニアリングの代表的な成功例として知られるのが、Spotifyの「Backstage」です。
Spotifyは、マイクロサービス化の進展により開発環境が複雑化し、各チームが異なるツールや設定を利用していたため、開発者体験が分断されていました。
この課題を解決するために、開発者が共通のインターフェースからツール・ドキュメント・API・テンプレートなどにアクセスできる「Internal Developer Platform(IDP)」としてBackstageを構築しました。
- プロジェクトの新規作成やデプロイをワンクリックで実行可能
- 利用するツールやAPIが一元化され、学習コストを削減
- 開発者同士が共通基盤上で連携しやすくなり、組織全体の生産性が向上
Backstageはその後オープンソース化され、他社でも導入が進んでいます。
現在ではプラットフォームエンジニアリングを支える代表的なツールのひとつです。
事例2:Netflixの自動化されたクラウド運用基盤
Netflixは膨大なトラフィックと多様なサービスを支えるために、早くから自動化された運用基盤を構築してきました。
彼らのプラットフォームチームは、開発者が本来の業務に集中できるよう、インフラの冗長構成やスケーリング、デプロイ、障害復旧までを自動化しています。
この仕組みは、いわば「開発者が気づかないほど滑らかに動くプラットフォーム」として機能しています。
- Chaos Monkeyなどの自動障害テストツールで信頼性を確保
- スケーラブルなAWS基盤を活用し、運用コストとリスクを最適化
- エンジニアがインフラを意識せずに新機能を迅速にリリース可能
Netflixのアプローチは、プラットフォームエンジニアリングの「自動化と抽象化」の価値を示す好例です。
事例3:国内企業におけるプラットフォームエンジニアリングの活用
日本企業でも、DevOps文化の浸透とともにプラットフォームエンジニアリングへの関心が高まっています。
特に、複数の開発チームを抱える中規模以上の企業では、共通基盤の整備が生産性向上の鍵となっています。
- メルカリ: KubernetesとArgo CDを活用し、CI/CD環境を標準化
- サイボウズ: 内部開発者向けのポータルを整備し、リリースの自動化を推進
- LINE: 各サービス共通のモニタリング・デプロイ基盤を構築し、信頼性を担保
これらの企業では、単にツールを導入するだけでなく、「開発者が使いやすい環境設計」を重視しています。
つまり、技術的な自動化だけでなく、開発者の心理的・体験的な側面も含めて最適化している点が特徴です。
成功事例に共通する3つのポイント
成功している企業のプラットフォームエンジニアリングには共通点があります。
それは「自動化」「標準化」「開発者体験の改善」の3つです。
- すべてのチームが同じ基盤・プロセスで開発できる仕組みを整備している
- インフラやCI/CDの自動化により、開発者が手作業から解放されている
- 開発者の視点から使いやすさを設計し、継続的に改善している
これらの共通要素こそ、プラットフォームエンジニアリングがもたらす本質的な価値です。
単なる技術構築ではなく、「開発者がより良い体験を通じて価値を生み出すための仕組みづくり」であることが、多くの企業の事例から読み取れます。
プラットフォームエンジニアリングを構成する6つの要素
プラットフォームエンジニアリングは、単一の技術やツールを指すものではなく、複数の仕組みやプロセスの組み合わせで構成されています。
目的は「開発者が自律的に開発できる環境を提供すること」であり、そのためには自動化・標準化・セキュリティ・可観測性といった複数の要素が欠かせません。
ここでは、プラットフォームエンジニアリングを支える代表的な構成要素を紹介します。
1.インフラ自動化(Infrastructure as Code:IaC)
インフラ自動化は、プラットフォームエンジニアリングの基盤となる要素です。
サーバーやネットワーク、ストレージなどの構成をコードで定義することで、環境構築を自動化し、人為的なミスを減らします。
環境の再現性が高まり、開発チーム間で同一の環境を迅速に構築できるようになります。
- TerraformやPulumiなどのIaCツールを活用
- 環境ごとの構成差異を最小化し、属人化を防止
- 変更履歴をバージョン管理でき、ガバナンス強化にも貢献
