ユニットエコノミクスとは、ビジネスにおいて製品やサービス1単位あたりの収益性と成長性を測定する指標です。
つまり、「顧客1人あたりどれだけ利益が出ているか」を客観的に評価して次の一手を考えるためのものなのです。
ユニットエコノミクスはビジネスの成功を左右する重要な指標ですが、しっかり理解したうえで活用できているでしょうか。
本記事では、ユニットエコノミクスの基本から計算方法、低い要因やその改善方法やよくある質問まで詳しく解説します。
プロジェクトの収益性を数値化し、上司や同僚に自信を持って説明できるようになりたい方はぜひご一読ください。
目次
1.ユニットエコノミクスとはビジネスの収益性と成長性を測る指標
ユニットエコノミクス(1顧客当たりの採算性:Unit Economics)とは、ビジネスの収益性と成長性を測る指標のことです。
顧客1人あたりの収益(LTV: 顧客生涯価値)と、その顧客を獲得するためにかかったコスト(CAC: 顧客獲得コスト)を比較して、計算します。
つまり、「顧客1人あたり、どれだけ利益が出ているか」を客観的に判断できる指標なのです。
継続して支払いが発生する前提で収益性を測る指標のため、主にSaaSビジネスやサブスクリプションモデルなどで用いられています。
2.ユニットエコノミクスの計算方法
ユニットエコノミクスは、下記の計算式で求めることができます。
この計算方法から分かるように、ユニットエコノミクスを向上させるには、LTVを上昇させる、もしくはCACを減少させる必要があります。
LTVとは
LTV(顧客生涯価値)とはLife Time Value の略で、顧客が初めの取引から最後の取引までの間にどれほどの利益をもたらすのかを示します。
LTVが高い場合は、利益率が高い、リピート率が高い、継続期間が長いなど様々な要因が考えられます。
一般的に新規顧客獲得への投資を行う際には、LTVの高いユーザーを狙ったり、LTVの高いユーザー層を獲得できているチャネルの強化を行ったりすることでビジネスの成長が見込めます。
LTVについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
参考:LTV(顧客生涯価値:Life Time Value:ライフタイムバリュー)とは?計算方法と広告活用での成功事例| LISKUL
ビジネスモデル別のLTVの計算方法と合わせて覚えたい2つの指標 | LISKUL
CACとは
CAC(顧客獲得単価)とはCustomer Acquisition Costの略で、新しい顧客を獲得するためにかかった費用のことです。
CACの費用には、広告費、販促費、営業費などが含まれます。
CACについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。
参考:顧客獲得単価(CAC)とは?計算方法からCACを抑える方法まで解説│LISKUL
3.ユニットエコノミクスの目安は「3~5」
基本的に、ユニットエコノミクスの基準となる目安は3~5と言われています。
つまり「LTVがCACの3倍~5倍」となっている状態を目指すべきということです。
目安が3~5とされる理由は、顧客獲得コストを上回る「利益余剰」が発生し、事業運営の安定を確保しつつ、さらなるプロダクト改善やマーケティング活動への再投資を通じて、持続的な成長を見込める水準であるためです。
注意が必要なのは、業界や事業モデルによって目安は変わる場合もあるという点です。
具体的な数値は、下記が挙げられます。
SaaS(Software as a Service)業界
- 目安:3
- 高い顧客獲得コストを長期的な顧客関係で回収。製品の継続的改善により顧客維持率が高い
サブスクリプション型メディア
- 目安:3.5
- コンテンツ制作コストが高いため、長期的な購読者維持が重要
E-コマース業界
- 目安:2
- 競争が激しく、リピート購入が重要。顧客維持のためのマーケティングコストが継続的に発生
フードデリバリー業界
- 目安:4
- 初期の顧客獲得コストが高く、頻繁な利用と長期的な顧客関係が必要
モバイルゲーム業界
- 目安:2.5
- 理由:ユーザー獲得コストが高く、フリーミアムモデルでの継続的な収益化が必要
テレヘルス・遠隔医療サービス
