企業が生産性向上を成功させるために実践すべき11の方法を紹介

生産性向上とは、投入資源に対して成果物の量を増やす考え方のことです。

例えば、今までよりも少ない従業員数で、より大きな利益を獲得できれば、その組織は生産性が高いと言えるでしょう。

現在は数多くの業界で人手不足が深刻な問題となっていますが、だからこそ従業員一人ひとりの効率性を高め、会社全体の生産性を向上しなければなりません。

生産性が向上し会社の成果物(利益)が増えることで、従業員にも給与として還元される可能性があるため、生産性向上に取り組むべき意義があります。

本記事では、少ないコストで最大のパフォーマンスを上げるために必ず押さえておきたい「生産性向上」について、原則となる考え方から具体策まで徹底解説します。

「生産性の低下により、社内全体で無駄な残業が増えている」
「生産性の低さを上司に指摘され、改善策を考えるように言われた」

本記事は、このように悩む人事担当者の方におすすめです。

この解説を最後までお読みいただければ、生産性を向上させる方法が理解できるのはもちろん、自身も含めて従業員全員が気持ちよく働けるようになります。

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目次


生産性向上とは「投入資源に対する生産量」

生産性とは、労働力や資本といった投入資源に対して得られた生産量の比率を表します。

生産性の式

ここで言う生産量とは、生産活動によって生まれた利益や付加価値を指します。

つまり、少ない労働力や資本から多くの利益を生み出せたとすると、その企業は「生産性が高い状態である」と言えます。

このような内容は、以下のように計算式で表すこともできます。

生産性=得られた成果物÷投入した生産要素(労働力資本)
生産性が高い=多くの成果物÷少ない生産要素

例えば、10人の従業員を抱えるA社と20人の従業員を抱えるB社を比べるとしましょう。

A社とB社の営業利益がともに1,000万円だった場合、A社の生産性は100万円、B社は50万円となり、A社のほうが生産性の高い企業であることがわかります。

このように生産性は数値化できるため、生産性向上の施策を行った場合は客観的なデータによる効果検証が可能です。


生産性向上のためには最初に方向性を決める

企業が生産性向上の施策を行うには、まず方向性を定めることが大切です。

その方向性には以下のような4つの種類があり、企業が現在置かれている状況によって取り組むべき施策が異なります。

施策の方向性取り組むべき企業の特徴
投入資源を減らす「投入した生産要素」と「得られた成果物」の量が均衡している状態の企業
成果を増やす「投入した生産要素」に対して「得られた成果物」が低い企業
規模の縮小事業部門によって生産性に大きな差が発生している状態の企業
規模の拡大「投入した生産要素」に対して「得られた成果物」が高く、すでにある程度高い生産性を維持しているが、さらに生産性向上をはかりたい企業

それぞれの施策の種類ごとに、取り組むべき企業の特徴や成功企業の事例をご紹介します。

投入資源を減らす

業務の無駄やコストを削減することで、余計な投入資源を減らす方法です。

成果物【一定】÷生産要素【減少】=生産性向上

生産量は変えないまま投入資源のみを減らすことにより、生産性を向上させることが可能となります。

投入資源を減らすべき企業の特徴

「投入した生産要素」と「得られた成果物」の量が均衡している状態の企業は、投入資源を減らすことで生産性向上がはかれます。

少ない生産量で多くの成果物を生み出すことができれば、生産性向上につながる仕組みです。

投入資源を減らして成功した企業の事例

「無印良品」のブランドで有名な株式会社良品計画は、店舗業務や本部業務にかかわる業務実施方法をマニュアル化しています。

商品の陳列方法や販売方法を統一することで、業務の標準化に加え、業務の見える化が実現されました。

マニュアルに基づいた業務の実施によって無駄が減り、定時退社率93.9%を達成しています。

また、すべての店舗で同様のサービスを提供できるようになった結果、10年間で売上・営業利益がともに2倍に成長するという大きな成果を生み出しました。

参考:【5つの施策例付】生産性向上に取り組むには、何からどう始めればいいのか?|d’s JOURNAL

成果を増やす

従業員のスキルアップによる成果増や価格の値上げなどにより、成果物の量を拡大させる方法です。

成果物【増加】÷生産要素【一定】=生産性向上

成果を増やす場合は、労働力や資本といった生産要素を増やさないようにするのがポイントです。一定の生産要素のまま、成果物の量のみが増えることにより生産性が向上します。

