近年テレワークの導入が急速に進んでいる中、このように悩まれている労務部門担当者の方も多いのではないでしょうか。
「テレワークにおける労務管理の方法について知りたい」
「テレワークにおける労務管理のポイントや注意点について知りたい」
「労務管理を最適化して従業員が満足して働ける環境を作りたい」
テレワークの労務管理では、社員の動きが見えないため、正確な勤怠管理ができ無かったり、長時間労働になりやすかったりと多くの課題が発生します。
これに対して、社内ルール整備やITツールを導入することで効率化が可能となります。
そこで本記事では、テレワークにおける労務管理の方法や課題、また管理のポイントについて詳しく解説致します。
本記事を最後までお読みいただくことで、テレワークにおける労務課題を正確に理解し、自社の労務管理を効率化できるようになります。
テレワーク時の労務管理における課題
テレワーク時で労務管理をする際におこりうる課題は主に5つあります。
- 正確な勤怠管理ができない
- 長時間労働になりやすい
- 社内コミュニケーションが取りにくい
- 労災認定の判断が難しい
- テレワーク時の費用・手当負担が不明確になる
正確な勤怠管理ができない
テレワークには、従業員の勤怠状況を把握しづらいという課題があります。
テレワークの場合はタイムカードで打刻が行えていても、実際にその時間に働いたかどうかの判断ができません。
勤怠状況は従業員の給与にも関係してくるため、適切な管理が重要となります。
そのため、労働時間をしっかりと記録する仕組みの用意が必要です。
対処法としては、メールやチャット、シートを使った報告や記録が挙げられますが、報告業務に負担がかかってしまうというデメリットがあります。
そのため、手間をかけずに正確に把握するためには勤怠管理システムの導入がおすすめです。
システムを利用することで、手間をかけずに勤怠状況の記録や集計が可能となります。
適正な勤怠時間の把握に関しては、厚生労働省のガイドラインにおいても記載があるため、あらかじめ確認するようにしましょう。
参考: 労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン | 厚生労働省
長時間労働になりやすい
テレワークは、長時間労働になりやすいというのも課題の一つです。
テレワーク下は従業員一人ひとりが抱えている業務が見えにくいため、業務量の偏りが生まれやすく、特定の社員が長時間労働をするような状況が発生しやすくなります。
また、テレワークの場合在宅勤務となることが多く、勤務時間とそれ以外の時間との区別がつけづらいというのも長時間労働になってしまう要因の一つとして考えられるでしょう。
長時間労働を避けるためにも、各従業員のタスクや労働時間を可視化して、適切なタスク配分をすることが重要です。
参考:残業時間を削減!働き方改革の成功事例8選と失敗しない取り組み方|LISKUL
社内コミュニケーションが取りにくい
自宅からの勤務となることが多いテレワークでは、社内コミュニケーションが取りづらくなるというデメリットもあります。
いつでも会話ができていたオフィス環境とは異なり、個人だけの空間で各自が業務を進めるため、トラブルや質問があった際のコミュニケーションがスムーズに取れなくなることも考えられます。
そのため、コミュニケーションを取る方法や時間をあらかじめ決めておくなどの、ルール作りをしておくことが重要です。
また、緊急時には電話で連絡をするなど、状況に応じてコミュニケーション手段を変えるといった臨機応変な対応も必要となります。
参考:【2022年版】社内SNSツール42選を徹底比較!導入に失敗しないためのポイントも解説|LISKUL
労災認定の判断が難しい
テレワークにおける労災は、自宅での出来事であるため証明が難しく、労災認定の判断が難しいという課題があります。
会社で勤務している従業員が勤務中に怪我をした場合は、労災保険が適用されます。
テレワークの場合でも、会社で勤務するのと同じように労働基準法が適用され、会社は労災の補償責任があると厚生労働省のガイドラインで言及されています。
テレワークを行う労働者については、事業場における勤務と同様、労働基準法に基づき、使用者が労働災害に対する保証責任を負うことから、労働契約に基づいて事業主の支配下にあることによって生じたテレワークにおける災害は、業務上の災害を労災保険給付の対象となります。
