戦国時代に突入したECサイト。
近年、ECサイトはサイト内のコンテンツを充実させた「ECサイトのメディア化」が大きく注目され、ただモノを売るためだけのサイトではなくなっています。
この「メディア化」では、サイト内のコンテンツを充実させることで商品やサイト自体に興味を持ってもらい、自分からまた来たいと思ってもらえるECサイト作りが重要になっています。
しかし、話を聞いたことはあっても、具体的にどのようなことが行われているのか分からないという方も多いのではないでしょうか?
今回は、ECサイトにおける独自コンテンツの実践事例を紹介するとともに、メディア化のメリットについて説明いたします。
目次
1. ライフスタイルが見えるコンテンツの事例
商品の魅力を最大限伝えるには、ライフスタイルを見せることが重要です。その生活のファンになってもらうことができれば、そこで紹介されている商品も自然と買いたくなります。
事例1:北欧、暮らしの道具店
北欧、暮らしの道具店は、ECサイトを「モノを販売する場」から「雑誌のように読んで楽しめる場」にすることで、2年で売上が2億円を超えるまでに成長しました。
そのカギは、このサイトを通じて顧客がファンになっているのは商品自体ではなく「スタッフを通して見える暮らし」という点です。
ECサイトでは「クラシコムの社員食堂」「スタッフの愛用品」「週末におすすめのコンテンツ」などのコンテンツが40種類以上あります。
記事は、商品の宣伝よりも北欧雑貨の溢れる生活についての記事が中心になっています。カタログの理想的な姿よりも、リアルな生活を見せられる方が自分と置き換えてイメージしやすいため、商品の魅力がより伝わるようになっています。
コラムを読んでいて「この商品いいなぁ」と思ったら、商品写真の下にあるリンクからすぐに購入できる点も北欧、暮らしの道具店の特徴です。
ここ(コラム:筆者注)で紹介する商品は、本当に社員の私物になったもの。撮影のため、文章を書くために愛用品の“フリ”をしているのではない。福利厚生の一環として、月に8個程度の商品を社員に提供しているのだ。
「(…)社員は欲しかった商品が手に入るので、嬉々として『スタッフの愛用品』に記事をアップしてくれます。だからこそ、その商品のよさを、リアリティをもってお客様にお伝えできるのです」
引用:ASCII.jp:“ウソがない”からできる、強いコンテンツ (3/3)|繁盛店からヒントをつかめ!ECサイト研究レポート
このように顧客に求められるコンテンツを頻繁に更新することは大変ですが、その努力の分だけファンが増えてくれることを示している好例です。
参考サイト:ECサイトのコンテンツマーケティング事例 北欧、暮らしの道具店|EC-コンサル
事例2:NOCE
インテリア家具を扱うNOCEでは「インテリアのマネキン買い」ができるところがポイントです。
部屋のコーディネートは大半のサイトで見られますが、写真に写っているすべての家具をそのページから購入できるところは意外と多くありません。また、NOCEではコーディネートに使用している家具も少ないため、より手軽にモデルルームと同じ部屋を作ることができます。
さらにお客様のコーディネート例を100件以上も紹介しています。
実際に部屋に置いたらどのような雰囲気なのかも、モデルルームに比べて親近感がわくためイメージが湧きやすくなります。
この事例紹介でも、使用されている商品ページへのリンクがあるため、気に入ったらすぐ購入できます。
たくさんの事例とともに商品を紹介することで、部屋のイメージがわきやすくなります。模様替えの参考にもなるので、コーディネートを見に何度も来たくなるECサイトになっています。
参考サイト:思わず会員登録してしまう!コーディネートが楽しいスマホECサイト
事例3:ホームセンター コメリ
ホームセンター コメリでは、暮らしのHow To 情報としてDIYやガーデニング、掃除などの豆知識を多数紹介います。
詳細ページでは、作業手順や使用する道具についてまとめられています。購入ページへのリンクも貼られているため、必要な道具をその場で確認して購入することができます。このコンテンツは電子書籍でも配信されており、必要な情報だけをダウンロードすることができます。
作業手順や必要な道具の確認は、今までは購入場面とは切り離されて別々に行われていました。しかし、このようにひとつのページにまとまっていれば買い忘れなどもなく、作業もスムーズに作業を行うことができます。
ひとつのサイトで手順の確認から購入まですべてを完結させることができれば、これほど楽なものはありません。消費者にとって必要な情報は何かを明確に見せたECサイトです。
参考サイト:ECサイトこそコンテンツマーケティングを始めるべき理由