成果を増やすべき企業の特徴

「投入した生産要素」に対して「得られた成果物」が低い場合は、成果を増やす施策を検討すべきだと言えるでしょう。

本来は、少ない生産要素で多くの成果物を生み出せていると生産性が高いと言えますが、この場合は逆転現象が起きています。

従業員一人ひとりの質を高めることで、生産要素の量を変えずに成果物の量のみを増やせます。

成果を増やして成功した企業の事例

約100名の従業員を抱えるソフトウェア開発会社は、大手オンライン研修サービスを導入しました。

それまでに実施していた外部研修は、従業員が「学ぶ」だけで終わっており、現場で効果が現れないことから導入を決意します。

オンライン研修では、講座内容に紐づいた独自の「人事評価シート」を作成しました。

学習内容を現場で実践することでシート上での評価が高まるため、従業員が主体的に講座を受講し、学んだスキルを現場で生かすという仕組みが生まれました。

その結果、オンライン研修サービスを受ける前に比べて売上は16%増加し、年間1,000万円のコスト削減を達成しています。

参考:【事例紹介】主体的に学ぶ社員が増加し、全社の業績向上・コスト改善にも貢献|【エンカレッジオンライン】エン・ジャパンの入社後活躍支援サービス

規模の縮小

人員の削減や不採算部門の売却などにより、投入資源を減らしつつ生産規模を縮小させる方法です。

成果物【微減】÷生産要素【減少】=生産性向上

生産規模を縮小させることで成果物の量が減りますが、その減少量よりも生産要素を減らすことで企業全体の生産性が向上します。

規模を縮小すべき企業の特徴

規模を縮小すべきなのは、事業部門によって生産性に大きな差が発生している状態の企業です。

例えば、コンシューマー部門の生産性が「2.5」、法人販売部門の生産性が「0.5」だとすると、事業部門間で生産性に大きな開きが発生していることになります。

この場合、法人販売部門の生産性が極端に低く、採算割れが発生している可能性があるため、投入資源や生産規模を見直し、企業全体の生産性を向上させる必要があります。

規模を縮小して成功した企業の事例

印刷業界の老舗企業である株式会社フジプラスは、新型コロナウイルスの影響で2020年5~7月に売上が6~7割に激減しました。

そこで、ボーナスの大幅削減や60歳以上の役員全員に退任を促すなど、思い切った人事整理を敢行します。

さらに薄利多売のビジネスモデルを強いられてきた商業印刷部門においても、各事業所に分散していた印刷機の整理を進めました。

こうした人事整理や機械の集約を行った結果、2020年9月期の決算では黒字に回復しています。

参考:市場規模縮小、コロナ禍・・・、逆境を乗り越えるフジプラスの取り組み | Tech & Device TV

規模の拡大

採算がとれている部門で人員を増やす他、新しい設備を導入することで、投入資源と生産規模の両方を拡大させる方法です。

成果物【大幅増】÷生産要素【増加】=生産性向上

うまく採算がとれている部門へ投入資源を集中させることができれば、大幅な利益拡大につながり、生産性向上へと結び付きます。

規模を拡大すべき企業の特徴

「投入した生産要素」に対して「得られた成果物」が高く、すでにある程度高い生産性を維持しているものの、さらに生産性向上をはかりたい企業は、規模を拡大する余力があります。

注力したい事業に集中的に投資を行うことで、生産量と成果物の量をいずれも大幅に引き上げることが可能です。

ただし投資の増加率よりも業績の伸び率が低い場合、かえって生産性が低下してしまう可能性があるので注意が必要です。

規模を拡大して成功した企業の事例

今でこそもっともアクセス数の多い動画配信サイトに成長したYouTubeですが、もともとはユーザーが異性の画像をアップロードできる出会い系サイトを目指していました。

