「製品の品質を維持したいが作業者によってどうしても差ができる」といった悩みを持つ製造業の方が多いのではないでしょうか。
そのような課題を解決するため、作成されるのが作業手順書です。
しかし、「どのようなポイントをおさえて作成すればいいかわからない」、「せっかく作成しても現場で活用されるか不安」といった悩みで導入までに踏み込めないといったケースもあります。
そこで本記事では、誰もが品質維持された製品を製造するために、活用できる作業手順書の作成ポイントと運用方法を徹底解説します。
本記事を読むことで、知識があまりない方でも効率的に作業手順書を作成できるようになります。
目次
製造業で使われる作業手順書とは
製造業で使われる作業手順書とは、下記フォーマットのように作業手順を説明するための書類のことを指します。
作業のノウハウを共有するためには、1つ1つの作業工程を丁寧に記載する必要があります。
例として、マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」で作成した作業手順書をご覧ください。
とくに製造業は正確且つ効率的で、安全に作業をすることが求められるため、それらを守るためにも作業手順書を用意しましょう。
製造業向け作業手順書を作成する上で意識すべきポイント
製造業で活用される手順書を作成する際には、特に以下の点を意識しましょう。
- ISO遵守のため管理・更新体制を整えておく
- 過去の不具合履歴や危険度合いを記載する
- 作業だけではなく作業機器の扱い方も説明する
- 誰でも理解ができるよう作業内容を細かく記載する
製造業の製造工程において重視すべきは「一定の品質」を保つことです。
そのためにも、上記のポイントを意識して手順書を作成しましょう。
ISO遵守のため管理・更新体制を整えておく
ISO認証を継続していくためには、品質に関わる作業手順書の管理・更新体制を整えておかなければなりません。
ISOは一度取得したら終わりではなく、更新のたびに基準を満たしていることが求められるからです。
理想的な管理・更新の体制とは、「作業手順書は情報に変更があった際にすぐに変更ができること」、「過去の情報にすぐに遡れる状態にあること」です。
また、実際に手順書を更新する際には、変更した内容の承認がスムーズに行えるようになっていると、現場も承認者も手間や負担が少なくなるので更新が楽になります。
このような体制を作ることで、持続可能な管理・更新体制ができるでしょう。
参考:Mipox株式会社様|「Teachme Biz」 導入事例
過去の不具合履歴や危険度合いを記載する
過去に実際に発生した不具合は、その危険度合いと併せて必ず記載しましょう。
記載することで、発生するかもしれないトラブルを回避できるからです。
品質を維持するためには、最良の方法で作業を継続することが求められます。
そのためには不具合や予期せぬことが発生しないようにするか、万が一発生してもすぐに復旧できるようにしておくことが重要です。
作業だけではなく作業機器の扱い方も説明する
専用道具の使い方や計測値など値がある場合は、明確な基準を記載しておきましょう。
特定の作業においては専用の機器・工具・治具など道具を使用することもあるため、知識が無い人からするとどのように扱えばいいかわかりにくく感じます。
作業者が正しい使い方を理解すれば、品質のばらつきをおさえられるため、作業過程と合わせて機器の説明も加えるようにしましょう。
誰でも理解ができるよう作業内容を細かく記載する
品質に差がでないよう、作業手順書を作成する際に作業内容をできるだけ細かく記載するようにしましょう。
作業手順書はよく「マニュアル」と混同されがちですが、目的や記載する項目が違います。
参考:マニュアルの作り方でおさえておきたい5つのポイント|作成ツール厳選5選
作業手順書 | マニュアル | |
---|---|---|
特徴 | 細かな作業内容が理解できる | 業務の全体像の把握ができる |
目的 | ・品質の平準化 ・技術の継承 | ・教育コストの削減 ・属人化の防止 |
必要項目 | ・作業名 ・必要な準備物 ・作業の基準と手順 ・注意事項 | ・前提情報 ・全体フロー ・基準 |
手順書は特定の業務・作業の具体的な方法を伝えるのに対し、マニュアルは業務全体の流れやルールを伝えるために使用します。
手順書の場合、誤認してしまうと品質に直接的な影響が大きいため、作業者が間違いなく理解できるよう詳細に説明をしなくてはいけません。
そのため、テキストだけでなく写真・図解・動画など、最も作業内容が伝わりやすい手段を活用して作成するのが良いでしょう。
