部下の会話を引き出す1on1ミーティングのやり方・進め方・質問例

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「1on1ミーティングを実施することになったがやり方が分からない」
「何を話したら良いんだろう?会話が弾まなかったらどうしよう」

これから1on1ミーティングを実施する上で、このようにお悩みの管理職・マネージャーの方は多いのではないでしょうか。

部下のやる気を引き出す4つのミーティング技術

本記事では、1on1ミーティングのやり方・進め方について、具体的な質問例や必要なスキル、さらに実際にご活用いただけるフォーマットもあわせてご紹介します。

こちらを読んでいただければ、1on1の具体的なやり方がわかり、実のある1on1ミーティングを実施することができるようになるでしょう。

目次


1on1ミーティングの進め方

1on1ミーティングは以下の流れで行います。

  • ステップ1.事前準備をする
  • ステップ2.1on1ミーティングを実施する
  • ステップ3.記録(ログ)を残す

まずは実施前に事前準備をし、その内容を基に1on1ミーティングを実施する。そしてやって終わりではなく、記録(ログ)を残して次回以降の運用に活かしていく。

手順としてはたったこれだけです。

続いて、各ステップごとで何をするのかを見ていきましょう。

ステップ1.事前準備をする

1on1ミーティングの実施の前に必ず事前に準備をしてから臨むようにしましょう。
事前準備をせずに臨めば、うまく部下から話を引き出せずに、いまいち効果を実感できずに終わってしまうでしょう。

事前準備で行うことは以下の通りです。

  • 1on1を実施する目的を共有する
  • 日程調整 / 開催場所の設定
  • アジェンダを用意する

以下の記事でも詳細に解説していますので、実施前にこちらを確認してから1on1に臨んでいただければと思います。
参考:事前準備で成否が決まる!1on1ミーティングの事前準備の必須内容

1on1を実施する目的を共有する(初回)

初めて1on1を実施する際には、必ず事前に1on1を実施する目的を共有し、なぜやるのかを部下が腹落ちしてくれるまで丁寧に説明しましょう。

まだ1on1をやったことのない部下にとって、どれだけ効果・意味があるのか実感として分かっていない状態です。また新たに業務がプラスオンされることになるので、忙しいからやりたくないというのが部下がよく思うことです。

そうしたマインドではなかなか1on1を通じて部下の考えを引き出すことは難しいので、しっかりと目的を共有し、なぜやるのかを腹落ちさせる必要があります。

日程調整 / 開催場所の設定

実施する旨を伝えたら、日程の調整と開催場所の設定を行いましょう。

最初は上司が日程調整と開催場所を決めるべきです。まだ部下は1on1に前向きな状態ではないので、部下にお願いしてもなかなか動いてくれなかったりすることが考えられます。

前向きに取り組んでいるということを伝える意味でも、最初は適切な日程・場所の場所を上司が設定したほうが失敗を避けやすくなります。

アジェンダを用意する

続いてアジェンダを用意しましょう。

こちらは必須ではないですが、念のために用意しておくと良いでしょう。

1on1は部下のための時間であるというのが大前提としてあり、上司が用意したアジェンダに沿ってすべて話を進めたのでは、部下の本当に話したいことが話せなくなってしまいます。
そのため、話題がなくなったときのために備えておく、あるいはどうしても伝えておくべきことがあるときに忘れないように、念のために用意しておくべきと捉えておけば大丈夫です。

1on1で話すべき内容については次章「1on1ミーティングで話すべき内容」にて解説します。

部下には話したいことを事前に記入フォーマットに記入してもらいましょう。基本的にその内容に沿って話を進めていきます。

ただし1回30分の1on1のために、事前の記入に1時間掛かって続かなくなるというのでは本末転倒です。実際に運用をしながら、アジェンダの記入については調整していきましょう。

ステップ2.1on1ミーティングを実施する

事前に準備した内容に沿って、1on1ミーティングを実施します。

1on1ミーティングは、大きく分けると以下の3つのブロックに分かれます(時間は全体30分の場合)。

  1. 信頼関係構築(5分):雑談や心身状態の確認
  2. 課題の発見(20分):現状理解、課題の発見、要因分析
  3. ネクストアクションの決定(5分):いつまでに何をどうするかを決める