しかし、出会い系サイトのサービスではユーザーを思うように獲得できず、苦戦を強いられていました。

そこで、動画共有に特化した現在のYouTubeへと事業の方向性を転換させます。

セコイア・キャピタルから350万ドルの出資を募り、映画制作会社のワインスタイン・カンパニー、ディメンション・フィルムズとの提携や、YouTubeの映像をブログなどに貼り付けて簡単に視聴できるAPIの開発などに経営資源を集中させました。

現在のYouTubeの売上は約288億ドル(約3兆6,000億円)に達し、親会社であるAlphabet全体売上の約38%を占めています。

参考:動画返信が爆発的な成長をブースト「YouTube」の歴史(後編) | Strainer


生産性向上の具体的な施策11選

ここまでお伝えした4つの方向性をもとに、生産性向上の具体的な施策をご紹介します。

施策の方向性生産性向上の施策
投入資源を減らす・業務の自動化
・コストの見直し・経費削減
成果を増やす・社員研修で能力を高め業務効率を向上
・人事評価制度やワークライフバランスの充実
・情報共有の仕組みを構築
規模の縮小・採用予算の削減
・事業売却
・オフィス縮小
規模の拡大・M&A
・新規事業への進出
・中核事業の洗い出しと集中投資

投入資源を減らすための施策2つ

投入資源を減らすための施策は以下の通りです。

  • 業務の自動化
  • コストの見直し・経費削減

業務の自動化

自動化により単純に業務を行うスピードを速めることができれば、労働力の削減によって投入資源を減らせます。

生産量が変わらず投入資源のみが減ることで生産性向上につながります。

業務スピードを速める業務の自動化には、ツールやシステムの導入が効果的です。

こうした自動化ツールは「RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)」と呼ばれ、主に書類のスキャンや資料の作成、コールセンター業務などを効率化できます。

RPAについては以下の記事で詳しく解説しています。
参考:RPAとは?いまさら聞けないRPAの仕組みと、3つの導入メリット
   【2022年最新】RPAツール比較17選!プロが教える絶対に失敗しない選び方

また、もっと身近で簡単にできる施策としては、エクセルで関数やマクロを活用するといった方法もあります。

参考:リスティング担当者必見|超使える!【エクセル技21選】

コストの見直し・経費削減

事業運営にかかるコストや軽費を見直すことで、投入資源を大幅に削減できます。

具体的な方法は以下の通りです。

  • ペーパーレス化で用紙代やインク代を削減
  • 付箋やボールペンといった消耗品にかかる軽費の見直し
  • 水道光熱費や通信費などのインフラ関連コストの見直し
  • 交通費や出張費の無駄な費用をカット

より少ないコストで同規模の生産量を維持すれば、生産効率の向上が見込めます。

参考:事例で学ぶ「ペーパーレス化」働き方改革に失敗しないための方法、ツールとは

成果を増やすための施策3つ

成果を増やすための施策は以下の通りです。

  • 社員研修で能力を高め業務効率を向上
  • 人事評価制度やワークライフバランスの充実
  • 情報共有の仕組みを構築

社員研修で能力を高め業務効率を向上

社員研修で従業員一人ひとりのスキルアップをはかることで、業務効率の改善が見込めます。

より短時間で多くの成果物を生み出し、生産性向上につなげる施策です。

入社後に新人研修を実施する企業は数多く存在するものの、その後は何もせずに放置するケースも珍しくありません。

従業員の業務効率を高めるためには、定期的な研修や意見交換会といったスキルアップにつながる施策を継続することが大切です。

参照:デジタル人材を育成する企業が参加したいDX研修とは?選び方も解説

人事評価制度やワークライフバランスの充実

人事評価制度やワークライフバランスを充実させることで、従業員のモチベーションを高められます。

従業員のモチベーションが下がると仕事への集中力がなくなり、ミスの増加や業務スピードの低下によって生産性が下がりやすくなります。

そのため、従業員のモチベーションを向上・維持することは、生産性を向上させるためには欠かせません。

モチベーションを高めるには、次のような施策が効果的です。

  • 人事評価制度で具体的な情報を開示し、適切なフィードバックを与える
  • 社内のコミュニケーションを活性化させ、風通しの良い職場環境を整える
  • 経営トップから定期的に進むべき方向性を伝える
  • 表彰制度をはじめとする非金銭的なインセンティブを用意する
  • 社内コンテストやベンチャー制度といったチャレンジしやすい環境を作る

人事評価については以下の記事で詳しく解説しています。

参考:人事評価の基本と流れを解説!部下の力をのばす評価の仕方とは?

