給与明細を電子化する方法とは?メリットや注意点についても解説

「紙の給与明細の発行から渡すまでのフローが非効率で負担がかかっている」

そのような悩みから明細の電子化を検討されているのではないでしょうか。

給与明細を渡すまでの手間や紙によるコスト負担などの悩みは給与明細電子化で問題なく解消できます。

専用のシステムを活用することで、給与明細の発行に必要な情報を集約し作成から送付まで一連の作業を全て効率化・管理してくれるからです。

本記事では給与明細の電子化について、電子化するための基礎知識からメリット、注意点まで解説します。

読み終えた後には、明細の電子化をすべきかが明確になり、実装する際もスムーズに進められるようになるでしょう。

目次


給与明細の電子化で、ペーパーレス化と業務改善が実現できる

給与明細の電子化をひとことで説明
給与明細の電子化とは、メール、クラウドサービス、磁気媒体など紙の明細を使用せずに給与明細を発行することです。

DX推進の一環で業務改善や効率化が求められているなか、毎月必ず従業員分を発行する給与明細を電子化することでさまざまなメリットを得ることができます。

参考:給与明細を電子化するには?導入方法からメリット・デメリットまで紹介 | 給与計算ソフト マネーフォワード クラウド
   デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?基本から取り組み方までわかる保存版

給与明細の電子化は法律的に問題はなし

「給与明細は電子化して法律的に問題ないのか?」と思われるかもしれませんが、結論問題ありません。

平成19年1月1日以後、給与等の支払者(交付者)は、受給者(交付を受ける者)への書面による給与所得の源泉徴収票及び給与等の支払明細書(以下「給与所得の源泉徴収票等」といいます。)の交付に代えて、その受給者(交付を受ける者)の承諾を得て、その給与所得の源泉徴収票等に記載すべき事項を電磁的方法により提供(電子交付)することができることとされております。

引用:1. 基本的な事項|国税庁

上文の最後に書かれている通り、“電磁的方法により提供(電子交付)することができる”と明文化されています。

給与明細だけでなく、源泉徴収票・支払明細書の電子交付も該当します。

ただし、交付するためには従業員側の承諾が必須になるので注意が必要です。

給与明細を電子化するメリット

主に管理する事業者側にメリットが多いですが、受け取る従業員にとってのメリットもあります。

給与明細を電子化するメリットは次の4つです。

  • ペーパーレスなど発行に関する経費を削減できる
  • 発行・封入・手渡しなど一連の作業を効率化できる
  • 紛失するリスクが減る
  • 【従業員のメリット】受け取りが簡単になり、管理の手間が省ける