まずプライベートの話や心身状態の確認をして、部下が自分の考えをしっかり話してくれる状態を作ります。

その上で、部下の仕事やチームの話、あるいはキャリアの話をして、今どういう状況にあって、どういう課題があって、なぜそれが起きているのかを対話を通じて導き出します。

そして、ではどうやってその課題を解決していくかのネクストアクションを部下と一緒に決めていきます。

基本的な流れは上記の通りです。実際にどんなことを話すべきかについては次章「1on1ミーティングで話すべき内容」にて解説します。

ステップ3.記録(ログ)を残す

1on1はやって終わりではなく、実施したら記録(ログ)を残しておきましょう。

記録を残すことで、以下の効果が得られます。

  • 前回の内容が一目で思い出せる
  • 宿題事項の進捗確認ができる
  • 部下の成長記録として使える
  • 異動時に引き継げる(プライベートな情報など運用には要注意)

記録を残しておかないと、どんなことを話したか忘れてしまって、次回以降の1on1に活かすことができません。

メールやチャットで部下にログを送ったり、1on1ツールにログを入力していつでも閲覧可能な状態にする、といった方法があります。

見逃されがちな項目ですが、必ず行うようにしましょう。

1on1の記録の残し方については、以下でも詳しく解説しています。
参考:フォーマットを活用した1on1ミーティングの記録の残し方


1on1ミーティングで話すべき内容

1on1ミーティングで話すべき内容としては、以下の7つが挙げられます。

項目内容
1.プライベートプライベートなことを知って相互理解を進める。
2.心身の健康状態部下の心身の健康状態が問題ないかを確認する。
3.部下のモチベーション部下のモチベーションを上げるポジティブなフィードバック・下げる要因を取り除く。
4.業務・組織課題業務・組織における課題や、要望や不満に思っていることを引き出す。
5.目標のフィードバック・支援設定した目標について現状の共有や、改善のための支援を行う。
6.キャリア・能力開発部下が会社でどうなりたいのか、そのために必要な能力は何か、どう身につけていくかを支援する。
7.戦略・方針の共有会社や組織の戦略・方針について、理解が足りない部分を個別に共有して理解を助ける。

すべての内容を毎回話す必要はありません。たとえば目標やキャリアについて毎回話すのは難しいでしょう。

また重要なのは、業務の進捗確認は1on1ではやるべきではないということです。

1on1は、対話を通じて部下の内省を深め、部下の自己学習を手助けすることが大きな目的です。業務の進捗確認をしていては自己学習の促進はできないので、別途時間を設けてやるべきです。

1.プライベート

いきなり業務の本題に入るのではなく、プライベートな話題から始めることで話しやすい場を作りましょう。
また相互理解を深めることで、信頼関係の構築の手助けとなります。

相手との深い信頼関係のことを、心理学用語でラポールといいます。ラポールを形成することで「何を言っても大丈夫」という安心感がもたらされますが、まさに1on1に欠かせない要素です。

<プライベートに関する質問の例>

  • 休日はどんな風に過ごしていますか?
  • 最近ハマっていることはありますか?
  • 普段モチベーションが上がることってどんなことがありますか?
  • 仕事以外で楽しかった/辛かったことはありますか?

ただし、信頼関係が構築しきれていないときに、プライベートの話をすることに抵抗感を持つ方は相当数います。
無理にプライベートの話をさせたりすることはせず、相手が話したくなさそうであればプライベートの話題はしないで良いでしょう。

2.心身の健康状態

続いて、部下の心身の健康状態について確認しましょう。

言うまでもなく、部下が心身ともに健康に働くことは最も大切なことです。
1on1では毎回必ず確認するようにしましょう。

健康状態が悪化してからでは遅いので、事前に兆候を検知する必要があります。

また部下自身は問題ないと思っていても、実は不調の兆候が現れているということもあります。
あるいは不調になり得る状態かもしれません。

たとえば業務量が適正範囲を超えている場合です。なかなか部下が自分からアラートをあげることは難しいので、上司が把握しにいく必要があります。

特にリモートワーク環境下では、部下の状態の把握が難しいので、1on1で確認するべきです。

<心身の健康状態に関する質問の例>

  • 睡眠時間は確保できていますか?よく眠れていますか?
  • 体調面で気になることはないですか?
  • 業務量が増えすぎていないですか?
  • 家に仕事を持ち帰っていたりしますか?
  • 周りの人たちと特に問題なくやれてますか?