2. 知識が増えるコンテンツの事例
豆知識やHow to情報を配信する利点は、商品を最大限活用してもらえるほか、買い物以外で訪れたユーザーを取り込むことができることです。顧客が知りたい情報を載せることで、また来たい!と思ってもらえるサイトになります。
事例4:石けん百貨
石けん百貨は、「商品を選ぶ目と活用するテクニックを身につけてもらいたい」という願いから、様々な姉妹サイトを運営しています。姉妹サイトでは、石鹸などについての基本的な内容~コアな知識、使い方といった情報コンテンツが非常に充実しています。
商品ページでは、成分やサイズなどの基本情報のほか、「スタッフのひとこと」や姉妹サイトの情報へのリンクも載せています。同様に、姉妹サイトからも商品へのリンクがあります。
「どんな情報を載せれば便利か」「どんなサイトが使いやすいか」を顧客視点で作り上げた結果、ECサイトに直接来るではなく、姉妹サイトからECサイトへ訪れるユーザーが増えました。
姉妹サイトの流入増に比例して、ネットショップである石けん百貨への流入も次のように増え、売り上げに寄与するようになっています(すべて2014/7と2011/7の流入比)。
・石鹸百科からの流入→1.8倍
・せっけん楽会からの流入→2.7倍
・読んで美に効く基礎知識からの流入→1.7倍(…)商品を探しているユーザーから、使い方を探しているユーザー、成分を調べているユーザー、ニッチな情報を探しているユーザーなど幅広いターゲットユーザーを獲得できていることがうかがえます。ユーザーのニーズからサイトを作った結果、このようにセグメントの全然違ういろいろなユーザーを集客することに成功しているのです。
引用:お客様目線で運営していたらSEO的にも成功したネットショップ──石けん百貨|ネットショップ担当者フォーラム
【石けん百貨 姉妹サイト】
石鹸百科(生活情報総合サイト)
読んで美に効く基礎知識(お肌や髪、化粧品のコラム)
せっけん楽会(石鹸生活の情報交換・掲示板)
ニセ科学と石けんの諸問題(石けんの誤情報について検証)
事例5:職人醤油
醤油専門店の職人醤油では、醤油の豆知識などのコンテンツが多数あります。
このECサイトのコンテンツマーケティング的な特徴は、40名を超える醤油職人(と蔵元)の想いを紹介するそれぞれのオリジナルページがあること。作り手の顔、人となり、作り方、こだわりのポイントなど、ユーザーを“ファン化”しやすい構成になっています。文字や写真では醤油の味までは十分に伝わりませんが、「この人が作っている醤油なら買ってみたい(味見してみたい)」と思わせる力があります。
引用:コンテンツマーケティングでお悩み解決<3>~ECサイトで購買を促す差別化|Webコンサルタント.jp
食品に対する安全性が求められている今、このように製造者の顔が見れることで安心して醤油を買うことができます。
事例6:babytopia
ベビートピアでは世界中にママ・パパのネットワークを構築し、欧米で流行しているアイテムの情報を独自に収集。また、海外の主要展示会に参加したり、人気ブランドの経営者と直に会って情報交換を行うことで、最新トレンドをいち早く入手している。そうした点が同社の大きな強みになっている。
引用:毎月倍々で急成長中! 育児に特化したキュレーション型ECサイト「ベピートピア」| SmaBI(スマビ)
海外の育児アイテムに特化しているbabytopiaは、海外の最新育児ニュースやコラムを多数掲載しています。
海外の情報をいち早くゲットできるとともに、最先端の流行アイテムを入手することができます。一般的な育児情報は他サイトでも見られますが、海外のニュースに特化しているサイトはほとんどなく、最先端を行きたい母親にとってはコラム記事や商品が非常に魅力的です。
3. イーコマースビデオを活用した事例
ECサイトで動画を使う利点は、手に取らないと分からないような使用感や使い心地まで顧客に伝えることができる点です。文章や写真でしか伝えられなかった商品の魅力を表現することで他社と差別化することもできます。
事例7:Zappos
アメリカのファッションECサイトZapposは、イーコマースビデオを初めて活用しました。
・動画導入により売上は平均で20~40%UP
・簡単な説明動画がある商品のコンバージョンは、動画がない商品に比べて6%~30%高い
・返品率の改善。動画導入前より返品率が24%減少。
・ブランドからも動画をつくってほしいという依頼が増えているけど、今は特にブランドからお金をもらって動画をつくることはしていない。
引用:【コンバージョン率30%UP】イーコマースビデオのパイオニアZapposの商品動画戦略!