- 目安:6
- 理由:規制対応と信頼構築のコストが高く、長期的な患者関係が重要
念のため、類似した製品やサービスを提供する企業のユニットエコノミクスを参考に、目安とするべき値を定めることをおすすめします。
4.ユニットエコノミクスを通してわかること
収益と費用のバランスを示すユニットエコノミクスを通して、会社や事業が健全な状態かどうかを把握することができます。
具体的には、現在の収益性を確認することだけでなく、今後どのように成長するかという可能性まで見通すことができるので、実状をもとに戦略やキャッシュフローをたてることもできます。
ユニットエコノミクスから得られる洞察について、一緒に確認していきましょう。
各製品・サービスの収益性がわかる
ユニットエコノミクスを見ると、どの商品やサービスが本当に儲かっているのか一目瞭然になります。
単に売上が高いだけでなく、実際にどれだけ利益を生んでいるかが分かるのです。
たとえば、ある会社が2つの商品A(売価1万円)、商品B(売価5000円)を販売しているとします。
一見すると、商品Aの方が商品Bより価格設定が高く、利益も大きく思えるかもしれません。
しかし、商品Aの製作体制や販売経路の影響で顧客獲得単価(CAC)が大きくなっている場合、商品Bの方がユニットエコノミクスが高いと判断できます。
このような隠れた収益性がわかると、どの商品やサービスに力を入れるべきか、あるいはどの部分でコストを減らす必要があるかを判断できるようになります。
1.製品の最適な戦略がわかる
ユニットエコノミクスを分析すると、商品やサービスの戦略を考える時に数字に基づいた判断ができるようになります。
たとえば、ユニットエコノミクスを使って最適な価格帯を見つけてみましょう。
A.目標とするユニットエコノミクスを設定するここでは目安の3を設定します。
B.予想される平均顧客生存期間を見積もる
ここでは24か月(2年)と仮定します。
C.必要なLTVを計算する
▼必要なLTV = CAC × ユニットエコノミクス
60,000円 = 20,000円 × 3
D.月額価格を計算して定める
▼月額価格 = 必要なLTV ÷ 平均顧客生存期間
2,500円 = 60,000円 ÷ 24か月
価格設定のほかの戦略では、マーケティングや宣伝といった場面が挙げられます。
新しい顧客を獲得するのにかけられる最大の金額を、ユニットエコノミクスを通して計算できるため、どの方法が一番効率良く集客や購入につなげられるかを検討しやすくなります。
将来のキャッシュフローがわかる
ユニットエコノミクスのデータから、今後製品やサービスがどのように成長していくかを推測したうえで、現実的なキャッシュフローが策定できるようになります。
事業を継続・拡大させていくためにも、データに基づいて計画を立てることは重要です。
例えば、今のペースで顧客が増え続けた場合、各顧客からどれくらいの期間でどれくらいのお金が入ってくるかが分かるので、お金の流れを予測できます。
5.ユニットエコノミクスが低い要因と改善方法
ユニットエコノミクスが低下している状態の要因は、多岐にわたります。
本章では、その中でも代表的なものを「LTVが低いケース」と「CACが高いケース」に分けて、改善策と共にご紹介します。
LTVの低下につながる3つの要因と改善方法
まずは、LTVの低下につながる3つの要因と改善方法からご紹介します。
1.顧客ロイヤリティ不足により購買頻度や継続率が低いケース
最初のケースは顧客ロイヤリティの不足によって生じる利益の損失です。
商品やサービス、ブランドに対しての満足度が低く、継続的な購入やサービスの利用を見込めない場合、解約率が上昇して利益が減少します。
顧客ロイヤリティの不足を防ぐためには、以下のような方法が考えられます。
- メールマガジンやSNSなどを用いて顧客とのコンタクトを増やす
- ポイントシステムやリワードを強化する
- 顧客ごとにカスタマイズされた提案やキャンペーンを行う
- カスタマーサービスを強化する
顧客との接点を増やしたり、顧客の満足につながる情報を提供したり、トラブルに対して迅速に対応することにより顧客ロイヤリティが向上します。
参考:顧客ロイヤリティとは何か?高めるための具体的な方法や事例も紹介│LISKUL
2.商品やサービスの価格設定が低いケース