3.部下のモチベーション

部下のモチベーションを高める対話を行いましょう。

  • ポジティブなフィードバックにより「モチベーションを上げる」
  • 部下の悩みや不安なことを聞いて「モチベーションを下げる要因を取り除く」

すべきことの方向性としては上記の2つになります。

モチベーションを上げる

まずは部下の行動や結果をほめたり、ポジティブな評価を伝えることでモチベーションを上げる動きです。

特に効果が大きいのが、第三者がほめていたというフィードバックです。

直接ほめるのは気恥ずかしさや照れくささが出てしまいますが、第三者がほめていたというのは事実を伝えることになるので伝えやすく、部下も素直に受け取りやすくなります。

モチベーションを下げる要因を取り除く

続いて、部下が抱える悩みや不安なことをしっかり聞くことで、モチベーションを下げるマイナスの要因を取り除きます。

人に悩みを打ち明けることで、心がスッキリした経験は多くの人があるはずです。

まずは部下の悩みを共感しながら聞くことに徹して、悩みや不安を吐き出させてあげましょう。

<モチベーション(マイナス)に関する質問の例>

  • 何か困っていることはありますか?
  • 何か気になっていることはありますか?
  • (それを)詳しく聞かせてもらえますか?

<モチベーション(プラス)に関する質問の例>

  • ~~について〇〇さんがすごいほめてましたよ。
  • 先日の~~はありがとう。とても助かりました。

4.業務・組織課題

部下の業務の現状を把握し、どういった課題を抱えているのか、またそれはどういう原因で起こっているのかを導き出していきます。

繰り返しになりますが、業務の進捗確認は1on1ですべきではありません。
それは日常のマネジメントにおいてすべきことです。

普段なかなか考える時間が取れない、優先順位を下げてしまっているけど本当は重要なことについて話せると良いでしょう。

また部下の業務だけでなく、自組織について課題に感じていることがないかも話しましょう。

<現状業務の改善に関する質問の例>

  • 業務上で困っていることはありますか?
  • 今後懸念していることはありますか?
  • 何があったらもっと仕事がやりやすくなりますか?
  • もっとこうしたいなどの要望はありますか?

<組織全体の改善に関する質問の例>

  • 今のチームの良いところ/悪いところ(課題)は何があると思いますか?
  • もっとチームを良くするために何をしたらいいと思いますか?
  • やっていて無駄だと思う業務はありますか?
  • 最近チーム内に気になっている人はいますか?
  • 私(上司)にしてほしいことってありますか?

5.目標のフィードバック・支援

設定した目標について、現状の確認・共有といったフィードバックや、改善のための支援を行います。

半年に一回、あるいは3ヶ月に一回、目標設定・評価面談をしている方が多いと思います。
この半年・3ヶ月に一回のフィードバックだけでは、特にネガティブなフィードバックの場合、部下はなかなか納得がし辛いでしょう。

そこで1on1のタイミングで細かくフィードバックをすることで、納得性を上げていくことができます。

また目標に対して進捗が悪いのであれば、この場で改善のための支援をします。

例えば「日本コカ・コーラ株式会社」は、年次評価を廃止して、月に一回のレビューをする「Performance Enablement」という取り組みを始めています。

参考:日本コカ・コーラ/福島トヨペットに学ぶパフォーマンス・マネジメント【PMI2018イベントレポート】|BIZHINT

このように、1on1を用いたフィードバックの流れが世界的に加速しています。

<目標のフィードバック・支援に関する質問の例>

  • この目標の進捗はいかがでしょうか?
  • 何か困っていることはありますか?
  • 手助けしてほしいことはありますか?
  • 達成できた要因・達成できなかった要因は何だと思いますか?
  • この半期で特に頑張ったことはなんでしょうか?

6.キャリア・能力開発

部下が会社でどうなりたいのか、そのために必要な能力は何か、どう身につけていくかを話します。

漠然と「将来何をしたいのか?」「将来どうなりたいのか?」と聞かれても、部下は返答に困ってしまいます。

そもそも自分の特性や能力について、自覚的でないことが多いので、対話を通じて部下に気づきを与えることが大事です。

例えばロールモデルとしている人がいるか、するなら誰かを質問することで、具体的になりたい状態をイメージしやすくなったりします。

<キャリア・能力開発に関する質問の例>

  • 社内に模範としている人(ロールモデル)はいますか?
  • 今期(来期)に特に頑張りたい仕事は何ですか?
  • 自分の今の強みは何だと思いますか?
  • 自分の今の弱みは何だと思いますか?
  • 一番やりがいを感じることはなんですか?
  • 今後チーム・会社でどういう貢献をしていきたいですか?
  • 他部署でやってみたい仕事はありますか?