参考:IaCとは?インフラ運用を効率化する仕組みと導入メリットをわかりやすく解説|LISKUL
2.CI/CDパイプライン
継続的インテグレーション(CI)と継続的デリバリー(CD)は、開発効率を最大化する仕組みです。
プラットフォームチームが標準化されたCI/CDパイプラインを提供することで、すべての開発チームが同じフローでビルド・テスト・デプロイを実施できるようになります。
- Jenkins、GitHub Actions、Argo CDなどを利用した自動デプロイ
- コードの変更を即座に検証し、品質を維持
- 手動リリース作業を削減し、開発スピードを向上
3.セキュリティ統制(Policy as Code)
プラットフォームエンジニアリングでは、セキュリティ設定やアクセス制御をコードで定義し、自動的に適用する「Policy as Code」の考え方が重要です。
これにより、すべての環境で統一されたセキュリティ基準を維持できます。
- アクセス権限や認証ポリシーを自動適用し、人的ミスを防止
- コンプライアンス監査に対応しやすくなる
- セキュリティ設定をGitなどで管理し、変更履歴を可視化
4.開発者ポータル(Internal Developer Platform:IDP)
IDPは、開発者が必要なツールや情報に一元的にアクセスできるポータルです。
プロジェクトの作成、デプロイ、モニタリングなどをセルフサービスで行えるため、開発スピードとDevEx(Developer Experience)を大きく向上させます。
- Backstageなどのオープンソースツールを活用
- API、テンプレート、ドキュメントなどを集約
- 開発チームが自律的に行動できる環境を提供
5.可観測性(Observability)とモニタリング
プラットフォームを安定して運用するためには、システムの状態を常に把握する仕組みが不可欠です。
メトリクス・ログ・トレースなどを可視化し、異常を早期に検知できるようにすることで、サービス品質を維持します。
- PrometheusやGrafanaによるメトリクス監視
- 分散トレーシング(Jaegerなど)で問題箇所を特定
- アラート通知や自動修復の仕組みを導入
6.開発者支援のための自動化・テンプレート化
プラットフォームエンジニアリングでは、単なる環境整備だけでなく、開発者がスムーズにプロジェクトを立ち上げられるようにテンプレートや自動化スクリプトを整備します。
これにより、開発者は手動作業を減らし、より高いレベルの課題解決に集中できます。
- 共通のアプリケーションテンプレートを提供し、セットアップ時間を短縮
- 自動テストやセキュリティチェックを標準装備
- プラットフォームチームが継続的に改善し、開発者体験を進化させる
これらの構成要素が統合的に機能することで、プラットフォームエンジニアリングは初めて効果を発揮します。
つまり、特定のツール導入ではなく、「開発者が安心して開発できる仕組み」を設計・運用することこそが、その本質といえます。
DevOpsやSREとの違い
プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsやSREと目的を共有しつつも、そのアプローチや担当範囲が異なります。
いずれも「開発と運用の効率化」を目指していますが、プラットフォームエンジニアリングはそれらを“支えるための仕組み”を提供する役割を担います。
ここでは、DevOps・SREとの違いを整理しながら、3つの関係性を理解していきましょう。
DevOpsとの違い
DevOpsは、「開発(Development)」と「運用(Operations)」を密接に連携させる文化や考え方を指します。
その目的は、組織の壁を越えて協力し、ソフトウェアを迅速かつ安定的に提供することです。
一方、プラットフォームエンジニアリングは、そのDevOpsを実現しやすくするための「共通基盤」を整える活動です。
- DevOps: 組織文化やプロセス改善に焦点を当てる
- プラットフォームエンジニアリング: DevOpsを支える技術的な基盤を設計・構築する
- DevOpsの「どう実現するか」を具体化する存在がプラットフォームエンジニアリング
つまり、DevOpsが“理想的な働き方の文化”だとすれば、プラットフォームエンジニアリングはそれを“現実化するための技術的支柱”といえます。
SRE(Site Reliability Engineering)との違い