参考:マニュアルと手順書の違いとは?作成のポイントから運用方法を解説 | TeachmeBiz
製造業の作業手順書の作成手順
マニュアルではなくあくまで作業手順書であることを意識し、下記の流れで作成をしましょう。
上記フローの中でも特に重要なのが1と2です。まず作業の解像度をしっかり高めなくては、細部まで具体的に説明した手順書が作成できないからです。
1.作業の洗い出しと分解
最初に行う作業の洗い出しと分解とは、大きな「まとまり作業」をより細かく分解し「構成作業」や「単位作業」に分解することです。
▼分類の例
まとまり作業 | 構成作業 | 単位作業 |
---|---|---|
蓋付き小物入れの製造作業 | 1.組立作業 | 1-1.蓋の組み立て |
1-2.箱の組み立て | ||
1-3.蓋と箱の結合 | ||
2.塗装作業 | 2-1.基本色の塗装 | |
2-2.装飾部分の塗装 | ||
2-3.乾燥 |
上記の例のように、何かの製造作業は分解するといくつもの単位作業で成り立っていることがわかります。まずは単位作業の洗い出しから始めましょう。
次に単位作業をさらに分解し、「単位作業を行うための手順」を作成します。例えば上記例の「1-1.蓋の組み立て」であれば、「使用工具の準備」「必要部材の収集」「どこにビス止めをするか」などです。
単位作業の分解をする際は、実際に作業を実施している現場担当者に作成してもらうか、ヒアリングを行って作成しましょう。ここで重要なのは仮説や想像ではなく「実際の作業」通りに作成することです。
参考:4-2 作業手順書の作り方 | 一般財団法人中小建設業特別教育協会
2.内容の精査
洗い出しと分解が終わったら、そのまま作業手順書に項目として反映せず、より理解しやすくするために内容を精査しましょう。
精査するというのは具体的に以下のことです。
- 複雑な作業項目があれば、理解できるよう必要な項目を追加
- 項目を実際に作業を行う順番に並び替える
- 重要な作業、危険な作業など、とくに注目してほしい部分を強調する
作業手順書は作成しながら補足していくのではなく、作成する前にしっかりと設計を行うことで、やり直しを防いだり、抜け漏れを防いだりできます。
3.作成
1,2の手順で整えた情報をもとに作業手順書を作成しましょう。
実際に作成する際のポイントは、使用者にとって分かりやすいかどうかです。
そのためにも、以下のポイントをおさえておきましょう。
作業の全体像がわかるようにする
作業の全体像を明確にすることで、目の前の作業が何のためにしているのかが理解しやすくなります。
製造作業では複数名で工程を分け、作業することが多いため各工程の連携が重要です。
自分の工程が次の工程にどのような影響があるのか理解できると、作業の精度も高まるでしょう。
参考:新人教育マニュアルの内容と作成・運用ポイント3つを徹底解説
説明文は冗長な表現は避けて端的にする
作業手順書に感想や個々の考え方は必要ありません。
不要な文言は省き、できるだけ一文一文コンパクトにまとめましょう。
また、誤解されるような曖昧な表現も避けるべきです。
たとえば以下のような表現は、読み手側によって解釈の仕方が変わってきてしまいます。
【誤解される文例】
・ダウンロードしたデータからエラーを取り出し保存する
引用:トラブルを生む作業手順書の問題点 | 日経xTECH
こちらは複数の意味に解釈できる「多義文」になっています。
例文の場合「エラーデータを保存する」のと「エラーデータを取り出したデータを保存する」という、2つの解釈ができてしまいます。
このような意図と違った解釈をされないよう、以下の例文のように記載すると間違いないでしょう。
例文のポイントとしては、まず何をするのかを端的に記載していることです。
エラーデータがどの程度発生するかによって書き方は変わりますが、例えば稀(10回中1回くらい)な頻度で発生する症状なら、上記のように補足的な記載で十分です。
図・写真・動画なども活用する
特に細かい作業や複雑な作業、言語化することが難しい作業は、イラストや写真を活用しましょう。
場合によっては実際に作業している様子を動画におさめるのも効果的です。
その場合、紙の手順書だと動画を記載することはできないため、どこで動画が確認できるかを記載しましょう。
参考:わかりやすい動画マニュアルの作り方と参考になる事例、注意点を解説
セルフチェックのポイントを明記する
作業を終えた後に、どのような点をセルフチェックすればいいか明記しておくことでミスや抜け漏れを防ぐことができます。
ビスの閉め忘れ、グリスや潤滑油の差し忘れなどを防ぎ、作業の精度を高められるでしょう。
