2022年にはイベント開催の制限も徐々に緩和され、全国各地で町おこしを狙ったイベントや地方創生の取り組みが盛んに行われています。新たな地域イベントを実施するにあたり、集客に課題を抱える企業・団体も多いのではないでしょうか。
今回は、デジタル集客を地域の広告会社が中心となって支援し、地域イベントを成功させた取り組み例をご紹介します。
2022年9月に宮城県仙台市で開催された「TOHOKU クリエイターEXPO」では、若い世代を中心に近隣住民を4,000人集め、盛況に終わりました。集客にはターゲット層に合わせてInstagramとTwitterを活用し、わずか2週間で目標を大幅に上回る成果を上げています。
インタビューは、本イベントにおけるデジタル集客を支援した株式会社デジタルゴリラ 代表取締役 菊池 習平さんに伺いました。
目次
来場者4,000人のうち4割が2~30代!InstagramとTwitterを集客媒体に活用
株式会社デジタルゴリラ 代表取締役
地元仙台のデジタルマーケティング企業にて、WEB広告の設計および運用、コンテンツマーケティング、ソーシャルメディア支援業務に従事したのち独立。仙台と関東を中心に、企業のデジタルマーケティング戦略設計から運用までを支援している。
――「TOHOKU クリエイターEXPO」の成果をお教えください。
菊池氏:まず集客面での成果として、イベントの来場者数は2日間でのべ4,000人でした。メインターゲット層であった20~30代の若い世代が約4割を占める結果となりました。企業運営かつ初開催のイベントの集客としては大成功と言えます。
また、本イベントの主目的は「地元に根付いている企業と、地元で活動しているクリエイティブな企業や人とをつなげること」でした。こちらも達成できていて、地域で大きな力を持つ企業とご縁ができたり、ご来場された地元の経営者と新たな接点が生まれてお仕事につながったりもしています。
――デジタル集客の施策面ではどのような成果を出すことができたのでしょうか。
菊池氏:InstagramとTwitterのみを活用し、目標は累計100万インプレッションに設定していました。結果はオーガニックの投稿と広告、そしてインフルエンサーの3つを合わせて累計103万と、ほぼ目標通りの結果を出すことができました。
中でもInstagramは、新規にアカウントを開設したため運用期間は約2週間でした。イベント当日時点でのフォロワーは約350人でしたが、特にバズっていない状況下で76,000以上のインプレッションを獲得しました。
――デジタル集客領域の運用体制をお教えください。
菊池氏:弊社が担当した部分は、Web広告設計と運用、インフルエンサー選定を含むSNS運用のアドバイザリーの大きく2つです。クリエイティブ制作、実際のSNS運用、関係者への協力依頼は別の運営メンバーが担当していました。
2週間で100万インプレッションを達成。SNS施策の役割分担と連携がシナジーを生む
PDCAが回せない状況の中で最善の目標を設定
――先ほど、Instagramはアカウント開設から2週間とありましたが、集客期間が短かったのでしょうか。
菊池氏:はい。今回のイベント集客にあたっての大きな課題が、準備期間の短さと低予算の2点でした。
イベント企画が決定してから当日までが約1ヵ月間で、集客に利用できる期間は実質2週間だったんです。集客面では、集客方法や運用方針を先んじて主催と決め、スポンサー企業が決まり次第活動を開始した流れです。
広告運用やSNS運用も、基本のセオリーはコンバージョンを計測し、パフォーマンスを見て改善していくものですが、事前予約を設けないリアルイベント集客の場合、成果は最後にしか出てきません。
予算面でも、スポンサー企業の協賛金と市の補助金が運営資金のすべてでしたので、限られた期間と限られた予算で、一発勝負で最大のパフォーマンスを出さなければならないことが課題でしたね。
――どのように集客の方針を決めたのでしょうか。