SREは、Googleが提唱した運用哲学で、サービスの信頼性(Reliability)を高めることを目的としています。
開発者のような手法で運用課題を解決する点が特徴であり、監視やアラート、SLO(Service Level Objective)などを通じてシステムの安定稼働を実現します。
プラットフォームエンジニアリングは、SREが運用を効率化できるような環境やツールを提供する役割を果たします。
- SRE: 信頼性と可用性を維持・改善するための運用チームのアプローチ
- プラットフォームエンジニアリング: SREが扱うツール群や自動化基盤を整備・運用
- プラットフォームチームが提供する共通基盤上でSREがサービスを運用する構図
SREが「運用品質の担保」にフォーカスするのに対し、プラットフォームエンジニアリングは「そのための環境整備と開発者体験の最適化」に重きを置いています。
3者の違いを整理した比較表
3つの概念の関係を一目で理解できるよう、以下の比較表にまとめました。
| 項目 | DevOps | SRE | プラットフォームエンジニアリング |
|---|---|---|---|
| 目的 | 開発と運用の連携によるリリース効率化 | システムの信頼性・安定性の確保 | 開発者が自律的に開発できる基盤の整備 |
| 主な活動領域 | 文化・プロセス・チーム運営 | 監視・自動化・インシデント対応 | 開発基盤設計・自動化・標準化 |
| 成果物 | 開発と運用が連携したプロセス | 高信頼な運用システムとSLO指標 | 内製プラットフォーム(IDP)や自動化パイプライン |
| 関係性 | 文化的基盤を提供 | 安定運用を担保 | 両者を支える技術的基盤を提供 |
プラットフォームエンジニアリングは「DevOpsとSREを支える基盤」
プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsやSREの考え方を現場で継続的に実践できるように支える存在です。
DevOpsが文化・協働、SREが信頼性・運用改善に軸足を置くのに対し、プラットフォームエンジニアリングはそれらを可能にする環境を構築します。
- DevOpsを“推進する仕組み”としての役割
- SREを“支える基盤”としての役割
- 組織全体の開発生産性を長期的に向上させる中核的な活動
プラットフォームエンジニアリングのメリット4つ
プラットフォームエンジニアリングを導入することで、企業全体の開発効率と品質が大きく向上します。
単なるツール整備ではなく、開発・運用・経営の各レイヤーに波及効果をもたらす点が大きな特徴です。
ここでは、主なメリットを4つの視点から具体的に解説します。
1.組織全体の開発効率とスピードの向上
プラットフォームエンジニアリングを導入すると、開発者が共通の仕組み上で作業できるようになり、環境構築やリリース準備にかかる時間を大幅に削減できます。
これにより、各チームが個別にツールを管理する必要がなくなり、開発プロセスの標準化と生産性の向上が実現します。
- 環境構築やデプロイ作業を自動化し、開発サイクルを短縮
- 共通プラットフォームの利用で、重複作業やツール乱立を防止
- リリースまでのリードタイムを短縮し、市場対応力を強化
2.開発者体験(Developer Experience:DevEx)の改善
プラットフォームエンジニアリングの中心的な目的は、開発者体験(DevEx)の向上です。
複雑なインフラ管理や設定作業を意識せずに開発へ集中できる環境を整えることで、開発者の満足度と生産性がともに高まります。
また、社内のナレッジ共有が促進され、チーム間の連携も円滑になります。
- 自己サービス型の開発環境で、開発者が自律的に作業可能
- 手動設定や調整作業が減り、ストレスのない開発者体験を実現
- 学習コストを抑えつつ、新メンバーのオンボーディングもスムーズ
3.品質・信頼性・セキュリティの向上
統一されたプラットフォーム上で開発・運用を行うことで、品質とセキュリティの両面でリスクを大幅に低減できます。
特に、セキュリティポリシーや権限管理をコード化(Policy as Code)することで、属人化を防ぎながら高い一貫性を維持できます。
- テストや監視、セキュリティチェックの自動化により品質を担保
- 脆弱性や設定ミスを早期に検知し、リスクを最小化
- 開発チーム全体で同一のセキュリティ基準を共有し、ガバナンスを強化