給与明細のようなバックオフィス業務は効率化すれば、その分生まれた時間をコア業務に充てたり、残業削減にも貢献することができます。

ペーパーレス化で発行にかかる経費を削減できる

電子化することでペーパーレスとなり、明細書の紙や印刷、封筒などにかかるコストが削減できます。

また作業が簡略化されるため、人件費を削減することも可能です。

人数によって削減の程度は異なりますが、単発ではなく毎月必ず発生する業務だからこそ、経費削減の効果が確実に現れます。

参考:事例で学ぶ「ペーパーレス化」働き方改革に失敗しないための方法、ツールとは

発行・封入・手渡しなど一連の作業が不要になる

給与明細を印刷して発行し、封筒に入れ渡すまでの一連の作業が不要になるため、業務負担を減らすことができます。

給与明細は本人以外に見られないよう渡すため、手渡しの際でも封筒に入れる必要があり、扱いがデリケートでその分手間がかかります。

また、手渡しの場合は本人に渡すため、送付側はいちいち出勤日を気にしなくてはなりません。

給与明細電子化をすれば、作成〜従業員への手渡しまでに掛かっていた時間や手間を削減できるため、その分ほかの業務に時間をあてることができます。

紛失するリスクが減る

データで管理するため書類紛失のリスクを軽減できます。

また、従業員側が給与明細を紛失し、情報漏えいになることを防ぐことも可能です。

給与明細には基本給をはじめ、控除額など重要な内部情報が記載されています。

紙の場合、渡した従業員が外部で無くしてしまうと、情報漏えいになりかねません。

電子化してもリスクは完全になくなるわけではありませんが、書類紛失を防ぐことはできるため、情報漏洩防止の一定の効果はあります。

【従業員のメリット】受け取りが簡単になり、管理の手間が省ける

データとして明細を受け取れば、従業員側はスマホなどからいつでも確認できるようになります。

また、紙の明細を管理する必要がないのも非常に楽です。

給与明細は、確定申告、失業給付金の申請、厚生年金の積立金額の確認など、従業員にとっても大事な情報ばかりです。

いざ必要になったときに紛失してしまった、再発行をお願いしなくてはいけない、といったことが防げるのは大きなメリットになるでしょう。

参考:いまさら聞けない電子申請義務化とは?手続きの種類や注意点を解説


給与明細を電子化するための手順

給与明細を電子化するためには決まった手順を踏むことが重要です。

基本的には以下のような手順で導入をすることができます。

給与明細を電子化するための手順

それぞれのフローについて細かく解説していきます。

1.給与明細に関連する帳票も含めてどこまで電子化するかを決める

給与明細の電子化を進めるにはまず、どこまで電子化をするか範囲を決めましょう。

給与明細のみ電子化するのか、賞与明細や源泉徴収票も含めて対応するのかなど、社内で話し合う必要があります。

判断基準は組織によって違いますが、

  • 効率化を重視して電子化できる書類は全て電子化する
  • 既に自社が導入しているシステムと連携できる書類のみ電子化する
  • 電子化などデジタル化が苦手な従業員がいるので給与明細のみにする

上記の例のように分類をすれば、どこまで電子化すればいいかが判断しやすいです。

給与明細の電子化は法的に問題ありませんが、確定申告を行う際に必要な源泉徴収票などは、データのプリントアウトではなく、給与を支払うものから書面で受け取ったものでなければなりません。

そのため、自社でプリントアウトできる体制は残しておく必要があります。自社の状況にあわせて、電子化する範囲を決めましょう。

参考:給与所得の源泉徴収票等の電磁的方法による提供について|国税庁

2.導入後の業務フローや渡し方をシミュレーションする

実際に給与明細を電子化することで、給与計算や労務管理などの業務フローがどのように変わるのかシミュレーションしましょう。

給与明細やその他帳票の作成が簡単に行えるシステムを導入することになった場合、既存の会計管理システムへの反映の仕方が変わるケースがあります。

もしくは今回の給与明細の電子化に伴い導入するシステムがはじめての場合、作成の仕方〜渡し方まで大きく変わることになるので、システムの使い方にどのくらいの期間で慣れる(理解できる)かをトライアルで試してみるといいでしょう。

導入してみたはいいが、既存のシステムとの連携がうまくできずかえって手間がかかってしまったとならないための対策です。

そして、システム関係なくどの企業でも関係するのが渡し方です。

電子化された給与明細の渡し方は次の3通りになります。

1 電子メールを利用する方法

 電子メールにより、受給者(交付を受ける者)の使用するパソコン又は受給者が契約しているデータセンター等に給与所得の源泉徴収票等データを送信し、これらのパソコンやデータセンター等に備えられた受信者ファイルに記録する方法(所規92の21一イ)

2 社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法

 給与等、退職手当等又は公的年金等の支払者(交付者)やこれらの支払者が契約しているデータセンター等のサーバ内にあるファイルに記録されている給与所得の源泉徴収票等データを受給者(交付を受ける者)に対し社内LAN・WANやインターネット等を利用して閲覧に供する方法(所規92の21一ロ)

3 フロッピーディスク、MO、CD-ROM等の磁気媒体等に記録して交付する方法

 給与所得の源泉徴収票等データを記録したフロッピーディスク、MO、CD-ROM等の磁気媒体等に記録して交付する方法(所規92の21二)
なお、これらの電子交付の方法については、次の基準を満たすものでなければなりません(所規92の22)。

