RPAツールの専門家が語る、RPAの導入を阻む壁の乗り越え方

RPAを導入し業務を自動化し、自社の働き方全体の見直しやDXの推進に役立てたいという方は多くいると思います。
しかし、実際にRPAを導入しようと思っても

  • そもそもどうやって導入を進めたらいいの?
  • どんな業務が自動化できるのかわからずに、導入に踏み切れない
  • ツールを使いこなせるだろうか……
  • どのツールが自社に合うかわからない

と不安を抱く方もいらっしゃいます。

そこで今回はRPAツール「ロボパットDX」を提供している「株式会社FCEプロセス&テクノロジー」の営業マネージャーである梶原さんに、「RPAの導入を失敗させてしまう2つの壁」と「導入を成功させるための考え方・進め方」をお伺いしてきました。


RPAの導入を阻む最大の壁は「導入目的が明確にされていない」

プロフィール
梶原 淳司 氏
株式会社FCEプロセス&テクノロジー 執行役員 営業推進部 部長

大学卒業後、東証一部上場のコンサルティング会社に入社し、企業の課題解決に関わる。
FCEグループ入社後はマーケティング・広報・システム開発運用などのバックヤード業務に関わり、自部署の生産性を上げるためにRPAを活用。自分自身が感じたRPAの便利さを世の中の企業に伝えるためにRPAの営業に異動。これまでのRPA導入・サポート実績は200社を超える。

――企業のRPA導入を失敗させてしまう要因としてはどんなものが挙げられますか?

梶原氏:本当によくある失敗は「RPAの導入目的を明確にせずに検討し始めてしまうこと」です。RPAの導入を失敗させる最大の要因と言っても良いでしょう。

ここでいう目的は「業務の自動化の先に実現したいこと」を指します。RPAの導入で目指すべきことがぶれていない場合はうまく進みやすいです。目的の粒度は企業様それぞれによって異なり、例えば「DXの推進」が目的というケースもあれば、「従業員の残業をなくしたい」などのケースもあります。

RPAを検討している企業様の中で「業務の効率化」を目的だとおっしゃることがあるのですが、業務を進めるに当たって効率化は当たり前の話ですよね。実際に「何のために効率化したいのか」「なぜ自社にRPAが必要なのか」を関係者ですり合わせる必要があります。

――目的を定めておかないと、導入段階でどのような弊害があるのでしょうか?

梶原氏:「目的」が固まっていないと導入の途中で意思決定の軸がズレていきやすいです。

例えばDX推進という目的に際し、「人では対応できない業務にRPAを充てたい」と言っていたのに、導入するタイミングで費用対効果の話になってしまって「人件費換算だと割に合わない」といってやめてしまったりといったケースもあります。

このようなズレをなくすためにも「目的を明確にして、関係者全員で意識が統一されていること」が大切です。特に意思決定に関わる方々のRPAへの理解や導入の目的がすり合っていないと、上記の例のように迷走してしまいます。


RPAは「業務削減」ではなく「未来のコスト・リスクを削減する投資」

――RPAツールを導入を検討しているものの、費用対効果が合わないという理由で上司から導入の許可が下りないというケースもあるかと思います。実際に稟議を通すためにはどういう切り口で上司を説得すれば良いのでしょうか?

梶原氏:そもそもRPAツールはそもそも費用削減を意識するよりも「未来への投資」と認識してほしいです。

例えば弊社ではロボパットの導入企業が950社を突破し、多くの企業様にご活用いただいていますが、事務職がたった2人しかいません。まだ300~400社ほどの頃はたった1人で対応していました。これでも業務が滞らないのは、ロボパットがあったからです。

事務職の方は、まだ1人だった時から少ない人員で業務を回すための体制づくりに注力してくれていました。忙しい業務の合間を縫ってどんどんロボットを作っていたんです。そのおかげで現在、少ない人員で業務が回せているんです。

これは業務効率の改善という視点だけではなく、採用費・人件費の面でもメリットがあります。

人を増やさなくても上手くいく体制が構築できているので、採用費がかかりません。当然、人件費や福利厚生費もかかりませんし、採用していないので退職のリスクもありません。

RPAツールを使い業務効率を高めていくことで、コストの発生自体をおさえることができます。

また、RPAを使うことで業務の属人化を防ぎ、チームの誰もが実行できる環境を作り上げることができます。業務を標準化させるための投資としても有効です。

――――RPAの導入に向けて、上司を納得させるために有効な提案方法はありますか?