7.戦略・方針の共有

会社や組織の戦略・方針について、個別に共有して理解を助けます。

全社会議や部署の会議での説明を補足するだけではありません。

どういう背景でそうなったのかを詳しく伝えることで、部下の視野を上司と同じレベルに引き上げることができます。

またこういうことを期待していると伝えることで、部下の自主的・前向きな行動を促すことができます。

<戦略・方針に関する質問の例>

  • 先の会議でこういうことが決まりました
  • どういう背景かを説明すると~…
  • 〇〇さんには~~をやってほしいです

1on1ミーティングに役立つテンプレート・シート

1on1記録フォーマット
上図のようなフォーマットを活用することで、話す内容の整理や記録がやりやすくなります。
本フォーマットには、1on1で話すべき内容に沿って、以下の項目を盛り込んでいます。

  • 直近の体調
  • 注力したこと、上手くいったこと
  • 業務上で困っていること
  • チームがもっと良くなるためのアイデア
  • キャリア、将来について考えていること
  • 相談事項
  • その他自由記述

下記の記事にて詳しく解説&ダウンロードできますので、ぜひご活用ください。
参考:フォーマットを活用した1on1ミーティングの記録の残し方


1on1ミーティングの成功に欠かせない4つのスキル

1on1ミーティングを成功させるために必要な、代表的なスキルは以下の4つです。

種類上司の
働きかけ
目的会話の方向性
傾聴(アクティブリスニング)聞ききる部下の話を引き出す上司←部下
ティーチング教える部下にない知識や技術を伝える上司→部下
コーチング引き出す気づきを与えて部下の考えを引き出す上司⇔部下
フィードバック伝える自分がどう見えているかを伝える上司→部下

これら4つのスキルを状況にあわせて使い分けることが1on1に求められます。

一般的に上司と部下の間では、部下に知識・技術を伝えるティーチングや、評価面談などのフィードバックが行われています。

しかし1on1では、部下のなかにある課題や学びを、自分自身で気づき学習する必要があります。
そのためには、注意深く共感して丁寧に聞く傾聴や、部下に気づきを与えて考えを引き出すコーチングも欠かすことができません。

傾聴(アクティブリスニング)


傾聴(アクティブリスニング)は、相手の話を最後まで聴いて受け止めることです。

1on1では、部下が自分の経験を自分で言葉にし、深く内省することが重要です。

上司は部下の話を評価したり否定したりせずに、最後まで聴いてあげることで、部下の話を最大限引き出してあげる必要があります。

たとえ部下の意見が明らかに間違っていたとしても、その場ですぐに否定しては、それは上司の考えを押し付けたことになり、部下自身が学んだことにはなりません。
いったん「なるほどそう考えてるんだ」と受け止めた上で、「でもこう考えられるんじゃないか」とフィードバックをするようにしましょう。

意見を否定されたり受け入れてくれないのであれば、部下は自分の意見を言おうとはしなくなります。

このように、傾聴により部下の意見を引き出すことが、1on1では最も必要になります。

ティーチング


ティーチングとは、相手が持っていない知識や技術を伝えることです。

ティーチングは、社内の就業規則など自分で考える必要のないことをティーチングで伝えるのが良いでしょう。

あるいは、そもそも部下のなかにないことであれば、引き出すことはできないのでティーチングしてあげる必要があります。
部下の知らないスキルやノウハウがあるならば、ティーチングしたほうが早いでしょう。

ただし、1on1の本質は、内省により自己学習を深めることにあるので、ティーチングにより答えを教えてしまうと学習がなされません

意識的にティーチングを抑えて、後述のコーチングにより部下の学習を促進することが1on1では重要です。

コーチング


コーチングは、対話を通じて部下の中にある答えを引き出す手法です。

一方通行のティーチングとは違い、コーチングは上司と部下の双方向のやり取りとなります。
先述のアクティブリスニング(傾聴)はコーチングの一部であると考えられます。

まずはしっかり部下の話を聴き、その上で質問をして部下にさらに考えさせる。

この質問に対して答えるために言語化作業をすることで、部下のなかにある考えがより明確になります。
これは「オートクライン効果」と呼ばれ、コーチングの分野では有効性が広く認知されています。