4.経営・組織面でのメリット
プラットフォームエンジニアリングは、単にエンジニアリングの効率化にとどまらず、経営面でも大きな効果をもたらします。
生産性の高い開発環境は人材定着や採用にも寄与し、IT部門の戦略的価値を高めます。
- 開発者満足度の向上により離職率を低下
- 共通基盤によるコスト削減とリソース最適化
- 経営戦略とIT戦略の整合性を高め、全社的なDevEx推進を後押し
このように、プラットフォームエンジニアリングの導入は、開発者だけでなく、運用チームや経営層にも恩恵をもたらします。
開発スピードと品質を両立しながら、全社的な生産性を高める「持続可能な開発基盤」として機能する点が、他の取り組みとの大きな違いです。
プラットフォームエンジニアリングのデメリットや課題5つ
プラットフォームエンジニアリングは多くのメリットをもたらしますが、導入・運用には一定のコストとリスクも伴います。
特に、初期段階では組織体制やスキル不足、文化的な課題によって思うように成果が出ないケースもあります。
ここでは、代表的なデメリットや課題を5つ紹介します。
1.初期構築コストと専門スキルのハードル
プラットフォームエンジニアリングを始めるには、インフラ自動化やCI/CD、セキュリティ基盤の整備など、多岐にわたる技術を統合的に設計する必要があります。
このため、導入初期には時間的・人的・金銭的なコストが発生します。
- プラットフォーム構築に必要な専門人材(IaC・CI/CD・SREなど)の確保が難しい
- 既存環境や文化を考慮した設計が求められ、初期設計段階の負荷が大きい
- ツール導入や自動化の仕組みづくりにコストがかかる
特に中小規模の企業では、プラットフォームチームの立ち上げ自体がハードルとなる場合もあります。
2.「作って終わり」になりやすい運用フェーズの課題
プラットフォームエンジニアリングは構築した瞬間に完成するものではなく、継続的な改善が求められます。
しかし、初期構築がゴールと誤解され、運用・改善フェーズが停滞するケースも少なくありません。
- プラットフォーム改善に対する評価制度や予算が整っていない
- 開発チームの要望が多様化し、運用チームが追いつかない
- 利用状況の可視化やフィードバックループが不十分
運用段階では、単なる“保守”ではなく、“プロダクトとしてのプラットフォーム”を意識した継続的改善が重要です。
3.組織内コミュニケーションと文化的課題
プラットフォームエンジニアリングの成功には、技術力だけでなく「文化の浸透」も不可欠です。
各開発チームが自律的に利用するためには、プラットフォームの目的や意義が全員に理解されている必要があります。
- プラットフォームチームと開発チームの間で役割分担が曖昧になる
- チーム間の信頼関係や合意形成が不十分だと、導入が進まない
- 「押し付けの基盤」と認識されると、現場の利用率が低下
この課題を防ぐためには、初期段階から「ユーザー(開発者)視点での設計」と「コミュニケーション設計」をセットで行うことが効果的です。
4.過度な標準化による柔軟性の低下
プラットフォームエンジニアリングでは、開発環境を統一・標準化することが目的のひとつですが、過度な標準化は逆にチームの柔軟性やイノベーションを阻害するリスクもあります。
- 特定ツールや技術に依存しすぎると、新技術への適応が遅れる
- 個別プロジェクトの要件に合わせたカスタマイズが難しくなる
- 一律なルール設定が、開発者の自由度を奪う可能性
標準化と柔軟性のバランスを保つためには、「共通部分」と「プロジェクト固有部分」を明確に分離する設計が重要です。
5.成果が見えるまでに時間がかかる
プラットフォームエンジニアリングの効果は、短期的に数値で表れにくいという特徴があります。
導入初期はコスト先行になりやすく、経営層からROI(投資対効果)を問われることも少なくありません。
- 初期フェーズでは「負担増」と感じられるケースもある
- 効果測定指標(KPI)を設けないと、成果が可視化されにくい
- 利用定着に時間がかかり、期待とのギャップが生まれる
導入初期には「小さく始めて段階的に拡大する」方針を取り、短期的な成果と長期的なROIの両方を意識することが成功の鍵です。
プラットフォームエンジニアリングを導入する流れ5ステップ
プラットフォームエンジニアリングを導入するには、明確な目的設定と段階的な実行が欠かせません。