菊池氏:デジタル集客では3,000人を目標に掲げており、出店者の皆さまにご満足いただくには最低でも1日あたり1,000人は必要だろうと考えていました。
集客手法としては、予算が少ない中で媒体を増やしても成果が見込めないと考え、InstagramとTwitterのみに決めました。理由は3点あります。
- メインターゲット層の2~30代と相性がいい
- すべてSNS上で完結することで施策が連携しやすく、相乗効果が生まれやすい
- スポンサー企業募集のフックとして活用できる
同時期にスポンサー企業募集も行っていたため、スポンサー企業にとって魅力のある施策が必要だった背景があります。SNS活用にご興味をお持ちの企業が多く、アピールしやすい施策としても有効でした。
――目標の100万インプレッションを設定された背景をお教えください。
菊池氏:予算との兼ね合いとスポンサー企業へのアピール要素を踏まえ、理論的にも3,000人以上の集客が見込まれる数字です。
・広告:70万インプ×来場率0.2%=1,400人×同伴者1.3=1,820人
・運用:10万×0.5%=500人×1.3=650人
・インフルエンサー:20万×0.5%=1,000人×1.3=1,300人
オーガニック運用のインプレッション目標は、運営個人や出店者アカウントの数と事前のインサイト情報から推定される、1投稿当たりのインプレッション数をもとに設定しています。エンゲージメントの高いフォロワーを持つインフルエンサーや出店者、運営メンバーは来場率を高めに設定しています。
なお、来場者数の集計にはLINE公式アカウントを利用しましたが、アトリビューションを正確に測ることは難しいと判断し、流入経路は集計していません。そのため、重複が前提になった高めの数値を設定しています。
――集客において、インプレッション数以外で注力した点はあるのでしょうか。
菊池氏:はい。理論値としてインプレッションを目標には立てていましたが、実際のところインプレッションが多い=集客数が多い、ではないですよね。インプレッション数だけを追い求めるなら、インプレッション単価が安いところに出稿すればいいだけの話です。しかしそうではなく、当日の来場につながるホットな層に向けて、行動を促す情報を届けられるかが運用の大きなテーマになっていました。
オーガニック投稿は公式アカウントへのリファラルと来場者の利便性を重視し、イベントへの関心を高めた
――ここからは、実際の運用のお話をお伺いします。広告、オーガニック運用、インフルエンサーを利用されていますが、一番苦労した施策はなんでしょうか。
菊池氏:オーガニックの運用ですね。広告は瞬発力があるので特段問題はないのですが、SNS運用は短期間で伸ばすことは非常に難しいため、頭を悩ませたポイントでした。本来のSNSは日々の積み重ねでアルゴリズムに愛された結果、多くの人にリーチできるものです。
今回、Instagramは新規アカウントを開設し、Twitterは主催企業のアカウントを一時的に利用しました。元々運用に力を入れているアカウントではなかったため、ほぼ1からの状況です。
バズる投稿は短期間で狙ってできるものではないので、すでに一定のインプレッションや、一定のエンゲージメントが確保できているアカウントにシェアされることが非常に重要でした。
――オーガニック運用での目標はシェアによる拡散を狙ったのでしょうか。
菊池氏:そうですね。各施策に役割を持たせており、オーガニック運用では関連アカウントからのリファラル来場と、来場者の利便性を重視しています。
抽象的な表現ですが、活発な印象を与え盛り上がりを演出することで、イベントと運営している「人」に興味を持つように設計しています。具体的には公式アカウントの投稿を、コアとなる運用メンバーと出店者の計約50アカウントに引用してもらい、SNS上での関連アカウント間の交流を増やしました。
ストーリーズはユーザー参加型のコンテンツとしても利用できるので、イベント来場予定のユーザーとのエンゲージメントを生むこともあります。特にInstagramは質が高く、公式のプロフィールアクセス数も8,500と興味を持っていただけました。
