残業申請制でトラブルを防ぐ!導入方法や残業管理のポイント3つを解説

業務を進める上でどうしても社員に残業をしてもらわなれければならない場合があると思います。

残業時間を把握できているのであれば問題ありませんが、「社員が無断で残業している」「タイムカードに計上せず、サービス残業をしている」など社員の残業状況を管理できておらず、課題に感じている企業も多いのではないでしょうか。

このような課題をお持ちの企業は残業を申請制にすることで解決できる可能性があります。

残業申請とは、社員が残業内容を上司に申請し、承認された場合にのみ残業を行う方法です。

残業を申請制にすることで無駄な残業時間が減り、長時間労働の解消による働き方改革、職場改善につながります。

本記事では、残業申請制の必要性やメリット、導入する際の流れや注意点についてまとめました。

この記事を読むことで残業申請制が必要かどうか判断でき、導入する際もスムーズに手続きができるようになります。


残業申請の必要性

知らないうちに「残業時間が労働基準法や36協定に違反していた」とならないためにも、残業の申請制度を導入する必要性があります。

残業申請が必要な理由として、以下の2つがあげられます。

  • 労働基準法の違反防止になるため
  • サービス残業によるトラブル・裁判を防ぐため

詳しく解説します。

労働基準法の違反を防ぐため

残業を申請制にすることで社員一人一人の残業時間を管理でき、労働基準法違反の防止になります。

労働基準法で1日8時間まで、1週間では40時間と労働時間が決められており、これを超える場合には社員と企業間の労使間で36協定の締結が必要です。

残業時間を管理できていないと法定労働時間や36協定で取り決められている労働時間を社員も管理者も知らないうちに超過し、法律違反となる可能性があります。

労働基準法の違反が発覚した場合には「1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金」、36協定に違反した場合は「6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金」が課せられます。

参考:36協定で定める時間外労働及び休日労働について留意すべき事項に関する指針|厚生労働省

残業を申請制にすれば、残業時間への意識が高まりやすくなるため、残業時間の超過や労働基準法の違反を未然に防ぐことができます。

サービス残業によるトラブル・裁判を防ぐため

残業を申請制度にすることで、サービス残業によるトラブルや裁判を防ぐことができます。

サービス残業が横行すると社員の働き方に関する満足度が低下するだけでなく、残業代未払いによる裁判に発展する可能性があります。

また、サービス残業の横行が明らかになることで会社の評判低下にもつながります。

社員にサービス残業をさせないためにも、残業を申請制にすることが大切です。


残業申請によって得られるメリット

残業申請制度にすることによって得られるメリットは以下の通りです。

  • 無駄な残業代を減らすことができ、コスト削減につながる
  • 上司・部下間で業務内容を共有することで生産性向上につながる
  • 社員のメンタルヘルスの改善につながる

詳しく解説します。

無駄な残業代を減らすことができ、コスト削減につながる

残業を申請制にすることで生活残業(残業する必要のない業務であっても生活のために残業代を稼ぐ行為)を未然に防ぎ、無駄な残業代によるコストを削減できます。

生活費のために業務が終わっているにもかかわらずタイムカードを切らずに会社に残っている社員がいる場合は、余分に残業代を賃金として払わなければならない可能性があります。

上司が「残業が必要な業務かどうか」を判断し承認するフローをもうけることによって、無駄な残業を防いでコストを削減することができます。

無駄な残業がなくなれば、社員一人一人の残業時間も少なくなり、労働基準法や36協定に違反するリスクも下げられます。

参考:【担当者必見】人件費削減を成功させるための方法5選を紹介

上司・部下間で業務内容を共有することで生産性向上につながる

残業申請時に残業する理由も合わせて共有してもらうことで、残業時間に制限をかけたり、不要な業務については上司の判断で残業を拒否することができます。

上司は部下から共有された情報を元にタスク量やスケジュールを変更できるので、業務効率化が実現可能です。

また、残業業務が明確になることで社員自身も時間を意識して業務に取り組むようになります。

時間を意識することで無駄な作業を減らせるため、生産性向上につながります。

社員のメンタルヘルスの改善につながる

残業申請を取り入れて社員一人一人の残業時間を減らすことにより、メンタルヘルスの改善につながります。

厚生労働省により公表された平成29年版過労死等防止対策白書では、残業時間を0に近づけることでメンタルヘルスの良好化につながることが記載されています。

ただし、残業申請を取り入れることで残業時間が0になるというわけではありません。

残業申請を通じて業務量を適切な量に調整して残業時間を減らすことが、結果的に社員のメンタルヘルスの改善につながります。


残業申請を導入する際の手順

残業申請の導入の流れ

残業申請を導入する際の手順は以下の通りです。

  • 導入前の事前確認
  • 就業規則の変更
  • 残業申請書の作成

詳しく解説します。

1.残業申請の導入前の事前確認

残業申請を取り入れる前に以下の事前確認を行う必要があります。

  • 労務・人事・経営陣の理解を得る
  • 残業の申請から承認までのフローを取り決め
  • 残業申請の承認時のイレギュラーが発生した時の対応方法

残業申請を取り入れるためには残業時間を管理しないと「法律に違反する可能性」「社員の訴えによる裁判の可能性」等を伝え、残業申請を取り入れるべき理由を理解してもらうことが必要です。