「とりあえずツールを導入する」だけでは効果が限定的になってしまうため、組織課題を踏まえた計画的アプローチが必要です。
ここでは、一般的な導入プロセスを5つのステップに分けて解説します。
1.現状分析と課題の明確化
まず最初に行うべきは、現在の開発・運用体制の課題を把握することです。
「どのプロセスに無駄や属人化があるのか」「どのツールが重複しているのか」といった現状分析を行い、プラットフォームエンジニアリングで解決すべき問題を具体化します。
- 開発フロー・デプロイ手順・インフラ構成を可視化
- 開発者・運用担当者から現場の課題をヒアリング
- 生産性・コスト・品質などの観点でボトルネックを特定
この段階で「理想の開発者体験(Developer Experience)」を定義しておくと、後の設計フェーズがスムーズになります。
2.プラットフォームの目的とスコープを設定
課題が整理できたら、次に「プラットフォームで何を実現したいのか」を明確にします。
ここを曖昧にすると、目的が拡散し、結果的に誰のための仕組みなのかが不明確になりやすいため注意が必要です。
- 短期的なゴール(例:CI/CDの自動化)と長期的なゴール(例:全社共通開発基盤)を区別
- 対象チーム・プロジェクト・サービス範囲を明確化
- 経営層・開発チーム双方が納得できる目標指標(KPI)を設定
このフェーズでは、「なぜプラットフォームを作るのか」を全員で共有することが重要です。
3.プラットフォームチームの組成と設計
プラットフォームエンジニアリングを成功させるためには、専門チームの設置が不可欠です。
プラットフォームチームは、開発者のニーズを理解しながら、標準化と自動化を推進する中核的な存在となります。
- インフラ、SRE、DevOpsエンジニアなどからチームを構成
- 開発者代表(Developer Advocate)を参加させ、現場との接点を確保
- 技術選定・アーキテクチャ設計・運用方針を明確化
この段階では「技術選定」よりも「開発者がどう使うか」という体験設計(UX設計)を重視すると、後の定着率が高まります。
4.MVP(最小実行可能プラットフォーム)の構築と検証
最初から完璧なプラットフォームを目指すのではなく、まずは小規模で実践できるMVP(Minimum Viable Platform)を構築します。
特定のチームやプロジェクトを対象に試験導入し、効果を検証しながら改善を重ねていくアプローチが有効です。
- 限定チームで運用し、フィードバックを収集
- 自動化やテンプレート化の仕組みを段階的に導入
- 利用データや開発者の意見を基に改善サイクルを構築
このフェーズでは、「利用者(開発者)の反応」を定量・定性の両面で記録し、改善点を明確化することがポイントです。
参考:リーンスタートアップの重要要素「MVP」とは?メリットと開発を成功させる3つのポイント|LISKUL
5.全社展開と継続的な改善
MVPで成果が確認できたら、スコープを広げて全社的なプラットフォームへと拡張します。
同時に、継続的な改善体制(Platform as a Productの考え方)を取り入れ、ユーザー満足度を維持し続けることが重要です。
- 各チームの利用状況を可視化し、ボトルネックを分析
- 機能追加・UI改善・セキュリティ強化を継続的に実施
- プラットフォームチームを長期的な組織資産として運営
プラットフォームは「一度作って終わり」ではなく、利用者のニーズに合わせて成長し続ける“プロダクト”として捉えることが成功の鍵です。
プラットフォームエンジニアリングに役立つツール例
プラットフォームエンジニアリングを実践するには、複数のツールを組み合わせて環境を構築する必要があります。
目的に応じた最適なツールを選定することで、構築・運用コストを抑えつつ、開発者体験(DevEx)を高めることが可能です。
ここでは、主要なカテゴリごとに代表的なツールを紹介します。
1.開発者ポータル(Internal Developer Platform:IDP)関連ツール
開発者ポータルは、開発者が必要な情報・ツール・テンプレートにワンストップでアクセスできる環境を提供します。
特に、チームが増えるほど開発プロセスの統一が難しくなるため、IDPの導入はプラットフォームエンジニアリングの中心的要素となります。
- Backstage(Spotify):オープンソースの開発者ポータル。プラグインによる拡張性が高く、各社の内製基盤に広く採用。
