ARPA(アーパ)とは、アカウント単位の平均売上を示す指標です。
ユーザー単位ではなく、アカウント単位で評価する指標なので、BtoBの企業の収益性を測る際によく用いられます。
また、ARPAは売上からアカウント数を割るだけで導き出せるシンプルな指標にもかかわらず、LTV(顧客生涯価値)などの他の重要な指標を導き出す際にも利用できる便利なツールでもあります。
しかし、ARPUやARPPUといった似た用語が多く存在し、自分がどの指標を用いてビジネスの成長性を評価していくべきかお悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで本記事では、ARPAの基礎や計算方法、ARPUなどの類似指標との違いをご解説します。
最後に、ARPAの数値を最大化するための方法も紹介していますので、ご自身がどの指標で事業をウォッチすべきか、またどのように改善するかの参考にしてみてください。
目次
ARPAとはアカウント単位の平均売上を示す指標のこと
ARPA(アーパ)とは、Average Revenue per Account の略で、「アカウント単位の平均売上」を示す指標です。各アカウントからどの程度の収益を得ているかを把握するために用います。
特に、ユーザー単位ではなく企業単位での取引が発生するBtoBの事業や、SaaSなどのサブスクリプションモデルの収益性を測るために活用されることが多い指標です。
ARPAの重要性が高まった背景
ビジネス環境における変化と市場の動向がARPAの重要性を高めています。
近年では継続的な顧客関係に基づくビジネスモデルの台頭、顧客ごとの収益性に対する注目の増加、データに基づいた戦略立案の必要性が増しています。
その中でARPAは企業が顧客アカウントごとの価値を評価し、効果的な意思決定を行うための鍵となっています。
1.BtoB市場の拡大
BtoB市場の拡大に伴い、企業が複数のアカウントを持つことが一般的になっています。これにより、ARPAが特に有効な指標として際立っています。
ARPAは企業単位での顧客価値を把握し、戦略的な顧客管理や収益最適化を目指す上で役立つ指標です。
2.サブスクリプションモデルの普及
サブスクリプションモデルの普及は、定期的な収益が重要とされる現代ビジネスにおいて、ARPAの重要性を一層強調しています。
サブスクリプションモデルでは、個々のアカウントが生み出す収益の把握が不可欠であり、ARPAはサブスクリプションビジネスの収益性を評価する上で欠かせない指標です。
3.個別化サービス需要の高まり
現代の消費者は、より個別化され、カスタマイズされたサービスを求めています。日本の市場でもこの傾向は顕著で、各顧客アカウントごとのニーズを理解し、それに応じたサービスを提供することが求められています。
ARPAは、顧客ごとの価値を正確に把握し、カスタマイズされたサービスを効率的に提供するための基盤を提供します。
4.データドリブン経営の加速
データに基づいた意思決定の重要性が高まる中で、ARPAは客観的かつ量的なデータを提供します。日本の企業が効率的なビジネス戦略を立案し実行するために、データを活用する際にARPAは重要なツールとなります。この指標を利用することで、市場分析や戦略計画の精度が向上し、より効果的な経営判断が可能になります。
ARPAと類似した指標の違い
次にARPAに類似した指標の紹介と、その違いを説明します。違いを踏まえて状況にあっているものを選びましょう。
ARPAとよく似ている指標に、「ARPU」と「ARPPU」という指標があります。
各指標の違いは以下のとおりです。
指標 | 対象 | 向いている企業や事業のタイプ |
---|---|---|
ARPA | アカウント | B2B、SaaSなど |
ARPU | ユーザー | B2C、サブスクなど |
ARPPU | 有料プランのユーザー | フリーミアムプランを提供している企業や事業 |
ARPUとARPPUについて知りたい方は以下の章をご覧ください。
ARPUとはユーザーあたりの平均収益のこと
ARPUとは、Average Revenue Per User の略で、1人のユーザーから得られる平均収益を示す指標です。
ユーザー単位の指標であるARPUは、BtoCの企業でよく利用されています。
ARPPUとは、有料ユーザーの平均収益のこと
ARPPUとは、Average Revenue per Paid User の略で、フリーミアムプランを提供しているビジネスの、有料プランを利用しているユーザーから得られる平均の収益を示す指標です。
併せて覚えておきたい指標「MRR」
次に、サブスクリプションモデルやクラウドサービスの分析でよく用いられる指標MMRをご紹介します。
併せて覚えておきましょう。