フィードバック


フィードバックは、相手に自分がどう見えているかを伝えることで、成長を促進する手法です。

まず相手の行動やその結果に対して、課題・改善点・評価といった情報を通知します。
それにより部下は客観的に現状を確認し、課題が明確になります。

またそれで終わることなく、上司はその課題に対してどう対処するかの支援を行います。

このように、相手に情報を通知することはティーチングに近く、相手の振り返りを促すことはコーチングに近い手法といえます。
両者の要素を持ち合わせているのがフィードバックです。


1on1ミーティングを成功させるための5つのポイント

1on1ミーティングを成功させるために、特に押さえておきたい5つのポイントは以下の通りです。

  • ポイント1.部下と向き合うスタンスが大前提
  • ポイント2.ティーチングは意識して控える
  • ポイント3.オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分ける
  • ポイント4.ネクストアクションを設定する
  • ポイント5.1on1を定期開催する

以下記事では、良い1on1とダメな1on1という視点から、1on1の重要なポイントを12個ご紹介しています。ぜひこちらも参考にしてください。
参考:良い1on1・ダメな1on1の違いとミーティングの質を高める12のポイント

ポイント1.部下と向き合うスタンスが大前提

良い1on1を実現するためには、部下と向き合うスタンス(姿勢)が大前提として必要です。

先にスキルをご紹介しましたが、慣れないうちはあまりスキルやテクニックに捉われるよりも、相手の話をじっくり聴いて話を引き出すことに集中したほうが良いでしょう。

部下が話したいことを自由に話せるようにするためには、上司と部下の間に深い信頼関係が欠かせません。
言っても否定される。どうせ聞き入れてくれない。こういう状態では部下は自分の意見を言おうとはしません。

部下に対してしっかり向き合っているというスタンスを、部下から見える形で示す必要があります。
そのために最も必要なのが「傾聴」であることは先ほど述べた通りです。

ポイント2.ティーチングは意識して控える

1on1では、ティーチングは意識して控えるようにしましょう。

慣れないうちは、意識しないとついアドバイスをしたくなってしまいます。普段のマネジメントにおいては、ティーチングをして業務を円滑に進めることは、むしろすべきことであるためです。

先述の傾聴を意識して行うことが、ティーチングを控えることにもつながります。

目安としては、両者の話が上司2割・部下8割くらいを目指しましょう。
5:5では上司側が話し過ぎです。

部下の育成やモチベーションアップのための対話が1on1の要なので、ティーチングは意識的に控えるようにしましょう。

ポイント3.クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンを使い分ける

部下への質問は、クローズドクエスチョンとオープンクエスチョンを使い分けて行いましょう。

種類クローズドクエスチョンオープンクエスチョン
内容YES/NOで答えられる質問自由に答えられる質問
質問例・〇〇は課題だと思っていますか?
・△△はやりましたか?
・課題は何だと思いますか?
・目標達成には何をすべきだと思いますか?
メリット・回答しやすい
・コミットメントを得られる
・多くの情報を引き出せる
・会話をつなげやすい
デメリット・尋問されている印象を与える
・会話が途絶えやすい
・回答側の心理的な負担が大きい
・信頼関係がないと話が途絶える・止まる可能性がある
活用すべきシーン・意思の確認
・状況の確認
・コーチング

YES/NOで答えられる質問が「クローズドクエスチョン」です。

回答者が答えやすい一方で、尋問されているような印象を与えてしまいます。
状況や意思を確認する際に使用するのが良いでしょう。

また相手が自由に返答できるのが「オープンクエスチョン」です。

より多くの情報を引き出すことができますが、答えを導き出すには一定の負担がありますし、お互いに信頼関係がないと心の内を明かしてくれない可能性があります。

コーチングにより部下の考えを引き出す際には、オープンクエスチョンをメインに活用したほうが良いでしょう。

まずはオープンクエスチョンで部下に考えてもらい、意見をもらったら確認にクローズドクエスチョンを使うといった形で、両者を織り交ぜながら会話を進めましょう。

<会話例>

上司「先日の商談で失注してしまった原因は何だと思いますか?(オープンクエスチョン)

部下「先方のキーマンを巻き込めなかったことだと思います。」

上司「キーマンを握れていなかった?(クローズドクエスチョン)

部下「はい、現場の担当者は前向きに検討してくれていたので安心していたのですが、決裁権を持った部長さんはA社の方が良いと思っていたようで、受注することができませんでした」

上司「受注するためには、どの時点でどうすれば良かったと思いますか?(オープンクエスチョン)

