年末調整のオンライン化(電子化)をスムーズに進めるための準備・方法

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「そろそろ年末調整をオンラインに移行したい」
「年末調整のオンライン化(電子化)に必要な準備や手順について知りたい」
「オンラインでの年末調整におすすめのツールについて知りたい」

このように悩まれている経理担当者の方も多いのではないでしょうか。

業務負担の大きい年末調整ですが、オンラインに移行することで企業側だけではなく従業員側もさまざまなメリットが得られます。

そこで本記事では、年末調整業務のオンライン化の方法や必要な準備、またおすすめのツールについて詳しく解説致します。

こちらを読めば、年末調整の電子化のメリットや準備、またおすすめのツールについて理解し、年末調整業務を円滑に進めることできるようになります。


年末調整のオンライン化(電子化)で手続きが大幅効率化

年末調整のオンライン化により、これまで紙で受領・提出していた控除申告書を、電子データで会社に提出できるようになります。

書類の作成や控除額の計算といった年末調整業務が、従業員・会社側の双方ともに簡素化できます。

これまで年末調整は紙で提出する場合がほとんどでしたが、2020年10月より法令により電子データでの提出が認められるようになりました。これに伴い年末調整を電子化する動きが進んでいますが、電子化の導入が義務化されたわけではありません。

しかし、電子化することにより多くのメリットを得られるため、業務効率化を図るためにもぜひオンライン化を進めるべきです。

年末調整の電子申告では書類の郵送が不要

これまで紙で行っていた年末調整と、電子申告の違いを見てみましょう。

紙での申告電子申告
提出物 印刷された書類 電子データ
提出方法 郵送 申告システム

従来の紙での年末調整では、会社側は郵送されてきた各従業員の申告書を配付し回収するという作業が発生します。

そして、回収した書類の内容を給与システムに入力する作業も発生し、大変手間のかかるものでした。

一方の電子申告の場合は、システム上で電子データを受け取り、書類の提出や回収、差し戻しができるため、これまで手間のかかっていた業務を大幅に削減できるようになりました。


年末調整の電子化のメリット

年末調整の業務を電子化することで得られるメリットを、企業側と従業員側の2つの視点から解説していきます。

企業側のメリット

電子化を行うことで、企業側は主に次のようなメリットが得られます。

  • 管理コストが削減できる
  • 控除額を自動計算できる
  • 光ディスクへの変換が不要になる

管理コストが削減できる

電子化により書類の管理コストが削減できます

紙で行う年末調整の場合は、回収後に内容や添付書類などに誤りがないかを細かくチェックする必要があり、不備がある場合は再度修正をして提出をしてもらわなければいけません。

しかしオンライン化することで、提出書類の回答状況をオンライン上で確認することができるため、各従業員の進捗状況の把握ができるようになります。

そのため、不備のあった従業員への差し戻しや回収がスムーズに行えるようになり、企業側の進捗管理業務を効率化させることができるのです。

また、紙による年末調整の場合は過去7年分の書類保管が義務付けられていますが、オンライン化することで、それらの書類保管にかかる管理コストを削減できるようになります。

参考:No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間|国税庁

控除額を自動計算できる

電子化をすれば控除額を自動計算できます

紙で行う手続きでは、企業側が従業員から書類を回収したあとに手動で控除額の計算をする必要があります。

しかし、申告システムを利用することで控除額を自動計算することができ、控除額の計算にかかる手間を大幅に省くことができるようになります。

手動では起こりがちな計算ミスもなくなるので、その分の修正作業の時間も削減ができます。

また給与管理ソフトと連携させることで、自動計算された控除額を用いて給与計算を自動化できるため、年末調整だけではなく給与計算業務全体の効率化を同時に実現できます。

光ディスクへの変換が不要になる

年末調整の電子化により、書類の光ディスクへの変換作業も不要になります

2021年1月1日以降、法定調書100枚以上の場合はe-taxか光ディスク等での提出が義務化されました。
そのため一定の従業員数がいる企業では、紙での書類を光ディスクへ変換して提出する必要があるということになります。