- Port:クラウド上でIDPを構築できるサービス。UIが直感的で中小規模チームにも導入しやすい。
- Humanitec:アプリケーションデプロイや環境管理を統合的に行う商用IDP。エンタープライズ向けの機能が充実。
2.インフラ自動化(Infrastructure as Code:IaC)ツール
インフラの構築・管理をコードで定義し、自動化するためのツールです。
環境の再現性や変更履歴の可視化が可能になり、開発スピードと安定性を両立できます。
- Terraform:クラウド環境をコードで管理できる代表的なIaCツール。マルチクラウド対応が強み。
- Pulumi:JavaScriptやPythonなど、一般的なプログラミング言語でIaCを記述可能。開発者フレンドリーな設計。
- Ansible:サーバー構成管理やアプリケーションデプロイを自動化。シンプルな記法で学習コストが低い。
3.CI/CD(継続的インテグレーション/デリバリー)ツール
CI/CDは、開発プロセスを自動化し、テストやデプロイをスムーズに行うための仕組みです。
プラットフォームエンジニアリングでは、これらのツールを基盤として、統一的なデリバリーフローを設計します。
- GitHub Actions:GitHub上でワークフローを自動化できるツール。開発環境と統合しやすい。
- Jenkins:歴史の長いCI/CDツール。プラグインが豊富で、大規模プロジェクトに対応。
- Argo CD:Kubernetes向けのCDツール。GitOpsの考え方を採用し、デプロイの一貫性を確保。
4.コンテナ管理・オーケストレーションツール
マイクロサービス化が進む中で、コンテナの管理や運用を自動化するツールは欠かせません。
これらのツールを活用することで、スケーラブルで可搬性の高いプラットフォームを構築できます。
- Kubernetes:コンテナのデプロイ・スケーリング・運用を自動化するオーケストレーション基盤。
- Docker:アプリケーションをコンテナ化し、開発環境間で一貫した動作を実現。
- Helm:Kubernetesのパッケージ管理ツール。アプリケーションのデプロイをテンプレート化できる。
参考:Dockerとは?非エンジニアでもわかる仕組み・メリット・導入ポイントをやさしく解説|LISKUL
5.可観測性(Observability)とモニタリングツール
プラットフォームの安定運用に欠かせないのが、システムの可観測性を高める仕組みです。
ログ・メトリクス・トレースを一元的に収集・可視化し、問題発生時の迅速な対応を支援します。
- Prometheus:メトリクス収集とアラート管理に特化したオープンソースツール。
- Grafana:Prometheusなどと連携し、リアルタイムでメトリクスを可視化。
- Datadog:SaaS型の統合モニタリングサービス。ログ、APM、セキュリティまで包括的に管理可能。
6.セキュリティ・ガバナンス関連ツール
プラットフォームエンジニアリングでは、セキュリティポリシーをコード化して一元的に管理することが求められます。
自動チェックや脆弱性スキャンの仕組みを導入することで、運用負荷を抑えつつ安全性を維持します。
- OPA(Open Policy Agent):Policy as Codeを実現するツール。アクセス制御やコンプライアンス管理に活用。
- HashiCorp Vault:APIキーや認証情報を安全に管理するためのシークレットマネージャー。
- Trivy:コンテナイメージやIaCの脆弱性を自動スキャンするオープンソースツール。
プラットフォームエンジニアリングで最も重要なのは、「ツールを導入すること」ではなく、「課題を解決するためにツールをどう組み合わせるか」です。
導入時は、スモールスタートで試行しながら最適な構成を見つけていきましょう。
プラットフォームエンジニアリングに関するよくある誤解5つ
最後に、プラットフォームエンジニアリングに関するよくある誤解を5つ紹介します。
誤解1:プラットフォームエンジニアリング=ツール導入や自動化のこと
多くの企業が最初に陥りやすい誤解は、「プラットフォームエンジニアリング=新しいツールの導入」だという認識です。
確かにツールは重要な要素ですが、本質は“開発者が自律的に開発・運用できる環境を整えること”にあります。
そのため、ツールを導入しても運用プロセスや組織文化が変わらなければ、十分な成果は得られません。