・・・

ポイント4.ネクストアクションを設定する

1on1では、浮かんできた課題に対するネクストアクションを設定できると良いでしょう。

1on1を通じて課題や原因が見えてきたら、それをどう解決していくかを決めて動いていきましょう。

またネクストアクションを決めれば、仮にその通りに動けなくても、なぜそうなったのかをまた考えて動き直すというループを続けることができます。

ただし、このネクストアクションは上司が動く必要があるケースもあります。

また必ずネクストアクションを設定しなければならないわけではなく、まずは話を聞いて受け入れてあげるだけでも部下の内省を深められるので、十分に効果は出ます。

ほかにも挙がった課題や対応策の優先順位のすり合わせをするだけでも、十分解決に向けて動いていることになりますし、やらなくていいことを決めるのも新たな動きになります。

<ネクストアクションを決めるための質問例>

  • その課題を解決するために何をしますか?
  • それはいつまでにやりますか?
  • 手助けしてほしいことはありますか?

ポイント5.1on1を定期開催する

1on1を定期開催することで、1on1の定着を図ることができます。

1on1を始めたら、まずはしっかりと一定の頻度で続けていくことが大事です。

そのためには、上司・部下両者のカレンダーをあらかじめ押さえておいて、定期開催にしてしまうのが良いでしょう。

回数を重ねていく中で、気づきを得た部下の仕事が改善されるなどの「小さな成功体験」が積み上がっていき、1on1により積極的に取り組むようになっていきます。

これが1on1を定着させるための大きなポイントです。


1on1ミーティングのよくある質問|マネージャー向け

マネージャー(上司)が1on1を実施するうえで、よくある質問とその回答例をまとめました。
ぜひ参考にしてください。

Q1.部下から話す内容がないと言われてしまう

「1on1ミーティングに役立つテンプレート・シート」でご紹介したフォーマットを活用し、事前に内容を考えてきてもらいましょう。

すべての項目を必ずしも埋める必要はありません。
特に話したいことを一つでも良いので考えてきてもらいましょう。

また上司の方は、自分が話すことが目的ではなく、部下の話を引き出すことが重要です。
「前回からどのようなことがあったのか、上手くいったこと・上手くいかなかったことを教えてください」などの質問を用意しておくと良いでしょう。

事前に準備すべき内容は、以下でも詳しく解説しています。
参考:事前準備で成否が決まる!1on1ミーティングの事前準備の内容

Q2.忙しくてやる暇がないです

時間がないのではなく、優先度の問題と考えられます。

すなわち、1on1をあまり重要なものと捉えておらず、他の実務の優先度が高い状態と見られます。

事実、1on1を取り入れている企業の管理職の方々は、1on1を重要視し多くの時間を割いて部下と話し合う場を設けています。

まずは月に1回30分、どうしても難しければ15分でいいので続けてみましょう。

部下の成長を促し、チームの成果を最大化することが上司の役割です。ぜひ部下一人一人とじっくり向き合う機会を作ってください。

Q3.あまり得意じゃない部下とどう話せば良いでしょうか

人との相性があるのは仕方がないことです。

しかし、その部下と十分にコミュニケーションを取っていると言い切れるでしょうか?しっかり話を聞いてみたら、相手の見えてなかった一面が見えて印象が大きく変わった、ということはよくある話です。