梶原氏:費用対効果の話だけではなく、将来的なメリットを伝えるようにしてください。

将来的なメリットというのは、1~2年後の体制づくりに対してどのような好影響があるか、というものです。例えば「業務をロボット化して属人化している業務を削減する」などが挙げられます。

また、RPAをうまく使いこなしている企業様は「今ある業務の自動化」だけではなく、「新しい業務の創出」にも活用されているので、この視点から提案してみるのも有効でしょう。

実際のスーパーマーケットの事例なんですが、そのスーパーマーケットでは、店舗ごとに「ポイントカード登録の獲得」をノルマとして追っていました。本部の担当者が各店舗の獲得状況をまとめ、店舗に毎週メールで配信していたんですね。

担当者この配信業務を自動化させるためにロボットを作っていたんですが、「どうせロボットを作るんだったら毎週じゃなくて毎日配信に切り替えたらどうか」という意見が上がってきました。

人間の手で毎日配信するとなると手間がかかりますが、RPAであれば配信の頻度を変えても労力は変わりません。獲得件数をランキング形式にして毎日配信するロボットを作ったそうなんです。

その結果、店舗の人たちのモチベーションが高まり、週1回配信していた時期と毎日配信していた時期を比較して、会員の獲得数が倍以上に高まったんです。

「人手が足りてない」「誰かの工数をかけるほどでもない」と判断して動けていない業務も、RPAを活用することで 簡単に実行できるようになります。

こういう業務が意外と売上アップや顧客満足度の向上につながっていくこともあります。


導入前には必ず無料トライアルを行い、RPAの活用イメージを固める

――RPAツールの利用イメージが湧いていないという方たちに対して有効な対策方法を教えてください。

梶原氏:無料トライアルの実施をおすすめしています。営業担当の方からお話を聞くだけでは不十分で、実際にトライアルを実施して触ってみないとわからないことが多いです。ほとんどのRPAツールは無料トライアルがあるので、本格導入を果たす前に必ず実施しましょう。

トライアルを行うことで「RPAで何ができるのか・できないのか」「何が簡単にできるのか・時間がかかるのか」といったことがわかるようになります。

またトライアルを実施することで、「RPA以外の選択肢」にも気づきやすくなります。トライアル時には社内全体でプロジェクトを組んでやることが多いのですが、チーム外からの意見を吸収しやすくなります。

例えば、今まで時間をかけて実行していた業務について、別チームの人から「それって関数でできない?」みたいな意見がもらえることがあります。

普段皆さん忙しいので業務改善にしっかりと向き合うことが少ないんですが、RPAのトライアルをすることで業務改善に向き合い、RPA以外の解決方法が思いついたり、RPAでできる業務自動化以上の効率化が生まれたりといったケースも多いです。

――RPAツールのトライアルはどういう流れで進めると良いでしょうか?

梶原氏:RPAツールのトライアルを実施する流れは以下の5ステップです。

  1. 社内の人にRPAツールの活用イメージをつかんでもらう
  2. できるだけ多くの人たちで業務の洗い出しを行う
  3. 洗い出した業務の中から実行しやすいもの・簡単そうなものピックアップする
  4. トライアルで試してみる
  5. 自社で使いこなせるか判断する

まずは「RPAについての理解」を社内全体に促していき、社内の人にRPAツールの活用イメージをつかんでもらいましょう。この工程を雑にしてしまうと、業務の洗い出しの際に「これはできなさそう」と判断されて、提案が上がってきません。

実際に私たちもここで一度失敗しています。ロボパット開発後に社内のスタッフに向けて「自動化したい業務はありませんか?」と連絡したんですが、一つも返信が返ってきませんでした。RPAの活用イメージを社内に持たせる作業を行っていなかったからです。トライアルを実行するにあたり、必ず確認しましょう。

RPAの活用イメージが社内に浸透したら、業務の洗い出しを行います。業務の洗い出しの際はできるだけ多くの人から話を聞き、候補となる業務のバリエーションを増やしましょう。

洗い出しが終わったら、その中から特に簡単そうなもの1つだけ選びましょう。難しいロボットを作るのは大変で、途中で諦めてしまいやすいです。

業務を決めたら実際にトライアルを行い、使い勝手を確認しましょう。

参考:RPAとは?いまさら聞けないRPAの仕組みと、3つの導入メリット
   失敗しない!RPAを導入する方法|成功事例によりわかりやすく解説

――トライアル時に気を付けておくべきことなどはありますか?