引用:1. 基本的な事項|国税庁

クラウドサービスを活用した渡し方は、2のインターネット等を利用して閲覧できるようにする方法に該当します。

渡し方に関しては、効率的に運用できることよりも従業員がどのような受け取り方を希望しているかによるので、業務フローとのバランスを考えて決めましょう。

3.従業員の同意を得る

電子化をするためにもっとも大事なステップが従業員の同意を得ることです。

租税法第231条により、従業員から同意を得られた場合に給与明細を電子化することができます。

同意を得る際、従業員に提示する情報には以下の内容が必要です。

1.電子交付する書類の名称(給与所得の源泉徴収票、給与支払明細書の別等)
2.電磁的方法の種類やその具体的な方法
3.受信者ファイルへの記録方法(XML形式、PDF形式、暗号化して受信者ファイルに記録す4.る旨及びその復号化方法等)
5.交付予定日(毎年○月○日までに交付、給与支給日に交付等)
6.交付開始日
7.その他参考となる事項
引用:1. 基本的な事項|国税庁

これらの情報を提示したのち、従業員から“電子交付について承諾する旨、承諾日、受給者氏名”を得ることで承諾されたことになります。

当然、承諾を得るには形式よりも「従業員にとってどのようなメリットがあるか」、「給与明細を電子化することで業務に変更があるのはどこか」など、従業員にとって関係ある話をしましょう。

もし承認を得られない従業員がいる場合は、従来通り紙の明細書を発行しなければなりません。

4.明細を電子化するシステムを導入する

給与明細を電子化するためのシステムやツールを選びましょう。

主な検討対象になるシステムは給与計算を行う会計管理システムや、人事・労務管理全般を行う人事管理システムなどです。

給与明細を電子化するシステムを導入する場合、既存のシステムと問題なく連携できるものを選びましょう。

給与明細を電子化するシステムには、給与計算ソフトからCSVデータを出力しそのデータから明細書を作成するものや、API連携によって同期できるものなど様々です。

また、明細項目の設定において正社員、契約社員、アルバイトなど雇用形態によって区分を変えられるシステムだと設定がより楽になります。

5.明細項目の設定を行い運用開始

システムが決まり導入できれば、あとは詳細設定を行い運用開始です。

従業員情報の反映や送付先メールアドレスの設定、もしくはクラウドサービス経由で各自で閲覧してもらう場合はIDとパスワードの発行などが必要になります。

実際の運用を開始する前に、配信テストを行い従業員も交えて使い勝手を確認しておくとよいでしょう。

その際に出てきた課題を改善しておくことで、企業側も従業員側も安心して運用できます。

せっかく電子化を進めて効率化を進めようとしていても、従業員から新しい仕組みに対して不満や不安が出てしまっては意味がありません。

焦らず、確実に運用を進めていきましょう。


給与明細の電子化をする上で注意すべきこと

給与明細を電子化する上で注意すべきことは主に3つです。

  • 情報漏えいのリスクがあることを理解する
  • 電子化に伴い業務フローが大きく変わる
  • 電子化しても紙で発行しなくてはならない場合がある

これまでの話の流れで触れた部分もありますが、改めて注意すべき点だけを整理して解説します。

情報漏えいのリスクがあることを理解する

電子化したことにより紙そのものの紛失は防げますが、電子化特有の情報漏えいのリスクがあるので注意してください。

たとえば、以下のようにデータが紛失・漏洩してしまうことが考えられます。

  • メールを送り間違ったことで第三者に情報が漏れてしまった
  • データサーバーにアクセスされ情報が漏れてしまった
  • データを保管していたUSBメモリを外で無くした

メールの送り間違えは個人の操作ミスで引き起こりますが、給与明細を送信するものは特定の人だけにするなどの仕組み化によって、発生リスクをおさえることができます。

またクラウドサービスを活用する場合でも、セキュリティが整っているサービスを選ぶだけでなく利用側が十分な対策をすることも必要です。

例えば、定期的にパスワードの変更を促す、退職者のID処理を放置しないなど、さまざまな工夫ができます。

社内のセキュリティ体制を強化するためには、総務省が提示しているガイドラインを参考にしてみるのも良いでしょう。

参考:クラウドサービス情報セキュリティ提供における対策(第3版ガイドライン)