まずは質問を用意して、相手の話を多く引き出すようにしてみてください。

Q4.時間・頻度はどれくらい必要でしょうか

長くても1ヶ月に1回、できれば毎週・隔週で実施すべきです。

また1回の時間は最低30分はとるべきです。15分では時間が足らず、冒頭のアイスブレイクと現状の確認で終わってしまいます。

半年に一回など期間を空け過ぎると、その期間にあったことを正確に思い出せません。

1on1を通じて、内省により学習を促進してアクションにつなげ、また1on1で内省をする、という学習サイクルを構築することが重要です。

そのためには、あまり期間を空け過ぎずに頻度高く実施するべきでしょう。

Q5.プライベートな内容は共有しても良いのでしょうか

プライベートな内容を勝手に第三者に共有するのは厳禁です。

信頼関係が失われ、1on1どころの話ではなくなります。

どの内容を共有しても良いのか、またどこまで共有して良いのか、共有内容と範囲は本人とすり合わせ・合意形成を取るようにしましょう。

記録を残す際には、外部に共有されないようにプライベートな内容は残さないようにしましょう。

Q6.つい自分の意見を言ってしまうのですがどうすれば良いでしょうか

「ポイント2.ティーチングは意識して控える」でお伝えした通り、ティーチングを控えて傾聴をする意識を持って臨みましょう。

目安としては、両者の話が上司2割・部下8割くらいを目指しましょう。

1on1を実施したら振り返りをして、話し過ぎていなかったか、適切に質問をして部下の話を引き出せていたかを確認しましょう。


プレイヤー(部下)からのよくある質問

続いて、プレイヤー(部下)からよく寄せられる質問や意見をご紹介します。
マネージャーの方は是非参考にしてください。

Q1.何を話したら良いか分からない

先述のフォーマットに沿って、事前に内容を考えてきてもらいましょう。

どうしても思い浮かばないと言われる場合は、上司から質問をして話を引き出してください。

Q2.忙しくてやる暇がない

どういう目的で1on1を実施するのか、なぜ必要と考えているのかをきちんと共有しましょう。

人事とも連携し、根気強く腹落ちするまで説明する必要があります、

やっていくうちに効果を実感すればこういう意見は減っていきますが、減らない場合はやり方に問題があると思われるので見直しをしましょう。

Q3.率直に意見を言ったら嫌な顔をされてしまい、言いたいことが言えない

傾聴やコーチングでは、相手の話を最後まで聴いて、否定せずに受け止めることが求められます。

部下の話をさえぎって、自分の意見を言ってしまっては、部下はもう自分の意見を言わなくなります。

たとえ明らかに間違っていると思っても、いったん受け止めた上でこう考えたほうが良いんじゃないかとアドバイスするようにしましょう。

Q4.仕事の進捗報告ばかりで終わってしまう

1on1は、部下とのコミュニケーションを活性化し、部下の成長を促すための場です。

仕事の進捗報告は別途行うようにしましょう。

フォーマットに沿って事前に内容を考えておけば、その内容に話すことになるので進捗報告は自然となくなります。

Q5.上司にリスケされることが多くてやる気が感じられない

基本的にリスケはしないようにしましょう。

頻繁にリスケされると、上司はやる気がない、自分に向き合うつもりがないと部下は思ってしまいます。

体調不良やどうしても実施できないときは、規定のフローに従ってリスケをします。

またリスケする際は、あとで決めるのではなくその場で次回のスケジュールを設定しましょう。後からでは間が空きすぎたり、そもそも設定を忘れる危険があります。


実践で使える!1on1の質問70例

1on1で実際にお使いいただける、部下の話を引き出す質問例をご紹介します。

1.プライベート

  • 休日はどんな風に過ごしていますか?
  • 最近ハマっていることはありますか?
  • 実家ってどこでしたっけ?
  • 食べ物の好き嫌いってありますか?
  • 仕事以外で楽しかった/辛かったことはありますか?
  • どんなときにモチベーションが上がりますか?

2.心身の健康状態

  • 睡眠時間は確保できていますか?よく眠れていますか?
  • 体調面で気になることはないですか?
  • 業務量が増えすぎていないですか?
  • 家に仕事を持ち帰っていたりしますか?
  • 周りの人たちと特に問題なくやれてますか?

3.部下のモチベーション

  • 何か困っていることはありますか?
  • 何か気になっていることはありますか?
  • (それを)詳しく聞かせてもらえますか?
  • ~~について〇〇さんがすごいほめてましたよ。
  • 先日の~~はありがとう。とても助かりました。

4.現在の業務・組織課題

課題の発見

  • 業務上で困っていることはありますか?
  • それを課題だと考える理由は何ですか?
  • いまの達成度合いは何%ですか?
  • 今後懸念していることはありますか?
  • 何があったらもっと仕事がやりやすくなりますか?
  • いま行動を止めてしまっている理由は何だと思いますか?

行動の決定

  • 100%にするには何が必要ですか?
  • 何があると達成できそうですか?
  • (ロールモデルとしている)〇〇さんならどう考えると思いますか?
  • 達成後のイメージはどんな感じですか?
  • やめるべきことは何ですか?
  • 何から始めますか?
  • それを誰と一緒に進めますか?
  • どのように進めますか?
  • いつまでに始めますか?
  • 起きうるリスクはなんだと思いますか?
  • 今日から実践できることは何ですか?
  • もっとこうしたいなどの要望はありますか?