例えば、エリア外の広告会社が同様の運用をしようとすると、多数のインフルエンサー起用やユーザーをアンバサダー化する形に近くなります。関係者を最大限活用した複数アカウントでの仕掛けは、運営が地元に根付いているからこそできた仕掛けです。
短期間の広告は一発勝負。未リーチ層の開拓とインプレッション数を追う
――続いて、SNS広告の運用についてお伺いします。広告の役割は何だったのでしょうか。
菊池氏:多くのユーザーに届けることができる広告の役割は、未リーチ層の開拓とインプレッションです。インプレッション最大化を目標に、Instagram広告とTwitter広告を利用し、結果は計68万インプレッションでした。
運用面では、PDCAを回す期間の余裕もないため、一発勝負です。指標はインプレッションですので、オーガニック運用と比べれば難しくはありませんでした。
――どのようなターゲット設計で配信されたのでしょうか。
菊池氏:3種類のセグメントに向けて配信を行いました。エリアのほか、出店ブースのジャンルに興味・関心を持っている人にターゲットを設定しています。
ターゲティングを絞りすぎるとインプレッション単価が高くなってしまうので、予算と目標を達成するためにポートフォリオを調整していった形です。
セグメントの分け方
- broad配信・インプレッション重視(インプ確保目的、地域のみで絞り込み)
- broad配信・クリック数重視(クリエイティブから特に興味をもったユーザーに対し最適化・地域のみでの絞り込み)
- 興味関心(来場者ターゲット属性、アートやデジタル、フードなど出店ブースに関連したもの)
――オーガニック投稿とのクリエイティブ面での違いや、運用面での工夫はありますか?
菊池氏:大きな違いは、広告では見て完結できる「日時・場所・コンセプト」を、オーガニックでは「人」にそれぞれフォーカスを当てるよう工夫しました。
そのほか、広告の遷移先もイベントサイトだけでなく、SNSのプロフィールにも設定していました。広告流入のユーザーに対しても、オーガニックでの盛り上がりの様子を見せ、イベントとその運営にも興味を持っていただけるように導線設計しています。
インフルエンサーの強みはインプレッションと“濃い”ファン。最大限の裁量を与え、ファンの来場を狙う
――最後に、インフルエンサー活用についてお伺いします。広告・オーガニック運用との役割の違いは何でしょうか。
菊池氏:インフルエンサーの役割は来場者とインプレッションです。コアなファンがついていることが想定されるため、来場に寄与しやすいと考えていました。
今回2名のインフルエンサーに依頼し、フォロワー数は合わせて50,000以上でした。投稿はエンゲージメント率が高く、オーガニック投稿の4倍強の反響がありました。また、二人でフィードが3件、ストーリーズが1件の計4件の投稿で約22万のインプレッションを達成しました。
――インフルエンサー選定を担当されたとのことですが、注意されたポイントはありますか?
菊池氏:普段から地域の魅力を発信している人、かつイベント内容に通じるクリエイティブな印象を受ける人、という点は押さえました。今回お願いしたお二人は、ともに普段から地域の施設や食、人、モノなどを投稿されている方々です。
インサイト情報も確認し、どの程度のインプレッションが見込めるかの事前チェックは依頼前に行っています。
運用で注意した点は、普段の投稿と同様のトンマナによる投稿をしていただくこと、投稿内容はインフルエンサーに最大限の裁量を持たせることです。
首都圏から遅れを取っているITやデジタル分野。地域経済にデジタル活用の波を起こすきっかけに
イベントで生まれた「人のつながり」は大きな成果。東北を代表するイベントのひとつにしたい
――ここまで運用面のお話を伺ってまいりました。イベントでの集客支援や運営活動の全体を通して、どのような部分が地元に貢献した部分だと感じられますか?