電子化に伴い業務フローが大きく変わる

電子化に伴い、給与明細の作成から渡すまでのフローが大きく変わる可能性があります。

担当者や従業員が慣れるまでは、対応に戸惑っていないか、効率化どころか反対に工数が増えているところがないかなど注意しておきましょう。

先述したように、新たなセキュリティ対策に対応しなくてはならないなど、業務の振り分けや担当者によっては対応することが増えることが考えられます。

そのためにも、導入前シミュレーションにて、どのような対応が増えるかまで意識して把握し、事前に対処できるようにしておきましょう。

電子化しても紙で発行しなくてはならない場合がある

電子化に同意していない従業員や、何らかの理由で紙の明細を求められる場合は紙の給与明細を発行しなくてはなりません。

3.従業員の同意を得るでもご紹介した通り、従業員から同意を得られた場合にのみ給与明細を電子化し、発行できるということが租税法第231条にて記載されています。

参考:1. 基本的な事項|国税庁

そのため、電子化に移行したとしても、紙で発行できる体制も残しておきましょう。

また、一度電子化を承諾した従業員が「紙の明細に戻してほしい」と要求があった場合は対応する必要があります。


効率よく給与明細書を発行するためには、給与計算システムがおすすめ

できるだけ給与計算から明細配布までを効率的に行いたいのであれば、給与計算システムの導入がおすすめです。

給与計算システムでは給与・賞与計算はもちろん、明細の電子化や印刷、税・社会保険などの複雑な計算までスムーズに対応することができます。

給与明細をWeb化するだけのシステムだと、別で給与計算をしなければいけなくなります。

そのため、給与計算まで一気通貫で効率化したいのであれば給与計算システムの導入がおすすめです。

参考:【2024年最新版】給与計算ソフトおすすめ26選を比較!選び方も紹介


給与明細の電子化に関するよくあるご質問

給与明細の電子化を検討中の方に役立つQ&Aをまとめています。

Q.給与明細の電子化に伴うデータセキュリティの対策は?

A.電子化された給与明細は、個人情報を含むため、セキュリティ対策が不可欠です。暗号化やアクセス制限、多要素認証などのセキュリティ対策が施されたツールの導入で、不正アクセスやデータ漏洩のリスクを低減できます。

Q.給与明細を電子化した場合、法的に求められる保存期間はどうなりますか?

A.給与明細は労働基準法によって5年間の保存が定められていますが、ペーパーか電子かによって期間に変わりはありません。データでの給与明細書の保管には、場所を取らない、管理が簡単、検索が容易といったメリットがあります。

Q.給与明細を電子化する際のシステム選びのポイントは?

A.システム選びでは、ソフトの提供形態や対応している雇用・給与形態、連携できるシステムの種類などが考慮されます。また、サポート体制や導入後のメンテナンスも重要です。

詳しくは以下の記事を参考にしてください。

参考:【2024年最新版】給与計算ソフトおすすめ26選を比較!選び方も紹介

Q.給与明細の電子化による運用負荷はどのように変わりますか?

A.電子化により、給与明細の印刷や仕分け、配送にかかる手間が省けるため、運用負荷が大幅に軽減されます。また、システム管理や従業員からの問い合わせ対応が中心となるため、ITリテラシーが求められることが増える可能性があります。

Q.給与明細の電子化が給与計算業務に与える影響は?

A.電子化により、給与計算システムと連携することでデータ入力や転記ミスが減少し、業務効率が向上します。また、従業員からの確認依頼や再発行対応も迅速に行えるようになります。


まとめ

今回は給与明細を電子化する方法について、メリットや注意点も交えて解説しました。

給与明細の電子化は法的にも問題なく、ペーパーレス化が進み経費削減につながったり、発行から渡すまでの作業コストが軽減されたりとメリットが多くあります。

従業員側も、受け取りや管理が楽になるので導入することをおすすめします。

電子化を検討するのであれば、給与明細以外の帳票もどこまで電子化するか考えましょう。

導入後の業務フローや渡し方を丁寧にシミュレーションし、従業員の同意を得ることではじめて導入ができます。

規模が大きくなれば全員から同意を得ることが難しい場合も考えられるので、その場合は紙と電子化両方の対応が必要です。

以上の点に気をつけながら給与明細電子化を導入してみてはいかがでしょうか。