組織全体の改善

  • 今のチームの良いところ/悪いところ(課題)は何があると思いますか?
  • もっとチームを良くするために何をしたらいいと思いますか?
  • やっていて無駄だと思う業務はありますか?
  • 最近チーム内に気になっている人はいますか?
  • 私(上司)にしてほしいことってありますか?

5.目標のフィードバック・支援

目標

  • この目標の進捗はいかがでしょうか?
  • 何か困っていることはありますか?
  • 手助けしてほしいことはありますか?
  • 達成できた要因・達成できなかった要因は何だと思いますか?
  • この半期で特に頑張ったことはなんでしょうか?
  • 次の期間で目標にしたいことは何ですか?
  • なぜその目標を目指したいですか?
  • この目標を達成すること得られることは何だと思いますか?
  • この目標をやらないことで失うことは何だと思いますか?
  • この目標を達成するために必要なことは何だと思いますか?
  • この目標を達成するために武器となるものは何が考えられますか?
  • この目標を達成するために効率化すべきことは何だと思いますか?

評価

  • 今期の自分に点を付けるなら何点ですか?
  • その理由は何でしょうか?
  • 特に意識したことは何ですか?
  • 何をしたら更に点数を伸ばせましたか?
  • 何が足りなかったと思いますか?
  • 今期身に付いたと思う能力・スキルは何だと思いますか?

6.キャリア・能力開発

  • 社内に模範としている人(ロールモデル)はいますか?
  • 今期(来期)に特に頑張りたい仕事は何ですか?
  • 自分の今の強みは何だと思いますか?
  • 自分の今の弱みは何だと思いますか?
  • 一番やりがいを感じることはなんですか?
  • 今後チーム・会社でどういう貢献をしていきたいですか?
  • 他部署でやってみたい仕事はありますか?
  • どんな人でありたいと考えていますか?
  • これからどんな能力を伸ばしていきたいですか?

7.戦略・方針の共有

  • 先の会議でこういうことが決まりました
  • どういう背景かを説明すると~…
  • そう結論付けた理由は~
  • 〇〇さんには~~をやってほしいです

1on1のやり方を学ぶ上で役立つ参考文献

1on1のやり方を学ぶ上で役立つ参考文献をご紹介します。

本記事を執筆するにあたっても参考にさせていただきました。

本間浩輔『ヤフーの1on1―――部下を成長させるコミュニケーションの技法
本記事でもご紹介したヤフーの1on1について詳細に紹介されています。
1on1に取り組む目的、得られる効果、導入の仕方、対話の方法論まで非常に詳しく書かれています。
1on1をやる際には必ず読みたい一冊です。

世古詞一『シリコンバレー式 最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング
1on1ミーティングのノウハウを、最も体系的に記している一冊かと思います。1on1を実施する際には、こちらも必読かと思います。

由井俊哉『部下が自ら成長し、チームが回り出す1on1戦術――100社に導入してわかったマネジャーのための「対話の技術」
100社以上に1on1を導入して得られた実践的なノウハウがまとめられています。特に1on1に必要なスキルについて詳しく書かれているので、1on1のやり方を習得したい方にはおすすめです。

小倉広『任せるリーダーが実践している 1on1の技術
元リクルートの著者が、1on1ミーティング導入するための方法論を詳しく解説しています。
1on1の導入の際には是非参考にしたい一冊です。


まとめ

1on1ミーティングは以下の流れで進めていきます。

  • ステップ1.事前準備をする
  • ステップ2.1on1ミーティングを実施する
  • ステップ3.記録(ログ)を残す

また1on1で話すべき内容は以下の通りです。

  1. プライベート
  2. 心身の健康状態
  3. 部下のモチベーション
  4. 業務・組織課題
  5. 目標設定・評価
  6. キャリア・能力開発
  7. 戦略・方針の共有

1on1では以下のスキルが求められます。

  1. 傾聴(アクティブリスニング)
  2. ティーチング
  3. コーチング
  4. フィードバック

1on1では以下のポイントを押さえておくと上手くいきやすくなります。

  • ポイント1.部下と向き合うスタンスが大前提
  • ポイント2.ティーチングは意識して控える
  • ポイント3.オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを使い分ける
  • ポイント4.ネクストアクションを必ず設定する
  • ポイント5.部下に1on1を開催してもらい主体性を持たせると継続できる

本記事でご紹介した記入フォーマットや質問例を活用し、ぜひあなたの1on1を最高のものにしてください。