MRR(月次経常収益)は、Monthly Recurring Revenue の略で、サブスクリプションや定期購入のビジネスモデルの毎月の定期収益の合計を示す指標です。
ARPAを活用する3つのメリット
ARPAを活用し、アカウント単位の平均売上という目安を設けることで、売上を構成するアカウントのバランスや変動を確認しやすくなり、次の一手を検討する材料を得ることができるなどのメリットがあります。
それでは各メリットについて詳しく見ていきましょう。
メリット① 売上の構成を把握できる
アカウント単位の平均売上を知ることで、どのアカウントの売上が平均と比べてどれほど多いのか、少ないのかを簡単に把握することができます。
また平均以上のアカウントと以下のアカウントの割合を調べることで、売上構成を知ることができます。
よく2割の優良顧客が売上の8割をあげていると言われていますが(パレートの2:8の法則)、実際にあなたのビジネスでどの程度の優良顧客が何割の売り上げを上げているかを確認することができるというわけです。
メリット② 売上への影響が大きい要因を特定しやすくなる
ARPAは平均なので、ARPAから気づけるレベルの変動があった場合、それだけ大きな変化がいずれかのアカウントでは起きているということです。
平均が大きく上がった、下がった際には、該当するアカウントを探し、原因を追究することで売上への影響が大きい要因を特定していきましょう。
メリット③ 戦略策定の参考になる
ARPAによって売上への影響度が高いアカウントを分析することで、今後の戦略策定の参考とすることができます。
たとえば、特定のアカウントに売り上げが大きく偏っているケースでは以下のような戦略を検討することができます。
- 顧客のニーズに提供価値がマッチしている可能性が高いので取引を大きくすることを試みる
- 取引が好調の顧客を維持するためにカスタマーサポートを強化する
- 偏りはリスクなので、平均を下回るアカウントの取引内容の課題解決を試みてリスクを分散する
- 好調なアカウントの条件を分析し、類似した新規顧客の獲得を狙う
ARPAの計算方法
ARPAの計算式は以下のとおりです。
・売上:特定期間内の売上を指します
・アカウント数:同期間に取引のあったアカウント数
たとえば、あるBtoBのSaaS事業の年間売上が1億円で、アカウント数が100社だった場合、ARPAは以下のように計算できます。
ARPA計算のポイント:ユーザー数は計算に含めない
BtoBのサービスといっても、1アカウントに複数のユーザーが紐づき、ユーザー単位で課金を行っているケースもあると思います。
しかしあくまでもARPAはアカウント単位での指標であり、ARPAの計算にはユーザー数は用いずに計算しましょう。
ユーザー単位での収益を把握したい場合には後述の(ARPU)を活用しましょう。
類似用語(ARPU・ARPPU・MRR)の計算式
ここでは類似用語として混同されがちなARPU・ARPPU・MRRの計算式をまとめています。
ARPUの計算方法
ARPUの計算方法は以下のとおりです。
基本的にはARPAと同じですが、分母がアカウント数ではなくユーザー数である点が異なります。
ARPPUとは、有料ユーザーの平均収益のこと
ARPPUとは、Average Revenue per Paid User の略で、フリーミアムプランを提供しているビジネスの、有料プランを利用しているユーザーから得られる平均の収益を示す指標です。
ARPPUの計算方法
ARPPUの計算方法は以下のとおりです。
こちらは、対象を有料のユーザーに限定している点が他の指標とは異なります。
MRRの計算方法
MRRの計算方法は以下のとおりです。
ARPAから求められる2つの指標
ARPAは、アカウント単位で収益を分析する際に有効な指標ですが、他の重要な指標を計算する際にも利用することができます。
特に以下の2つの指標は、利用されることが多いので併せて覚えておきましょう。
LTV(顧客生涯価値)
LTVとは、Life Time Value の略で顧客生涯価値とも呼ばれており、ひとりの顧客が契約期間中にもたらす収益の総額を指す言葉です。
この計算にARPAを利用することができ、ひとつのアカウントが契約期間中にもたらす収益の総額を計算することができます。
参考:LTV(顧客生涯価値)とは?計算方法と広告活用での成功事例│LISKUL
ARPAを用いたLTVの計算方法
ARPAを活用したLTVの計算方法は2通りあります。以下にご紹介します。
LTV = ARPA × アカウントの平均契約期間
LTV = ARPA ÷ Churn Rate
※Churn Rate(解約率)は、「 期間内に解約したアカウント数 ÷ 期初のアカウント数)×100」で算出することができます。