しかし電子申告システムを利用することで、書類の配布や回収から電子申告までをすべてオンライン上で対応できるため、変換作業が不要となります。

参考:法定調書の光ディスク等による提出のご案内|国税庁

従業員側のメリット

一方で、従業員側にも次のようなメリットがあります。

  • 書類の記入が簡単になる
  • 書類紛失時の再発行が不要になる

書類の記入が簡単になる

紙での書類記入に比べ、電子申告システムはより書類記入が簡単にできるというメリットがあります。

アンケート形式で記入を進められる年末調整ソフトもあります。

また、手書きに比べて記入作業が簡素化できるため、提出までをよりスムーズに進めることができる上に、記入ミスをしにくくなるため差し戻しが少なくなるのも特徴です。

書類紛失時の再発行が不要になる

年末調整に必要な書類紛失時の再発行手続きが不要になります。

書面で提供を受けた控除証明書等を紛失した場合は、保険会社等に対し再発行を依頼しなければなりません。再発行となると、手間も時間もかかってしまい年末調整の提出にも遅れが生じてしまうことにもなります。

一方で、電子化した場合はデータが保管されるため、そもそも書類を紛失することが起きません。
そのため再発行手続きも発生し得ません。


年末調整のオンライン化に必要な準備

年末調整にオンライン化にあたって必要な準備を、企業側・従業員側の双方から解説していきます。

企業側の準備

企業側に求められる準備は以下の通りです。

  • オンライン化の実施方法の検討
  • 従業員への周知
  • マイナンバーカードの取得
  • 給与管理システムの改修

オンライン化の実施方法の検討

まずどのソフトを使って電子申請を進めてもらうのかを検討しなくてはなりません。

国税庁が提供する年調ソフトか、同様の機能を有した民間企業のソフトを使うかになります。

ソフトウェアについては後述の「年末調整をオンラインで行えるサービス・ツール」にて解説します。

従業員への周知

年末調整のオンライン化に伴い、従業員に諸々の周知をする必要があります。

  • オンライン化する旨の周知(なぜ変更するのか・スケジュール)
  • 控除証明書等の電子データによる取得方法
  • オンラインでの入力・申請の流れ
  • 年末調整ソフトの使い方
  • その他FAQ

事前に想定される質問と回答を考えておいて、できるだけフロー変更に対する不安を減らすように動きましょう。

マイナンバーカードの取得

まずは、マイナンバーカードの取得です。会社の代表もしくは年末調整を行う担当者のマイナンバーカードが必要となります。

通知カードではオンライン申告ができないため、マイナンバーカードを取得するようにしましょう。

また、マイナンバーカードを取得する際には署名用電子証明書を付ける必要があるため、取得手続きのときには注意する必要があります。

マイナンバーの取得までには、最長で1カ月ほどかかる場合もあるため、年末調整に間に合うように早めに対応しておくことも大切です。

給与管理システムの改修

自社独自の給与管理システムを採用している場合は、控除証明書等のデータを取り込んで、年税額の計算をする機能を改修する必要があります。

これは、年末調整の電子申請が可能な人事労務系サービスを採用していれば、給与管理機能もあるので必要がない工程です

参考:税務署宛ての申請は不要に

これまで税務署に提出が必要だった「源泉徴収に関する申告書に記載すべき事項の電磁的方法による提供の承認申請書」が、2021年4月1日に廃止になり提出が不要になりました。

直近の変更なので認識しておきましょう。

参考:源泉所得税の改正のあらまし|国税庁

従業員側の準備

従業員側に求められる準備は以下の通りです。

  • カードリーダーの用意
  • 年末調整ソフトの取得
  • e-Taxの利用者識別番号手続き(国税)
  • eLTAXの利用者ID手続き(地方税)

カードリーダーの用意

カードリーダーは、マイナンバーカードを読み取る際に必要となります。2,000円〜3,000円程度で購入できるため、マイナンバーカードの取得と合わせて対応しておくと良いでしょう。

購入する際には、会社で利用しているパソコンに対応しているものかどうかを事前に確認しておくことが重要です。

年末調整ソフトの取得

実際に使う年末調整ソフトを取得し、設定をしておきましょう。

企業側が準備してくれる方法に従って進めましょう。

e-Taxの利用者識別番号手続き(国税)

e-Taxの利用者識別番号手続きも必要です。

e-Taxとは、2004年から国税庁が運営している国税電子申告・納税システムです。e-Taxを利用することで、税務署に行って行う納税や申告などの細かな手続きをネットでできるようになります。