理解が得られたら残業申請を承認するフローを決めます。

あわせて残業申請時にイレギュラーが発生した時の対応方法なども決めておきましょう。

例えば、「グループの責任者クラスであれば、直属の責任者でなくても残業申請の承認ができる」といったルールを適用するなど、さまざまな決まりを作る必要があります。

残業申請を優先するあまり業務に支障が出ないよう承認までのフローを整備しましょう。

2.就業規則の変更

残業申請を取り入れる際には就業規則の変更が必要です。

残業は原則申請制とする旨を記載し、残業申請の規定を記入します。

  • 残業申請の時間(15分・30分単位など規定すれば時間内に業務を遂行する意識が生まれ生産性につながる)
  • 所定労働時間終了前に申請を行う

上記のような規定を決め、就業規則に明記します。

就業規則が変更した場合は、労働基準監督署に届けることと社員に周知することを忘れないようにしましょう。

労基法106条1項、労基則52条の2では、「就業規則を作成し、労基署へ届けるだけでなく、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は、備え付けること、書面を交付すること、又はコンピュータを使用した方法によって、労働者に周知させなければならない」と定められいます。

守らなかった場合は30万円以下の罰金が処せられるので気をつけてください。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

3.残業申請書の作成

残業申請を取り入れる準備ができたら、社員が記入する残業申請書を作成します。

残業申請書には以下の内容を記載しましょう。

  • 残業予定時刻と残業理由
  • 上司の承認
  • 実際に要した残業時間
  • 上司の確認

残業申請の書類は、社員ごとに保管できるボックスやファイルを準備しておきましょう。

残業申請書のサンプルは以下のサイトからダウンロード可能です。

参考:残業申請書のサンプル|bizocean(ビズオーシャン)-書式・テンプレートのダウンロードサイト

メール・チャットなど、テレワークを導入している企業で残業申請を行う場合は、専用の申告内容を作成し、残業申請用のチャットやメールを送付しましょう。

参考:テレワーク下でも残業管理できる方法とは?残業を抑えるコツや注意点

メールやチャットで残業申請等を行う場合は、「ワークフローシステム」を使えば、申請・承認・保管まで一貫して行えるためスムーズです。

参考:【2022年最新版】ワークフローシステム(電子稟議)主要25ツールを徹底比較!選び方、導入の流れも解説


適切に残業管理をするためのポイント

残業を申請制にしたとしても、会社全体で残業に対する意識を変えなければ、残業時間や社員を管理することはできません。

社内に「残業=仕事をしている」という意識が根付いている場合、残業が申請制になったとしても、残業時間は変わらないでしょう。

適切に残業を管理するためのポイントは以下の通りです。

  • 残業時間の限度を決める
  • 人事評価を見直す
  • 勤怠管理システムを導入する

詳しく解説します。

残業時間の限度を決める

残業時間の限度を決めることで規定の時間を超過しそうな場合は残業を強制的に止めることができます。

残業時間を制限することで「超過しないように業務を調整する」ことが可能になるため、残業時間の超過を防ぎ、適切に管理できます。

残業時間の限度を決める際には、36協定の時間外労働・休日労働の上限を合わせて設定しましょう。

【36協定による時間外労働の上限】

  • (1)時間外労働:年720時間以内
  • (2)月間の時間外労働と休日労働の合計:100時間未満
  • (3)時間外労働と休日労働の1カ月平均:80時間以内

月間の時間外労働と休日労働の合計では100時間未満と記載していますが、2〜6ヶ月平均で80時間以内にする必要があります。

時間外労働と休日労働が月間で99時間だった場合、以降の5ヶ月間に関しては時間を制限する必要があります。

参考:時間外労働の上限規制 わかりやすい解説|厚生労働省

人事評価を見直す

残業を適切に管理するためには人事評価を「業務した時間」ではなく、「業務効率化に対する取り組み」や「業務時間内の成果」を評価するような見直しが必要です。

日本の企業では今でも「残業をしている人のほうが評価されやすい」と感じている方も多いです。

残業への意識を変えるためには、先に人事評価や制度を変える必要があります。

人事評価を見直す際には以下の評価や制度の導入を検討しましょう。

評価・規則内容効果
コンピテンシー評価どのようなプロセスを実施し、実施した結果どのような成果が生まれたかを評価する方法年齢や性別、上司との相性や業務時間などに左右されない評価をつけられる。
360度評価上司のみが評価を行うのではなく、一人の社員に対して複数人が評価を行う手法。複数人から多面的に評価することで公平で信頼性の高い評価をつけられる。業務時間による評価等がなく、公正な人事評価につながる。
ピアボーナス制度社員同士で評価し合う制度。評価がポイントや社内コインになり、休暇の申請や食事会の費用、現金に交換するなど、さまざまな報酬を設定できる。組織風土の改善やコミュニケーションの活性化、業務の分担などが活発に行われる。残業時の業務分担や社員同士の助け合いが生まれ、業務効率化につながる。

これらの評価方法や規則を導入することで、残業に対する考え方が変わる可能性があります。

参考:人事評価の基本と流れを解説!部下の力をのばす評価の仕方とは?