情報共有の仕組みを構築

情報共有の仕組みが整っていない組織は、連絡や相談を行う段階でミスや漏れが発生しやすくなり、その確認にかかる無駄な業務が生産性向上を阻害します。

このような問題が起こらないよう、情報共有がスムーズに行える仕組みを構築しておきましょう。

情報共有の仕組みを構築するためには、ソフト面とハード面の両方に配慮することが大切です。

例えば、自社の課題を解決できるコミュニケーションツールを導入しても、機能が複雑で利用者が対応できなかったり、そもそも導入したことを誰も知らなかったりすると、結局誰にもツールが使用されずに導入・運用コストが無駄になってしまいます。

そこで、管理責任者の登用や使い方に関する周知徹底といった工夫が必要となります。

規模縮小のための施策3つ

規模を縮小させるための施策は以下の通りです。

  • 採用予算の削減
  • 事業売却
  • オフィス縮小

採用予算の削減

企業による採用活動は、毎年慣例のように行われていますが、思い切って採用予算を削減することも生産性を高めるうえで重要となります。

ただし、採用予算を削って投入資源が減った結果、それと同じ量だけ成果物が減少してしまっては意味がないため、注意が必要です。

このような問題を解決するためには、現在の採用活動を「厳選採用」に切り替えることをおすすめします。

厳選採用とは、あらかじめ採用基準を定め、その基準を満たす応募者がいない限りは、募集枠に達しなくても採用しないという方法です。

たとえ従業員数が減って成果物が減少しても、新たに入社した優秀な人材が生産効率を高めることで減少分をカバーできます。

事業売却

事業売却とは、不採算事業や非中核事業を第三者の企業に売却する方法です。

そもそも不採算事業や非中核事業は、中核事業に比べて生産性が低いことが多いため、事業を整理することで企業全体としての生産性を向上できます。

これまでにも日本では、東芝が東芝メディカルシステムズを6,655億円でキヤノンに売却した他、オムロンが車載関連機器を扱う子会社を約1,000億円で日本電産に売却するような事例がありました。

参考:キヤノン、東芝メディカルの買収完了 6655億円 | 日本経済新聞
   日本電産、オムロンの車載関連子会社1000億円で買収 | 日本経済新聞

オフィス縮小

オフィスの規模や面積を現在よりも縮小させることで、従業員の新しい働き方に合わせて社内スペースを有効活用できます。

とくに、テレワークが定着し、オフィスへの出社率が下がった企業を中心に、余剰スペースを縮小させる動きが加速しています。

オフィス縮小を行うには、フロア面積の狭いオフィスビルへ移転する他、移転はせずにフロアの一部を返却するような方法があります。

オフィス縮小のメリットは、もちろん固定費の削減につながることです。フロア面積が削減された結果、オフィス賃料や光熱費を最小限に抑えられます。

また、オフィス業務とオフィス以外の業務を切り分けてハイブリッドな働き方を導入することで、業務効率化も期待できます。

規模拡大のための施策3つ

規模を拡大させるための施策は以下の通りです。

  • M&A
  • 新規事業への進出
  • 中核事業の洗い出しと集中投資

M&A

事業拡大をスムーズに進めるためには、M&A(企業の合併と買収)が効果を発揮します。

M&Aを行うことで、新しい市場に関するノウハウや技術などを短期間で獲得できるからです。

また、合併に伴い企業ごと継承した場合は、人的資源もそのまま引き継がれます。

これにより、買い手企業はわざわざ新しい人員を採用する必要がありません。

注意しなければならないのは、買収側と売却側の企業で組織文化が異なる点です。

組織文化を統合させるために多額の資金が必要になる他、2社間の従業員同士でトラブルが発生する可能性もあるので、事前に綿密な計画を立てたうえでの実行が必要不可欠です。