引用:テレワークにおける 適切な労務管理のためのガイドライン | 厚生労働省
社会保険労務士からのアドバイス
社会保険労務士法人HR.A 川田茉依
自宅で1人で仕事をしている従業員であれば、起きた出来事を証明する証人もいないため、より判断が難しくなるでしょう。
そのため、カレンダーやチャットツールを利用して、テレワークを実施する場所や時間帯を社内で共有する仕組みを作り、仕事の時間と私的な時間を区別できるようにしておくことが重要です。
万が一テレワーク中に従業員が怪我をした場合、怪我の内容や怪我が起きた時刻をチャットやメールなどで上長に報告してもらうよう周知することも必要です。
テレワーク時の費用・手当負担が不明確になる
自宅の光熱費を就労コストとして認定すべきなのかといった費用認定の基準が不明確になる課題も発生します。
自宅での勤務が主となるテレワークでは、仕事をするために必要となった電気代やインターネット代などは従業員の自己負担となってしまいます。
このようなテレワーク時の費用や手当負担を明確にするためにも、企業側がどのようなものを対象にどれだけの在宅勤務手当を拠出するのかを就業規則に定めておくことが必要です。
これらはお金に関わることでもあるため、従業員とのトラブルを避けるためにも企業側で事前にルールを決め、社内で共有しておくことが大切です。
もしテレワークの移行によって就業規則が変わる場合、いつまでに従業員に周知をしなければいけないという明確な決まりはありませんが、遅くても1か月以上前には報告をしましょう。
テレワーク中でも問題なく労務管理をする方法6つ
ここでは、具体的にテレワーク化で労務管理を行う方法を解説します。
問題なく業務を進めるためにも、事前にしっかりと理解しておくようにしましょう。
- 労働時間のルールや管理方法を決める
- 就業状況を正確に把握できる仕組みを導入する
- チャットツールを導入しコミュニケーションルールを整備する
- 人事評価の方法を明確化する
- 労災認定のガイドラインを整備する
- 労務管理ソフトを導入する
労働時間のルールや管理方法を決める
テレワーク時に課題となる勤怠管理を問題なく行うためには、労働時間のルールや管理方法を事前に決めておくことが大切です。
労働時間のルールが曖昧になっていると、企業側が従業員が稼働した時間を把握できず適切な給与計算ができなくなるなどの問題が発生します。
そのため、企業側がしっかりと把握し管理する仕組みづくりが重要となるのです。
テレワークにおける労働時間管理では、「始業・終業時刻の管理」と畏「業務時間中の在席確認」の2つの観点で管理することが求められます。
実際に厚生労働省では、始業・終業時刻の管理方法として次の3つの方法を推奨しています。
- メールでの確認
- 電話での確認
- 勤怠管理システムの導入
しかし、従業員の多い企業ではメールや電話での労働時間管理は、手間や工数がかかりがちです。
企業の規模によっては、勤怠管理システムを導入した方が効率的に勤怠管理ができるため、自社にあった方法で適切に管理することが重要です。
就業状況を正確に把握できる仕組みを導入する
テレワーク環境において、従業員の就業状況を正確に把握できる仕組みの導入も不可欠です。
テレワークでは、勤務時間の把握だけではなく就業状況を正確に把握する必要があります。
従業員一人ひとりがどのようなタスクをこなしているのかを把握することで、プロジェクト全体の進捗把握やタスク配分の最適化が可能となります。
従業状況を把握することは、従業員の長時間労働を防止するためにも必要となるため、タスク管理の仕組みを整えておきましょう。
参考:テレワーク下でも残業管理できる方法とは?残業を抑えるコツや注意点|LISKUL
個人のタスク状況を把握する方法としては、タスク管理ツールの活用や、チャットツールでの報告、シートでの管理などが挙げられます。
自社の規模感や業務内容に合わせて、最適な方法で就業状況を把握できる仕組みを導入することが大切です。
チャットツールを導入しコミュニケーションルールを整備する
テレワークを行う際には、オフィスでの勤務よりもコミュニケーションが減るというデメリットがあります。