菊池氏:イベントを通じて、地元で、かつ個人で活躍している人たちの存在を知ってもらえる機会が作れたことです。
地元企業とクリエイティブな企業や人をつなげることで、地元にデジタル活用の輪を広げることにもつながったと考えています。関係者全員の協力があって成し遂げられました。また、今回は出店者もすべて宮城や東北エリアで活動されている方でした。コロナ禍でイベントの開催自体が少ない上に、NFTアートなどのそもそも出店機会自体が少ないクリエイターもいらっしゃいました。
来場いただいた地域の方がこれまで知らなかったサービスや商品など、新しい世界を体感していただける場を作れたことは、地元で活動する方々の応援に通じる活動だったと感じます。
――では、イベント支援を通して、嬉しかったことはどのような点でしょうか。
菊池氏:イベント当日には運営として会場に入っていたので、自分たちが作り上げたもので、多くの方が喜んでいる様子を自分たちの肌で感じられたことが嬉しかったですね。
また、スポンサー企業や地元メディアの方々からも「来年もまたこのイベントをやって欲しい」といただきました。運営メンバーとしても継続的な開催に意欲がありますし、東北を代表するようなイベントに成長させていきたいですね。
――来年の開催が決まった場合、よりよくしたい部分などはありますか?
菊池氏:集客に関しては、特にソーシャルメディアを活用する領域では「人」に集まる力の強さを実感しました。今後も、よりイベントの運営者や関係者を巻き込んだマーケティング施策を打っていくことが成功の鍵です。
運用や広告にもっとリソースが割けるように予算を確保していただければ、1万人集客も目指せます。
魅力的な地元産業をデジタルの力で全国へ
――デジタルゴリラ社にとって、地元をご支援する理由とは何でしょうか。
菊池氏:宮城や仙台は首都圏と比較して、Webやデジタル媒体のマーケティング活動、DX推進などは遅れ気味です。考えられる理由は様々ですが、「地元企業が、地元にクリエイティブなマーケティング企業や人がいることを知らない」「どんな課題を解決できるのか知らない」という問題があると考えています。
今回のようなマーケティング支援は、地域経済にデジタル活用の波を起こすことにつながると考えています。弊社の支援により、魅力的な地元企業や人にデジタルマーケティングが浸透し、デジタル活用の輪が広がることで、地元のおいしい食べ物や魅力ある産業が全国に広がっていくと期待しています。
――最後に、地元である仙台に対する想いをお聞かせください。
菊池氏:私自身、ずっと宮城県に住んでいますが、地域に貢献したい理由、地域を盛り上げたいと思う理由は「生まれ育った土地で人とのつながりがあるから」です。
仙台で新しいお客様とお話すると、実は知り合いの知り合いだった、といったことが非常に多いんです。デジタルマーケティング支援を通じて地元の誰かのお役に立てたら、間接的に、周りにいる自分のことを大切にしてくれている人たちを幸せにできると考えています。人のつながりや輪がどんどん広がり、深まっていくといいなと。我々はそのきっかけになれたらと思います。
さいごに
今回は、デジタルゴリラ社の菊池様に地域イベントの集客について伺いました。
コロナ禍におけるイベント開催制限も緩和されている地域が増えています。地元でのイベント開催を企画し、集客を模索されている企業や団体も多くいらっしゃると思います。今回取材した「TOHOKU クリエイターEXPO」の集客では、十分な準備期間がない状況からSNSでの相乗効果を狙い、関係者を巻き込んだ集客施策を実施され、成功に導いています。
地域企業や人との深い関係値を持つ地元の広告会社だからこそできた施策内容は、同じく地域でデジタルマーケティング支援を行う企業にとっても参考になったのではないでしょうか。
お忙しい中、ありがとうございました!
株式会社デジタルゴリラについて
本社:宮城県仙台市
21年7月に創業し、2期目となるデジタルマーケティング企業。クライアント個々の課題やニーズを把握した上で、戦略立案から運用、SEO対策、インハウス支援などをトータルで支援する。
コーポレートサイト:https://digital-gorilla.co.jp/
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