PoCとは、「Proof of Concept」の略語です。「概念実証」や「コンセプト実証」と訳され、新技術のアイデアが実際に実現可能かどうかを実証することを意味します。
最近では、IoTやAI、RPAなどの導入を検討する際に、試験的な導入・運用を行って、本当に効果があるのか検証する為に使われるなど、実効性の検証に欠かせない手法となっています。
この記事では、そんなPoC開発について、初心者向けに分かりやすく解説するとともに、PoCで成功するためのポイントや実際の事例をご紹介しています。
PoCとは実現可能性を実証すること
PoCは新技術の実効性を検証するために行う手法のことで、近年ではIoTやAIなどの導入前にPoCを行うことが増えてきています。
PoCを行う目的は、提案したアイデアが本当に実現可能かを明確にすることです。
実際に証明することが出来れば、新技術に期待を持った企業・投資家から投資を受け取ることや、自社が投資をするかどうか決断することにつながります。そこで確保した予算や、資金をもとに、プロジェクトを走らせ、本格的な導入に向けて開発を行っていきます。
参考:「PoC」とは何か|その本質とメリット、ITプロジェクトにおける意義
概念を目に見える形で示す「PoC」の重要性
PoCで開発を行う3つのメリット
PoCを行うメリットは以下の3点です。
1.無駄なコスト・工数を削減できる
2.費用対効果が検証できる
3.意思決定がスムーズになる
それぞれのメリットについて理解すると、いざ開発を行う際に、PoCの強みを十分に活かすことができるでしょう。以下で、具体的に説明します。
参考:成長産業で話題のPoCとは一体?話題のPoCの意味と3つの効果を解説
メリット1:無駄なコスト・工数を削減できる
PoCを行う最大のメリットは、実現可能性を検証することで、コストや時間の無駄を削減できる点にあります。
例えば、「寝るだけで、ハリが強い部分を検知し、自動で効果的なマッサージをしてくれるマットレス」というアイデアがあったとしましょう。実現すれば便利ですし、価値の高い製品になりますが、自社が持つ技術などでは実現できない可能性も十分に考えられます。
事前に実現可能かを早い段階で判断することで、無駄を省くことができます。
メリット2:事前に費用対効果が推測できる
PoCでは、新技術の試作品を作ることで、実際にそれを使った人からの生の意見を聞くことができます。それにより、どれくらいの費用対効果があるのか予測できるメリットもあります。
予測した売上から、開発にどれくらいの予算を割けるのか、どれくらいの利益が出そうかなどの情報が得られます。その情報を元に、「この新技術は、利益が期待できないから取り下げよう」などの判断が行え、赤字を防ぐことができます。
ある程度の根拠をもって、開発を行うべきかどうか判断できる点で、メリットは大きいです。
メリット3:意思決定がスムーズになる
PoCを行うことで実現可否や費用対効果が可視化できるようになるので、さまざまな意思決定がスムーズになります。
例えば「この新技術案は、莫大なコストがかかるのではないか」という不安があり、導入に対し消極的だったとします。この時に、PoCを行い、試作品に期待を持った企業から、十分な支援が得られる確信が持てたとしましょう。すると、「本格的にプロジェクトを走らせ、開発しよう」という流れに変わるのではないでしょうか。
PoCを行うことで、開発を行う上での不安要素を消し、今後の動きを素早く判断できるようになります。
PoCで開発を成功させるための3ポイント
PoCで開発を成功させるためのポイントは以下の3つです。
1.ユーザー目線のメリットを追及する
2.システム導入による効果を明確にする
3.どうやってビジネスと結び付けるか明確にする
上記のことを意識せずにPoC開発を行うと、有効性や将来性を全く伝えられずに終わる可能性が高まります。今回、紹介するポイントは、そのような事態の解決に役立ちますので必見です。
ユーザー目線のメリットを追及する
PoCで開発する場合に限りませんが、「ユーザーメリットを追及する」ことは、商品開発や、システム開発にとって、最重要と言っても過言ではありません。ユーザーが望んでいないものを作っても、利益に繋がらないからです。