梶原氏:2点ほど注意点があります。

1つは「トライアルで試すRPAツールの数は限定すること」。RPAツールを複数検討している場合は「2つ」まで絞り込んで無料トライアルを実施することをおすすめしています。3つ以上試そうとするとトライアルだけで疲れきってしまいます。

もう1つは「トライアルで実施することを広げすぎないこと」です。トライアル期間中に作成するロボットを1つに絞りましょう。

1カ月のトライアル期間でやれることは限られていて、普段の業務で忙しい中進めようと思うと1つのことで精一杯です。

トライアル期間中にやりたいことを広げすぎるのは負担が大きく、「1か月間ほとんど触れませんでした」なんてことも少なくありません。1つだけに絞ればそれを完成させなければというモチベーションが働くので、うまくいきやすいです。


RPAツールの選定は現場の人間が使いこなせるものを選ぶこと

――RPAツールを探している方に向けて、RPAツールを選定するうえでの基準や意識しておくべきポイントを教えてください

梶原氏:自社に導入して「今後活用し続けられるイメージが持てるか」を基準にしましょう。RPAはツールの導入がゴールではなく、継続して活用することで真価を発揮します。

「このツールであれば1~2年と使っていって、高い効果が出せる」という確信に近いイメージが持てるかが重要です。

――実際に「効果が出るだろう」というイメージが持てるかを確認するためのポイントはありますか?

梶原氏:イメージが持てるかどうかを判断するときには、2つのチェックポイントがあります。

1つは「簡単であること」。情シスなどの一部の方だけではなく、現場の方々でもロボットが作れるぐらい簡単に使えるツールを選ぶのが望ましいです。

そしてもう1つが「サポートが充実していること」。もちろん目的によっても変わってきますが、実現したいことの難易度が高いほど、サポートの充実性に注目してください。

例えば同じ機能のRPAツールが2つあり、片や3万円、片や10万円という場合でも、10万円のRPAツールにはDX推進のためのコンサルティングプランが含まれるというのであれば、そちらを選ぶべきです。

RPAツールの検討は「人材採用」と同じです。採用する人は選ぶ場合「給料が安い方」ではなく「活躍してくれそうな方」を選びますよね。RPAツールも「将来的にやりたいことが実現できるのはどのツールか」という観点で選んでいただきたいです。

参考:【2022年最新】RPAツール比較17選!プロが教える絶対に失敗しない選び方


RPAが定着しない理由は「ロボットの数の不足」

――ここまで「RPAの導入」についてお話を伺ってきましたが、実際にRPAを導入したのに上手く使えなかったり、社内の人たちが誰も使ってくれないケースもあると考えています。この状況に陥ってしまう要因としては、どのようなものが考えられますか?

梶原氏:導入後に活用できていないケースの多くは、「ロボットの数の不足」が挙げられます。

ではなぜロボットが増やせないのか、その理由は「忙しくてロボットが作れていない」「担当者1人でロボットを作り続けている」の2つに大別できます。

ロボパットの導入企業様を対象に「ロボットの数」や「利用の仕方」についてヒアリングを実施したんですが、ロボットを増やせないまま使っている企業様の、その理由のナンバーワン・ナンバーツーが「忙しい」と「担当者が1人しかいない」だったんです。

RPAは未来への投資という側面が強く、すぐに業務が改善できるというわけではないんですね。ロボットを作って将来的な業務改善を進めていくもので、「現時点の業務を終わらせる」という視点だと、自分の手を動かすほうが速いのも事実です。

RPAの推進担当者からすれば、体制を整えていくためには現場の方にロボットを作ってほしいというのが本音です。しかし、現場レベルだと先々の効果のために今の時間を費やせないことが多いんです。

現場の人が忙しそうにしていると推進担当者も気を使ってしまって「つくりましょう」の一言が言えなくなり、ロボットの作成が後手に回ります。
またロボットの作成を担当者1人に任せきりになると、「作った人じゃないとわからない」「その人じゃないと修正できない」といったロボットになりがちです。都度レクチャーを受けないとロボットを活用できないので、現場に浸透しづらいです。

RPAの定着には目標達成に向けたマイルストーンを決めて運用する

――ロボットが作れないという状況を回避するために、運用の際に意識すべきポイントはありますか?