今までは写真や文章で商品を表現しなければなりませんでしたが、このように動画を活用することにより特徴や使用イメージまで具体的に伝えられるようになりました。
ネット販売における「商品を手に取れないので特徴が伝わりにくい」という弱点を、動画を活用することで解決した事例です。
事例8:カメラのキタムラ
日本でもイーコマースビデオの活用が積極的に行われるようになりました。
カメラのキタムラでは、自社制作した商品の説明動画を1000本以上公開しています。動画はYoutubeにアップされており、商品ページでもそのまま見ることができます。
紙の文章を読ませることは能動的な行動を求めることであるが、見せることは受動的に知識を習得させることができる。小売店業界において、この違いは重要な意味を持つと語る。そして、自分達で制作する動画は全て視聴者の目線に立ち、それぞれのユーザーに最適なものを制作することで、視聴者のより深い理解が可能になる。
引用:カメラのキタムラの売上改善術を公開。ECサイト全商品に動画を導入 | 動画人
カメラを買うときは、使い心地や操作のしやすさが非常に重視されますが、動画によってこのような使用感や操作性など手に取ってみないと分かりにくい部分も伝えることができます。動画は口コミサイトのコメントに貼られたこともあり、他のサイトやYoutubeから顧客が流れてくるようにもなります。
事例9:ボーネルンド
世界中の玩具を販売しているボーネルンドでは、商品の遊び方などを動画で紹介しています。
ひと目ではどうやって遊ぶのかわからないような商品もあり、動画がなければ購買に結びつかないケースも多くありそうです。このように、実際に遊んでいる映像を商品ページで流すことで、写真やテキストだけでは伝わらない、“動き”という情報を届けることができています。
引用:「思わず財布の紐が緩む」お母さん向けECサイトの動画マーケティング成功事例
動画があることでイメージしにくい遊び方を伝えることができます。
4. ソーシャルメディアを活用した事例
今やマーケティングでは欠かせない存在にもなっているソーシャルメディア。より多くの人に拡散ができ、コメントやいいね!などで消費者も気軽にコミュニケーションを取ることができます。
事例10:ライス・フォース
化粧品ブランドライス・フォースは、Facebookマーケティングのベストプラクティスにも選ばれたことのある成功事例です。
ライス・フォースは、Facebookでターゲットとなる30~50代の女性が興味を持ちそうな日常的な内容を発信しています。食べ物や旅行の風景といった親近感のわく記事が多く、ブランドイメージを崩さない内容の投稿を続けることで着実にファンを増やしていきました。その結果、10回に1度くらい配信されるライス・フォースの商品やセールの情報にも多くの「いいね!」がつくようになりました。
Facebookは商品を購入させるためのものではなく、あくまで自社のECサイトへの送客とブランドイメージ向上のためのツールとして利用してきたのだ。
これによりFacebookユーザーからの認知はもちろん、ファン層のブランドへの愛着をさらに強化することに成功。結果、自社サイトへの訪問ユーザー数、販売件数ともに増加し、この事例はFacebook社から公式に成功ケースとして認められ、2012年秋にはFacebookが選出するベストプラクティスに選ばれた。
引用: ECサイトでのコンテンツマーケティング成功事例厳選4選から学べること|eコマースコンバーションラボ
ライス・フォースは、顧客が見ていて楽しくなるような情報を配信することで、ファンを増やすことに成功しました。
参考サイト:コスメ通販に学ぶFacebookページマーケティング|thisplay