例えば、ユーザーが電子書籍で本を何冊も持ち歩かなくて良いようにしたいのに、ゲームのカセットのように、一冊ずつカセットを変える必要がある電子書籍を作っても、あまり売れません。軽量化はできるかもしれませんが、1つのモノで完結できるに越したことはないでしょう。
このように、ユーザーが望んでいることとズレたものを作ろうとしていないか検証する必要があります。
システム導入による効果を明確にする
新技術を導入することでどんな効果があるのか明確になっていなければ、企業からの投資はを得ることが難しくなります。新しい技術を導入して、どんな利益が見込めるのか伝わらないからです。
新技術導入によるメリットを正確に伝えるためには、具体的な数字やデータを示すと効果的です。例えば、「このシステムを導入することで、〇〇%の経費削減、年間〇億円の利益が望めます」という形で発表すると良いでしょう。
どうやってビジネスと結び付けるか明確にする
PoCの目的は、ただ実証実験をするだけではありません。新しい技術を導入することで、何かしらのビジネスに結び付けなければ、本格的な導入には至らないでしょう。
PoCをやるだけやって、実際の導入に移行しない状況を「PoC疲れ」などとよく言われます。「PoC疲れ」を引き起こさないためには、世の中の課題に目を向け、その課題の打開策と新技術を結び付ける必要があるでしょう。
参考:AI導入の「事例疲れ」「PoC疲れ」を打破する“イシュードリブン”のアプローチ
PoCで開発を進める実践3ステップ
PoCの開発は以下の流れで行われることが多いです。
step1:目的を明確にする
step2:実装・検証する
step3:導入すべきか判断する
上記のステップが全てではありませんが、PoCでの開発がスムーズになりますので参考にしてください。
参考:「PoC」の進め方──メンバー選定、環境構築、データ収集と活用、評価まで (1/4)
「PoC」とは何か|その本質とメリット、ITプロジェクトにおける意義
RPA導入のプロセスであるPoCとは何か?
RPA の有効性検証に関する共同実験報告書
step1:目的を明確にする
PoCを進める際は、PoCで検証する目的を明確にすることが大切です。どのような効果を得たいのかを細かく設定することが検証結果に繋がり、PoCの成否に関ってきますので、慎重に検討しましょう。
例えば、「従業員の事務作業を削減するために、RPAの試験導入及び効果検証を行う」ことにします。
この場合、RPAの導入を行う対象業務の選定が必要です。今回は、出張費の金額チェックを自動化することにします。次に、作業時間をどのくらい削減できるか決定しましょう。その際は、必ず具体的な数値を設定することが重要です。
このケースでは、「従業員による出張費の金額チェックの自動化により、30%作業時間が削減できるか検証したい」と目的を定めます。従って、PoCを実施する際は、「金額チェックの自動化が技術的に実現できるか」「作業時間の30%削減が可能か」を検証していくことになります。
step2:実装・検証する
目的が明確になったら、実際に実装していきましょう。机上ではできる見込みでも、実際に作ってみたら予期せぬ問題が発生する場合もありますので、実際にシステムを構築して検証していくことは重要です。
「出張費の金額チェックの自動化」の例では、RPAによる金額チェックを行うことはできても、出張申請を記入する人によって癖があり、正確なチェックができないという問題が発生するかもしれません。その場合、記入する人によってバラつきがでないように入力フォームを修正することで、問題を改善していくことになります。
また同時に、利用者に実際に使ってもらうことで、フィードバックをもらうことも大切です。本格的に開発を行う際に、ターゲットの生の声を取り入れることで、システムの性能が上がります。
step3:導入すべきか判断する
最後に、実際に導入すべきか判断していきましょう。