年末調整などで行う申告手続きなどをオンライン上で行うためには、e-Taxの利用者識別番号手続きを行う必要があります。国税庁のホームページより開始届出書を提出して、利用者識別番号と暗証番号を入手します。

入手が完了したら、マイナンバーカードもしくは電子証明書を、カードリーダーを活用してWeb上で連携させます。

参考:作成・送信する開始(変更等)届出書の選択|e-Tax

eLTAXの利用者ID手続き(地方税)

地方税に関する手続きをするために、eLTAXの利用者ID手続きも必要です。

eLTAXとは、地方税にかかる手続きをオンラインで行う電子システムです。

年末調整は、税務署と市町村のどちらにも申告が必要となるため、eTaxを利用した税務署への申告に加え、eLTAXを利用して市区町村側にも申告をする必要があります。

そのため、eTaxの利用者ID手続きもしっかりと行うようにしましょう。eLTAXから利用届出を提出し、利用者IDと仮暗証番号を入手します。

入手が完了したら専用のソフトウェアをインストールして、マイナンバーカードもしくは電子証明書をカードリーダーを活用してWeb上で連携させます。

参考:利用届出|eLTax


年末調整をオンラインで行う方法

オンライン化の準備が整ったら、実際に年末調整をオンラインで行っていきます。ここでは、オンラインで行う年末調整の方法を詳しく解説していきます。

全体の大まかな流れは以下の通りです。

No.対応者作業内容
1 従業員 保険会社等から控除証明書等を電子データで受領
2 従業員 年末調整ソフトにデータをインポート・情報入力し、年末調整申告書の電子データを作成
3 従業員 1の控除証明書等のデータ、2の年末調整申告書の電子データを会社に提出
4 会社 3で提出された電子データを給与システム等にインポートして年税額を計算

電子データの用意

まずは申告に必要な電子データの用意が必要となります。ここでは、企業側で必要な準備と従業員側で必要となる準備をそれぞれ解説します。

企業側の準備

企業側は、電子データを給与システムにインポートし、年税額を計算します。そのため、従業員から受け取った書類データで年末調整計算を行うためには、給与システムにデータを取り込むことになります。

しかし、現在利用している給与システムが、データの取り込みに対応していることが前提となるため、もし対応していなければ給与システムの改修が必要となるでしょう。

また、所得金額調整控除は令和2年分から企業が計算することになっているため、この点についても給与システムで対応できるかを確認しておく必要があります。

このように、給与システムにインポートする際に支障がないかを確認し、事前に対策しておくことが重要です。

従業員側の準備

従業員は、保険会社や金融機関から控除証明書を電子データで受け取る必要があります。

取得方法には、マイナポータルを利用する方法保険会社等のホームページで取得する方法の2通りがあります。

控除証明書ダウンロード

引用:年末調整手続の電子化について ~従業員準備編~|国税庁

マイナンバーカードを用意できている場合は、①のマイナポータル連携を利用する方法がおすすめです。

参考:年末調整手続の電子化について ~マイナポータル連携準備編~|国税庁

電子データをオンライン上で提出

前述した書類を電子申告用データとして作成したら、e-Tax・eLTAXにて提出します。申告ソフトをインストールしたら、次の3つが必要となるため事前に準備しておきましょう。

  • eTaxの利用者識別番号とeLTAXの利用者ID
  • 署名用電子証明書が付いたマイナンバーカード
  • カードリーダー

利用する申告ソフトの手順に従って書類データを税務署・市区町村に送付したら、電子申告業務は終了となります。


年末調整をオンラインで行えるサービス・ツール

年末調整をオンラインで行えるサービスには、国税庁が提供している年末調整ソフトを利用するか、民間企業が提供しているソフトを利用するかの2パターンがあります。

従業員は、企業側が用意する方法に従って作業を行ってください。

企業側は、どの方法で実施するかを選択する必要があります。

民間企業が提供する人事労務サービスを利用する方が、年末調整以外の人事労務系の作業の効率化もできるためおすすめです。

国税庁の年末調整ソフト

国税庁の年末調整ソフトは無料で利用できる反面、各従業員がそれぞれのパソコンにソフトフェアをインストールしなければならず、ITリテラシーがなければ使いこなせない可能性も考えられます。