事例11:虎斑竹専門店 竹虎
英BBCも取材に訪れた経歴のある虎斑竹専門店「竹虎」は、2011年からFacebookを始め、40000を超える「いいね!」を獲得しています。
竹虎のFacebookの魅力は「竹のある生活の良さ」が感じられる数々の記事です。
毎日のように投稿される写真や、方言で書かれる3行程度の文章から、制作者の竹に対する愛情がとても伝わってきます。
商品だけの投稿でも、そのコメントから竹や商品への愛が伝わってくるものばかりで、どの投稿にも運営者の存在を感じられるようなものになっています。だからこそ、話しかけたくなる心境が沸き起こるのだと思います。
そして投稿で使っている方言には「らしさ」が出ていて、とても魅力的です。見ているこちら側も肩肘はらずに気軽にコメントできる気持ちになります。
商品紹介の投稿でも、そこに「人」の存在が強く感じられること、これがポイントです。
引用:これならファンに嫌われない!Facebookページで商品を宣伝せずに魅せる方法|Rex(レッキス)
ただ紹介するのではなく「生活の良さ」を見せることで、商品だけではなく、このライフスタイルへのファンになってもらえるようになります。
ファンを増やすにはどんな投稿をすればいいの?と思う方は、竹虎のように商品に対する愛をめいっぱい伝えてみてください。
事例12:ヴィレッジヴァンガード オンラインストア
ヴィレッジヴァンガードのECサイトでは、リアル店舗でおなじみのユーモア溢れるPOP広告を自分で作ることができます。
文章はこのような手書き風のフォントで商品の購入ページに表示されます。
この作ったPOPはtwitterに投稿して拡散することができるため、口コミやステマとはまた違う形で商品を拡散してもらうことができます。
この事例の特徴をまとめると以下のようになります。
・商品の受け手だった消費者が作り手として独自の視点で応援できる
・レビューとは異なる感覚的なレコメンド
・RTやいいね!ではない、ユーザー参加型の新しい商品の拡散方法
引用:あなたが作ったPOPが販促ツールになる!消費者が商品情報を拡散する2つのソーシャルPOP広告|feedforce全力ブログ
ヴィレッジヴァンガード特有の遊び心溢れるコンテンツ作りは、「買い物を楽しんでもらいたい」という思いが上手く表現されている好例です。
「メディア化」の目的は
「お客様とコミュニケーションを取ること」
今回紹介したECサイトで共通している点は、「商品を売る通販サイト」と「メディアとしての情報発信サイト」の2つの役割を兼ね備えていることです。
このようなメディア化を行うメリットは、
・商品への理解が深まる
・商品・ECサイトへの愛着がわき、「ファン」が増える
・コンテンツが増えることでSEO効果が高まる
があります。
顧客の求めている情報を提供することで顧客と間接的にコミュニケーションを取ることができ、商品だけでなくECサイトのファンになることができます。そのため、「顧客が本当に求めている情報はなにか」「どうすれば顧客は楽しんでもらえるのか」を一番に考え、その結果それぞれに適した形でコミュニケーションをとることが重要なポイントです。
しかし、この利点にばかり目を奪われているとメディア化は成功できません。顧客視点でコンテンツを継続的に提供することにより、メリットは自然とついてくるようになります。
参考サイト:ECサイトのメディア化によって得られる3つのメリットと3つの注意点
まとめ
お客様に価値のある情報を提供し続けることは簡単なことではありません。しかし、その積み重ねによってお客様と深く付き合うことができ、愛されるサイトを作ることができます。
この記事が、今後のECサイト運営の一助になれれば幸いです。