M&Aについては以下の記事で詳しく解説しています。
参考:5分でわかる「M&A」とは?意味・手法の種類・メリットを徹底解説
   おすすめM&A仲介会社10選!役割や選び方、特徴などを徹底解説

新規事業への進出

新規事業への進出によって新たなシェアを獲得できれば、企業が生み出す成果物の最大値を大幅に上昇させられるでしょう。

新たな市場への進出により、これまで接点のなかった新規顧客を開拓できるからです。

しかし、その分失敗のリスクも大きくなります。

投入する資源の量によっては大きな損失が発生する危険性もあるため、既存事業との相乗効果の確認や他社との事業連携の可否などを踏まえたうえで、慎重に検討する必要があります。

中核事業の洗い出しと集中投資

自社における中核事業を洗い出し、その分野に経営資源を集中投下することで、事業規模の拡大による生産性向上がはかれます。

複数の事業に進出して多角経営を行う企業や、幅広いジャンルの製品を扱っている企業が取り入れている行為で、「選択と集中」と呼ばれます。

規模縮小の項目で紹介した事業売却とともに実施することで、より高い成果が見込めます。


生産性向上を成功させるために重要なステップ

社内で生産性向上を進めるには、次の4つのステップに沿って施策を実行します。

4つのステップ

それぞれのステップごとに具体的な方法を解説します。

ステップ1:業務内容を把握するために情報を可視化

まずは業務内容を把握できるよう、従業員一人ひとりのタスクや進捗度合い、作業スピードなどの情報を可視化しましょう。

客観的に現状を分析できる環境を整えることで、課題を明らかにしたうえで必要な対策を考えることができます。

正確な業務内容を把握するためには、市販の業務可視化ツールが便利です。

従業員のパソコンに専用ソフトをインストールすることで、管理サーバーに操作ログを集積し、グラフの可視化やログのデータ分析を行えるようになります。

ステップ2:ノンコア業務とコア業務の洗い出し

企業における業務は、単調なルーティン作業が多いノンコア業務と、売上に直接つながるコア業務の2種類に分かれます。

ノンコア業務が肥大化してしまうと、本来注力すべきコア業務にリソースを振り分けられない場合があるので注意が必要です。

ノンコア業務とコア業務は、ステップ1で実施した業務内容の可視化によって洗い出せます。

全業務のうちノンコア業務の比率が高い場合は、業務内容の見直しによって効率性を高めることが大切です。

また、ノンコア業務の分割やアウトソーシングなどの手段も、従業員の負担を抑えられます。

ステップ3:人員配置計画の策定

人員配置計画とは、従業員一人ひとりの特性を見極めたうえで、適切な部署やチームに人材を配分するマネジメント手法です。

従業員がもっとも働きやすいと感じる環境で業務に集中してもらうことで、モチベーションが高まり、業務効率アップや生産性向上が期待できます。

適切な人員配置計画を策定するには、各従業員のスキルやパフォーマンス、周囲との人間関係、ワークライフバランスといったさまざまな要素を可視化することが必要です。

そのうえで、人事異動や職位変更、雇用形態・勤務時間の変更などの施策で配分を決定します。

ステップ4:必要な設備やITツールの導入

ノンコア業務の分割や人員配置計画を進めるうえで新たな課題が浮き彫りになった場合、その改善に必要な設備やITツールの導入を検討しましょう。

とくに、テクノロジーの導入は生産性向上に大きな効力を発揮します。

例えば、モバイル端末を導入し、スムーズな商談や業務の電子マニュアル化を実現する他、クラウドサービスの活用により円滑な情報共有や部門間の連携などが可能となります。


生産性向上を目指す際に失敗しがちなパターン

生産性向上を進めるうえで失敗が起こりやすいケースを把握しておきましょう。

ここでは失敗しがちな3つのパターンをご紹介するとともに、その解決策について解説します。

  • 長時間労働を強いてしまう
  • トップダウンの施策が中心となる
  • 過度なマルチタスクで従業員が疲弊する

長時間労働を強いてしまう

生産性向上を目指す際に注意すべきなのは、労働者数を抑えつつ一定の生産量を確保するために、従業員一人ひとりに長時間労働を強いてしまうようなケースです。

生産性向上の施策のなかでもっとも取り組みやすいのが、投入資源を減らすことです。