また、データ取得に対応していない控除証明書や保険会社等があるため、紙とデータが混在し両方対応する必要があるなど、紙で年末調整を行うときと同じような進捗管理が必要となってしまいます。

ヘルプも十分とはいえないので、国税庁の年末調整ソフトを活用する場合は、想定される質問に対する回答を準備するなど、事前のケアが必要になります。

URLhttps://www.nta.go.jp/users/gensen/nenmatsu/nencho.htm
利用料金無料

民間の年末調整ソフト

国税庁が提供するソフト以外にも、民間の年末調整ソフトが複数あります。ここでは、その中でもおすすめのソフトを3つご紹介します。

マネーフォワード クラウド年末調整

マネーフォワード

会計ソフトで有名なマネーフォワード社が提供する、クラウド型の年末調整システムで、年末調整の書類配布から入力、回収、提出までをクラウドで完結させることができます。

従業員本人が「アンケートビュー」といった質問の一覧に情報を入力するだけで、入力作業は完了するため、申請者側の負担軽減にも役立ちます。

また、他社の給与計算ソフトとも連携可能なため、現在利用している給与計算ソフトを変更する必要なく、年末調整システムのみ単体で導入できるのも特徴の一つです。

URLhttps://biz.moneyforward.com/tax-adjustment/
利用料金¥2,980〜/月(※従業員数によって異なる)

オフィスステーション年末調整

オフィスステーション

労務管理業務システムシリーズ「オフィスステーション」の中の一つである年末調整システムは、年末調整をペーパーレス化し書類の回収やチェックを効率化するシステムです。

年末調整の進捗状況は自動で集計されるため、書類の回収やチェック、未回収者への連絡といった担当者の負担軽減に役立ちます。

また、年末調整のほかにも「オフィスステーション」シリーズの他のシステムと組み合わせることもできるため、必要な機能を備えた自社独自の組み合わせができるのも特徴です。

URLhttps://www.officestation.jp/nencho/
利用料金登録料¥110,000 + 従業員一人あたり¥550/年額

さくら情報システム 年末調整Web申告

さくら情報システム

さくら情報システムが提供する「年末調整Web申告」は、従業員への申告書の印刷配布や督促、書類チェックなど、一連の事務作業と従業員の入力手間を削減し、業務効率化に貢献するクラウドサービスです。パソコンからだけではなく、スマホからでも簡単に申告することができるため、どこからでも利用できるというメリットがあります。

また、直感的な操作ができ親しみやすいUIでグッドデザイン賞も受賞しています。

URLhttps://www.sakura-is.co.jp/solution/ps-000-113.html
利用料金初期費用¥200,000 + 従業員一人あたり¥500/年額(※最低利用人数500名)

まとめ

年末調整を紙からオンライン化することで、企業側・従業員側の双方にとって大きなメリットがあります。

<企業側のメリット>

  • 管理コストが削減できる
  • 控除額を自動計算できる
  • 光ディスクへの変換が不要になる

<従業員側のメリット>

  • 書類の記入が簡単になる
  • 書類紛失時の再発行が不要になる

年末調整をオンライン化するためには、企業側・従業員側それぞれに準備が必要です。

<企業側の準備>

  • オンライン化の実施方法の検討
  • 従業員への周知
  • マイナンバーカードの取得
  • 給与管理システムの改修

<従業員側の準備>

  • カードリーダーの用意
  • 年末調整ソフトの取得
  • e-Taxの利用者識別番号手続き(国税)
  • eLTAXの利用者ID手続き(地方税)

オンラインで年末調整を実施する際には、以下の流れで行うことになります。

No.対応者作業内容
1 従業員 保険会社等から控除証明書等を電子データで受領
2 従業員 年末調整ソフトにデータをインポート・情報入力し、年末調整申告書の電子データを作成
3 従業員 1の控除証明書等のデータ、2の年末調整申告書の電子データを会社に提出
4 会社 3で提出された電子データを給与システム等にインポートして年税額を計算

オンラインで年末調整をするには申請用データを作成するためのソフトが必要になります。

方法としては、国税庁提供のソフトか民間企業が提供するソフトかの2択になります。

民間企業が提供する人事労務系サービスを活用したほうが、一連の流れをそのサービス上で実施でき、また年末調整以外の人事労務系の業務も効率化できるため、この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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