商品やサービスの価格設定が適切でない場合、ビジネスを成長させるに足る分の利益を確保できていない可能性があります。
その原因としては、コストを正確に把握できていなかったり、市場や競合の調査不足から相場や期待と乖離した価格で販売を行っているなどの可能性が考えられます。
以下のポイントを押さえて価格を改定(アップセル)、別製品やサービスと合体させて販売(クロスセル)することで改善が見込めます。
- 原価以外のコストを正確に把握する
- 市場の状況や競合のサービス内容・価格を把握する
もちろんただ売値を上げれば良いというものではないので改定には注意が必要ですが、原価や市場の動向、その他の運営コストなどを把握し、適正な価格の見直しを行ってみるのも一手です。
参考:アップセル・クロスセルとは?顧客単価や満足度を高めるポイントを解説│LISKUL
3.顧客の維持コストが高いケース
LTVの低下の原因には、顧客の維持コストが高いことも考えられます。
2つ目の「商品やサービスの価格設定が低いケース」とは逆の発想で、価格に対してサービスが過剰であったり、リピートや継続を促すために過度な割引を行っていたり、頻発するクレームへの対処に労力を割いているなどのケースなどが考えられます。
顧客の維持コストを適正な価格に設定するためには以下を実行してみましょう。
- ITツールなどを用いた運用フローの効率化を行う
- 利用されていないまたは満足度につながっていない機能やプログラムを削減する
- コストパフォーマンスが合わない割引やキャンペーンを停止する
- カスタマーサポートの改善を行う
顧客を維持するためには、市場と共に変化し続ける顧客の期待に対して、提供価値、提供価格、コストのバランスをとっていく必要があります。
施策単位や部門単位など、様々な角度からコストを分析・把握しましょう。
CACの高騰につながる2つの要因と改善策
次に、CACの高騰につながる2つの要因と改善策についてご紹介します。
1.広告の費用が高騰しているケース
広告費の高騰がCACの増加に直結する大きな要因となります。
競合の増加や特定のターゲット層へのリーチが難しくなるにつれて、広告出稿にかかる費用が上昇し、その結果、1人の顧客を獲得するためのコストも増加します。
特に、入札形式を採用している広告プラットフォームでは、競争が激化するほどクリック単価や表示単価が上昇し、全体の広告費が膨らむため、CACが高くなる傾向があります。
広告の費用が高騰している際には以下の点を見直しましょう。
- 獲得効率の悪い施策を停止する
- ターゲットを獲得効率の良いユーザー層に絞り込む
- 広告文やクリエイティブのABテストを行う
- 新しい広告媒体を試す
広告コストを一時的に削減して改善するだけであれば、効率の悪いものを停止するだけですが、継続的に広告で成果を出すためには定期的な評価や運用が重要となります。
どのような媒体で、どのぐらいの費用をかけて、どのような訴求を、どのようなスケジュールで実行していくか計画的に実施しましょう。
2.獲得チャネルの効率が悪いケース
CAC高騰の要因としては、顧客獲得のためのチャネルが適切でない場合も考えられます。
検索エンジン、SNS、店舗など様々なチャネルが存在しますが、チャネル選びで大事なことは、あなたの商品やサービスを求めるユーザーがなるべく多く、獲得効率の高いチャネルを探していく」ことです。
以下のような異なるチャネルへの乗り換えまたは併用を検討しましょう。
- SEO(検索エンジン最適化)
- リスティング広告
- SNS運用
- リファラル(口コミによる営業)
- DMやチラシなどのオフライン施策
Web広告は即効性が高い、SEOは即効性はないがインパクトが大きい、SNSは無料で運用することもできるなどチャネルごとに特徴は大きく異なります。
予算や人員などの状況に応じて、既存の施策だけではなく異なるチャネル経由の新規顧客獲得に挑戦してみましょう。
参考:失敗しないSNS広告の運用代行会社の選び方・注意点│LISKUL
リスティング広告費用|売上を最大化するには、まずいくら必要!?│LISKUL
6.よくある質問(FAQ)
最後に、ユニットエコノミクスに関する疑問とその回答をご紹介します。
ユニットエコノミクスが高すぎるとどうなりますか?