このデメリットは、場合によっては業務に大きな支障をもたらすことも考えられるため、しっかりとコミュニケーションが取れる仕組みを整備しておくことが重要です。
チャットツールを導入し、こまめに連絡が取れる体制を整えておきましょう。
また、休憩時や席を外す際にはチャットで報告するなどの、社員の状況が把握できるようなコミュニケーションルールを整備することも大切です。
参考:【2022年最新版】ビジネスチャット16選!シェア・料金・機能などを厳選比較|LISKUL
人事評価の方法を明確化する
会社に出勤しないテレワークでは、従業員が働いている姿を目にすることができないため、これまでの人事評価の方法を見直す必要があるでしょう。
テレワークでは、目に見えやすい成果・実績だけをもとに評価する傾向が強まるため、成果までのプロセスを確認することも大切です。
プロセスを評価するためには、「いつまでに、何を行うか」という明確な目標を設定する必要があります。
また、業務スピードやレスポンスなども定量的に計測できれば、人事評価を行う際の評価材料に加えることもできます。
このように、テレワークという働き方に合わせて評価項目を用意し、明確にしておくことが重要です。
また、従業員本人が自己評価をする制度を取り入れるのも良いでしょう。
労災認定のガイドラインを整備する
テレワークではオフィス勤務と同様に労働基準法が適用されるため、企業は労働災害に対する補償責任を負っています。
しかし、テレワークの課題でも前述した通り、労災認定における線引きが難しいという課題があります。
そのため、労災認定のガイドラインを社内で整備しておくことが重要です。
例えば、社員が業務時間内での事故により怪我をした場合に、労災として認められるかどうかなどといったことが該当します。
このような事案に対して、勤務時間や勤務場所、また連絡方法を事前に規定し、就業状態を企業側が定めることが求められます。
事故や怪我の内容が労災認定されるかわからない場合でも、一度人事・労務担当者に相談いただき、それでも解決しない場合は、管理者から労働基準監督署に確認を入れましょう。
ガイドラインを整備する際には、厚生労働省のテレワークにおける適切な労務管理のためのガイドラインを参考にしましょう。
参考:テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン|厚生労働省
労務管理ソフトを導入する
テレワーク化における労務管理をスムーズに行うためには、労務管理ソフトの導入がおすすめです。
労務管理ツールを活用することで、労働時間の把握や就業状況の把握、給与システムとの連携などさまざまな業務をシステム一つでまとめて行うことができます。
システムを導入することで、適切な労務管理ができるようになるだけではなく、業務の幅が広い労務管理の業務負担軽減や効率化の向上に貢献するというメリットもあります。
テレワーク下で適切な労務管理をする2つのコツ
テレワーク下で労務管理を行う上ではさまざまな課題が発生しますが、事前に以下の対処法を理解しておけば課題を無くすことができます。
- チャット利用のタイミングや伝え方はルールを決める
- 勤怠状況を記録する仕組みを作る
チャット利用のタイミングや伝え方はルールを決める
コミュニケーションの手段としてチャットを利用する際には、チャットを送るタイミングや伝え方に注意することが大切です。
過度なチャットや、文章量の多いチャット、勤務時間外のチャットは従業員のストレスとなることも考えられます。
そのため、チャット利用時のタイミングや伝え方に関するルールを事前に決めておくようにしましょう。
たとえば、YesかNoで応えられるような質問の仕方をすることや、テキスト量が多くなる内容はミーティングを設ける、緊急時以外は勤務時間外のチャット使用を制限するなどが考えられます。
勤怠状況を記録する仕組みを作る
勤怠状況は毎日同じというわけではなく、トラブル発生時や緊急時にはイレギュラーな勤務状況が発生しやすくなるでしょう。
そのような時には、その都度記録する必要があるため、勤怠状況を正しく記録する仕組みを整備しておく必要があります。
勤怠状況を記録する方法として、勤怠管理システムの導入があります。
勤怠管理ツールを導入することで、出退勤時にタイムカードを押すように、パソコンやモバイル端末からクラウドを経由して出退勤の打刻ができるようになります。