梶原氏:運用時には必ず目標を決めましょう。目標達成のためのマイルストーンをちゃんと決めて、計画的に運用していかないといけないですね。

RPAを定着させるためには、導入直後こそ意識的に時間をとって進めるようにしてください。「忙しいからロボットが作れない」「ロボットが増えないから忙しいまま」という負のスパイラルに入ってしまうと全然進まないんですね。

この状態に陥らないためにも、最初に少し頑張るようにしておくと、「ロボットが増えたので業務が少し楽になる」「業務が楽になったのでロボットが作れる」という良いサイクルが回るようになります。

この状態まで持っていけば楽にロボットが作れるようになるので、いかにこのサイクルを生み出すかが定着させるための最初の目標です。

――目標設定のコツなどがあれば教えてください。

梶原氏:目標設定では「何を作るか」「誰が作るか」「運用体制」の3つの目標を、3カ月・半年・1年といったスパンで定めましょう。

目標として「何の業務をロボット化するか」の目標設定はできる方が多いんですが、「誰がロボットを作るか」も合わせて設定してください。

例えば当初は3名でRPAの活用を計画したとして、「1年後には他の部署の○○さんもロボットが作れる状態にしよう」というような人員計画も目標に入ります。

運用体制としては、プロジェクトを組んで、組織にどのように働きかけていくのかの体制イメージを持つことが大切です。

「毎月1回、社内に対して追加報告会をやろう」「チームメンバーは毎週火曜日の○○時から1時間、ロボット作成のための打ち合わせの時間を取りましょう」などを設定しないと、いつまでたっても社内に浸透していかず、一部の部署だけが使い続けることとなります。


RPAには年間50~150万の予算と、活用させるための「覚悟」が求められる

RPAの導入にはどの程度の予算を確保しておくべきでしょうか?

梶原氏:正直に答えると、年間50~150万程度の予算がないと導入は難しいです。

RPA導入の目的ややりたいことが限定的な企業さんは安く済みます。ただ、DXの推進などを目標に掲げている場合、コンサルティングなども必要となるので、年間150万ぐらいは必要になります。

――RPAを導入して活用していくには、高いモチベーションが必要になりますね。

梶原氏:そうです、「覚悟」に近いモチベーションが必要です。覚悟がないと導入できませんし、導入してもうまくいきません。

特に慣れないうちはロボットの作成・修正にすごい時間がかかります。最初のころは「ロボットを作るよりも、自分でやったほうが速い」と感じることも多いでしょう。

しかし、頑張って使い続けていくことで半年から1年後には簡単にロボットが作れるようになります。そうやって1年間頑張ってロボットを作り続ければ、必ず「RPAのない時代には戻れない」という境地にたどり着きます。

――本日はありがとうございました。


まとめ

RPAの導入に失敗してしまう最大の理由は「導入目的が明確に設定できていない」ということです。目標を定め、意思決定に関わる各人に浸透していないと、導入直前になって「費用対効果が合わない」「人件費換算で割に合わない」ということで導入自体が取りやめになってしまいます

RPAは投資としての側面が強く、「今すぐに業務を楽にする魔法のようなツール」ではありません。RPAの導入を提案する際は、費用削減よりも未来で得られるメリットを中心にまとめると良いでしょう。

RPAツールを導入する際は必ず無料トライアルを行いましょう。トライアルを行うことで、「RPAでは何ができるのか」「そもそもRPAを導入すべきか」などが判断できるようになります。

ただしトライアルで力を使い果たさないよう、作成するロボットは限定しましょう。

導入はゴールではなく、定着させるまで気は抜けません。実際に「忙しい」「担当者が少ない」という理由からロボットが増えないケースが多いですが、これではRPAの定着は難しいです。良いサイクルを回すためにも、最初に時間を使ってロボットを作成してください。

RPAを導入・運用していくためには年間50~150万程度の予算と、覚悟に近い高いモチベーションを持って進めていきましょう。

コメント