成長機会を逃し、長期での健全な経営が難しくなっている危険性があります。
極端に高い数値が出る要因としては、「顧客獲得コスト(CAC)を過度に抑制している」「マーケティングや製品開発への投資不足」などが挙げられます。
高い数値は一見良さそうに見えますが、短期的な利益だけでなく、持続可能な成長の実現を目指してCACとLTVのバランスを取るようにしましょう。
ユニットエコノミクスと限界利益の違いは何ですか?
ユニットエコノミクスは長期的な顧客価値を見るのに対し、限界利益は短期的な利益に注目します。
ユニットエコノミクスは顧客一人あたりの収益性を表し、顧客生涯価値を顧客獲得コストで割った値です。
一方で、限界利益は、追加で1単位の製品やサービスを提供する際の収益から変動費を引いたものです。
ユニットエコノミクスはどんな企業に適用できますか?
ユニットエコノミクスは、顧客との長期的な関係を重視するビジネスであれば、業種を問わず適用できます。
よく活用されているビジネス形態としては、サブスクリプションモデルの事業、SaaS企業、動画配信サービス、会員制ジムなどが挙げられます。
ユニットエコノミクスの計算頻度はどのくらいが適切ですか?
ユニットエコノミクスは、企業の成長段階や事業の特性に合わせた頻度で計算して推移を見ます。
一般的には、四半期ごとや半年ごとの計算が適切です。急成長中のスタートアップなら毎月計算する価値があるかもしれません。一方、安定期の大企業なら年に1〜2回で十分かもしれません。
ユニットエコノミクスに関するよくあるご質問
ユニットエコノミクスでお悩みの方に役立つQ&Aをまとめています。
Q.LTVとCACのバランスがビジネス成長に与える影響は?
A.LTVとCACのバランスは、ビジネスの持続可能な成長に直結します。LTVがCACを上回ることで、顧客を獲得するたびに利益が得られ、長期的なビジネスの拡大が可能になります。このバランスが崩れると、成長が停滞し、持続的な利益を得るのが難しくなります。
Q.LTVとCACをモニタリングするのに適した頻度は?
A.LTVとCACは、少なくとも四半期ごとにモニタリングすることが推奨されます。市場の変化やキャンペーンの効果をリアルタイムで把握するために、月次でのモニタリングを行うことも効果的です。定期的な確認により、早期に課題を発見し、迅速に対応することが可能です。
Q.LTVとCACの変動要因を理解するためのデータ分析の手法は?
A.LTVとCACの変動を理解するためには、顧客行動や購買履歴、広告パフォーマンスなどのデータ分析が有効です。これにより、どの施策が効果的であったか、また改善が必要な領域を特定することができます。
Q.LTVとCACを考慮したマーケティング戦略の立て方は?
A.LTVが高い顧客をターゲットにしたマーケティング戦略を立てることで、CACを最適化し、全体の収益性を向上させます。たとえば、リテンション施策を強化し、既存顧客のLTVを高めることで、効率的に新規顧客の獲得コストを抑えることが可能です。
参考:リテンションマーケティングとは?CRMとの違いや実行方法を解説!
Q.新興市場でのLTVとCACの初期設定のアプローチは?
A.新興市場では、初期段階でLTVとCACを設定する際、テストマーケティングや小規模なパイロットプログラムを実施することが大切です。得られたデータを基に、初期の設定値を適切に調整すれば、スケールアップ時のリスクを軽減できます。
7.まとめ
ユニットエコノミクスは、ビジネスの収益性と将来性を測る重要な指標です。
目安とされる「3〜5」を達成するためには、顧客獲得の効率化や顧客満足度の向上など、様々な施策が必要となります。
ユニットエコノミクスを正しく理解し活用し、短期的な利益だけでなく、長期的な事業の持続可能性を見据えた意思決定につなげることが肝心です。
ビジネスの成功には、常に変化する市場に適応し続ける柔軟性が求められます。
ユニットエコノミクスを定期的に分析し、必要に応じて戦略を修正していきましょう。
60,000円 = 20,000円 × 3
2,500円 = 60,000円 ÷ 24か月
リスティング広告費用|売上を最大化するには、まずいくら必要!?│LISKUL
一方で、限界利益は、追加で1単位の製品やサービスを提供する際の収益から変動費を引いたものです。
よく活用されているビジネス形態としては、サブスクリプションモデルの事業、SaaS企業、動画配信サービス、会員制ジムなどが挙げられます。