RPAの事例では、「金額チェックの自動化で30%以上の業務量の削減」が実証できたなら、本格的にRPAを導入することになるでしょう。もし、問題点は判明し、業務量の削減が20%しか実現できなかったとしても、改善の見込みがあるなら、何度もPoCをやり直すことも可能です。また問題が改善されそうにないなら、導入は見送る判断になるでしょう。
結果的に、導入すると結論がでたら、本格的な導入に向けて、要件定義を行い、プロジェクトを走らせることになります。
PoCの注意点はコストをかけ過ぎないこと
PoCは、不完全な状態でもスピーディに有効性や実現可能性を実証できる点が長所なので、必要以上のクオリティを求めて工数やコストをかけすぎないよう注意しましょう。
本番開発を行う前から100%の質にこだわって、ターゲットとなる人からの支持が一切得られなかったら、0から企画の練り直しです。かなりの時間とお金を無駄にしてしまう結果になるでしょう。こういった事態を避けるために、試作段階で完成度は求め過ぎない方が良いでしょう。
PoC検証をして開発の成果を上げた事例2選
こちらでは、PoCを使った開発で成果を上げた事例をピックアップします。
PoCの成功例と言えますので、今後PoCで検証開発をしようと思っている方は参考にしてください。
IoTを活用したイノシシ捕獲対策
福島県国見町では、イノシシなど野生動物による農作物被害が深刻な問題でした。そこで、さまざまな被害対策を実施していましたが、狩猟者の高齢化による有害鳥獣捕獲の担い手不足等が課題となっていました。
これらの課題に対して、狩猟者がリアルタイム映像を見ながら、イノシシを遠隔捕獲できるIoT自動捕獲システムのPoCを実施しました。このPoCは半年間に渡って行われましたが、開始後約2か月で、実際の遠隔捕獲に成功しました。
IoT自動捕獲システムの担当者は、自動捕獲システムを設置すれば今以上にイノシシを捕獲できると予想していたそうです。ところが、イノシシは賢く、警戒心も強いので、簡単には捕獲できないことが判明します。そこでIoT監視カメラからの映像などからワナ周辺へのイノシシ出没状況を詳しく把握するなどの取り組みを行い、2頭の遠隔捕獲に成功しました。
この事例では、予めPoCを行うことで、イノシシが本当に捕獲できることを実証し、その有効性や将来性を伝えることができました。また、当初の計画通りに捕獲できなかったことで改善点が判明したほか、イノシシの行動がリアルに観察でき、更なる対策に向けたノウハウの蓄積が大きく進んだそうです。まさにPoCの実施による成果といえるでしょう。
参考:国見町とKDDI、イノシシ被害低減を目的としたIoT自動捕獲の実証実験を開始
福島県国見町 IoTを活用したイノシシ捕獲対策
横浜市における「RPAに関する共同実験」
横浜市とNTT、NTTデータ、クニエは、「RPAの有効性検証に関する共同実験」を実施しています。市職員の「働き方改革」に向け、定型作業の自動化を実現する仕組みとして、月報作成やデータの収集・入力などの作業にRPAを試験的に導入する共同実験です。
約 9 か月間に渡り、実験が行われた結果、平均84.9%、最大99.1%の作業時間削減効果を得ました。加えて、作業の正確性の維持も確認できました。しかし一方で、作業手順が変更された場合の対応など、導入における課題も確認できたことから、今後もRPAの本格導入に向けた追加検証を行うことになりました。
この事例では、PoCの実施でRPA導入による効率化、正確化等の効果が実証できました。そして、実際の利用者である市職員から生の声が得られ、更なる課題が判明したことは、本格的にRPAを導入する際に役立つ大きな成果となりました。
参考:横浜市における「RPAに関する共同実験」
RPA の有効性検証に関する共同実験報告書
まとめ
PoCとは、新たなサービスや技術開発の「実現の可能性」「実効性」などの検証を指します。実際にPoCで開発を行うことで費用対効果を明確に割り出したり、システム導入の可否判断がスムーズになるなどのメリットがあります。
PoCはコストや時間がかかりやすいので、注意が必要です。実証前の試作品の開発には時間やコストをかけすぎないようマネジメントしていくようにしましょう。