各業務の効率化による人員削減や不要なコストカットなどは、比較的容易に取り組むことができます。

長時間労働で一定の生産量を確保した結果、数字上は生産性が向上したことになります。

しかし、代わりに従業員の負担が大幅に増えるため、結果的に生産性の低下につながるのはもちろん、従業員の不満を溜める要因にもなり、企業として成功した姿とは決して言えません。

従業員の負担を増加させることなく投入資源を減らすには、業務内容や業務フロー、人員の適切な配置数などを総合的に勘案し、無理のない施策を実施すべきでしょう。

施策を実行するうえでどうしても従業員の負担が増えてしまう場合は、業務の一部をアウトソーシングするのも方法の一つです。

トップダウンの施策が中心となる

現場の状況を無視したトップダウンの施策は、労働者のモチベーション低下を招く可能性があります。

例えば、現場では業務がひっ迫しているにもかかわらず、経営トップからいきなり新しい方針を打ち出されたとすると、現場の従業員からの反発を招いてしまいます。

このような事態に陥らないよう、ときにはボトムアップで意見を吸い上げ、トップダウンとバランス良く施策を実行することが大切です。

現場の声を参考に非効率な業務を洗い出し、リーダーの掛け声で実行に移すといったように、「ボトムアップ→トップダウン」の順に施策を行いましょう。

過度なマルチタスクで従業員が疲弊する

一人の従業員が複数の業務を担当するマルチタスク化は、従業員一人あたりの生産量を増やす行為なので、全体的な生産性が向上すると思いがちです。

しかし、マルチタスクは従業員の負担やストレスを増加させ、結果的に作業効率が下がってしまう可能性があります。

近年注目を集めているのが、一つの作業に集中するシングルタスクの考え方です。

複数のタスクを同時に実行するのではなく、一つのタスクにまとめて集中的に処理することで、業務の効率性と生産性を向上させます。


生産性向上に役立つ助成金・補助金制度

最後に、生産性向上に役立つ助成金や補助金制度をご紹介します。

  • 厚生労働省「業務改善助成金」
  • 厚生労働省「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」
  • 経済産業省中小企業庁「IT導入補助金」

厚生労働省「業務改善助成金」

業務改善助成金とは、生産性向上のために設備投資を行い、事業場内の最低賃金を一定額以上引き上げた場合に、その費用の一部を助成する制度です。

2021年8月からは、同一年度内に最大2回まで申請することが可能になりました。

こちらの制度の内容としては以下のとおりになっています。

助成額30~600万円
※設備投資等の費用に助成率を乗じて算出した金額
対象事業者以下の2つの要件を満たすこと
・事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
・事業場規模が100人以下
支給の要件・賃金引上計画を策定すること
 事業場内最低賃金を一定額以上引き上げる
 (就業規則等に規定)
・引上げ後の賃金額を支払うこと
・生産性向上に資する機器・設備やコンサルティングの導入、人材育成・教育訓練を実施することにより業務改善を行い、その費用を支払うこと
 ※以下の場合は除く
 (1)単なる経費削減のための経費、
 (2)職場環境を改善するための経費
 (3)通常の事業活動にともなう経費
・解雇、賃金引下げ等の不交付事由がないこと など
手続きの流れ1.助成金交付申請書を都道府県労働局へ提出
2.助成金交付決定通知
3.業務改善計画と賃金引上計画の実施
4.事業実績報告書を都道府県労働局へ提出
5.助成金の額の確定通知
6.助成金の支払い

業務改善助成金は上記の画像のように4つのコース区分に分かれています。

すべてのコースの要件として、事業所内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内・事業場規模100人以下が対象となります。

引用:業務改善助成金|厚生労働省

参考:業務改善助成金|厚生労働省

厚生労働省「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」

人材確保等支援助成金(テレワークコース)とは、社内にテレワーク制度を導入・実施することにより、労働者の人材確保や雇用管理改善などの効果をあげた企業に助成する制度です。