参考:おすすめ勤怠管理システム10選!料金・サポート内容・機能など|LISKUL
また、休憩時間やイレギュラーな労働時間なども同様に管理が可能となるため、勤怠状況を正しくかつ手間をかけずに記録できるようになります。
テレワークで労務管理する際に注意するべき2つの点
テレワークで適切な労務管理を行う際には、以下のような注意すべき点があります。
- 法改正に合わせて管理体制も変更しなければいけない
- 顧客情報や自社機密情報などの漏洩リスクがある
テレワーク導入の前に、注意点を理解しておくようにしましょう。
法改正に合わせて管理体制も変更しなければいけない
労務関連の法律が改正されることもあるため常に最新の情報を収集しておく必要があります。
企業は労働基準法をもとに、適切に労務管理をする必要があります。
その他にも労働安全衛生法や最低賃金法など、さまざまな法令を遵守しなければいけません。
そのため、適切な労務管理を行うためにはこれらの法令をしっかりと把握しておくことが重要です。
たとえば、従来の労働基準法では、月60時間以下の時間外労働の場合だと割増賃金率が25%以上、月60時間超だと50%以上と定められていましたが、2023年4月にはこの猶予措置が終了し、月60時間超の時間外労働においては割増率が50%以上に引き上げとなります。
参考:事業者が知っておきたい働き方改革関連法の8つのポイントをわかりやすく解説|LISKUL
また労働基準法に違反すると、最も重い罪の場合には「1年以上10年以下の懲役または20万以上300万円以下の罰金」(労働基準法第117条)に該当するリスクもあるため注意が必要です。
このように、法改正に合わせて、常に最新情報を収集しておく必要があります。
また、従業員に対して説明をする立場でもあるため内容を把握するだけではなく、理解しておくことも大切です。
顧客情報や自社機密情報などの漏洩リスクがある
テレワークでは自宅をはじめとするコーワーキングスペースやサテライトオフィスなどでの勤務が増え、外部環境でオンライン商談を行うことで、顧客情報や自社機密情報の漏洩などの情報漏洩のリスクが大きくなります。
特に、従業員の給与情報やマイナンバーなど個人情報を取り扱う労務管理業務は、より一層セキュリティ対策を徹底する必要があるでしょう。
そのためには、ITチームと連携してセキュリティルールを整備する必要があります。
個人情報を扱う際にはデータを暗号化したり、ウイルス対策ソフトをインストールするなどのセキュリティ対策をテレワーク導入前に行っておくことが重要です。
まとめ
テレワークを導入するとなるとさまざまな課題が発生しますが、事前にどのような課題があるのかを把握しておくことで、対策をたてることができます。
また、次のような適切な労務管理をする上でのコツや注意点をしっかりと理解し、オフィス勤務と代わりなく業務に取り組める環境を整えることが重要です。
<テレワークの労務管理のコツ>
- チャット利用のタイミングや伝え方のルールを作る
- 勤怠状況を記録する仕組みを作る
<テレワークの労務管理の注意点>
- 法改正に合わせて管理体制も変更しなければいけない
- 顧客情報や自社機密情報などの漏洩リスクに備える
企業の規模や業務内容によって考えられる課題や対処法は異なりますが、テレワーク時の労務管理にはシステムの導入がおすすめです。
適切な管理が可能となるだけでなく業務効率化も期待できるため、テレワークの導入を検討の際には、システム導入も合わせて検討してみると良いでしょう。
アドバイザー
本記事の執筆にあたり、社会保険労務士の川田 茉依様に一部アドバイスをいただきました。
プロフィール:大学卒業後、婦人服の販売に携わっていたが、婦人服の販売に携わり、副店長職を経験。製造業を営む両親を見て育ったこともあり「事業を営む人の役に立ちたい」という想いで社会保険労務士に転身。社会保険労務士事務所へ入所後、助成金申請部門で申請業務をメインに業務に従事。その後、会社の税やお金に関する知識、人事・総務・経理業務の経験を積むため税理士法人に入所し、独立。現在はITやクラウドシステムを活用しながら、労務や経理・総務コンサルティングなど、管理部門の幅広い分野で企業をサポートしている。
コメント