製造業向けの手順書で意識すべきポイントでも述べたように、製造業ならではのポイントも意識して作成することが大切です。
また、後ほど「製造業の作業手順書に記載すべき内容」も記載するので、チェックリスト代わりにご活用ください。
4.フィードバック
一通り作業手順書が作成できたら、他の人に確認してもらいフィードバックを受けて手直しをしましょう。
実際に作業している現場スタッフには必ず確認してもらいましょう。
作業内容が間違いなく伝わるかをチェックしてもらうためです。
また場合によっては、試験的に仮運用してみるのも良いでしょう。
実際に使ってみることで、もっと改善点が見つかることもあります。
製造業の作業手順書に記載すべき内容
実際に作業手順書を作る際には、以下の内容をチェックし、抜け漏れのない手順書を作成しましょう。
記載すべき項目は以下の通りです。
- 作業に必要な基本事項
- 作業手順
- 不具合履歴や危険度合い
- 予想されるトラブルと回避する方法
- 作業後の片付けや整え方
作業に必要な基本事項
作業に必要な基本事項とは、以下のようなことが当てはまります。
- 作業名
- 必要な機器・機材
- 作業人数
- 作成日と更新日
- 作成者
基本的には、手順書を作成していれば自然と出てくるものばかりですが、手順書の更新日は意識しておかないと忘れがちなので注意しておきましょう。
作成日と更新日が書かれていないと、情報が最新のものなのかどうかわからないため、記入漏れが出ないようにしましょう。
作業手順
先述した製造業向けの手順書で意識すべきポイントも踏まえて作業手順を記載しましょう。
作業に関する知識が無い方でもわかるように、内容をスキップせずにできるだけ細かく記載することが重要です。
また、作成の手順がわかるように、手順書に数字や矢印を記入し工夫もしましょう。
不具合履歴や危険度合い
先ほどポイントで解説した不具合や危険度に関する情報も忘れないように記載しましょう。
ここでは具体例を用いて記載すべき内容を解説します。
▼記載例
発生した不具合 | 危険度合い | 発生した理由 | 対策 |
---|---|---|---|
【部品の外れ】 ビスを強く締めすぎたため、ネジ穴が削れてしまい固定できなくなっていたため部品が外れた。 | 危険度:5 | 電動ドライバーのトルクが高い状態に気づかず締め付けていた。作業者はネジ穴が潰れていることに気づかなかった | ・電動ドライバーは使わず手動ドライバーを使うこと ・ビスを締めた後に部品の固定度合いを確かめる |
発生した不具合の欄には、過去に何が発生したかを端的に書きましょう。
その上で、具体性を増すために不具合の詳細を記載するとわかりやすいです。
危険度合いは、直感的に危険度合いがわかるように数字・アルファベット・色など、社内で共通認識できる指標を使いましょう。
発生した理由からその対策までを記載することで、作業者が同様の不具合を発生させないための対策が講じやすくなります。
上記の記載例の通り具体的に記入をすれば、不具合を経験したことがない人でも「対策」に書かれた手法を参考にし、不具合の発生を回避することができるでしょう。
予想されるトラブルと回避する方法
過去の不具合事例ではなく、予想される危険と事前の予防策も記載しておくべきです。
いわゆる危険行為と考えられる項目を記載しておくことで、損害を回避できます。
例えば、製造業では製品の最終段階で製品をきれいに仕上げる工程でアルコールなど、何らかの薬品を使う機会もあります。
そのような時に、「絶対に混ぜてはいけない薬品の組み合わせ」や「薬品を使用する温度や湿度などの環境による注意点」などを記載すれば、薬品に関する専門知識のない人が、作業をする際に「してしまうかもしれない」行為を防ぐことができるでしょう。
作業後の片付けや整え方
作業後の片付けや整え方も忘れずに記載しましょう。
なぜなら作業後の後始末を怠ると、使った機器が劣化したり、次に作業する際に必要な部材が足らず時間を無駄にしてしまったりするからです。
使用した機器の正しいメンテナンスの方法や、作業者が変わっても同様に作業できるための配置など、片付けや整え方の基準を明確にしておきましょう。
効率的に作業手順書を作成する方法2つ
質の高い作業手順書を作成するには時間と労力がかかってしまいます。そこで、少しでも効率的に作成できる方法を2つご紹介します。
テンプレートを活用する
まずはテンプレートを活用する方法です。
メリットとしては、以下が挙げられます。
- コストがかからない
- 枠組みが作られているので項目の漏れ抜けが減る
- 誰でも簡単に活用できる
- 内容を考えることに専念できる
テンプレートの活用が適しているものとしては、例えば作業の工程数が少ない簡単な作業が挙げられます。