①の計算式は、一定期間顧客による継続利用が予測されるサービスに適しています。(年間契約・固定期間のサブスクリプションなど)
②の計算式は一定期間内で顧客が頻繁に入れ替わる、流動性の高いビジネスモデルで利用します。(月額性サブスクリプション、フリーミアムなど)
CAC Payback Period
CAC Payback Periodとは、顧客獲得コスト(CAC)を回収するために必要な期間のことです。
回収期間はビジネスが健全な状態で成長しているかを判断するための重要な指標であり、回収にかかる期間が短いほどローリスクと言えます。
ARPAを用いたCAC Payback Periodの算出方法
CAC Payback Period の計算式は以下のとおりです。
※CAC(顧客獲得コスト)は、「新規顧客獲得するためにかかった費用 ÷ 新規顧客の獲得数」で計算することができます。
ちなみに、CACを回収する期間を短くして健全なビジネスを運営するためには、ARPAを高める以外にCACを下げることも効果的です。
CACを下げるには、ニーズが顕在化したユーザーにフォーカスして集客します。すでにサービスの導入に興味を持っているため、商談化や受注に繋がりやすいためです。
ARPAを改善する6つの方法
最後に、ARPAを改善するための6つの方法をご紹介します。
① 顧客満足度を向上する
顧客満足度を高めることで、アップセル、リピート購入、口コミでの紹介などを期待することができ、売上が増加する可能性が上がります。
普段から顧客の満足度を確認出来ていないという方は、直接ヒアリングしたり、アンケートやNPSを実施することで顧客の声に耳を傾け、それを元に商品やサービスに改良を加えましょう。
② リピート購入を増やす
リピートを増やしたり、購入頻度を高めたりすることもARPAを改善する効果的な手段です。
具体的には、メールマーケティングやDMを配信したり、プロモーションやイベントを開催したりして顧客との接触を増やし、商品やサービスの魅力を伝えていきましょう。
③ アップセルやクロスセルを行う
既存の顧客に対して、ひとつ上のプランを提案したり、関連商品やサービスを提案することも有効な手段です。
既存顧客は、見込顧客よりも容易にコミュニケーションをとれますし、あなたの商品やサービスに魅力を感じて利用しているので、新しい提案に耳を傾けてくれる可能性が高いです。
既存顧客ごとや、特定の状況ごとにグルーピングを行い、カスタマイズした商品やサービス、プランなどを提案することも有効です。
参考:アップセル・クロスセルとは?顧客単価や満足度を高めるポイントを解説│LISKUL
クロスセルとは?アップセルとの違いや実践ステップを事例を交えて解説│LISKUL
④ 商品やサービスの価格を上げる
もし既存顧客の満足度が高く、現在の価値を維持できない外的要因などがある場合には、そもそも商品やサービスの価格を上げるという選択肢も考えられます。
価格は満足度への影響度合いも大きい要素なのでむやみやたらに変更するものではありませんが、現在の満足度が高い状態で、競合他社との比較を行った結果、適正価格が今より上であると考えられる場合などには、思い切って価格を変更するのも一手です。
⑤ 有料プランへの移行を促す
もしあなたの事業が1アカウントに複数のユーザーが紐づいており、フリーミアムモデルも採用している場合には、無料プランのユーザーを有料プランへと移行させることができれば、アカウントの収益は向上します。
メールなどで定期的に有料プランの魅力をアピールしたり、キャンペーン情報を発信するなどして有料プランへの移行を促しましょう。
⑥CAC(顧客獲得単価)を削減する
ARPAの改善にはCAC(顧客獲得単価)の削減が直接影響します。
CACを削減することで、同じ予算内でより多くの顧客を獲得できるため、ARPAが増加しやすくなります。
CACの最適化は、顧客獲得の成果を最大化し、ビジネスの収益性を向上させる鍵となります。
参考:顧客獲得単価(CAC)とは?計算方法からCACを抑える方法まで解説│LISKUL
まとめ
この記事では、アカウント単位の平均売上を示す指標であるARPA(アーパ)について、その基本的な知識から計算方法、そしてARPUやMRRといった類似の指標との違い、さらにはARPAを改善するための具体的な方法までご紹介いたしました。
ARPAはBtoB企業の収益性を評価するための有効なツールであり、そのシンプルな計算式を活用することで、他の重要なビジネス指標も導き出すことができます。
また、ARPAを改善することで、ビジネスの健全性や成長性をさらに向上させることも可能です。
ARPAを活用し、より良い結果を生み出しましょう。
この記事を通じて、あなたが自社のビジネスの成長性を評価する際の指標を選べるようになり、成長戦略を立てる手助けができれば幸いです。