- 目的は「ツールの導入」ではなく「開発者体験(DevEx)の改善」
- ツールは手段であり、組織の課題解決に沿って選定すべき
- 技術だけでなく、チーム設計・運用設計もセットで考える必要がある
誤解2:プラットフォームチームはインフラチームと同じ役割
インフラ整備を担当するチームと混同されることもありますが、プラットフォームチームはより上位の抽象レイヤーを扱います。
従来のインフラチームが「安定稼働」を主目的とするのに対し、プラットフォームチームは「開発者の生産性向上」を目的に、インフラ・ツール・プロセスを統合します。
- インフラチーム:サーバー・ネットワークなどの安定運用が目的
- プラットフォームチーム:開発者の業務を支援する仕組みづくりが目的
- 両者は連携してこそ価値を最大化できる関係にある
誤解3:プラットフォームエンジニアリングは大企業向けの取り組み
「人員や予算が多い企業でなければ実施できない」と思われがちですが、実際には中小規模の組織でも十分に実現可能です。
むしろ、リソースが限られた企業ほど、標準化・自動化による効率化の恩恵を受けやすいともいえます。
- 小規模でも「MVP(最小実行可能プラットフォーム)」から始められる
- クラウドサービスやマネージドツールを活用すれば初期コストを抑えられる
- 段階的な導入で成果を可視化し、社内の理解を得やすくすることが重要
誤解4:一度構築すれば長期的に安定して使える
プラットフォームは「構築して終わり」ではなく、常に進化させ続けることが前提です。
技術やチーム体制の変化に合わせて改善を重ねることで、初めて持続的な価値を提供できます。
この継続的改善(Continuous Improvement)を怠ると、プラットフォームが逆に開発の足かせになることもあります。
- プラットフォームも“プロダクト”として改善を続ける必要がある
- 利用者(開発者)の声を定期的に反映し、使いやすさを維持
- ツールや構成の陳腐化を防ぐためのアップデート体制を整備
誤解5:プラットフォームエンジニアリングは技術者だけの取り組み
もう一つのよくある誤解は、プラットフォームエンジニアリングを「技術者だけの課題」と捉えてしまうことです。
実際には、経営層やプロダクトマネージャー、人事・組織開発など、全社的な理解と協力が欠かせません。
開発者体験(DevEx)の改善は、企業全体の競争力や人材定着にも直結します。
- プラットフォーム導入には経営・組織戦略との連動が不可欠
- 「生産性」「満足度」「採用力」などのKPI設定が有効
- 全社的なDevEx推進の一環として取り組むことが成功の鍵
まとめ
本記事では、プラットフォームエンジニアリングの基礎から、注目される背景、目的、具体例、構成要素、DevOpsやSREとの違い、導入の流れや活用できるツールまでを幅広く解説しました。
プラットフォームエンジニアリングとは、開発者が効率的かつ安全に開発・運用できるように、社内共通の開発基盤(プラットフォーム)を設計・構築・運用する取り組みのことです。
近年、クラウドネイティブ化やマイクロサービス化が進む中で、開発環境の複雑化や属人化を防ぎ、開発者体験(Developer Experience:DevEx)を向上させる手段として注目を集めています。
この取り組みにより、企業は開発スピードの向上や運用負荷の軽減、品質とセキュリティの強化など、開発組織全体の生産性向上を実現できます。
一方で、初期構築コストや専門スキルの確保、組織文化との整合など、導入時にはいくつかの課題も存在します。
そのため、まずは小さく始めて改善を重ねながら、開発者と協働してプラットフォームを「育てていく」姿勢が重要です。
導入を進める際には、TerraformやBackstage、Argo CD、Grafanaなどのツールを活用し、自社の開発体制に合った形で自動化・標準化を進めていくとよいでしょう。
ツール選定の目的は「最新技術の導入」ではなく、「開発者がより価値ある業務に集中できる環境をつくること」です。
プラットフォームエンジニアリングは、単なる技術トレンドではなく、組織の開発文化を進化させる戦略的な取り組みです。
自社の課題を見極め、段階的に導入することで、持続的に成長できる強い開発体制を築くことができます。
開発生産性や開発者体験の改善に課題を感じている方は、プラットフォームエンジニアリングの導入を検討してみてはいかがでしょうか。