しかし、複雑な作業や単位作業が多い場合はテンプレートでは扱いにくいことがあります。
作業に最適なフォーマットに作り替える必要があり、情報の更新作業が面倒になりがちだからです。
テンプレートはそのまま使えることがメリットなので、自社用にカスタマイズが必要なのであれば、ゼロから作成した方が結果的に手間がかからないということも考えられます。
そのため、手順書に記載する内容が限られていて変更が伴う可能性が低い場合は、テンプレートでの活用が向いているといえます。
テンプレートは以下のサイトなどからダウンロードすることができます。
▼作業手順書のテンプレート
参考:無料テンプレート:作業手順書(エクセル・Excel)シンプルな雛形・製造豪・建設業・工事・会社 | Template box
手順書作成ツールを活用する
もう一つは手順書作成ツールを活用することです。
自社用に最適化した作業手順書を作成したい企業はツールを導入することを推奨します。
ツールを使用するメリットは、以下の通りです。
- 柔軟に内容をカスタマイズしやすい
- 手順書を作成するために必要な機能が揃っている
- 効率的に手順書を作成しやすい
- 手順書の品質が担保できる
ある程度の基本フォーマットに基づいて作成できるので、作業工数の削減が期待できます。
また、ツールの使い方さえ覚えれば誰でも作成できるので、「作業手順書を作る」という業務の属人化も防げます。
一定の導入コストは必要になりますが、定期的な更新が必要となる作業手順書の作成にかかる時間的な負担がかなり軽減されるため、コスト以上の効果が期待できます。
作業品質を向上させるための作業手順書の運用方法3つ
作成した手順書を最大限に活かすための運用方法を3つご紹介します。
- 手順書に記載された手順を徹底させる
- 現場からのフィードバックを重視する
- 手順が変更されたらすぐに更新する
ここまでの解説の中でも触れた項目でもありますが、これらの3つを徹底することで手順書の使われる頻度が大きく変わってきます。
作業に慣れてくると、手順書の内容を守らずに作業する人が一定数現れます。
そのような状況が容認されてしまうと、結果的に製品の品質が下がってしまいます。そのため、手順書の作成だけではなく運用面まで見直しましょう。
手順書に記載された手順を徹底させる
まず原則として、作業手順書の内容を徹底することを全員に周知しましょう。
そして、手順通りにしなかった場合には厳重に注意するなどの対策が重要です。
例えば、管理者を配置するなどして、常に監視の目が行き届くようにするといいでしょう。
また、誰か特定の人だけが声上げるのではなく、会社として手順書の内容が重要であることを周知するのも効果的です。
現場からのフィードバックを重視する
手順書の内容を徹底した上で、現場から手順書の指摘を受けた場合は、ないがしろにせずしっかりと向き合いましょう。
そもそも項目が間違っていたり、守ることが難しい内容だとわかった場合は、すぐに修正する必要があります。
現場からの建設的なフィードバックに耳を傾けることで、より実用的な作業手順書に進化していくでしょう。
また、現場もフィードバックが受け入れられるとわかれば、手順書の内容をより改善していこうと意識してくれます。
手順が変更されたらすぐに更新する
現場からのフィードバックも含め、些細なことであっても、内容に変更があればすぐに更新しましょう。
すぐに内容を変えないと、不適切な手順書を見て作業を行ってしてしまい、最悪品質にも影響するからです。
またISOの観点からも、常に最新の情報に保つことが求められます。作業手順書の更新は放置せず、優先して取り組むようにしましょう。
まとめ
今回は製造業の作業手順書の作り方から運用方法まで解説しました。
製造業の作業手順書を作成する際は、製造業にとって大事なISOを遵守するためにも、常に最新・最適な状態を保てる体制を作ることがとても重要です。
また内容の更新は、手順書を運用していく上でも外せないポイントになります。
また実際に手順書を作成する際には、記載すべき「作業の洗い出しと精査」が重要です。
現場の声も反映させながら、漏れなく、わかりやすい手順書を作ることを意識しましょう。
品質を担保し作業効率を高めるためにも、過去の不具合に関する情報や予想されるトラブルなどのリスクヘッジにも気をつけてください。
そして作り込んだ作業手順書を無駄にしないためにも、手順書の内容を徹底させ、現場からの建設的なフィードバックが受けられる体制で運用しましょう。
作成から運用まで、本記事の内容を実践すれば、自社の製品の質を守りつつ効率の良い仕事ができるようになります。
ぜひ参考にしてみてください。