勤怠管理システムを導入する

できるだけ漏れがなく正確に残業管理を行うためには、社員の勤怠状況を可視化できるシステムを使うのがおすすめです。

システムの中には既定の残業可能時間を超えても業務を続ける社員をアラートで知らせてくれるシステムもあります。

業務時間を自動で管理してくれるため、社員の業務時間を管理する担当者の業務効率化にもつながります。

勤怠管理システムに興味のある方はこちらの記事を参考にしてください。

参考:おすすめ勤怠管理システム10選!料金・サポート内容・機能など


残業申請を取り入れる際に注意すべきこと

残業を申請制にしたとしても「残業しなければ終わらない業務量」や「明日に回せる業務の残業申請も承認してしまうような形だけの制度」になってしまっては、残業申請の意味がありません。

残業申請を取り入れる際には以下の3点に注意して下さい。

  • 残業申請のルールやシステムが形骸化しないよう管理する
  • 残業代を切り捨てしない
  • 黙示的指示が発生しないよう業務量の調整を行う

詳しく解説します。

残業申請のルールやシステムが形骸化しないよう管理する

残業申請の形骸化を防ぐために「残業を承認する業務・しない業務に分ける」といったルールを決めておきましょう。

例えば、書類のコピーやデスクの片付けなどいつでもできる業務は残業とはみとめず、クライアントが関わる業務のみ残業申請を承認するなどのルール決めが大切です。

残業を許可する内容を決めずに制度だけ取り入れても、残業時間の削減はおろか、時間やコストをかけて導入したはずの残業申請制度が無駄になってしまいます。

「申請してもすべて承認されるし、一度申請を忘れたときに何も言われなかったから申請せずに残業しよう」という状態にしないよう、残業の管理を行いましょう。

残業代の切り捨てをしない

残業代に15分や30分単位の区切りをつけ、それ以下になる場合に切り捨てることは労働基準法に違反します。

労働基準法第37条は、労働者が残業をした場合は割増賃金を支払わなければならないと規定しています。

労働者が1分でも残業をした場合は残業代が発生するので、使用者の判断で勝手に切り下げることは違法になります。

例えば、残業時間が15分未満の場合は切り下げて残業時間を0分にするといった行為は違法ですので注意してください。

基本的に残業時間の切り捨ては違法とされていますが、1ヶ月単位で30分区切るのは可能です。

ただし、1ヶ月の残業時間の内、30分未満の端数がある場合は切り捨て、30分を超える場合は1時間に切り上げするなど行為は認められています。

参考:労働基準法 | e-Gov法令検索

黙示的指示が発生しないよう業務量の調整を行う

黙示的指示が発生しないように業務量の調整を行うことも大切です。

「黙示的指示」とは、上司から直接指示がなかったとしても、指示があるものとして行動せざるを得ない状況のことを言います。

例えば、業務時間内に終わらない業務を上司から依頼され、業務が終わらない場合は「担当社員の仕事スピードが遅い」という理由から残業の申請がしにくく、サービス残業を強いられるケースが挙げられます。

残業を申請型にしても業務量が変わらず、上司に隠れてサービス残業を行っている場合でも黙示的指示が働いているとして、企業が未払いの残業代の支払い義務を負う可能性があります。

残業代未払いによる労使間トラブルがあると企業の評判悪化や離職率上昇の可能性があるので、黙示的指示が発生しないよう業務量の調整を行うことも大切です。


まとめ

この記事では、残業申請の必要性や導入方法、残業の管理方法や残業申請を取り入れる際の注意点について解説しました。

残業申請は社員の労働時間が労働基準法に抵触しないための防止策になります。

残業申請を取り入れることで「残業代のコスト削減」「業務の生産性向上」「社員のメンタルヘルス改善」など、社内環境の改善につながりますので、社員の業務時間で悩んでいる方は導入すべきです。

導入時には以下の準備が必要です。

  • 導入前の事前確認
  • 就業規則の変更
  • 残業申請書の作成

就業規則を変更する場合は、労働基準監督署に届けることと社員に周知することを忘れないようにしましょう。

残業申請を取り入れたからといって、社員の労働環境が大きく変わるわけではありません。その後の管理が重要になります。

  • 残業時間の限度を決める
  • 人事評価を見直す
  • 勤怠管理システムを導入する

業務時間で評価をしている企業は人事評価を見直すなど、できるだけ残業時間を増やさない管理をしましょう。