設備を導入した場合はその費用の30%が、目標を達成した際は、支給対象となる経費の20%が支給されます。

助成額【機器等導入助成】
1企業あたり、支給対象の経費のうち30%
 ※上限金額は以下のいずれか低いものを適用
・1企業あたり100万円
・テレワーク実施対象者一人あたり20万円
【目標達成助成】
1企業あたり、支給対象の経費のうち20%
 ※上限金額は以下のいずれか低いものを適用
・1企業あたり100万円
・テレワーク実施対象者一人あたり20万円
対象事業者・雇用保険の適用事業主であること
・テレワーク勤務を新規に導入する事業主
・ テレワーク勤務を試行的に導入している、または試行的に導入していた事業主 など
支給の要件【機器等導入助成】
・テレワーク実施計画を作成し、管轄の労働局に提出してその認定を受けること
・計画認定日以降、支給申請日までに、テレワークに関する制度として所定の内容を規定した就業規則または労働協約を整備すること
・支給申請日までにテレワークに関する制度として、所定の内容を規定した就業規則または労働協約を整備すること
・評価期間に1回以上、対象者全員がテレワークを実施するなどの基準を満たすこと
【目標達成助成】
・テレワークに関する制度の整備の結果、評価時離職率が計画時離職率以下であること
・評価時離職率が30%以下であること
・テレワーク実施労働者の人数が規定の割合を超えること
手続きの流れ1.テレワーク実施計画書を都道府県労働局へ提出
2.計画書に基づき通信機器や設備を導入
3.機器等導入助成の支給申請
4.評価期間においてテレワークを実施
5.目標達成助成の支給申請

参考:人材確保等支援助成金(テレワークコース)|厚生労働省

経済産業省中小企業庁「IT導入補助金」

IT導入補助金とは、ITツールを導入する際に支払った経費の一部を国が補助する制度です。

IT導入補助金には通常枠のA、B類型と「デジタル化基盤導入類枠」のデジタル化基盤導入類型があります。

A類型で申請する場合はソフトウェアに必要な業務プロセス数を1項目以上、B類型は4項目以上満たすソフトウェアであることが必要です。

会計ソフトや受発注ソフト、決済ソフト、ECソフトを導入する場合のみ、補助金額や補助対象が優遇される「デジタル化基盤導入枠」が適用されます。

助成額【通常枠】
・A類型:30~150万円未満
・B類型:150~450万円以下
【デジタル化基盤導入枠】
5~350万円
対象事業者中小企業・小規模事業者等
支給の要件・交付申請時点において日本国内で法人登記され日本国内で事業を営む法人、もしくは日本国内で事業を営む個人であること
・交付申請の直近月において、事業場内で地域別最低賃金以上の金額を支給していること
・gBizIDプライムを取得していること など
手続きの流れ1.ITベンダー・サービス事業者の選定
2.gBizIDプライムの取得
3.ITツールの選定
4.交付申請書の作成・提出
5.ITツールの契約・納品・決済
6.事業実績報告の作成・提出
7.補助金の交付

まとめ

企業の生産性は、労働力や資本といった投入資源に対して得られた生産量の比率によって数値化が可能です。

投入資源を減らしたうえで生産量を増加させることにより、生産性の向上が果たせます。

生産性向上を行うためには、まず以下の4つの方向性から自社が向かうべき進路を定めましょう。

  • 投入資源を減らす
  • 成果を増やす
  • 規模の縮小
  • 規模の拡大

実際に施策をスムーズに進めるためにも、適切な段階を踏んで実行することが大切です。

(1)業務内容を把握するために情報を可視化
(2)ノンコア業務とコア業務の洗い出し
(3)人員配置計画の策定
(4)必要な設備やITツールの導入

生産性向上のために設備やツールを導入する際は助成金や補助金制度が役に立ちますので、うまく活用をしましょう。

今回は、生産性向上に必要な施策や考え方、便利な公的制度などをご紹介しました。

この記事を参考に、さっそく現在の業務内容や無駄な箇所を洗い出し、適切な生産性向上の施策を行いましょう。

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